お前の姿はあいつに似ている ◆U1w5FvVRgk
そこはもう遊園地などでは無かった。
人を乗せて回る木馬は砕け散り、人々に絶叫を上げさせるマシーンの数々は地に落ちている。
ゴンドラが無くなった観覧車は、差し詰め朽ち果てた枯れ木か不細工なオブジェの模様を呈していた。
残されたのは破壊の力を知らしめる残骸と、男の敗北の証だけ。
男の――伊達でいなせな男、ストレイト・クーガーの手中では少女――
柊かがみが眠っていた。
二度と目覚めはしない、永遠の眠りではあったが。
一見して目立った傷や出血は見当たらない。
埃やススで多少は汚れているが、目を瞑る死に顔は今にも目覚めそうなほど穏やかだった。
恐らくは全身を打ち付けた際に細胞や血管が潰され、内臓破裂を引き起こしたのが直接の死因だろう。
クーガーは自らの敗北を噛み締める。
間に合っていた。自分の速さは爆風すら凌ぎ、彼女の身を間一髪救い、車内に避難したはずだ。
実際は、そこまでだったというべきか。
避難するまでが限界で、直後の衝撃からかがみを守ることは出来なかった。
有り体に言えば試合に勝って勝負に負けた。
とにかく、柊かがみは死んだ。彼女の親友である、
泉こなたの放った爆弾に拠って。
「無念、無様、哀れ、お粗末、惨め、後悔、自責、慙愧、憂鬱。
今の俺に相応しい言葉はなんですかねぇ、かがみさん」
もちろん、死者は答えない。
クーガーとてロストグラウンドに生きる男。死体を見るのは初めてではない。
だからといって、何も感じない訳がない。
そして、今のクーガーに相応しい言葉など決まっている。
遅かった。ストレイト・クーガーはどうしようもなくスロウリィだった。
その事実をクーガーは受け入れる。だが、悔いるのはそこまでだ。
一度の負けでいつまでも落ち込むほど、彼は柔な男ではない。
かがみの遺体をその場に降ろすと、クーガーは背後の『愛車』に向かった。
そう、愛車だ。
全ての窓ガラスが割れ、ボディは全体がへこみ、付き合いが一刻しかなくても、それは愛車だった。
何しろクーガーが今も生きていられるのは、この車が爆風を受けてくれたからだ。
でなければ、さすがに死んでいただろう。
心中で感謝を述べながら、クーガーはひっくり返った車から二つのデイパックを引き出した。
それらが無事であると確認すると、肩に担ぐ。
次いでかがみの所に戻り、もう一度抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこだ。
数時間前にこうした時よりも、腕に掛かる重みが増しているのが物悲しい。
デイパックに入れれば運ぶのは楽だろうが、そんな乱暴な扱いはできなかった。
「少し揺れるかもしれませんが我慢してくださいね」
死者であろうと女性への気遣いは忘れない。それがストレイト・クーガーという男だ。
告げてから、クーガーの周囲の地面が粒子となり、彼の足を覆う装甲となった。
自分の足に何の問題も無いと確認して、クーガーは走り出した。
■ ■ ■
「随分と派手にやっている奴が居るようだな」
東の空に上がる爆煙を目の端に捉えながら、斎藤は歩く。
平賀才人と泉こなたとの戦闘の後、彼は警察署を目指し南進していた。
別に明確な目的は無い。ただ近辺では一番馴染み深い施設だっただけだ。
あるいは、警察署ならば人が集まるとの打算があったのかもしれない。
保護を求める一般人か、それを狙う悪党か。
後者ならば問答無用で倒す。前者ならば……別にどうするつもりもなかった。
弱者を助けてやるほどこの男は優しくない。
ここに居るのは警官・藤田五郎ではなく、新撰組三番組長・
斎藤一なのだから。
(しかし、誰が使ったかは知らんが、あれだけの威力を誇る爆発物を配るとはな。恐らくは西洋の品か)
