ふたば系ゆっくりいじめ 1201 1・学者 01

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観察 考証 実験・改造 現代 人間複数


【学者、風変わりな定職にありつくのこと】

※久方ぶりのSSです。今度は現代イメージに挑戦。
 現代社会に、ゆっくりが奇妙な新種として実在する世界……という感じです。

※設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
 「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。

※またも無駄に長いです。
 無駄に長いってのに、またも2連続アップ。
 シリーズ的に続けられたらなぁ、と無謀な思いを抱いているせいです。
 いろんなパターンの、人間とゆっくりを書いていきたいなぁとか。



「なにするの? やめてね! やめてね! まりさ、わるいことしてないよ!?」

 ゆっくりという生き物がいる。生き物と言っていいのかすら判然としないが、今の世の
中では、とりあえず生き物という扱いをされているものだ。
 摂食し、排泄し、繁殖する。しかも人語──日本語を解し、その外見は下ぶくれの生首
という代物だ。
 だが、どこを探ってみても菓子の類としか思えない。細胞が有るのか無いのか……正確
には、解剖し細分化したソレを、細胞と見なして良いのかどうかも判然としない。
 遺伝子などは、観察によれば有るようにも思えるのだが、これこそというものは検出さ
れていない。それ以前に内臓はあるのか、なぜこの様な構造で生物のように活動し、人間
のように話すのか。
 ともかく、他の生き物とはまるで違う上に、調べれば調べるほど菓子類との共通項しか
見い出せないということで、ウイルス等がそうであるように、生物か否かの境界線上にい
るモノだと言われている。

「ゆぁあああんっ!? まりさの おぼうしっ! かえして! かえしてね! ゆあ!?
さ、さかさまは ゆっくりできないよ!? はなしてね!」

 ゆっくりの起源についても、諸説紛々……あるものの、結局のところはどれも決め手に
欠け、これもまた、わからない状態が続いている。
 そもそもが、他の生物と違いすぎるのだから、これまでのようにアレから進化しただの、
コレの突然変異だのという説明が通らない。

「な、なにするの……? ゆっ! ゆんしょ! ゆゆゆ? コロンって できないよ?」

 不思議な世界から突然やってきたのだという人がいる。人々の幻想が生み出したモノだ
という人もいる。確かに、これだけデタラメなモノは、いっそ不思議の中へ放り込んだ方
が、据わりも良い。
 大昔からいるのだと言う人もいる。妖怪として語られる生首系のいくつかは、ゆっくり
の誤認なのだろうというのだ。言われてみれば妖怪には生首系が多いし、夜中にいきなり
こんなモノから声をかけられたら、誰だって驚く。
 ゆっくり自体が、妖怪だと言う人もいる。これも、とてもわかりやすい話だ。しかし、
妖怪とは解剖できる存在なのだろうか? 生憎、妖怪というモノに巡り会えたことがない
ので、私にはわからない。

「お、おにいさん? まりさ、いいこだよ? わるいこと、してないよ? こわいこと、
しないであげてね? いたいことは、ゆっくりできないよ?」

 なんにしても、文化・経済が発達し、情報伝達手段も増え、夜の闇は照らされ、未踏査
の場所もずいぶんと減ってきたこの現代社会で、一般人がまともに生きていてぶつかる不
思議など、ほとんど無いと言っていい。
 わずかに残った不思議の一つが、この“ゆっくり”達なのだ。

「ゆぎゃぁあああああああっ!? やめてやめてやめて! その こわいのは いたいよ!
ゆっくりやめてね! まりさ、いたいのは いやだよ! ゆっくりできないよぉ!」

 私が手にした風変わりな刃物を見て、ゆっくりが大声で喚き、体を震わせる。逃げよう
としているのだろうが、あいにくと手も足もない上に、今は逆さで、奇妙な三脚に頭の方
を突っ込む様にして置かれているので、その生首のような体が前後左右にゆらゆらと揺れ
るだけだ。
 三脚は、理科の実験などでアルコールランプを使うときに使用する物と近い形をしてい
る。ただ、上部の丸い輪は二重構造になっていて、内輪がレバーを回すことでその径を調
整出来るようになっているし、バネ仕掛けで上に載せた物を固定する為の羽がついている。
 やはり最初の内は、しっかりと固定した方が良いかと、刃物を脇へと置いて三脚の羽を
摘み上げる。

「ゅびっ!? うゆぎゅ? ぅゆぐぐぐ?」

 その羽……一対の、鍋の掴み手のようなものを上へとあげると、バネの力でゆっくりの
頬を抑え付ける。
 ゆっくりの頬の皮は他よりもずっと分厚く、かついくらか柔らかめで、人間で言えば腰
と太股の役目を果たすらしい。
 生首のような外見の、その底部……接地面が人間にとっての足であり、この部分を伸縮
させて、ゆっくりと這うように動く。
 そして飛び跳ねて動くときは、頬の部分が屈伸運動のようにショックを吸収したり、筋
肉のようにして跳躍力を生み出したりする。人の生首に比べて遥に下膨れの外見なのは、
おそらくこのためなのだろう。
 以前、他のゆっくりを使って、何度か自分でも確かめてみたのだ。頬を固めたり、頬に
大穴を空けた状態で治癒したり、頬を極限まで削った後そのままの形で皮を成形してやっ
たり……と何パターンかで試したところ、どれもろくに飛び跳ねられなくなった。

「おにゅぃしゃん? こぇ、まぃひゃ ゆっくぃ さべべないよ? やぇへね? はにゃひ
へね?」

 しっかりと固定され、ゆっくりが体を揺らすことも出来なくなったことを確認して、改
めて刃物を手に取る。
 ペインティングナイフやバターナイフのように、刃の部分は曲がって付いている。その
上、刃自体も緩く曲線を描いていて、実のところ結構手入れが面倒な代物だ。

