ふたば系ゆっくりいじめ 246 復讐のらん 02

復讐のらん ――復讐のめーりん続編・ぱちゅあきりすぺくと―― 82KB

 ※容量オーバーの為、勝手に分割しました

『復讐への復讐編』


 らんは、めーりん一家を殺したれいむたちに何か思い入れがあるわけではない。
 それゆえ、巣穴の中の阿鼻叫喚を遠くから目の当たりにしても、何の感慨も抱かなかった。
 めーりんの顔を見て、れみりゃとふらんが恐れおののいた。
 どんな顔か、と思い、らんはちょっと物音を立ててみた。
 姿を隠しているらんの方に、ちらと振り返っためーりんの表情は――
 たいしたことなかった。
 おいおい、お前がそんなツラになる筋合いはないだろう、とすら思った。

 めーりんが、巣穴の奥に入っていった。
 らんは、巣穴の出口の近くに忍び寄り、こっそり中をのぞき見た。
 既に、めぼしいイベントはほとんど終わっていた。
 れみりゃとふらんの家族は、沢山の死骸にそれぞれ食らいついていた。
 その食事風景は、意外と静かなものだった。
 奥でめーりんによる嬲り立てが行われていたからだ。

 巣穴の一番奥で、死に損ないの親まりさが、必死に命乞いをしていた。
「ごべんなざい! ゆるじでぐだざい! おねがいじまず! めーりんさまあああっっ!」
 もうどのみち長くない命だろうが、ゲスである分、生きることへの執着はあるようだ。
「ぐずっていってごめんなざい! えざをどっでごめんなざい! がぞぐごろじでごめんなざい! いのぢだげはだずげでぐだざい!」
「へえ? かぞくのかたきに、あたまをさげていのちごいするの? おお、ぶざまぶざま」
 と、めーりんが嘲笑った。
 ぐうううううううっっ! とまりさが顔を歪めるが、すぐに命乞い用の泣き顔に戻る。
「おねがいじまず! がぞぐごろざれでも、うらみまぜんがらああああああっ!」

「かぞくをころされてもうらまない? へえ、ほんとうに?」
「ほんどうでず! うらみまぜん! まりざはどっか、とおいところにいきまず! にどとごごにがえっでぎまぜん!」
「ぐずのめーりんでさえ、かぞくをころされて、まりさをころしたいほどうらんだのに?」
 らんにはめーりんの顔は見えないが、にやついている表情が鮮明に想像できた。
「かぞくをころされてうらまないなんて、まりさはぐずのめーりんよりも、ぐずなんだね」
「はい! まりざはめーりんさまいかのぐずでず! ごみでず!」
「つまり、まりさはゆっくりできないゆっくりなんだね」
 はい、と言いかけて、まりさは口をつぐんだ。そして、がたがたと震え出す。
 ゆっくりできないゆっくりは、死ぬしかない。
 まりさの心は、どんどん崖っぷちへと追いつめられていく。
 かといって、この場を脱出できる余力など、かけらもなかった。

 どのみち死ぬものに、らんはもう、興味を持たなかった。
 それよりも、一つの死骸をめぐる、子れみりゃと子ふらんのいざこざに目をやった。
 発端は、子れみりゃが、自分の分の食事を食い尽くしたことである。
 腹は膨れていたが、まだ満足できないのか、周囲を見回す。
 だが、他の捕食種達に、めぼしい食料は全て食い散らかされていた。
 そして目にしたのは、巣穴の端の方で、一回り小さい子ふらんが親ぱちゅりーの死骸を独り占めしている姿だった。
「うー、ふらんにはおおすぎるんだどー。れみりゃにもよこすんだどー!」
 子れみりゃは子ふらんを押しのけて、ぱちゅりーの死骸に食らいついた。

 やがて、食事の取り合いは、喧嘩に発展した。
 子れみりゃと、子ふらんがお互いに体当たりを仕掛け合った。
 他の捕食種達も気付いて、大騒ぎになる。
 そして、めーりんも気付いた。明らかに、邪魔をされて不愉快だと言わんばかりの顔をしていた。
「くだらないけんかはやめてね! おやは、こどものけんかをとめないとだめでしょ!」
 めーりんがそう一喝した。

「うー、おねえさまがわるいんだどー! ふらんのあまあまをよこどりするー!」
「なにいってるんだどー! ふらんのぶんざいで、でっかいあまあまをひとりじめなんてずるいんだどー!」
 騒ぎの張本人達が、自分が正しい、相手は悪い。と言い合っている。
 その場には発端となる行為の目撃者がいなかったので、普通ならすんなり収まるものではない。

 が、めーりんは簡潔に、裁きを下した。
「けんかしたれみりゃとふらんは、めーりんのまえにきてね」
 二匹は躊躇したが、親に従うよう言われて、不承不承、めーりんの前に降り立った。
 めーりんは、二匹の上に跳び乗った。
「ぐげえ」
 しかし、潰れたのは体の重い子れみりゃだけだった。子ふらんは一瞬早く、跳びずさった。
「れみりゃのぢびじゃんがあああああああああっっっっ!」
 親れみりゃの悲鳴に動じず、めーりんは逃げた子ふらんを見て「ちっ」と舌打ちした。
「ふらんのちびちゃんっ! しばらくそとににげてるんだどーっ!」
 親ふらんに言われて、子ふらんは巣穴の外に出た。

 らんは、子ふらんに見つからないよう、巣穴の脇の石に身を潜めた。
「ううーっ」
 子ふらんは必死に逃げていく。巣穴のすぐ外で待っていればいいものを、そのまま森の中へと姿を消した。
「れみりゃのおおっ! れみりゃのぢびじゃあん! へんじしてええええっ!」
 と半狂乱で泣き叫ぶ親れみりゃ。それを見下すめーりん。
「けんかしたら、りょうほうともつぶすって、いったよね? ゆっくりりかいしてね。もちろん、あのふらんもかえってきたら、つぶすから」
 その場にいる捕食種達を見回すめーりん。親れみりゃ以外の捕食種達は無言で震えている。
 場が、大人しくなったのを尻目に、めーりんはまりさの方に向き直る。
 が、その口からはもう、まりさの心を苛む言葉は出なかった。
 心底つまらなさそうに、めーりんはつぶやく。
「なーんだ、しんだの」


 どうやら、めーりんたちはらんとちぇんの巣に戻るのではなく、今し方全滅した家族の巣穴に居座るようだった。
 らんは、ほっとしていた。
 本懐を遂げためーりんが、捕食種達から離れるのではないと知ったからだ。
 家族を殺された復讐。
 ぐずのめーりんが、その目的を達成したとき。
 らんの頭の中には、その目的のための手段が出来上がっていた。

 らんは、心に復讐を誓ったとき、一つ悩んだ事があった。
 それは、どうすれば『最も効果的な復讐』になるかという事。
 そして思いついたのが、奴がかぶっている虎の威を剥ぎ取ってやろう、というものだった。
 奴は捕食種達のことを、便利な戦力という程度にしか考えていない。
 だったら、その戦力を、じわじわと削いでやろうと思った。
 自分が何者かによって裸にされていると気付かせるのだ。
 そして、裸になっても止めはしない。なぜなら、まだ分厚い皮がある。
 一匹の無力なぐずに戻っていく恐怖を、たっぷり味わってもらう。

 らんは、森の中へと入っていった。
「さあて、にげたふらんのこどもはどこにいるのかなあ?」
 ギリギリと歯をきしませて、笑みを見せるらん。
 その笑みからにじみ出る憎悪は、めーりんのそれに勝るとも劣らないものだった。

「うー……まんまあー、ここどこー?」
 弱々しい鳴き声。らんの笑みが深くなる。くっくっと、唇の端から音が漏れる。
 森の中を、ふらついていた子ふらん。間違いなく、先ほど逃げ出した個体だ。
 らんは、そのふらんから見える場所に姿を現す。
 ご丁寧に、九尾の尻尾を振る音を立てて、子ふらんと相対した。

「うー♪ あまあまだー。いなりずしー」
 子ふらんはらんの姿を見て、ちょっと前に食った、赤らんの味を思い出した。
 しかも赤ん坊よりも、かなり大きい。これはかなり食いでがありそうだ。
 ――ひょっとしたら、こいつを持って帰れば、あのこわいめーりんも許してくれるかも。
 もちろん、彼我の実力差など考えてもいなかった。
 赤ん坊を殺すように、このらんもなぶり殺しに出来ると考えていた。
 産まれてまだ、半月にもなっていない子ふらんは、自分の経験から驕り高ぶっていた。
 そのため、逃げ惑おうともしない大人のらんに対して正面から挑むというミスを犯した。

 ふらんは体のど真ん中を狙ったはずだったが、手応えはなかった。
 勢いよく、地面にぶつかっていた。
 あれ、なんで?
 疑問に対して答えを出す間もなく、片方の羽をちぎり取られていた。
 背中に激痛がして、悲鳴を上げる。らんが、片方の羽を吐き捨てるのを見た。
「ぎいいいいいいいいっ」
 怒りの声をぶつけるが、らんは涼しい顔をしている。それがまた気にくわない。
 とはいえ、どうしようもなかった。
 空を自由に飛べないふらんなど、最下層のゆっくりに等しい。
 らんに何度も何度も体当たりを食らわされ、ついに子ふらんは抵抗を止めた。
 残っている羽をつかまれ、体が引きずられるのを感じながら、ふらんは意識を失った。

 らんが、ゆかりんの巣に子ふらんを連れ込んだ。
「そのふらんのこは……そういうことなのね」
 らんの顔を一瞥するなり、らんがこれから何をするつもりなのか、ゆかりんは悟ったようだった。
「もうわたしは、ここではゆっくりできないわ」
 と、ゆかりんは言う。その一瞬だけ、らんの顔は憑きものが落ちたようになった。
「……もうしわけありません」
「いいのよ、こけにされたしかえしはしなきゃ。わたしは、ほかのらんのいるばしょにいくわ」
「はい、どうか、おげんきで」
 そして、ゆかりんは巣穴を出て行った。

 何か、ふさふさもふもふしたものに、包まれている。
 ふらんが目覚めると、そこは見覚えのない巣穴だった。どうしてここに?
「うー……まんまー?」
 だが、そこにいたのは親ふらんではなく、自分を虐めたらんだった。
「ぐううううううっ! ごろじでやる! ゆっくりしね!」
 だが、まだ羽は再生していない。それどころか、残った方の羽ももぎ取られていた。
 ふらんは、ろくに動けない自分の体が恨めしかった。このままではなぶり殺しにされる!