幕末の京都、戊辰戦争、西南戦争。
数々の戦場を生き抜いてきた斎藤をもってしても、あれほどの爆発は見たことがなかった。
だから、日本ではなく外国製の爆弾だと当たりを付けた。
更に周囲の街並みが拍車を掛ける。
知らない素材で作られた足元や建物、英語で表記された看板、中には漢字の物もあるが左読みだった。
文明開化の最先端である東京でも目にしたことがない景観だ。
これらの事実を総合的に判断して、斎藤はこの場が外国を模した島だとの仮説を立てた。
外国そのものではないだろう。
それなら斎藤は何日も気絶していたことになり、体のどこかに不備が出るはずだ。
しかし、体に異常は見られない。
いや、そもそも斎藤には拉致された際の記憶が無い。
不覚の極みだが、ここに来る直前の記憶を思い出してみても今回の事態とはどうしても結びつかない。
名簿に載っていた
緋村剣心も簡単に拉致されるほど弱くはないはずだ。
そんな事を考えながら歩いていた時だ。東の方から轟音が聞こえてきたのは。
目を向けると、何かが近づいてきていた。
どうやら男の様だが、そのスピードは人知のものではない。
斉藤の知るものに例えるなら、蒸気機関車が一番適当だろうか。
とにかく、こちらに向かってくる男は速かった。
遠めだが月明かりに照らされて輪郭が浮かぶ。
白と青を基調とした服に、茶色の髪。
赤紫の色眼鏡に、同色の装甲を足に纏っていた。
そして、少女を抱きかかえている。一言で表現するなら、怪しい。
反射的に臨戦態勢を整える。
相手がやってきたのは爆発のあった方角だ。
もしかしたら、爆発を起こした張本人の可能性もある。
もし、危険人物なら迎撃。そうでなければ情報を得るために止める。
男も自分に気付いたようだが、まるで止まる様子はない。
斎藤は男を制止しようと声を掛ける。
「止まれ」
「断る、お前こそ退け!」
互いに一言。互いに退かず。
相手の返答を聞くなり、斎藤は腰を落とし、開いた右腕を前に突き出し、左腕を腰溜めに構える。
牙突。斎藤が持つ唯一無二の技。
瞬間、男目掛けて斎藤は突撃した。壬生の狼に道を譲るなどという選択は存在しない。
色眼鏡の奥で男の目が見開かれる。
まさか退きも避けもせず突進してくるとは思わなかったらしい。
それでも、スピードは落ちない。
もはや正面衝突は避けられないかと思われたが――
「はぁッ!」
あと数センチで斎藤の拳が命中するところで、男は間一髪上方に跳躍。
斎藤が突き出した拳は獲物を捉えられずに空を切り、男はそのまま斎藤の後方に着地。
スピードを殺すため、装甲で覆われた足でアスファルトを削りながらしばらく進み、漸く停止した。
斎藤も拳を避けられた時点で速度を落とし、数メートルほど進んだ所で止まった。
今度は両者背中合わせでの対峙。刹那の間を置き、ほぼ同時に振り向く。
二人の鋭い視線がぶつかる。斎藤の目が狼なら、男は豹だろうか。
確実なのは互いに決して良い気持ちではなく、第一印象が最悪の一言に尽きるということだ。
「俺を止めたなぁ!」
「言っても止まらん阿呆にはああするのが一番だろ」
男の眉間が寄った。初対面で阿呆呼ばわりされれば当然だ。
斎藤は気にせず、男の持つ【モノ】を見る。
そう、【モノ】だ。それはもう人ではない。
娼婦でも着ないような露出の多い服を着た、まだ十代と思われる少女の死体。
男の走ってきた方角から推察するに、先ほどの爆発にでも巻き込まれたのだろう。
「誰が殺した?」
「ほう、俺が殺したとは思わないのか?」
「貴様が死体愛好家でもない限り、骸を連れて走りはせんだろ」
なるほどな、と男が頷いた。
しかし、警戒はまだ解けてはいない。
「俺も聞きたいことがある。お前さんは俺と殺し合うつもりか?」
