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人間 - (2009/04/29 (水) 00:03:00) のソース
**人間 ◆6lu8FNGFaw 有賀はニタニタと笑いながら、沙織に向かって銃をちらつかせる。 「さあ…早く逃げなよっ…。何をためらってるの…?」 カイジは絶望感に苛まれていたが、ふと、ある違和感を覚える。 (こいつ…本当に、田中さんを逃がす気があるんだろうか…?) ヘルメットの奥にギラギラと光る二つの瞳。 愉悦を堪えきれず醜くつりあがり、ゆがんだ口。 ふと既視感…そうだ…これはあの時…。 ゴールの…希望のはずの窓……だが、悪寒…。薄暗い窓の向こうにほの見えた、暗い期待…… (駄目だ……窓を開けちゃ駄目だっ… 佐原…!!) 「…カウントダウン、するよ…?10…」 「待てっ…」 カイジはよろよろと立ち上がった。 銃弾を2発受けたのは片足…左足をかばうようにして、無事な右足でなんとか立ち上がる。 「あんた…本気で、片方は逃がすつもりでいるのか…?」 「…なんだ、まだ立ち上がる気力が残ってたの……」 有賀はカイジのほうに改めて銃を向ける。 「そうだよっ…!一人は逃がしてあげる…!うふふ、うふふっ…!」 「なら…銃を降ろせよ…俺はこの通り逃げられねぇし、攻撃もできねぇんだ…田中さんが逃げる間くらい、銃を降ろしてくれねえ か…。 そんなんじゃ田中さんも安心して『背中を向けて』逃げられねぇっ…」 カイジは話しながら、足を引きずり、少しずつ沙織をかばうように…有賀と沙織の間…直線に割って入るように移動した。 考えろっ………。 もし仮にここで死ぬことになっても…。 いや、死なねえっ…最後の一瞬まで、『俺』は死なねえっ…! 何かないか… 考えろっ… 考えろっ…!! 有賀と話しながら、カイジは必死に考えを巡らせていた。 もう体の震えは止まっていた。足の痛みのおかげで、むしろ体中の感覚が冴えてくるのを感じていた。 絶体絶命、ほぼ必ず死ぬであろうこの状況で、ならばせめて、自分らしくいるっ…! 『俺』まで明け渡さない…! 有賀を睨みつけながら、必死で言葉を紡ぎ出しながら、カイジは考えていた。 何かないか…! 「なぁ…頼むよっ…銃を降ろしてくれ…数秒の間だけ…」 「うふふ…クク…何言ってるの…?そんなに…早く、殺されたいの…? 指図すんなよ…!体の端から順に穴を開けてやろうか…? すぐには死ねないよ…それとも、本望かな…頭と胴が無事なら数分は生き延びていられる…ウクク…!」 有賀の脅しに、強気のカイジもさすがに怯む。 その表情を見て、有賀はますます口の端をつりあげる。 絶望…ひたすら絶望…! 駄目だっ…何も…何も思いつかねぇ…! 死ぬのか…! ここで二人とも…! 「ねえ…」 ふと、カイジの後ろに立ち尽くしていた沙織が声を発する。 「やっぱり…私も…殺すの…?」 「うふふ…殺さないよっ…殺さないっ…」 「ねえ…お願い…助けて…何でもするから…」 沙織は涙声だった。 沙織の声を聞きながら、カイジはもどかしい思いに駆られた。 彼女は冷たい人間…だからって、死んで欲しくない…! 「うふふ… 何言ってるの…?」 「ねえっ…私だけでも助けて…何でもするからっ…死にたくないの…あなたの言いなりになるから…」 「………いらないよ、別にいらないっ…」 「お願い…!役に立つわ…私をおとりにして人をおびき寄せれば、もっと人殺しができるわ…」 「……………」 有賀と沙織のやり取りを聞きながら、カイジは背筋が凍るような感覚に襲われた。 そこまでして助かりたいのか…?わからない…全く理解できないっ… 「私が、同行中に不意打ちでもすると思っているの…? なら…私の両手をその銃で撃って…手負いにすれば、私はもう何も抵抗できない…」 「フフ…狂ってるね…あんた…狂ってる…!そんなに生きていたいの…」 「死にたくないもの…!お願い、私の命だけは助けてっ…!」 沙織は泣き叫ぶように言った。 有賀はそれを見てニヤニヤと笑いながら、ふと考えた。 生に対する執着…ここまでの奴は初めて見た…! 今まで、女子供をたくさん殺してきた…。 みんな、心躍るくらいに泣き叫び、哀願してきた。 それこそ何でもするからと、自ら服を脱ぎだすような女もいた。 だが… ここまで生に執着する女は初めて…… (こいつを…どこかの建物の中で縛りつけ…端から順にナイフで開いていったら、楽しいかな…? 開くたびに哀願…死にたくないと…許してくれと泣き叫び…もうしないと言って安心させて…、 またもうひとつと…傷をつけていき…再び絶望に染まる顔を眺めたら楽しいだろうか…?) 有賀はこらえきれない笑いをかみ殺し、沙織に言った。 「…何でもする…?」 「ええ…何でも…何でもする…!」 沙織の発する言葉はほとんど悲鳴に近かった。 「そう……なら、君を一緒に連れて行ってあげる…。 君のお望みどおり、両手を撃ってあげるっ…」 有賀は沙織が見える位置まで少し左にずれ、沙織に銃を向けた。 「ま…待って…。このままじゃ体にも弾があたってしまうわ… お願い…、両手を挙げて…少しだけ近くへ行くから、的を外さないようにして…お願いっ……」 「…クク…」 沙織はゆっくりと両手を挙げ、少しずつ有賀に近づいていった。 そのとき、カイジの横を通った。 カイジが呆然とこちらを見ているのが視界の端に映ったが、沙織はカイジに一瞥もくれず、そろそろと有賀に近づいていった。 足が震える。恐ろしい。立っているのもやっと。 殺人鬼。恐ろしい。恐い。だけど、殺されるのは嫌…もっと嫌… 有賀は、沙織の怯えた様子を愉しげに観察していた。 