「ああ、やっとおきたんだな、ゆっくりしていってね」
 優しい言葉をかけられて、子ふらんは意外だった。
 さらに意外だったのは、目の前に死にかけのゆっくりを差し出されたこと。
「これをたべて、はやくげんきになれよ」
 ちらちらとらんの様子をうかがいながら、ふらんは目の前のゆっくりを食べる。
 どういうこと? こいつ、さっきのらんとはちがうの? なんでこいつはふらんにやさしくするの?
 だが、そんな疑問も、らんの尻尾に包まれると、どうでも良くなった。
 とてもふさふさもふもふしていて、くすぐったくて、ゆっくりできる。
 ここには、ふらんを潰そうとしたこわいめーりんもいない。

 とはいえ、すぐにふらんの敵対心が無くなったわけではなかった。
 栄養を十分に摂ると、持ち前の再生力で、すぐに羽が生えてきた。
 すると、ふらんの本能が、らんを襲わせる。
 だが、らんの方にも隙はなく、決まって返り討ちにされた。
 また羽をちぎられて、食事を与えられる。

 ふらんに分かるのは、自分がらんに危害を加えることが出来ないときには、決まってらんが優しくしてくれることだった。
 つまり、自分がらんを攻撃しようとしなければ、らんは優しい態度で接してくれるのだ。
 まるで、ふらんがらんの本当の子供であるかのように。
 その慈愛に満ちた、どこか懐かしい尻尾の柔らかさに、ふらんのらんに対する敵愾心は徐々に薄れていった。
 とはいえ、ふらんにはふらんの家族がいるのだが、どこにいるのかは分からない。
 きっと、自分たちが襲ったあの巣穴にいるのだろうが、そこまでの道のりを覚えていなかった。
 そんなふらんに、らんは「みつかったら、すぐにおしえてやるからな」と言うのだった。


 四匹に減ったとはいえ、れみりゃとふらんの親子に太刀打ちできるゆっくりなどいないことは変わらなかった。
 めーりんは、親のれみりゃとふらんに、ゆっくりの群れを探させていた。
 群れを見つけても、一人で襲いかかるな、一旦帰ってこいと厳命していた。
 群れの集中攻撃で返り討ちに遭う危険性を考慮したことが一つの理由だ。
 そしてもう一つの理由は、一匹で襲いかかって、他のゆっくりが逃げ出すのを防ぐためだった。
 捕食種の子供達も、大きくなってきていた。
 大人のゆっくりでも、一対一なら確実に倒せる。
 そんな捕食種が四匹もいれば、ゆっくりの群れの逃げ道を塞ぐことも十分可能だった。

 そして、森の外れにある、最も大規模な群れを潰した。
 仇のゲスまりさが言っていた、最近羽振りのいいれいむ中心の群れだった。
 ゆっくりの群れの前に現れためーりんの姿を見て、連中はくずだぐずだと嘲笑う。
 その群れが捕食種と対面した瞬間、嘲笑が絶望に凍る様を見るのは、めーりんにとって麻薬のように快かった。
 れみりゃたちには、親か子供のどちらかを残した方が、より甘くなると教えてある。
 そして、頭の飾りや髪の毛をボロボロにするとなお効果的だ。
 家族や仲間を見捨てたり囮にしたりして逃げ出そうとしたゲスのれいむたちは、真っ先に襲わせて、動けなくさせた。

「おねがいでず! だずげでぐだざいいいいっ!」
「「いやだあああああっ! まだちにちゃくないよおおおおお!」」
 めーりんは、カチューシャをボロボロにされたありすの家族の前で、満面の笑みを浮かべて言った。
「おなじことをいっていためーりんのおかあさんを、すっきりでころしたんでしょ?」
 え? え? とありすの親が戸惑う。
 もちろんそんなことをした覚えはないからだ。こんなめーりんの母親など知らない。
「おかあさんありすが、こどもたちのぺにぺにをくいちぎってね。そしたらめーりんはゆるしてあげるよ」
 子ありすたちは絶句して、失禁した。

「どうしたの? ゆるしてほしくないの? ゆっくりしないできょせいしてね」
 そのめーりんの言葉に、ありすは身の程知らずに逆上する。
「ぞんなごど! ありずのどがいはなごどもだぢにでぎるわげないでじょおおおおっ!」
「べつにいいんだよ? やらなくても。じゃあしんでね。それとも、こどもたちがおかあさんのぺにぺにをきりとる? それでもいいよ」
「ゆうううううううっっっ! このいなかものおおおおおおおっ!」
 切れた一匹の子ありすが、めーりんに体当たりを仕掛けた。めーりんは全く動じない。
 その子ありすを、子ふらんの目の前に突き飛ばした。

「いきのいいこどもだね、ほらみて! ふらんもあたらしいおもちゃではしゃいでるよ」
「おねえぢゃああああああああああんんんんんん!!」
「ぐぎいいいいいいいいいっっっ! ごの、ゆっぐりごろじいいいいいいいいっ!」
「なにいってるの? ふらんはゆっくりをたべるものでしょ? そんなこともわからないあんこのうなの? あ、ちがった、くりーむのうだ」
 にやにやと笑って、めーりんは告げる。
「で、どっちがどっちのぺにぺにをくいちぎるの? はやくしてよ」

 結局、親ありすが、ぺにぺにを食いちぎられることになった。
 めーりんにとっては、少々意外だった。仲間割れをするものだとばかり思っていたから。
「ゆぎぎぎぎぎぎぎ……ぢびぢゃんんんんん……」
 子供の脆弱な咬筋力で思い切り悪く噛まれたので、ぺにぺにはずたずたにちぎれた。
 まあ、これはこれでいいものを見られて良かった、とめーりんはほくそ笑んだ。
「ごれで……ありずを……ゆるじで」
「うん! いいよ! みんなゆるしてあげる。じゃあ、ゆっくりにげていいよ」
 ぱっと、ありす親子の表情が明るくなる。

「――れみりゃとふらんにつかまらないようにね!」
「「ゆう?」」
「「うー♪」」
 ありす親子の上から、れみりゃ親子が口を広げて噛みついた。
「どぼじでよおおおおおおおっっっ! いうどおりにじだでじょおおおおっっっ!」
「ゆぎゃああああっっ! じにだぐない! じにだぐない! じにだぐないよお!」
 子ありすは、すぐに中身を吸い出されていった。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ……………………」

 吸い取られていく親ありすに向かって、めーりんはあの邪悪な笑みを見せる。
「だから、『めーりんは』ゆるしてあげたでしょ? れみりゃはべつだよ」
 ゆっくりの餡子脳を騙す、簡単なレトリック。気付いたありすは、めーりんを罵る。
「ごのいながもののゆっぐりごろじいいいっっ! おまえなんが、ゆっぐりじないでじねえええっ! このぐず! ぐず! ぐず! ぐず! ぐず、ぐず、ぐず、ぐ、ず…………」
 そして、動かなくなったありすを、めーりんは冷めた目で見る。
「なんだ、もうおわり? もっとほめてよ」

 そして、れみりゃとふらんの親子があらかたの料理を食べ終わった頃。
 群れが全滅していく様子をつぶさに見たことによって、ゲスれいむたちは極上のデザートになっていた。
 仕上げは、赤ちゃんれいむの空中消失だった。れみりゃ親子がそのリボンを持ち上げる。
「ゆっ、おそらをとんでるみた――いぎいっ、ゆぎゃっ、やめ――」
 その体は空中で落ち葉のように翻弄されて、少しずつ消えていく。
 そして、リボンと幾ばくかの髪の毛のみが、親のゲスれいむの前に落ちた。
「おねがいじまず! でいぶをだべないでぐだざい! もうぐずなんて」
「あのまりさとおなじことば、つまらないよ。れみりゃ、ふらん、たべちゃっていいよ」
 今やめーりんは、どんな性格のゆっくりでも、れみりゃふらん好みの甘さに仕立て上げる術を知り尽くしていたのだった。