男が右足を一歩下げた。
もし戦うつもりなら受けて立つとの無言のアピールだ。
対する斎藤は動じる様子も無く、
「悪・即・斬。どこだろうと俺の行く道はこれ一つだ」
それだけを返答とした。
その返事を聞いて何を思ったか、男は一瞬だけ意外そうに呆けた後、唐突に大声で笑い出した。
普通は自分の信念を聞いて笑われたら怒る。
しかも、男が笑ったのは新撰組全ての信念ともいえる言葉。
次の瞬間には戦闘になっていても何らおかしくはない。
しかし、斎藤は怒りの容貌を見せず、視線を訝しげなものにしただけだ。
類まれな洞察力を持つ斎藤には分かった。男が嘲笑の意を込めて笑っているのではないと。
どちらかと言えば男は楽しげに笑っているのだ。
まるで志を同じくする同士を見つけたかのように。
「何が可笑しい」
「いやぁ、すまんすまん。お前の行く道が知り合いの道と似ていたもんでな。
そうかい、悪・即・斬か。そいつは結構だ。気に入ったぜ」
クーガーが足を戻す。
先ほどまでの険悪な雰囲気はなんだったのか、今では男の態度は軽薄とも取れるほど軽い。
そして、男は自らの名を名乗る。
「ストレイト・クーガーだ。よろしくな」
「藤田……いや、斎藤一だ。余計な事はいい。あっちで何が起こったかだけ話せ」
名前を聞いて外国人かと斎藤は思ったが、言葉が通じるなら些細な問題だと捨て置いた。
相手の素性などどうでもいい。今必要なのは情報だけだ。
■ ■ ■
あらかたの事情を聞いた斎藤は舌打ちせざるを得なかった。
爆破の下手人は青髪の少女(名前は泉こなたらしい)と、白色と青色の上着を着た少年。
ほぼ間違いなく斎藤が数時間前に戦った二人だ。
取るに足らない存在と見逃した結果、あの爆発が起きた上に犠牲者まで出した。
ならば、それは斎藤にも責任の一端があるということだ。
己の失態に歯噛みしながら、斎藤は振り返り視線を東から南東方面へと流した。
その目付きは常に比べてなお鋭く、まさに獲物を狙う狼そのものだ。
(施設から東は行き止まり、西はこの男の来た方角、北は俺と出くわす可能性がある。
逃げるとしたら南方か)
二人の逃走経路におおよその目星を付けてから、斎藤はそちらに歩き出そうとして、
「おいおい、どこに行くんだ?」
背後からの静かな声に足を止めた。
「決まっている。その二人を殺しに行く」
振り返らずに告げた瞬間、斎藤の横を影が走り抜け、十メートルほど先で止まった。
言うまでもなく、ストレイト・クーガーだ。
まるでここは通さないと言う様に、斎藤の前に立ちはだかっていた。
今はその手に少女を抱えていない。どうやら斎藤の後方に横たえてあるらしい。
「何のつもりだ?」
「そういうことなら、行かせるわけには行かないな。」
明確な妨害宣言。
斎藤には、クーガーの考えが理解できない。理解したくもなかったが。
「一応聞いてやろう。何故だ? 同行者を殺されたお前が俺を止める理由など無いはずだ。
それとも、自分で殺したいから俺を行かせたくないのか」
クーガーは首を振る。
そして、斎藤の目をサングラス越しに見ながら口を開いた。
「俺には今のところ三つの目的がある。一つ目はこの殺し合いを最速で潰す。
二つ目は彼女、柊かがみさんの妹さんと友達を探して保護する。
そして三つ目は……こなたさんを正気に戻すことだ」
クーガーは淀みなくはっきりと宣言した。
斎藤は心底から呆れた。いや、侮蔑と表した方がいいかもしれない。
最初だけは斎藤も同意見だ。次はどうでもいい。やりたいならやればいい。
だが、最後だけは論外だった。
あの少女がもう手遅れであることは、誰の目にも明らかだ。
それを眼前の男は、寄りにも寄って正気に戻すなどという戯言を吐いたのだ。
これに呆れずして何に呆れろというのか。
