(タイトル不明)

旅人の夢を見た。

旅人には双子の片割れがいた。
旅人には姉がいた。
旅人には同僚がいた。

双子の片割れは傲慢で派手好き。姉は内気で嫉妬深い。同僚は無謀で名誉欲が深く、
皆、それぞれ欠点を持ち、それゆえに苦しむことがあった。

旅人には欠点は無く、決して道を外さず、それゆえ皆から公平な審判者、正義の使者として慕われていた。

彼は人を見ることが、その物語を見ることが好きだった。
その個人の物語を完遂するため、時には自分の力をも貸した。
特に、彼の子孫の一人、英雄の中の英雄となった男の叙事詩を好み、常に見守り、例え自分たちの物語が終わろうとも力を貸すことを躊躇わなかった―――はずであった。

男が友人を失い、死を恐れ、死の克服を求め旅に出た時、旅人は男がそんな無謀な旅をするのを忍び難く思い、それを止めに向かった。
常に見守り、力を貸していた自分が止めれば、当然思いとどまってくれるだろう、そう考えていた。
しかし、男を説得してもにべもなく、あしらわれてしまった。

旅人は己を見つめた。

確かに己には欠点は無い。
しかし、逆に欠点からくる美点も物語も無かった。

双子の片割れの豪快さと奔放さは多くの人間を引きつけ、やがて旅人も己の孫を彼女に任せた。
姉は主人としての器量を持ち合わせ、己の領域を豊かにすることに余念がなかった。
同僚は戦士としての潔さも持ち合わせ、姉に負けた際は友人として持てる力を与えた。




自分には何もない、毎日同じことを繰り返し、姉妹の助けにもなれなかった自分、
人を見降ろしてばかりの自分に、何があっただろうか。
あの男の前に立てるだけの、何かをしただろうか。
旅人は己を恥じた。そして望んだ。
―――もしも、願いが叶うのなら。
物語が欲しい。

そこで私は目を覚ました。
真っ暗な中時計を探り、時間を見る。
………早起きをしすぎた。机の上の紙を手に取る。昨晩これのことで熱中しすぎたのがよくなかっただろうか、寝ぼけた目で紙――進路調査票に目を落とすと、昨日の激論が脳裏に浮かぶようだった。

(こっちよ)

「え?」

今、微かだがカーテンの向こうから聞きなれぬ少女の声が聞こえた。
………家のすぐそばに知らない人がいる。というのも不気味だが、ここはアパートの2回である。まさか。
薄暗い中、恐る恐るカーテンを開き、窓を開ける。
9月の終わり、暑かった夏の余韻も無くなり、冷えてきた空気を浴びた私が見たのは東の空から太陽が昇り始めた朝焼けの空だった。
気のせいだったのだろうか、そう思った瞬間。

(ここで、ゲームオーバーかい?)

また、声が聞こえた。今度は少年の声だ
気のせいではない、確かに誰かがいる。
目を落とすと、そこには人影が一つあった。
朝焼けの逆光で影しか見えないが、確かに誰かがいる。
それを認識したとたん、私はそのまま誘われるように外へ出た。

アパートから出て、道路へ出る。
辺りを見回すが誰もいない。ふと、私は一週間前の里帰りであったことを思い出した。
一週間前、何も知らなかった私は、私の知らなかった故郷、四津村へ帰り、そこで今のように誘われ出て、そこで『自分』と『過去』を知った。
そして私は強い意志を持って将来を決めることができたのだが…。

手に持ったままだった進路調査票に目を落とす。
第一志望の欄は、黒く汚れているうえ、繰り返される消しゴムの猛攻によって、破けていた。
四津村から帰って以降、自立するために就職を希望する自分と進学を希望する父親で意見が真っ二つに割れ、連日言い争いが続いている。
真っ白い進路調査票もなかなか憂鬱になるものだったが、真っ黒い進路調査票も別にいいものではないと思い知った私は、ため息をついた。
その時、突然背後から伸びてきた手に紙をひったくられる。

