クズの本懐

「はーっはっはっは! もっとだ! もっと酒を持って来ぉい!」

貸切状態のキャバクラに下品な笑い声が響く。
普段は大勢の客で賑わう店舗だが、今はその全てがたった一人のために供されている。
しかし、ただ一人の客をもてなす嬢達の表情は固い。
笑顔と愛嬌を振りまくことが生業であるにも関わらず、客への恐怖と嫌悪を押し隠すことができずにいた。

それもそのはず。
たった一人の客は体の半分が『馬』なのだから。

「飯が旨い! 酒も旨い! いい時代じゃねぇえかヤマザキ! 羨ましいぜまったく!」

半人半馬の種族ケンタウロス。
たとえギリシアの神話を知らずとも、その名と姿を知らぬ者はそう多くはないだろう。
此度の聖杯戦争では、種族名との区別のために『セントール』と名乗ってはいるが、このサーヴァントがケンタウロスであることに疑いの余地はない。

「おら、そこの女! 生ハムメロンだかいうのをもう一切れ食わせな! もちろん王サマにやるみてぇに恭しく口に運べよ!」

セントールは震える嬢の肩を掴んで乱暴に抱き寄せた。
すっかり酔いが回っているせいか、小さく悲鳴を上げられたことを意にも介していない。

酒を好み、女を好む粗野なるデミヒューマン。
かような存在が、反英雄のカテゴリとはいえ何故サーヴァントとして存在を確立させているのか。
その理由はケンタウロスという種族が発生した経緯にある。

ギリシア神話において、妻の父を殺害し最初の血縁者殺しとなった男、イクシオン。
英雄テセウスの親友ペイリトオスの実父としても知られるこの男は、神々の宴に招かれたおり、不遜にも女神ヘラを誘惑しようと試みた。
しかしその企みはゼウスによって看破されており、イクシオンは雲で作られたヘラの似姿を犯し、その現場を押さえられて地獄へ落とされた。

ケンタウロスという種族は、イクシオンとヘラの似姿ネペレーの間に生まれた。
すなわち最初の一体は紛れもない半人。英霊たりうる身体的な条件を文句なしに満たしているのだ。

「おいアーチャー。分かってんだろうな。好き放題遊び呆けた分の仕事はしてもらうぜ」

セントールのマスターでありキャバクラのオーナーでもある大男が、威圧感に満ちた視線を振り向ける。
山崎竜二。元の世界においては裏社会のブローカーとして知られる男だ。

「もちろんだとも、ヤマザキ。どんな作戦だろうと命じてくれや。略奪、蹂躙、騙し討ち。俺ぁ清廉潔白な英雄サマとは違うんでな。甘っちょろいことは言わねぇよ」
「そいつぁいい! テキトーに呼び出した割にゃいい根性してるじゃねぇか!」
「触媒抜きでの召喚は、マスターと似たサーヴァントが喚ばれるっていうからな! ヤクザもんなら俺のマスターにぴったりだぜ!」
「ケッ……ヤクザねぇ。誰も俺を知らねぇあたり、本気でここは『別の世界』って奴らしいな」

山崎は恩人を謀殺したボスをリンチの末に殺害したことで、日本国内の闇組織から狙われ続けている。
しかし、聖杯戦争への招待に応じてこの土地に来て以降、その件を追求されたことはただの一度もなかった。
役割として割り当てられた組織の構成員はもとより、他の暴力団すら山崎の強行を全く認知していなかったのだ。

それ自体は別にどうでもいい。面倒事が減って楽になっただけだ。
問題は暴力団の組長という役割の方だった。

山崎もかつては極道に生きた時期があったが、それも過去の話。
この土地において与えられた『小規模な暴力団の組長』という役割は、一匹狼気質であり群れることを嫌う山崎にとって、あまり気分のいいものではなかった。
組のシノギであるこのキャバクラにしてもそうだ。
山崎の本来の稼業は武器の裏取引や密入国の仲介。こんなケバケバしい稼ぎ方は性に合わない。
かと言って、自身に利益をもたらし生存確率を上げる、都合のいい『組織』を手放すのも考えものだ。

「さっそくだが命令だ。俺の兵隊はテメーが使え。雑魚ども引き連れて群れんの慣れてんだろ?」
「兵隊? ああ、組員か。いいぜ、使い潰してやるよ。雑魚ってのは否定させてもらうが、頭の足りねぇ荒くれモンを纏めんのは慣れてるからな」

セントールと山崎。両者の最大の相違点は群れることへの認識だ。
山崎は群れることを好まない。それどころか見下してすらいる。
一方、ケンタウロス族という群れを築き上げたセントールには、そのような考えはない。

決定的な相違点を有する両者だが、その関係性に破綻の予兆はまるで見られなかった。
何故ならその相違点すら含め、お互いを利用価値のある存在と認識しているからだ。

山崎にとってセントールは貴重な戦力だ。
さしもの山崎といえどサーヴァントを正面切って打倒することはできない。
生き残るためにはサーヴァントとの契約が必要不可欠であり、山崎のやり方を全面的に肯定するセントールは最善に近いパートナーと言える。

セントールにとって山崎は大事な拠り所だ。
A+ランクの単独行動スキルを持つセントールは実質的にマスターを必要としないが、問題はそこではない。
異形の肉体を持つセントールは人間社会に紛れ込むことが極めて難しく、山崎が与えられた組織力のサポートは手放したくないものだ。
たとえ兵隊の指揮権を与えられたところで、山崎無くしては組織を維持することなどできないだろう。

