ふたば系ゆっくりいじめ 987 少女とまりさ前編 01

少女とまりさ前編 66KB


虐待-普通 制裁 虐待人間 人間が酷い目にあいます


少女とまりさ 前編

※注意、人間が酷い目にあいます。
※書いた奴の脳みそが残念なので、致命的な設定のミスがある可能性があります。


















少女は虚ろな目で天井を見上げていた。
その視線の先には、時折チカチカと苦しそうに点滅する切れかかった蛍光灯。
一匹の羽虫が盲目的に光を求めて、蛍光灯へと向かって意味の無い体当たりを繰り返している。
その様子を少女は瞬きもせずに、ただジッと見つめていた。
少女は息をしていない。自分の意志で呼吸を止めていた。
ゆっくりとした動作で少女は俯いた。その思考は酸欠によって次第にまとまらなくなっていく。
心臓の鼓動が体の中で徐々に激しさを増していくのが分かる。

少女は再び顔を上げると壁にかけられた時計に視線を移す。

少女が自分の意思で呼吸を止めてから、時間は30秒と経過していなかった。
それを見た少女は溜まらずに大きく息を吸い込んだ。
荒い息遣いが薄暗い部屋の中に響く。

どうしてそんな事をしたのか?

それは少女の目の前で、真っ赤になった両目を引き千切れんばかりに見開いて、
苦しそうに収縮を繰り返す生き物の気持ちを少しでも理解しようとしたからであった。

ここは3年前に病気で他界した私の兄の部屋。
私の両親は私が生まれるよりも幾分か前に離婚してしまい、
兄を引き取った母も、私を産んだ半年後に交通事故で他界してしまったので、私にとって兄は父親の様な存在だった。
よく人見知りをしてしまう私と違って、兄は人当たりが良かったので周囲の人々からも評判が良かった。
でも、ひとつだけおかしな所があった。

ゆっくりが死ぬ程嫌いだったのだ。

その理由はわからない。とにかくゆっくりに対して病的なまでの嫌悪感を隠す事無くあらわにしていた。
仮にその理由を聞いたとしても、きっと答えてくれなかっただろう。
もしかしたら、理由など始めから無いのかも知れない。
兄の前を通りかかっただけのゆっくりを殺す事は日常茶飯事だったし、
私が何度か止めるように言った事もあったが、聞く耳を持ってはくれなかった。
しかし、それ以外では文句の付け所の無い、私には勿体無い程の兄だった。少なくとも私はそう思っていた。

そんな事もあって、兄の死後もこの部屋に近づく事は殆ど無かった。
それは”こんなもの”を見つけてしまうかもしれないという”予感”があったからだ。
そして、それは実際に今開いてしまったクローゼットの中にあった。
クローゼットには、本来入っている筈の衣服類等は一切無く、「大きな水槽」がひとつ、ポツンと佇んでいた。
その中には並々と液体が詰まっていて、一匹のゆっくりまりさが苦悶の表情を浮かべて液体の中を漂っている。

どうしてクローゼットを開いてしまったのだろう?
理由は無かった。ただ・・・本当にただ、何となくだった。
強いて言えば、すっかり慣れたと思っていた孤独な1人暮らしに僅かばかりの憤りを感じていたのかもしれない。

少女は再びクローゼットの中に置かれた水槽に視線を戻す。
中では先程と変わらず苦しそうな表情で溺れ続けるまりさの形相。

兄が死んだのは3年前。
つまり、どんなに少なく見積もっても、このまりさは3年間はここで溺れ続けていた事になる。
先程、息を止めて30秒も持たなかった私には、3年もの間息ができずに溺れ続けるという苦しみを想像する事ができない。

このまりさは、一体何をしたのだろうか?何をしたらこんな目に会わなければならないのだろうか?
もしかしたら、何もしていないのかも知れない。
生前の兄を知る限り、残念ながらこんな残酷な行いを兄は無実のゆっくりに対してでも嬉々として行っただろう。

「今、出してあげるからね」

少女は仮にこのまりさが何か人に害をなす行為を行っていたとしても、
目の前で行われている数年間に渡る苦行によって、それはもはや清算されたのではないかと思った。
水槽の壁面を撫でながら、静かに呟いた少女は水槽に手をかけて持ち上げようと両肩に力を入れる。
しかし、少女にとって並々と液体が注がれた水槽は思っていた以上に重く、
静かに床に置く事もできずに、水槽は少女の手を滑り落ちて落下した。

「あっ・・・・!」

その拍子に液体が漏れ出すのを防いでいた蓋は外れて、大きな音と共に水槽は床に横倒しになった。
それと同時に、水槽を満たしていた液体がフローリングの床へと流れ出す。
その液体は単純な水ではなく、水飴の様な粘性を持った液体であった。
ドロドロと床を侵食する液体に混ざって、中のまりさが「ズルリ」と水槽から床へと滑り出た。

「ゆ゛っ!!ゆげっ!!・・・ゆ゛っ!ゆ゛っ!」

数年ぶりに外気に晒されたまりさは、千切れんばかりに大口を開けて貪欲に空気を体内に取り込む。
時折、ビクンビクン!と小刻みに痙攣しながら、忙しなく荒い呼吸を繰り返している。
少女はそんなまりさの咳き込む背中にそっと触れると優しく撫でた。

「大丈夫・・・?」
「ぜひっ!ひぎっ!・・・ゆ゛っ!?」

少女に触れられたまりさは、驚いたのか「ビクリ」と一度大きく体を奮わせると、真上に大きく飛び上がった。
そして、顔面から床に着地して「べしゃり」とうつ伏せに倒れたが、すぐに起き上がると、
「ゆっ?ゆっ?」と落ち着きの無い声を出しながら、足元の液体に体を滑らせつつも辺りを見回して、少女の方へと振り返った。

