もしも桐乃がデレたなら


俺と桐乃は付き合うことになった。
とはいえ俺達は兄妹、当然人に自慢できる関係でもなく勿論親父達にカミングアウトした日には勘当されるのが目に見えてる。
この関係を知っているのは黒猫と沙織しかいない。

「おはよう、桐乃」
「おはよ」

リビングに入るとテーブルには朝食が置かれ、家族三人が座っていた。
何て事はない、いつも通りの平凡な一日の風景の一つだ。

付き合うにあたって周りの目を気にした俺達は家では相変わらずの関係で通していた。
とはいえ今までのように桐乃が俺をシカトしたりするような事はなくなったんだが。

「おはよう親父」
「うむ。そういえば京介、お前の成績を母さんから聞いたが・・・」

本当に他愛も無いいつも通りの日々が続いていた。
1年前と比べても表面上の風景は然程変化ないだろう。
昨日だって一昨日だって本当に何の変哲も無い普通の一日だった。
まあそれでも明らかに昔と違う所を挙げるなら桐乃が俺とも会話をするという事くらいか。

「頑張っているようだな。その調子で行け」
「言われなくともそうするよ。一緒の大学に行くって約束してる奴もいるしな」

麻奈美にはまだ俺達の関係を話していない。
だがいつか、せめて高校生のあいだには伝えておこうと思っている。

「へ~、あんたもしかしてそれ彼女?」
「そんなんじゃねえよお袋、友達同士の約束だっつーの」

ごく普通の、とても平凡な会話をしながら朝飯を食べる。
その現状にとても居心地の良さを感じる。
1年前は正直なところ朝飯すら億劫だったからな、隣の妹が俺を露骨に無視しやがってたし。
しかも俺が隣にいると不機嫌さを隠そうともしなかったし。

「はいはい無理して友達を強調しなくていいから。朝からノロケられてウザイウザイ」

ただ相変わらずの態度の悪さは変わらなかった。
コイツ、俺と付き合っている現状でも麻奈美の話を持ち出すとすぐに不機嫌になりやがる。
とはいえこの状況もなれたもんで、もうイラついたりもしなくなった。

「嫉妬ってやつか?」
「自意識過剰すぎキモいっての!」

ぼそりと桐乃に呟くと思い切り足を踏まれた。
学校へ行く支度も終わり服も着替えた。歯だってピカピカだ。
あとは登校時間までゆっくりしようとリビングに戻ると桐乃がソファーに座っていた。
ここでも以前の俺達なら互いに無視を決め込んでいた所だが。

「今日は朝練ないのか?」
「うん。そのかわり帰るのはちょっと遅くなるかも」
「そうか。茶淹れようか?」
「ん、さんきゅ」

・・・・・・感涙ものである。こんな関係になる前だったら――――
『今日は朝練ないのか?』
『は? あんたには関係ないでしょキモいっつーの』
で終っていた会話のはず。

淹れた茶を二つもち、桐乃の座るソファーに座る。

「なに遠慮して端っこに座ってんのよ」

別に遠慮しているわけではないんだが、長年の癖か無意識に妹から距離をとってしまっていたらしい。
桐乃にはそれが大変不服だったらしく、ムスっとした顔を浮かべる。

「ったく」

仕方ないわねと悪態をつくと桐乃は俺の横に座る位置をずらしてきた。
とはいえ照れてるのか頬が赤い。

「おい、顔が赤いぞ。照れてんじゃねぇか無理すんな」
「うっさいバカ!」

桐乃が茶をひったくると一気飲みする。用意のいい俺は温めにいれておいた。

「・・・・・・あんたたち、仲良いわね~」

不安げな顔でこちらを見ているお袋の姿に申し訳なさを感じる俺だった。
お袋、ごめん手遅れです。





終業のチャイムの音が鳴る。授業が終る事を知らせるのと同時に放課後を知らせるチャイムだ。
桐乃と付き合いだしてからこのチャイムに俺は反応してケータイを確認する癖がついていた。
案の定受信フォルダには大量のメールが届いている。
差出人は無論妹様である。
こいつ自分の休み時間になる度にメールしてくる上に、毎回似通った内容だから返信内容に困るんだよな。