「四津村の話はこれで終わり、本当にいいのかな?」
<過去とはお別れして、それでいいの?>

振り返るとそこには黒い短髪の少年がいた。
風でその手に持った進路調査票と耳につけた金色のイヤリングが揺れる。
はためかせる白いローブが目に入るが、それよりも背中に付けた大きな羽に気を引きつられる。
肩で支えられている。生えているのではなく装飾だろう。
奇妙なことに、少年が話すとどこからともなく女性の声も響いたが、辺りには少年しかいない。

「あの…」

「物語が終わっても人生は続く」
<将来に向かって歩くのも良いだろうね>

雲から太陽が覗き、その光に一瞬瞬くと、目の前にいた少年は、服装も装飾もそのまま、オレンジのサイドテールの少女に代わっていた。
手に持った進路調査票もそのままだ、見間違えようがない。
少年の声もどこからか響くが、辺りを見回してもやはり少年は見当たらない。

『けれど』

二つの声がハモり、進路調査票が投げ捨てられる。
やはり、そうだ、この二人は同一の存在なのだ。
瞬間的に真衣はそう悟った時、少年と少女の姿が重なった。

「君の願いは、過去に囚われている」
<やり直さなければならないことが、あるよね?>

重なった少年と少女が写真を差し出す。
一つは私の両親の結婚写真、もう一つは私が生まれた時の写真。

「それ、は……」

「これから、杯(さかずき)を巡る戦いが始まる」
<人間と、英雄の物語が始まる>
「君も、まだ物語を終わらせたくないのなら」
<忌まわしい家に報いを、家族に救いを与えたいなら>
「この戦いを、勝ち抜くべきだ」
<最後まで、生き残ればいいよ>

少年と少女が捲くし立てる。

「あなたは一体何なの…?」


「僕はウトゥ」
<私はシャマシュ>
「どこかの世界で、あのイシュタルか、まさかエレシュキガルか」
<いつかの時に、もしかするとネルガルか>
「きっと人間を依り代にしただろう妹らに引っ張られて」
<双子の縁か、日輪の仲間に同調して>
「どこにでもいる普通の少年を依り代に」
<善にして中立の少女を殻にして>
「神の身でありながらこの戦いに呼ばれた神」
<願いを持って、この地に降り立った太陽>

「―――君の、願いを叶えるサーヴァントさ」

混線している二人の話は、
目はこちらを見ているのに、意識はこちらを向いていない。
そんな印象を真衣に抱かせた。

わけがわからない、そう問いただそうとしたとき。
昇ってきた太陽の日差しを浴び、一瞬目をつぶった。
その一瞬、ぞくり、と、体に悪寒が走った。

「何、いまの…」
「シャマシュが死んだ」

目の前の少年は、何も変わらず平然と、さっきまでそこにいた少女の死を語った。
少年を見ると、確かに重なっていた少女は消えていた。

「死んだ…?」
「彼女は夜の担当だからね、太陽が昇ると共に死んでしまう
 気にすることはない、夜になれば蘇る」

「蘇る…?」

「ああ、エタナに授けた生誕の草、我が宝具となったこの力があればこそ」

蘇る。それは私にとって魅力的に聞こえた。
四津村のことは全て終わったことだ。過去のことだ。
私は過去を知り、前に進む――

本当にそれでいいのか?

あの悲惨な出来事を、血の繋がった家族を、踏み台にするのか。
そう思ったとたん。声が突いて出た。

「本当に、死んだ人も蘇るの…?」

それを聞いた少年は、微笑んだ。

「それを確かめるには、戦うしかないよ」

戦う、戦うということはほかの人間の願いも踏みにじってしまうと言うことだ。
しかし、それを考えてもなお、諦めきれない感情が胸の内にあるのを感じていた。

「いい顔になったね」

少年は微笑みを絶やさない。
彼は空を仰いだ。

「さあて、僕の物語と君の物語の続きを、始めようか」

あの太陽の刺すような輝きは、祝福なのか、それとも非難なのか。
私にはわからなかった。



【CLASS】セイバー

【真名】ウトゥ

【出典】シュメール神話

【性別】男性

【属性】中立・善

【ステータス】

 筋力B 耐久E 敏捷B 魔力EX 幸運C 宝具A++

【クラス別スキル】

対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。


騎乗:B

乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
また、英霊の生前には存在しなかった未知の乗り物(例えば古い時代の英雄にとっては見たことも無いはずの、機械仕掛けの車両、果ては飛行機)すらも直感によって自在に乗りこなせる。


