京都市中京区にある高級マンション。その最上階は丸ごと一つの部屋となっていた。
玄関はオートロック式、各階とエレベーター及び非常階段には防犯カメラが完備され、異常があれば十分以内に屈強なガードマンが複数人数でやって来る。
怪異な事件が頻発し、変死体が発見されることが日常と化し、人心不安と警察力がそちらに注力している隙に乗じて、窃盗をはじめとする“真っ当な”犯罪も増加。
夜出歩く者は、仕事などで必要がある者を除けば、警察か犯罪者という有様の京都市の中でも、住人達が安心して日々を送る高級マンションの住人達。
そのヒエラルキーの頂点に立つのが、最上階に住む住人なのだった。
「はあああああああ……」
聞いたものも陰鬱になりそうな、暗く精気に欠けた溜息。
最上階丸ごと一室にした広大な部屋の中。天窓から降り注ぐ陽光ですらもが澱んでしまいそうな溜息。
ソファーに深々と腰を下ろし、新聞が乱雑に置かれたテーブルの前で頭を抱えているのは恰幅の良い白人男性。口元に蓄えた豊かな髭が、貫禄に繋がっていないのは、当人の纏う妙にヘタれた気配の為か。
「はあああああああ……………」
再度の溜息。ひどく重い苦悩を感じさせるがそれも当然。男は聖杯戦争に招かれたマスターだった。
「何で私がこんな事に……。だいたい私は死んだ筈じゃ無かったのか……………」
あの日。死都と化した倫敦で、武装した吸血鬼、ナチの残党最後の大隊(ラストバタリオン)に攻め込まれ、私は奴等を道連れに死んだのだ。
祖国に殉じて、己が生に殉じて。つとめを果たして。
それが何故此処に居るのか?聖杯ならば知っている。嘗て見送った友と同じ名を持つ王とその騎士達の伝承に登場する代物だ。
そこが解らない。何故に死後になってそんなものの為に争わねばならんのか。
あの不死王。絶対無敵と喩うべき吸血鬼に、匹敵あるいは凌駕する存在を率いて。
あの絶対暴君をすら殺し得るかもしれない化け物(フリークス)と戦う。
怖い こわい 怖い コワイ 怖い 恐い 怖い。
只、ひたすらに怖ろしい。
「また死ぬのはイヤだぞ……」
力なく呟いた言葉に、応じる声があった。
【逃げるか。マスターよ】
老年の男の声。肉体に刻まれた歳月が齎す凄みと自負とに満ちた声。
鋼のような声。積み重ねた経験と実績と、それらを己に齎した不動の意思を感じさせる声。
力強く、信を置くには充分な声だが、親愛の情をおよそ持たせない声。
厳格さと凄烈さを相手に抱かせるこの声は、少なくとも一つの組織を束ね指導するものであると感じさせた。
「シールダーか」
髭の男が呟く。髭の男にとって苦手な声だった。自分に足りないものを、無いものを全て感じさせるこの声は。
威厳。威圧。畏怖。自信。それら全てを併せ持つサーヴァントの声を聞く度に、髭の男は身の竦む思いをしていた。
【逃げても構わんのだぞ。進んで聖杯戦争に関わったのであれば、逃げる事は許さんが、お前は巻き込まれただけだ。
戦う動機も義務も無い。逃げても誰も責めはしない】
それは、シールダーが最初にした提案。
シールダーを自害させ、髭の男に只々無害なNPCとして引き篭もれという、実に魅力的な提案だった。
そしてその提案は、髭の男が未だに答えを出せていない提案だった。
尤も、その決断をすれば、シールダーは己をマスターとして扱う事は決して無いだろうが。
謂わば試し、シールダーは共に聖杯戦争に臨むマスターの意志を試しているのだった。
「……今答えねばならないのか?シールダー」
【そろそろ日も迫っておる。返答を出さねばならん】
髭の男は瞑目してソファーの背もたれに身を預けた。
「私は逃げない。逃げるわけにはいかない」
身体は熱病に罹ったかの様に震え、顔は恐怖に歪み、息は荒く、視線は揺らぎ、されどもその意志に迷いはないと、ハッキリ解る宣言だった。
「私は無能な男だ。どうしようもなく無能な男だ。そして臆病な男だ。聖杯戦争のマスターに選ばれた事が理解不可能な程に、何も無い男だ」
男は瞑目し、強く強く拳を握った。