「戻すだと? どうやってだ」
「知らんがとにかくやる。無理でも押し通す」
「本当に阿呆だったようだな。いや、馬鹿か」
「馬鹿で結構。それが俺の決めた俺のやり方だ。だから、邪魔するなら止めるぜ」
「それはこっちの台詞だ」
返事と共に斎藤は先ほどと同じく牙突の構えを取った。
剣が無い現状では、斎藤の使える技はこれだけだ。
いや、元からこれ一つしかない。
戦場では一期一会ならぬ一期一殺。一度出会い戦えば、そこには生きるか死ぬかしか道は無い。
だから、技など一つあれば十分だった。
斎藤が戦ってきた相手で、この法則に当てはまらなかった奴は一人しか居ない。
誰よりも速い、十年来の宿敵・人斬り抜刀斎。
「まあ、奴と決着を付ける前の練習台にはちょうどいいか」
「言ってくれるな。悪いがさっきと同程度の速さじゃ俺はおろか、俺の次に速い同僚にすら勝てないぞ」
「ほざけ」
別に速さを競うつもりは斎藤にはない。
相手が何であろうが邪魔立てするなら退かず、ただ前へと進む。
戦う理由などそれで十分だ。
「さっきも言ったが、俺はお前のような正義馬鹿を知っている。
多分、そいつもお前と同じように動くだろうな」
デイパックを横に放り、足を一歩下げながらクーガーは告げる。
馬鹿と言ってはいるが、斎藤に対して悪感情は無いらしい。
斎藤は特に反応を示さず。
「……俺はお前より速い男を知っているが」
斎藤の脳裏には宿敵が放つ神速の剣技が思い浮かぶ。
それに比べれば、クーガーの出会い頭の一撃も遅いと感じられた。
もっとも、それは戦闘時だけで単純な速さではクーガーの方が上だろうが。
その男も事情を知ればクーガーと同じ行動を取るだろう。
「なにぃ!? 俺より速い男……そいつは聞き捨てならないな。この島に居るのか?」
「教えてやる義理は無い。そして、これ以上喋る必要もない」
その言葉が開始の合図となり、斎藤は突撃を開始し、クーガーも走り出した。
それは先ほどの焼き直しに近い。
高速で動く両者の距離は一瞬で詰まり、激突の瞬間はすぐに訪れた。
クーガーが左足を使い僅かに浮き、振り上げた右足を斎藤の左腕目掛けて放つ。
左腕の突きだと分かっている以上、そこを狙い打つようだ。
それが斎藤の狙いであるとも知らずに。
斎藤は左腕を蹴りの軌道上に自分から突き出し、蹴りを無敵鉄甲に覆われた前腕で受け止めた。
硬い物同士がぶつかり合う打突音が響く。
斎藤は吹き飛ばされないように足に力を込めて踏ん張る。
ピシリ、と左の鉄甲にヒビが入った。
ビリビリとした痺れと衝撃が鉄甲から腕、そして全身へと広がっていく。
だが、そこまでだ。斎藤は地に足を着けしっかりと踏み止まっている。
クーガーへと目を向ければ、サングラス越しの目を見開いて驚きを露にしていた。
その左足はまだ地に着いていない。
一瞬の停止。一瞬の静寂。それだけの間があれば、斎藤の牙を届かせるには十分。
引いていた右腕が、クーガーの顔面に向けて突き出された。
斎藤とて、一度見せた技に対処される可能性が高いなど知っている。
故に今回はそれを逆手に取った。
剣ではなく、素手で放つ牙突である事。
装備しているのが非常に頑丈な無敵鉄甲である事。
この二つの条件を加味し、相手の攻撃を受け止めてから反撃する、いわゆる迎撃戦法を選んだのだ。
当然だが問題点はある。
もし無敵鉄甲が耐えられずに砕けたら、クーガーが左腕以外を攻撃してきたら。
前者に関しては完全に賭けだ。
しかし、後者についてはそれほど案じていなかった。
クーガーは言った。斎藤を殺すのではなく止めると。
相手を殺さずに止めるにはどうすればいいか。
簡単だ。相手の絶対の自信を持つ技を打ち破ればいい。
斎藤の技は鉄甲を纏った左腕に拠る突き。
