「……なあ、おまえ、その格好どうにかなんないの?」
魔がさした、と言っていい。
その日、俺はまた必要もないのに我が家の兄妹間における暗黙のルールを破っちまった。
しかも、よりによって地区を代表するアスリートであり、読者モデルとしてティーン誌で活躍し、
学業も全国レベルという、我が家のやんごとなき妹様に不遜にも意見するような事を言っちまったのだ。
クイックイッ。
妹に指で呼びつけられる。はいはい。今回は自業自得と諦めるしかねえ。
俺は妹に指で指示されるまま、お馴染み罪人ポジションに腰を下ろす。
すると制服のミニスカートからにょっきり伸びた妹のふとももが目に前に現れたので、
俺はあわてて視線をそらす。くっ……このポジションも問題なんだよな……
俺の座りがよくなるのを待ってたかのように、頭の上からコホンと妹の咳払いが聞こえる。
「で。どうにかなんないかってどういう意味?」
すぐさま妹の詰問が始まった。
「その格好ってどの格好?」
俺が答えないと、さらに質問をかぶせてくる。わかったよ、答えるからちょっと待てって。
「その制服……だよ。家に帰ってきたら、とっとと着替えろよ」
「ハァ~~ア?」
あからさまに大袈裟な芝居がかった声を出す妹。おまえ、もしかして楽しんでね?
「学校でも文句言われない格好なのに、なんで家で文句言われちゃうわけ?」
そりゃあ、家と学校じゃ色々違うからだよ。
「黙ってないで答えて。なんで制服に文句つけるのか」
くそっ。もういいじゃんか。なんでそんなにこだわるんだよ。
「なんで、家で制服着てちゃだめなの? なんでそんなことにこだわるのかって聞いてるの」
ぐわっ……。俺の方がこだわってる事にされちゃったよ。まあ、実際そうなんだけど……
「じゃあ、何か……お前は、学校でもそんな風にしてんのかよ」
俺は仕方なく遠まわしに話をはじめた。
「そんな風?」
「その……椅子にふんぞり返ったりさ」
「ハァ? わけわかんないんだけど。 自分の家でリラックスしちゃいけないっての?」
「そ、そんなこと言ってねえだろ! ただ、人目を気にしろって言ってんだろが!」
俺は苛っとして声を荒立てる。が妹はまったくひるむ様子なく落ち着いたトーンで言い返す。
「家の中で人目を気にしろとかマジ意味わかんない。それに、なに感情的になっちゃってんの?」
確かにこんなつまんない事で感情的になってる俺の方がおかしい。
後で思い返すとそんなふうにも思えるのだが、その時の俺は実際感情的になっていたのだ。
「だから! そんな短いスカートでふんぞり返ったりするなって言ってんだよ!」
「だ~か~ら~、なんでそれが悪いのかって聞いてるんですけど?」
淡々とした妹の態度に反比例するように、俺はますます感情的になっていく。
そしてついストレートに言っちまったのだ。
「見えるんだよ! 下着が! キモイんだよ、そんなものチラチラさせられるとさ!」
くそ。こんなこと言ったら、まるで俺が妹の下着をいつも気にしてる変態野郎みたいじゃねえか……
でも、家族のそういうのって、本当にキモイんだよ。見せられたってカケラも嬉しくねえんだ。もうなんか、
ムズムズするだけっていうか……毎度ワンパターンで申し訳ないが、この感覚、
姉や妹がいる奴ならわかってくれるよな?
「よーくわかったわ。変態シスコン兄貴の変態的視線のせいで、哀れな妹は、家の中でも
リラックスできないってことよね」
「全然わかってねえっ!!」
くそう。なんか知らんが長年の努力が実った成功者みたいな会心の笑顔で勝ち誇ってやがる……
「ハァ……いつも私のひざこぞうの高さに目線を合わせて座り込むと思ったら、そういう魂胆だったワケ」
「いや、おまえだろ!? いつもこのポジションを強要してくるのはよ!」
これは確実にいいがかりだっ!
