最近、なんかあたしは変だ。特に、アイツ、あたしの兄貴のことを何故か意識してしまう。
確かに、兄貴は…その、まぁ、優しいし…。何だかんだいっても頼りになるし、…って、これじゃホントに兄貴のこと好きみたいじゃん⁉
でも、アイツは何もあたしに対して意識してないと思う。それが、なんか、嫌だ。
あたしはもしかして、兄貴のことが好きなんだろうか?
ある日のこと。
学校の休み時間にあやせが話しかけてきた。
「桐乃はさぁ、好きな男のタイプはどんな感じ?」
いきなりなんなんだよ、
あやせさん。唐突すぎるよ…。
「えっ?好きなタイプ?」
「うん。桐乃はスゴくモテるのになんで誰とも付き合わないのかな、って思って」
「なんで、って言われてもな…」
正直、告ってくれるのは嬉しいけど何か物足りないんだよね。
例えば、そう___、
「優しさといかにあたしを見てくれているか、だなぁ」
「優しさはわかるけど、見てくれているかって?」
「いや、告ってくれたのはさ、みんなきっと外見だけとかだと思うんだ。
あやせは知ってるけど、趣味も趣味だし、自分でも自己中だとわかってる」
「つまり、本当に素の自分をわかってくれて護ってくれる人ってこと?」
「そうそう。まぁ、強いていうなら兄貴みたいな?……じ、じじじじじゃなくって‼
その、あの、ま、まだわかんないや‼アハ、アハハ、アハハハハハ‼」
やっばい!墓穴掘った‼
あやせの目が怖い‼つい本音が出ちゃったよ、ゴマかしきれなかったし‼
あやせが怖いぃ‼
「桐乃。もしかして、お兄「無いよ?何にもやましい関係は無いです‼意識してなんかないよ、アイツのことなんか‼」
あやせさん?目が、光を、失いかけてますよ?
「マジでっ‼ホントにっ‼大丈夫だからっ‼
心配してくれてありがと、あやせ」
そう言うとあやせは心配そうにあたしの方を向いた。
「そっか。わかった、信じるよ。
でもね、桐乃。兄妹で恋愛は無理だってこと、わかってるでしょ?」
それを聞いたら胸が痛くなった。
…今のやりとりで気づいたけどあたしは、多分…兄貴のことが好きだ。
でも、目の前にいるあやせは叶わぬ恋だと暗黙に語っている。
それじゃあ、
あたしは、
兄貴のこと、好きになっちゃいけないの?
「うん、わかってる…。ありがと、あやせ」
胸が痛い。
「ちゃんとお兄さんに言っておいてあけるからね」
やめてほしい、言わないで欲しい。
「ありがとう……」
素直になれない自分が嫌だった。兄貴のこと、好きになっちゃいけないってわかってるのに諦めきれない。
諦めきれないのに、あやせを通じて兄貴に負担を掛けてる。こんなんじゃ、兄貴に嫌われるだけ。
こんなベタな恋愛感情抱くなんて思ってもみなかったけど。やっぱりあたしは、兄貴が好きだ。
そんな想いを胸に抱いてあたしは家に帰った。
しかし、その晩兄貴は帰って来なかった。
心配でたまらない。
お父さんが携帯にかけても出なくて、仕方が無いから待つことになった。
そんな中、お父さんの携帯に電話が来たのが夜の9時過ぎのこと。
お父さんの顔が険しい。
絶対何かあったんだ、と思わずにはいられなかった。
電話が終わる。
お父さんが口を開いた。
「警察からだ。京介は通学路の途中で意識不明で発見されたそうだ。
打撲痕があるらしく、争いに巻き込まれた可能性が高い」
目の前が真っ暗になった気がした。なぜ、兄貴が?という思いで一杯だった。
「現在病院だ。桐乃はもう寝ろ。母さんと2人で行ってくる」
そんなの我慢できなかった。あの兄貴のことだから、誰かを庇ったんだろうってわかった。
「……、あたしも、行く」
それしか考えられなかった。
「聞こえなかったか?桐乃、家に居ろ」
「聞こえた上で言ってるし」
「何を思っているか知らないが、寝てろ。行ってもお前は何もできない」
確かだと思った。あたしがいても何もできない。そんなこと、十分わかってる。
その時だった。
家の呼び鈴が鳴った。
玄関の前に立っていたのは地味子だった。
顔をくしゃくしゃにして泣いている。
お母さんがそれを見て、
「どうしたの⁉何かあったの⁉」
と話しかけた。
地味子は泣いているだけ、何がしたいんだろうか。
そこにお父さんも来た。
「……、話を聞こうか」
意味がわからない。
「話って、今は兄貴を最優先にするべきじゃないの⁉」
沈黙。
「ねぇ、黙ってないで早く病院にっ‼」
また沈黙。
「桐乃ちゃん…」
地味子が口を開いた。
「…なに?」
「きょうちゃんはね、私を、かばっ、てっ‼」
地味子を庇って…?
