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大介がオタク化と聞いてサクッと京介と桐乃で小ネタ





「ふぁああぁ……」
生あくびを噛みしめきれないまま、俺は階段を下りた。
今日は日曜だ。ゆっくり寝ていたい。特に遅くまでエロゲをしていた夜は。
しかし俺の三大欲求の序列では睡眠欲は第三位であったらしい。
そして第一位に輝いたのは食欲。
食事の時間に現れないとメシ抜きという高坂家ルールに生きる身としては
性欲も睡眠欲もマウントポジションで押さえつけて、胃袋を満たしてやらなきゃならんのだ。
「……おはy……」
リビングに入った俺は目を疑ったね。
「挨拶はどうした?」
「どうした?はコッチの台詞だ、親父……」
アンタ何読んでるんですか?
スゲー真剣な表情で、その手に持っているカラフルな装丁の
お目々大きな二次元(いや、本だから二次元で当たり前だけどね!?)の女の子が描かれている
その本はどうみても……
「ラノベじゃねーか!!!」
「何を言っているのかわからんが、これはライトノベルというものらしい」
いや、略語だからね。ライトノベル、略してラノベだから。
やべーよ、マジやべー。俺寝ている間にパラレルワールドに来ちまったのか?
何で親父がラノベ読んでるんだよ?
だってウチの親父だよ? ガモウノカーチャンノサイフノヒモぐらいお堅い警察官の親父が
桐乃の趣味を即座に全否定して処分しようとしていた人が
なんでラノベ読んでるの? え? 死ぬの? 俺?
「桐乃に借りた」
「桐乃が?」
「ああ。俺も桐乃の趣味を把握するのに必要だと思ってな」
いや、いいよ親父……そんなのは俺一人で充分だから、親父は親父のままで居てくれ……
万が一、億が一でも、親父がエロゲーやり始めたら俺もう現実を直視できないからね?
親子三人そろってエロゲーマーとか、どんだけ業が深い一族なんだよって。
「ふむ…」
ポムっと本を閉じた親父は、相変わらず真剣な表情で感想を語り始めた。
「いささか文章量が少ないと感じたが……」
「まあ中高校生向けの小説だからな」
「話はよくできているし、多少の言葉の乱れや片仮名の多さは気になるが
 子供が読んで害悪になる類の本ではないな。これならば問題あるまい」
ラノベに関しては俺は専門外だが、親父が持ってるヤツはアニメ化されてるので内容は知っている。
大人が見て当たり障りない内容なのは確かだし、桐乃だってそういう作品を選んで貸したんだと思う。
「桐乃に言ってやれよ、きっと喜ぶぜ。まあ、その作品の桐乃のお気に入りのキャラは3巻から出てくるんだけどな」
「ほう。では2巻を桐乃から借りてみるか」
ちょっと待て親父。ハマってるんじゃないだろうな!?





そんなゲンナリとした朝で始まった休日ではあったが
昼頃にラブリーマイエンジェルあやせが遊びに来たことで俺のテンションは一気に有頂天になった。
別にあやせが俺に会いに来たワケじゃないけどね。
例によって桐乃によって俺は自室に押し込められたワケだが
ふふふ……甘いぜ、桐乃。ウチの部屋の壁は薄いのだ。
あやせタンの生ボイスを堪能するには、俺の部屋はむしろベストポジションなのだ!!

「ああ…酷いよ桐乃……私、初めてなのに……」

ちょっと!? 何やってるんですか、ウチの妹様は!?
もう救いようのないオタク道に突っ走ってるのは知ってましたがね。
まりあ†ほりっくよろしく百合百合大好きな汚物になってるなんてお兄さん聞いてませんよ?!

「あやせ! どうせなら俺に初めてをくれ!!」

何時もは桐乃によって開かれる(そして俺の顔が叩かれる)、妹の部屋の扉を乱暴に引く。
珍しいことに鍵はかかってなかったようだ。
さらに珍しいことに
「あやせがゲームしている……?」
「な、な、な、何勝手にあたしの部屋に入ってきてんのよ!」
「はうっ?!」
桐乃が投げたコントローラーが、俺のジョイスティックを16連打した。