「ぃゆぁああああああっ!? そぇ、いやぁああ! やぇへぇええええ!」

 再び刃物を目にして、ゆっくりが大声で騒ぐ。頬を抑え付けられて口を上手く動かせな
いせいか、どこか間の抜けた声だ。

 23区からは外れるが、一応は東京都内。ほぼ自然のままの森を残している裏山を背負
った、大きな一軒家。各部屋単位に、そこそこの防音処置も施されているので、大声を出
されても問題ないとは言えるのだが、体全てが首というゆっくりが大声を出すと、その声
の振動がゆっくり自身の全体を震わせる。そうなると、こちらもミスをしてしまうだろう
し、これから試すことのためには死んでもらっても困るのだ。

「やぇへぇぇえええっ! もう、ゆぅひでぇえええっ! おうひがぇゆぅううううっ!」
「暴れるな、喋るな、動くな。死ぬぞ」
「ゆひ……っ!?」

 静かに警告するとそれだけで、ゆっくりは小さく声を漏らしたっきり黙り込む。
 このゆっくり──金髪に、黒いとんがり帽子がトレードマークの“まりさ”には、私の
警告を無視した家族達が痛めつけられ、死んでいくところを、繰り返し見せつけてきた。
 まりさ種とありす種の番いに、ありす種の子が3匹、このまりさ種の子が1匹の、6匹
家族だった。
 今現在生き残っているのは、こいつと長女と思しきありす種の2匹。それ以外は、まり
さの目の前で時間をかけて死なせた。警告し、傷つけ、警告し、傷つけ、その繰り返しで。
 このまりさは末っ子らしく、長女のありすより一回り小さい。親たちと比べると、その
体積は四分の一程もないだろう。ソフトボールと大差ないくらいの大きさだ。

「まりさ」
「ゆ……?」
「これから、まりさを綺麗にする」
「きぇい……?」
「痛いだろうが、我慢してジッとしているんだ。動いたり叫んだりしたら、死ぬぞ」
「ゆひぃぃぃ……!!」

 ゆっくりには、麻酔が効かない。眠らせることは出来るが、ちょっとした刺激で目を覚
ますこともあるし、人間と同じ薬物にどこまで効果があるのか、はなはだ疑問だ。だから、
麻酔無しで行うしかないし、耐え抜いてくれなくては、こちらが困る。
 まずは一番厄介で、しかし一番やりやすい底部──ゆっくりの足からだ。
 慎重に、刃物を滑り込ませていく。ちょうど、じゃがいもやリンゴの皮を剥くように…
…いや、比喩でもなんでもなく、これからやるのは皮剥きだ。

「ゆぃぁあああああっ……!」
「叫ぶな、我慢しろ、死ぬぞ」
「ゅっ……!? ぃぎっ!! ぃぎゅ……ぅぅっ!!!」

 嘘は付いていない。薄皮一枚で中身の流出を防いでいるという状態まで、皮を剥いてい
くつもりなのだ。その状態で動けば、簡単に薄皮が破れて中の餡子が零れ落ちるだろう。
そうなれば、死ぬことになるのだから。

「いぃぃぃ……ぃひゃいよぉおお……ろぉひて……ろぉひて まぃひゃがぁ……」
「喋るな。死ぬぞ」
「ぅいだぁああああっ!! ぶでぃいい! む゛り゛だ゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛!!」

 予定より、残す皮をやや厚めにするしかなさそうだ。

 ゆっくりの底部はよく動くだけに、気を抜くとすぐにミスを犯してしまいそうになる。
だが、他の部位とは違い二層構造になっているので、その点はマシなのだ。
 他は、厚めの皮の内側はすぐに餡なのだが、足である部分は皮の内側にもう一層、皮と
餡の中間のような層がある。ゆっくりの体組織が沈殿したモノのようにも見えるが、餡よ
りもしっかりとしており、皮よりも柔軟に動く。
 この層が、人間で言えば膨ら脛のような役目を果たしているらしい。人間の膨ら脛が、
足を動かすためだけではなく、その動きでポンプ代わりとなって血液を体の上方へと押し
上げるように、ゆっくりもこの部分が力強く動いて、体の動きを支えるだけではなく、全
身の代謝を助けてもいるらしい。
 というのも、成体のゆっくり三匹からこの部分を削り取ってみたところ、一体は衰弱死、
一体は嘔吐を繰り返して死に、残り一体は正常さを失って狂死した。さらに言えば、その
三体の実験体を完成させるために、五体ほど失敗して死なせてしまったが。
 ともあれ、底部にはこの層があるので、予定通りギリギリまで皮を剥いていける。

「ゆぅひでぇえええええ! ぼぉいやぁあああああああっ!!」

 露呈した底部の層が、ビクビクと蠢いている。
 空気に触れるはずのない部分だから、ちょっとした風でも痛みが走るだろう。ジクジク
と、水分も滲み出してきている。
 その層の前方寄りと後方寄り──生首の顎あたりと、後頭部の下側に、小さな窄まりが
一つずつ、計2つの穴がある。皮が薄く巻き込まれたこの場所が、ゆっくりの排泄器官で
あり、前の方は生殖器官も兼ねている。この部分は細かすぎて、皮だけを剥くということ
が出来そうもない。
 先端が丸くなった細めのガラス棒を、温水でゆるく溶いた水飴に浸してから、その二つ
の窄まりに挿入する。

「ゆぴぴゃぁああああああっ!? まぃひゃの、ぺにぺにと あにゃるがぁああああっ!?
こぁれるよぉお!? こぁれちゃうよぉおお!」
「壊れないようにするためだ、我慢しろ」
「がぁん……へ、ゆっちぇもぉ……ゆぇえぇえ……」
「一休みだ。ジッと我慢してないと、あんよも壊れて二度と動けなくなるぞ」
「いやぁぁ……うぉけらいの、いやぁああ……」
「なら、ジッとしていろ」
「いぢゃいぃぃ……おぃいひゃん、たしゅけへぇ……」
「ちょっと待っていろ」