「不良みたいな人、5人くらいに囲まれてバットとかで殴られてぇ、、、。私が逃げる時間を…」
「ふざけんな‼‼‼」
気付いたら私は地味子の胸ぐらを掴んでいた。
「なんで‼どうして兄貴があんたの代わりに苦しまなきゃいけないの⁉」
「桐乃‼いい加減にしろ‼」
バチン、と音をたててお父さんがあたしの顔をビンタした。
「……、とりあえず部屋に入ってくれ」
その間、地味子はずっと泣いているだけだった。
話の内容はこうだった。
地味子か兄貴より先に帰ることになって、歩いていたら不良に絡まれてしばらくもみ合いになってたら
兄貴が来て、逃げさせてくれたらしい。
とりあえず、全員で病院に行くことになった。
もちろん、お父さんは納得しなかったけどお母さんが説得してくれたおかげだ。
病室に入る。
たくさん点滴や医療用機械に繋がれている兄貴を見ていることなんてできなかった。
先生が来る。
脳内出血があったらしく、危険だったらしいけど今は安定しているらしい。
意識ももうすぐ回復するらしいし。
なんとか一安心かな。
今日は兄貴のそばで寝よう。
そう思ってベッドの隣の椅子に腰を掛けた。
「おやすみ…、兄貴…」
随分と硬いベッドだな___。
そう思って目を覚ますとそこは病室だった。
そうか、昨日兄貴が…。
そう思うと地味子への憤り、兄貴への心配する気持ち。
そして、よくわからない恋心が湧いてきた。
病室の時計は朝6時を指していた。朝日が眩しく感じる。
「んっ……、」
少しうめき声のような兄貴の声で改めて目が覚めた。この病室にはあたししかいない。
「兄貴…?起きたの?どこか痛い?」
あたしがそう聞くと、眠そうに目をこすって兄貴が応えた。
「桐乃か…?心配かけてすまないな…。麻奈実は無事か…?」
なんで?どうしてそこで地味子が?
自分の身体はいいの?
第一、泣くことしかできなかった奴なのに。
「…桐乃?」
「あんた、今の体調は?」
「まぁ、今のところは大丈夫だが」
「じゃあさぁ、」
ここでキッパリ言ってやらなきゃ。
あたしの好きな人を守るために。
「二度と地味子、いや、田村麻奈実に会わないで。ってか、会わせない」
検査も終わって兄貴が退院する日が来た。すっごく嬉しい。もちろん兄貴には言わないけど。
今回の一件以降、地味子には会ってない。元から会いたくもないしね。
面会謝絶を受付にも
お願いしておいた。あたしがモデルだって気づいたみたいで適当に服をあげたら了解してくれた。
携帯に表示された時刻は10時30分。
もうすぐかな。早く会いたい。
兄貴が来た‼あたしの好きな人が‼
もう隠さない。兄貴はあたしの好きな人だから。
あやせが何言おうと自由。勝手にすればいい。
近親相姦?
あたしは全然OK。むしろ嬉しいかな。
お互いに助け合って生きていく、それが理想。
だから兄貴を傷つけないし、兄貴もあたしを守る。これでいい。
だからあたしは地味子にはそれ相応のものを…ね。
「なんでかなぁ…」
俺は数日間の入院生活のあと無事後遺症もなく帰宅したわけだが。
今のところおかしいところが3つ。
1つめ。
桐乃が異常に優しい。
いや、あれは尋常じゃないぞ⁉「お前はメイドかっ⁉」って程に尽くしてくれる。
このなりきりメイド生活が終わったらどうなるのか。
想像してみてくれよ…。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「兄貴?あたしさぁ、あれだけ尽くしたじゃん?
あたしはそれに対して代償を要求する‼
というわけで新発売のエロゲの為に徹夜しなさい‼」
「いや、あれはお前が勝手に…」
「何か言った?カリビアンk…「俺に任せるんだ‼桐乃‼」
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い、嫌だ。そんなのあんまりだ。これはエロゲの為の演技かよっ?
あぁ、おぞましい。
よそう、考えない方向で行こう。それがきっと最善だ。
2つめ。
麻奈実がな?俺を避けてる感じがするんだよ。
いや、会いに来てほしいってわけじゃないぞ?うん、本当だ。
会いに来てくれるでもなく、電話もない。かけても着信拒否だぞ?お前はあやせか、ってな。
んでもって、メアドまで変えてる。
どういうことだ?