それなら、鉄甲越しに攻撃すればさしてダメージを与えないと、相手は考えるはずだ。
あとはその甘さを利用すればいいだけ。
もちろん、これも可能性の話に過ぎない。しかし、結果として斎藤は賭けに勝った。
とはいえ、クーガーもまた一流の強者。
斎藤の渾身の拳に対して、直前で顔を反らして回避に成功する。が、完全には避け切れない。
拳はクーガーの鼻先を掠めるように進むと、顔ではなく彼のサングラスに当たった。
そのままサングラスは弾き飛ばされ、宙を舞う。
そこでクーガーの左足が着地し、そちらに体重を掛けて反動で後方に倒れ込むように跳ぶ。
数メートル先に背中から地に落ちる。
直後に今まで彼の姿があった場所を、振り下ろされた斎藤の右腕が薙いだ。
避けられたと分かった瞬間には、既に追撃に移っていたらしい。
すぐさまクーガーは立ち上がり、斎藤は続けて追撃はせず後方に跳躍し距離を取る。
刹那の攻防は終了し、二人は再度対峙する。
奇襲は防がれた。鉄甲の状態を見る限り、もう一度同じ方法は出来まい。
されど、斎藤の戦意は今だ衰えず。
ならば次は真正面から貫くまでと、再び牙突の構えを取る。
対して、クーガーは――
「止めだ止め。これ以上は戦っても何の意味もない」
両手を上げて、もう戦意が無いことを告げていた。
拍子抜けな言い草だが、やはり斎藤は動じない。
「なら、どうする?」
斎藤もクーガーとの戦いで得る利益など無い。
しかし、お互いに妥協できないなら戦うしかないのだ。
もちろん、斎藤に譲歩するつもりはなかった。
「お前、タバコは吸うか?」
クーガーの言葉を聞くまでは。
タバコ。それはある意味現状で斎藤が刀よりも欲している物。
数時間前まで持っていたが、火を付けられないので捨てた趣向品。
「火は?」
「あ?」
「火はあるのか?」
「おう、確かライターが一緒にあったな」
斎藤の質問に交渉の余地があると見たのか、クーガーは傍のデイパックから嬉々と品物を出した。
だが、斎藤には見慣れない物がその手にあった。銀色で長方形の小さい金属。
その正体をクーガーに問おうとして、その前にクーガーが金属の蓋を開き、歯車を回し火を付けた。
「ほれ、この通りちゃんとガスも入ってるぞ」
この時、斎藤は驚愕というものを初めて味わったが、それをおくびにも出さない。
明治時代に生きる彼はライターを知らない。
ただ、あれは火を付ける道具とだけ認識した。
「で、こいつを渡したらあの子を殺すのを待ってくれるか?」
「これは買収か?」
「いいや、これは頼みだ。今ならこのバットも付けるぞ」
そう言って今度はデイパックから鉄の棍棒を取り出す。
無敵鉄鋼の損傷を考えるに、何であれ武器はありがたい。
何よりもタバコだ。武器よりもそちらの方が欲しい。
とはいえ、簡単に了承するのも癪だ。
しばらく思案して――斎藤は決断した。
「いいだろう。あの娘を殺すのは待ってやる」
「よーし、交渉成立だな」
「ただし、連れの餓鬼は駄目だ。
次に、娘を捕らえたら三回目の放送、つまり今から十数時間後までに警察署に捨てていく。
後はお前が勝手に面倒を見ろ。間に合わずに他の誰かに娘を殺されても俺は知らん。
そして、娘が元に戻らなかった場合は容赦なく殺す。この条件が呑めないなら、交渉は決裂だ」
「……いいだろう。俺がまた失敗するなんてありえないからな」
強がりではなく、本当にそう思っている不敵な笑みを見せつつ、クーガーは斎藤に渡す品々を置いた。
その自信満々の態度に、斎藤は無言。
無視か、あるいは成功しようが失敗しようがどうでもいいと思っているのかもしれない。
クーガーは特に文句を言うこともなく、デイパックを拾い、黙って斎藤の横を通る。
そのまま路上に横たえていたかがみの遺体まで歩いたのだが、