「ごべんなざいっ!もうゆるじでぐだざいっ!までぃざはばんぜいじばじだぁぁぁ!」

ボタボタと涙と汗を垂れ流しながら、床に頭を擦り付けて土下座の様な姿勢で少女に向かって何度も謝罪の言葉を連呼する。
そんなまりさの様子を見て少女は困惑した。
やはり、何か悪い事をしたゆっくりだった様だ。
しかし、顔をくしゃくしゃに歪ませながらこちらに向かって力無く頭を下げ続けるまりさに邪悪な物はあまり感じられなかった。

「もう大丈夫だよ、怖かったね」

少女はそういうと、まりさを落ち着かせようと、その頬にそっと触れて優しく撫でた。
そんな少女の様子にまりさは自分の身に降りかかっていた危機が去った事をようやく理解したのか、
ニコリと微笑むと、少女の手の動きにあわせて「ゆっ!ゆっ!」と嬉しそうな声を出しながら顔を動かした。




「ゆっ?ゆゆっ!?やめてねっ!”しゃわーさん”はゆっくりできないよっ!ゆっくりやめてねっ!」
「動かないでね」

少女はまりさを洗面所へと連れて行くと、シャワーで体中についた粘液を落とす事にした。
仕切りにシャワーを怖がって震えていたまりさだったが、その頭上にお湯が降り注ぐと、
目を丸くさせて、何とも言えない微妙な声を断続的に発しながら微動だにしなくなった。

ゆっくりは水に長時間漬かっていると、皮が溶けて中の餡子が流れ出し、命を落としてしまうそうだ。
まりさが入れられていた水槽の粘液にはゆっくりの皮が溶けない特殊なものなのだろうか?
手についた粘液をそっと鼻に近づけてみると、ほのかに甘い香りがする。
ゆっくりは甘いものを好んで口にする。つまりこれは人間で言う所の点滴の様な役目も果たしているのだろう。
つまり、この液体はゆっくりの体を溶かす事無く、更に餓死させる事も無く、延々と溺れさせる事ができるのだろう。
飼い主の自分勝手な都合で保健所に連れて行かれてしまったり、
街で人の迷惑になる行為を繰り返した野良のゆっくりが処分されてしまうという事は残念ながら良くある事なのだが、
殺処分せずにこういった方法で無理やり延命させるというのは一体どういう事なのだろうか?

「あ、いけない」
「ゆゆっ!?」

物思いにふけっていた少女が、まりさにとっては危険な物である水を、
今まさに長時間浴びせ続けている事に気が付いて、慌ててまりさを両手で持ち上げてシャワーから遠ざける。
突如、洗面所内に響いた少女の声にまりさがビクリ!と体を振るわせた。

「ゆっくりっ!ゆっくりっ!?」

シャンプーが目に入らない様に目をギュッ!と閉じていたまりさが、
周囲で何が起こったのかわからずに、少女の腕の中でもるんもるんと体をうねらせて慌てふためく。
そんなまりさに少女は「ちょっと我慢してね」と優しく声をかけると手早くまりさの髪のシャンプーを洗い落した。
急に大雑把になった少女の動きに、まりさは「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と目を見開いて驚愕した。


「うゆゆぅ・・・うゆゆぅ・・・」

少女はタオルに包まれて気持ちの良さそうな表情を浮かべているまりさを見て、
どうやらまりさの身体には何の異常も無い様だと感じて、ほっと胸を撫で下ろした。
ボサボサになったまりさの髪をとかしながら、ドライヤーの生暖かい風をあてていると、まりさはウトウトと眠そうな表情浮かべる。

「うゅゅ・・・ゆっく・・・すー・・・すーや・・・すーやっ!」

すやすやと口に出しながら、実際にすやすやと眠りについたまりさを見て、少女はくすくすと笑った。
そんなまりさを起こさない様に、そっとリビングのソファーの上に乗せると、
少女は随分と散らかしてしまった兄の部屋を掃除をする為に、まりさを置いてリビングを後にした。




少女が部屋の掃除を終えてリビングへ戻ると、まりさはまだソファーの上ですやすやと眠りについていた。
しかしまりさは、扉の閉めた物音で「パチリ」と両目を開くと、その場で小さく跳ねて少女に挨拶をする。

「ゆっ!?まりさはゆっくりおきたよっ!」
「ごめんね、起こしちゃったね」

そう言いながら少女はまりさの隣に腰をかけると、まりさを持ち上げて自分の膝の上へと乗せる。
まりさはそんな少女の行為に嫌がやるような素振りを見せずに、ゴロリと膝の上に仰向けに寝そべって少女を見上げながらニッコリと微笑んだ。

「まりさはまりさだよっ!ゆっくりしていってねっ!」

ゆっくり特有の友好的な挨拶であるその言葉を聞いて、少女はまりさがこちらを警戒していない事を感じて思わず笑みを返した。
両手で「もにゅもにゅ」と洗ったばかりのまりさのモチモチとした頬を撫でると「ゆっ!ゆっ!」と少し困った様な声をあげながらも、
まりさはプルプルと身を震わせて喜んでいる。

「おねぇさんっ!ゆっくりありがとうっ!」
「ん?」
「たすけてくれてゆっくりありがとうっ!」
「うん、どういたしまして」

屈託の無いまりさの笑顔を見て少女も顔を綻ばせる。
そして、大体の事は予想はついているが、一応直接まりさに問いかけてみる。

「まりさはどうしてあんな所に居たの?」
「ゆゆっ!」

つい先程まで延々と窒息し続けるという恐ろしい装置の中に居た事を思い出したのだろうか?
まりさは、カッ!と目を見開くと体を震わせながらカチカチと歯を鳴らし始めた。
少女はそんなまりさを両手で抱きかかえて落ちつかせようと頭を優しく撫でる。
暫く少女の腕の中でガクガクと震えていたまりさだったが、ようやく気分が落ち着いたのか、ポツポツと自分がああなった経緯を話し始めた。

「・・・怖い人間さんが、まりさのゆっくりプレイスを無茶苦茶にしたんだよ」

ゆっくりプレイスというのは、ゆっくりの住処の事である。・・・らしい。
まりさは元々住んでいたゆっくりの群れから新たなゆっくりプレイスを求めてこの土地へと流れてきた。
そして色々な苦労もあったが、ついに新たなゆっくりプレイスを手に入れる事ができた。
しかし、恐ろしい人間の手によってまりさのゆっくりプレイスは荒らされ、自分もあの息のできない部屋に入れられたのだそうだ。

という事は、兄がこのまりさの巣にちょっかいを出した挙句に、ここに連れて来てあんな装置に放り込んだという事だろう。
頭も良く、小さいころはよく私に勉強を教えてくれたりもした兄だったが、ゆっくりの事となると、理に適わない不可解な行動が目立っていた。
あまりにも理不尽な出来事であったが、あの兄ならば残念ながらやりかねない。と、私は思った。

「でもおねえさんが助けてくれたから大丈夫だよっ!まりさはここでゆっくりするねっ!」
「うーん・・・」

キラキラを目を輝かせながら言い放ったまりさの言葉に私は小さく唸り声を上げた。
兄が他界してからは、この無駄に広い家に住んでいるのは私だけである。
まりさがこのままここに住んでも何の問題も無いのだが、私は学校とバイトで一日の大半はこの家には居ないのだ。
とてもじゃないが、自分に生き物を飼う資格があるとは思えなかった。

「ごめんね、残念だけどまりさは飼ってあげられないよ」
「ゆゆっ!どぼじでっ!まりさはとってもゆっくりしてるんだよっ!知らないのっ?」
「うん、そうだけどね。でも、まりさは昔住んでた所に帰った方がいいと思うよ」
「うゆゆっ・・・・!」

きっと、まりさはまた何処からとも無く兄が現れて襲い掛かってくるのではないか?と考えているのだろう。
同じ人間である私の側に居れば、兄に命を狙われる心配も無い。だからここに留まりたいのだろう。
しかし、兄はもう居ないのだ。まりさの命を脅かすものはもう何も無い。
だから、こんな家で一人ぼっちで暮らすよりも、沢山の仲間の居るであろう元々住んでいた群れへと帰った方がきっと幸せになれる筈だ。

「まりさが昔住んでいたお家は何処にあるの?」
「ゆゆっ・・・?まりさの前のゆっくりプレイスはねっ!」

人間が理解するには、かなり困難な荒唐無稽な単語をペラペラと喋り出すまりさ。
まりさが元居た巣へ戻る為に覚えて来た目印の中には、「雲」だの「水溜り」だのすぐに無くなってしまう物も混ざっていたので、巣の割り出しは困難を極めた。
しかし、まりさの喋る単語の中には「虫」や「木」等の自然に関するものが多かった。
この街の近辺に自然が残っている場所と言えば、近所の公園とその周囲の雑木林しか無い。
その辺りを虱潰しに散策すれば、まりさが住んでいた巣を見つけることができるかもしれない。
取り留めなくまりさが喋る単語の中から、有力な情報だけを抜き出してメモを取りながら、少女は小さくため息をついた。




少女は兄と一緒に歩いていた。
二人が歩く道の先は、ゆらゆらと陽炎の様に揺れて霞んで、どこまで続いているのかわからなかった。
しかも、フワフワと足が地につかない様な奇妙な感覚が足元に走り、思うように歩く事が出来ない。
早々に疲れを感じた少女は、喉の渇きを覚えて何度も喉をゴクリと鳴らす。
そんな少女の様子を見て兄は何時の間にかすぐ側にあった自販機を指差して微笑んだ。

「喉が渇いただろう?何か飲もうよ」
「うん!」

少女は元気に兄の声に答えると、自販機の側に駆け寄って自分の好きな炭酸飲料を指差して兄の方へ振り返った。

「ゆっ!まりさにもあまあまを頂戴ねっ!」

振り返ると、何時の間にか少女の後ろにまりさが居た。
屈託の無い笑みを浮かべて、その場でぽいんぽいんと嬉しそうに飛び跳ねている。

「まりさも一緒に飲もうね。まりさはどれが・・・・」

途中まで言いかけたところで少女の言葉はピタリと止まった。
少女は今、兄と一緒に居る事を思い出した。兄はゆっくりが死ぬ程嫌いなのだ。
このままではまりさが危ない。少女は何も知らずに元気に飛び跳ねるまりさに向かって叫んだ。

「まりさ!逃げて!」
「ゆゆっ!?おねえさん!?どうし・・・・ぷぎゅる!!」

少女がまりさの元へ駆け寄ろうとした次の瞬間、兄の振り下ろされた足によって、まりさの右半身は粉々に砕け散っていた。
体の半分が踏み潰され、残りの半分はスプーンを突き立てられたプリンの様に
まりさの意志とは関係なく、不規則にゆらゆらとその身を躍らせている。
目玉が糸を引いてズルリと地面に転がり、その舌はまりさが生きていた時よりも活発に四方八方へと動き回っている。
その光景を見た少女は叫び声をあげることも無く、へたりとその場に座り込んだ。

「喉が渇いてるんだろう?」

何時の間にか兄は、少女の後ろで佇んで、少女の後頭部を優しく撫でている。
少女はカタカタと肩を震わせながら、兄の居る方へ顔を向ける。
その瞬間、側にあった自販機も何処までも続いていた道も、突然目の前から消えて辺りは薄闇に包まれた。

「えっ・・・?」

再び少女がまりさの居た方向へ視線を戻すとそこには、見覚えのある水槽がおかれていた。
まりさを何年も溺れさせ続けた「甘い液体」それを見て少女は両目を大きく見開いた。

「ひっ・・・!」

次の瞬間、兄の手によって少女の頭は水槽の中へと押し込まれた。
その水飴の様な粘りを持った液体が少女の顔に絡み付いてくる。
どんなに水槽の中から顔を出そうと力を入れても、兄の腕の力は一向に弱まらない。
暫く何とか水中から顔を出そうと必死にもがいていた少女だったが、すぐに限界が来た。
白目を剥きながら半ば諦めた様に、水中で大きく息を吸い込んだ・・・・その瞬間。




気が付くと少女は自分の部屋のベッドの中に居た。
夢だったのだ。
少女は小さな肩を震わせて荒い呼吸をくりかえしながら、辺りを見回す。
そこは何時もと変わらない自分の部屋だった。既に夜は明けて、白々とした光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
変な夢だった。どうしてこんな夢を見たのだろう。

「すーや!・・・・すーや!」
「うん?」

少女が声に反応して無意識にその視線を落とすと、そこには少女のお腹の上で元気な寝息を立てているまりさの姿があった。
まりさの口からダラダラとこぼれ落ちた涎が、少女の腹部とその下のシーツまでもぐっしょりと濡らしている。
変な夢を見たのは、このお腹の重みとびしょびしょに濡れたシーツのせいだったのだろう。
少女は少し安堵したような表情を浮かべながらも、お返しにまりさを逆さまにしてソファーの上に置くと、
タンスから手早く着替えを取り出して、洗面所へと向かっていった。

すやすやと元気な寝息を立てて、幸せそうな表情で眠りについていたまりさだったが、
体勢を逆さまにされた事で寝苦しさを感じたのか、眉間にシワを寄せながら
「すーや?・・・すーや?」と先程の表情から一転して疑問符を募らせたような苦しい寝息を立て始めた。




工業地帯を囲むように作られた不自然に細長い帯状の緑地。
市街地の環境保全、地震・火災などの災害防止、レクリエーション、修景などの目的で設けられたグリーンベルトであり、
工業地帯と住宅街を結ぶように作られた人工の公園である。
学校とバイトが終わった少女は、その公園のやや外れにある鬱蒼と生い茂る林の中を進んでいた。

(まりさの群れはねっ!広い緑さんにあるとっても大きな木の下のとっても大きな道を・・・・・・)

何かの記念なのだろうか?公園の片隅に一本だけ、ぽつりと植えられた小さな木。その脇にあった細い獣道を進む少女。
まりさの言った言葉を真正直に受け取ったばかりに、随分と時間を無駄にしてしまった。
ゆっくりにとっては、大きな木や道も人間から見ればこんなものなのだろう。
その為、日は少し落ちかけてしまい、昼間に降った小雨を浴びた草木は日光を反射して周囲をぼんやりとオレンジ色に輝かせている。

獣道は僅かに傾斜しており、このまま進むと住宅地を外れて、まだ開発されていない小高い丘へと入るだろう。
獣が住むには生態系がそれほど豊富ではなく、かと言って人が住むにはその地形が邪魔で中々開発の手が進まない。
なるほど、ゆっくりが住むには最適な環境なのかも知れない。少女はそう思った。

「あれ・・・?何だかこの辺り・・・」

膝の辺りまで伸びた草をかき分けながら、暫く歩みを進めると、生い茂った草木が周りよりも幾分か低い奇妙な場所に出くわした。
その光景に、少女は小さい頃にテレビでやっていた宇宙人が作ったというミステリーサークルを思い浮かべた。
所々、地面に穴が掘られている。ここがまりさの言っていた「ゆっくりぷれいす」なのだろうか?
少女はその穴の一つ一つを覗き込んでみたが、その中にゆっくりの気配は無かった。

「ここならだれもいないねっ!」
「そうだねっ!すっきりするならいまのうちだねっ!」
「んっ?」

その時、遠くからかすかに聞こえてきた声に少女は耳を傾ける。
その声が聞こえる方向へと歩みを進めると、そこには2匹のゆっくりれいむの姿があった。
もじもじとお互いの体をすり寄せながら会話をしているようだ。

「「せーのっ!すー・・・」」
「あ、あのっ・・・!」
「「ゆ゛ゆ゛っ!!」」

急に声をかけられた2匹のれいむは、シンクロした動きで同時にギクリ!と白目を剥いて驚きの表情を浮かべた。
少女の姿を見た2匹は暫く放心して固まっていたが「ニコリ」と凍りついたような笑みを浮かべると、ゆっくりと後ずさりを始めた。

「ま、まってっ!」
「れ、れいむ達は何も悪い事なんかしてないよっ!」
「そ、そうだよっ!れいむは「わるいれいむ」じゃないよっ!ぷるぷるっ!」

国民的ゲームのマスコットキャラ気取りのれいむ2匹が、
ムーンウォークを思わせる後方へ吸い込まれる様な不可解な動きで、後退しながらこの場から必死に離れようとしている。
それを少女が、まとわりつく草に足を取られながらも必死に地面を蹴って追いかけた。

「ここには昔、ゆっくりの巣があったんでしょ?どうして今は誰も住んでいないの?」
「ゆっ!ばかなまりさのせいで皆、人間さんに永遠にゆっくりさせられたんだよっ!」
「馬鹿なまりさ・・・?」

「馬鹿なまりさ」とは、もしかして私の家に居るまりさの事なのだろうか?
仮にそうだとしたら、自分自身も何時終わるとも知れない拷問にかけられた上に、仲間の住んでいた住処まで襲われた事になる。
いくら兄でも、自分から巣に乗り込んで荒らした後に、ゆっくりを連れ去り、その上にそのゆっくりが元々住んでいた巣まで荒らすとは考えにくい。
もしかしたら、まりさは人の家や農家の作物でも荒らしてしまったのかもしれない。それを兄が見かけてしまったのだろうか?

「まりさのせいって・・・そのまりさは一体、人間に何をしたの?」
「ゆっ?別にまりさは何も悪い事はしてないよっ?」
「うん・・・?」

少女の問いかけに、もう一匹のれいむがおかしな事を言った。
まりさのせいで集落のゆっくりが酷い目にあったのに、まりさは何もしていない?これは明らかにムジュンしています。

「れいむのお母さんの仲間が沢山殺されたんだよっ!それに比べたら大したことはしてないよっ!」
「ゆ゛っ!?人間さんの前でなに言ってるのおおおおお!?」
「ゆげぇっ!!やべっ!めっちゃやべぇ!・・・ほんとうにバカなまりさだよねっ!ゆっくりしねっ!ゆっくりしねっ!」

まりさの事を馬鹿と言っていた方のれいむが、まりさは何もしていないと言ったれいむに注意すると、
突然手のひらを返したように、まりさの罵倒を始めるもう一匹のれいむ。
2匹の様子はあからさまにおかしかった。
何かに怯えている様な仕草でゆっくりなりに言葉を選んで話している様だ。
それはやはり私という「人間」が目の前に居るからであろう。

バサバサバサ

その時、周りの木々がざわめいた。それと同時に上空が黒い塊で覆われる。
それは狩りを終えて、住処への帰路へ着く無数のカラス達だった。
それを見た2匹のれいむが、眉毛をキリッ!とさせながら「ゆゆっ!」と叫んで同時に飛び上がった。

「ゆゆっ!まっくろなとりさんが飛んでいくよっ!」
「”こうたい”の時間だよっ!ゆっくり巣へかえるよっ!」
「ゆっくりかえるよっ!かわいいれいむ達がゆっくりと巣にかえるよっ!」

踵を返して更に森の奥へと進んでいく2匹のれいむ。
それを追おうと少女も歩みを進める。

「あっ!ちょっと!・・・まっ、まってよ!」
「ゆゆっ!?こっちにはなにもないよっ!ゆっくりかえってねっ!」
「ゆっくりかえるよっ!ついてこないでねっ!ついてこないでねっ!」

ぽいんぽいんと地面を蹴りながら、しきりに振り返って少女の様子を伺う2匹のれいむ。
少女は2匹の後を追おうと進み出したが、ふと気がつけば、すっかり日は落ちて辺りは薄っすらと闇に包まれている。
このまま奥へ進んでも遭難する様な事は無いと思うが、静寂に包まれた人気の無い森の中の光景は、少女の恐怖心を煽るのには十分だった。
少女は辺りを何度か見回すと、小さく震えながら踵を返して小走りで公園へと来た道を戻っていった。




少女が自宅に帰ると、リビングの床に小さな家が完成していた。
ソファーのクッションが一箇所に集められて小さなテントの様な形状になっている。
その中でまりさはすやすやと眠りについていた。

「まりさ、ただいま」

少女はそっとそのテントの天井になっているクッションを持ち上げて、眠っているまりさの頬をつついた。

「ゆゆっ!?ごはんっ!?」

見当違いな事を叫びながら、目を覚ましたまりさは薄目でキョロキョロと辺りを見回した。
そして、自分の巣の天井が無くなっている事に気がつくと、巣から飛び出してぷんぷん!と頬を膨らませて不満気な顔をする。

「ゆゆっ!だめだよっ!まりさの「ゆっくりプレイス」をこわさないでねっ!」
「あはは、ごめんね。でも、群れに帰るまではこの家全部がまりさのゆっくりプレイスだよ」
「ゆっ!」
「だからこんな家なんか作らなくてもいいんだよ」
「ゆゆんっ!ゆっくり理解したよっ!」

少女のそんな声を聞いてまりさが、嬉しそうな表情を浮かべてその身を揺らす。
助けて貰った上に、家に置いてもらった事に恩義を感じて、まりさなりに私に気を使ったのだろうか?
少女はそんな事を考えながら、ソファーに腰を掛けると昨日と同じようにまりさを自分の膝の上に置いた。

少女の膝の上でもぞもぞと体を動かしながら「ゆっ!ゆっ!」と元気な声をあげるまりさをぼんやりと眺めながら、
少女は考えを巡らせていた。まりさに今日あったことをどう説明したらいいものだろうか?
兄がまりさの元居た巣までをも襲撃したらしく、巣は跡形も残っていませんでした。等とは言える筈も無い。
しかし、収穫もあった。元々あの巣に住んでいたゆっくりの子供である2匹のれいむを発見したのだ。
明日はれいむが立ち去った方角を探してみよう。

「・・・まりさの巣はお引越ししたみたいだよ」
「ゆゆっ!?お引越し!?・・・ま、まりさはそんな事知らなかったよっ!」

まりさはパカリと口を開いて驚きの表情を浮かべる。
生き残ったゆっくりの子供が他の場所に住んでいるのだから、引越しと言えなくも無い。
ウソはついていない、そう自分に言い聞かせながら少女は話を続ける。

「だから明日はお引越しした巣の方へ行って見るね」
「ゆゆゆ・・・・っ!ゆっくり理解したよっ!」
「うん、じゃあご飯にしようね」

少女はまりさに何か食べたいものはある?と聞いてみた。
まりさはその場で小さく跳ねると同時に「おうどん!」と元気に叫んだ。
ゆっくりは甘いものを好むと思っていたが、必ずしもそうとは限らない様だ。

「はい、熱いから気をつけてね」
「ゆゆっ!わかったよっ!ゆっくりたべるよっ!」

猫の尻尾の様におさげをリズミカルに揺らしているまりさの前にうどんの入った器を置くと、
まりさは目をキラキラと輝かせて嬉しそうに身震いしながら器に飛びついた。
しかし、熱くて中々上手に食べられないらしく、器に顔を近づけた瞬間に床を転がりながら悶絶したので、
小皿に麺を少しずつとって冷ましながら食べさせてあげる事にした。

「こうやって、ふーっ!ふーっ!ってすると、すぐに冷めるよ」
「ゆゆっ!ゆっくりふーってするよっ!ゆっくりふーってするよっ!」
「そうそう」
「ふーっ!ふーっ!むーしゃ!むーしゃ!しあわせーっ!」

一口食べる度に顔を綻ばせておさげを振り回すまりさ。
見ていて飽きない。5分で作ったうどんでここまで喜んで貰えると、何だかこちらの方が申し訳なくなってくる。
まりさはうどんを汁まで飲み干して完食すると、すぐにその場で横になって眠ってしまった。

「なんか、まりさは眠ってばかリの様な気がするよ」

パンパンにお腹を膨らませながら「ゆぴぴ」と寝息を立てるまりさの腹部を優しく撫でる少女。
そんなまりさ起こさないようにそっと持ち上げて、ソファーの上に置いてタオルをかけてあげると、
そんな幸せそうな寝顔につられたのか、学校とバイトの後に公園の周辺を長時間歩き回った事もあって、少女にも急激な睡魔が襲ってきた。
今日はすぐに就寝してしまおうと思った少女は、食器を持ってフラフラと立ち上がると欠伸を噛み潰した様な表情でキッチンへと歩いていった。




「すーや・・・・っ!すーや・・・・っ!」
「えっ・・・!またなのっ・・・・!」

少女が目を覚ますと、今日もいつの間にかベッドへと潜り込んでいたまりさが、少女のお腹の上で元気な寝息を立てていた。
それにしても、またすぐに忘れてしまったが、今日も何か奇妙な夢を見たような気がする。
額に手をあてて、小さく首を振る少女。しかし夢はすぐに忘れてしまう事が多い。少女は今しがた見た筈の夢の内容を思い出せなかった。

しかしそんな事よりも、明日もまりさに同じことをやられると、いよいよパジャマとシーツの替えが無くなってしまう。
少女の懐で、すやすやと寝息を立てるまりさの頭を撫でながら、涎でぐっしょりと濡れたパジャマを見下ろして、少女は少し困った様にため息をついた。

暫くそのままの状態でぼんやりと窓から差し込む朝日を眺めていた少女だったが、小さく頷くとまりさを持ち上げて、
今度は部屋に干してある洗濯物と一緒にまりさのおさげを洗濯バサミで挟んで宙に吊るすと、とたとたと、洗面所へと向かって歩いていった。
残されたまりさは、宙に吊るされた事で寝苦しさを感じたのか、顔面をおさげの方向に引きつらせつつ、眉間にシワを寄せて怪訝な表情浮かべて
「すーや?・・・すーや?」と幸せそうな表情から一転した疑問符を募らせた様な寝息を立て始めた。




今日はバイトが休みだったので、学校の授業が終わった後、すぐに昨日発見した巣があった場所へと少女は来ていた。
昨日は殆ど日が暮れていた為に、暗くて周りの様子がよく見えなかったが、白日の下に晒された巣の跡を見て少女は愕然とした。

昨日一つ一つ覗き込んだ巣穴の全てが、よく見ると焼き払われた様に黒くくすんでいる。
この辺りのどの木々にも痛々しい焦げたような焼き跡が残っており、指で触れるとガリガリに炭化している事がわかる。
周囲に生い茂る草が、周りよりも幾分か背が低いのも、一度この周辺が何者かの手によって、焼き払われた為なのだろう。

やはり、これは兄の仕業なのだろうか?
木の根元の小さな巣穴の中に幾つもの丸い物体が真っ黒になって固まっている。
この塊はもしかしたら・・・いや、いうまでも無くこれは元々はゆっくりだったものであろう。
少女はその場にしゃがみ込んで小さく手を合わせた。

しかし、何時までもここに居るわけにも行かない。
昨日、2匹のゆっくりが去っていた方角へと草を掻き分けながら少女は歩みを進めていく。
すると、程なくしてゆっくり達の集落が見えてきた。地面の草が綺麗に抜き取られて、木の根元には所々巣穴が掘られている。

そこへ偶然鉢合わせた野生のゆっくりまりさが少女を見て「ゆげぇ!?」と驚きの表情を浮かべている。
野生のまりさは、家に居るまりさと違って大きなとんがり帽子を被っている。そういえば街で見かけた野良のまりさも同じような帽子を被っていた様な気がする。
少女はそんなまりさに声をかけようとしたが、まりさはおさげを振り回しながら、踵を返すと一目散に少女の元から逃れようと駆け出した。

「にげるよっ!ゆっくりにげるよっ!人間さんはゆっくりできないよっ!」
「まって、わたしは何も怖いことはしないよ」
「ゆっ!ゆっ!人間さんっ!ついてこないでねっ!」
「聞きたい事があるんだけど!こういう時は誰に聞けばいいのかな!」
「まりさがしるわけないでしょぉぉぉ!!」

まりさにとっては一大事なのだろうが、地面を跳ねる度に「ぽいんぽいん」とコミカルな音が鳴り渡り、緊張感は皆無である。
涙を垂れ流しながら、地面を跳ねるまりさの後についていくと、この場に不釣り合いな小さなテントが少女の視界に入った。
子供が2人も入れば満員になるおままごと用の小さなテントだ。
この場に置かれて相当な年月がたっている事が、テントにびっしりと蔦が絡まっている事からも見て取れる。
そんなテントの前で、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたれいむが、こちらに向かって進んでくるまりさと、その後ろの少女を見て驚きの声をあげた。

「ゆゆっ!なにじでるのっ!ついてこないでっていったでしょぉぉっ!」

クワッ!と歯茎を剥いたれいむは、どうやら昨日元々巣があった所に居たれいむの片割れの様だ。
まりさはれいむには一瞥もくれずに、一目散にテントの中へ駆け込んで行ってしまった。
落ち着かない様子で、あたふたと取り乱しているれいむの側に、少女は膝を丸めてしゃがみ込む。

「ご、ごめんね。ウチに居るまりさが元々この群れに住んでたらし・・・」
「ゆ゛げえ゛っ!人間さんの所にいる「ばりざぁぁぁぁ」!?」

「ウチに居るまりさ」という単語を耳にした途端、れいむはこの世の終わりの様な表情を浮かべると、
まりさの後を追うようにしてテントの中へと飛び込んで行ってしまった。
そんな二匹の様子に少女は首を傾げながらも、後を追ってテントの中を覗き込む。