「んで? 桐乃に進められてゲームをやってみたと」
「いかがわしいゲームじゃなくて…えい!…小学生でも買える…えい!…ゲームだと聞きましたので……えい!」
ボタン押す度に身体が揺れているあやせ。何この可愛い生き物。
「でも酷いでんすよ、桐乃ったら。初めての私に全然手加減してくれなくて」
普段沙織や黒猫に負けまくってるからな。
「あやせにこんなにやられてるなんて、やっぱアンタ弱いよねー」
いやあ、流石に俺は大人だから手加減しているだけだけどねー
確かに俺の実力は(やりこみ度の関係で)桐乃以下ではあるが、初心者に負ける程じゃない。
あやせは典型的なガチャガチャタイプだし。
「やった、勝ちました! 見てた桐乃!!」
「うわ、兄貴ダッサ」
……落ち着け、俺はワザと負けたんだ。最初から負ける予定なんだから
桐乃に何を言われても受け流して当然であって、ここでキレるのはおかしい、そうだな、俺?
「ふー…俺、下からジュース持ってくるわ」
「OK。じゃあやせ、次あたしとやろ」
「ふっふっふ…今度は負けないよ、桐乃」


「……しゃーねぇ、俺はウーロン茶でいいか」
2つ目のコップで冷蔵庫にあったオレンジジュースが切れたので、俺は代用品を探した。
「しかし、意外とハマってたな」
桐乃があやせに薦めゲームは確かに全年齢対応だし、元がエロゲーという訳でもない。
だが、普通の格闘ゲームかと言われれば、ユーザーはかなり絞られる。
なぜなら使用キャラは全て可愛い女の子だからだ。
我が妹ながら、中々狡猾なソフトを薦めやがったもんだ。
「親父といい、あやせといい……」
桐乃の周りに桐乃の趣味の理解者が増えるのは、桐乃にとって良いことなんだろう。
でも、本当に幸運なコトは、そうまでして桐乃を理解してやろうって人間がこんなにいることだって
アイツは分かってるんのかねぇ……まあ、俺が気にすることじゃねぇか。
俺はポッキーを探し出してジュースと一緒にお盆に載せると、階段を登り始めた。






ま、それが2ヶ月ぐらい前の話だよ。
それで、俺は学校の帰り道、参考書でも買おうかって立ち寄った本屋で
桐乃が買っていたラノベの最新刊を見つけたんだ。
ソイツを参考書と一緒に買って帰るぐらい、別に普通だよな?
それから麻奈実ン家に寄って勉強して、家に帰った。
玄関には親父の靴があって、今日は割と早く帰ってきたな、なんて思ったりした。
リビングから桐乃の声が聞こえたんで、俺は鞄の中からラノベの入った紙袋を取り出したのさ。
後で部屋で渡してもいいんだけどよ、早く桐乃の喜ぶ顔がみてぇじゃん?
いやシスコンじゃないぜ? これは高坂京介が最初から持ち合わせている優しさってやつだ。
まあ最近は親父も桐乃の趣味に理解あるし
リビングで渡して、そこで袋の中身空けてもイヤな顔はされないだろうさ。

「お父さん、最新巻買ってきてくれたの?!」
「ああ、偶々書店で見かけてな」
「ありがとう! 嬉しい! お父さんに買って貰えるなんて!」

俺は紙袋を鞄の中に戻した。


夕飯食った俺はさっさと自分の部屋に上がった。
桐乃と親父はなんか話が弾んでいるみたいだったし
かといって俺とお袋で仲良くお話しましょうって間柄でもねぇ。
お袋は飯の片付けもあるだろうしな。
本屋で買ってきた漫画雑誌を捲っていると、あのラノベのコミカライズが連載していた。
って言っても、アニメ化に合わせた進行速度だから最新の原作と比べて話の進み度合いが違う。
トントントン…と足音が聞こえた。桐乃が上がってきたらしい。

それから漫画を読み終わる頃には、薄い壁から「ぎゃあ!」だの「やった!」だの
黄色い声が聞こえてくるようになったもんだから、俺のイライラが最強最速のウルトラマンマックス。
「うるせーよ、桐乃!」
思わず駆け込んだ俺に
「はあ? アンタの方がウルサイし」
桐乃は悪びれもせずに答えやがった。
「確かにちょっとはしゃいじゃったかも知れないけどさ、
 こんぐらいならアンタだって出す音じゃん? なんでキレてんのよ?」
「うるせーもんはうるせーんだよ!」
「ウザッ…わけわかんないし?」
妙なもんで、キレればキレるほど、案外俺は冷静になっていった。
桐乃の言い分は(珍しく)正しい……と思う。
確かに桐乃の声は大きかったが、いつもなら聞き流している程度の音量だ。
それにイラついたのは……なんでか知らないが、俺の虫の居所が悪かった
つまり八つ当たりなんじゃねーかって思い始めたんだ。
けど、今更それを認めて引き下がるってのも、なぁ……なんてつまんねー意地を考えていた時、
パソコンのディスプレイにはゲーム画面に気づいた。
そうか、桐乃のヤツゲームしてて熱中してたのか、なんて格闘ゲームのスコアを見ると
桐乃が勝ち越している。桐乃がゲームして勝ち越す? 有り得ないだろ?
だって唯一の桐乃が勝てる相手である俺は、ずっと隣で漫画読んでたんだぜ?
「……誰とゲームしてたんだ?」
「は? あやせとだけど?」
……ああそうかい、親父といいあやせといい、随分と順調にオタク化推進させているんだな。
ま、それを身を持って体験した俺が言う台詞じゃねーかも知れないけどよ。