 傍らの小振りな冷蔵庫から、三つあるボールの内の一つを取り出した。中には、寝かせ
ていた生地が入っている。

 ゆっくりのことを、饅頭と呼ぶ人も多い。饅頭や大福とよく似た体構成をしているから、
そう呼ばれるのも至極当然なのだが、大福と呼ぶ人は驚くほど少ない。
 その理由の一つが、ゆっくりの多くは小麦粉から作った皮を持つ饅頭とよく似ていて、
餅米粉から作った大福のような皮を持つモノが、あまりいないことによるのだろう。
 あまりいないというより、存在が確認されていないのだ。大福のような皮をもつゆっく
りに関しては、目撃例こそ僅かながらあるが、それそのものはもちろん、映像などもない。
 噂などで語られる“希少種中の希少種”などと、同じくらいの都市伝説レベルの話だ。

 このまりさも、饅頭のような皮の持ち主だ。皮の断面を見れば、細かな気泡が見て取れ
る。そのおかげで弾力があり、衝撃も吸収しやすいのだろう。断熱の効果もあるだろうか
ら、内部組織を気温の変化から多少は守るのかもしれない。
 冷蔵庫から取り出した生地は、餅米粉から作ったものだ。ただ、通常の大福の生地より
も砂糖の量は少なくしてある。また、蒸し時間も若干短いので、やや纏まりが悪い。
 その粘つく生地を、本来なら片栗粉をまぶして“餅とり粉”とするところなのだが、代
わりに小麦粉でやってみる。元の生地と、馴染みやすくなるかもしれないからだ。
 生地を取り分け、粘つきに苦労しながら、まりさの底部へと貼り付けるようにして被せ
ていく。
 やはり小麦粉では、餅とり粉として今ひとつなのか、どうにも難しい。

「ゆびゃっ!? いぢゃ! ゅぢゃ! ゆぎゃっ!」
「我慢しろ」

 底部を被せ終えた段階で、まりさはすでに疲労困憊の様子だった。だが、構わずに一度
持ち上げて、顔を下にした状態で三脚へ載せて固定。背面下部の、髪の生え際ギリギリの
ところまで皮を剥き、餅米粉の生地に貼り替えていく。

「いぎっ! ぎっ! ガチガチッ!」

 貼り替えた部分を触れさせないようにと、やや底部を突き出した形で三脚に固定したの
で、ちょうど口が三脚の輪を噛む位置に来たようだ。口を開けて騒がれるより、噛み締め
て我慢してくれた方が背部の処理はやりやすい。

「ゆひぃ~……ゆひぃ~……ゆひぃ~」

 いよいよもって力をなくしたまりさを、ここからは羽を使った固定を使わずに皮を剥き、
貼り替えていくことになる。使いたくても、使えないのだから仕方ない。底部と背面下部
が生乾きの生地なのだから、バネ仕掛けの金属で抑え付けようとすれば、ずぶずぶと餡子
まで達してしまうだろう。

「ここからは、今まで以上に我慢しなくちゃ駄目だ。ちょっとでも動けば、死ぬと思え」
「ゆ……ゆぁ……」
「暴れる体力もないだろう。ジッとしていれば助かる」

 まりさを逆さにした状態で、両頬を中心とした側面を剥ぎ、前面……顔面へと取りかか
る。目の前にかざされた刃物に、まりさは涙を止めどなく流しながら、震える声で助けを
呼び続けた。

「ゅああ……! ゅああああ……! こわいよぉ……おとぉさぁん……おかぁさぁん……!
どぉして たすけてくれないのぉ……!?」
「思い出せ。お前の両親は、私の言うことを聞かなかった」
「ゆ……ゆぁ……!」
「その結果、私が言った通りに死んでいった。そうだな?」
「ま、まりさ……まりさ、ゆうこと……きいてる……おにいさんの、いうこと、ちゃんと」
「なら、目を閉じろ。しばらくは、それで怖くなくなる」
「ゆ、ゆゆ、ゆ……ゆっくり りかいしたよぉ」

 きつく目を閉じ、歯を食いしばったまりさの、口の周りから皮を剥いていく。これまで
使っていた刃物を置き、形状はほぼ同じだが、かなり小振りなモノを手にとって、細かい
部分の皮も丁寧に剥いでいった。口を動かせば、刃物が深く突き刺さることを察している
のか、まりさは歯を食いしばったまま口の中でのみ声を響かせ、懸命に耐えている。

「偉いぞ。もうすぐ終わりだ」
「ゅぐぐぐっ……! ゅぐぎゅぐぐぐぎゅぎゅ!」

 最後に、瞼をそっと抑えて、ここは流石にほんのわずか、削る程度に。

「ゆ……!? ゆ、ゆ……!?」
「まだだ。目も開けるな。今動いたら、全てが台無しだ。死にたくても死にきれない苦し
みを味わうことになるぞ」
「ゅぐぐぐぐ……!?」

 こちらも大急ぎで、手早く餅米粉の生地を貼り付けていく。台無しになって困るのは、
実のところ私の方だろう。まりさは、死んで楽になるだけなのだから。
 生地を貼り付け、次のボールを取り出す。こちらには蒸す前の、水でよく溶いた餅米粉
が入っている。やや薄めに溶かれたそれに刷毛を浸し、まりさへ塗りつけるようにして成
形していく。
 ある程度の成形を終えると、その上から餅米粉をまんべんなく振り、今度は片栗粉を塗
した手で仕上げをしていく。
 全体に片栗粉がついたところで絹生地でぐるりとまりさを包み、リボンヒーターでさら
にグルグル撒きにしていく。
 これで、最後の蒸し上げをして、完成……と、なるはずだ。

「いくらかは落ち着いてきただろう?」
「ゆ……? ゆぁ……ぽかぽかしてきたよ」
「まだ、あまり喋るな。変な皺が寄って、気持ち悪い顔になるかもしれないぞ」
「ゆ~……」
「このストローを咥えておけ。喉が渇くだろうから、少しずつ飲むんだ」
「ゆゆっ……!」
「少しずつだ!」

 恐怖と苦痛で、叫び、耐え、震え続けたのだ。かなり喉が渇いていたのだろう。がっつ
いて飲もうとするまりさに、厳しい声で警告する。排泄器官へ挿入したガラス棒は、まだ
抜けない。これを抜いてしまうと、生地によって穴を塞がれてしまうからだ。
 排泄器官が塞がれている状態では、一度に取りすぎた水分を排泄しようとしても、出来
はしない。小便を耐えるのはつらく、耐え過ぎれば病気にさえなってしまうのは、人間も
ゆっくりも同じだ。