「おい、あの色眼鏡は拾わなくていいのか」
ピタリと、クーガーの動きが止まった。
そのまま目元に手をやり、目的の物が紛失していると確認する。
慌てて辺りに目を配ると、それはすぐに見つかった――粉々に砕けてはいたが。
「お、俺の文化的サングラスがぁぁぁぁぁぁ!?」
両手で頭を抱えて、クーガーが絶望の叫びを上げた。
余程気に入っていたのか、その嘆きは深く長い。
斎藤はその様を黙って見ていたが、数秒後には鬱陶しくなりデイパックを開いた。
「これをくれてやるから黙れ」
斎藤が放り投げた物を、悲しみに暮れつつもクーガーは受け取る。
それはサングラスだった。
クーガーの赤紫とは違い、黒色のサングラス。説明書には葛西のサングラスと書かれていた。
それを繁々と眺めていたクーガーだったが、納得したのかサングラスを掛けた。
「中々悪くないな。文化的ではないが男の熱い魂を感じる」
「ならさっさと行け。いい加減目障りだ」
「わあったよ。そういえば、結局俺より速い男って誰だ?」
「教えてやる義理は無いと言ったはずだが」
「硬いこと言わずに教えろよ。減るもんじゃあるまいし。
ああ、ちなみに俺の知り合いの正義馬鹿は劉鳳というんだがな」
「……緋村剣心。名簿にはその名で記されている」
「そうか。ありがとよ」
一言だけ礼を言ってから少女の遺体を抱えると、クーガーは西に向かって駆け出した。
あっという間に遠ざかっていく背中を見送りながら、斎藤は口を開く。
「確かに殺しはしないと言ったが、多少は痛めつけるかもしれんぞ」
もう見えなくなった相手に呟くと、説明書通りにライターを使ってタバコに火を付けた。
先端が燃え、口腔に溜まる煙を斎藤は味わい――すぐに顔を顰める。
「悪くはないが……無いよりはマシか」
紫煙を吐き出しながら感想を呟く。
自分のタバコを捨てるのは少し早かったかと、斎藤は本日二度目の失態に再び舌打ちした。
【一日目早朝/G-9 中央部】
【斎藤一@るろうに剣心】
[装備]:無敵鉄甲(左鉄甲にヒビ)@るろうに剣心、
北条悟史の金属バット@
ひぐらしのなく頃に
[所持品]:基本支給品、バージニア・メンソール×五箱(一本消費)@バトルロワイアル
確認済み支給品0~1個
[状態]:健康 、疲労(小)
[思考・行動]
1:悪・即・斬を貫きぶいつうを殺す。
2:泉こなたと平賀才人を追い、こなたを拘束。才人(名前は知らない)は殺す。
3:2の後は第3放送までに警察署に向かい、こなたを捨てる。
4:役立たずと同行するつもりはない。
※遊園地の爆発がこなたの仕業だと知りました。
※殺し合いの会場は外国を模した島だと思っています。
【バージニア・メンソール】
ヅキこと月岡彰が愛用するタバコ。
一箱二十本入りでZIPPOライターとセットで支給。
主に女性向けの銘柄として売られている。
■ ■ ■
コツコツとリノリウムの床を歩く。
目的の場所は入り口の案内図で確認してある。
この施設の重要性を考えれば誰か滞在しているのではと懸念したが、幸か不幸か人の気配はしない。
電灯はあるものの光量は控えめなので、廊下は薄暗かった。
場所柄的に幽霊でも出そうだが、それなら是非とも見てみたいとの興味が恐怖より先立つ。
幽霊が文化的かと問われれば微妙なところではあるが、やはり好奇心には逆らえない。
生憎にも、彼の期待に答えられる存在はここには居ない。
仮に実在したとしても、東の空が徐々に白みを帯びてきた時間帯に現れはしないだろう。
そうこうしている内に、クーガーは目的の場所に行き着いた。
頭上のプレートを見上げ、ここで間違いないと確認。
かがみを落とさないように気をつけながらドアを開ける。
室内は廊下よりも暗く、空気はひんやりと冷えていた。