「ねえ、アンタ、何怒ってんの?」
「……お前がうるさいからだろ」
「そうじゃなくて、晩ご飯の時からずっとイライラしてたじゃん」
「してねーよ」
「嘘。してた」
はあ? なんでコイツ断言できんの? お前は俺ですか?ってんだ。
夕飯の時からイライラしてた? へっ! してたかもな。
コイツの為にラノベ買ったけど、無駄になったんだからよ。
俺はコイツと違ってモデルの仕事もねーし、バイトもしてないから
懐事情はそんなに豊かじゃないんだ。ラノベ一冊でもMOTTAINAIの精神が働きますよ、そりゃね!
「なんだ、結局お前のせいかよ」
「はぁ? あたしが何したってのよ?」
「なんでもねーよ。ちょっと金が無駄になっただけだ」
「どういう意味よ? っていうか、いいわよ、何円損したかわかんないけど
 あたしのせいだってんなら、払ってあげる。このままだと気分悪いし」
「馬鹿か。妹に金たかれるかよ」
「あんたが言い出したんじゃない!」
「……んじゃ、金じゃなくて時間にしてくれよ。お前、あやせとゲームできるようになったんだろ?
 じゃあ俺とゲームする時間は必要ねぇよな? もう誘わないでくれよ、それでいいな?」
「なっ……」
桐乃が何か言おうとするのを遮って、俺は自室に戻った。
これ以上一緒にいたら、もっと酷いことを口走ってしまいそうな、そんな気がしたからだ。



「……酷いことってなんだよ」

不貞寝しながら呟いてみる。
あのまま口論を続けて……俺にエロゲ渡すなとか、アキバに連れて行くな、とかか?
それって酷いことか? 別にそれで何か変わる訳じゃない。
「……変わるかもな」
結局、冷え切っていた兄妹の関係を修復したのは、
俺と桐乃の間に立ってくれたのは桐乃のオタク関連だった。
今はそれだけじゃない、とは思う。
俺と桐乃の間にあるオタク関係を断ち切っても、昔みたいにはならないだろう。理屈なら。
いや、あの妹様の性格ならわかんねーかもな。
ただ、確実に接点は減るだろう。

……それは、イヤだった。


鉛のように重たい空気を、人の気配が砕いた。
「……兄貴、寝てるの?」
寝れる訳がない。けど、起きて顔を合わすのはもっと辛い。
俺は寝たふりを決め込んだ。
「……何怒ってるのかわかんないよ、兄貴」
ベットが揺れた。
いつものように跨られて、はたき起こされるということはないみたいだ。
……そう考えると、俺酷い目にあってたんだな。
「次からはうるさくしないよう気をつけるからさ……」
実はこれ夢なんじゃね?
素直に謝ってるんですけど!? 桐乃が謝ってるんですけど!?
「……でも機嫌悪いのって絶対それだけじゃないじゃん。
 何年兄妹やってると思ってんの。それぐらいわかるんだからさー…」
桐乃の声のトーンが小さくなる。
「……もう一緒に遊ばないとか、言わないでよ。
 あたしが原因なら、治すからさ。また、あたしを置いていかないで……」