……あれか?責任感じて気まずいってやつか?
だったら誤解を解いておこう。
最後、3つめ。
あのマイエンジェルあやせたんが俺に電話をくれたんだ‼
きっと心配してくれたんだろうなぁ。
ん、でもなんか、驚いてたんだよなぁ。
まあいいか。とにかく嬉しいしな。
自己満足な解決だけどとにかく麻奈実からだな。
兄貴が地味子を心配するのはわかってたけど。
クソムカつく。
思い知らせる必要があるよね。
吐き気がする程いやだけど地味子に電話。
「もしもしぃ?桐乃ちゃん?」
何事もなかったかのように振る舞いやがって。イライラが募る。
「あんたさぁ、兄貴を傷つけたことわかってんの?」
「っ…!」
「はぁ。とりあえずあの公園に来て、5分以内で」
そう言い捨てて切った。
何か後ろでいろいろ言ってたけど別にいいや。
遅れたら承知しないんだし。
ギリギリで地味子が来た。
「はぁ、はぁ、桐、乃ちゃ、ん。さすがに5分は、キツ、い…」
「だから?兄貴はもっときつかったと思うけど」
「だって‼」
「待ちなよ。だからあたしが許してあげようと思ってね」
「ホント?」
一気に明るくなりやがってさぁ。反吐が出そう。
「条件があるんだけどさぁ」
「じょーけん?何かな?」
「うん。二度と兄貴に関わらないで。それを約束してくれたら許す」
「なっ⁉」
あーあ、驚いてるよ。ざまぁww
「会うのも、電話も、メールも。全部ダメ。それができなきゃあのチンピラ共はあんたの差し金ってことにするから」
「そ、そんなことできるわけないじゃん!第一、きょうちゃんは信じないよ?」
「別に兄貴に信じてもらう必要なんてないし。警察に信じてもらえばあんたは逮捕。それでいいから」
「そんなの、あんまり、だよぅ…」
疲れたなぁ、兄貴に会いたい。時間で締め切るか。
「5」
「ふぇっ⁉桐乃ちゃん?」
「4」
「そんな急になんてっ‼」
「3」
「…」
「2」
「っ…‼」
「1」
「わかった!わかったよ…‼もう、近づかないからぁ‼」
「ふーん、結局最後は自分自身を大切にするんだぁ」
嫌味を言ってみる。気持ち悪く泣き出してるよww
「まあ、許すよ。じゃあね」
頭の中は兄貴に会いたい、それ一色だった。
「使えない男共ですね……‼」
1人の部屋でその声が響く。
桐乃がお兄さんに惚れてるのはわかってた。でも私は桐乃が好きだから。っていうとお兄さんを消すしかないですよね?
その為に適当にゴツい男共を動かしたのに‼
詰めが甘かったんですかね?
あの人は普通に電話に出た。
考えられなかった。
計画が狂ったのだ。私の計画は、
桐乃、お兄さんを失う
↓
私、そばで心のケア
↓
桐乃、私への依存
↓
両想い‼
だったのに。出だしからダメだ。
どうすればいいのかな、そう思った私はお姉さんに電話をした。
これでやる事は全部やった。
ようやく普通に戻れるよ…。
兄貴のことだから、いらない心配したんだろうなぁ。このシスコンめっ‼でも、嬉しいかな。
さぁ。いつも通りに戻ろう。
桐乃のなりきりメイド生活が終了したっ…。なっ⁉ざ、残念なんかじゃねーぞ⁉別に普通でいいし…。
今度はまた例のオタク仲間で集まるそうだ。まぁ、俺も強制参加だけどな?
しばらくあいつらにも会わなかったからな、元気にやってるかな?
そう思って携帯を眺めていると突然部屋のドアが開いた。
「誰だっ‼他人の部屋に入る時くらいノックしやがれっ!」
「あたしよあたし。読モもやってるスーパー美少女の妹様よ」
なんだこいつ…?テンション高いくねぇか?
「はいはい、妹様。何かご用ですかね?」
「き、今日はね、その、えと、」
なにどもってるんだかね。
「今日はね!彼女もいなくて可哀想なあんたを救う為にあたしの買い物に付き合わさせてあげる‼」
「……、アキバか?」
「違うし‼なんでそうなるよ?だからぁ、普通の女の子の買い物だし」
なんで?なんでこいつの買い物に俺が?どうせ荷物持ちだろ?『バカ兄貴、歩いてるだけじゃなくてあたしの荷物持ってよ』ってな?