「でも、見てたんでしょ? 私のパンツ」
「見たくてみたんじゃねえよ!」
「あーあ。妹のパンチラに興奮するなんて、あんたとことん変態シスコン野郎ね……」
「だから興奮なんてしてねえっ! キモイって言ってんだよ!」
この妹は、まったく……人の話なんて聞いちゃいねえ。いい。もう知らね。なんとでも好きにいいやがれ、こん畜生。
「……いいわ。じゃあ、本当に興奮してたんじゃないって証明できる?」
勝手に言ってろって気分でこの場を退散しようかと立ち上がりかけた俺に、桐乃が突然そんなことを言い出した。
「あ? 証明?」
すると突然、桐乃はそれまでの冷静な感じとはうってかわって、激しく言葉をまくしたてる。
「そ、そう。あんたが……その……本当に私の下着とか……見て、興奮しないかどうかの証明! だ、だって、
あんたこないだも私のトイレ覗いたじゃん? あんたが妹に欲情する変態じゃないって証明されなきゃ、
私安心してこの家で暮らせないって言ってるの!」
「あ、あれは事故だろっ!」
それにお前だって、俺の見せろって言ってきたじゃん。それを言うなら俺だって言いたい事はあるぞ。
……まあ、言わないけどさ。
「へん、じゃあ、安心して暮らせなきゃどうするってんだよ」
ここらで少し強気に出てみる。このままじゃ、いいようにからかわれ続けるだけだ。
「もちろん、お父さんに言ってどうにかしてもらう」
つまり、家を出てけって事ですね。けっ、かまわねえよ。そしたら田村さん家の子にしてもらうから!
俺は毅然とした態度で妹に言い放った。
「……で、証明って何すりゃいいんだよ」
くそったれめ。
「ふふん、そうね……」
妹はソファから立ち上がり、俺のすぐそばまで寄ってくる。そしてとんでも無い言葉を放つ。
「アンタ、わたしのスカート、めくってみなさいよ」
「おまえは、バカか!」
最近、こいつ時々、ほんとにバカになってねえか? それとも単にからかってんのか?
「バ、……バカはアンタでしょ! アンタは妹の下着なんか興味ないんでしょ。
ならこれくらい、なんのためらいもなく出来るはずじゃん?」
……いやいや、どう考えてもおかしいだろ、その理屈。それじゃあ、世の兄貴連中は、
挨拶がわりに妹のスカートめくりまくってるって言うのかよ。
「あのなあ……そんなこと、出来わけねえだろが。 けっ、そんなにめくりたきゃ、自分でめくりやがれ」
俺はあきれて物が言えないという感じで両手を広げたポーズをとる。
「ハァ? なに、あんた妹にたくし上げ要求してんの? もう押しも押されもしないエロゲオタね」
「違うわっ!」
なんだよ、押しも押されもしないエロゲオタって。
「まあ、いいわ。そこまで言うならやったげる」
そう言って制服の短いスカートの裾に手を添える妹に、大慌てで制止を呼びかける。
「お、おいバカ! やめろ、バカなことすんな!」
「……なによ。あんたがやれって言ったんでしょ?」
「今はやめろって言ってんだよ!」
「いいじゃん。あんた、こないだ、私の具まで見たじゃん。いまさら下着くらいで慌てる事ないでしょ」
「ば、バカ! 具なんて見てねえよ!」
具って! どうせネットかエロ同人誌で覚えたんだろうが、こいつ、具の意味間違って覚えてやがるな?
いいか桐乃、具ってのはなあ……って、説明できるか!
「なに? 興味ないなら、目をそらせばいいだけじゃん」
「そういう問題じゃねえ!」
だから、それが出来れば苦労しないっての! ああ、もう! 何なんだよ、この会話はいったい!?
「あのね。言っとくけどね。あんたのシスコンが発覚した時から、視姦されたり着替え覗かれてオカズに
されることくらい、とっくに覚悟してんの。正直に興奮してたって言えば? そうしたらやめたげる」
「してねーよ! するわけねーだろ! 俺をなんだと思ってんだよ!」
「変態と思ってるに決まってんじゃん」
……即答しやがった。
そりゃ、こないだの時は久しぶりに夢精しちまって大変だったが……あれはオカズにしたのとは違うよな!?
桐乃は変態と言っただけでは収まらないとばかりに、さらに俺を糾弾する。
「だ、だって! ノーパソ貸したら猿みたいにエロサイト検索するし……あ、あんなキーワードで検索するし!」
ぐぅ……! そっちか……
それを言われると辛い。もしかして、こんな誤解されるのも、あの事が尾をひいてるのか?