「・・・・・な、なにこれ」

テントの中に広がっていた予想外の光景を見て少女は言葉を詰まらせる。
テントの中には、凄まじい悪臭が漂っていた。まるで、何かが腐ってそれがずっと放置されている様な何とも形容し難い異臭。
その臭いにつられて、夥しい数の羽虫が所狭しとテントの中を飛び回っている。
そこで、一匹の「ゆっくりありす」がテントの骨組みから紐を通して宙に吊るされて苦悶の表情を浮かべていた。
周りには無数のゆっくり達。そのゆっくり達は順番にその無防備なありすに何度も体当たりを繰り返す。
ありすは体当たりを繰り返すゆっくり達の前に成すすべも無く、舌をだらりと垂らしながら時折思い出した様に痙攣をしていた。

「むきゅっ!そろそろ壷さんに入れるのよっ!」

テントの中央でその様子を眺めていたぱちゅりーがそう叫ぶと、
ゆっくり達は器用に口で紐を緩ませてありすを地面へと降ろし、ずるずるとありすを引きずっていく。
そして、地面に半分ほど埋まっている壷の中へとありすを放り込んだ。
トプン!と黒ずんだ液体の水面が大きく揺れて地面にあふれ出す。それと同時にテントに漂っていた悪臭がその強さを増した。
そんな光景に少女が口を押さえて表情を歪めながらも、ゆっくり達に声をかける。

「な、なにをやっているの!」
「「「ゆ゛っ!!」」」

突然現れた人間の姿に、ゆっくり達は一斉に驚きの表情を浮かべながら少女の方へと視線を移す。
先程テントへ駆け込んで行ったまりさとれいむがこの中のリーダーらしき、ぱちゅりーに何やら耳打ちをしている。

「む、むきゅんっ!やっぱりぱちぇの言った通り人間さんが見回りに来たわっ!」

2匹の報告を聞くと、ぱちゅりーは「ゆっへん!」と胸を張る様な仕草でふんぞり返った。
周りのゆっくり達は、困った様な表情を浮かべながらジリジリと後ずさりをして、そんなぱちゅりーよりも静かに後ろへと移動していく。

「貴方たち、一体ここで何をしているの・・・!」
「人間さんっ!ぱちぇは言いつけ通りにありすをいじめ続けたわっ!」
「言いつけ通り・・・?」
「むきゅん!そうよっ!だから群れのゆっくり達をいじめるのはやめてねっ!これからもぱちぇ達はありすを・・・」
「すぐにこんなことやめてあげてよ!」
「む゛ぎゅうっ!?」

少女の言葉にぱちゅりーが信じられないと言った風な表情で口をパクパクさせると、周囲を見渡しながら取り乱している。
そして、ダラダラと汗をかきながら、落ち着き無く体を揺り動かして周りのゆっくり達と何やら耳打ちをしていたが、
少女の方へクルリと振り返ると、突然荒々しい口調でその怒りをあらわにした。

「なにいってるのぉぉぉ!?人間さんがぱちぇ達にこんな事をさせたんでしょぉぉぉ!」
「・・・一体誰がそんな事を言ったの!?」
「だ、誰って・・・!?人間さんよっ!怖い人間さんが急にやってきてぱちぇ達の巣を焼き払ったんでしょぉぉ!」

ぱちゅりーの話を要約するとこんな話だった。
ある日、新たなゆっくりプレイスを求めて、集落をゆっくりと旅立ったまりさとありすの番の内、ありすだけが傷だらけで帰ってきた。
ありすの話によれば、突然人間に新たに辿りついたゆっくりプレイスを襲撃されて、命からがらこの巣へと逃げてきたらしい。

ありすを介抱しつつ、まりさの無事を祈っていたぱちゅりー達だったが、
それから数日後にゆっくりプレイスに現れたのは、まりさでは無く、ありすを追って来た恐ろしい人間の方だった。
その恐ろしい人間は、ゆっくりプレイスに住んでいたゆっくりと大切なお家をあっという間に焼き払ってしまった。
そして、少し離れたこの土地に、大きな家(テント)を建てると、その中でありすを虐待し続ける事を生き残ったゆっくりに強要してきたのだ。
それに逆らったゆっくりはことごとく、永遠にゆっくりさせられた。

群れのリーダーであるぱちゅりーは、苦渋の選択であったが、その条件を飲んでありすへの虐待を行った。
恐ろしい人間が持ってきた液体に弱ったありすを入れると、ありすの傷ついた体はあっという間に治った。
ぱちゅりーはその謎の液体の効果に驚きの声をあげたが、それは逆にありすへの虐待が終わることが無いという事を物語っていた。

恐ろしい人間はその後も、度々ここへ訪れてちゃんとありすへ虐待を行っているかチェックに来た。
その周期はぱちゅりーのクリーム色の「ずのう」を持ってしても解明できなかったので、ありすへの虐待を怠るわけにはいかなかった。
そして何より恐ろしかったのは、人間が持ってきた透明な箱の中に入っていたまりさの変わり果てた姿であった。
まりさは透明な箱の中で延々と溺れ続けて苦悶の表情を浮かべていた。
それを見たぱちゅりー達は、恐怖のあまり、人間に逆らおう等と言う気持ちは微塵も沸いてこなかった。
しかし、全てはゆっくりプレイスを守る為だった。同属であるありすに心底ゆっくりできない行いを繰り返しつつも、背に腹は変えられなかったのだ。

しかし、かなり前に恐ろしい人間が現れる事が無くなり、群れは次第に落ち着きを取り戻していった。
群れのゆん口(人口)も以前のゆっくりプレイスと変わらぬ程に戻ったが、しかし何時またあの恐ろしい人間がここへ来るとも限らない。
新しくこのプレイスで産まれたゆっくりは、何故ありすにこんな事をしているのか知らない者も多かったが、
昔の群れからの数少ない生き残りであるゆっくり達は、何時人間が再び現れても大丈夫な様に、このゆっくりできない行いを脈々と続けていたのだった。

「いばざらっ!いばざらなにいっでるのぉぉぉ!」

ぱちゅりーは身が千切れんばかりに体を捩って喚き散らす。
もはや疑いようは無かった。
ぱちゅりーが口にした透明な箱の中で延々と溺れ続けるまりさ。
間違いなくそれは、少女が兄の部屋で見つけたそれと同じ物であろう。
つまり、ゆっくりの集落を焼き払い、ここでこのありすに暴行を加えるように命令したのは、やはり兄だったのだ。
という事は、まりさと同じくありすはこの地で少なくとも3年間は暴行を受け続けているという事になる。
その絶望的な境遇に奈落に突き落とされた様な気分になった少女は思わずボロボロと涙を零しながら、ゆっくり達に語りかけた。