「なんて返信したらいいんだよこれ」

一つ一つ見てみるが、やれクラスの男子がガキっぽいやら友達がどうしたやら。
コメントに困るような内容だった。
一度真剣になやんでクラスの女子連中にこういうメールの対応の仕方を聞いたんだが、イマイチ把握できなかった。

「でも返信しなかったらあいつ怒るんだよなぁ」

頭をガシガシとかき、なんとか怒られないような内容のメールを考えながら放課後のホームルームは終っていった。
今日は特に部活にも用は無く、少し自習した後まっすぐ家に帰ったがやはり妹はいなかった。
いつもならこの日は帰っている時間帯なのだが。

「そういや今日は遅くなるって言ってたな」

とはいっても家ではいつも通りな関係なため、いても余り変わらないのだが。
今勉強する気もしないのでとりあえず茶でものんで時間潰すことにした。

それから二時間たった頃、玄関から慌しい足音が聞こえた。
その音の主はドンドンとこっちにむかっている。
その勢いのまま扉を思い切り開けられる。

「あんた! 何なのあの返事!」
「だから俺にユニークなメールを求めるほうが間違ってるんだって」

こうなる気がしてた俺は特に驚くことなく返答した。

「なにが『そうだな』よ! 一行書いてメールとか馬鹿じゃない!?
 どんだけボキャブラリー貧困なのあんた!?」

顔真っ赤にしてるところを見ると結構傷ついていたらしい。

「そうは言うがな、毎日同じようなメールを送ってこられて毎回違う返信をしろっていうのが無理な話じゃないか」
「うっさい! あたしの彼氏ならそれくらいしろっつーの!」

んなめちゃくちゃな。

「そもそも学校で携帯いじるのはどうかと思うぞ。先生に怒られたりしないのか?」
「そんなのあんたの知った事じゃないでしょ」
「お前が俺のせいで携帯取り上げられて落ち込んだら俺だって気にするぞ」
「・・・むぅ」

みるみるうちに怒りが収まり別の意味で顔を赤くした桐乃はうつむく。
可愛い奴だな。

「ほれ、着替えてきたらどうだ?」
「うん。ついでに汗びっしょりだしシャワーも浴びようかな」

確かに今日は頑張ったらしく、桐乃は汗だくだった。
しかし・・・学校から帰る間に汗って乾くんじゃないか。

「もしかして俺に早く合いたいから走って帰ってきたのか?」
「んなワケないじゃん。考えすぎキモイってのシスコン」

ばっかじゃない、と呟いて自分の部屋の着替えをとりに行こうとする。
相変わらずキツイこといいやがるなあいつ。
付き合い始めても全く自重しやがらねえ。
「と、そうだ。今日はお袋と親父の結婚記念日で帰ってくるの遅いの知ってるか?」
「知ってるっつうの。あんたが覚えててあたしが覚えてないわけないでしょ」

かわいくねえぇぇ! まじで憎まれ口ばっかり叩きやがって。

「んじゃ。あたしシャワー浴びてくるから」
「あいよ。俺は自分の部屋に行ってるよ」
「あ、ちょっと待ちなさいよ」

テレビを消してソファーから立ち上がると不意に桐乃が呼びとめてきた。

「そのさ・・・・・・一緒に入る?」

・・・・・・うん?

「よしきた」

このときを待っていた。
ハンターは獲物を逃さない。

「ず、随分とノリノリじゃない」
「当然。普段お前にボロクソな俺だからこそこういうチャンスは逃さない。なめんな」

桐乃は俺が即答するとは思ってなかったらしく、慌てふためいている。

「じょ、冗談にきまってんじゃん。なにマジになってんのキモいっつーの」
「お前あんだけ期待させてそれはねえぞ!」
「うっさいバカ! スケベ!」
「そういうのはあやせで間に合ってんだよ!」

桐乃は近くのクッションを俺に投げつけてそのまま部屋に走っていった。
どうやらタオルと服を取りに行ったようだ。
これで話をうやむやにしたつもりなんだろうが。




「こんにちはだなぁ! 桐乃っ」
「うきゃあああああああ!?」

そうはいかん。
俺は水着を着用して桐乃の入る風呂へ突貫した。
てかすげぇ湯気だ。全く桐乃の姿がみえん。

「なに堂々と妹の入ってる風呂に入ってきてんのよ!」

とりあえず桐乃が湯船に使っているタイミングを見計らって入ったからこいつの裸は見えない。
紳士過ぎる俺。高感度アップ。
「よし、それじゃあ俺の背中でも洗ってもらおうか」
「嫌だっつうの。大体あんた水着着てるけどあたし裸だし。不公平じゃん」