大人びた容姿とか、趣味がエロゲとかだからつい忘れがちだけど、
こいつまだ十四歳の女子中学生なんだよな。あれからノーパソも持ち出させないし。
本気でショックだったのかもしれないなあ。だってこいつ、よく見ると今も、半分涙目だもん……
よ、よし。俺は決意を胸に立ち上がった。
「わかった……。よし、じゃあ、俺がめくってやる!」
「……え?」
桐乃が豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
「なんだよ、自分で言い出しておいてその顔は。俺がおまえのスカートめくってやるって言ってんだよ!
そんで、俺が妹の裸や下着やふとももなんかじゃ一切興奮しない健全な兄貴だって証明してやる!
そしたらおまえも安心だろ?」
「う……うん。それは、そうだけど……」
このやりとりもやっぱりおかしいのだが、この時俺はテンパりすぎててそんな事に気づく余裕はなかった。
「じゃ、じゃあ、いくぞ」
「う、うん……」
そして俺は、生まれて初めて女の子の……もとい、妹のスカートに意識的に手をかける。
だ、だめだ。心臓がバクバクしてやがる。桐乃の表情を伺おうとも思ったが、とても直視できん。
「ね、ねえ……」
震えているような妹の声に、薄目で妹の顔を見る。そこには紅潮した頬。潤んだ瞳。
いつかの嘘告白で俺をからかった時と同じ感じ。しかし、それを見た俺は、またからかわれてると疑うよりも、
素直にその妹の反応を……
……え? 素直に、何? いったい俺は何を考えてるんだ?
そんな迷宮を彷徨うような俺の思考は桐乃の呼びかけによって引き戻される。
「あ、兄貴。あのね……」
少し艶みを帯びた妹の声。
「な、なんだ……?」
ゴクリと生唾を飲み込む俺。
「その……
お願い。やさしく……して?」
ドクンッ! 心臓が早鐘を叩くように激しく鳴り響く。全身の血が沸騰し、頬がかっかと燃え上がる。
「あ、ああ。わかってる」
そうは言ったものの、俺の頭はその時なにもわからなくなっていた。
「いくぞ……桐乃」
「う、うん」
ス――ッ 音も立てず静かに俺の腕が持ち上がる。ほんのかすかな重みでスカートが持ち上がってるのを感じる。
クッ。
すこし手にかかる抵抗が強まった。角度的にもう俺の手は桐乃の腰のあたりより高くなっているはず。
もはや下着は丸見え、下手をすると下腹のあたりまでめくりあがってるかもしれない。
「……」
「……」
二人ともしばし無言。先に口を開いたのは桐乃だった。
「あ、兄貴。み、見てる?」
「ば、バカ! 見てるわけねーだろ?」
俺はしっかりと目をつぶっていた。それがわからなかったと言う事は桐乃の奴も目をつぶっているのだろうか。
「バ、バカはどっち!? み、見なきゃ意味ないじゃん」
「そんな事言ったって、おまえ!」
む、無理。なんだかわかんないけど、これ以上は絶対無理!
そんな風に二人してテンパっていたから、ほかの事なんて一切、耳に入ってこなかったのだ。
そう、家の扉が開く音も、リビングのドアノブがガチャリと回される音も――――
「ふう~疲れたわ~。なんだ誰もいないかと思ったら二人ともいるんじゃない。……って、きょ、京介!」
「え……? な、なんだおふくろか。お、お帰り」
助かった。これでこの心臓に悪いイベントも終了だ。その時の俺は間抜けにもそんな安堵の表情で、母親を見た。
「おふくろじゃないでしょ! あ、あんた妹にいったい何してんのよ!」
「え? 何って……」
そこでようやく我に返る俺。正面をみると、直立不動、顔を真っ赤にして目をキュッと閉じ、まったくの無抵抗で
スカートをめくりあげられている妹。そして、それをめくりあげているのは……
ええっ!? お、俺の手?
