虚ノ月

 カン、と小気味よい音が河川敷に響く。何度も何度も、たまに火花を伴って。
 槍同士の打ち合いだった。遠巻きに見守っている二人の男女はそれぞれのマスターであろう。
 どちらも学生だろうか、黒いチェスターコートの少年と赤いダッフルコートの少女だった。
 互いに積極的な殺人を是としないのか、戦いを挟んで向かい合う形で固唾を飲む。

 素人目には、彼らの戦いは互角に見えた。
 精悍な顔立ちの青年は身の丈よりやや長い槍を振るい、鋭く的確な動きで相手に肉薄する。
 その様は見る者に、否が応でも彼が優れた戦士であることを確信させるに十分だった。
 男とも女ともとれる小さな幼子は、己の倍ほどもある長槍を巧みに操り猛攻に対応する。
 宙に浮き空間転移を駆使する立ち回りは、戦場を舞う妖精かなにかと見紛いそうになる。
 確かな技量と経験を武器にする青年とトリッキーな動きで翻弄する幼子の戦いはしばらく膠着状態だった。
 幼子が不意に背後に転移して槍で突けば、恐るべき直感で反応した青年が横薙ぎに払ってそれを防ぐ。
 体勢が崩れたところを狙って青年が石突きで殴れば、柄で受け止めた幼子は吹き飛んで空中に留まる。
 互いに決定打もなく、こうして距離をとって仕切り直すのも何度目だろうか。

「なかなかやる」

 青年が口を開いた。混じり気のない、素直な称賛だった。

「それはどーも。お兄さんも流石、英霊になるだけあるね」

 幼子が返す。口調は軽いものの、真摯な言葉だった。

「だが、それもここまでだ。そろそろ終わりにさせてもらおう」

 瞬間、空気が変わった。
 青年が構える槍を中心に途轍もない魔力が集いつつあるせいだというのは想像に難くない。
 宝具だ、と誰もが悟った。ここで勝負を決める気なのだ。

「ランサー!」

 見かねたマスターの少女が鋭く叫ぶ。無理もない。その渦巻く魔力量は例え魔術に疎い一般人だろうと、アレはもらえば決してただでは済まないと容易に察せられるほどだったからだ。
 少女は魔術師であったから尚更のことだった。いかに自分のサーヴァントが優秀だとしても、アレだけはいけないと幼子のマスター――遠坂凛は本能的に悟っていた。
 だからこそ口を出した。撤退、令呪、言いたいことはいくつかあった。どれを選ぶにしてもとにかく、何かはしなければならないという焦燥に駆られたのかもしれない。
 しかしそんなマスターの焦りを知ってか知らずか、幼子のランサーと言えば凛の方を振り返りもせず片手で制するのみ。
 言葉を飲みこむしかなかった。この従者を完全に信頼しているわけではない。彼、あるいは彼女がどういった存在なのか、どんな切り札を持つのかもまだ凛は知らないのだ。
 それでも負けをよしとしないことだけは、互いに通わせている。その一点においてはこのサーヴァントは信用に足ると、凛は確信していた。
 だから今はまだ動かず、顛末を見守る。自然と握っていた拳に力が入った。

「いいのか?」

「お兄さん、マスターには手を出さないでしょ?真面目そうだからね。なら問題ないさ」

 短い応酬。互いに口の端だけを僅かに吊り上げる。
 次の瞬間、世界が弾けた。

 青年のランサーが跳ぶ。異常な程の魔力を内包した槍は夜の太陽めいて河川敷を照らす。
 その先端から迸る紫電が獲物を貫くのを今か今かと待っているようにも見えた。
 幼子のランサーは動かない。構えもせずじっと睥睨して、誘っているかのようだった。

「かの雷神より賜わりし我が槍、その身に受けるのを光栄と思え!」

 真名解放された雷光を纏う槍が、青年の手より放たれる。
 雷鳴が爆ぜて、街灯の恩恵がほとんど受けられない河川敷にパッと一瞬の昼が訪れる。
 その軌道を凛は目で追う事ができなかった。投げる動作と地面に突き刺さるのが同時だったとしか思えない程の速度だった。
 そして標的であった幼子の姿は、最初からいなかったのかのようにかき消えていた。

「ちょっと、嘘でしょ……?」

 思わず言葉を漏らす。河川敷に再び訪れた夜は、凛の心にも深い影を落とした。
 あまりに呆気なかった。あの余裕そうな態度は、不敵な笑みはなんだったというのだろうか。
 実は高速で離脱してどこかに隠れているのかもしれない、なんて希望的観測は最初から捨てていた。
 感じないのだ。サーヴァントとの繋がりである魔力のパスが。
 それこそがあのランサーがもう消滅してしまった事のなによりの証だった。
 身体に力が入らない。すとんと膝から地面に落ちる。ハイソックスが土に汚れるのも気にならなかった。

