「あの…実は……相談があるんです。」
放課後。俺は瀬菜に呼び出され、1人校舎裏に来ていた。いや、厳密に言えば1人ではない。さっきから黒猫につけられてる気がする。さっき黒猫には、今日はちょっと用事があるから一緒に帰れない、と言っておいたのだが、なんか
勘違いされてないか?浮気なんかしないよ、俺。
「ん?なんだ?」
つくづく“相談”という言葉に弱い俺である。
しかし瀬菜が相談ってなんだろう?ゲーム制作のことか?だったらわざわざ俺には……
「ゲイ研のことです」
ゲー研?なんで俺に?
「これ、読んでください」
瀬菜はなにやら分厚い資料を渡してきた。黒猫の小説の設定資料かよ、ってくらいの厚さだ。ゲームのシナリオか何かだろう。表示にでかでかとこう書いてある。
ゲイ研の必要性と意義について
「ゲイ研ってなんだ?あ…ゲイって…まさかてめえ!」
まさか。まさか。ゲイ研って?
「ゲイ研究部のことですけど?」
そのまさかだった!最悪だ。
「てめえなんだよこれは?」
「あれ?知らないんですか?来年度から本校にはゲイ研ができるんですよ」
「できてたまるかーっ!」
「いやたまるかって言われても…」
ヤバい。瀬菜さん、目がマジですよ…。
いやまさかね。真面目に突っ込むと、んなもの生徒会に認証されるわけがねぇだろ!てかそんなの認められる学校とか、もう退学するレベルだろ。
「んなもの生徒会に許可されねえだろ!」
こんなに心からツッコむのは久しぶりだね。瀬菜のゲイ研が生徒会に許可されるわけがないってな。
「ですから、その資料のおかげで、無事認められたんですよ」
俺は渡された資料に目を落とした。これを生徒会に提出して、認められたってことなのか?いやあり得ねぇ。たしかに、「ゲイ研の必要性と意義について」というタイトルは、それらしいし、分厚い資料からは熱意を感じるが、これは熱意を感じるだけだ。
俺が生徒会役員だったら、ぜってい許可しねぇよ?
「読んでみてください」
いや読みたくねぇ。けど…ここで断るのもなんかアレだし。まあいっか。俺は表紙をめくって…………
「すまん瀬菜、吐き気が…」
俺はバサリと資料を落とし、その場にしゃがみこんだ。いやだって、1ページ目、目次の背景が、こともあろうかガチホモAVの写真ですよ。
もう無理。生理的に拒絶。資料を落とした拍子に別のページが見えたけど、男の写真が見えたよ?これを生徒会に提出するとか、狂気の沙汰だ。
――――でもこれなら、これなら生徒会に認められても不思議じゃないね。たぶん、一般の人は目次でアウトだから、最後まで読んだのはホモに耐性がある人ばかりだろう。そんな人達だったら許可しかねない。
いや待て俺。いくらなんでもおかしいから。部を作るんだから、先生だって通すだろ。先生が許可するわけが…
いま思い出したんだけど、あの先生、ノリが良いことで有名だけど、ホモって噂もあるんだった。
あのときは冗談だと思っていたが……もうやだこの学校。
「大丈夫ですか?」
大丈夫じゃねえ!お前のせいだからな!
吐き気でしゃべれないので、とりあえず首を横に振った。
「まあ、そういうわけなんで、せんぱいが知っている限りのゲイを集めてほしいんです」
どういうわけで!?
「あのなあ。俺だって一応受験生……いやそれ以前にぜってい協力しねえ!そもそも俺の知り合いにゲイはいねえよ?」
「……」
「わかったか?俺はもう行くから……って、なっ」
瀬菜が俺の肩をがっしりつかみ、耳にこう囁いてきた。
「協力してくれないなら、ここであなたにキスしちゃいますよ」
なんか背中に当たってる…。
おっぱいおっぱい。
「キスしちゃっていいんですかぁ?」
んな唐突に。意味分からん。
いや別にかまわないけどね。だってお前眼鏡だし、巨乳だし。てか脈絡なさすぎだろ!