「もう大丈夫だよ、その怖い人間はもう死んじゃったから、だからもう大丈夫」
「「「「「ゆ゛っ!!!」」」」

少女の手によって、壷の中の黒ずんだ液体からありすがズルリと引きずり出された。
ヘドロの様な液体が体中にまとわり付いていたが、不思議とその怪我は壷に入る前より軽くなっている様に見える。
この腐った液体。ゆっくりの傷が治ったという事は元はオレンジジュースだったのだろうか?
ゆっくりの傷は人間と同じく自然回復する他に甘味を帯びた物、特にオレンジジュースを与える事によって劇的に回復する。
その理屈と原理は未だに不明である。そういうものだと思うしかない。

少女は肩から下げたバックの中に入っていたペットボトルのジュースをハンカチに染み込ませると
それでありすの体を丁寧に拭き始めた。
完全に腐りきった液体よりも、新鮮な甘味を持った液体の方がゆっくりを治癒する効果は高い様だ。
少し楽になったのか、ピクリとも動かなかったありすが、一度小さく痙攣すると、小さな呻き声をあげた。

「・・・・ゆ゛っ?」
「大丈夫・・・・?」
「あでぃずは・・・あでぃずはばんぜいじばじだ・・・ゆるじでね・・・ゆるじでね・・・」

一心不乱に人間である少女に向かって謝罪の言葉を繰り返すありす。
まりさの時と同じく、少女の事を「恐ろしい人間」である兄と勘違いしている様だった。
きっと何について謝っているのかもわからないのだろう。
しかし、ありすは謝罪の言葉をうわ言の様に繰り返す。
この延々と続く苦痛を終わらせる為には、そうするしか方法が無いと思っているのだろう。

「もう謝ったりしないでいいんだよ、怖かったね」
「・・・・ゆ゛?・・・・ゆ゛ゆ゛っ!?」

恐ろしい筈の人間から放たれた意外な言葉と、体中の痛みが波が引くようにして薄らいでいく事で、
ありすは自分に延々と行われてきたゆっくりできない暴行が、終わりを告げた事を理解した。

「あでぃがどう・・・っ!だずげでぐでであでぃがどうっ・・・!ゆっぐり!ゆっぐりでぎるよぉぉ・・・!」

暫くしてありすは、何とか自分の力で起き上がってすり足で移動できる程には回復した。
少女はそんなありすを抱きかかえてテントから連れ出すと、木の根元に穴を掘って新しい巣を作ってあげた。

「まりさも無事だよ、私はまりさに頼まれてここに来たの」
「ゆゆっ・・・・!まりさ?・・・まりさも無事なのっ!?」

もうとっくに命を落としていたとばかり思っていた番の吉報に、ありすは信じられないと言った様な表情を浮かべている。
暫く取り乱したようにオロオロと周囲を見渡していたありすだったが、
何とか落ち着きを取り戻して呼吸を整えると、ポツリポツリと少女にまりさとの思い出を語り始めた。

まりさはありすの隣の巣に住んでいて、小さいころは一緒に日が暮れるまで遊び、
大きくなってからは、一緒に狩りに出かけ、一緒に歌を歌い、そして共にゆっくりした。
ある日、まりさからいつまでも一緒にゆっくりしようと、言われてありすは言うまでも無く首を縦に降った。

ありすはまりさとの子供を沢山欲しいと願った。
しかし、このゆっくりプレイスには、そんな大勢の子供を養うほどの餌場は無かったのだ。
だから2匹は、この安全な森を出て危険を冒してまで新たなゆっくりプレイスへの引越しに踏み切った。
そして苦難の旅の末に、ついに2匹は沢山の子供を養える食料が豊富なゆっくりプレイスを手にしたのだった。
しかし、幸せは長く続かなかった。人間がまりさとありすのゆっくりプレイスを奪おうと襲いかかって来たのだ。

「まりさは恐ろしい人間さんに「ゆうかん」に立ち向かって一度はやっつけたのよ」

まりさは人間をゆっくりプレイスから追い払おうと、果敢に体当たりをして人間を転ばせてしまった。
相手がゆっくりならばこれで終わりである。人間も負けを認めて素直にこの場を立ち去るものだと思っていた。
2匹は人間の強さを知らなかったのだ。

この行為が人間の逆鱗に触れた。

人間はまりさを何度も何度も殴りつけた。まりさが動かなくなっても殴りつける事を止めなかった。
ありすは、まりさが人間の注意を引きつけてくれた内に、何とか元居たゆっくりプレイスへと逃げる事ができた。
しかし、人間はすぐにありすのプレイスに現れた。後をつけられてしまったのだ。
後は、ぱちゅりーが言った事と殆ど同じだった。涙を浮かべて悲しそうな表情のゆっくり達に延々と暴行を加えられ続けて現在に至る。

少女は呆然としていた。
ゆっくりの巣にちょっかいをだした兄が反撃を受けて転んだだけでここまでの事をやったのだ。
兄は一体何を考えていたのだろう?その計り知れない心の闇に少女はガタガタを身を震わせるしかなかった。
そんな重い気持ちを払いのける様に、精一杯の笑顔を浮かべて少女はありすに語りかけた。

「明日まりさをここに連れてきてあげるよ、これからは二人でずっとゆっくりできるよ」
「ゆゆっ!ありがとう・・・!おねぇさん・・・!ゆっくりありがとう・・・っ!」

逃げるように巣を立ち去る少女を、自由の利かない体を無理矢理引きずって巣穴からはい出たありすが、
少女の姿が見えなくなった後も、その場を動かずに何時までも笑顔で見送り続けていた。


02へ続く
最終更新:2010年03月17日 09:50
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