子供 - (2009/04/28 (火) 23:34:04) の最新版との変更点
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子供 ◆wZ6EU.1NSA
…子供だ――。
「それ」を目の前に涯は立ち尽くしていた。
否。これはもう子供ではない。子供だった、モノ。死体だ。
…幼い…死体…。
どうにか認識したそれを飲み込む。
血溜りに沈む、明らかに自分よりも歳若い者の死。
他者により命を絶たれたであろう事は明確。無残に撃ち抜かれた胴。傍らに荷物は無い。
殺した者が奪っていったのだろう。
(こんな子供を殺すのか…)
……偽善…甘い考えだ…弱い者を狙うのは狩りの定石ではないか……。
……既に自身の手で人を殺めておいて何を今更……。
……そもそも、己とて奪うつもりであの声に釣られてやって来たのだろうに……。
幾つもの声が涯の頭の中でざわざわと巡り、廻る。
それでも。
それでも割り切れない。
割り切る事ができない。意思とは裏腹に心が拒絶してしまう。
(もし、この子供が生きて自分と行き合っていたのなら…オレは…殺したのだろうか…)
子供とは、圧倒的弱者である。それはつまり低いリスクで果を上げる事が可能な相手という事だ。
この場に於いて相手が誰であろうと、他人にかけるべき情など一分もありはしない。
そのような事をしていれば…狩られる。奪われる。殺される。
それが道理だ。
右手に握られたバットが重い。
質量を増した訳でもないというのに。
▼
「矢張り…標くんの事が気になるんだ…それになんだか嫌な予感がする…」
そう告げて赤松は踵を返した。自然と足早になる。胸騒ぎは収まらない。
赤松は駆け出していた。
そして彼が見た光景は――
本来赤松は冷静で理知的な男であるし、正義感は強くとも独善的な人間ではない。
しかし「それ」を見た瞬間に彼からは理性などというものは吹き飛んでいた。
「うわあああああああああああああっ!!!」
――標の――
ただ真っ白になった頭で、
――標の死体。
赤松はただ闇雲に突っ込んでいた。
▼
小さな死体に気をとられていた涯が突然の雄叫びに気付いた瞬間には男の体当たりを受けて倒れこんでいた。
背中が地面にぶち当たる衝撃。
バットが手を離れて地面を転がる。
傷付いた腹部へ走る重い痛み。
眼前には馬乗りになった男の顔。
男の目から溢れ出した涙がボタボタと頬に降る。
節くれだった指に頸を締め上げられる。
とっさに涯はポケットにあったフォークを男の腕に突き刺す。
しかし男は動じない。いや、刺されたことにすら気付いていない。
「よくもっ…よくも標くんをっ…!畜生っ…!!」
それは涯が今までに相対したことのない深い怒りと悲しみだった。
……違う。オレが殺したんじゃない。オレはやってない……。
……弁明など無駄だ。誰も信じはしない。耳を傾けようともしない……。
……ああ。この男の「思い」には敵わない…。
……こんなところでオレは死ぬのか……。
……何故だ……?
ざわざわ、ざわざわと、幾つもの声。
畜生っ…!畜生っ…!畜生っ…!!」
……何故奪われる……?
… 自由 を… … …生 すら……
――涯の意識は闇へと飲み込まれた――。
▼
「う…ううっ…」
我に返った赤松は頭を抱えて蹲る。
殺してしまった…いや違う…『殺した』のだ…。
人を…子供を…こんな子供を殺したのだ…。
オレは…なんてことを…。
「し…標っ…標くんっ…標くんっ…」
血溜りまで這い、そこに横たわる亡骸を抱きかかえる。
腕の間から零れる体液と腸。
これは…。
「あ…ああっ…」
これは殴殺ではない…。
何らかの銃火器で打ち抜かれている…。
見ればあるべき物がない…。標のバッグが…。
つまり既に何者かが持ち去ったあと…。
彼は…あの少年は…標を…。
……標を殺してなどいない。
腕の中には守ると誓った筈の標の亡骸。
傍らには少年が静かに横たわっている。
――物言わぬ二人の子供。
しかし赤松はここで思い至る。
「そうだっ…!」
まだ…。まだ間に合うかもしれない…。まだ希望はあるっ…!