「知りませんよ?」
何が?なんか瀬菜がちらちらと意味あり気に木がある方向を見ている。なんかいるのだろうか?そちらを見るとそこには……
「あ…」
木の端から、黒髪がはみ出ている。そっか、黒猫がつけてきてたんだっけ。いやいや俺には黒猫がいるのに、なにをしようとしてたんだろう。男として情けない。
ん…?この状況で瀬菜にキスされたら絶対ヤバい。たぶん黒猫がすごい傷つくにちがいない。いやてか殺されるんじゃね?俺。瀬菜、悪いがお前とキスはできないぜ。
「瀬菜、すまないが俺には黒n」
「あれ?何か勘違いしてますね?今のは脅しですよ。さて、キスされるのと、おホモだちを集めるの、どちらがいいですか?」
えっ、ただの脅しだったのか。てっきり告白イベントかと思っちゃったぜ。あははははw
そりゃあ黒猫を傷つけるくらいだったら、むしろおホモだちを連れてく……ってオイ。
「俺におホモだちなんていねえ!」
「分かりました、分かりました。あ、お兄ちゃん以外で
お願いしますね」
「分かってねえ!?」
だめだこりゃ。
「やっぱりお兄ちゃんと…」
「意味分からないからな!」
俺はもうげんなりしてしまった。
―――数日後、昼休み―――
「こうさかせんぱ~い」
「おお瀬菜、どうした?」
「単刀直入に言いますと…」
「ああ」
「部員が集まりません」
あたりめーだ。この学校にホモはいねぇ!てかいないでほしい。
「せんぱい、何か良い案はありませんか?」
「無い」
「即答ですか!?」
いや無理ですから。いないものは集まらない。あれ…でも…ゲイ研を認めた生徒会の中にホモがいるのでは?
……でも恐ろしくて瀬菜には言えない。
「お前さ、もしこの学校にホモが居たとしてもだ、そんな堂々と部活に入るか?だいたい、お前だって周りに腐女子だってばれちまうだろ?どうすんだ、そういうの。」
部活に入れば当然周りに知られてしまう。そこらへん、瀬菜は割り切ったのだろうか?
「え?………………きゃあああああああああああああ!!!」
「おい!お前………どうした!?」
「クラスメートにばれちゃう!」
「何を今更!」
「私って、結構熱くなるといろいろ忘れちゃうタイプで……ああ……どうしよう」
こいつマジで気づいてなかったの?ていうか、新設の部活を募集してたのって、1ヶ月前ですよね?1ヶ月ずっと熱くなってたのかよ!瀬菜さんマジパネェッス。
でも、物は考えようだ。これだけ1つのことに熱中して、あんな分厚いもん作れちゃうんだから、それはすげえよな。俺にはできねぇ。熱中しているものは少々アレだけど、決して俺みたいなやつがバカにできるもんじゃねえよ。
――いかん、腐女子に対する(というよりガチホモに対する)抵抗感が薄れてきた気がする。少々どころじゃねえよ。
「せんぱい、どうすれば…」
「いいから泣きやめ、どうせもう手遅れだ」
「……そんな真壁せんぱいみたいな冷たい突っ込みしないでください」
いや、みたいなっていうか、完全に真壁くんの影響だわ。
「くっ……分かりました、それはこっちでなんとかします。せんぱい、ゲイをよろしくお願いしますね」
「拒否」
「もう…そんなこと言うと麻奈実さんに……」
「それだけはやめて!?」
麻奈実に「きょうちゃんってほもなの?」とか聞かれた日には俺は腹を切って死ぬ。しかもただ死ぬのではない。唯一神……もういいか。
「では♪」
瀬菜、なぜお前は嬉しそうなんだ?
はあ……。もし井戸端会議で俺がホモだって噂になった時のために遺書でも書いておこう。
予鈴が鳴ったので、俺はそのまま教室に戻った。
その日の帰り道。黒猫はなんか用事があるっていうし、麻奈実も珍しく用事があるとか言って、今日は1人で帰っている。最近はいつも黒猫と一緒に帰っていたから、1人だけの帰り道ってのも新鮮だ。
そんなとき、唐突に携帯が震えだした。
ブー ブー ブー ブー
携帯を取り出して確認すると、なんと
あやせからだった。
「もしもし?」
『あ、お兄さんですか。話は聞きました。今すぐ私の家に来てください』
「話?なんのことだ?」
なんか1つだけ心当たりがあるんだが……。
『知らんぷりしたって無駄ですよ。とにかく今すぐ来てください』
「あー、お前の家?公園じゃなくて?」
『公園はお巡りさんがいるから何もできないじゃないですか』
俺は何をされるの?
『では、ホモセクシュアルのお兄さん、さようなら』
うわっ。やっぱりだ。瀬菜→麻奈実→あやせかよ。死にたい。いっそ殺せ!てか情報伝達が早すぎだよ。
もう俺、一生立ち直れないかも。というより、俺の本能が、俺の一生が19年に満たないことを告げてるんだが。遺書、さっき書いとけば良かった。
俺がマジ泣きしながら歩いていると、いつのまにかあやせの家についていた。この緊張感というか恐怖はやばい。俺は門の前でさながら弁慶のように微動だにせずにいた。
ガキのころ、学校で悪さをして、そのまま家に帰って、いつ先生にバレて家に電話がくるかビクビクしている、あの気持ちだ。まあ今の例は実体験だけどね。
誰にでもあるよね、そういうの。
ガチャリ
突然後ろから手を押さえつけられ、手錠をはめられた。慌てて振り返るとそこにはあやせが。いやあやせさん、前回より荒っぽくありませんか?
「時刻1624、自宅前にて対象を確保」
あやせはなにかぼそぼそとつぶやいて、そのまま口になにか錠剤を押し込んできた。そのまま大量の水を飲まされる。
「ちょ…ゴボッ…いくらなんでも…ガボガボ」
なんか錠剤飲んじゃったよ。死ぬのかな、俺。
「お兄さん、ちょっといいですか?」
ガバッ
いきなり口をガムテープで塞がれた。
「もがっ…もがっ…」
ガムテを取ろうにも、手錠で手が使えないため取れない。そう思っている間にも、あやせは慣れた手つきで俺の顔にぐるぐるガムテープを巻いていく。完全に口を塞がれてしまった。なんでこんなに慣れた手つきしてんの?怖いから聞かない…いや口塞がってて聞けないけど。
「もがっ!」
俺は一瞬の隙をついて駆け出した。なんとかして逃げなくては。今すぐ病院に行って胃洗浄してもらわないと死ぬ。
「おいっ!止まれっ!」
気がついたらあやせが俺の手首を掴んでいた。
「あー、あやせ?」
「お兄さん、大丈夫ですか?目が怯えてますよ」
いやお前に怯えているわけだけど。
「はいほううら、もうあいやい(大丈夫だ、問題ない)」
「じゃあ足も巻きますね」
「もがっー」
俺の叫びをガン無視して、足首をガムテープで固定するあやせ。
結局体をガムテープでぐるぐる巻きにされてしまった。これがミノムシの刑か。
ミノムシの刑――江戸時代にキリスト教徒に対して行われた。キリシタンは体を巻かれ、俵のように積み重ねられ、キリスト教を捨てなければ火をつけられたと云う――が現代に戻ってきたのか!あれ…てことは俺は火をつけられるのか?
「ではお兄さん、車に乗ってください」
あやせが指差す先を見ると(体ごと転がらなくてはならない)、いつぞやのメルルコスプレ大会で見たワゴン車が止まっていた。俺はそのままワゴン車に乗せられた。あやせも乗り込んでくる。
「運転手さん、お願いしまーす」
あやせさんマジ怖え~。俺はこのまま山に埋められるんだ、生き埋めだチクショー。
気がつくと周りは真っ暗だった。床に手をやると、剥き出しの床からコンクリートの感触が伝わってくる。とてもじめじめしていて、カビの匂いがする。
まるでコンクリートが全ての音を吸収しているかのような静けさ。目が覚めた時はさっきのが全部夢なんじゃねえかって思ったが、そんな希望的観測も一瞬で崩れちまった。
あれ、そういえばいつのまにか手錠とガムテープがはずされている。どうやら車の中で寝てしまったようだ。ああそうか、さっき飲まされた錠剤、睡眠薬だったんだな。
とりあえず何かないかと手を動かすが、コンクリート以外に手に当たるものはない。
「おーい、誰かいなイカ」
返事は無いとわかっているが、とりあえず声を出してみる。自分の声でもいいから、何か音がしないと、俺は孤独感と絶望感で泣いてしまいそうだ。
「おーい…………ぐすん」
やべ、涙出てきた。
「高坂……か……?」
幻聴まで聞こえる。こんな死に方あんまりだ。なんで?俺がなんか悪いことしたの?俺は平凡に生きてきたのに。
「……高坂だな?」
「ああ。お前は誰だ?俺を迎えに来たのか?」
「な!この…全部てめえのせいだ!」
バコッ
思い切り殴られた。頭がくらくらする。こいつ…
「この野郎!俺がちょっとボケたくらいでなんだその突っ込みは!」
バコッ
また殴られた。なんで?
「高坂!てめえが迎えとか突っ込むとか言うからだよ!」
「は?どういう解釈をしてんだよお前は」
もう分かったと思うがこいつは俺の親友赤城である。こう言うと実は最初から赤城がいることを知っていたように思われかねないが、俺も今知った。
「高坂!てめえが学校中に自分は俺とおホモだちですとか変な噂広めるからこんなことに!」
「俺は何も広めてねえ!諸悪の根源はお前の妹だ!」
「瀬菜ちゃんは悪くない!瀬菜ちゃん可愛いよ!」
「……」
呆れてものも言えないわ。
「ちょっと話は変わるが……赤城、なんでお前がここにいるんだ?」
「ああ。それがな。部活が終わって、下校しようとしたら、校門に黒髪の可愛い女の子がいたんだ」
ああ、あやせか。
「俺が素通りしようとしたら、あいつが、『あなたが赤城浩平さん?』って聞いてきたんだ。俺が、『そうだ』って行ったら、『このガチホモ野郎が!そのふざけた性癖をぶち殺す!』とか言ってきてだな……」
…………。あやせ、性癖はぶち殺すものではないだろ。日本語がおかしいよ。
「急に凶器で頭を殴られたんだ」
「俺より手荒い!?」
殴られたって?まさか俺より酷い目にあったやつがいたとは。
「何で殴られたんだ?」
「冬コミのカタログ」
………………………。俺も夏コミ経験者だし、一応カタログは知っているが…。あんな鈍器で殴られたのか?
「死にかねないだろ!」
「いや死ぬわけないでしょ」
「でも後遺症くらいは残るだろ!」
しかし冬コミのカタログか。冷静にやばいよな。いや待てよ?
