復讐のらん ――復讐のめーりん続編・ぱちゅあきりすぺくと―― 82KB
※容量オーバーの為、勝手に分割しました
(ぶっちゃけ、主役たちの知能がゆっくり基準でチートレベルに高いけど、そうしないと話が進まないのでわかってね!)
(『めーりんの復讐編』は、らんサイドから見たアナザーストーリー。
『復讐の復讐編』は、まあ後日談みたいなものだよ!)
『めーりんの復讐編』
「ちぇええええええん! どこだー!?」
日が傾き、薄暗くなった森で、ゆっくりらんがひたすらに伴侶のちぇんを探していた。
ちぇんが狩りに行くと言って大木の根元の巣穴を出てから、夕食前になっても帰ってこないので、心配して出てきたのだ。
そして森の中に響き渡った悲鳴を聞いた。
「らんじゃまあああああああっっっ!」
紛れもない、自分の伴侶のちぇんの声だと思い、その声のする方に駆けつけた。
そこにいたのは、耳も尻尾も千切れ、体のあちこちの傷からチョコクリームを垂れ流しているちぇんだった。
「ちぇ、ん……?」
変わり果てたちぇんの姿を見て、大丈夫かと一も二もなくすり寄ろうとした。
が、そんなちぇんの口から発せられた言葉を聞いて、らんは呆然とした。
「らんじゃば……おぞずぎだよ……なにやっでだの?……でも、ちぇんはやさしいからゆるじであげるね……」
「ぐずのめーりんのせいでぼろぼろにされちゃったよ……まだそのへんにいるはずだから……さっさとさがしだじでごろじてね……」
違う! こんな汚い言葉を吐く生意気な野良猫が、うちのちぇんのはずがない!
そして、らんはそのボロボロのかたまりを無視して、ちぇんの捜索を再開した。
ちぇんとともに歩いた場所は、全て探し尽くした。が、その二叉の尻尾の影すら見あたらなかった。
空腹に苛まれ、既に長い時間歩き回って、足の方もぼろぼろだった。
それでも、その苦痛を我慢して、我慢して、歩き回り続けてきた。
いい加減限界が近いことをらん自身、分かっていたが諦めきれなかった。
そんならんを、ふと正気に戻させるものがあった。
「ちびちゃんたち、そろそろばんごはんのじかんだよ! ゆっくりおうちにかえろうね!」
「「はーい、おきゃあしゃん!」」
ゆっくりれいむの親子だった。
冷静になってみて、ふと自分の軽率さに、らんは体を震わせる。
子供達だけで、巣に留守番させっぱなしだった。
酷く嫌な予感がする。慌てて、らんは巣の方に跳ねていく。
先ほどの、どうしようもない暴言を吐いていたちぇんは、既に動かぬゆっくりになっていた。
哀れみなど覚えている暇もなく、らんはその横を通り過ぎる。
全く楽観が無かったわけではない。
ひょっとしたら、ご飯を採って帰ってきたちぇんと入れ違いになったのかもしれない。
ちぇんと子供達は、沢山の夕食を目の前にして、帰ってこないらんをゆっくり待ちぼうけしているのかもしれない。
そうであってほしい、と願った。
が、残念ながら、その願いはかなうことはなかった。
それどころか、そんな願いをあざ笑うような、想像を絶する地獄の光景がらんを待ち受けていたのだった。
らんは自分の巣に戻ってきた。
が、巣を目前にして、歩みを止めた。
――うー、うー♪
れみりゃか、それともふらんか。楽しげな鳴き声が、聞こえた。
子供達のいる巣穴の中から。
「あ……あああ……」
どれだけらんの感情が拒絶したとしても、もはや悟らざるを得なかった。
自分の子供達が、捕食種によって皆殺しにされたことを。
「うー、まだちょこがのこってるー♪」
「ちぇんのあまあま、おいしいどー♪」
巣穴の奥に、二つのもぞもぞと動くものが見えた。
細く、にやりと見開かれた目が、小さな赤い光を保っていた。
敵は二匹。
殺してやる。絶対に殺す。
いかに大人のらんといえども、捕食種二匹相手では勝ち目はほとんど無い。
普段なら、そのくらいの冷静な判断は出来る。
だが、冷静さなど、今のらんには足止めの役にも立たない。
そして、らんは巣穴に向かって駆け出そうとした。
そのときだった。横から何かがぶつかってきて、らんは巣の横の茂みに突っ込んだ。
「!?」
「だめよ、らん!」
そうささやきかけてきたものの正体を見て、らんは目を見開く。
ゆっくりゆかりんだった。
このらんにとっては、ゆかりんに会うのは初めてのことだった。
何しろ、ゆっくりゆかりんという種族は、どこにいるのかも皆目検討がつかないのだ。
その見つけづらさは、人間にも捕獲成功例はおろか、目撃例すらほとんど無いほどだ。
ただ、ごく稀にゆっくりらんと共にいる光景が見られる程度の存在。
そのときは、らんがゆかりんの言うことを何でも聞く主従関係が確認されている。
「うー、ごちそうさまー♪」
「ちょこのなくなったごみは、おそとにぽい♪するどー」
「らん! かくれるのよ! なにしてるの、はやく!」
そう言って、ゆかりんはらんの体を茂みの奥に自分の体もろとも押し込んだ。
茂みの中から、ゆかりんは巣穴の方を見る。
そして、れみりゃが外に出てきた。
なにやらだらりとした皮状のものを、口にくわえてