ちょっと違った未来28

「ちょっと違った未来28」 原作IF。京介×桐乃。黒髪桐乃の過去編



チチチチチ…。

 窓の外から朝の光が差し込んでくる。今日は冬の気温に不釣合いな、まるで春のような晴れ晴れしい空だった。

「京介君は…」

 彼の脇に挟めた体温計を起こさないようにそっと取り出す。体温は37℃…平熱まであと少しだった。

「何か…作らなくちゃ…」

 彼の傍から離れる。

 京介君は昨日から一晩中あたしの手を握っていた。あたしもずっと彼の傍にいた。握っている間魘される事がなかったからだ。

 夜2時台になると急に発熱が始まったので、びっくりしたあたしは救急車を呼ぼうとしたが、京介君にまた例によって行かないでくれ、といわれスマホのタッチパネルを滑らす指を止めた。

 それでも怖くなったあたしは人肌で添い寝をすれば熱が下がる、という言葉を思い出し、勇気をだして裸で彼の布団の中に入った。

 そうしたら彼の体温はみるみる下がっていった。時間を経つ後とにどこかへ逃げていく彼の高熱。その間大量の汗を出しながら彼はあたしの胸元で眠り続けた。

 あたしの人肌に反応したのか、彼の股間にあるだ、男性器が隆々とぼ、勃起していたが、治りかけの今ここで男の人のせ、精を搾り取るわけにはいかない。

「…」

 昨晩の事を一通り思い出した後、何を作ろうかと思い立つ。台所を見れば食材があるにはある。が、台所がカップ麺のゴミだらけだった。ってその前に服を着なくちゃ。今度はあたしが風邪を引いちゃうよ~。

 あたしは昨日脱ぎっぱなしにしていた服を再び着始めた。お気に入りの白いブラを付け始める。背中のホックを留めようとすると…。

「え?」
「…」

 京介君が後ろに立っていた。あたしの体に腕を回している。一晩中汗をかき続けたからか、彼の黒い服はびっしょりと水気で重かった。

「あ、あの…きょ、京介君?」
「…」

 京介君は黙ってあたしの後ろからあたしを抱きしめ続ける。そして、

「あ、あのあたし。これじゃ下着がつけれな、」
「すまなかった」

 京介君は目を閉じてあたしの後ろからそう呟いた。…え?

「あ、あの?きょ、京介君…?」
「嘘なんだ」

 え?何が嘘…?

「俺は…おまえを忘れることなんて…出来ないんだ…」
「…京介君…」

 彼のあたしを抱きしめる力が強くなる。

「もう、もう限界なんだ…」
「…」

「この8年間、おまえを忘れることなんて出来なかった」
「え?」

「どんな女の子に成長してるのだろう…俺のこと忘れないでいてくれているだろうか…そんな事ばかり考えていた…」
「…」

「おまえは昔から可愛いから…もう誰か他の男の物になっているのかとか…あまつさえ、もし、もし結婚して子供までいたりしたらどうしようとか…。考えれば考えるほど気が触れそうだったよ…。嫌それでもおまえが幸せならそれでいいとか…自分の気持ちを騙したりして…。結局俺にはどうしようもない身も蓋もないことばかりを考えていた…」
「…」

「それでもあの日再会したおまえは…俺の想像を遥かに超えるほど綺麗になってて…。俺の理想の女の子に成長してて…。だけど俺の中じゃどうしようもなくって…。だって俺とおまえは…」
「…」

 京介君はごくりと唾を飲み込み言葉をとめる。?一体何のことだろう?

「でも…でも…もう限界なんだよ…。日を追うごとにおまえへの思いが積もっていく…。日を追うごとにおまえへの思いが抑えられなくなっていく…。」
「京介君…」

「桐乃…お願いだ…もう、もう二度と…」
「…」

「二度と俺の前から…うむ?!」
「…」

 あたしに向かって自分の思いを囁く彼に向かって、彼の口唇を塞いだ。

「ん…」
「…」

 困惑する京介君。しかしその困惑も次第に…。

「ん…」
「好…き…」

 それからあたしとおにいちゃんは昼夜を問わずお互いの身体を貪り続けた。




~~~




「ねえ?京介君」
「うん?」

 久方ぶりに服を着ようとするが、あの日からずっと放置していたから…約一週間洗っていない。

「さすがに…これはね…」
「はは…」

 脱ぎ捨てられた黒のニーソックスとショートパンツに白のブラジャーにパンティー。さすがに洗濯に出す必要がある。

「京介君、何か服を借りるね」
「ああ」


 彼もあたしに合わせて服を着始める。

 彼のアパートに泊まりこんで約一週間。あの日からあたし達は大学にも行かず寝食を忘れるくらいにずっとお互いの肉体を求め合っていた。

 当然避妊具もないしそれまで男性経験のないあたしもピルなど飲んだことがなかったが、何もなしでまぐあい続けた。

 彼はゴムがないことに心を痛め、買ってくる、もうやめようと言ってくれたが、子宮の疼きを抑えることの出来なかったあたしはそのままおねだりを繰り返した。

 彼は精力絶倫でずっとあたしを休みなく犯し続けた。二人の汗と出された体液でびっしょりになったお互いの身体を洗うため、お風呂に入った時もだ。

 シャワーを浴びて髪を彼の家のシャンプーで洗うあたしを後ろからまさぐり始め、そのままバックから何度も何度も犯し抜かれた。

 彼の剛直な肉棒は下腹部の腹直筋ごと絶えず隆々と勃起していて、あたしを片時も休ませてはもらえなかった。

女を服従させるその男性ホルモンの塊は女なら思わずうっとりするほどのもので、それがこうして犯されたくてたまらなかった大好きな人のものだと考えると…。

頑強な雄のそんな姿とそんな彼のあたしへの想いに呼応するようにあたしの発情がとどまる事を知らない肉体も彼のすっかり男になった細身でたくましい筋肉質な肉体を求め続けた。

そしてそれから昼夜を問わずあたしが泣こうが喚こうが彼はずっとあたしを犯し続けた。

「何かないかな~?あ!」

 いいものみ~つけた!うふふ…。男の人ってこういうの大好きなんだもんね。これ着て京介君を困らせちゃおうっと♪

「ねえねえ~?京介君~?」
「うん?ってうお?!」

 京介君は驚いていた。あたしが何もない裸の上から彼の男性用Yシャツ一枚の姿で現れたからだ。…やっぱり男の子って大きいなあ~。

 腕の袖がたっぷり余っているし、下の裾はすっぽり下半身の大事な部分まで覆い隠せてる。それに首もとのカッターの汗の後が…っくんくん…くんくん…男の人の…くんくん…それも京介君の…くんくんすんすん…たくましい…すんすん…すえた臭いが…くんかくんか…して…。

「…おい」
「は?!」

 我に返ったあたしが最初に視認するは、じとーと目の前であたしを見つめる京介君であった。

「…」
「は、はう~。ご、ごめんなさい…あ、あまりにもいい臭いだから…」

 じと~っとあたしを見つめる京介君。ううう…その冷たい視線が痛い…。

 あたしが申し訳なさそうに俯いていると、

「ぷっ!!ははははははははは!!」
「え?え?ええ~?!」

 彼はさっきまでのじと~とした顔をどこへやら、一気に破顔した。そして…。

「おまえってさ…そういう性癖でもあるのか?」
「う…うう~」

 にやにやと嬉しそうに笑う京介君。…そうだった。かつての彼もこんな風にしてあたしをからかうことが度々あった。そんなかつての彼と今の彼がぴったりと重なり…。

「ふふふ」
「?なんだよ。どうしたいきなり笑って」

 やっぱりおにいちゃんはいつまでたっても桐乃のおにいちゃんで。

「ふふ…なんでもないよぉ」
「…ほんとか~?」

 彼はあたしの目を見つめながら迫ってくる。

 あたしは黙ってそれを受け入れる。

「桐乃…」
「京介君…」

 もう一度熱い口付けを交わそうとしたその時…。


「ふふふ…続きを続けたらいかがです?お兄さん」



~~~




「…」

「ッ!」
「え?!」

 振り向くと部屋の入り口にあやせが立っていた。今までどこかへ出かけていたのであろうか、大きなキャリーケースが玄関に立てかけられており、白いボトルネックコートに黒のロングブーツを履いていた。そして…。

「…」

 あやせは笑顔だった。穏やかな笑みをその清楚で綺麗な顔に貼り付けていた。そしてそれがこの状況とあまりにも不釣合いで…普段の彼女からは想像もつかないほど不気味だった。

「こんばんは。お兄さん。私がいない間どうでしたか?楽しくしていましたか?」
「…」

「ふふ。何をそんなに緊張してるんです?私の帰国の日は今日だって、前々から何度も言っていたじゃないですか?」
「…」

「向こうでも大変でしたよ。東洋人って顔立ちが幼いから小学生と勘違いされて。中学生ならまだしも小学生ですよ?ふふ、これは喜んでいいのかな?私もまだまだ若いってことなのかな」
「…」

「向こうでも沢山ナンパされて…。そうそう!ハリウッドでよく出入りしている男の人にも熱心に声を掛けられたんですよ?君のためなら日本にだってどこだって行ける、ってまで言われちゃって…。その上とってもイケメンなんです!ふふ…すごく情熱的でしょう?あ~あ、お兄さんもあれだけアタックしてくれたらなあ」
「…」

「たくさんメールも送ったんですけどね。あっちの綺麗な景色や楽しかったこと…携帯の写真をメールに添付したんですけど、読んでくれましたか?」
「…」

「ふふ…読んでるわけ、ありませんよね…」

 あやせは今までのどこか楽しそうな穏やかな笑顔から、一転。暗転し、

「気持ち悪い」

 ぽつり、とそう呟いた。

「…」
「え?」

「気持ち悪い」

 光彩を失った大きな瞳で、すべての表情を失くし体温のない氷のような顔で。

「気持ち悪い」

「…」
「え?あ、あやせ…」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…」

「…」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い………」

 そう、壊れた蓄音機のようにあやせは呪詛を肺腑から搾り出すように繰り返した。

「あ、あやせ…お、落ちつい、」

「うるさいッッッッ!!」

 あやせに一喝され身体が瞬間的に萎縮する。そして…

「何を…何をやっているんですかッッ!!」

「…」

「貴方達は…貴方達は!!実の兄妹でしょうッッッ??!!」

 あやせは悲壮感溢れる声を、あたし達にそうぶつけた。





~~~





「え?ど、どういうこと…なの…」
「…」

 あやせは部屋にブーツを履いたまま上がりこんでくる。え?今何て言ったの?言葉の意味がよくわからない。京介君はあたしの幼馴染でおじさんの子供で…。

「どういうこと?」
「…」

 京介君は黙ってあやせを睨んでいる。しかし何も口を開かない。

「どういうこと、なの?」

「言葉通りの意味よ!!」

 あやせは叫ぶ。こんなにも怒りの感情を露にするあやせをあたしは見たことがない。それはあたし以外もそうであるはずだ。

「貴方達は血の繋がった実の兄妹だって、そう言っているのよっ!!」
「っ?!」
「…」

 京介君は何も答えない。え?何これ?一体どういう…。

「汚らわしい…」
「…」

「汚らわしい!!汚らわしい汚らわしい!!汚らわしい女!!」
「っ!!」

 あやせは未だかつて見せたことのない、焼き殺さんばかりの憎悪をあたしにぶつける。

「この泥棒猫!!その体で誘惑して…!!一体お兄さんに何をした!!」

そして…。

「おまえが…!!」
「ひ!!」

 白いロングのボトルネックコートのポケットからスタンガンを取り出す。そのままあたしに…。でも…。

バチバチバチ!!

「ぐ!」
「おにいちゃん!!」

 その放たれる電撃を代わりに受けたのは京介君だった。背中からあたしを庇い、体が一気に弛緩し緩慢な動作で地面に膝から落ちて仰向けに倒れる。

「お、おにいちゃん!おにいちゃん!!」
「ひ、ぅ…お、お兄さん…」

 あやせはがちがちと震えだす。そんなはずじゃなかったと言わんばかりに目じりに涙の粒が一つだけ溜まっていた。

「あ、あやせぇええ!!」

 反射的にあたしはあやせに叫び掴みかかっていた。あやせもあたしに突然突進されて倒れこむ。

「ぐ…ぅ…きり…のぉ…!!」
「ううううう~!」

 もつれ合い揉みくちゃになる。あたしはあやせの手からスタンガンを必死に奪おうとする。あやせはそんなあたしを突き放そうとスタンガンを持っていない片手であたしの頭を上から押さえつける。

 あやせはあたしがこんな荒事なんて縁がないだろうと高をくくっていたのだろうか、しかし予想外の反撃に面食らって明らかに動揺していた。

「それを…手から…離して…!!」
「桐乃のぉ…癖にぃ…!!」

ぐぐぐ…。

 あやせはなおもあたしの頭を押さえつけ、

「桐乃は…いつもいつも…私のこと馬鹿にして…!」

 何を?

「私が必死で…頑張っても…これだけしか出来ないのかって…内心小ばかにしてたん…でしょう?!」
「な、なにを…わけの…わからない…こと…!」

 意味がわからない。それなら、それならそっちだって…!

「あ、あやせ…だってぇ…!!あたしのこと…いつもいつも…見下してたこと…全部…知ってるんだか…らぁ…!!」

「!?桐乃…貴女…貴女そんな風に今まで私の事…!!」

 そのままスタンガンの所有権をお互いに制そうと、奪いにかかるあたしと守りにかかるあやせ。しかし…。

「きゃあ?!」

 バチバチ!

スタンガンが一瞬だけあたしに触れてしまった。あたしの体は一瞬で沈黙する。

「ふん…はあ…はあ…あはは…。あはははは!!思い知ったか、雌猫!!」
「うう…」

 駄目だ…ぴくりとも動かない。悔しい…。

「あは、あはは…!あはははは!!鍛え方が、鍛え方が違うのよ!いくら、いくらダイヤの原石でも磨かなければ路傍の石ころと何ら変わらないのよ!?」
「ぐぅぅ…」

「ふふ。でも安心して?こんなスタンガンくらいで死にはしないから。所詮護身用だし既に自分の体でどのくらいの威力か実験済みだしね。安心してくたばっているといいよ?」
「…!」

「それよりも…」

 あやせは京介君の方へと向き直り、

「ごめんなさい、お兄さん。痛かったでしょう?」
「あやせ…おまえ…」

 あやせは京介君の体を愛おしそうにさすりながら…。

「もう、あの不埒な雌猫は私が退治しましたから」

 そう、にっこりと。この場に似つかわしくない笑顔でそう告げた。




~~~




 その場の勝負を制したのは私だった。桐乃のいきなりの横からの襲撃と思いもしない馬鹿力には驚いたが、それでも桐乃の作戦は愚の骨頂だと言えた。

 近接戦闘で武器を、ましてやスタンガンを持っている相手に掴みかかるなんて愚かの極みなのよ!!

 しかしこれは自明の理だともいえた。天が、神が私の見方をしているのだ。天の理が兄妹間の禁忌を否と言っているのだ。従ってこの女のお兄さんに対する想いなど芽吹くはずもない。そんなことは世の常識が、この世界が…、そしてこの私が絶対に許しはしない!!

「ぐ…ぅ…き、りの…」

 お兄さんが呻く。スタンガンの威力が痴漢撃退用の威力しかないとはいえ、突然でびっくりしたはずだ。けれど威力が威力だからすぐに体の自由が回復するはずだ。

「お兄さん」
「あやせ…おまえ…」

「ごめんなさい。痛かったでしょう?もう大丈夫です。安心して下さい。あの女は私が成敗しましたし、お兄さんの体もじき回復するはずです」
「…」

 あの女は後で衣服を剥いて道端にでも捨ててやろう。見てくれだけはいいからきっとたくさんの男達に可愛がってもらえるはずだ。よかったね?桐乃。男に飢えた貴女のその願い、簡単に叶えられちゃうんだよ?

私は仰向けになっているお兄さんの腰の上にまたがって、

「さあ…すこし他の女の性が付着して汚れてしまいましたね。今…綺麗にしてさしあげます」
「…」

 私はお兄さんの首筋に下を這わせる。唾液をふんだんに使い、薄くしかし凹凸のある引き締まった胸板にまで舌を這わす。

「お兄さん…んあ…美味しい…ふふ…」
「…」

「んふっ、どうですかお兄さん?こんなこと実の妹には、桐乃には出来ませんよ?」
「…」

「んふふ…」

 しかしお兄さんは、

「どけ」

「…え?」

 お兄さんは私の目を見つめながら。

「どいてくれ」

「ッ!」

 なんで…どうして…お兄さん…。

「お、お兄さ、」

「俺が愛しているのは桐乃だけなんだ」

「ッッ!?」

 そう、はっきりと宣言した。




~~~




「な、んで…」
「…」

「あの子と結ばれることがどれほどの罪なのか…貴女が一番わかっているはずでしょう?」
「…」

「周りの人も、あの子も、そして何よりあなた自身が不幸になる…。絶対に誰からも祝福してもらえない…」
「…」

「それなのに、なんで…」
「…」

 京介君は答えない。あやせの動揺する瞳を真っ向から受け止め、それでも視線をそらさない。

「…」

 あやせは沈黙する。そして倒れているあたしの目の前であやせは光彩の全く欠いた瞳を京介君に向けて、


「気持ち悪い」
「…」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…」
「…」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…」
「…」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」
「…」

「でも!!」

 あやせは京介君の腰の上にのしかかりながら、



「そんな人をどうしようもなく好きになってしまった私はどうすればいいんですか!!??」



「あやせ…」

「答えて下さいっ!!お兄さんっ!!」

 あやせの咆哮。行き場の失った感情。あの誰にでも優しく、綺麗で美しく、皆の憧れの的だったあやせが…。髪を振り乱し必死に京介君答えを求める。

「…すまん」
「ッ!」

「俺は…もう…騙せない…」
「何を…ですか…?」

 京介君は感情を搾り出すような声で。

「俺はもう…自分を騙せない…」
「…」

 京介君はあやせの目を逸らさずしっかり見て、

「俺は…おまえを…利用した…」
「…」

「あの時あきらめたはずの…桐乃が…突然目の前に現れて…」
「…」

「もう…これ以上は無理だと思っていたから…二度と会うことがないと思っていたから…。でも…」
「…」

「それでも俺の前に現れた桐乃は…どんどん俺の心の裡を…空白を埋めていって…」
「…」

「それがどうしようもなく怖くて…」
「…」

「それで…それでおまえを…」
「…」

 あやせは京介君にのしかかり、じっと俯いている。彼女の艶やかな黒髪に顔を隠されて表情が見えない。

「あやせ…俺は…!」

「お兄さん」

 顔を上げたあやせは今までの激情はどこかへ、再びあの穏やかな、しかしどこか艶然な笑みを浮かべていた。

「お兄さん。私と、やり直しましょう?」
「…」

「ふふ…お兄さんったら。酷いんですから。私のいない間に他の女の子に手を出すなんて…」
「…」

「この一回だけですよ?ふふ…私お兄さんのためなら何でも出来ますけど浮気には厳しいんです。英雄色を好むなんて言葉…私達にはないんですよ?」
「…」

「けれどこの責任の一端は私にもありますよね。愛する彼を一人にさせていたのですから…」
「…」

「ふふ…お兄さん見てください。どうですか?」

 あやせは京介君の腰の上で着ていたボトルネックコートを脱ぎ始め、下に履いているミニスカートのボタンを外し始めた。

「…」
「ふふ…」

 そのまま中に履いている黒のストッキングを破き始める。その中からピンク色の下着が露になる。そして…。

「ほら。よく見てください。私のここ、こんなに濡れてるんです…」
「…」

 彼女の下着の奥は濡れていた。左右の指で自らの秘処を拡げるあやせ。てらてらと光を反射して綺麗に光るそれは、年齢にふさわしくない成熟した妖艶さを醸し出していた。

「…」
「んふ…。お兄さんのことを想うと私…こんなになっちゃうんです」

 そう胸をまさぐりながら、あやせは京介君の腰の上で自分の腰をくねらせる。

「あの日…私とお兄さんが出会った、私にとっての運命だったあの日…。あの日からずっとお兄さんのことを一人想って自分で自分のことを慰めていたんですよ?」
「…」

「でもご安心下さい。私はまだ処女です。周りの子達って皆早くって…。皆すぐに恋愛したら肉体関係をもってどこの誰ともわからない人に処女をあげてましたけど…私は違います」
「…」

「いつも…いつもお兄さんのことだけを考えていました。出会ったあの日から…。ふふ…わたしって一目ぼれとか甘い恋愛とか全く信じないドライな性格だったんですけど、価値観が変わりました。何故だと思いますか?」
「…」

「お兄さんのせいですよ。お兄さんがすべていけないんです。私はすっかり、ふふふ…お兄さんの色に染まってるってことなんです」

「…」

 そうしてあやせは京介君の手を自分の胸に当てる。

「ぁ…ん。ふふ、どうですか?柔らかいでしょう?男の人は皆ゴツゴツしてるから…。女の子の体ってみんな柔らかいんです」

「…」

「もちろん私の肉体は全て貴方のものです。おっぱいだって毎日好きに使ってくれたって構いません。赤ちゃんのようにたくさんおしゃぶりしてくれても…ふふ…どんないやらしい行為もすべて喜んで受け入れます」
「…」

「それに、ほら…。子宮だってもうこんなに育っているんです。これもすべてこれから先お兄さんだけのものです。いくらでも楽しんでください。旦那様にご満足いただくのは妻の役目ですから。それに元気な赤ちゃんだってたくさん産むことだってできるんです。いくらでもお兄さんの欲望の赴くまま孕ませてください」
「…」

「なんでしたら繋いで下さっても構いませんよ?お兄さんが求めるならどんなことだってすべて受け入れます…。首輪と両手両足を鎖に繋いでお兄さん専用の性奴隷、なんていかがですか?お兄さんの臭いをすべて私につけて飼ってみたいと思いませんか?毎朝毎晩お兄さんの望みのままに御奉仕いたします。お兄さん専用の奴隷なんですもの…当然ですよね?」
「…」

「私は永遠に貴方だけのものなんですから…。雌が強い雄に媚びるのは、尽くすのは当然のことなんです。私のこの肉体はすべて貴方のもの…。欲望の赴くままどんな時でもどんな場所でも調教して下さい。ずっと…ずっと私の心も体も貴方に明け渡しているんですから…」
「…」

 京介君は答えない。じっとあやせの瞳を見つめたまま答えない。それを…。

「…どうしてなんですか」

 あやせは艶然とした笑みを一転、

「どうしてなんですかっ!!」

 そう、再び、その激情を京介君にぶつけた。

「…」

「こんなの…こんなの…」

 あやせの体は震えだす。もう耐えられない、といわんばかりに。

「こんなのあんまりにも私がみじめじゃないですかッッ!?」

「…」

「惨めすぎるじゃないですか…!」

「…」

「答えてっっ!!」

「桐乃を愛してるんだ」

「ッ!」

 京介君はあやせの視線を逸らさずに受け止めてはっきりとそう言った。その言葉に他の意味を解釈する余地はどこにもなかった。

 あやせは瞠目する。京介君を、信じられないことを聞いたかのように。聞きたくないことを聞いてしまったように。

「桐乃を…愛してるんだ」

「…お兄さんは疲れてるんです。いつもいつも連日頑張ってましたから」

 あやせは優しく微笑みかける。女の私から見ても、慈愛に満ちた聖母のような輝きだった。

「桐乃を…愛してるんだ」

「そうだ、一緒にお風呂に浸かりましょう。お背中流させて下さいな。いい香りのする石鹸を仕事場でいただいたんです。ベルギーからのお土産なんですって。お兄さんの筋肉質で広い背中…私の小さな手のひらに納まりきるかなぁ」

「桐乃を、愛してるんだ」

「ふふ…こんなにたくさんの隈までつくって…。今晩は一緒に寝ましょう?私の事抱き枕代わりにして下さいな。この日の為に今まで身体の隅々まで磨いてきたんですよ?抱き心地だってお兄さんのご満足いただけるものかと」

「俺は!」

 京介君は叫ぶ。痺れて動けない身体を精一杯振り絞って。

「俺は桐乃が!桐乃だけを愛してるんだ!!」

「…うるさい」

「どうしようもなかった…絶望しかなかった子供時代から今まで…。俺の心を支えてくれたのは桐乃だったんだ!!」

「うるさいッッ!!」

 あやせが激高する。そのまま…

 ガスッ!

 京介君にのしかかったその姿勢から拳を振り下ろす。いつも皆が憧れていた彼女のピアニストのような綺麗で繊細な線をもつ手…。それが皮で破れみるみるうちに赤く染まり上がる。

「どうして!?どうして桐乃なんですか?!ほんの少し、「ほんの少し」出会うのが先だっただけじゃないですかっ?!」

 それでも…それでも京介君は…。

「桐乃は俺のすべてなんだよ!!俺の存在のすべてなんだ!!」

 京介君もあたしへの思いのたけを思い切りぶつける。

「俺は…!桐乃を…桐乃のことを…」

「うるさい!!しゃべるなッッ!!耳が腐るッッ!!あの女の、あの女の名前を口に出すなッッ!!」

 ガスッガスッガスッ!!

 あやせは京介君の口から出るその言葉を封じようと左右の拳を何度も何度も振り下ろす。彼女の指から流れる血が弧を描き空中に飛び散る。それでも…。

「俺、は…」

 ガスッガスッガスッ!!

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ!!ぐうう…!もう…ひっく…ひぇっ…もう…うぇっ…!!もう…もうやめてぇ…!!やめてよぉ…!!」

 次第に攻撃の手が緩やかに止まっていき、泣きじゃくるあやせ。下には血まみれになってもなおあやせを見つめ続ける京介君がいた。

「…」

 あやせの攻撃をすべて黙って受け入れていた京介君。あやせの情熱を、どこまでも熱く煮えたぎる彼女の深すぎる想いをすべて受け止めたはずだ。それでも…。

「…」

京介君のその瞳の中には目の前にいるあやせではなくあたしの姿が映っていた。その事実が、彼の一向に揺るがないあたしへのその思いが、彼女にとっては何よりも認めがたく…。

「もうやめてええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 鬼女のような姿から、幼子のように泣きじゃくるその見るに耐えない姿を延々と見せた後…あやせは糸が切れたように気を失った。





続く

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最終更新:2013年03月18日 23:55
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