ふたば系ゆっくりいじめ 512 恐怖! ゆっくり怪人

恐怖! ゆっくり怪人 25KB


虐待 パロディ 理不尽 舞台・現代より少し過去

「ただいまー」
 セーラー服を着た少女が家に帰ってきた。
「たっだいまー!」
 返事が無いので、大きくもう一度言った。
 鍵が開いていたので、誰かしらいるはずなのはわかっていた。
「おにいちゃん、おかあさーん」
 この時間に父親が帰って来ている可能性は低い。だから、兄か母だろうと思っていた。
「寝てんのー?」
 いつまでも返事が無いのに、少し苛立った。
 台所に行くと、一人の人間が冷蔵庫を開けて中を覗き込んでいた。
 体格と着ている服でわかる。兄だ。
「もー、おにいちゃん、いるんじゃーん」
 実は全く返事が無いのに少し不安になっていた少女は、ほっとしながらもなじるように
言った。
「むーしゃむーしゃ」
 背中を向けたまま、兄は何かを食べているようだ。
「ちょっと、返事ぐらいしなよ」
 そんなにお腹が減っているのかとおかしくなった少女は苦笑しながら言う。
「……?」
 そこで、気付いた。
 兄の頭に、赤いリボンがついていることに。
 なんだか理解するのに時間がかかった。
「なにそれ?」
 女装? そっちの趣味でもあったのか。
 いやいや、冗談好きの兄のこと、またなにかふざけて馬鹿なことをしているに違いない。
「ねえ、何やってんのよー」
「ゆっ!」
 兄が、振り向いた。
 しかし、それは兄ではなかった。
「ゆっくりしていってね!」
「……は?」
 それは、黒髪で赤いリボンをつけたゆっくり。れいむ種に分類されるそれだった。
「ゆっくりしていってね!」
「は? は? え?」
 ゆっくりのことはもちろん知っている。
 戸締りを忘れたりすると家に入り込んで荒らしたり、誰もいなかったからここは自分た
ちの家だと思い込んだりする迷惑な不思議生物だ。
 しかし、そのゆっくりれいむの下についている体は紛れもなく人間のものであり、着て
いる服は間違いなく兄のものだ。
 肩幅だって背の高さだって、兄と同じだ。
「お、おにいちゃんは? おにいちゃんは?」
 しかしとにかく、これは兄ではない。こんな顔がゆっくりれいむなものが兄なわけはな
い。
「ゆゆぅ、この体の人のことだね」
 れいむは、へらっと笑った。凄く、嫌な感じのする笑みだ。
「それなられいむがむーしゃむーしゃしちゃったよ! 体はれいむが貰っちゃったよ! 
ゆっくりりかいしてね!」
 と、ゲラゲラ笑いながられいむが手に持っていたものを少女に突きつける。
 ああ、そうか。
 このれいむが乗っかっている体は、やはり兄のものだったのだ。
 そして、れいむが手に持ってかじっていたものが兄の――。
「きゃあああああああああああああああ!」
 張り裂けんばかりの悲鳴。
「おお、うるさいうるさい」
 馬鹿にしたように笑うれいむ。
「ああああああああああああ! っっっ!!」
 脳をまるごと攪拌されたような衝撃で、頭の中から思考がふっ飛ぶ。
 逃げた。
 少女は、とにかくその場から逃げた。
 家を出て、恐怖に震えながら左右を見る。
「ゆゆーん、ゆっくりしていってね! にげないでね!」
 後ろから声が近付いてくる。
 いつもはただのうざい生き物としか思わず、邪魔なのを何度か蹴飛ばしたこともある少
女だが、あれは違う。あれはゆっくりだけど、違う。人間の体を乗っ取って頭を食べるゆ
っくりなど、ゆっくりではない。
 少女は、右に走った。少女はそちらから帰ってきた。お隣のおじさんも帰ってきたとこ
ろで挨拶をした。今、おじさんは家にいるはず。
「おじさん!」
 叫ぶと同時にドアを開ける。
 目に飛び込んできたのは、驚愕に両目を一杯に見開いた形相のおじさんの顔。
 そして、そこから流れたもので出来た赤い水溜り。
「ゆっくりしていってね!」
 耳に入ってきたのは、いまや恐怖そのものと言える声。
 今さっき挨拶したおじさんが着ていた服だった。
 頭が、黒い山高帽をかぶったゆっくりまりさになっている以外は、今さっき挨拶したお
じさんのままだった。
「い゛ゃああああああああ! なんな゛のぉぉぉぉぉ!」
 すぐに家から出る。
「ゆっくりしていってね!」
 しかし、既に兄の体を乗っ取ったれいむがやってきていた。
「や゛あああああああ!」
 方向転換をしようとして足をもつれさせて倒れる少女。
「ゆゆーん!」
 腰が抜けて立ち上がれぬまま震える少女の耳に、また別のゆっくりらしき声が聞こえた。
「ゆっゆっゆっ! お前も体を乗っ取ってやるよ!」
 それはゆっくりれいむだったが、体から下に見覚えが無かった。というよりも、普通の
服装ではなかった。なにやら鎧のようなものをつけているのだ。
「ゆっゆっ! この村はすぐに我らゲスショッパーのものだよ!」
 その鎧を着たれいむはゲラゲラと笑った。それに兄の体のれいむとおじさんの体のまり
さも和して笑う。
 ゲラゲラゲラゲラ
 少女は、絶望していた。
 自分もああなる。
 自分も体を乗っ取られてしまうのだ、と。

「待てぇーゐ!」
 しかし、そこに一人の男が現れた。
 男は、現れるなり、まりさに飛び蹴りをかましてふっ飛ばした。
「ゲスショッパーめ! おまえたちの思い通りにはさせんぞ!」
「ゆゆーん! おまえは大本営タケシ、もう嗅ぎつけてきたんだね! ゆっくりしてない
よ!」
 鎧れいむが忌々しげにその男を指差して言った。
「ゆーっ! ひとまずゆっくりしないで退けー!」
「ゆゆーん!」
「ゆゆーん!」
 鎧れいむが命令して身を翻すと、れいむとまりさもそれに倣った。
「待て! 逃がさんぞ!」
 男――大本営タケシはそれを追おうとするが、うずくまって泣きじゃくる少女を見て少
し迷った風だった。
「アニキ!」
 そこへ、車に乗った男が現れた。
「力也! その子を頼む!」
「わかった。まかせてくれ!」
 力也――大本営タケシをアニキと慕い、ともにゲスショッパーと戦う頼りになる仲間だ。

 村外れにある神社の境内に逃げてきた鎧れいむたち。
「待てぇーゐ! とうッ!」
 だが、大本営タケシに追いつかれてしまった。
「ゆゆん! ここまで来ればこっちのものだよ! かかれーっ!」
 鎧れいむが言うと、そこかしこからゲスショッパーの戦闘員が現れた。なんといつもと
は違い、みんなゆっくりれいむやまりさを模した仮面を被っている。
「とうッ! とうッ!」
 大本営タケシは襲い掛かる戦闘員たちを殴り蹴り投げ飛ばした。
「「ゆゆーん!」」
 だが、戦闘員を倒したと思ったところへ、例の人間の体を乗っ取ったれいむとまりさが
襲い掛かってくる。
「ぐわっ!」
 大本営タケシは、れいむとまりさの連携攻撃を喰らって地面を転がった。

「ライダー……へんっしんっ! とうッ!」

 覆面ライダー、大本営タケシは改造人間である!
 彼を改造したショッパー(現在はゲスダムと統合してゲスショッパー)は世界制服を狙
う悪の秘密結社であるッ!
 人間の自由のため、ライダーはゲスショッパーと戦うのだッ!

「ゆっくりしね! 覆面ライダー、大本営タケシめ!」
 へんっしんっ、した後の覆面ライダーはまるで覆面を被ったような頭だが、無論それが
正真正銘の頭部である。ぱっと見、銀行強盗だがその体には、熱い正義の血が流れている
のだッ!
「来いっ、怪人め!」
 覆面ライダーは鎧れいむ――ゲスショッパーのゆっくり怪人と対峙して恐れる色も無く
言い放った。
「ゆゆーん!」
 まりさが襲い掛かってくるが、へんっしんっして覆面ライダーとなった今や敵ではない。
「ライダーサミング!」
 いきなりの大技が炸裂した。
 ライダーの右手の親指がまりさの左目にずぶりと突き刺さった。
「ゆっぎゃあああああ!」
 悲鳴を上げるまりさだが、改造されてゲスショッパーの手下となり罪の無い人を危めた
ゲスに情けは無用だ。
「ゆっくりしね!」
 れいむがまりさを助けんと襲ってくる。
「ライダーサミング投げ!」
 だが、目に突っ込んだ指を動かして思うようにまりさを操って不安定な体勢にさせたラ
イダーは、そこから投げを打ち、まんまとまりさをれいむに激突させることに成功した。
 覆面ライダー二十六の殺人技の一つ、ライダーサミングとそこからの派生技、ライダー
サミング投げである。良い子は真似するんじゃないぞ! 大本営タケシが番組の終わりに
爽やかにお願いしても真似する良い子が続出して多少社会問題化したものの、そのまま行
った。昔はおおらかだったんだよッ!

「ゆゆーん! 永遠にゆっくりさせてやる!」
 とうとう、一人になったゆっくり怪人が自らライダーに立ち向かってきた。
「ゆゆーん! ゆゆーん!」
 ゆっくり怪人が叫ぶと、鎧の胸の部分が開き、なんとそこから小さなちびゆっくりが飛
び出してきた。
「ぬぬっ! くそっ!」
 たくさんのちびゆっくりに絶えず体当たりをされ、さすがのライダーが苦戦する。
「とうッ! とうッ!」
「ゆびぃ!」
「ゆべっ!」
 パンチやキックで潰しまくる。
「それっ、あまあまだ!」
 潰したちびゆっくりの中身を投げると、それへ群がるちびゆっくりたち。
「今だ! ライダーボルケイノ!」
 二十六の殺人技の一つライダーボルケイノが炸裂した。
 手の先から炎を噴き出す技で、最初の撮影の際に大本営タケシを演じる弘岡正さんが手
を火傷しながら文字通り熱演したことで有名だッ!
「「「あぢゅいぃぃぃぃぃぃ!」」」
 ちびゆっくりたちはあっという間に炎に包まれて絶命する。
「ゆゆーん! よくもかわいいおちびちゃんたちを! ゆっくりしね!」
 ゆっくり怪人が怒りをあらわに襲い掛かってくる。
「ライダー関節キィーック!」
 だが、ライダーはすかさず身を沈め、走ってくるゆっくり怪人の右膝に正面から蹴りを
打ち込む。
「ゆっぎゃああああああ!」
 いい声で鳴いて、ゆっくり怪人が転がって苦しむ。
 これもライダー二十六の殺人技の一つ、ライダー関節キックである。全く可動しない方
向へ膝を蹴り抜くことで一生もののダメージを負わせる恐ろしい技だ。良い子は(中略)
昔はおおらかだったんだよッ!
「とうッ! とうッ! とうッ!」
 倒れたゆっくり怪人をライダーが蹴りまくる。もう敵は完全に満身創痍で、テレビの前
のちびっ子たちも「よしやれ、殺せ!」と熱い声援を送っている時間帯だ。
 だが、相手は狡賢いゲスショッパーの怪人である。
「ゆっくりやべでね! ゆっくりやべでええええ! ゆっくりごめんなさい! ゆっくり
ごめんなさい!」
 ゆっくり怪人は、ひたすら謝り出した。
 そうなると、心優しいライダーは攻撃の手を止めてしまう。
「れ、れいむは、山でみんなとしあわせーに暮らしてたんでずぅぅぅ、でも、でもある日
人間さんがみんなを! それで、人間ざんにふぐしゅうできるっで言うがら、改造手術を
受げだんでずぅぅぅ、ゆるじでぐだざいぃぃぃぃ、れいぶじにだくないでずぅぅぅ!」
 必死に、ゆっくり怪人が許しを乞う。
「もう、ゲスショッパーになんか騙されるんじゃないぞ」
 ライダーが構えを解いた。
「ゆゆーん!」
 待ってましたとばかりに、ゆっくり怪人が地を這うような低空タックルでライダーの足
を絡め取り、まんまと引きずり倒して上に乗った。
「こんな見え見えの泣き落としに引っかかるなんて馬鹿なの? 死ぬの?」
「くっ、だましたな!」
「だまされる方が馬鹿なんだよ! ゆっくりりかいしてね! そしてゆっくり死んでね!」
 ゆっくり怪人が拳を振り落とそうとしたその瞬間――。
「ゆっ!」
 大きな石が凄い速さで飛んできてゆっくり怪人の顔面に激突した。
「とうッ!」
 その隙にライダーはブリッジで跳ね上げて脱出に成功した。
「ゆゆゆっ! ゆっくりじゃましないでね!」
「おまえは!」
 石の飛んできた方向にいたのは、一人の男だった。
 ストッキングを頭にかぶっているためにどんな顔をしているのかはわからない。
「ふん、甘ちゃんめ、そんな見え透いた手に引っかかるとはな!」
 ストッキングマン!
 彼もまた、ゲスショッパーに改造された改造人間であるッ! ストッキングをかぶって
いるように見える頭も、ライダーと同じくそういう頭なのだ。
 これまたライダーと同じく、悪の洗脳手術を受ける前に脱出に成功したストッキングマ
ンだが、ゲスショッパーと敵対しているものの、ライダーが弟を殺したと誤解しているた
めに、ライダーのことも倒さんと一人で戦い続ける孤独な男ッ!
 だが、洗脳手術こそ受けなかったものの、その前の手術の段階で記憶を失い、弟がいた
ということは覚えていても、どんな顔をしていたか、どんなふうに過ごしたかなどは覚え
ていない。それでも彼は、たった一人の肉親の記憶にすがり、それを殺したライダーに復
讐を誓うッ!
 その殺されたと思っている弟こそが大本営タケシその人である。
 二人は、お互いを生き別れた兄と弟であることをまだ知らないッ!
「ふん、助けるのは一回だけだぜ。そんな奴にやられるなよ。お前を殺すのはおれなんだ
からな!」
 言い捨てて、ストッキングマンは去っていった。孤独な背中は何を思うのか!?

「ふん、どうやら奴に助けてもらったようだな」
 ライダーは穏やかな声で言った。自分を仇と付け狙うストッキングマンだが、どうして
も敵と思えぬ暖かさを感じていたのだった。
「ゆ、ゆゆーっ!」
 隙ありと、ゆっくり怪人が飛び掛ってくるが、ライダーは華麗にそれをかわすと右手を
掴んで関節を極めて自由を奪いつつ飛び膝蹴りを叩き込んだ。
「とうッ! とうッ! とうッ!」
 倒れたゆっくり怪人に馬乗りになって殴る。
 それを嫌がって後ろを向いたゆっくり怪人の首を締め上げる。
「ゆ……ゆ……ゆ……」
「ライダー絞殺刑!」
 二十六の殺人技の一つががっちりと決まり、ゆっくり怪人の首が跳ね飛んだ。

 こうして、一つの村を恐怖に陥れたゲスショッパーのゆっくり作戦は覆面ライダーの活
躍によって失敗に終わったのです。
 みなさんも、ゆっくりを見つけたら注意してください。
 ……もしかしたら、それはゲスショッパーの怪人かもしれないのですから。



 覆面ライダー第二十八話「恐怖! ゆっくり怪人」は、なかなかの反響を巻き起こした。
 後半は覆面ライダーが怪人とシャレにならない危険技で殺陣を繰り広げるいつもの展開
だったのだが、前半のホラー風に仕立てた部分が評価されたのだ。
 人間にとって、本来恐れるに足りぬ存在が人間を脅かし恐怖のどん底に突き落とすとい
うアイデア自体は珍しいものではなかった。蟻などを使ってホラー映画に使われた手法だ。
だが、それをゆっくりにやらせたのはこの話が初であり、後に作られた放射能を受けて変
異したゆっくりが人間の体を乗っ取って人間との全面戦争になるホラーアクション映画「
Take it Easy!」の監督はこれに影響を受けたことを認めている。
 そして、この話が大きな影響を与えたものがもう一つあった。



「ゆっゆっ!」
「ゆっくりあそぼうね!」
「こーろこーろするよ!」
「れいみゅもこーろこーろすりゅよ!」
「おねえしゃん、みちぇみちぇ、まりしゃのーびのーびできりゅよ!」
 れいむとまりさのゆっくり姉妹四匹が楽しそうに遊んでいる。
「ゆゆーん、ゆっくりしてるね」
「おねえさんたちはおねえさんらしくなってきたね」
 それをゆっくりした笑顔で眺める親れいむと親まりさ。
 午後の一時、たっぷりとおひるごはんをむーしゃむーしゃした後に、暖かい陽射しに照
らされてのこのゆっくり団欒風景である。
 だが、そこへ――
「おい! ゆっくりがいたぞー!」
 歓喜に満ちた声がした。
「よし、やるぞー」
「へっへっへっ」
 嬉しそうに言いながら現れたのは、歳は十歳かそこいらと思われる三人の少年だった。
「ゆゆっ!? に、にんげんさんたちは、ゆっくりできるひと?」
「ゆっくりできるなられいむたちとあそんでいってね」
「まりしゃといっちょにのーびのーびすりゅ?」
「れいみゅのおうちゃをききちゃい?」
 善良な部類に属する姉妹ゆっくりたちは、ゆっくりと言った。
 それに返事をせずに、少年たち左腕をぐるりと回し、その直後に右腕を斜め上に突き上
げた。
「「「ゆゆゆっ!?」」」
 少年たちは笑顔であり、なんだかとてもゆっくりしているようだと思った姉妹たちは嬉
しくなった。
「「「ライダー……へんっしんっ!」」」
 だが、それはこのゆっくり一家を地獄へ突き落とす前に行われる儀式であった。
「とうッ!」
「ゆ゛っ!」
 おねえさんれいむが、蹴り飛ばされた。
「とうッ!」
「ゆわあ、おしょらを、ゆべ!」
 おねえさんまりさが、持ち上げてから叩き落された。
「とうッ!」
「「ゆぴっ!」」
 いもうとれいむとまりさが、二匹まとめて踏みつけられた。
「な、なにずるのぉぉぉぉぉ!」
「や、やべでね! ゆっぐりでぎないよ!」
 両親は当然驚き戸惑い怒って食って掛かる。
「来い! ゆっくり怪人め!」
「ライダーが相手だ!」
「ゲスショッパーめ!」
 だが少年たちは取り合わずに、一方的な敵意を向けてくる。
 既におわかりであろう。
 もう一つの影響を与えたものとは、子供たちがやる覆面ライダーごっこであった。
 ライダーごっこの際には、誰がライダーをやるか、誰が怪人をやらされるか、で揉めが
ちであった。
 だが、ライダーがゆっくり怪人と戦う勇姿を見てのち、全国のちびっ子たちは、怪人役
にまったくもって適しまくった存在がいることに気付いたのだ。
 既に述べた通り、覆面ライダーの必殺技にはなかなか危険なものが多く、幾度かPTA
から「怪人の脊椎へ対しての攻撃が執拗すぎる」「既に瀕死状態の怪人にトドメを刺さな
いで足関節を極めに行く必然性が無い」などなどとクレームをつけられている。
 中にはやっちまう子供もいたが、ほとんどは大本営タケシの「良い子は真似するなよ」
という言葉を守っていてライダーごっこをやる際も、二十六の殺人技のほぼ全てを封印せ
ざるを得なかった。
 しかし、ゆっくり相手にならなにをしてもいい。むろん人間でいうと頭部しか存在しな
いゆっくりに仕掛けられる技は限られていたが、殺しても構わないというのは大きかった。
「とうッ! ライダーサミング!」
 少年の親指が、ずぶり、と親れいむの右目に突き入れられた。
「ライダーサミング投げ!」
 そのまま腕を振って投げ飛ばす。
「ゆっぎゃああああああ!」
「やべてね、ゆっぐりやべてね!」
 親れいむは右目をえぐられたのと地面への落下のダメージに泣き叫び、親まりさは必死
に懇願した。
「「ゆっくりこわいよぉぉぉ」」
「「たちゅけちぇぇぇ」」
 その親まりさの後ろに子供たちが隠れる。
「ま、まりざおごるよ! 強いんだよ!」
 ぷくぅーっと膨らんで精一杯の威嚇。
 ひょい、と抱え上げられてしまう。
 それでもぷくぅーっとしたままの親まりさを少年は投げ上げた。
 空中にあってもぷくぅーっとしていた親まりさ。
「ライダーキィィィーック!」
 投げ上げた少年が走ってとび蹴りを喰らわせる。
「ゆびゃあああ」
 ぽーんと飛んで行った先には、右目を失った番のれいむがいた。
 ぼてっ、と落ちて呻くまりさに、れいむが心配そうに近付いて行く。
「ば、ばりざぁぁぁ、ゆっぐりじでぇぇぇ」
「ゆ゛ああああ、いだいぃぃぃぃ」
「ぺーろぺーろ、いたがらないでね、ぺーろぺーろ」
「ゆぅぅ、れいむ、ありがとう」
 あまり多くのことを同時に考えられぬ餡子脳ゆえにまりさは自らを苛む痛みに、れいむ
は愛するまりさをぺーろぺーろして癒すことに意識を持ってかれてしまっていた。
 だから、子供たちのことを思い出したのは、子供たちの悲鳴によってだった。
「ゆっぴゃあ! あぢゅぃぃぃぃぃ!」
「ライダーボルケイノ!」
 少年の一人がライターで、子ゆっくりの髪の毛や帽子に火をつけていた。
「「ゆ゛ぴぴぴぴ!」」
 四匹の姉妹たちが転げ回って火を消そうとする。
 だが、あっという間に髪の毛は燃えていってしまう。
「「たじゅげでええええええ!」」
「おちびちゃん、いまたすけるよ!」
「まっててね!」
 親れいむと親まりさがぽよんぽよんと跳ねていく。
「ライダーキィーック!」
 しかし、あと少しというところで蹴り飛ばされてしまった。
「や、やめでね、じゃまじないでね!」
「お、おちびだぢがじんじゃうよ! たずげにいがせで!」
 少年たちの足に怯えながら叫んだが、完全に無視された。
 その間にも、子供たちの髪の毛は燃え尽きて、炎は体に移っていた。
「ゆ、ゆっぐりごべんなざい!」
 親れいむが、ぐにっ、と体を曲げた。
「わるいごどじたならあやばります! おちびぢゃんをだすげでぐだざい!」
 親れいむは、必死に懇願する。
「ゆるじでぐだざい! ばりさだぢ、あやばりますがら!」
 それを見て、親まりさもそれに倣う。とにかくもう全く理由はわからないが、ひたすら
謝って子供が死ぬのだけはなんとか回避したかった。
「うーん、まあ、わかればいいんだ」
 少年の一人が言うのに、二匹は目を輝かせる。やった。なんだかわからないが、どうや
ら人間さんが許してくれそうだ。子供たちも助かる。
「おい待て! それは奴らの手だぞ!」
「そうだぞ、そうやって油断させて襲い掛かってくるぞ!」
 だが、他の二人の少年がそう言った。
「おっと! そうだったな、あぶないあぶない!」
 少年はにやりと笑って言った。
 その間にも子供たちは炎に蹂躙され、体の小さい赤ゆっくり二匹は既に暴れることもで
きなくなっていた。
「な、なんのごと! まりざだぢ、あやばったよ!」
「ゆるじでぐださい! おちびぢゃんをだずげでぐだざいぃぃぃぃ!」
 両親ゆっくりはなおも懇願する。
 少年の一人が謝罪を聞き入れたように振舞ったところから全てが、覆面ライダーの話で
ゆっくり怪人が謝ってライダーを油断させたシーンを再現したごっこ遊びの一部であるこ
とを知らぬままにひたすら謝った。
「もっど……ゆっぐり……じだ……が……た」
 そして、その声が聞こえてきてしまった。
 見れば、四匹の子供は既に一匹残らず焦げ饅頭になって焼け死んでいた。
「「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」」
「よーし、トドメだ」
 悲しみに絶叫したれいむとまりさに、少年たちが近付いてきた。

「ゆっくりしね!」
「ゆっくりやっちゃえ!」
「ゆゆっ! みんながんばっちぇ!」
「がんばりぇ! がんばりぇ!」
 何匹ものゆっくりたちが集まっていた。
「えぅ……えぅ……やめで、もうやだぁぁぁ」
 その真ん中に、まだ小学生になったばかりと言った年頃の女の子がうずくまっている。
「ゆっくりしね!」
 成体サイズの大人ゆっくりたちが四方八方から体当たりをしている。
 小さな女の子と言ってもゆっくりの体当たりごときならばそこまで痛くはないし、走れ
ば逃げられるだろうに、その子はじっと耐えているだけだ。
「がんばりぇぇぇ!」
 小さな子ゆっくりや赤ゆっくりは、それを周りから囃して応援している。
 今、ここにいるゆっくりたちは、いずれも子供たちの覆面ライダーごっこによって肉親
や仲間を失っていた。
 彼らは一致団結し、遂に人間に対して自らの生存と尊厳と復讐を賭けた一大闘争に打っ
て出る覚悟を定めていた。
「おおきなにんげんには勝てないよ、ちいさなやつを狙うんだよ!」
 リーダー格のまりさが少しは餡子脳を回転させて提案した。
 そんなわけで、小さな人間を探していたゆっくりたちは、この少女を見つけて一斉に襲
い掛かったというわけである。
 そして、作戦はまんまと当たった。
 少女はろくな反撃もできずにいた。
「やめて、からだをのっとらないで!」
 と、泣きながら叫ぶので、みんなで口を揃えて、
「「ゆゆん! からだをのっとるよ!」」
 と言ってやったら、ますます泣きじゃくって悲鳴を上げた。
 この少女は元々気が弱く、生物を痛めつけたりすることができない上に、兄と一緒に見
ていた覆面ライダーのせいで、ゆっくりをなにやら恐ろしいものであると認識してしまっ
ていた。
「「「ゆっくりしね!」」」
 殺意と体をぶつけてくるゆっくりたちがひたすら恐ろしかった。きっと自分も首を切ら
れて体を乗っ取られてしまうのだと怯えていた。
 だが――
「「「待てぇーゐ!」」」
 そこへ、三人の少年がやってきた。
 先ほど、ゆっくり一家でライダーごっこをしていた少年たちである。
 彼らは、まだまだ遊び足りなかったのでゆっくりを探していたところ、小さな女の子が
ゆっくりに囲まれて攻撃されているのを見つけたのである。
「おい、助けるぞ!」
「ああ!」
「ゆっくりどもめ!」
 そう言って走り出した時、少年たちの中で正義の心が燃え上がった。
 これは、ごっこじゃない。
 悪いゆっくりに、女の子がやられている。まさに、覆面ライダーと同じシチュエーショ
ンだ。
「「「とうッ!!!」」」
 少年たち、いや、小さなライダーたちは、目を、たぶん正義の光で輝かせながら突進し
た。
 子供と言っても完全にやる気ならば、一人でもゆっくり十匹程度は敵ではないのである。
 勝利の予感にひたっていたゆっくりたちは、悲しいぐらいにあっさりと蹴散らされた。
 気持ちが逸った少年たちは全く手加減や容赦をしないために、次々にゆっくりは餡祭り
に上げられていった。
「ゆぴ!」
「いぢゃ!」
「やめぢぇ!」
 小さな子供たちも、正義の鉄槌を逃れることはできなかった。ことごとく踏み潰されて
死んだ。
 ゆっくりたちを皆殺しにした少年たちは、女の子が泣き止むのを待って家に送り届けて
から解散した。

 翌日、学校で早速その話を吹聴した。
 少年たちの口ぶりは、おれたちはごっこ遊びじゃなくて、本当にライダーのように悪を
倒したのだと言わんばかりの幼い正義感の昂揚に満ちていた。
 他の少年たちは、それを羨んだ。
「よし、おれたちも悪いゆっくりをやっつけようぜ!」
 という声が上がるのにそんなに時間はかからなかった。
 そこで、悪いゆっくりとよいゆっくりをどうやって見分けるのか、とかそういうこまけ
えこたぁいいんだよ、が子供というものである。
 三人の少年たちが実見したことだけで、もうゆっくりは悪いものなのだ。お話の中のゆ
っくり怪人と同じような悪い連中なのだ、ということになっていた。

 とある広場は、ゆっくりプレイスになっていた。
 相当な資産家の私有地ではあるが、もう何年もほったらかしにされている。そこへ野良
ゆっくりたちが住み着いた。
 近所に愛護派の人間が数人住んでいたために、色々と面倒を見てもらっていた。
 大半の住民は別にゆっくりを好いても嫌ってもおらず、花壇を荒らしたり家を乗っ取ろ
うとしない限りは何もされなかった。
 その日、広場のゆっくりたちが集まっていた。
「「「ゆっゆっゆ~っ♪」」」
 おうた自慢のれいむたちが何匹も声を揃えて合唱している。
 それは今日、晴れて結ばれたまりさとありすの番を祝福する歌であった。
 ゆっくりたちがわざわざ結婚式を行っているのは、愛護派の人間に、人間はそういうも
のをすると教えられてのことだ。
「ゆっくりおめでとう!」
「しあわせーになってね!」
「はやくおちびちゃんを見せてゆっくりさせてね!」
「ありすおねーしゃん、きれーだにぇ!」
「ゆぅ、れいみゅもあんにゃふうにけっこんしちゃいよ!」
 みなの祝福を浴びながら、黒い布を体に巻いたまりさと白い布を巻いたありすはゆっく
りと微笑む。
 ちなみに、タキシードとウエディングドレスのつもりである。
 誰もが、狩りが得意で勇敢なまりさと優しくとかいはなありすのカップルの幸福を疑っ
ていなかった。
 で、既に賢明なる読者諸君もあまり賢明でない読者諸君も、この幸せ一杯のゆっくり結
婚式がどのような末路を辿るかお察しのことであろうが……

「うおおおおー! ゆっくりがいたぞー!」

 ドタドタと十五人もの少年たちが広場にやってきた。
「ゆゆ?」
「な、なんなの?」
「ゆ、ゆっくりしていってね?」
「け、けっこんしきをみにきたの?」
 戸惑うゆっくりたちを尻目に、少年たちはポーズをとって叫んだ。
「「「ライダー……へんっしんっ!!!」」」
 とうッ! とかけ声を上げて、ゆっくりたちを手当たり次第にいたぶり始める。
「「「ゆ゛んやぁぁぁぁ! なにずるのぉぉぉぉぉ!」」」
「せまるぅ、ショッパ~♪」
「ゆ、ゆべええええ」
「地獄の封印だぁ~♪」
「や、やべぢぇぇぇ、ごろじゃにゃいでぇぇぇ!」
「我らをねらう黒い影ぇ♪」
「おちびちゃんだけは、おちびちゃんだけはだずげでえええ!」
「世界の平和をまぁもるためぇ♪」
「ちゅ、ちゅぶれるぅぅぅ、ゆぶ!」
「ゴー、ゴー、レッツ、ゴー♪」
「ゆっぐりやべでね! ゆっぐりでぎないよぉぉぉ!」
「くりぬけ目玉ぁ♪」
「ゆっぎゃあああああ!」
「ライダー、サミング♪」
「みえにゃいよ、れいみゅのおめめ、みえにゃいよぉ、いぢゃいよぉぉぉ」
「ライダー、ボルケイノ♪」
「ありずのうぇでぃんぐどれすに火がぁぁぁ! あ、あづいいいいいい、まりざぁ、たず
げでええええ!」
「「「覆面ライダー、覆面ライダー、ライダー、ライダー♪」」」
「ありずぅ……もっど、ありずど……ゆっぐり、した……がっ……た……」

 小さなライダーたちは、嵐のように去っていった。



「はい、みなさん、それでは本日の目玉と参りましょう」
 とある部屋に招じ入れられた男たちは、そこにいたものを見ると目を輝かせる。
「ゆゆっ? ここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!」
「ゆっくりできるならゆっくりしていってもいいよ!」
「おじしゃんたちはゆっきゅちできりゅひと?」
 無数のゆっくりたちだ。
「えー、今日は是非とも心の底から童心に帰って楽しみましょう!」
 司会者らしい男が言った。
「でも、昔みたいにゆっくりを投げて飛び蹴りとかは気をつけてやりましょう。私らもう
若くないんですから」
 そう付け加えると笑い声が上がる。そこにいる男たちは確かに中年ばかりで若い者は一
人もいなかった。
「それでは……」
 一度、声を切ってから司会者は言った。
「出たな! ゆっくり怪人め!」
 そう、それはかつて子供の頃に覆面ライダーごっこでゆっくりをなぶり殺して遊んでい
るうちに、ゆっくり虐待に目覚めてしまった人間の集まりだった。
 同じ年頃の同志に、目覚めたきっかけがライダーごっこだったという人間が多いために
一度その人間だけで集まろうという話が持ち上がったのだ。
 いい歳した男たちは、まるで少年のような無垢な笑顔で微笑んでいた。
 それを見て、ゆっくりできる人間さんのようだと思ったゆっくりたちもゆっくりと微笑
む。
 大きくなったかつての少年たちは、あの頃のように笑顔のまま、左腕をぐるりと回して
から右腕を斜め上に突き上げた。
 みんなでやれば怖くない、みんなでやれば恥かしくない。

「「「ライダー……へんっしんっ!!!」」」

                                  終わり



 おれがすげえジジィになった時、いきなりゆっくり虐待を思い出して再びハマったりす
るんだろうか。



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感想

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  • 飼いゆっくり殺してないーーーーーー

    -- 2018-05-14 23:21:17
  • 女の子助けた少年達かっこいい!
    ゆっくりが結婚式とかキモイと思ったら案の定潰されてすっきりー! -- 2013-04-15 11:02:43
  • 近所に住んでた愛護派の人間達は、このクソガキどもを注意しなかったのか -- 2012-09-19 21:01:48
  • 攻撃が執拗すぎるの所に吹いた。 -- 2011-09-15 17:09:40
  • ゼロノスは寝技じゃないプロレスだ -- 2010-12-23 12:02:21
  • これめっちゃ面白れえwww最高にゆっくり出来ましたw
    >PTAから「怪人の脊椎へ対しての攻撃が執拗すぎる」
    これには俺も大笑いしたww初めてPTAの指摘に納得だよw
    なんか最後ノスタルジィで良い話みたいになってるしww -- 2010-11-27 20:10:54
  • 電車の中で大笑いしたw -- 2010-09-16 11:59:33
  • 「怪人の脊椎へ対しての攻撃が執拗すぎる」にセンスが光る -- 2010-08-24 02:00:17
  • ↓ゼロノスが居るじゃないか -- 2010-07-22 21:27:53
  • 寝技が得意なライダーが一人くらいいてもいいと思うんだ -- 2010-07-19 09:34:02
最終更新:2009年11月21日 09:58
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