ゆっくりばけてでるよ!後日談 7KB
しかしここで疑問が一つ。なぜ店で売っている間にとりつかないんだろうね?
ある程度対象が熟成しないと取り付けないのかしら?
※独自設定垂れ流し
「ゆ! おまんじゅうさん……!」
夏を過ぎ、秋も近づいた9月の初め。
親れいむとその子れいむ二匹のゆっくり一家が人間の家にやってきた。
ガラス越しに見える家の中、皿に乗った二つの大きなお饅頭が見えた。
「ゆうう! あみゃあみゃー!」
「じゃまながらすしゃん! ゆっくちどいてね!」
子れいむがわめくが、その饅頭を食べることは出来ない。家はきちんと戸締まりされてい
るのだ。
親れいむは眉をひそめる。
このゆっくり一家、夏の暑さはどうにか乗り切ったようだが、そのやせ細った身体からす
ると消耗しきっているのは明らかだった。もういつ「永遠にゆっくり」してもおかしくな
いような様子だ。
食べ物を求めて町をさまよい歩いていたが、そろそろ限界だった。
親れいむが目を細め、ぐっと口を引き締める。その瞳には決意の炎が宿っていた。
「おちびちゃんたち! あのおまんじゅうさんをじっとみるんだよ!」
「ゆうう……おまんじゅうしゃんおいしそうだよぉぉぉ……」
「たべちゃいよぉ……」
親れいむに言われるまでもなく、子れいむたちは饅頭を凝視していた。よだれを垂らさん
ばかりの様子だが、しかし実際によだれは出ない。もう子れいむたちにはそんな余裕すら
ないほど消耗しているのだ。
そんな子れいむ達に、れいむは決然と告げる。
「あのおまんじゅうさんはおちびちゃんたちなんだよ!」
あまりにもわけのわからない言葉に、子れいむ達は目を丸くする。
「ゆうう!? どぼぢでぞんなごというのぉぉぉ!?」
「れーみゅたち、おまんじゅうさんじゃないよぉぉぉ!」
子れいむ達の抗議に、しかし親れいむは動じない。
「そんなことないよ! みてごらん、おちびちゃんたち! あのおまんじゅうさん、とっ
てもゆっくりしてるよね!?」
言われ、子れいむ達はこれまでと違った視点から饅頭を見つめる。食べ物としてではなく、
ゆっくりの至上の価値観「ゆっくりしているかどうか」、という視点で見る。
確かに家の中の饅頭はとてもゆっくりしているように見えた。
夏の盛りも過ぎ、最近は風を冷たいと感じることもあった。人間の家の中ならそんな風が
くることはなく、雨の心配だってない。
今の子れいむ達は、さんざん町中をはいずり回りお肌もおりぼんも薄汚れている。しかし
家の中の饅頭はきれいでもちもちしている。
親れいむの言うとおり、家の中の饅頭はとても「ゆっくり」していた。
「ゆゆ~ん……まんじゅうしゃん、とってもゆっくちしちぇるよぉぉ……」
「れーみゅもあんなふうにゆっくちしちゃいよぉぉぉ……」
饅頭のゆっくりさに見とれる我が子達に、れいむはゆっくりとした笑みを浮かべる。
「そうだよ! まんじゅうさんはゆっくりしているよ! でも、おちびちゃんたちだって
とってもゆっくりしているよ! だからあのまんじゅうさんは、おちびちゃんたちなんだ
よ!」
滅茶苦茶な親れいむの理論だった。筋が全く通っていない。しかし、そこは「ゆっくり」
という言葉一つで成り立つ不思議饅頭。
子れいむ達はうっとりと、自分を家の中の饅頭と重ね合わせた。それはとてもゆっくりで
きる妄想だった。
母親はそんな子れいむ達を眺めながら、ゆっくりと後ずさった。
そして、
「おちびちゃんたち! ゆっくりしていってね!」
最後の力を振り絞り飛び上がった。子れいむ達は反応する暇もなく親れいむにのしかから
れ、悲鳴を上げることもなくぺしゃんこに潰れた。
親れいむは折からの栄養失調とボディプレスの衝撃で動けなくなった。もう「永遠にゆっ
くり」するのは時間の問題だろう。
だがその顔には死に対する恐怖も、たった今子れいむ達を殺したことに対する罪悪感もな
かった。ただゆっくりとした満足げな笑みだけがあった。
「これでおちびちゃんたちは、おうちのなかでゆっくりできるよ……」
この親れいむ、実は一度死んだことがある。
それは暑い夏のある日のこと。親れいむは、自動車に轢かれた。
タイヤで潰されペシャンコになった自分の身体を見て、親れいむは自分がひどくゆっくり
できない状態――すなわち、霊魂――になったことを自覚した。
霊魂になった親れいむはふらふらとさまよい、ふとある家の中にある饅頭を見た。
とてもゆっくりしていると思った。
暑い夏の日射しにさらされることなく、ぱさつかずもちもちした饅頭。家の中には人間が
いない。きっとあの家は饅頭のゆっくりプレイスに違いない。
ゆっくりしている。ゆっくりしたい。あの饅頭が自分だったらいいのに。
いや、ゆっくりしているのだから自分かもしれない。
自分であってほしい。
むしろ自分に違いない。
自分があの饅頭だ。
でも自分は饅頭じゃない。
したがってあれは饅頭じゃない、ゆっくりれいむだ!