「私には部下が居た。皆が皆、私よりも生きるに値する者達だった。
皆死んだ。あの日、押し寄せる吸血鬼たちと戦って。義務(つとめ)を果たして、皆死んでいった。
私は彼等に逃げる様に言ったのに、彼等は皆笑って残って笑って死んでいった。
だからこそ私は逃げるわけにはいかない。彼等に対し、背を向ける様な真似はできない」
【お前の義務(つとめ)は此の地には無いぞ】
「有る」
即答だった。決まり切った事を語る様に男は即座に断じたのだ。此の地に己の義務(つとめ)は有ると。
「聖杯戦争などという未曾有の出来事に巻き込まれる市民がいる。
知らぬ者にとっては理不尽極まりない暴力の嵐だ。抵抗すらできない脅威だ。
だが、私は聖杯戦争について知っている。聖杯戦争に関わって居て、止める為の力も、持ち合わせている。
ならば止めることが私に出来る義務(つとめ)だろう」
【止める為の力というのは余の事が】
「そうだ。私はこの聖杯戦争を打倒する。お前の力を使ってだ。シールダー。
それが私の義務(つとめ)だ、そして……義務(つとめ)に殉じて死んでいった部下達への責任だ」
【己の名誉でも願望の為でも無く、己の義務と責任に殉じるのか。生きて帰ろうとは思わんのか。富であろうが不老不死であろうが、望めば得られるのだぞ】
「生きて帰るとすれば部下達だ。彼等は誰も死ぬ必要など無かった。死ぬのは、死ぬとすれば私だけで良かった。
だが、彼等は残り、人として戦い、死んでいった。
だからこそ。だからこそだ。私はこの聖杯戦争を打倒しなければならない。
欲望に駆られて戦い、市民を傷つけ、巻き込まれた者達を殺して、摂理を捻じ曲げて願いを叶えれば、私は人でなしになってしまう。
死から目を背け、老いから逃げて、人を食らう化け物に成り果てた吸血鬼共と同じ人でなしになってしまう。
それは、それだけは駄目だ。そんな事をしてしまえば部下達に私はどんな顔をして会えば良い?
だからこそ私は聖杯戦争を打倒する。人として生きて、人として死んでいった部下達の為に。
それにな……。これが許せるか!」
髭の男が掴み上げのはテーブルの上の新聞紙だった。
「既に被害が出ている。子供まで……幼子まで巻き込まれて無残に殺されているのだぞ!!こんな事を見過ごせるか!!」
新聞に報じられているのはある家族を襲った惨劇だった。
髭の男は、見ず知らずの他人。ひょっとすれば自分以外のマスターが死んだ事に激しい怒りを示したのだ。
…………】
返答は無かった。シールダーは何も応えを返さなかった。
長く長く続いた沈黙。それに男が耐えられなくなる直前。
【お前は…………。卑怯者では無いな。無能だが、真の勇者だ。
お前を見ていると、何故お前の部下がお前に付き従ったのかが解る。
お前は─────マスターは部下に慕われていたのだな。マスターの部下達は確かに義務(つとめ)に殉じたのだろう。だが、マスターにもまた殉じたのだ】
光が粒子となって形を作って行く。
形作られたのは人の姿。齢は髭の男と同程度。
然し身に纏った雰囲気は鍛え上げられた鋼。
幾星霜もの間風雨にさらされた巌の様な勁さと鋼の如き剛毅さを併せ持つ男の姿。
「マスターの持つものを徳というのだろう。余にも同じものがあれば、また違った結末を迎えたかも知れぬ。
だが、言った所で詮無き事。余もまた余の在り方を貫こう。
このルキウス・ドミティウス・アウレリアヌス、世界の修復者の名に誓ってマスターの目的を叶えよう。
さしあたっては、この事件の犯人に誅罰を加えることか」
「あ……有難う。シールダー」
【クラス】
シールダー
【真名】
ルキウス・ドミティウス・アウレリアヌス@三世紀ローマ
【ステータス】
筋力:B 耐久: A 敏捷:B 魔力:B 幸運: C 宝具:A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではシールダーに傷をつけられない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
自陣防御:A
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、
自分はその対象には含まれない。
また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。
【保有スキル】
皇帝特権:EX
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。
護国の鬼将:EX
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
この領土内の戦闘において、王であるアウレリアヌスはバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、
逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
世界の修復者:EX
ローマ帝国を見襲った三世紀の危機よりローマ帝国を救った功業に基づくスキル。
属性を問わず、秩序を乱す者と対峙した際、ステータスをワンランク下げ、シールダーの行動の成功確率が倍になる。
【宝具】
鉄の拳(Manu ad Ferrum)
ランク:C 種別: 対人宝具 レンジ: 1〰︎2補足:一人
シールダーの所有する剣。秩序を乱そうとする者に対し特攻の効果を発揮する。
この、秩序というのは属性ではなく聖杯戦争開催地の秩序の事である。
つまり、聖杯戦争に載ったものは全て対象となる。
アウレリアヌス城壁
ランク:B 種別: 対軍宝具 レンジ: 1〰︎99 補足:1000人
シールダーがローマ防衛の為に建造した城壁が宝具となったもの。
無数の煉瓦が出現し、シールダーの意志に沿って動き、自在に形を変える。
この煉瓦は飛び道具や足場として用いる事も出来る。
本領は城壁として用いた時に発揮される。
世界再生 陽はまた昇る(Restitutor Orbis)
ランク:A+ 種別: 対軍宝具 レンジ: 1〰︎99 補足:1000人
シールダーの功業であるローマ帝国の再統合の具象化。
シールダーが信仰した常勝の太陽神ソル・インウィクトゥスを象徴する陽光が世界を照らす。
この光の中では、秩序を乱そうとする者や、人理と相容れぬ幻想種や怪物の類は存在を許されず、毎ターン毎にダメージを受け続ける。
このダメージは、対象がひとから離れている程に向上する。
逆に、秩序を護ろうとする者は、この光の中ではステータスがワンランク向上し、傷や疲労が常時回復し続ける。
【weapon】
鉄の拳(Manu ad Ferrum)
【外見】
ローマ帝国の鎧を身につけた外見年齢60歳程の白人男性。
身長186cm 体重80kg
【人物背景】
三世紀ローマ帝国の皇帝。低い身分から叩き上げで皇帝となり、分裂の危機にあったローマ帝国を救い、世界の修復者の称号を得る。
厳格な人物だ、部下の心ゆ得る事が出来ず、ペルシア遠征の途上部下に殺される。
【方針】
京都の秩序を護る。市民を護る
【聖杯にかける願い】
無い。
【マスター】
シェルビー・M・ ペンウッド@HELLSING
【能力・技能】
無い。自ら無能と認めている。
しかし、彼を知る者からは『男の中の男』『裏切るくらいなら自殺してしまう』と言われ、その人柄を愛され信頼されていた。
部下からも慕われていた。
【weapon】
無い。
【人物背景】
名家の生まれで家柄だけで生きてきた。
が、責任というものを弁えていて、卑怯者と呼ばれる事は決してしない。
ミレニアムによる第二次アシカ作戦の際に、与えられた義務(つとめ)に殉じて死亡。
【方針】
聖杯戦争のマスターとして義務(つとめ)を果たす。
京都の秩序を護る。市民を護る
【聖杯にかける願い】
無い。
【参戦時期】
原作死亡後。
最終更新:2018年03月01日 22:49