仕方ない奴だな。俺の裸をそんなにみたいのか。
エッチな奴だ、ため息を漏らし水着を脱ごうかと立ち上がる。

「ちょ、あんたが脱ぐんじゃなくてあたしが水着つければいいんじゃない!
 死ねっ、露出狂!」
「わがままだな、お前は。で、水着どこにあるんだ?」
「あんたさぁ、私と付き合い始めてからどんどん変態化していってない?」
「あやせの前だといつもこんな感じだ。前にベッドに潜り込んだこともあるぜ」
「浮気を堂々とバラしてんじゃないわよ!」




「狭いんですけど、あとうざいんですけど」
「そうだな」

俺達は二人で湯船に浸かっていた。
流石に背中合わせや向かい座りはスペース的にキツイので俺の脚の間に桐乃が座る感じだ。

「ったく。こんな変態兄貴持ったあたしが可哀想」
「へいへい。変態兄貴ですいませんね」
「更にこれであたしの彼氏なんだから泣けてくるわ」

こいつから俺を彼氏呼ばわりするのは珍しい。

「変態じゃなくても兄妹だから友達に自慢できないけどな」

ボソりと呟く。
しかし胸にいる桐乃には当然聞こえていたようで、途端に不機嫌そうなオーラが漂ってきた。

「あんたは友達に自慢したいわけ?」
「あぁ? 余裕で今でも自慢してるっつうの舐めんな。可愛い妹ですってな
 友達に自慢してたらドン引きされてんよ」
「んなっ、ただのキモいシスコンじゃん!」

妹が彼女ですとはいえないので妹自慢になっているがまあこれなら良いだろう。
赤城とキャラが被ると周りに言われ始めたが。

「それに俺は自慢したいからお前と付き合ってんじゃねえよ」

正直彼女自慢したい気持ちもあるが、そんな俗っぽい気持ちは所詮上っ面部分だけである。
俺の本心は更に別のところにある。

「お前が好きで好きでたまらないから付き合ってんだ」

それが本心である。
ってか俺かっこいいこと言った気がする。
「あっそ」

斬って捨てられた。
流石に傷ついた。
凹んでいると何やら胸にサラサラした感触がする。
どうやら桐乃がもたれかかってきたらしいが。

「兄貴、カップルっぽいことしよっか」
「よしきた」
「だから反応速くてキモイのよ」

そんなことを言われてもな。
俺としてはこの状況下でカップルっぽいことが楽しみなんだが。

「えっと・・・・・・んじゃ目閉じてよ」
「ん、これでいいか?」

言われたとおりにする。
すると胸の桐乃の感触が消えて、次に唇に柔らかい感触が来る。
これは間違いなく、キスだ。

「んん・・・・・・―――兄貴ぃ」

結構熱烈なキスである。
軽いキスなら回数をこなしてはいるが、今日のは特別だ。
なんというか、状況が状況なので俺のリヴァイアサンが反応しそうになる。

ちゅっちゅと、艶かしい音がバスルームの響く。
今日の桐乃は積極的なのか徐々に舌も使い始めている。
柔らかい桐乃の舌が俺の口に割って入って俺の口内を隅々まで味わっている。
舌と舌を合わせる回数が増えるたびに次第に風呂場に響く音も粘性をましてきて、

まずい。

「っぷは! すまん桐乃離れるんだ!」

流石に海綿体が膨らんできたため慌てて肩をつかんで引き離した。
が、それがいけなかった。
俺は桐乃と俺の唇に繋がった唾液の糸を見て思い切り興奮してしまった。

そして露骨に俺の水着を尖らせていて、『はじめましてだなぁ!』と仰っている憎いこいつに桐乃が気づかないはずもなく。

「兄貴、これ・・・・・・」

桐乃はじーっと見つめてきた。ごまかせない。
救いなのは湯に浸かっているから形がぼやけている所だが。
やはりいたたまれない。

「あのさ、兄貴」
「な、なんだ」
「――――する?」

自慢じゃないが俺と桐乃は未だセックスたるものをした事がない。
そしてエロゲならセックスするであろうシチュエーションも今までに何度もあった。
そして桐乃はその度に俺に身体を預けようとしてくれている。
・・・・・・しかし。

「だめだ」
「・・・・・・そっか」

俺は一度もその欲求に流された事はなかった。
無論俺の息子は限界まで高度と硬度を増している。収まりつかない所までだ。

「やっぱり兄妹だから怖い?」

桐乃は泣きそうな顔をして俺に聞く。
が、断った理由はちゃんとあった。

「違う、大好きだ。だからこそ今お前とそういうことをしたらいけねえだろ」

俺は桐乃の事を兄としても男としてもベタ惚れだ。
だからこそこいつを悲しませたくない。

「今お前としても、俺には責任をとることが出来ない」

所詮俺は高校三年生。桐乃に至ってはまだ中学生だ。
当然俺一人でこいつを養ってやれる甲斐性はまだない。
そして俺達は兄妹だ、この関係がいつ親にばれて勘当されるかわかったもんじゃない。

「俺が一人前になって、親父達に勘当されても一緒にいられるようになったらな
 絶対にお前を泣かせるような真似はしたくねえんだ」

もしばれても俺達がそういう事をしていなかったら最悪桐乃だけは勘当されないですむ。
親父は桐乃には何だかんだであまいからな。

だが俺の考えが桐乃には大層気に入らなかったらしい。
目の前にはムスっとした顔がある。

「かっこつけちゃって」
「たまには格好つけてみたかったんだ」

桐乃は途端に満面の笑みになって

「ずっと前からカッコいいわよ、バカ」

抱きついてきた。
ただ、このままかっこよく終れるわけもなく。

「兄貴、何かあたってる。言ってる事と合致してないじゃんダサっ」

当然だ、据え膳を前にして断ったんだぞ。
それも大好物を断ったようなもんなんだぞ。
これで相手が妹という設定じゃなかったら今頃致していた所だ。

「すいませんね。妹に欲情するような変態兄貴でよ」

こればっかりはどうしようもない。
だが桐乃は何か閃いたらしく、嬉々とした顔で俺に提案してきた。

「口でするなら兄貴のルールにも反しない?」

一拍間をおいて考える。

「反しません」

こってり絞られた。







その夜、桐乃は抱き枕を抱えてベッドの上でツイストしていた。

「何これマジで幸せすぎるんだけど! キモっ、あたしにデレデレする兄貴マジキモっ!
 兄貴ったらなに妹に欲情してんのドン引きするんですけど! 人間として以前に細胞から狂ってるんじゃない?
 ミトコンドリアからぶっ壊れてるんじゃない?
 けどまああたしったら魅力的すぎるし、男としては間違っていないけど。
 だけど普通の妹だったら絶対に地味メンなあんたなんか見向きもしないし、あたしが超優しいからしかたなーく付き合ってるわけで。
 やっぱ無し、仕方なくない。あたしもあんたのルックスとか別に嫌いじゃないし?
 実は着飾ったらあんたイケメンかもとか思ってるけど。声だってイケメン声だし。
 でもそれいったら調子乗ってうざいから仕方なく言わないでおいてるだけだし。
 あぁぁぁああぁぁん! シスコン地味メン兄貴まじきもおぉぉぉおい! さいこおおぉぉぉぉ!
 今日とか殆ど愛の告白じゃん、将来の近いたててんじゃん! エンゲージフラグじゃん!
 婚約指輪ないけど殆ど婚約関係じゃんあたし達、うざっ! マジうざっ! あたし兄専用じゃん!
 あたしの貞操予約した兄貴まじ変態! でもあたし予約日守っちゃう! konozamaなんてしない!
 妹の初体験のマスターアップ完了だけど発売日までまだ先!
 妹の初夜を予約するとかもうシスターコンプレックスをコンプリートしてんじゃんシスターコンプリートじゃん!
 でもやっぱり呼び方シスコンじゃんキモイ! 兄貴にコンプされちゃった!
 兄貴大好き!」





タグ:

高坂 桐乃
+ タグ編集
  • タグ:
  • 高坂 桐乃
最終更新:2011年01月03日 20:06
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。