 れみりゃやふらんも、めーりんの言うことに従うメリットを理解していた。
 一匹だけなら、あまあまをたくさん食べられない。群れを襲うことも出来ない。
 だが、めーりんに従うことで、分不相応な量の食事が出来るのだ。
 ゆっくりの中で一番甘い、餡子の真ん中だけを食って残りを捨てるという贅沢も出来た。
 自分たちの力と、めーりんの頭があれば、いくらでも食べることが出来る。これからもずっと。
 そう考えると、とってもゆっくりできるのだった。


 それからも、めーりんたちはことあるごとに、ゆっくりの群れを潰していった。
 れみりゃとふらんに、新たなゆっくり探しの条件を教えた。
 なるべく、幸せそうにしている群れを探すこと。
 夫婦、あるいは子供と親の仲が良いゆっくりなどは、最適だ。
 捕食種達は、めーりんがさらに美味しいゆっくりを用意してくれるのだと理解して、命令を忠実に実行した。
 れみりゃとふらんは、親も子もすくすくと成長していった。

「うー、うー♪ めーりんといっしょだと、とってもゆっくりできるんだどー♪」
「「れみ☆りゃ☆うー♪」」
 これで自分は、完全に捕食種達の心をつかんだ、とめーりんはほくそ笑んだ。
 間違いなく、このれみりゃとふらんは、自分に対して畏敬と恐怖の念を抱いている。
 自分の身も、安泰になるというものだ。
 だが、何かもう一押し足りない気がする。何だろうか。

 そんなときに、慌てて帰ってきた親ふらんの言葉で、疑問は氷解する。
「どすがいたんだど! あやうくやられるところだったどー!」
 そいつだ! めーりんの目つきが、鋭くなる。
「うー……めーりん?」
 さすがにドス相手ともなると、れみりゃやふらん達の顔にも、ためらいが見えた。
「みんなはここでまっていてね、ふらん、いっしょにいこう。どこにどすがいるの?」
 そう言って、めーりんは親ふらんとともに、ドスのいる場所へ出かけた。

「うー、このさきだどー」
 その先には川があり、その横の断崖にぽっかり空いた大きな穴があった。その周りに、ゆっくりどももいる。
「じゃあ、ふらんはちょっとここでまっていてね」
 そう言って、めーりんは単身、ドスのいる場所へと歩を進める。
 ふらんはその勇気に感服するのだった。

 めーりんは、そのドスの群れがいる場所に、見覚えがあった。
 一家が殺されて孤児になっためーりんを助けた、めーりん種の住処だった場所だ。
 めーりんがたまたまちょっと外出した際に、ドスまりさ率いる群れが現れて、他のめーりん達は皆殺しにされたのだった。
 本当のドスなら、めーりん相手でも分け隔て無くゆっくりさせるものだろう。
 それが出来ないということは、この群れのドスは、ドゲスだ。
 まあ、ドスにしろドゲスにしろ、潰すという決断が変わることはないのだが。
 ドゲスなら、自分の強さに自惚れているだろう。
 それでこそ、倒す甲斐があるというものだ。

 めーりんが姿を現したのに、最初に気付いたのはまりさだった。
「ゆ? なんかようかなのぜ、ぐず」
 挨拶の段階からして、まともに名前を呼んでもらえなかった。
 だが、めーりんはそんなことを気にしていないかのように振る舞う。
「ここにどすがいるってきいたんだよ! めーりんもあいたいな!」
「はあ? なにいってるの? ばかなの? しぬの? どすがおまえみたいなぐずにあうわけないでしょ?」
「あってみないとわからないよ! どすはあのあなのなかにいるんだよね!」
「おい、ぐず。あんまりちょうしのってると、このまりささまがゆるさないんだぜ!」

「むきゅ、なんのさわぎ? まりさ」
 穴から、ぱちゅりーが姿を見せた。
「ぱちゅりーがでるほどのもんだいじゃないんだぜ! ぐずがきただけだぜ!」
「むきゅっ、ほんとうだわ! きたならしいぐずね!」
 好き勝手なことを言うぱちゅりーに、めーりんは問いかける。
「ねえねえ、みたところ、ぱちゅりーはむれのなかでもかなりえらいみたいだね!」
「むきゅ? めーりんのくせにしゃべれるの? ま、どうでもいいわね。そうよ! ぱちゅりーはね、どすのふところがたなってよばれているのよ!」
「ぱちゅりーにあえただけでも、ぐずにとって、みにあまるこうえいなんだぜ!」

「めーりんを、ドスのむれにいれてくれる?」
「むきゅん、なかまにいれろですって?」
 ぱちゅりーは、体を震わせ出した。横のまりさも同様だった。
「どうしたの?」
「むっきゃっきゃっきゃっきゃっ」「ぎゃはははははははははっ」
 二匹同時に、爆笑した。
「あのねえ、うちのどすは、しょうすうせいえいしゅぎなのよ! あんたみたいなぐずをいれるわけがないでしょ!」
「ぐずはぐずらしく、だれにもみかたされないで、のたれじにするのがおにあいなんだぜ!」

 めーりんは、ドスの住処の地理を、あらかた確認し終えた。
 もうここに留まる用はない。
「すがたをあらわさないなんて、ここのどすはずいぶんとしんちょうなんだね。またくるよ!」
「もうこなくていいんだぜ! こんどきたら、まっさきにふるぼっこにするんだぜ!」
「むきゃきゃ! そういえば、さっきどすがふらんをおいはらったのよ! せいぜい、かえりみちはきをつけることね!」
「ぐずのめーりんが、ふらんからにげきれるわけがないんだぜ! おお、あわれあわれ」
 まりさとぱちゅりーの嘲笑を浴びながら、めーりんはドスの住処を離れた。

「ふらん」
「うー……」
 めーりんの呼びかけに答えて、ふらんが心配そうな顔で現れる。
 めーりんは、そんなふらんに、ぐずの笑みを見せる。
「あのどすのむれを、つぶすよ」
「うー!」
 自信に満ちためーりんの顔を見て、ふらんは元気を取り戻した。


 めーりんは念のため、三日三晩考えて、ドスを倒す手順を何度も練り直した。
 その間、れみりゃとふらんには、食事を控えるように命令した。
「「うー、おなかすいたー」」
「どすをたおせば、いままででいちばんおおく、たべられるから、がまんしてね」
「「うー? ほんとうに、どすをたおせるのー?」」
「「ちびちゃん! めーりんをしんらいするんだどー」」
 それでも、子供の方は半信半疑の様子だった。

 そして、計画実行の日が来た。
 れみりゃとふらんの親子を引き連れて、ドスの住処の近くで止まる。
「それじゃ、けいかくしていたとおりにうごいてね」
 そう言うと、れみりゃの親子がどこかへ飛んでいった。
「ふらんは、めーりんがあいずするまで、めーりんのちかくからはなれちゃだめだよ」
「うー、いわれなくとも、はなれたくないんだどー……」
「うー……こわいー。まんまー……」
「しっかりしなよ! いままでふらんはかずおおくのえものにかってきたでしょ! じゃ、いくよ!」

「ゆっくりしんでいってね!」
「「うー! うー!」」
 ふらんが二匹(ついでにめーりんが一匹)、現れたことで群れは騒然となった。
「ゆああああああっっ! ふらんだああああああっ!」
「なんでぐずのめーりんといっしょにいるのおおおおお? わからないよおおおおお!」
「ゆっ、おちついてね! みんなゆっくりおちついてね! こっちにはどすがいるよ!」
「そっ、そうだよ! どすがくれば、みんなまとめてどすすぱーくでじょうはつだよ!」
「びっぐまぐなむ! びっぐまぐなむ!」
「どーす! どーす!」
「「「「「「どーす! どーす! どーす!」」」」」」

 そして、ゆっくり達の呼び声に答える形で、穴の入り口の方に、大きな影が現れる。
「びびったら、まけだよ」
 とめーりんはふらん親子に言う。
 そして、ドスまりさの顔が見えた。が、まだ穴の中からは出てこない。
「ゆ? なんのさわぎかとおもえば、たかがふらんにひきじゃない」
 その言葉に、めーりんが応じる。
「ふらんだけじゃないよ! めーりんがここにいるよ!」
「ゆう? ねえぱちゅりー、どすもとしをとったのかな。ぐずがしゃべってるのがきこえたんだけど」
「むきゅ! どす、こいつはめずらしい、しゃべるめーりんなのよ! といっても、ぐずはぐずだけどね!」

「ぱちゅりー、きみがそんなにあたまがわるいゆっくりだとはおもわなかったよ」
「む、むぎゅっ! どす!? どうして!?」
「ふらんにたべられないゆっくりなんて、はじめてみたよ。ただのぐずじゃないね」
 めーりんは少しこのドスを見直す。なるほど、だてにドスではないと言うことか。
 だが、ちょっと揺さぶってみるとどうなるかな?

