水銀燈と奇妙な良子  ◆eyiEP91ZNE



良子は、喉元を一周する金属製の首輪を指の腹で撫で、軽く叩いてみた。
一見なんの変哲も無いこの首輪には爆弾が仕掛けられているという。
実際に、いつの間にか立っていたあの白い空間の中で、一人の少女が首輪の爆発によって死亡したのを見た。
中には顔を塞いだり目をそむける者の姿が見えたが、良子は少女が男に束縛され、首輪がボンッという至ってシンプルな音を発し、少女の頭が床に転がるまで一度たりとも目を離すことはなかった。
それはずっと見ていたからこそわかることだが、一秒も掛かったか掛からないかというほど一瞬の出来事だった。少女は抵抗する間も無く死んだ。

「ふむ、となるとこの首輪は邪魔になるな」

良子たちパラサイトとて、首と胴が別離すれば生を失う。この首輪は良子たちにとっても非常に危険なものだった。
しかし外すにも大きなリスクを背負うこととなる。仕組みを把握できていない今、下手に触れるのは避けたほうが良い。
ならば先ずはサンプル………つまり他者の首輪を奪い、慎重に中身を知った後に自分の首輪を外す。それしかない。
些か面倒ではあるが仕方あるまい。常に命を握られた状態で居るよりはマシだろう。

「あの白髪の少年は確実に我々の敵だ。ゲームに乗るかどうかはさて置き、首輪を解除した後であの少年は食おう。だが…」

もう一つ、良子には興味があることがあった。
あの空間に居た人間ではない、『その他』の者たち。そして人間の中に居た、『痛がり屋』ではない者たち。
彼らがこの制限された島の中でどのような感情を持ちどう行動するのか。それを観察して、研究材料の素質があるならば連れて帰りたいと考えていた。
万が一パラサイトの敵となるようであれば喰らうか殺せばいい。そんなやつらに用は無いのだから。

「どうせ首輪を外すにも時間が必要になる。それまでの暇潰しにでも研究材料の探索を―――」

良子の視界の隅に、黒い羽が一枚舞い落ちた。

     +     +     +     +

元々彼女、水銀燈を含むローゼンメイデンは誕生と共に、父が欲するアリスを目指すために、姉妹同士でローザミスティカ――人間で言う魂のようなもの――を掛けて戦うという運命を背負っていた。
父への思いが強い水銀燈はこの宿命を受け止め、忠実にその定めに従い生きようとしていた。
そのため突然殺し合えと言われても、特別に驚くことも無く、平静状態を保つことは簡単だった。

『消さなければならないものが増えた、同時に消される危険が増えた』

このゲームが示す意味を考え、導き出した結論がこれだ。水銀燈は一連の出来事とこのゲームのことをを軽く見ていた。
人間は脆くて儚い。ドールとは違って、すぐに壊れてしまう。だからそれ以上の力を持っている自分は有利な位置に立っていると考えた。
つまり水銀燈はこう考えていたのだ。………あの空間に居た全員が、“人間”である、と。
ならば一人を、媒体……ミーディアムとして側に置けば話は早い。
二人で協力して人間を消し、姉妹からはローザミスティカを奪う。もちろん最終的にそのミーディアムも殺す。
あとは元の世界で新しいミーディアムと共に残りの姉妹を片付ければ良い。


そこまで思考すると水銀燈は木の枝に腰を据えたまま、支給品であるS&W M36の銃口を、先程からそこに佇んでいる“人間の形をした”人物に持ち上げて……。

「まきますか、まきませんか?」

     +     +     +     +

目標にされた側、田宮良子は悠長にも緩慢な速度で声の出所へ顔を向けた。
数寸ほどの身の丈。悪魔を連想させるような黒い翼。紫に近い瞳の色。
明らかにこちらは人間ではないことが伝わってくる。しかし当然ながら、良子の仏頂面が崩れることはなかった。

「あの空間に居た“その他”の部類…人形か。貴様は人語が理解でき、話すことができるのか?」
「質問をしているのは私なんだけどぉ。まくの、まかないの?」

一方水銀燈は外面的には冷静であるが、内心では一欠けらの動揺もみせない相手にやや驚愕していた。
こちらが銃の引き金をワンプッシュするだけで自分は死ぬ。そのことは理解できているはずなのに、なぜああも落ち着いていられるのか。
通常であれば武器を構え戦闘態勢に入るとか、即座に逃げるとか、腰を抜かしたり恐怖に声を震わしたりするはずだ。

「まく、まかない。この二つの言語にいったいどういう意味がある?」
「つまり貴方が私を欲するか欲さないか、ということよおばかさぁん」
「なるほどな。ならばわたしは、『まく』方を選択しよう」

水銀燈の質問に対して、良子が決断するのに僅か一秒も掛からなかった。
わざわざ銃を突きつけるという脅迫的行為をしてまで質問してくるということは、相手は二つの選択肢のどちらか一方を望んでいるということになる。
相手の望みが後者であるならば問い掛けたところで無意味。ならば前者の回答を、つまり協力者を求めていると判断したのだ。
無論、こんな回りくどいことをしなくとも、研究熱心な良子は相手の欲求に応えるつもりでいたが。

「随分簡単ねぇ。いいのかしらぁ、そんなにあっさり決めちゃって…」
「ただし条件がある」
「なぁに?」
「貴様らの情報が欲しい」
「それだけでいいのぉ?」
「ああ」
「ふぅん……」

あまりにも淡白な様子を怪訝に思いながらも、目標に照らし合わせていた銃口を慎重に降ろす。
何か企んでいるのか、それともただ単に深く思慮しない性格というだけなのか。
いずれにせよ、水銀燈は良子に対しても常に警戒しておく必要があると考えた。

「それじゃあ早速質問させてもらうが…」

良子は、やはり真剣な面持ちを貼り付けたまま、一つの質問をぶつけた。

「貴様らが人間や我々とセックスをしたらどうなる?」


【C-5 森 / 深夜】
【田宮良子@寄生獣(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式 未確認(1~3)
[状態]健康
[思考・行動]
1水銀燈や『その他』、『痛がり屋』でないものの観察
2首輪のサンプルを入手する(死体からか、生きた人間からかは未定)
3首輪を解除した後に主催者を食う(ゲームに乗るか否かは未定)

【水銀燈@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]S&W M36
[支給品]支給品一式 未確認(1~3)
[状態]健康
[思考・行動]
1………。
2自分以外の全ての人間を殺し優勝する


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最終更新:2010年02月01日 23:54