「拍子抜けだな。何かあると思っていたが」

 音もなく着地していた青年が呟き、投槍した得物を回収しようと歩き出す。
 その後ろの少年がいかにも安心した、といった様子で大きく息を吐く。その全てが、今の凛には毒物に等しかった。
 恥ずかしいやら悔しいやらで、上手く息ができない。やはり無理矢理にでも令呪を使っておくべきだったと、後悔の波が心に押し寄せる。
 目を伏せて、ふと右手が目に入る。ああそうだ、これを使っていれば今頃はきっと――。

 違う。なにかおかしい。なぜこれがまだここにある?
 サーヴァントが消えてしまえば、令呪は聖杯に回収されるはずなのに。

「うん、本当に危なかった。当たってたら死んじゃってたよ」

 聞き覚えのある声に思わず顔を上げる。間違いない、凛もよく知るあの子の声だ。
 見回しても姿が見えない。地面に突き立てられている槍に手をかけようとしていた青年のランサーが、やけに驚いた顔をしていた。
 その理由はすぐに分かった。彼の胸、おそらくは心臓の位置から血濡れの穂先が顔を出していたのだから。
 あれではもう助からないだろうと、ぼんやりと思った。相手のマスターがなにか叫んでいるような気がしたが、凛には内容までは耳に入らなかった。

「な、んで……まだ、生きて……!?」

 少しずつ青年の肉体が消えつつある。息は絶え絶えながらも、僅かに首を後ろに向けて誰かに問いかけているのが凛にも聞こえた。
 その相手は青年の身体に隠れてまだ見えない。

「槍を投げてくれたのは助かったよ。あれだと手応えが分からないからね」

 一気に青年のランサーを貫いていた槍が引き抜かれる。胸の虚空から鮮血が噴き出して、身体の消えるペースが速くなる。
 支えるものがなくなってぐらりと倒れたその向こうに、凛は己のサーヴァントの姿を見た。

「だから少しの間だけ、世界の裏側に隠れただけさ」



 遠坂凛はこの聖杯戦争について何も知らない。
 冬木で行なわれるはずだった第五次聖杯戦争に参加するつもりが、いつの間にかこの地に招かれていた。
 原因が触媒になりそうなものを探して自宅で見つけた、無記名霊基であるのは明白だった。けれども覚えのない招待状は一方通行だったようで、冬木に帰る手段は目下見当すらついていない。
 いろいろと調べてはみたが、やはり勝ち抜いて聖杯を獲得するという正攻法しか帰り道はないらしい。
 それでも構わない、と凛は考えていた。もともとこのバトルロワイアルに身を投じる覚悟はしていたのだし、なにも遠坂の悲願である聖杯が冬木のものでないといけない訳ではない。
 しかし、だ。ちらりと斜め後ろをついて歩く自分のサーヴァントを見る。

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 凛に導かれる形で手を引かれていた子供が、顔を上げて凛の顔を見る。
 否、見るという表現は正確ではないだろう。その双眸は巻かれた包帯によって遮られているのだから。結び目を解けば痛ましく潰れた両目がある事を凛は知っていた。
 それでも布越しに見つめられているような気がして、居心地が悪くなってまた視線を正面に戻す。

「いろいろ言いたい事はあるけれど……そうね、まさかあなたがあそこまで動けるとは思わなかったわ」

 正直なところ、今回のランサーの立ち回りは予想外だった。普段はこうして手を引いてやらなければ小さな段差にさえ気がつかず躓いてしまうというのに。
 だから凛は初め、ランサーが前線に立とうとするのには反対だった。結局はランサーの楽天的な態度に翻弄されて押し切られてしまったのだが。
 あの青年の鋭い刺突が今でも思い出せる。あれは確かに、生前武の道を突き進んだ者の貫禄だった。
 だというのにランサーは視力のハンデを物ともせず、打ち合いだけで見れば互角に渡り合ってみせた。
 そう、まるで見えているかのように。

「見えてるみたいだったでしょ」

 心臓が跳ねた。ランサーの用いる魔術の全容を凛は知らない。まさか読心まで使えるのだろうかと鼓動が速くなる。
 緊張が握っている手から伝わったのか、ランサーが小さく笑った。子供らしい、混じり気のない笑い声だった。