「どす! めーりんは、どすとゆっくりはなしがしたくてきたんだよ!」
「こっちはぐずとしゃべることなんかないよ。そこのふるえているふらんといっしょにゆっくりかえってね」
 めーりんがふらんを見ると、確かに震えていた。その場にじっとしているだけでも精一杯だろう。
 その様子を見て、ドスは穴の奥に引っ込もうとする。
「そんなこといわずにゆっくりきいてね! めーりんは、どすときょうていをむすびにきたんだよ!」
 ドスの動きがぴたりと止まった。

 めーりんが告げた協定の内容は、ほとんど協定の体をなしていなかった。
 それもそのはず、めーりんがドスの前で即興で作り出したものだったからだ。
 一つ、ドスの群れはここに棲んでいためーりんたちを殺した償いをすること。
 一つ、今後、めーりんたちを「ぐず」と呼ぶのを止めること。
 一つ、めーりんがすっきりできるよう、美しいゆっくりを数人よこすこと。
 一つ、

「もういい」
 ドスがじりじりと、穴の入り口近くに身を乗り出してくる。
「きょうていをむすべるのは、どすのようにちからのあるものだけだよ。ひんじゃくなぐずがどすのまねごとをして、どすはちょっときぶんがよくないよ」
 他のゆっくりどもがはしゃぎ出した。
「「「ざまあみろ! どすをおこらせたばつだよ! ふらんもろともゆっくりしないでしんでね!」」」
「むきゃきゃ! あなたも、あのぐずのめーりんどものように、いっしゅんでじょうはつするのよ! いまさらにげまどってもむだよ!」
 巣穴の前にいたゆっくりたちが、二手に割れて、ドスの通り道を作った。

 ふらん親子が、めーりんの背後に身を潜める。
 めーりんは、余裕の笑みを全く崩さなかった。
 そうだ、出てこい。どすすぱーくを撃つために。
 巣穴から出てきたその時が、お前のゆっくり人生の、終わりの始まりだ。

 ぬうっ、とその全身を表したドスまりさ。
 めーりんの十倍よりも、遙かに大きかった。
「さいごのけいこくだよ。いますぐうしろのふらんをころしてね。そしたら、ぐずははんごろしですませてやってもいいよ」
「むきゅっ。やさしすぎるせいかくはあいかわらずね、どす。それがあなたのいいと・こ・ろ♪」
 めーりんは、反応しなかった。ドスは、小さくため息をつく。
「じゃ、みんなでなかよくしんでね」
 そう言って、ドスは帽子の中のどすすぱーく用きのこを取り出すために、頭を揺すり始めた。

「「うーっ!」」
 そのドスの頭上から、れみりゃ親子が飛びかかった。
「うわあああああっ! れみりゃだああああっ! どすううううううっ!」
 そして、れみりゃ親子は、きのこの入ったドスの帽子を口にくわえた。
 が、ぶん取れなかった。
 帽子に着いていたリボンに、ドスの髪の毛が絡まっていたのだ。
「「ううううう?!」」

「――そんなこともかんがえつかない、おろかなどすだとおもったの?」
 と、頭上のれみりゃ親子を見上げるドス。そして、きのこがドスのそばに落ちる。
「むきゃきゃ! けいせいぎゃくてん……あぶなああああああい!」
 ぱちゅりーの叫びに、ドスは目の前に視線を戻した。
「「うううううぅぅっっ!!」」
 ドスが最後に見たのは、ふらんの親子がそれぞれ鋭い枝を口にして、こちらに突っ込んでくる動作だった――
「けいせいぎゃくてんだね、ぱちゅりー」
 と、めーりんは悪魔の笑みを浮かべた。

「ゆぎゃああああああああああ! めがあっ、めがああああああああっ!」
「ど、どす! おちついて! おねがいだからおちつい――むぎゃあっ!」
「ゆがっ!」
「ゆぶぇ!」
「くぎゅうっ!」
 ドスが痛みに耐えかねて、体を倒した。そのときに、ぱちゅりーをはじめ、数匹のゆっくりが巻き添えで潰された。

「ぐうううっっ! ゆるざないよ! ぐずが! ばぢゅりー! ばぢゅりー! ドスのきのこはどこだあっ」
 しかし、その答えるべきぱちゅりーは、ドスの下で円盤になっていた。
「どす! これがどすのきのこだよ!」
 と、誰かがドスの口にきのこをくわえさせた。
「どす! ぐずどもは、あっちだよ! からだをはんたいがわにまわしてね!」
 ドスは、その声に従い、きのこを噛んだ。
「「「ま、まって! ど――」」」
 白い光と轟音が、しばしの静寂をもたらした。

「ぐっぐっぐっ、やっだよ! なまいぎなぐずを、やっづげだよ!」
 ドスは高らかに宣言する。
 だが、その後に来るはずの、ゆっくり達の賛辞の声が聞こえない。
「ほんとだね! しょうすうせいえいのぐずが、いっきにけしとんだね! さすがはどすだね!」
 嘲笑う声。良く聞けば、その声は群れのゆっくりのものとは違う。
 思考が追いつかず、呆然とするドス。
「れみりゃ! ふらん! ここからはなれようね!」
「「「「うー♪」」」」
 そして、軽やかに遠ざかっていく足音と羽音。

 こつん――と、皮膚に何か当たったのを、ドスは感じた。
「ゆ?」
 こつん……こつん、どかっ。
「どすのせいで、たくさんしんじゃったんだぜ……ぱちゅりーも……」
 とまりさが言った。
「どすのうそつきいいいいいっ! ゆっくりさいきょうがわらわせるぜ!」
「ぐずのめーりんごときに、このていたらくなんだね、わかるよー!」
「おがあぢゃんをがえぜ! ごのでかぶつ! うどのたいぼく!」
「たんしょうほうけい! ぼっきふぜん! そうろうちんぽっ!」
 そして、言葉と石と体当たりの集中砲火が始まった。
「ゆぎいいいいいいいいいいいっっっ!!! どぼじでえええええええええ!!!」

 少し離れた場所から、めーりんたちはドスの群れの崩壊を鑑賞していた。
「うーっ、どすをやっつけたどー! れみ☆りゃ☆うーっ」
「ふらんのめつぶしがきいたんだよー」
「う? ふらんがうまくいったのは、れみりゃがどすのきをひいたからなんだど!」
「めーりんがいちばんすごいどー! ほんとうにどすをやっつけちゃったどー!」
 流石にめーりんも、わき上がってくる優越感を抑えられなかった。

「ぐぎいいいいいいっ! もうみんなじねっ! じねえっ! じんでじまええええっ!」
 盲目のドスが自暴自棄になって暴れ出す。数匹のゆっくりが潰される。
 生き残ったゆっくりは、遠巻きにドスを取り囲み、罵詈雑言を浴びせ続ける。
「おなかすいたー、れみりゃ、まちきれないんだどー」
「もうちょっとがまんしてね、どすが、とってもあまくなってるさいちゅうだから」
「うううううう、じゅるり……はらいっぱいのいっぱい、たーべちゃうぞー!」

「もうこんな、ゆっくりさいじゃくのどすに、たよったりしないんだぜ!」
「みんなもう、どすなしでじかつできるんだね、わかるよー」
「むしろこうつごうだね! しょうすうせいえいのなかで、ひとにぎりのつよいのがのこったよ!」
「むてきのゆっくりぼっきあげだちーんぽ!」
 そして、ドスを見捨てて自分たちの巣穴に戻ったゆっくりたち。ずいぶんとスペースがひろくなった。
 ゆっくりたちは、今後の展望を話し合う。
 新しくどんどん子供を作って、勢力を広げよう。そして他のゆっくり達を奴隷にしよう。
 ゆくゆくは、ゆっくりプレイスの進化系、ゆーとぴあを作ろう。
「ゆめがひろがりんぐ! だね!」
 とめーりんが言った。他のみんなもうなずいた。
「「「「そうだね! ゆっくりしていっ、て…………」」」」
 巣の入り口にいたのは、ドスからの独立を祝福するように、満面の笑みを浮かべているめーりんと捕食種達。
「「「「だずげでええええええっ! どすうううううっ!」」」」
 そして、夢見るゆっくりたちは、れみりゃたちの前菜となった。

 そろそろいいかなと思い、めーりんが様子を見ると、ドスは精神崩壊を起こしていた。
「ゆっ、ゆっ……ゆぶっ、ゆぶっ、ゆぶぶぶぶぶぶっ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ……」
「ゆっくりしたけっかがこれだね」とめーりんは独りごちた。
 れみりゃとふらんは、ドスの眼窩から、中身の餡子にたどり着いた。
 びくっ、びくっ、とドスが痙攣を始めた。
 中枢の餡子を食い尽くすまで、どれだけ時間がかかるのか、めーりんにも想像がつかなかった。

 ドスすらも倒して、捕食種達は、幸せの絶頂にあった。
 もうゆっくりの世界で恐れるものは何一つ無い。
 めーりんは、木枯らしが吹き始めたのを肌で感じた。それで、少し後悔する。
 ゆっくりどもを少し残しておいて、越冬のための備蓄にするべきだった。
 まあ、それは次の機会にやればいいか、とゆっくり構えた。

 三日三晩、ドスの中身をれみりゃたちは食い続けた。
 中枢部分を食うと、もう後は食い散らかされた。
「うーっ、おなかたぷんたぷんだどー♪ げんかいをこえてくったどー」
「まんまー、みてみてー、にんっしんしているみたいだどー」
「うー、そういえば、そろそろあかちゃんほしいどー」
 そうこうしているうちにも、じりじりと、冬は近づいていた。
 れみりゃとふらんの親子の体が膨れあがり、まともに飛べないので、巣に帰ったのは実に一週間後のことだった。