「以前、水を飲み過ぎ、だがしーしーが出来ないまま苦しんだゆっくりがいた」
「ゆぅ……?」
「どうなったと思う?」
「ゆ……わかんない……」
「体の下側にある中身がグズグズに溶けて、泥水みたいなうんうんが止まらなくなった」
「ゆひぃ……!」

 しーしー──尿のような排水は、前下部の穴から行い、うんうん──固形の排泄は後下
部の穴から行う。前下部の穴を塞がれたゆっくりは、その内部に水を溜め続け、その水が
体内下部の餡子を溶かして、後下部の穴にまで到達してようやく排水を行うことが出来た。
出来たものの、緩くなった餡子が止めどなく流れ出した。しかも、底内部にある厚い層を
溶かして締まったためか、ろくに動くことも出来ず、放っておいたら排泄物塗れになって
衰弱死してしまったのだ。

「下痢うんうん塗れで死にたくなかったら、そのまましばらくジッとしてろ」
「うんうんまみれ……いやだよ……ゆっくり りかいしたよ……」

 脅かしはしたが、咥えさせたストローの先にあるボトルには、ほんの少しの砂糖水が入
っているだけだ。ストローも、極端に細いモノを選んである。
 飲もうと思っても、大量に飲むことは出来ない。

 三脚の上に乗ったまま、リボンヒーターで体のほとんどをグルグル巻きにされたまりさ
の頭の上に、とんがり帽子を載せてやる。
 嬉しいのか、下から突き出した二本のガラス棒がぴくぴくと揺れ動いた。

「おぼうしさん……! おにいさん、ありがとう♪」
「もう、喋るな。ジッとしていろ」
「ゆっ!♪」

 苦痛の時間を乗り越え、心地よい暖かさと好みの味の水分を与えられ、そして大事な帽
子も戻ってきた。そのためか、まりさはずいぶんと素直に返事をしてくれる。

「すぐ戻ってくるから、しばらくそのままで、ゆっくりしていろ」
「ゆ~ぅ♪」

 部屋を出て、別室へ向かう。
 今回捕まえたゆっくり達の、もう一匹の生き残り、長女のありすの元へ。

  ***  ***  ***  ***  

「おそかったじゃないの、おにいさん! さぁ、“とかいは”な、あまあまの おかわりを
もってきなさい!」
「全部食べたのか?」
「とうぜん でしょう? ありすのものなんだから、ありすが ぜんぶ たべるのよ。あら?
もっている それは、あまあまね? ちゃんと もってきてるなんて、なかなか つえるじゃ
ない! ほめてあげるわ!」
「残念だが、これは食べるためのものじゃない」
「そうだわ! みんなはどうしたの? ママたちや いもうとたちも、つれてきてあげて!
そして みんなにも、“とかいは”な おしょくじを よういするのよ! ほら、モタモタし
ないで!」

 このありすは、捕まえてきてすぐにこの部屋へと隔離した。だから、家族のほとんどが
死んだことを知らないし、私がどれだけ惨いことをしたのかも知らない。ゆっくり独特の
思い上がりは矯正されることもなく、自分の発言はなんであれ通るという我が儘も消えて
いない。こちらの言葉は、何を言ってもまともには聞かないだろう。

「まぁ、栄養を摂って体力を付けたのなら、それで良い」
「なに、ブツブツいってるの? そうだわ! のども かわいたから、きれいな おみずを
もってきて! “とかいは”な ありすには、そこらの みずたまりの みずじゃ だめよ!」

 与えておいたクッキー──値段は安めだが、量は私一人で食えば胸焼けするほどのバラ
エティーパックをぺろりと平らげ、捕まえてきた時よりも下膨れ加減が増している。しば
らくの間、わずかな食料しか与えなくても、平気そうなくらいだ。
 こちらの方は、あのまりさよりもずっと杜撰に扱っても良いし、代わりを用意するのも
難しくはないのだから。

「ゆゆ~♪ おそらを とんでるみたいだわ! とっても すてきよ! そのちょうしで、
ありすを ていちょうに あつかぃだいぃだいぃだぃい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!?」

 持ち上げたありすを宙吊りにする。何本もの、紐の先端にワニくちクリップがついたも
ので、髪の毛を、頭皮を、挟み込み吊り下げる。邪魔なのでカチューシャも外し、さらに
ワニくちクリップを付けていく。

「ありすの“とかいは”なカチューぁいだだだだっ! いだぁあっ! いだいいだい!」

 髪を鷲掴みにされて引っ張られれば、痛いのは人間もゆっくりも同じらしい。頭だけの
ゆっくりは、全体重が人間よりも遙かに軽い。それでも髪の毛を引っ張られての宙吊りは、
堪えるに違いない。

「なんでごど するの!? “とかいは”なありすに、こんなことをしても いいとおもっ
てるの!?」
「黙れ、暴れるな。死ぬぞ」
「しぬのは、あなたのほうよぉおおおっ!!」

 あのまりさとは違い、私が容易くゆっくりを殺すことも、自分達が容易く殺されること
も知らないありすは、やはりこちらの警告など聞く耳は持っていないようだ。

「まぁ、宙吊りの状態じゃ、暴れようにも暴れられないだろうがな」
「なに いってるの!? はやく ありすをたすけなさいよっ! さもないと、あんたなん
かぃだうぎゃゆぎゃぁあああああああっ?!」

 ケーキナイフで、ありすの皮のあちこちに切れ目を入れていく。ノコギリのように細か
な刃のあるタイプなので、鋭い刃物で切られるよりも不快な痛みがあるだろう。切れ目を
入れる度に、ボロボロとありすの皮のカスがこぼれ落ちる。

「と゛か゛い゛は゛な゛あ゛り゛す゛に゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛す゛る゛ジ゛ジ゛イ゛は゛
し゛ね゛え゛え゛え゛! ひぎゃぁあっ!! やべでぇえええっ!! いだいぃいいっ!」
「やめない。表面に万遍なく、切れ目を入れていく」
「どぼじでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?」
「説明しても理解できないだろう」
「ゅぴぃいいいいいいっ!? ありすの だいじな ぺにぺにがぁあああああっ!?」