「う、うわああああっ!」
あわててその場を飛び退る俺。その俺の叫び声に、きょとんとした顔で驚く桐乃。
そして、驚きの表情からまたたく間に怒りの形相へと変わる母親……
「きょ、京介……あんたって子は……」
こええ。こんな恐ろしいおふくろの顔見るの、小学生の頃以来だ。
「ち、違っ! ご、誤解だ、誤解なんだ。なあ、桐乃?」
「……ふぇ?」
だめだ。コイツ。呆けてやがる。
「どういう風に誤解だっていうの? 妹に破廉恥なことして、妹泣かして!」
「いや、本当に誤解なんだ。話を、話を聞いてくれ!」
いつも泣かされてるのはこっちだっての! くぅうう~~~っ!
「……で、最初から話してもらいましょうか。どうしてこんな事になったわけ?」
「そ、それはだな。えーと……」
しまった。落ち着いて話せば誤解は解けると思ったのだが、考えたら誤解部分があまりない。
(妹のだらしない格好を注意してたらスカートめくりあげることになってしまいました)
……だめだ。こんなわけがわからない話、信じてもらえるわけがねえ。
「桐乃、あんたは自分の部屋へ戻ってなさい。あんたにはあとで話聞くから」
げ。さすが刑事の妻。尋問の仕方がわかってる。これで口裏合わせを出来なくなっちまった。
もっともあの妹が俺に協力して合わせてくれるとは限らないわけだが。
桐乃が素直に母親の言葉に従いリビングから出て行くと、ついに俺への尋問がはじまった。
「あんたくらいの年頃の子が、女の子に興味持つのは当然だわ。で、家の中に桐乃みたいな見てくれの子がいたら、
そりゃ、いろいろ考えちゃうのも無理はないのかもしれない。でもね、妹なのよ? ゲームじゃなくて、本物の妹よ?」
「わ、わかってるって。あたりまえだろ」
なぜか、そう答える俺の言葉は自分でもそれとわかるくらい弱々しかった。
ところで、俺がエロゲやってる話、きちんとおふくろまで伝わってたのな。突っ込まないけどさ。
「じゃあ、どうしてあんなことしたの? それに、なんで桐乃は素直にされるがままになってたのよ?」
「……」
なんて答えていいのかわからなかった。実際、本当に俺自身、なんでこんな事になってしまったのかよく
わからなくなっちまってたからだ。
「ねえ、京介。まさかとは思うけど、あんた桐乃を……その……」
お、おい。おふくろ。いったい何を言うつもりなんだよ。そんなわけないだろ。ありえないだろ。
ば、馬鹿なことを口にするのはやめてくれ……!
「あんた、桐乃の弱みでも握って、それであの子を脅かしてたりしないでしょうね?」
「してねえよっ!」
俺は身を乗り出して否定した。弱み握られてるのはむしろ俺の方だっての!
「そ、そう? そりゃ母さんもあんたがそんな事する子とは思ってないけどさ……」
ほんとかよ。思ってなくて、なんでそんな思いつきが出てくるんだよ。実の親からそんな目でみられてたなんて泣きたいよ。
「じゃ、じゃあなんで桐乃はおとなしく、あんたにあんなことされてたわけ? 母さんが納得できるよう説明してよ~」
おふくろはおふくろで、今にも泣き出しそうな声でそう言った。
「……」
結局、再び答えに窮する俺。まるでいたずらを見つかって叱られているガキみたく、口を真一文字にして黙り込む。
まあ、みたいってより、まさにそのままいたずらを見つかって叱られているようなものなんだけど。
「ねえ、ちゃんと答えてくんない? でないとお父さんに相談しないとならなくなるわ」
親父に言いつける。
これは、俺がガキの頃からの母親の切り札だ。俺はこの方法でなんども口を割らされてきた。そしてその方法は
今の俺にもそれなりに有効なのだ。
「ゲ……ゲームだよ」
「ゲーム?」
「ああ。お、王様ゲームってあるだろ? あんな感じの奴……で、スカートめくらせろって言ったら
桐乃の奴、降参するかと思ったら、そっちこそそんな事できるのか、みたいな感じになって……」
そんな嘘の言い訳をしながら、俺はとてつもない罪悪感にみまわれていた。
なんなのだろう、この罪悪感は。この罪悪感は、『誰』に対しての物なのだろう。
「……はあ、あきれた。まあ、リビングでやってたくらいだから? そんな怪しいものじゃないとは思ってたけど」