「なんであやせがそんな物を?」
「あ?あやせ?」
「ああ、その女の子はあやせと言ってだな、俺の妹の親友兼俺のオナペッt……いやまあいいか」
「あんまり隠せてねえぞ……てか羨ましいなオイ」
「……」
なんかまずいことを言った気がする。気のせいだよね。
「で、あのな高坂、冬コミのカタログは俺が持っていた物だ。ちょうど参加サークルをチェックしてたんだ。いや、俺は別に行くつもりはなかったんだが、瀬菜ちゃんがどうしても行ってほしいって……。なんでも2人で分担するとか」
「っ…まさか……何日目に行くんだ?」
「1日目」
瀬菜って聞いた時点で察しはついていたが……。お前も良く行く気になったな。
「しかしその…あやせちゃんだっけ?よく俺のこと分かったな。やっぱり俺の顔がかっこよすぎたからかな?」
「801同人誌のサークルを眺めてるやつなんてお前くらいだ!」
お前は筋金入りのナルシストだな。
「同人誌じゃないって!俺が見てた団体は企業ブースだっつうの」
「変わらねえよ!」
こんな調子で、喉が枯れるまで突っ込んで、小一時間俺はホモじゃないと力説した後、俺たちは疲れからか、ついついうとうとしてしまった。
因みに俺も赤城も、身ぐるみ剥がされていた。つまり、外と連絡する手段はもうない。まあトイレはあるっぽいから、なんとか生き延びられる…と思う。
Day2
「高坂…?」
俺は赤城のこんな呼びかけで目を覚ました。
「ふああ…。どうした赤城」
「これ…」
赤城が指差す先には……。
「桃の缶詰と水…か……」
どこのチリ鉱山?
「いったい誰だろう」
「あやせだな。あいつだって俺たちを餓死させるのは気が引けたんだろう」
「怖えええ!そんな女だったのか?」
「これで14日間生き延びろと。そういうことだろうよ」
「……高坂?まさか後から追加で31人来たりはしないよな」
「…………」
たぶんそれは無いね。ホモか桐乃に手を出す変態があと31人いるなら別だけど。
こんな言い方すると俺がホモか変態みたいだが、んなわけあるか!
ちなみに食事には2枚手紙がついていた。
『ガチホモのお兄さんへ。
あなたにはここで監禁生活を送ってもらいます。学校には桐乃から連絡させました。
…………中略…………
あと一週間で更正できたら、そこから出してあげます。一週間で更正できなかったら……その時は覚悟してください』
……。なんでお袋と親父が後一週間は旅行から帰ってこないことを、こいつが知ってるんだ?おい覚悟ってなんだよ。エロパロだったら「お兄さんをホモじゃなくすため!」とか言って俺とヤってくれるところだけど。
てか、あやせはリアルに俺と黒猫が付き合ってるって知らないのか?
「赤城、そっちには何て書いてある?」
「ああ…。なんか良く分からないが死ねってことらしい」
相変わらず酷いなおい。
まあそんな感じでまた1日が過ぎた。
Day3
いい加減、赤城に突っ込むのも飽きてきた。あ…いや突っ込むってのは、ボケツッコミの突っ込みだからな。勘違いすんなよ。
精神的にも辛い。俺の脳もようやく状況を理解してきた。これは酷い。まず普通にあやせは逮捕・監禁罪だ。思いっきり刑法220条にふれてるだろ。シャレにならねぇ。
……シャレじゃないんだろうな、これ。
あと今思い出したが、麻奈実にホモだと思われてるんじゃないの、俺。マジ死にたい。
Day5
新しい食事が届けられた。
「なあ高坂。今回はずいぶんマシな食事だな」
「ああ。たぶんあやせの手作り料理だな。」
「はあ?手作り料理に消費期限は貼ってねぇよ」
期待した俺がバカだった。
「まあ、これで腹一杯食えるな」
「そのようだな……」
昨日からろくに食べてない。7日は持つように桃の缶詰を割り振ったのに、なぜか2日で無くなっちまった。夜中に缶詰盗み食いしようとして、缶詰食ってる赤城と鉢合わせした時は爆笑したぜ。
「なあ高坂?お前いま何か持ってる?」
「全部あやせに盗られたよ」
せめて携帯さえあれば警察呼べるのに。
「俺は1つだけ持ってるよ?」
「な、何をだ!?」
「オナホ」
「…………は?」
「たぶんあやせちゃんとやらも、男からこれを取り上げるのは可愛いそうだと思ったんだろうな」
それは断じて違う。単に汚いから触りたく無かったんじゃないの?