目に涙をためて、恐ろしさのあまりこちらを向かず、ふらつく足元を見ながらゆっくりと歩いてくる。 とても飼い慣らしやすそうだ…本人の言うとおり、少しの間なら奴隷として使ってやってもいいかもしれない。 …少しの間だけなら、ね…うふふ…! 有賀は油断していた。 ふと、銃を持つ手元に目をやった。 そのとき、一閃っ………………!!! 「グワッ…!!」 一瞬、何が起こったのか有賀には分からなかった。 左目に鋭い衝撃……! 「!?」 反射的に銃を構えなおそうとする…その刹那、視界が真っ赤に染まった。 何 が 起 カイジはその瞬間をはっきりと見ていた。 有賀がふと手元に目をやった…その瞬間、沙織の右手が振り下ろされた。 有賀は奇声を発して左目を手で抑えた。 有賀の指の隙間から、沙織は何かを勢いよく突き刺した。 沙織の左手は相手のヘルメットの淵をつかみ、右手は何か細い棒のようなもの… それを、有賀の指の間から突っ込み、根元まで押し込んだ。 有賀の指の間から、赤いものが流れ出した。 血だ。 鮮血はボタボタと垂れ落ちた。 有賀の銃はあさっての方向に向き、弾を放出した。 バラバラッと数発。 ゆっくり、有賀は膝をつき、倒れこんだ。 まるでスローモーションのように。 真っ赤な視界の中で、カイジって奴と女が鮮血を飛び散らせて倒れこむのが見えたんだ… 愉悦… 愉悦… 興奮… 愉悦… 愉しい…人を殺すのは、こんなにも愉しいっ…! うふふ… あはは……… は…… は カイジはゆっくりと、足を引きずりながら沙織に近づいていった。 沙織は、有賀の死体のそばで座り込んでいた。 「……田中さん…」 「……………」 返事がない。 うずくまったまま、肩が時折震えるのが見えた。 カイジは有賀の死体を見た。 有賀の横顔。左目に深く突き刺さっていたのは…見覚えのある物。 普段は筆談用に使っていた、通常支給品のペン。 カイジは足の痛みをこらえながらしゃがみ込み、沙織の肩に手を置いた。 沙織は嗚咽を漏らした。恐怖でも怒りでもなく、ただ悲しみが伝わってきた。 「……っく……っ……………ううっ…!」 「田中さん」 「……う……うう……!殺した……私……人殺し………殺した…!」 「田中さん、俺もだ」 「……………」 「この状況ではこうするしかなかった」 「……………」 「二人で殺したんだ…」 「……………」 「……ありがとう」 「……自分のためにやっただけよ」 「それでもいい…助かった」 「………あなたが、『この殺人鬼は二人とも殺すつもりだ』って教えてくれなかったら、一人で逃げてたわ」 「……………」 「でも……あなたは……最後まで、私を庇おうとしていたでしょう………」 「……………」 「一人なら、とてもこんな度胸なかったわ……。 一人なら……、自分だけが助かりたければ、目先の安全しか見えない…。 だから、…きっと殺されてたわ……………」 「………ありがとう」 「………お礼を言われるようなことじゃないわ…」 「人間らしくいてくれて………、ありがとう」 沙織はカイジのほうに目を向けた。 沙織の目から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。 …………………… しばらく経って、沙織は深呼吸をした。 「行きましょう」 カイジは頷いた。 「こいつの荷物も持って行きましょう…マシンガンは使えるわ」 「ああ」 「あと、どこか隠れられるところに…、足の手当てもしないと」 「うん」 「歩ける?」 「…なんとか、ゆっくりなら」 「幸い…日も落ちてきたし、見つからぬよう…音を立てないように注意して移動すれば、なんとかなるわ、きっと」 二人は荷物をまとめると、ゆっくりと歩き出した。 *** 【C-4/アトラクションゾーン/夜】 【伊藤開司】 [状態]:足を負傷 (左足に二箇所) [道具]:支給品一式×2、果物ナイフ、ボウガン、ボウガンの矢(残り十本) [所持金]:1000万円 [思考]:身を隠せる場所を探す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す 赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒 ※平山に利根川への伝言を頼みました。 ※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。 【田中沙織】 [状態]:健康 [道具]:支給品一式(ペン以外)、サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット、参加者名簿 [所持金]:7800万円 [思考]:カイジの足の手当てができる場所を探す 死に強い嫌悪感 森田鉄雄を捜す 赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒 &color(red){【有賀研二 死亡】} &color(red){【残り 29人】} |062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|064:[[人間として]]| |062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|| |062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:伊藤開司|070:[[陰陽]]| |062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:田中沙織|063:[[陰陽]]|