 そして、めーりんと捕食種達は「ゆっくりしたけっか」をまざまざと味わうこととなる。
 ドスの群れを食べ尽くしたその日以降、ゆっくりがめっきり取れなくなったのだった。


 浮かぬ顔で、親ふらんがよたよたと帰ってきた。
「うー……きょうも、あまあまみつからなかった……」
「ままのぐずううううっ! やくたたずうううううっ!」
「だったらちびちゃんがいってくるんだよ! なまいきいうこはぶちころすよ!」
「うー、まんまー、れみりゃおなかへったー、あまあまたべたいー……」
「あしたはれみりゃが、きっとみつけるど! ちびちゃんげんきだすんだどー」
 その森からゆっくりの姿が完全に消えて、二週間が過ぎていた。
 肥え太っていたれみりゃもふらんも、親子共々少しずつ痩せて小さくなっていく。

 めーりんの理解を超える現象だった。
 この豊かな森からゆっくりの姿が消え失せるなんて。
 冬眠にはまだ余裕があるはずだ。むしろ今の時期こそ、ゆっくりが活発に活動していなければおかしい。
 それなのに、ゆっくりたちの影も形も見あたらない。

 調子に乗って食べ過ぎた? いや、そんなはずはない。
 めーりんの知る限り、ゆっくりというものはこっちで全滅すればあっちが増える、あっちが全滅すればこっちが増える、そういうものだからだ。
 めーりんの腹が鳴る。
 巣穴の奥には、今まで襲った群れから奪い取り、蓄えてきた食料がある。
 だが、もちろんそれは捕食種の食べない木の実や虫の死骸だ。
 巣穴の奥に行くと、めーりんは背後に冷たい視線を感じる。
 なんでこいつだけ、という感情のこもった目線だ。
 不愉快な気分で、食料を咀嚼する。ちっともうまくない。
「なにじろじろみてるの! ゆっくりできないよ!」
 捕食種達は、ぷいと目をそらす。

 次の日、れみりゃが久々に、良い知らせと共に帰ってきた。
「みつけたど! れみりゃが、ついにみつけたんだど!」
「ままはさすがはえれがんとなこーまかんのおじょうさまだどー! ふらんとはおおちがいだどー」
「ぐぐぐぐぐぐ……」
「まんまは、やくたたずー、まんまのおねえさまについていくー」
「ぢびぢゃん! いいかげんにしないと、ほんきでつぶすよ!」
「つぶすとかいってるどー、おお、こわいこわい。ぐずにそんなことできるの?」
 親ふらんは顎が潰れそうなほどの歯ぎしりをする。

「すぐいくよ!」とめーりんは号令を掛ける。
 が、捕食種達は、その声が聞こえなかったかのような態度で、先に外に出た。
「うー、まんまぁー、どこー?」
「ちょっととおいんだど! でも、がまんするんだど!」
「「うー、あまあまー、ひさしぶりー」」
 久しぶりの食事だ。捕食種達にとって、そのとき、めーりんなどどうでもよかった。
 腹一杯になって余裕が出来たら、痛い目に遭わせてやる。主従関係を再確認させるのだ。
 めーりんはその方法を考えながら、れみりゃたちの後を追いかけた。

 めーりんは、ようやくれみりゃたちに追いついた。
 だが、そこにあったのはゆっくりの群れではなかった。
「どういうことなんだどー! ままー! あまあまぜんぜんいないんだどー!」
「う? うううう?? こんなはずないんだどー。さっきはいっぱいいたんだどー!」
「おねえさまは、おなかがすいて、げんかくでもみたんだよ!」
「そんなはずないんだどー!」

 全くの、もぬけの殻だった。
 確かに、ゆっくりが棲んでいた形跡はある。食料が集められているのをめーりんは見つけた。
 だが、周囲を探しても、饅頭の影も形も見あたらない。
「うー、まんまー! あまあまがー!」
 子ふらんが、草葉の陰に山積みにされている、ゆっくりの死骸を見つけた。
 既に中身の餡子は全部なくなっているか、もしくは地面に餡子やクリームが巻き散らかされていた。
「うー! ごんなのぐえないどー!」

 ん? とめーりんは物音がしたのに気付いた。
 視線の先には、小さな土の巣穴に、無理矢理自分の体を押し込もうとしているれいむがいた。
 めーりんはそいつの髪をくわえて、引っ張り出した。
「ゆっ、ゆぎゃあああっ! またふらんがいるうううっ! こんどはれみりゃもおおおっ」
 また? どういう事? この近辺には、めーりん配下のれみりゃふらん以外の捕食種はいないはずだった。
 それなのに、確かにゆっくりの死骸の中には、小さなふらんの死骸が見える。
 もう少し、尋問したいと思ったが、それはかなわなかった。

「うーっ!? めーりん、そのあまあま、よこすんだどー!」
「「「うーっ」」」
「ちょっ、ちょっとまって! こいつにはまだききたいことが」
「うーっ、またないんだどーっ! あしたのでざーとより、きょうのあまあまだどーっ」
 そして、めーりんは親れみりゃに押しのけられた。
 あっという間に、四匹の捕食種がれいむにたかり、五秒もせずに皮一枚を残すのみとなった。
「うーっ、あんまりあまくないんだどー……」

 めーりんが使役するのに便利だったこの捕食種達の短慮は、今となっては疎ましかった。
 このれいむをあの巣穴に連れ帰って、無理矢理すっきりすれば、いくらでも食料が得られるのに。
 所詮は餡子脳だ。こいつらが冬に自滅しても、何の同情も出来ない。

 れみりゃたちの考えは違った。
 これまで見つからなかったのは、ただの偶然だ。ちゃんと探せば、ゆっくりは見つかるのだ。
 久しぶりの食事でわずかに腹を満たして、れみりゃたちの焦りは収まっていた。
 今後を楽観して、れみりゃたちは巣穴に戻り、眠りについた。
 それが、れみりゃたちの最後の晩餐だった。



 らんは、めーりんたちの近辺にある群れや家族がほぼ全ていなくなったことを確認した。
 近くに、れみりゃとふらんが住み着いた。どんどん数を増やしている。この群れよりも遙かに多いから、太刀打ちできない。
 出会う群れ全てに、そう説明したのだった。
 れみりゃ、そしてふらんの名前を聞いて、ほとんどの群れや家族は、退散していった。

 案外、ゆっくりの退散は早く済んだが、無論、逃げようともしない連中もいた。
「ゆっふん! このとかいはなおうちのかもふらーじゅはかんぺきよ! れみりゃやふらんみたいな、いなかものにみつかるはずないわ!」
「「「「どれだけきても、かえりうちだよ!」」」」
 それなら、実力行使でいなくなってもらうしかない。
 ああ、悲しいことだ、とてもとても悲しいことだ。
 そう思いながら、らんは笑った。

 ゆっくりたちの退散が早く済んだわけを、ぱちゅりーが教えてくれた。
「そういえば、あなたのまえにも、そんなことをいっていたゆっくりがいたわね。とってもうさんくさくて、くさいばばあだったわ!」
 らんは悟った。らんと別れたゆかりんが、らんのやろうとしたことを先にやってくれていたのだということを。
「そんなうそをいっても、だまされないわよ! このゆっくりプレイスはぱちぇのものよ! むきゃきゃ!」
「「「みゃみゃは、ゆっくりいち、かちこいね!」」」
「むっきゅーーーーーーん。ありがとう、ちびちゃん!」
 ゆかりさまと自分の忠告を嘲笑ったこのぱちゅりーこそが、最初の標的にふさわしい、とらんは決めた。

「ふらん、それじゃあ、りはびりにいこうか」
 巣穴を塞いでいた石をどけて、らんは中にいる子ふらんに呼びかけた。
「うーっ!」
 久しぶりの外出に、ふらんは飛び跳ねてうれしさを表現した。
「ればてぃんは、もったか?」
 ふらんは、帽子から鋭くとがらせた枝を取り出す。
「じゃあ、きょうは、ぱちゅりーたちとあそぼうか」
「うーっ!」

 ぱちゅりーとれいむの家族は、五分も保たなかった。
 ふらんがらんのアドバイスを受けて新しく編み出した必殺技「ぞーりんぶりっつ」で、親れいむの両目を一気に潰す。
 そのショッキングな光景で、ぱちゅりーの子供達は瀕死になった。
「ど、どぼじでごんなごど……むぎゅえっ」
 クリームを吐き出す親ぱちゅりー。目の無くなった親れいむにしがみつく子れいむたち。
「ひとのちゅうこくを、にかいもむししたばつだぞ。おまえのせいで、かぞくはみなごろしだ」
「「「みゃみゃのばかああああああっ! ゆっくりしねええええええっ!」」」
「ば、ばか……ぱちぇが、ばか……むげええええっ!」
 そして、親に続いて子ぱちゅりーも死んだ。
 残りを始末するのには、時間がかかった。ふらんの遊び相手になっていたからだ。