 ありすの表皮全てに満遍なく切れ目を入れてボロボロにした後、ガラス棒を底部の前と
後ろにある穴に突っ込む。まりさと違い、こちらには潤滑油兼痛み緩和の水飴は無しだ。
さぞ痛むだろう。
 それから、持ってきたボールの中の生地を軽く捏ねる。ホットケーキミックスを少し固
めに交ぜたものだ。それを、ありすの傷だらけな皮の上から、一回り皮を分厚くするよう
に貼っていき、毛羽立ったタオルでぐるりと巻いた後、リボンヒーターでグルグル撒きに
する。
 設定温度は、まりさの時よりも高めだ。こちらは多少の火傷を負おうが構いはしないし、
火を全く通してないホットケーキミックスを蒸し上げようというのだから、それなりの熱
も必要だろう。

「ゆっ……ゆ、ゆぐぐぐ……? ゆ? あちゅ……あぢゅ!? あぢゅいい!?」
「せいぜい耐えて、生き延びてくれ。私も楽が出来る」
「あづいのよぉおお! なんとかしないと、あんたを ころすわよぉおおお!」
「しばらく、そうしていろ」
「まちなさいぃいっ! あづいって いってるでしょぉお! ひとの はなしを ちゃんと
ききなさいよぉおお!」

 杜撰にさっさとやったためか、5分少々で作業は終わった。

 大福の生地を作るときは、餅米粉と砂糖と水、併せておおよそ200グラム足らずなら、
蒸し時間は蒸し器で20分ほどと聞いた。
 半蒸し状態で、そこから低温のリボンヒーターで再加熱。長い時間をかけすぎると、ゆ
っくり達も低温火傷のような症状を引き起こす場合があるので、途中からはヒーターを切
ると考えていたから……

「まりさの方は、もうしばらくしたらヒーターを切っても良い頃合いか」

  ***  ***  ***  ***  

「ゆ~……!? こ、これ……これが、まりさ? ほんとうに、まりさなの?」

 ゆっくりの全身が写る程度の大きさの鏡を前にして、まりさがしきりに体を右へ左へと
傾けながら、写っている自分の像を見つめている。なかなか理解できずに、首を傾げてい
ると言ったところだろうか。

「鏡のことは説明しただろう。それに、まりさが動く通りに写っている姿も動いている。
ほら、こうすれば私も写るぞ」
「ゆ……! じゃあ、この きれいな こが、まりさなんだね!? まりさ、こんなにスベ
スベな おはだの、ゆっくりしたゆっくりになれたんだね!?」
「ああ。私の言うことをちゃんと聞いて、いっぱい我慢したからな」
「ゆゆ~♪ すごいね、おにいさんは! まりさ、とってもゆっくりできるよ! ありが
とう!」

 つい先ほど、さんざん痛い思いをさせたというのに。目の前で自分の家族を、殺され続
けていたというのに。
 それらをすっかり忘れてしまったのか、こちらへ笑いかけて「ゆっくり出来る」と言う。
そんなに滑らかな肌を手に入れたことが、嬉しいのだろうか。

「ゆ? ゆあ? ん~……なんか、へんだよ?」
「うん?」
「ここ。ほら、あそこ。おつむの、ほら。おでこの、ほら」
「ああ……ここか」
「うん、そこ」

 まりさの額、髪の毛の生え際が、うっすらと線を引かれたようになっている。文字通り、
ここが境界線なのだ。
 まりさへ施した生地の貼り替え……皮膚移植とでも言ったものは、うまくいった。だが、
髪の毛を生やすことが出来るかどうかは疑問だったので、頭皮は貼り替えていない。結果
として、髪の毛の生え際を境として、ぐるりと違う質の皮が境界線を描いているのだ。

「あとは、食事療法で変化してくるかどうかだな……」
「しょくじりょーほー?」
「綺麗になれるご飯を食べていれば、治るかもしれないということさ」
「ゆゆ! ゆっくり りかいしたよ!」

 そう返事はしたモノのやはり気になるのか、鏡に写る自分の額を見つめて、体を右へ左
へと傾けている。

「痒かったり、気持ち悪かったりするか?」
「ゆ? ゆぅ~んと……ちょっとムズムズするよ」
「ぺにぺにとあにゃるの具合はどうだ?」
「ゆゆっ!? お、おにいさん、はずかしいこと きかないでよぉ……」
「聞かれた質問には、きちんと答えろ」
「ゆっ……! だ、だいじょうぶだと おもうよ……」
「なら、いい」

 肝心なことは、忘れてはいなかったらしい。ほんの少し語調を尖らせるだけで、まりさ
は震え上がってきちんと返事をしてきた。

「それじゃ、大人しく待っていろ。ご飯と飲み物を持ってきてやる」
「ごはん!? まりさ、とっても おなかがすいてるよ! あまあまを もってきてね!!
たくさんでいいよ!」
「贅沢を言うな。死ぬぞ」
「ゆぴぃ!?」
「今食べ過ぎると、ろくな事にはならないからな。まぁ……あまあまは持ってきてやる」
「ゆゆ~んっ!♪ おにいさん、ありがとう!」

 現金なモノだ。

「そうだ……ついでに、ありすの処置もしておくか」

  ***  ***  ***  ***  

 一週間が過ぎた。

 その間、まりさは餡を少なめに作った大福や道明寺、すあまに羽二重餅に白玉団子と、
餅米を材料とする生菓子を、量に気をつけながら食べさせ続けた。
 気になっていた生え際の境界線も、注意深く観察して、わかるかわからないか、という
ところまで馴染んできているようだ。
 ただ、運動をさせるとすぐに息が切れ、まりさ自身もそのことを不思議がっていた。元
の皮と比べると、通気性が悪いのかもしれない。

 面白いのは、餅とり粉だ。大福など、餅米粉で作った皮が指にくっつかないようにと塗
してある餅とり粉が、まりさの体表にも“常に”うっすらと付き続けている。食べたもの
から、適宜その成分を必要な場所へと構成し直しているのだろうか?
 だとすれば、ゆっくりは先天的に餅米の生地を持ち得るということか……あるいは、張
り替えた表皮に併せるだけの、驚異的な柔軟性を持っているのか。
 いずれにせよ、そのおかげで体の柔軟性はもちろん、その肌触りもサラサラと滑らかで、
以前とは比べものにならないものだ。まりさ自身にもそれがわかっているようで、この私
が相手でも「す~りす~り」と肌を擦り合わせるコミュニケーションを取りたがった。擦
り合わせることで、己の肌の滑らかさが自分自身でも感じられるらしい。
 そして、保温性の高いタオルや毛布よりも、日本手ぬぐいのように毛羽立ってない滑ら
かな布地を好むようだ。一番のお気に入りは、皮の張り替えの仕上げでも使った、絹布だ。
文字通り、もち肌・柔肌になってしまったため、肌触りの滑らかなモノを好むらしい。

 難点は、その餅とり粉がこぼれ落ちることだろう。仮にこの種をペットとして買うこと
を考えた場合、掃除の大変さが思い遣られる。今はテーブルから降ろさないようにしてい
るから、それほどでもないが、これではカーペットや畳はもちろん、フローリングでも日
々の掃除が一手間増えることになる。
 まぁ元々ゆっくりの、肌を擦り合わせるコミュニケーション──す~りす~りはグルー
ミングの一種であり、新しい表皮が出来上がったところで、古い表皮を擦り落とす役目も
あるのだから、ゆっくりを飼う以上は粉末による汚れはあるのだろうが……ここまで多く
もないだろう。

「まりさ」
「ゆ? なぁに、おにいさん?」

 言うことを聞けば、怖いことも痛いこともされない。美味しい甘味も持って来てくれる。
そう理解しているのか、まりさはすっかり素直になっていた。
 甘やかすと付け上がり、ゲスな言動が目立つようになる個体も少なくないのだが、案外
このまりさは、性格面ではペットに向いているのかもしれない。

「今日は、ずっと離れ離れだったお姉さんに会わせてやろう」
「おねーさん……? ゆあっ!? もしかして、ありす おねえちゃん!?」
「そうだ。これから連れてくるから、大人しく待ってるんだぞ」
「ゆっ! ゆっくり おとなしく まってるよ!」

 お姉ちゃんお姉ちゃん、楽しみ楽しみと、鼻歌を歌いながらその柔らかな体を右へ左へ
と揺らしている。

 そのありすの方は、市販のホットケーキミックスで作ったものばかりを食べさせた。そ
して、毎日肌を切り裂いて、同じホットケーキミックスで作った皮を被せ続けた。
 おかげで、今のありすはかつての親達よりも大きくなり、ざっと見た感じでは横の直径
が50cmを越えていそうだ。
 その上、頭部と底部は重ね貼りしていないので、全体的に平たく潰れたようない形状に
なり、同じく重ね貼りをされていない目と口は落ち窪み、ホットケーキミックスの生地だ
からか、大きな気泡がブツブツと表面にも出ていて、酷い疱瘡の跡のようになっている。

「また、きもちわるいことをするつもりなの!? いいかげにしないと、“とかいは”な
ありすも おこるわよ!?」

 最初の頃は、表皮を切り刻まれ、削られることに激痛を感じていたようだが、最近では
皮が厚くなった分だけ鈍くもなったのか、同じように皮を切られても「痛み」とは感じな
くなっていたようだ。
 人間の場合も、鈍すぎる痛みや小さすぎる痛みは、「痒み」として認識する。ゆっくり
もそうらしく、ありすも最近では「むず痒くて気持ち悪いこと」と感じていたようだ。

「あれは、もうしない」
「し……しな……い? ほんと? ほんとうに? ……う、うそだわぁああああああっ!
“とかいは”な ありすは だまされないんだからぁあああああああっ!!」
「本当だ。今日はお前の妹の、まりさに会わせてやる」
「ま……まりさ……に?」
「ああ。久しぶりの再会だ、嬉しいだろう?」
「ま、まりさだけなの!? パパとママは!? ほかの いもうとたちは!?」
「後で、まりさに聞くんだな」

  ***  ***  ***  ***  

「まりさぁあああ!? まりさなの!? しばらく みないうちに、なんて“とかいは”な
び ゆっくりになっちゃったのぉお!? おねえちゃん、かんげきしちゃったわぁあん!」
「ゆっ? ゆゆ? ゆう?」
「あぁん、こんなに び ゆっくりな いもうとをもてて、ありすも はながたかいわね!」
「ゆ……ゆぅ~……?」
「でも、これから たいへんかもしれないわ! まりさは、こんなに すてきなんですもの!
わるい むしが、いっぱい ねらってくるに ちがいないわ!」
「ゅ…………」
「でも、だいじょうぶよ! おねえちゃんが まもってあげるからねっ!!」

 部屋のほぼ中央に設えた大きめのテーブルの上で、久々の対面を果たした姉妹は、その
反応が対照的なものだった。
 喜び、感激し、テンションを上げ続けるありすに対して、まりさは怪訝そうな顔のまま
ジリジリとありすから距離を取ろうとする。少なくとも、喜んでいるようには見えない。
 ある程度離れたところで、こちらへ悲しそうな顔を向けてきた。