【保有スキル】
千里眼(太陽):B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
日の光が当たっている場所に限り、透視さえも可能とする。

分霊生成:Ex
己の霊基を分割し、己の別の側面を召還する。
このスキルを使用した場合、耐久力は3ランクダウンし、同時に対となる状況を選択し、それ以外の状況では消滅する霊基となる。
ウトゥは『昼』以外での消滅。シャマシュは『夜』以外での消滅を選択。
詳しくは宝具・冥界巡る陽の騎手(シャマシュ)を参照。


神性:A++
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。

【宝具】

雄峰裂く日輪の刃(ディバインド・マーシュ)
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:10 最大捕捉:1
冥界に落ちたエルキドゥのため冥界の天井に穴を開けた逸話が宝具となったもの。
鋸のごとくギザギザの太陽剣を持ってして固有結界・または物理的な天井に穴をあける。
また、己が死したとき、あるいは太陽が昇った際、極小規模の冥界を地下に構築・蘇生魔術により己を再構築し、命のストックを1つ消費して地下より復活可能。
(命のストックの数は輪廻永劫参照)

輪廻永劫
ランク:Ex 種別:生命宝具 レンジ:10 最大捕捉:60
病に倒れ死の淵にあったルガルバンダを死の淵から救う。跡継ぎが生まれないことを悲しむエタナのために誕生の草への道を示すなど、生命の誕生・復活に関する逸話・何より太陽神としての霊格から得た宝具
蘇生に用いる命のストックそのものが宝具となったもの。
一説によると、ギリシャの英雄ヘラクレスの12の試練はもともと10の試練であり、オリエント世界との交流により聖数12を用いるようになった。そして、オリエント世界で12が聖数とされるのはシュメールで60進法を用いていたからだとされる。
よって彼に許可された命のストック数は60と決定された。
死亡直後であること・天或いは地にまつわるサーヴァントであること・霊基の損傷が少ないなどの条件を満たせば他のサーヴァントにも雄峰裂く日輪の刃と併用して使用可能。
また、元から蘇生手段を持っている、宝具を封印・奪取する宝具を持っているサーヴァントも奪取し、使用可能。

冥界巡る陽の騎手(シャマシュ)
ランク:A種別:分霊宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
夜に死に、昼によみがえる太陽の逸話を再現するため、
ウガリト神話を源流とし、己と統合された神格・女神シャマシュを分霊として生成する。
この分霊はウトゥと共通するステータスを保持し、対魔力:B、騎乗:A、千里眼(影):B、女神の神格:Aを保有する。
夜に死に、冥界の魂を見守る太陽のもう一つの側面である。

天上震わす勇者の嵐(ザ・ラージ・エイト)
ランク:A++種別:対神宝具 レンジ:50 最大捕捉:8
7つの神威<メ>を持つ怪物フワワとの戦いにおいてウトゥが授けた8つの嵐。
神々のタブレットを奪ったアンズーと戦った神ニヌルタも保持し、食らったフワワ、アンズー両名ともメ、タブレットの力むなしく封じられたという。
この二つに基づき、この嵐を受けたサーヴァントは神性スキルが無効化され、神性に基づく宝具を封印する。
また、神性B以上を保有するサーヴァントに譲渡可能であり、ウトゥはこの宝具をシャマシュに譲渡、シャマシュはこの宝具を用いてウトゥの輪廻永劫を己の身に封印し、己が死したときに使用可能。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争で戦い、己が物語を作る



【マスター】
佐原真依@四ツ目神

【マスターとしての願い】
悠真を復活させる…?

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最終更新:2018年03月01日 22:49