「うまかったか?」
「うーっ、あまあま、おいしかったー!」
「このさきに、どくしんのわかいありすがいるんだが、そいつをつれてかえるぞ」
「うー? あそばないの? たべないの?」
「あそばないし、たべない。ふらんもそろそろ、こどもがほしくなるころだろう?」
「う? ふらんのこども? …………うーっ、こどもほしい!」

 そして、子ふらんは道程を卒業した。ついでに、ありすは腹上死した。
 頭に実った赤ありすは、産まれる前に間引いた。
 用があるのは、赤ふらんの方だけ。
 産まれた赤ふらんが親となった子ふらんとの対面で喜びを分かち合っているところに、らんはこれからみんなでまりさの家族を襲撃することを告げた。

 当然ながら、生まれたての赤ふらんたちは、何の訓練も受けていない。飛行すらおぼつかない。
 それを率いて、群れや家族を襲うのであるから、当然返り討ちも受ける。
 だが、別にらんにとっては構わなかった。減れば増やせばいいまでのこと。
 むしろ、積極的に生産調整をしなければ。

「ゆっ……ゆっ……ゆっ…………」
 死にかけた子まりさに、赤ふらんがとりついている。
 たっぷりと中身を吸ってご満悦の赤ふらんに、おびえて手も足も出ない他の子まりさたち。
 ふらんは、親まりさをもてあそんでいる。
 ふらんがこちらに見向きもしない、その隙を狙って、らんが赤ふらんを噛み殺した。

「ゆゆっ!?」
 赤ふらんの死骸を口にくわえて、近づいてくるらんに、子まりさたちは困惑しながらも、歓声を上げた。
「ありがとう! たすかったよ!」
 らんは、赤ふらんの死骸を、子まりさの笑顔に向けて吐いた。
 そして、舌なめずりをして、ふらんの方に振り向く。
「ふらん! おまえのこどもが、こいつらにころされてしまったぞ!」

「「ゆっ! ちがうよ! まりさたちじゃないよ! ちがっ、ちがうってばああああっ!」」
 もちろん、ふらんがそんな弁明を聞き入れるはずがなかった。
 というより、何も聞いていなかった。
 可愛い赤ん坊を殺した連中を殺すことしか頭になかった。
「ちが……う、のに……」「もっとゆっくりしたかった……」
 いくらちがうとまりさが言っても、現実に死骸を顔に貼り付けているまりさの言葉ではどのみち説得力はなかった。

「どぼじで……ごんなごどずるの……まりざなにも、わるいことしてないのに……」
 そばを通りかかったらんに、親まりさが呟く。
「わるいことをしたじゃないか」
「……ゆ?」
「こんなところでゆっくりしていたのが、わるいことだ」
「……ゆがあああああああっ! じねえええええええっ! ごのぐずううううっ」
 最後の力を使って罵る親まりさの体に、赤ふらんがたかった。
「ひていはしない」と、らんは言った。

 めーりんたちを上回るハイペースで、らんとふらん親子は、群れや家族を襲撃していった。
 殺したゆっくりの数で言えば、めーりんたちの方が上だが、群れを潰した数は、らんたちの方が上回った。
 それでも、流石にドスには手が出なかった。
 なので、ドスをめーりんたちの最後の獲物に残してやろうと、らんは決めた。

 ふらん親子を率いて、残ったゆっくりたちを潰す作業の傍ら、らんはめーりんたちの監視も忘れなかった。
 今やらんは、昼も夜もない生活を送っていた。それはふらんと共に過ごす以上、仕方のないことだった。
 そして、めーりんはついにドスの群れを襲った。
 らんはその様子を、川向こうに渡り、観察した。
 ドスを誘き出して、武器を奪い、目を奪う。その手口は鮮やかだった。
 おそらく自分でも同じ条件でドスをやるのだとしたら、同じ手段をとっただろう。

 そして、群れを全滅させたれみりゃとふらんが、ドスを食べることに取りかかった。
 らんの計算では、食い尽くすまでに三日、爆発寸前にふくらんだ体が、まともに飛べるようになるまで四日かかるとふんだ。
 合計して一週間。
 それだけあれば、その他の群れを全て潰すことも十分可能だった。
 今、らんの巣穴にいる子ふらんは、捕まえた子ゆっくりを相手にすっきりしている。
 二、三日後に産まれる赤ふらんの数は、十は見込めるだろう。
 もちろん、一週間後には一匹も残す気はなかった。


 一週間後。
 全ての作業を終えて、らんは一息つくことができた。
 だが、これはまだ、下準備を終えただけに過ぎない。
 愉快な復讐劇は、むしろこれから幕を開けるのだ。
 それを思うと、らんの顔には笑みが浮かんでくるのであった。

 対照的に、子ふらんの顔は冴えなかった。
 いっぱい子供を作ったのに、その全てが、いなくなったり潰されたりした。
 それがらんのせいであるとはつゆ知らず、もうすっきりしたくないと思った。
 やはり自分はまだ子供。母親が恋しかった。

 らんは、めーりんたちが、空腹に追いつめられる様を鑑賞していた。
 捕食種達の言動を見て、らんは自分の思惑が当たっていたことを確認する。
 めーりんと捕食種達は、全く一枚岩ではなかった。
 めーりんはゆっくりを捕まえる知恵を与え、れみりゃたちはめーりんを他のゆっくりから守る。
 その利害関係の根本が失われたとき、そこにはもう共存の意味はなかった。
 れみりゃたちと同じ時間に活動するようになっためーりんが、昼の門番でうつらうつらしている光景を見たとき、らんは確信した。
 時が来たのだ、と。

 巣に帰ると、ぐっすり眠っている子ふらんを揺り起こす。
「ふらん、おまえのかぞくがみつかったぞ!」
「うー! ほんとー!?」
「ああ、たしかだ。だが、ちょっともんだいがあってな……でも、だいじょうぶ。どうすればいいか、ちゃんとおしえてやるから――」



 親ふらんは、眠っているところを、子ふらんに起こされた。
「まんまー! やっとあえたどー!」
 親ふらんは最初、寝ぼけまなこだったが、やがて、それが生き別れになった自分の子供であることを知った。
「ふらんのちびちゃああん! いきてたのかどー! よかったどー!」
 他の捕食種達が、何事かと身をもぞもぞと動かした。

「まんまー、まんまをとじこめている、わるいれみりゃやめーりんを、これからやっつけるー!」
「う?」
 親ふらんには、この子が言っていることの意味が分からなかった。
「まんまやほかのふらんを、うえじにさせようとしているれみりゃは、ゆっくりしね!」
 そう言って、子ふらんは武器の枝をくわえて、子れみりゃに突進した。

 子れみりゃは、唐突に自分の両目を襲った壮絶な痛みで、悲鳴を上げて目覚めた。
 巣穴の捕食種全てが目を覚ました。ついでに、巣穴の外で居眠りしていためーりんも。
「ふらんのしんひっさつわざ、ぞーりんぶりっつだどー♪」
 対象となるゆっくりの目の前を横に飛びながら、一文字に枝で両目を切り裂く技だった。
 何が起こったのか分からず、呆然とする捕食種達。
 自慢げに胸を張る子ふらん。その上から、めーりんの体が落ちてくる。
 今度は避けられなかった。

「ふらんのぢびじゃああああああん!」
「れみりゃのおめめがああああああっ!」
 二つの悲鳴が、洞窟内に響き渡る。
「うるさいよ! しずかにしてね!」
 とめーりんが怒鳴った。が、効果はなかった。
 それどころか、めーりんは後ろから体当たりを食らって吹っ飛んだ。
 めーりんは、怒りを顔に表して振り返る――が、一瞬にして表情が青くなった。

「ふらんのくそがきのせいでこうなったんだど」
 と、親れみりゃが言った。場が一気に静まりかえった。
 れみりゃの顔は、かつてめーりんが見せていたそれと、同じ憎悪を示していた。
「めいれいだど。のこったふらんのがきのおめめをつぶすんだど」

「れみりゃ! やめるんだよ!」
「いやだどおっ! そのふらんのくそがきのおめめをつぶすんだどおおおおっ! でないとぜったいゆるさないんだどおおおおおっ!」
 親れみりゃの目は真っ赤になっていた。めーりんは思わず、気圧される。
 ふらんも、れみりゃの豹変におびえた顔になる。
「まんまあー、ごわいよお……」
 子ふらんは親にすがりつく。
「じゃまするんなら、おまえのおめめもつぶすどおおおおおっ! ふらんんんんんん!」
 場の勢いは、完全にれみりゃに分があった。

「まんまあー、だずげでえ……」
 親ふらんは、目の前の怒り狂った親れみりゃと、我が子を見比べる。
 目玉が潰れる。それは、物が見えなくなることを意味する。
 主に、目視によって獲物を見つけ、捕まえる捕食種にとって、それはまさに死の宣告だ。
 ましてや、今はご飯をほとんど取れないでいる。
 自分の目玉が潰れれば、その危機的状況にさらに拍車をかける。

 親ふらんは、決断した。
 自分の体に寄り添っていた子ふらんを、親れみりゃの方に突き飛ばす。
「まんまっ!?」
「おねえさまについていくって、たしかちびちゃんいってたど? ついていけばいいんだどー」
「ま、まんまあああああああああっっっっ!!??」
「ふらんは、ふらんのことをぐずとか、やくたたずとかいうこどものままになったおぼえはないんだどー」