意外にもおふくろは、簡単に俺の話に納得した。もしかすると納得したふりをしてるのかもしれないし、
本当に納得してしまってるのかもしれない。おふくろにしたって、妹を脅して悪戯するような息子は望んでいないはずだ。
だから、それを合理的に否定してくれる言葉なら素直に信じてしまえるのではないだろうか。
今の俺にはそういうことがよくわかる。なぜわかるのかは判らないけど、なぜかわかるのだ。
「でも、今後、こんな馬鹿な事はしないでよね。あんただって、いつムラムラってくるかわかんないでしょ?」
「こねえよ! 妹だぞ!」
チクリ。再びわきあがるもやもやとした罪悪感。
「ま、いいわ。じゃあ、桐乃を呼んで来て。一応、あの子からも話聞いておきたいから」
「え……?」
そうだった。この尋問は口裏合わせが出来ないようになっていたのだ。
もっとも、俺に桐乃を呼びにいかせたところを見ると、おふくろの方にはそんなつもりないのかもだが……
「おい、桐乃。おふくろが呼んでる」
妹の部屋をノックすると、珍しく静かに扉が開いた。
「……」
無言で出てくる妹。そして俺の方を、何か言う事はないのかと言った風な様子で伺う。
……王様ゲームで意地張り合った結果だって言っておいたから。
そう伝えて口裏を合わせるよう言おうかと一瞬思ったが、結局それを口にすることはできなかった。
さっきから感じているもやもやした物がそれを邪魔したのだ。
桐乃がおふくろにどんな風に話すのか。その結果、俺の嘘がばれるのか。
そんなことは、とりあえずどうでもよくなってしまうくらい、このもやもやの正体が気になって仕方がない俺だった。
結局、その日の夕食ではこの話は出なかった。どうやら親父まで話が行くことは無かったらしい。
しかし、夕飯の後、部屋に戻ろうとする俺はおふくろに呼び止められた。おふくろは上機嫌でけらけら笑いながら言った。
「あんたね。三つも下の妹に、いいようにからかわれないようにしなさいよ。まったく、だらしないわねえ」
おふくろの言ってる意味はよくわからなかったが、どうやら桐乃はうまくごまかしたらしい。
「あ、ああ。面目ねえ」
ひきつった作り笑いを浮かべて、そう返事をして俺はその場を後にした。
「桐乃、おまえおふくろにどういう風に話したんだよ?」
次の日の朝、今から登校しようとしている妹と玄関で顔を合わせた俺はそう尋ねた。
「ハァ? そのまま話したに決まってんじゃん」
妹が言うには、別々に問いただされるあの状況で嘘をついてもすぐばれるだろと言う事だった。
「私はあんたが下手な言い訳でもして口裏あわせてくれと泣きついてくるかと思ってたんだけどね~」
何も言わなかったから、俺もそのまま話したのだろうと桐乃は思ったようだ。
でも、あの時の事をそのまま話して、おふくろがあんなにすっきり納得するものなのかね……?
ま、いっか。とりあえず丸く収まったものを下手に掻き乱す必要はねえ。
そう思ってその場を去ろうとしたのだが、妹に呼び止められた。
「……アンタにひとつだけ言っておく事があるんだけど」
うっ、なんか嫌な予感。まさか、また人生相談か?
するとおもむろに、桐乃は自分でスカートのすそをひらりとまくってみせた。
「お、おまっ!」
しかし、スカートの下にちらりと見えたのは黒い少し厚めの生地の物で、下着とは少し違っていたようだった。
「……私、学校じゃ見られても大丈夫なの穿いてるから」
は? 俺は一瞬、桐乃が何の話をしているかわからなかった。
「ア、アンタが何か気にしてたみたいだからさ。そんだけ」
そういうと桐乃はさっさと家を出て行った。
「……見られても大丈夫? いわゆる見せパンってやつか? でもなんで突然……?」
俺は朝食を食べ終わり、これから家を出ようかという段になって、ようやく昨日、自分が桐乃に言った事を思い出した。
『お前は、学校でもそんな風にしてんのかよ』
『その……椅子にふんぞり返ったりさ』
ふん。あいつ、何か
勘違いしやがったな。誰もそんな事、気にしてねえっつーの。
家を出て少し歩くと、いつもの場所で幼馴染が待っていた。
「おはよ、きょうちゃん。……あれ? どうしたの? 朝からニヤニヤしちゃって」
最終更新:2025年04月26日 23:16