「赤城、だとしても何のオカズも無いぞ」
「心配するな高坂、俺は箸と茶碗さえあれば脳内補完して妄想が可能だ」
「何をどうするんだチクショー!」
…………なるほどな。瀬菜が守備範囲広いのはきっと遺伝的な問題だな。
「なあ高坂、オナホ貸してやろうか?」
「いらねえよ!」
「そっか。ならいいや。ちょっと一発抜いてくるわ」
「おい」
「ちょっと箸と茶碗を貸してくれ」
……フォークとスプーン、箸と茶碗なんて誇張表現。そう思っていた時期が俺にもありました。
Day7
「赤城!今日がいよいよ最終日だぜ!」
「…………ああ…」
赤城の元気が無いのも無理はない。なぜならこの前から食糧の補給が途絶えている。補給を断たれたということは、あとはひたすら消耗していくのみである。特に赤城は、昨日、一昨日と抜いてるからなおさら消耗しているはずだ。
「赤城、起きろ、眠ったら死ぬぞ」
「………………ああ」
実は俺も結構欲求不満だ。だが、俺は抜いたりしない。思春期の中学2年生でもあるまいし、俺だって1週間くらい我慢できるっての。そもそも赤城が自制心なさすぎなんだよ。
今日が最後だと思うと、自然とツッコミにも力が入るな。これで普段の生活に戻れる。いつだが、「非日常」も悪くないと言ったけど、こんな「非日常」はうんざりだよ。
――そんな時だった。赤城があの言葉を発したのは。
「や ら な い か ?」
「アッーーー!」
室内に、俺の悲鳴が響き渡った。
こうなることも、瀬菜によって計算しつくされていたに違いない。
あやせによる監禁生活から解放され、今日はその翌日の放課後。俺はいま下駄箱の前で黒猫を待っている。
何故かって?黒猫に伝えなくちゃいけないことがあるからだ。
「せ、先輩!」
「よう、瑠璃……話がある」
「これだけ心配をかけておいて……でも……」
ガバッ
「会いたかったわ」
黒猫が俺の胸に飛び込んでくる。
でも黒猫……。今日は…
「瑠璃」
「ふっ、人間風情の癖をして私に心配をかけるなんて……」
俺は抱きついてくる黒猫を無理やりはがした。
「せ…先輩?……京介?」
黒猫は、何か怯えた目をして、いつもは2人きりの時しか呼んでくれないその名前を呼ぶ。
「黒猫……実は……」
本当にすまないと思う。でも……
「もうお前と付き合うことはできない」
これが本当の気持ちなんだ。
黒猫の目が大きく見開かれる。
「えっ?」
なにか救いを求めるような声。今のが自分の勘違いであってほしいと、そう思ってるに違いない。
「お前とはもう付き合えない」
黒猫はその場で固まった。そして、よろよろと後ずさり、下を向いて問いかけてくる。
「ど…ど…どうし…て…?」
「瑠璃」
俺は一拍おいて、こう言った。
「彼氏ができたんだ」
俺の名前は、高坂京介。近所の高校に通う18歳。
自分でいうのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。所属している部活はゲー研とゲイ研という、マイナーな部活だし、趣味も、ちょっと変わったアレを除いては、特筆するようなもんはない。
放課後はだいたい彼氏と町をぶらつきながらだべったり、家でホモゲやったり、ガチホモAV見たり。
ときにはまぁ…掘ったりもする。
ただ、最近、ふと頭をよぎることがある。
俺の人生、どこかで選択肢を間違えたと。
Die Ende.
最終更新:2010年12月20日 23:59