 次の瞬間、子ふらんの背後から親れみりゃがのしかかってきた。
 そして、片方の目に牙が刺さった。
「ぐぎゃあああああああっっ!! いだいよおおおおっ! みえないよおおおおっ!」
 痛みにのたうち回る子ふらん。残った片目で周りを見回す。
「だれかあああっ! だずけでよおおおおっ! まんまあああっ! めえりいん!」
 しかし、親ふらんも、めーりんも、子ふらんと目を合わせようとしなかった。

 子ふらんは、飛んで逃げようとする。が、子ふらんと親れみりゃでは、後者の方が速かった。
 巣穴の出口前で羽を食いちぎられ、子ふらんは地面にしたたか体を打ち付けた。
 それでも地面を這って、光の差し込む方へ逃げようとするが、ふと、視界が真っ暗になった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ」
 子ふらんの悲鳴が、辺りに響き渡った。



 らんは、笑いをこらえるのに必死だった。
 まさか、こうまで計算通りに動いてくれるとは。
 あの子ふらんは人の言うことを素直に聞く良い子だった。
 うちの子供を犠牲にして出来ただけのことはある。
 ちびちゃんたち、待っていなさい。すぐにあいつら全員、そっちに送ってやる。
 身も心もずたずたにして。
 それから、そっちで一緒にゆっくりしよう。



 どうせ、ぐずのめーりんやふらんにはあまあまは取れないと言い残して、親れみりゃは食料探しに出かけた。
 最初の内は、意気軒昂だった。が、すぐに自分の空腹を思い出した。
 すると不思議なもので、次第にその飛行も、よたよたと力のない物になった。
 それでも自分は食料を見つけなければならないのだ。
 こーまかんのおぜうさまとしてのプライドにかけても。
 目を血走らせて、れみりゃは動く物がないかと目をこらす。
 何もいない。
 ゆっくりの食べる餌なら、そこら中に落ちている。木の実、虫、葉っぱ――
 そんなもの、食えるわけがない。なんとしてでも甘い物を。

 ふぁさっ

 音が聞こえた。
 その方向には、九つの尻尾を振っているゆっくりがいた。
 れみりゃの心は躍る。ついに見つけた。
 そのゆっくりは、きびすを返して逃げ出した。
 すぐに追いつけるはずだった。空腹でさえなければ。
 めまいがする。中々追いつけない。追いついたと思ったら離される。
 いや、そうじゃない。あのゆっくりの逃げ足の方が速いのだ。
 れみりゃをもてあそぶかのように、スピードを緩めたり速めたりしている。
「なめるんじゃないんだどおおおおおおおおっっっ!!」

 そして、れみりゃは、あのドスまりさを倒した川辺に来ていた。
 既にドスまりさの死骸は、腐りかけた皮を残すのみになっていた。
 あの九尾のゆっくりを見失い、れみりゃは周囲を見回す。 
 ふぁさっ
 ドスが棲んでいた穴の上、れみりゃがドスに奇襲攻撃を掛けるために隠れていた断崖の上に、そいつがいた。
 もう逃がさない。
 れみりゃは、残っていた体力の全てを使い、突進する。

 と、そのゆっくりがジャンプした。
 こっちに加速して向かってくる。
 れみりゃは、避けられなかった。
 すれ違いざま、片方の羽をもぎ取られる。
 その勢いのまま、れみりゃは崖にぶつかった。
「おまえ、ばかなのかどおおおおおおっ!!!???」
 と叫び、気付く。
 九尾のゆっくりが落ちていく先は、ドスまりさの柔らかい皮の上。
 そして、自分が落ちるのは――

 らんは、地面に落ちて半壊した親れみりゃに近づく。
「ぐ……ざぐ、や……だず、げ……」
 その帽子を引っぺがして、残った羽を口にくわえ、引きずっていく。
 そして、川に投げ込んだ。

 らんは、無傷というわけにはいかなかった。
 ドスの皮は柔らかすぎて、衝撃を十分に吸収しきれなかったのだ。
 中身の米粒を、かなり大量に吐き出していた。
 それでも、らんはまだ動けた。
 それならば、最後の時まで動かなければならなかった。


「おい、ぐずども! でてこい!」
 と、らんはめーりんたちの巣穴に呼びかける。
 親ふらんと、めーりんが姿を現す。
 その目の前に、親れみりゃの帽子を投げ飛ばす。
 めーりんと、親ふらんの目が、驚愕に見開かれる。

「まんまー? どうしたのー?」
 と、洞窟の中から子ふらんが尋ねる。
「たいしたことないど。ぐずのれみりゃが、あまあまにころされただけだど」
「ま、ままあああああっ!? ううううううううげええええええええっっ!」
 子れみりゃの、嘔吐する声が聞こえた。
「ううううううううげええええええええっっ!」
 ついでに、子ふらんももらいゲロをした。
「ぢっ、ぢびぢゃあああああああんん!? じっがりずるんだどおおおっ!」
 親ふらんが、洞窟の中に駆け込む。
 らんと、めーりんの目が合う。

「たのしかったか。かたきをつぶし、どすをつぶし、しあわせにいきてるむれをつぶして」
 と、らんが口を開いた。
 めーりんは答えなかった。
「らんは、たのしかったぞ。どすはともかく、かたきをつぶすのも、しあわせをつぶすのも。だが、もうおわりだ。らんもおまえも、これからいくべきところにいくんだ」
「おまえ、あのちぇんのつがいの……らん、なの?」
 らんは、落ちくぼんで鋭くなった目と、大きく裂けた口を歪め、にやりと笑う。
 その顔は、もはやめーりんの知っているそれではなかった。

「ぐうううううううっっっ! よぐも! よぐも! よぐもぢびぢゃんをおおおおっ!」
 親ふらんが赤い光を放つ目で、らんをにらみつけた。
「おいおい、おまえがよけいなことをいわなければ、こどもはしなずにすんだんだぞ?」
 らんは、ああそうそう――と思い出したように言う。
「そもそも、おまえはこどもをみすてていたじゃないか。まもるべきこどもを、れみりゃにひきわたして」
「ぐぎいいいいいいいいいっ! だまれだまれだまれ! ぶぢごろじでやる!」
 めーりんが、慌ててふらんの前に立ちふさがる。
「まってふらん! こいつはのこしておかないと――」

「うるざいんだどおおおおお。もんばんもろくにでぎないぐずは、ひっこんでるんだどおおおおお!」
 ふらんは、めーりんを巣穴の壁に突き飛ばした。
「ぎゃんっ!」
 動けないその体はひしゃげて、片目が外れ、中身が漏れ出ていた。
「くらええええええっ! ればてぃんんんん!」
 ふらんは、あのようむが持っていた二叉の枝を口にくわえて、らんに向かって突進した。

 最初の一撃から、避けたはずなのに、枝がらんの脇腹をえぐった。
 次の一撃で、尻尾が半分持って行かれた。
 その次、帽子が破け、頭の皮膚が裂ける。
 そして、枝を叩きつける攻撃で、傷口から米粒があふれ出る。
 ふらんが、真っ正面から突っ込んでくる。避けきれない。体をひねる。
 失ったのは、片目だけで済んだ。
 遠近感がつかめない。次の一撃、避けられる確率は絶望的に低い。

 いや、そうじゃない。確率という言葉は、そう気軽に使うものではない。
 らんは、最後の力を振り絞って、計算を始める。
 彼我の距離、ふらんの大きさ、近づいてくる速さ、その軌道――
 残りの目を狙う攻撃。
 らんは、小さく前方に跳ねる。自分の体を貫こうと突っ込んできた枝の端を噛む。ふらんよりも強く。
 そして、そのまま前に突っ込んだ。
 喉の奥、そして中枢部分を、ればてぃんで貫かれ、ふらんは落ちた。
 痙攣するその体の上に、らんは渾身の力で跳び乗る。

 死体の上から、らんは転げ落ちる。
 そのふらんが、最後の敵となった。
 めーりんは、壁に強い力で突き飛ばされて、その分厚い皮膚が破れていた。
 もう、らんと渡り合う力は残されていまい。
 そしてらんも、戦う力を使い果たしていた。

 静寂が訪れる。らんは体を横たえ、動けないでいる。
「あらそいは、なにも、うみださないな……なあ、めーりん……?」
 届くはずもない、か細い声で問いかける。
 めーりんは、今、よろよろと動き出した。
 傷口から中身を漏らしながら。巣穴の奥へ。
「……お、どう、さん……おかあ、さん………………おねえ、ちゃ……」
 力のない言葉が、巣穴の奥へと消えていった。

 それから、どれだけの時間が過ぎただろう。
 らんも、ようやく体を起こした。
 帰るべき場所に帰るために。そして、行くべき場所に行くために。
 もう、地面を跳ねることは出来なかった。

 そして、たどり着いた我が家。
 大木の根元の巣穴に、らんは文字通り、転がり込む。
 ……冬の支度をしなければな。
 土を削り、入り口を塞いでいく。
 最後の隙間を塞いだ後、らんは、もう二度と自分の体が動かないことを悟った。