「そりゃあ見えないはずの人があんなに動いたらね。でもね、本当になにも見えてなかったよ」

 無言で続きを促す。
 言われてみればそうだと、恥ずかしくなったのを誤魔化したかった。

「ううん、でもなんで言えばいいんだろう。説明しづらいんだよね、ボクの魔術ってさ」

 その通りだとは凛も思う。魔術の系統としては彼女の妹と同じなのだろうが、その練度があまりにも違いすぎた。
 ただでさえ希少な虚数属性である事も、凛がランサーの魔術を理解するのを一層難しいものにしていた。

「えっとさ、ボクって『目が見えないはず』じゃないか。それをちょっと捻じ曲げて『見えている』ように動けるんだ」

 やはりよく分からない。理論はなんとなく理解できるのだが、なにをどうやればその結果に帰結するのかがさっぱりだ。
 思わずため息が漏れる。聞こえていたのかランサーが苦笑いで返した。

「まあいいわ、それよりもあれはなんだったのよ。本気でやられたかと思ったじゃない」

 相手の青年のランサーが放った宝具を回避した、あの時。
 確かに魔力のパスは切れていた。だというのにしばらくしてから姿を現し、またパスが通り始めた。本来ならばあり得ない事だ。
 ランサーもその問いを予想していたのか、少しの間を空けて口を開く。普段の軽そうな調子とは打って変わって、真剣な声色だった。

「ごめんね凛、それは言えないんだ。話せば長くなるし、言ったら多分、もっと大変な事になっちゃう」

 ほんの少しだけ、ランサーの握る力が強くなる。

「だからさ、ボクにはそういう力があるって事で納得してくれないかな」

 もちろんそう長くは使えないんだけど、と一転して戯けたようにランサーが笑う。
 きっとそれは本心だ。凛を気遣っているのだろうとどことなく察せられた。

「仕方ないわね、今はそういう事にしてあげるわ」

 だから、こう言ってやるしかなかった。
 ランサーがありがとうと、珍しく照れ臭そうに呟いたのが聞こえたから、ちょっとだけ勝ったような気になれた。


「それでさ、お姉ちゃんはこれからどうするの?」

「どう……って、どういう事よ」

 聞き直してはいるが、本当は意図を理解していた。
 以前問われたのだ。この聖杯戦争の異常性について。

「今日ので分かったでしょ?やっぱり今回はどこかおかしいって」

 その通りだった。凛が知っている聖杯戦争では、クラスの重複などあり得ないはずなのだ。
 だというのに自分のサーヴァントも先程対峙していた相手も、確かにランサーだった。本来では起こり得ない戦いだというのに。
 それに京都で、というのも妙な話だった。それも強制転移のおまけ付きだ。
 確かに今回の聖杯は、もしかしたらどこかおかしいのかもしれない。冬木の聖杯戦争を知るからこそ、凛はそう考えてしまう。

「それでも負ける訳にはいかないの。聖杯に異常があったならその時はその時よ。今は勝つ事を考えるしかないでしょう」

 しかしそうだとしても、凛には前進の二文字しかない。少なくともこんな所で二の足を踏む訳にはいかないのだ。
 冬木だろうと京都だろうと、聖杯であるのには変わらない。
 であれば遠坂の名において目指すしか道はないし、もしその先に恐ろしい何かが待っていたとしたら、それに真っ向から立ち向かえばいい。
 きっぱりと前を向いたまま答えた凛に満足したのか、ランサーが嬉しそうに何度も頷く。その姿は我儘を聞き届けてもらえた子供のようで。

「うん、それでこそだ。だからボクも、精一杯お姉ちゃんの助けになるよ」

 そう笑ってアフリカの唯一神は、瞳に映らないはずの空を見上げる。
 その向こうのどこかに潜む、果てしなくもささやかな悪意を捉えるかのように。



【クラス】
ランサー

【真名】
オニャンコポン@アフリカ神話

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【保有スキル】
神性:EX
 神性適正を持つかどうか。
 創造主にして天空神であるランサーは規格外の神性を有する。

単独顕現:B
 単独で現世に現れるスキル。このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
 虚数魔術で偽装して得たスキルである。

精霊の主:A
 相対したサーヴァントが所持する、同ランク以下の精霊の恩恵によるスキルを無効化する。
 またランサー及びマスターを対象とした、同ランク以下の精霊の恩恵による宝具の威力を大きく減衰させる。
 自然に住まう精霊を従える者の証。ランサーは全ての精霊を創造したとされる。