「お……おにいさん!」
「なんだ?」
「ありす おねえちゃんも……ころしちゃったの!?」
「いいや、殺したりしていない」
「でも……おねえちゃんの だいじな かちゅーしゃ を、きもちわるいのがつけてるよ!?」
「なに いってるの、まりさ? ありすが まりさの、“とかいは”な おねえちゃんよ?」
「うそ いわないでねっ! まりさの かぞくは、ゆっくりしたゆっくりなんだよ!」
「そうよ。だから わたしが その、ゆっくりした おねえちゃんじゃないの」
「まりさの かぞくに、ぶくぶくでボコボコで、きもちわるいのなんて、いなかったよ!」
「ぶくぶくでボコボコ……? どっ、どこに、そんなのがいるのっ!?」
「おまえが、ぶくぶくでボコボコなんだよ! ゆっくり りかいしてね!」
「ありすは ぶくぶくでもボコボコでも ないわよぉおっ!」
「ぶくぶくでボコボコだよ! おまえなんかが、ありす おねえちゃんのわけ ないよ!」
「まりさ! おねえちゃんに『おまえ』だなんて くちを きいちゃダメでしょぉお!」
「おまえみたいな ぶくボコ、おねえちゃんじゃないよ!! こえ だって、へんだよ!!」
「ありすの こえは、へん なんかじゃ ないわよぉ!」
「おねえちゃんのなまえを、モゴモゴした へんな こえで いわないでね!」
「だって、わたしが……!」
「かおも こえも、ぜんぶ きもちわるい おまえなんか、ありす おねえちゃんじゃない
って いってるんだよ!!」
「なんてこと いうの、この こ はぁあああ!」
「ありす おねえちゃんの だいじな かちゅーしゃ、かえしてね!」

 間違いなく姉ではあるのだが……いくら同じ飾りを付けているとは言っても、これだけ
様変わりしれば、ゆっくりでも別人としか思えないのかもしれない。それどころか、同じ
ゆっくりだとも思っていなさそうだ。

「ありすが ありすだって いってるでしょぉおお! これは、ありすの だいじなカチュー
シャなのよぉ!」
「うそつき! おまえか! おにいさんじゃないのなら、おまえが ありす おねえちゃん
を ころしたのか!」
「わけのわからないことを いってると、ありす おこるわよ!!」
「まりさのほうが おこってるよ! ゆっくりごろしは、ゆっくりしないで さっさとしね!」

 まりさがありすへと飛びかかり、体当たりを仕掛ける。ただ、何層にもホットケーキミ
ックスで分厚くされた皮が衝撃を吸収したのか、ありすもまりさも、体当たりのダメージ
を受けていないようだ。
 それでも、攻撃されたということがカンに障ったのか、ありすが激昂し、やはり体当た
りで反撃をしようとした。
 したのだが、しかし……

「バカないもうとは、ありすに あやまってねっ!! ゆっ!? ゆゆ……?」
「ぷぷっぷゆ~~~♪ なにそれ? うごけないの? もしかして いまの、あるこうと
したの? とぼうとした わけ ないよね? ぷぷぷぷゆ~~♪」

 よくわからない笑い声を交えつつ、まりさが嘲笑う。
 無駄なほどに分厚い皮を持ち、重くなりすぎた体を、ありすは満足に動かすことも出来
ないらしい。
 ありす種は個体ポテンシャルも高めで、その爆発力に関してはゆっくりの中でも指折り
だという話だから、ちょうど良いと選んだのだが……
 それでも、分厚くしすぎたようだ。
 飛び跳ねることが出来ず、ありすはズリズリと這うように、ゆっくりとまりさへ近づい
ていく。
 まりさは、何度か体当たりを繰り返したが、効果が薄いと気づいてからは、一定の距離
を保ちながらの言葉責めに切り替えたようだ。

「ゆっくり まってなさい! ありすが、おしおきをしてあげるんだから!」
「まりさはゆっくりしてるよぉ♪ ぶよぶよの きもちわるいのは、うごきかたも きもち
わるいね! おお、きもいきもい♪」
「ゆぎぃいいい! いまに みてなさいよぉおおお!!」
「いまって いつぅ? いまは いまだよぉ? ぷよぷよ、のろのろ、いまなんて ずっと
こないね!」

 見ていても仕方ないので、鏡を手にとってテーブルの片隅に立てる。ありすを持ち上げ
て、その鏡の前に置いた。

「ゆあぁあっ!? なんなの、この“いなかもの”は!? きもちわるいわぁああ!」
「かがみ だよ。ぶよぶよは、かがみ も しらないの? それは じぶんが みえるんだよ。
そんなことも しらないなんて、バカなの? しぬの?」

 自分だって、つい先ほど知ったところだろうに、まりさが鏡を理解していないありすを
嘲笑い続ける。
 私がいくら説明しようと、まりさがどれだけ嘲笑おうと、ありすは信じようとしなかっ
た。だが、ありすの後ろで距離を置いたまま、鏡に映る位置にまりさが来ると、実物のま
りさと鏡像のまりさを何度も繰り返し見て、少しずつ理解し始めたようだ。

「うそよぉおおお!? ありすは、もっと“とかいは”な び ゆっくりだったわぁああ!」

 実際のところ、裏山で野生生活をしていたこの家族には、美しいと言える要素など何一
つ無かった。だからこそ、皮の張り替えを終えた時のまりさは、あれほど喜んだのだろう
し、そのまりさを見たありすも、激しく感動したのだろう。
 ありすは現実を一切認めないまま騒ぎ続け、まりさはその様を何度も何度も嘲り、罵り、
そして姉を返せと責め立てた。
 まりさに反論することも忘れ、ありすはひたすらに騒ぎ続ける。

 ついには、ただただ虚ろに「嘘だ嘘だ」と繰り返し始めた。

「うそよ、うそ……うそうそうそ、うそだわ……こんな、こんな……うそよ、うそなのよ」

 ぶつぶつと呟き続けるありすを、頭の上から抑え、離しと繰り返すことで、その体を揺
すっていく。
 ゆっくりは、その体を振動させることで発情を促すことが出来る。理由はこれまた諸説
あるが……ゆっくりは交尾の際に体を擦り合わせてお互いを高めていく、その時の餡の動
きと、振動による餡の動きが合致したときに、発情するのだという説が有力だ。
 これまでにも何度か、ゆっくりをこちらの意図通りに発情させることをしてきたので、
多少はコツを掴んでいるつもりだ。
 上下の振動がもっとも良く、かつ、ゆっくりの身体全てが上下に伸縮するような動きが
もっとも効果的なのだ。