部屋の中央には寝台があり、その前にはいくつかの物品が置いてあるテーブルが鎮座していた。
クーガーは寝台まで歩くと、そこにかがみを横たえる。
ついでに彼女のデイパックも寝台の下に置いた。
次いでテーブルにあるマッチ箱からマッチを一本取り出し、その横にある線香も一本取った。
香炉に線香を立てると、マッチを箱で擦り火を灯す。
線香の先端が赤くなり、しばらくするとうっすらと煙が立ち上がる。
初めて嗅いだが悪くない香りだとクーガーは思った。
最後に両手を合わせて合掌。これで全ての手順を終えた。
もう、彼女に語る言葉も無い。
踵を返してクーガーは部屋――霊安室から出た。
総合病院の自動ドアが開き、クーガーが出てくる。空は病院に入る前より白みを増していた。
新しいサングラス越しに見る夜明けは、どこか新鮮な気持ちにしてくれるだろう。
とはいえ、クーガーの気持ちは晴れない。
今し方かがみを弔ってきたところだが、あれが正式な供養の作法かどうかなどクーガーは知らない。
彼が今までに読んだ数々の本の中に、本土での死者の弔い方の一つとして載っていただけだ。
その時は自分が実践するとは思いもしなかったので、うろ覚えな知識のまま行った。
そういえば線香はロウソクの火で灯すのでは、何てことを今更思い出すぐらいだ。
こんなことなら、ちゃんと覚えておけばよかったと少しだけ悔やむ。
おそらく、かがみは本土の人間だ。
なら本土側のやり方で供養するのがいいだろうと、ここまで運んできた。
供養したいなら遊園地から北に向かい、土を掘って埋葬すればいい。
乱暴な方法だが、そこらのアスファルトを砕いてその下の地面にだって埋められる。
自己満足と言われればそこまでだ。
だが、それがどうした。やりたいようにやって何が悪い。
どのように弔おうが嘆こうが、死者は答えてくれない。
極論を言ってしまえば、供養など所詮は生者の自己満足に過ぎないではないか。
だから、これから先の彼の行動も自己満足だ。
クーガーはゆっくりと右腕を上に伸ばし、人差し指を立てた。
「風力温度湿度……一気に、確認。ならばやってやりますか」
サングラスを軽く押し上げると、次の瞬間にはクーガーは猛然と走り出していた。
目的地はかがみの知り合いの所。どこに居るかなど分からない。
だが、確実な事が一つだけある。島全体を回れば絶対に会えるという事だ。
効率が悪すぎる? 土台無理な話? それは普通の男相手にいう言葉だ。
挑戦するのは最速の男ストレイト・クーガー。彼に一般常識など当てはまりはしない。
仮に天国というものがあり、かがみが彼の行動を見たらどう思うだろうか。
「待っててくださいよ。つばささんにこゆきさんにまなみさん!」
とりあえず、まずは名前を覚えろとツッコムはずだ。
【一日目早朝/G-8 総合病院付近】
【
ストレイト・クーガー@
スクライド】
[装備]:葛西のサングラス@ひぐらしのなく頃に
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(確認済み)0~1
[状態]:軽症、疲労(小)、ラディカル・グッドスピード(脚部限定)発動中
[思考・行動]
1:かがみの知り合い(つかさ、みゆき、みなみ)を探す。
2:第3放送までに警察署に向かいこなたを拾う。
3:こなたを正気に戻す。
4:緋村剣心の速さに興味。
※総合病院の霊安室にかがみの遺体とデイパック(基本支給品一式、陵桜学園の制服、かがみの下着)
が安置されています。
【葛西のサングラス】
園崎詩音の世話役・葛西辰由のサングラス。
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最終更新:2010年06月12日 02:42