虚ろなる智慧:A
 世界の裏側で人類史を見守り続けて得た知識。
 遥か昔の出来事をまるで実際に生きてきたかのように語る。真名の看破に補正が入る。

盲目:A
 視力が完全に存在しない全盲者。本来マイナススキルだが、地形・環境による視覚妨害は一切受けない上、視覚に訴える幻術・魔眼等は一切通用しない。
 キャスターは虚数魔術によって「見えないはずだが見えているかのように振舞う」ことができる。視覚はないが、同レベルの情報を知覚することが可能。
 とはいえ魔力がもったいないので必要に迫られた時でもない限り、視力はない状態。

【宝具】
『神は唯一にして偉大なりて(ニャメ・コ・ポン)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 ランサーは至高にして至尊、普遍にして不変、単一にして唯一の存在である。
 それ故に相手のスキルや宝具によるステータス低下は全て無効化され、ランサーの持つ性質は決して他者に捻じ曲げられない。
 ランサーのスキル・宝具は他のサーヴァントに摸倣されることも奪われることもない。
 聖杯戦争の舞台において何者かがランサーの真名や所業を騙ったとき、相手は本能的に「これは嘘だ」と感じるようになる。
 また「ニャメ/オドマンコマ」「男性神/女性神」など自己を構成する概念を任意に選択することができる。

『全て虚しき暗黒郷(オビクァンシ・オビクァンム)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:ー人
 ランサーが使用する虚数魔術の体系。長く虚数世界に身を置いていたランサーのそれは、凡そ人には到底理解も到達もできない域である。
 目に見えぬ不確定をもって事象に干渉することで、本来ならば成し得ない様々な神秘・奇跡を実現させることができる。
 要はあるはずのものを否定し、ないはずのものを肯定する力。魔力とその気さえあれば他者の存在や性質の消去、場にないものの創造までも可能。
 とはいえ物理法則が確定している現代では抑止力に目をつけられかねないため、使うにあたってはかなり自重している。
 本人が善寄りであるせいか他人の概念を弄るようなことはしたがらない。曰く「本当に世界の危機でもない限り本気で使うことはない」とのこと。
 魔力消費の面も鑑みて今回は空間転移、一般人の記憶改竄、浮遊、身体能力の強化などをよく用いて戦う。
 またランサーは虚数世界へ自由に出入りできる。これは霊体化とは異なり、ランサーの存在そのものが虚数世界に移動する。
 まったく別の空間へ転移するようなもので、一時的に世界との繋がりを断つことによってあらゆる固有結界、束縛、追尾から逃れることができる。
 しかしこの間はマスターとのパスも途切れてしまうため長時間の滞在は魔力切れ、さらには契約の強制破棄を引き起こす危険性がある。
 戻ってくるときはある程度座標を指定でき、擬似的な空間転移としても使えるがタイムラグが生じてしまう。
 虚数世界にはかつて歴史の闇に消えていった多くの宝具級の逸品があちこちに点在しているらしいが、ランサーでは真名解放ができない。
 そのため余程武器の相性が悪いときや物量でゴリ押すときくらいでしか新たなものを持ってくることはないだろう。

『御手杵(おてぎね)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-5 最大捕捉:10
 全長約3.8mの大身槍。穂の部分だけで138cmあり、槍としては規格外。
 元はある戦国大名が用いていた、天下三名槍の一角。既に焼失したもので、現在ではいくつかのレプリカや複製が残されている。
 存在するが実在しないという曖昧な在り方のために虚数世界へと落ちてきたところを、ランサーに拾われた。
 曰く由縁が開催地に近そうな槍っぽいものを適当に持ってきたとのこと。
 真名解放によって冷気の結界を展開、氷の刃を生成することが可能。
 しかしランサーは本来の持ち主ではないために真名解放ができない。あくまで普通の槍として用いる。

【人物背景】
 現代のガーナ・コートジボワール付近で暮らすアシャンティ人に古くから信仰されている、単一の創造神・天空神。
 その実態はいまだに不明な部分が多く、宗教における位置付けすら曖昧な神である。
 もともとは人々とともに地上で暮らしていたがある老女に杵をぶつけられて以来、遠く離れた場所に去ってしまったという。
 同じく天空神のニャメと同一視、あるいは別名であるとされる。これらを区別する際にはニャメを月の象徴である女性神、オニャンコポンを太陽の象徴である男性神とする。
 またオニャンコポン、ニャメ、オドマンコマの三柱をまとめて扱うこともある。この場合も同一神の別名か、同一神の持つ三種の様相であるのか、完全に別の神であるかといった捉え方がある。
 オニャンコポンは野や森に偏在する、全ての精霊を生み出したとされる。
 精霊の中でも人との関わりを持つようになった精霊はアボソムと呼ばれる。彼らはオニャンコポンの召使いであり、人とオニャンコポンとの間に入る媒介者としての役割を担う。
 それぞれのアボソムには司祭職が存在するが、オニャンコポンのための司祭職は存在しない。これはアシャンティ人にとって、人と神は直接関わりを持てないという考えによる。
 しかし一方でオニャンコポンへのお供え物が司祭職を通さずにできることから分かるように、オニャンコポンは非常に身近な存在としても考えられている。