「ゆっ! ゆゆゆゆゆ! ゆぶぶぶぶっ!?」
「ゆゆ? お、おにいさん? なにしてるの、それ?」

 最初のうちは、私がありすへお仕置きしているとでも思ったのか、喜んで応援していた
まりさが怪訝そうな声をかけてきたが、構わずありすを揺すり続ける。
 程なく、ありすの息が荒くなり、目つきも怪しくなってくる。微かにだがグチュグチュ
という水気のある音も聞こえてくるが、ゆっくりが交尾の際に分泌する粘液は、まだ浸み
出してきてはいない。分厚い皮に阻まれて、表面に浸み出すまで時間がかかるのかもしれ
ない。

「ゆふぅううっ……! ゆふぅううっ……!」
「ありす」
「ゆ? ゆふうう?!」
「すっきりしたくなって来たんじゃないのか?」
「ゆんふうぅううん! したいわ! “とかいは”な すっきりが、とってもしたいわ!」
「ちょうど美ゆっくりの、まりさがいることだから、相手をしてもらったらどうだ?」

 何を言い出すんだ、絶対に嫌だとまりさが騒ぐが、無視を決め込む。だが、ありすも興
奮状態にあるはずなのに、気が進まない様子だ。

「ま、まりさは……とっても び ゆっくりだけど……でも、ありすの かわいい いもうと
なのよ!?」

 ゆっくりの中にも、近親姦をタブー視するものはいる。とは言えそれは、人間に喩えれ
ば『クチャクチャと口を開けてモノを噛むのは行儀が悪い』というくらいの、家庭の躾レ
ベルの差異でしかなく、種族全体での絶対的な意識ではないらしい。もちろん、倫理的な
問題などであるはずもない。
 それだけに、ちょっとしたきっかけで崩れてしまう。特に、ありす種はまりさ種に惹か
れ易いという統計もあるうえに、ゆっくりは欲望に流されやすいのだから。

「まりさ自身は、ありすのことを姉だと認めていないようだが」
「ゆっ……!?」
「まりさの方が、お前なんて他人だと言っているんだ」
「ゆっ、ゆ、ゆゆゆゆゆゆ……!」

 言いながら、さらに揺すり続ける。ありすのギラついた目は、ピタリとまりさへ据えら
れたままだ。

「他人なら、遠慮することはないだろう?」
「そっ、そそそそっ、そうね! すっきりすれば、ふたりとも しあわせよね!」
「い、いやだよ! まりさは、すっきりなんてしたくない……ゆわわわわっ!?」
「んほぉおおおおっ!! こんどは にがさないわよぉおおお!」
「いやぁあああああああああ! おにいさん たすけてぇえええええええ!」

 揺すっていた手を離した途端、ありすは先ほどまでの鈍い動きが嘘のような素早さで、
まりさへと近づいていった。
 慌てたまりさが懸命に逃げるが、テーブルの上なのでまっすぐに逃げ続けることも出来
ない。やや高めのテーブルだから、飛び降りることが躊躇われるのか、テーブルの縁で方
向転換を繰り返している。
 一方ありすは、ただ真っ直ぐにまりさを目指して進めばいいので、若干の差ではあるが、
まりさの方が移動距離は多くなっていた。

「てれなくて いいのよぉお! ありす じまんの ぺにぺにを、うけいれてぇええんっ!」
「いやぁあああああ! こっちこないでぇえええええ!」

 観察するかぎるでは、ぺにぺに──特にこの場合は、前下部の穴が外部へと隆起して、
生殖体勢となった状態だろう──は、見て取れない。これもまた分厚い皮に埋もれたまま
で、外に顔を出すことが出来ないのだろう。
 元々から、“自慢の”と言ったところで、ゆっくりのそれは小指の第一関節ほどの大き
さしかないのだが。

「ゆひぃ! ゆひぃ! ゆふひぃ~!」
「ほらほら、まりさぁあ! つかまえちゃうわよぉ! おにごっこは そろそろ おわりに
して、すっきりタイムのスタートよぉおお!」
「いっ、ぃいいっ、いやぁあああ! ぜったいに いやぁああああっ!」

 皮を変えて以来の、息の続かなさが出始めたようだ。まりさは大きく息を乱し、走って
逃げることがつらくなり始めているらしい。
 ありすの方は、走り回ることでさらに興奮状態が増したのか、ぬるぬるとした粘液が表
面にまで滲み出し始めている。その粘液を使って、ドリフトのように程良く滑って方向転
換するという器用なことまでしてみせていた。

「もっ、もう! やだ! ゆひっ! ゆひっ! こっ、こっち! こないで! ゆひぃ!」
「さぁあああ、つかまえたわよ、まりさわぶべらっ!!!」

 まりさへ飛びかかろうとしたありすが、ずるりと派手に転んで顔面を打ち付けた。粘液
でグズグズになった皮が剥がれ落ち、その自分の皮を踏んで転んだらしい。
 手荒く処置したために、馴染みきっていなかったのかもしれない。分厚く重ねたホット
ケーキミックスの皮が、その層に従って剥がれ始めている。
 自分の皮が崩れ始めていることにも構わず起きなおったありすと、息も絶え絶えなまり
さの追いかけっこが再開された。
 ありすから剥がれ落ちた皮を子細に確認すると、たくさんある気泡に粘液が溜まり、そ
の溜まった粘液が皮を柔らかく脆いものにしているようだ。

「また、確認してみるべきことが出来たな……」

 通常のゆっくりが、粘液を分泌しても皮が剥がれるようなことがないのは、何故だろう
か?
 この皮は、本来の皮とは別物のホットケーキミックスだから、粘液で崩れたのだろうか?
それとも、通常よりも多い粘液を、皮に溜続けたために出た症状なのだろうか?

「おにいさぁあああん! たすっ……! たすけて! まりさをたすけてね!」

 追いかけっこは、まだ続いているようだ。

「もうしばらく、頑張っていろ」
「そ゛ん゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「なんぴと! たりとも! ありすたちの すっきりは じゃまさせないわぁあああ!!」
「い゛ぃ゛い゛や゛だ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 まりさとありすの騒ぎをBGMにして、今回のことをレポートに纏めることにしよう。

  ***  ***  ***  ***  

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最終更新:2010年05月15日 13:17
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