「――しゃま」
 暗闇の中に、声が聞こえる。
「らんしゃま!」
 これは幻聴だ。いよいよ最期だ。
「らんしゃま! あのね、ちぇんはらんしゃまに、いわなきゃいけないことがあるの!」
「なんだい、ちぇん、なにかわるいことでもしたのかい?」
「うん……ちぇんは、わるいちぇんだったよ、らんしゃまをすてようとしたんだよ」
「そんなことはない」
「え?」
「ちゃんとこうして、あいにきてくれたじゃないか」
「ら、らんしゃまああああああっ!」
 ああ、もう止めてくれ。こんな風に自分を正当化したくないのに。
「らんしゃま、いっしょにいこうよ、こどもたちとはべつのみちになっちゃうけど――でもきっと、いつかまたあえるよ!」
「ああ、そうだな、どこにいるんだ? ちぇええええええええん――」
「ここだよ! らんしゃま、こっちだよ!」
 そして、ちぇんの声の聞こえる方から、一筋の光が差し込んで――

























 春が訪れ、暖かい日差しの元、木の芽が次々と芽吹いていく。
 きらきらと光る川沿いを、一匹のゆっくりが歩いていた。
 川の横にある洞窟の前に、ゆっくりたちの群れが見える。
 その中心では、一匹の小柄なドスがゆっくりしている。

 そのゆっくりは、ある巣穴の前を通り過ぎた。
 かつて、めーりんの一家が住んでいた洞窟。
 そして、二つの虐殺と、一つの死闘が行われた洞窟。
 今ではその面影はなく、新たなゆっくりの家族の住処となっている。

 そして、そのゆっくりは、ある大木の前にたどり着く。その根元の穴から、ちぇんが顔をのぞかせた。
「ゆっ、だれかきたよ! らんしゃま! みたことないひとだよ、わからないよ!」
「こんにちは、ちぇん」
「ゆっくりしていってね!」
「ええ、あなたもね。おじゃましてもいいかしら?」
「ゆかりさま! どうぞ、おはいりください!」
 らんがゆかりんを出迎えた。

「ゆかりさまは、どうしてここに?」
「ええ、ちょっとね……」
 ゆかりんは巣の端にある、小さな山を見た。棒がつきたてられている。
「あれは、おはかね」
「はい、じつはちぇんがこのすみかをみつけたんですが」
「みなまでいわなくてもわかるわ、あれは、べつのらんのおはかね」
「どうしてごぞんじなのですか?」
 去年出会ったらんのことを、ゆかりんは、ゆっくりと語りだした――


「――だから、あなたたち、ひとのことをうそでも、ぐずなんていっちゃだめよ?」
「うんうん、わかる、わかるよー!」
「ゆかりさま、ありがとうございます。よろしければ、きょうはここにおとまりになりませんか?」
「いえ、わるいけど、じぶんのすんでいたばしょがどうなってるか、たしかめにいきたいの」
「ああ、でしたら、そこまでおくっていきます。ちぇん、おるすばんできるな?」
「だめよ! だめだめ! いまいったことを、もうわすれたの? あなたはちぇんといっしょにいなさい! いいわね!?」
 そう言って、ゆかりんは慌てて巣穴を飛び出した。
 その後、すぐにらんとちぇんが飛び出す。
「だったら、いっしょにいきましょう!」
「ああ、それならいいわね!」

 春の光が、三匹のゆっくりの姿を映し出す。
「ちぇん、あなたもまちがって、いえでをしてらんをこまらせちゃだめよ?」
「だいじょうぶだよ! ちぇんはそんなこと、ぜったいにしないよ!」
 その元気に飛び跳ねるちぇんを見て、ゆかりんは思う。
 願わくば、このゆっくりした世界が、どんな悪意に苛まれようとも、たくましく自分を持って、長く続いていきますように、と――


おしまい























後書き。


うーん、つめこみすぎた。
思っていたより時間がかかった。五日くらい?
ちょっと突っ込みどころもあるっちゃあ、あるんだけど、どこだか忘れた。
しかし、なんだか目つぶしが異様に多くなっちゃったな。困ったときの目つぶし。
作者はちょくちょく虐wikiで書いてますが、ここでは一人のとしあきです。

快く許可をくれたぱちゅあき氏と、読んでくれた方に感謝の意を記す――


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感想

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  • 最後泣いた -- 2020-04-21 11:33:48
  • 結局はめーりんも寂しかったんだな・・・ -- 2017-01-19 09:36:58
  • 蛇足 -- 2015-11-17 17:18:21
  • 胸がすーっとした何故かは知らん
    -- 2015-10-07 05:37:07
  • あーくそ めーりんには生きて欲しかった
    多分そのめーりん飼ってた。
    それ以外はバッドエンドw -- 2015-06-14 02:30:22
  • 悪魔を倒してたら自分自身が悪魔になったように。グズを殺すために自分がグズになって他の無関係なゆっくりの苦しむ様を喜ぶようになっちまったから救えねぇ。
    めーりんは復讐が完結してたのに、他ゆんに不幸をバラく存在に成り果てたのが特に、ね
    -- 2015-01-10 19:16:17
  • なんでめーりん死ぬんだよ… -- 2014-11-03 21:17:57
  • めーりんは、生きてほしかった。
    -- 2014-11-03 11:09:26
  • めーりんはキモあきのかい霊夢親子にころされましたとさめでたしめでたし
    -- 2014-08-15 23:27:26
  • 俺はこの作品嫌いだな。
    俺の嫁の美鈴と藍様が原作とはまるで違う性格だもの。
    胸糞悪い。 -- 2014-06-03 11:41:57
  • やはり争いは何も生まないんだな
    現実では日本も戦争をして未だに戦争をしている国がある
    日本はこの頃法律を改正して戦争が出来る状態になっている
    争いがなくなったと思ったらまた争いをして悲しい惨劇が続くという事は終わらな
    いのかと思ってしまう
    巣立ちしたばかりのゆっくりたちが起こした出来事が生んだ結果がこれだ
    めーりんもらんも可愛そうだがこのような出来事はどこにでもあるのが現実だろうと思う


    -- 2014-04-04 18:25:40
  • 原作リスペクトが無いって何だよ。原作で深く描かれなかったらんとちぇんの視点からしっかり書いてるじゃないか。
    そもそも尊敬の念が無かったら続きとして書くわけがない。
    第一「ゲスなちぇんなんてちぇんじゃねえ」なんて描写あったか?
    家族愛を育んで来たと信じていたはずなのに本当は救いようがないほどクズなちぇんで
    そのちぇんと子供が死んで残酷な真実にようやく気付いたものの、自分が信じてきた思い出だけは本当の事なんだとゆかりんに諭されたって流れだろう。
    文句しか言わない奴は読解力がないか適当に読んだだけだろ。
    らんの最期のシーンも、番だったちぇんが迎えに来たわけじゃなく、自分の思い出の中に居たちぇんを幻覚で見たという描写なんだろう。
    でもそれが自分にとって都合の良いちぇんを見る事で虐殺した事を正当化しているように感じてしまった。だから「正当化したくない」と言った。
    その後でちぇんが「子供たちと違う道になる」というのも、らんを裏切ったちぇんと大量の命を奪ったらんが二人で地獄に落ちるという隠喩。
    そういう解釈をしたんだが、違うかね?何はともあれ、俺はすごく考えさせられ、楽しめたよ。 -- 2014-02-09 16:47:13
  • 復讐とか生きる糧とか概念とかさ結局は個人で価値観がバラバラなんだよ。俺はめーりんは良くやったと思うよ。クズになってでも親と姉の仇を打つ執念?てやつがね。らんに関してはもうちょっとめーりんの過去とかを分かってあげて欲しかった。だからと言ってめーりんのしたことは許されないかもしれないけどそれでもね。まあ、一つ言わしてもらうと復讐を生み出すのは連鎖や達成感だ。それ以外に得られるものは特にない。だけど復讐自体悪いことじゃないしやろうと思えばそれは自分の勝手だ。横から口出す奴は無責任でご都合主義な奴らだ。口を出さずに黙って協力してくれる奴、そいつが必ず何かを持っていると、俺は説に思う。 -- 2014-01-11 15:16:50
  • 結局、クズを制裁し続けた結果、らんに制裁されて終わりか。
    でもそのめーりんが制裁し続けたおかげでたすかったゆっくりの家族もいるんだろうし、せめてあの世で互いに家族とゆっくりしてほしいな。 -- 2013-12-05 21:23:07
  • とにかくまりさが必死にめーりんに命乞いしている様はゆっくりできた
    ぶざまぶざま
    -- 2013-08-03 16:29:57
  • 実際ゆっくり自体の原作はあるが、もはやゆっくりは別もんだから
    原作リスペクトとか考えたら、何もかけないと思ったよ。
    以上感想でした -- 2013-03-30 01:25:50
  • ↓申し訳ありません
    間違えて貼ってしまいました -- 2012-02-27 18:58:00
  • lib494752.jpg -- 2012-02-27 18:57:19
  • ウうううううううううううううううううううううナイターーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! -- 2011-04-17 19:56:49
  • 俺馬鹿だから発言するけど、皆難しい言葉使い過ぎだ。勘弁してくれ。

    最後は一瞬泣けて来た。←こんなもんでいいか? -- 2011-02-25 21:47:42
最終更新:2009年10月23日 05:18
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