白夜の匡に充満する『源流』、超高濃度の猛毒たるそれ等が引き起こす人体への汚染、すなわち『
龍霧曝露』とそれに伴う『光臨』については#3において前述した通りである。我々の体組織は超高濃度の龍血に対してあまりにも虚弱で、その侵食を拒むことが出来ない。
一方で、龍霧曝露に隠された別種の影響として、『源流共震』及び『龍血励起』が存在する事は世間にあまり知られていない。これらの現象は外界探索を生業とするものにとっては常識ではあるものの、龍霧曝露に比べて圧倒的に知名度に劣るのだ。
何故ならば、それらは『血統』を使用する人間以外には基本的に無関係の事象である。要するに『源流共震』と『龍血励起』、両現象の共通点は「白夜の匡において体内の龍血を使用することで初めて生じる現象」と言える。
どちらも
位相深度が低い場合は大した危険はない(微小な変化)に留まるが、位相深度2を超えると生命に直接関わる脅威と化す場合が多い。
以下、この二者について順に紹介する。
〈源流共震〉
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白夜の匡(イルミナ)において龍血を使用した場合、大気中の超高濃度の龍血(源流)が体内の龍血との「共鳴」を起こす現象が発生する。この共鳴によって誘発される事象を我々《淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)》は総じて〈源流共震〉と呼称する。異能の行使者がヒトである限りこれらの現象からは逃れられないとされている。人類にとっての正の恩恵を秘める事象も存在するが、いずれも利点より遥かに多くの不利益を含んだ危険現象である。以下、現時点で確認されている〈源流共震〉の事象の総例。
外界に造形を投射する、或いは指向性のベクトルを放つ場合等に発生。源流の阻害によって上手く情報伝達が行われず、血統による外界への出力が狂う。この攪拌状況下で正常な出力を試みる場合、龍血の挙動に関する龍血物理学の知識や先天的な才、極度の集中力といった高度かつ複合的な能力が求められる。位相深度2以下ではそうした高等技術を用いる人間も存在するが、位相深度3以上での安定した外界出力は基本的に不可能。
言葉通り、血統や邂化によって生じる事象の規模の拡大。
源流との共鳴によって龍血機能が大幅に増幅され、血統や邂化を使用する際に想定以上の規模での具現化、或いは酷い場合では暴発などを引き起こす。特に位相深度が高い場合に深刻であり、暴発による文字通りの自爆や、破壊規模の増大によるフレンドリーファイアの発生など、非常に危険度が高い。特に邂化に関しては自身の肉体強度の限界を超えた挙動をとる様になるため、自傷が発生しやすい。
更にはこの規模拡大に伴い、龍血の消費の増加が発生するためスタミナ管理が狂うという点でも、長期の遠征における大きな懸念要素とされている。こちらも先述の様な高等技術を駆使することで制御は可能だが、余程の才覚に恵まれない限りは位相深度3以上での完全な制御は不可能。尤も、前提として高等技術の習得には通常で10年以上のイルミナ探索の経験が求められるのだが。
詳細不明。一部の特殊な血統保持者、或いは体質を持つ探索者からの報告から暫定的に登録されている。いずれも体内龍血を活性化させた場合に生じる事象とされる。ヒトには知覚し難い波長(と思われる)の干渉光が幾つかの筋として源流中に放射される、或いは体内龍血の鳴動に合わせて源流が「震える」といった怪奇現象。
一部の血統保持者はこれらの光や振動を駆使して先手を取る事に長けるとされている。なお、こうした報告を行った探索者は総じて光臨を経験した人物が多い。
〈龍血励起〉
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血統の規模が拡大・攪拌する『源流共震』とは全く別種のメカニズムから生じる、人体内部の龍血における異常。それが『龍血励起』である。
源流共震はあくまで「人間が白夜の匡において体内龍血を使用した際」のみ生じる副次作用だが、龍血励起は白夜の匡に存在する限り常に身に受けることになる
状態異常
と形容される。現状、この龍血励起を防ぐ手段は濾過結界と一部の遺物を除けば報告されていない。
その正体は未だ解明されていない部分も多いが、一般には「外界の超高濃度龍血(源流)による体内龍血への持続的な干渉」による異常とされている。
端的に言えば、体内龍血の過剰活性化(オーバーヒート)。
体内の龍血が活性化することで一時的な龍血の「質」の増大、及び副次効果として精神の高揚が生じる。血統や邂化を使用しない限りはその異常は精神的なものに留まるが、龍血を使用した場合、質の向上に伴う血統や邂化の性能向上の恩恵が生じる。ただしその一方で、性能の向上に釣り合う形で体内龍血の消費が激しくなるデメリットには絶えず警戒を行わなければならない。
精神の高揚状態下では龍血消費の管理が疎かになる傾向が強く、初めて位相深度2に侵入した探索者の大半は、この気分の高揚による龍血枯渇の危機に陥いりかけた経験を持つと言っても過言では無い。
位相深度によってその効果の程は変動するものの、位相深度1〜2程度であれば精神の高揚は軽いアドレナリンの放出状態程度に収まり、龍血の「質」の増大も微小に留まる。
尤も、位相深度3〜4では酩酊状態、位相深度5においては狂乱レベルの精神変化が発生、更には龍血の消費スピードも桁違いに加速するため、位相深度が高いほど『龍血励起』の影響は牙を剥くと言える。これらの精神変化に関しては強靭な精神力で克服する以外に対抗手段は存在しない。
なお、龍血励起の状態下において龍血が枯渇した場合、『鴻臓壊死』と呼ばれる症状が発生する。こちらは直下の項目にて解説。
〈鴻臓壊死〉
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龍血励起の龍血消費の増加の結果、体内龍血が枯渇した際に生じる症状。人体に存在する龍血濾過器官にして体内龍血生成器官でもある『鴻臓(アビス)』が狂い、過剰な龍血の濾過を行うことで発生する。
適切な装備で外界の源流との接触を遮断していた場合は単なる気絶と『鴻臓(アビス)』に多少の後遺症が残る程度で済む一方、外界の源流との接触が存在していた場合、『鴻臓(アビス)』が外界の超高濃度の龍血を体内に吸引し始める。
罹患者は一時的な体内龍血の過剰生産、及び超高性能の血統・邂化の暴走状態に突入した後、『鴻臓(アビス)』の龍霧曝露の結果、体内が総じて『光臨』することで死亡する。現時点でこの最終的な死亡は一件の報告を除いて例外はなく、その例外たる一件も、発症中に罹患者を濾過結界内に隔離した結果であり、罹患者は現在も意識不明の状態となっている。この一連の『鴻臓壊死』プロセスの初期段階では全身が罅割れ至る所から出血が生じる他、位相深度5に匹敵する精神の高揚(狂乱)状態となること、及び暴走状態の標準的時間限度が1分未満であることが報告されている。
最終更新:2025年04月24日 17:20