赤松は標をそっと寝かせて、少年に駆け寄る。
少年に心臓マッサージを施す。
「戻れっ…戻ってくれっ…!」
ありったけの願いを込めて。
「頼むっ…頼むっ…」
懸命に。必死に。只管に。
「生きてっ……生きてくれっ…!」
ぴくりと少年の胸が動き、小さく咳き込みながら少年の目蓋が薄く開かれた。
【B-3/アトラクションゾーン/夕方】
【赤松修平】
[状態]:健康 やや混乱 腕に刺し傷
[道具]:手榴弾×9 石原の首輪 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:できる限り多くの人を助ける 宇海零を探す
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません
※利根川のカイジへの伝言を託りました。
【工藤涯】
[状態]:意識の混濁 右腕と腹部に刺し傷 他擦り傷などの軽傷 やや精神不安定
[道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:生還する 今後の行動方針に迷う 声のもとへ向かう
|058:[[「想い」]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|060:[状況]]|
|058:[[「想い」]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|060:[状況]]|
|054:[[十に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:赤松修平|065:[[未来への標]]|
|046:[[混迷]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:工藤涯|065:[[未来への標]]|
**子供 ◆wZ6EU.1NSA氏
…子供だ――。
「それ」を目の前に涯は立ち尽くしていた。
否。これはもう子供ではない。子供だった、モノ。死体だ。
…幼い…死体…。
どうにか認識したそれを飲み込む。
血溜りに沈む、明らかに自分よりも歳若い者の死。
他者により命を絶たれたであろう事は明確。無残に撃ち抜かれた胴。傍らに荷物は無い。
殺した者が奪っていったのだろう。
(こんな子供を殺すのか…)
……偽善…甘い考えだ…弱い者を狙うのは狩りの定石ではないか……。
……既に自身の手で人を殺めておいて何を今更……。
……そもそも、己とて奪うつもりであの声に釣られてやって来たのだろうに……。
幾つもの声が涯の頭の中でざわざわと巡り、廻る。
それでも。
それでも割り切れない。
割り切る事ができない。意思とは裏腹に心が拒絶してしまう。
(もし、この子供が生きて自分と行き合っていたのなら…オレは…殺したのだろうか…)
子供とは、圧倒的弱者である。それはつまり低いリスクで果を上げる事が可能な相手という事だ。
この場に於いて相手が誰であろうと、他人にかけるべき情など一分もありはしない。
そのような事をしていれば…狩られる。奪われる。殺される。
それが道理だ。
右手に握られたバットが重い。
質量を増した訳でもないというのに。
▼
「矢張り…標くんの事が気になるんだ…それになんだか嫌な予感がする…」
そう告げて赤松は踵を返した。自然と足早になる。胸騒ぎは収まらない。
赤松は駆け出していた。
そして彼が見た光景は――
本来赤松は冷静で理知的な男であるし、正義感は強くとも独善的な人間ではない。
しかし「それ」を見た瞬間に彼からは理性などというものは吹き飛んでいた。
「うわあああああああああああああっ!!!」
――標の――
ただ真っ白になった頭で、
――標の死体。
赤松はただ闇雲に突っ込んでいた。
▼
小さな死体に気をとられていた涯が突然の雄叫びに気付いた瞬間には男の体当たりを受けて倒れこんでいた。
背中が地面にぶち当たる衝撃。
バットが手を離れて地面を転がる。
傷付いた腹部へ走る重い痛み。
眼前には馬乗りになった男の顔。
男の目から溢れ出した涙がボタボタと頬に降る。
節くれだった指に頸を締め上げられる。
とっさに涯はポケットにあったフォークを男の腕に突き刺す。
しかし男は動じない。いや、刺されたことにすら気付いていない。
「よくもっ…よくも標くんをっ…!畜生っ…!!」
それは涯が今までに相対したことのない深い怒りと悲しみだった。
……違う。オレが殺したんじゃない。オレはやってない……。
……弁明など無駄だ。誰も信じはしない。耳を傾けようともしない……。
……ああ。この男の「思い」には敵わない…。
……こんなところでオレは死ぬのか……。
……何故だ……?
ざわざわ、ざわざわと、幾つもの声。
畜生っ…!畜生っ…!畜生っ…!!」
……何故奪われる……?
… 自由 を… … …生 すら……
――涯の意識は闇へと飲み込まれた――。
▼
「う…ううっ…」
我に返った赤松は頭を抱えて蹲る。
殺してしまった…いや違う…『殺した』のだ…。
人を…子供を…こんな子供を殺したのだ…。
オレは…なんてことを…。
「し…標っ…標くんっ…標くんっ…」
血溜りまで這い、そこに横たわる亡骸を抱きかかえる。
腕の間から零れる体液と腸。
これは…。
「あ…ああっ…」
これは殴殺ではない…。
何らかの銃火器で打ち抜かれている…。
見ればあるべき物がない…。標のバッグが…。
つまり既に何者かが持ち去ったあと…。
彼は…あの少年は…標を…。
……標を殺してなどいない。
腕の中には守ると誓った筈の標の亡骸。
傍らには少年が静かに横たわっている。
――物言わぬ二人の子供。
しかし赤松はここで思い至る。
「そうだっ…!」
まだ…。まだ間に合うかもしれない…。まだ希望はあるっ…!
赤松は標をそっと寝かせて、少年に駆け寄る。
少年に心臓マッサージを施す。
「戻れっ…戻ってくれっ…!」
ありったけの願いを込めて。
「頼むっ…頼むっ…」
懸命に。必死に。只管に。
「生きてっ……生きてくれっ…!」
ぴくりと少年の胸が動き、小さく咳き込みながら少年の目蓋が薄く開かれた。
【B-3/アトラクションゾーン/夕方】
【赤松修平】
[状態]:健康 やや混乱 腕に刺し傷
[道具]:手榴弾×9 石原の首輪 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:できる限り多くの人を助ける 宇海零を探す
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません
※利根川のカイジへの伝言を託りました。
【工藤涯】
[状態]:意識の混濁 右腕と腹部に刺し傷 他擦り傷などの軽傷 やや精神不安定
[道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:生還する 今後の行動方針に迷う 声のもとへ向かう
|058:[[想い>「想い」]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|060:[[状況]]|
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