ゆっくりしていってね!
そう考えたとき。れいむは饅頭にとりつき、あらたな命を得た。饅頭がゆっくりに化けた
のである。
それからいくつもの偶然の結果、れいむは再び町中で野良として暮らすようになった。つ
がいのまりさと出会い、子れいむ二匹を授かったのはその後だ。
慎ましいながら幸せな野良生活。しかしある日、まりさが帰ってこなくなった。事故か浮
気かは判然としないが、いつまで待っても帰ってこない。
穏やかな生活は一変して過酷なものとなり、その末にたどり着いたのがこの戸締まりのち
ゃんとした家だった。
もうあまり動けない。限界を迎える前に食べ物を見つけることもできそうにない。
そこで親れいむが考えたのは、自分と同じように子れいむ達を霊魂とし、家の中の饅頭に
乗り移らさせることだ。
そのために子れいむ達に家の中の饅頭を見つめさせ、そして命を奪った。
心が痛んだが、親れいむは確信していた。きっと子れいむ達は饅頭に乗り移り、ゆっくり
できるはずだ。もうじき家の中の饅頭達は髪を生やしおりぼんをつけ、元気に動き出すに
違いない。
だが、親れいむにそれを見届けることはできそうにない。もう力つきそうだ。そして、家
の中の饅頭は二つ。親れいむの乗り移れる分はない。
「おちびちゃんたち……ゆっくりしていってね……」
我が子のゆっくりを願い、親れいむは永遠にゆっくりした。
「うわ、また死んでる」
れいむ一家が永遠にゆっくりした家の庭先。帰ってきた家主の男は、永遠にゆっくりした
れいむ達を心底うんざりといったように見た。
「やれやれ。またか。なんだか最近多いな。盆は盆で饅頭がゆっくりになるし……」
この町では盆の頃、家の中の饅頭がゆっくりになるという怪現象が多発した。それも不思
議なことに、家にある饅頭だけがゆっくりになり、店先で売られている饅頭がそうなるこ
とはなかった。
それについては諸説様々だ。
ゆっくりは思いこみのナマモノ。だから、売られているものはお菓子だと認識しているか
らゆっくりにならない。
あるいは、おうち宣言に代表されるように人間の家を自分のおうちだと思いこむ。その結
果、家の中にある饅頭を自分だと思いこんでなるのではないか。
ただはっきりしていることは、饅頭がゆっくりに変わるとき、近くでゆっくりが死んでい
るという事実だけだ。盆という時節から、ゆっくりが饅頭にとりついて化けて出ているの
ではないか、なんていうオカルトチックな噂も広まった。
なんにしろ、そんなおかしなことが起きたのは盆の間だけ。九月に入ってからは一度もそ
んなことはなかった。
男はふと、れいむ一家の死体を片づけながら、妙なことに気がついた。
大きなれいむが小さなれいむ二匹を押しつぶしているのだ。大きなれいむの方はこれと言
った外傷が見られない。
いったい何があったのだろう。つかの間思いを馳せ、しかし最後に男は笑い飛ばす。
「なんにしても自滅だろ。こいつら、自滅するために生きてるようなもんだからな」
ほうきとチリトリでざっと餡子をかき集めて捨てたあと、ざっと水を流す。
そうすると、れいむ一家のいた痕跡はなにひとつなくなった。
もちろん、家の中の饅頭がゆっくりに化けることなどなかった。
了
by触発あき
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- ↓↓そんな世紀末な天国の住民がいてたまるか -- 2023-03-13 17:37:10
- ↓↓
お前が馬鹿だろ雑魚ww -- 2014-09-24 00:35:12
- ↓↓↓↓
天国の住人「ヒャッハー!汚物は消毒だああ!」
ゆっくり「ゆんやああ!ゆんごくにきたはずなのに、ゆっくりできないぃぃ!」「やっぱりもとのせかいにかえるのぜ…」「「「ゆ…そうだね…」」」 -- 2014-03-13 00:14:54
- これはお盆じゃないからかな? -- 2013-05-11 11:03:48
- 子ゆに霊魂なんか理解したかすら確認せずに殺したのか、馬鹿じゃねーの -- 2010-12-24 15:43:43
- こんな糞饅頭哀れんでやることないよ。 -- 2010-12-14 10:02:04
- ゆっくりにも霊魂があるならあっというまに、あの世が満タンになっちまうな。
しっかし哀れな親子やね。 -- 2010-08-25 20:13:05
最終更新:2009年10月19日 19:35