騙し合いという次元を越え、お互いに利用し合っていることを隠しもしない二人の男。
聖杯に望むモノは酒池肉林と己の利益。
悪と悪の歯車がガチリと噛み合い、京都市という戦場に邪悪な音を響かせ始めた――



【CLASS】アーチャー

【真名】セントール

【出典】ギリシャ神話

【性別】男性

【身長・体重】2m・450kg(共に馬部分含む)

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力B 耐久D 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具C

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。

【固有スキル】
天性の肉体:B
 生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
 このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
 ただしアルコールを多量に摂取した場合の理性低下は避けられない。

直感:E
 野生の勘。視覚・聴覚・嗅覚に干渉する妨害を軽減する。

カリスマ:E
 群れの統率者としての資質。価値観が似通った者にしか効果がない。
 現代においては反社会組織の下部構成員などが該当する。

【宝具】
『狂乱を孕む雲(スコール・オブ・ネフェレ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:800人
 母たるネペレーを象徴する宝具。
 空に向けて矢を放ち、魔力によって生成された風雨を巻き起こす。
 この嵐はアーチャーの知覚とリンクしており、風雨の及ぶ範囲で起きたあらゆる出来事は即座にアーチャーの知るところとなる。
 狩猟の前段階として用いてこそ真価を発揮する宝具であり、単体の破壊力は期待できない。

『限定展開・神罰の車輪(ホイール・オブ・イクシオン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
 父たるイクシオンを象徴する宝具。
 宝具『狂乱を孕む雲』と併用する形でのみ発動可能。雨を炎に、風を熱風に変換し、広範囲を焼き払う。
 発動中は宝具の本体である車輪が空中で回転し続ける。
 本来は拘束した対象の魔力を炎に強制変換する宝具だが、アーチャーはその機能を使用できない。

【マテリアル】
ギリシャ神話に登場する半人半馬の種族ケンタウロス――その最初の一体。
女神ヘラを手篭めにせんとして神罰を下された男と、ヘラの身代わりとして作られた雲の精の間に生まれた存在。

この聖杯戦争において現界したケンタウロスは、種族としてのケンタウロスの特徴を煮詰めたような性質をしている。
つまりは好色、酒好き、乱暴者。正統な英霊ではなく反英雄にカテゴライズされ、思想も行動も野蛮の一言。
しかしながら愚鈍ではなく、無敵の肉体を持つ英雄の弱点をすぐさま見抜いて封殺した伝承(彼の子孫によるものだが)からも分かる通り、状況によっては驚くほどに知恵も回る。

真名がセントール名義なのは種族名のケンタウロスとの区別のため。
あくまで本人が便宜上そう呼ぶように言っているだけで、本来の個体名は種族名と同じケンタウロスである。

【外見的特徴】
 典型的なイメージ通りのケンタウロス。
 とある外典で召喚された賢者ケイローンとは異なり、半人半馬の姿を誤魔化しもしていない。というか誤魔化せない。

【聖杯にかける願い】
 飯! 酒!! 女ァ!!!
 ……それ以外のことなど最初から頭にもない。



【マスター】山崎竜二@餓狼伝説またはキング・オブ・ファイターズ

【聖杯を求める動機】自分の利益にするため

【Weapon】
  • 生身の肉体。戦闘スタイルは我流(我流喧嘩殺法とも我流喧嘩空手とも)
  • 隠し武器の匕首(ゲーム中の名称は裁きの匕首)

【能力・技能】
兄貴分のヤクザから学んだ喧嘩空手をベースとした我流格闘技を使う。
格闘ゲームという出自もあるが、その実力は様々な格闘技のプロフェッショナルや古武術の達人と比べても遜色ない。
KOFにおいては特殊な一族の転生体とされているものの、同じ設定を持つキャラとは異なり、特殊能力のようなものは殆ど発揮しない。

戦闘スタイルは正真正銘何でもあり。
卑怯な技や砂を用いた目潰し、果ては忍ばせた匕首による凶器攻撃を躊躇うことなく実行する。

【人物背景】
身長192cm、体重96kg。香港の九龍城砦を拠点とする闇ブローカー。
普段は粗暴な口調ながら理知的で狡猾。利益を得ることと生き延びることを第一に考える。
しかし常にポケットに入れている左手を抜くと、一転して狂気を爆発させて暴れ狂う。
……息の長いシリーズなのでキャラクター性も変化し続け、常時イカれたキャラクターとして描写されることも少なくない。

少年時代から裏社会で育ち、暴力の横行する世界で生き抜く術を身に付けた。
後に武闘派ヤクザの弟分となり極道組織に身を置くも、組織内の陰謀でその兄貴分が謀殺されてしまう。
激高した山崎は、掟を無視して自組織のボスを惨殺。日本中の闇組織を敵に回して国外逃亡し、香港の闇ブローカーとなる。

左手を見ると暴走してしまうのは、兄貴分のヤクザが左拳の破壊力をよく褒めてくれたという過去があり、左手を見ることで彼の最後を思い出して正気を失ってしまうから。

なお、好きな食べ物は馬刺しである。

【キャラ把握】
最も容易なのは最新作のKOF14か。
最近の作品ではKOF2002UMが初期のキャラ付けに近いと言われがち。

【ロール】
京都市内に縄張りを持つヤクザ。小規模ながら自身の組を持つ組長。

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最終更新:2018年03月01日 22:45