「どうすんの?行くでしょ?」
「行くったって荷物持ちだろ?それならなぁ…」
「荷物持ちさせないから!早く!行くよ‼」
「あっ、こら!引っ張るな!」
やけに嬉しそうな桐乃の横顔を見ながら溜息をついた。
ホントは買う物なんて無かったんだけどね?
なんとなく兄貴とデートみたいなのがしたかったから。
それにしても、あたしと出かける=荷物持ち って…。
これからは気をつけなきゃね。
電車に乗って、この前取材した渋谷に来た。この都会の喧騒は結構好きだな。
手始めに109に行くことにした。
「なぁ桐乃」
「ん?なに?」
「俺は何の為に渋谷にいるんだ?そして、こんなに恥ずかしいところに俺を連れてくるか?」
そう、今あたしたちがいるところには基本的に男はいない。
どこだかは察してみて。
「大丈夫、あたしがいるから。大船にのったつもりでいれば?」
「確かに帰るにも帰れないしな。泥船にのったつもりでいるか…」
あたしってそんなに信用ないかな?
適当に買い物をすませて外に出た。そろそろ昼どきかな?
「桐乃、メシにしようぜ?」
「いいけど、行くあてはあるの?」
「フッ、俺をなめるなよ?お前が買い物に熱中してるあいだに携帯で調べておいたのだ‼」
「ふーん、で?」
「なっ、それだけかよ?さすがお兄ちゃん‼、くらい言えや‼」
「どこにあるの?」
「無視か…、まあいいや、こっちだよ」
ホントは言ってあげても良かったけどね?さすがにあそこじゃ恥ずかしいし…。
「あんたさぁ、ここファミレスじゃん」
失望した、マジで。
ちょっと期待してたあたしがバカだった。こいつじゃ無理なんだよ。
「ファミレス?まさか、違うだろ?」
「調べたサイト、出してみて」
兄貴の携帯を取る。
ラストURLからそれらしきサイトを開くとしっかり「ファミリーレストラン」と書かれていた。
「これ、なんて書いてある?」
「ファミリー……レストラン………」
「つまりここは?」
「ファミレス…。すまん、桐乃…」
「まぁ、あんたにしては気が利いたと思うから許すよ。お腹空いたから、かわりに奢ってよ?」
「お、おぅ!任せろ」
店内に入る。あたしたちカップルって思われてるかな?
店員さんに席に案内されて適当に注文を済ませようとした。
そしたら店員さんが
「現在カップル限定メニューがございまして、お互いにパフェを食べさせてあげていただいて、その写真を記念に撮って差し上げる、というものなのですがいかがですか?」
と。
店員さん、GJ!!!!!!!!!!111111
「下さい、それ。絶対」
兄貴が何かいいかけてるけど一切無視。
「分かりました。それではお食事のあとにお持ちします」
やった!ついにあたしにチャンスがやってきた!
「桐乃…、いいのかよ?俺だぞ?」
「別にいいし。あんたはシスコンなんだから写真だって記念になるでしょ?」
「お前がいいならいいけどさ」
そう、あたしがしたいからいいの。楽しみだよぉ‼
ついにパフェがやってきた。
「それではお互いにアーンをしてあげて下さい!」
「京介‼ほら、アーン?」
「な、お前⁉」
「早くしてよ、食べたいんだから」
「っ、わ、わかったよ!桐乃、ほら」
兄貴があたしに!
あたしはしっかりとスプーンを咥えた。兄貴も一応咥えてる。
「それじゃ撮りますよ?ハイ、チーズ!」
写真に写ったあたしたちはカップルそのもので。
お互い顔を真っ赤に染めていた。
きょうちゃんにもう関わっちゃいけない。
そう、桐乃ちゃんに言われた。
長い間幼馴染をやってきたのに。こんなのあんまりだよ。
私はあれ以来部屋から出なくなった。
ロックもみんなで心配してくれるけど心配してくれたから解決する話でもないんだよ?
落ち込んでたそんな時。
携帯が鳴った。
一瞬、きょうちゃんかな?って期待したけど。
画面に映った相手はあやせちゃんだった。
「もしもし、お姉さん?」
「…どうしたの、あやせちゃん」
「落ち込んでるんですか?何かありました?」
相談しようかすごく悩んだけど、事の内容を話す事にした。
「二度とお兄さんに関わるな、ですか…」
「だから、ね…?」
「いい方法がありますよ、お姉さん?私に協力してくれさえすれば」
元から藁にもすがる思いだ、協力しようかな。
「わかった、協力するよ?」
「よかった、交渉成立ですね‼」
その時私の心には希望が生まれた。
最終更新:2010年12月06日 17:53