 近くにもいるし、遠くにもいる。
 男性でもあるし、女性でもある。
 単体にして、複数の存在である。

 このようにオニャンコポンとは矛盾と虚実を孕んだ、ある種最も得体の知れない神なのである。
 これはオニャンコポンが、自身のあらゆる可能性を取捨選択することができたためである。
 つまりは性別だけではなく、オニャンコポンという単一神として振舞うことも、全く区別されたオドマンコマとして存在することも、オニャンコポンのニャメという側面として顕れることも自由自在。
 “ありえる全ての形”を一個の存在としてとることができるオニャンコポンは虚数に対しての親和性が高く、かなりのレベルで虚数魔術を行使できる。
 これを利用して神代の終わりにおいても他の神霊のように世界の裏側に去らず、オニャンコポンだけ虚数世界に移っていた。
 オニャンコポンは今現在に至るまで虚数世界から人々の営みを見守り、時折こちらに現れては恩恵を与えている。姿を消したはずのオニャンコポンを人々が身近に感じていたのは、このためでもある。
 基本的に人間は好き。世界の裏側に去らなかったのも彼らを見放したくなかったから。
 とはいってもよりよい社会にしてやりたいなどといった救済願望はなく、あるがままの人間性を重視している。
 本当ならもっと人類を守ることに積極的になりたいのだが、現代では下手に力を使いすぎると抑止力に目をつけられかねないために歯痒い思いをしている。

 このオニャンコポンは厳密には召喚された英霊ではなく、神代より虚数世界で過ごしていたオニャンコポンそのものである。したがって霊体化ができない。
 虚数魔術によって単独顕現を一時的に得て召喚システムを誤魔化し、擬似的にサーヴァントとして存在している。
 ランサークラスで召喚されたのはオニャンコポン自身が、この世界と虚数世界を穿つ槍であると認識されたためだろうと本人は推測している。
 さすがに手ぶらでランサーというわけにもいかないので、今回はかつて虚数世界に落ちてきた槍を持ちこんできた。
 なぜそこまでしてこの聖杯戦争に参加しようと思ったのか、その理由は今はまだ語ってはくれない。
 霊体化できないので普段は「ビア」と名乗り、凛の父を頼って海外からやってきた家族の娘として振舞う。

【特徴】
 褐色の肌に胸の下まで伸ばした銀髪。両目が潰れており、包帯を巻いて隠している。
 活発そうで中性的な顔つきの子供。霊体化できないので服は適当に現地調達したもの。
 肉体年齢は性別の違いがまだ現れない程度であるが、なぜか両性具有である。

【聖杯にかける願い】
 なし。聖杯戦争の方に興味がある。


【マスター】
遠坂凛@Fate/stay night

【能力・技能】
 魔術師として若さに見合わぬ才能を持つ、五つ全ての属性を兼ね備えたアベレージ・ワン。
 ガンドや宝石魔術など多彩な魔術を行使するだけでなく、兄弟子から教わった八極拳も使いこなす。

【人物背景】
 冬木の管理者である遠坂の継承者。先の第四次聖杯戦争において父を亡くす。
 表面上では容姿端麗、文武両道、才色兼備の優等生であるが、これは何重にも猫をかぶった姿。
 実際の性格を一言で表すなら「あかいあくま」。やるからには徹底的にやるが、完全には冷徹になりきれないお人好しな面も。
 遺伝のせいか詰めが甘く肝心なところで凡ミスを犯す。また重度の機械音痴でもある。
 冬木で召喚の準備をしていたときに無記名霊基を発見、参戦に至る。

【マスターとしての願い】
 聖杯を得て遠坂家としての務めを果たす。
 ただし今回の聖杯には疑念あり。場合によっては破壊も考える。

【方針】
 積極的な主従を優先的に排除しつつ、今回の聖杯戦争について情報収集。できればサーヴァントのみを狙う。

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最終更新:2018年03月01日 00:14