「置いていかれてるのはコッチだってーの」

目を瞑っていても、俺の言葉に桐乃の驚いた顔が目蓋に浮かぶ。
そんで次は……
「お、起きてたならそういいなさいよね! きもっ!」
って、形のいい眉をつり上げながら俺を殴…
「ぐぼぉっ!?」
け、蹴りやがった……しかも脇腹!?
「ちょ…待て……せめて最後まで言わせろ……」
「はあぁ? 自分は寝たふりしてやってきた妹を襲うつもりでしたって?」
「んなコトするか!」
っていうか、その鞄はマジやめて下さい。まだ中身入ってますから。
それで殴られたら、その中の教科書の内容、俺の脳細胞から飛んでいっちゃうから!
「……何よ、コレ」
「あ……」
鞄の中から、サイズの小さいラノベがこぼれ落ちる。
「……アンタも随分オタクになったわよね」
「違うわ。それはお前に買ってきたんだっての!」
「え…?」
「あ……」
くそっ…俺が自分で買ったことにすりゃ、丸く収まったのに!
「い、今なんて……」
「だ、だから……偶々本屋で見つけたからよ、お前に買ってやろうかって」
そしたら桐乃は暫く本と俺を交互に見つめていると、その本を胸に抱えて言いやがったよ。
「あ、ありがと……」
「あ、ありがとってなぁ……そ、それはもう持ってるだろ。親父が買ってきたやつ」
「べ、別にお父さんが買ってきたからって、これ貰っちゃいけないことないし。
 っていうかあたしも今日自分で買ってきてたし」
え……?
た、確かによく考えれば、桐乃が最新刊のチェックをしてないなんてコトはないよな。
「じゃあお前、その巻3冊も持ってることになるんだけど……」
「だから? 保存用と観賞用と布教用でちょうどいいじゃん」
そういうもんなのか?
「な、なんだ。アンタ、これ渡せなくてイライラしてたんだ……
 ふ、ふ~ん……妹にプレゼントできなくてイライラするなんて、ガキね。
 ガキの上にシスコンとか、もう救いようがない感じ?」
「うるせー。シスコンなのは否定しねぇが、イライラの理由はそれじゃねぇ」
といっても、お前に言われて気づいたんだけどな、理由。
「お前が親父やあやせと仲良くオタ話してるからだ」
「は?」

「わかってるんだよ! それが悪いことじゃねえってのはさ!
 親父もあやせも普通の人間だ! そういう人間じゃねえよ。
 それがお前の話を理解して、しかも一緒に会話したり遊んだりするようになった。
 アイツらだって、それが悪い気分じゃねえってのは俺が保証してやる。俺がそうだったからな!」
俺は桐乃に趣味をカミングアウトされて、桐乃にエロゲやらなんやら押し付けられて
興味なかったか?と言われればその通りだった。
けど、そんなことより桐乃と接点ができて嬉しかったんだよ。
桐乃と共通の話題ができて、嬉しかったんだっつーの!
「お前のせいでオタクになったのは俺だけだったじゃねぇか。黒猫と沙織は元からオタクだったしよ。
 お前がアレコレ薦めてきてよ、中には面白いのもあったし
 それに何より、お前って人間が少しわかった気がした。
 下地がない分、お前は一生懸命俺に構ってくれたしな。
 そうだよ、俺はお前に構って欲しかったんだよ。兄貴なのに、俺は妹に構って欲しかった」
「そ、それで、あたしがお父さんやあやせにかかりっきりになってて、寂しかったっての?」
「ああ、多分そういうコトだ。だから俺が機嫌悪かったのはお前のせいじゃなくて俺のせいだし
 そいつは理屈も何もない、ただの我が侭だ。ガキ以下さ」
「……馬鹿じゃん」
「ああ、馬鹿だよ。とんでもねー馬鹿だ」
さらに言えばシスコン失格だろ。
妹がいい風に向かってるのを、独占欲で認めたくねーってのはさ。
「……あ、あのさ」
「なんだよ」
「あ、あたしから見たらアンタなんてまだまだオタクじゃないから。
 あたしの授業無しにオタクとして独り立ちできるとおもったら大間違いだからね!」
「桐乃……」
「だ、だからさ、い、今からゲームするから!
 いい? 最低アタシに勝ち越すぐらいじゃないと認めないから」
へ……そりゃズルいぜ。そんな条件じゃ、俺はずっと桐乃に勝てないじゃねぇか。
「アンタがハンパなオタクになったら、あたしの教育能力の問題になるんだからね。
 だから……あたしと同じぐらいになるまで、ちゃんと面倒みるんだから。
 まーアンタってばシスコンだし、本望でしょ?
 お父さんやあやせだったらそこまではしないんだから。わ、わかった?」
こんなコト言われて喜んでるんだぜ、俺。
ったく本当に……どうしようもないシスコンのオタク見習いだよな。
「ホラ、さっさと準備する」
「はいはい」
「何? イヤなの?」
「トンデモゴザイマセン嬉しいです桐乃様」
あいつが笑った。
結局、俺はこの笑顔を捨てられないって訳だ





おわり






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最終更新:2010年12月18日 14:31
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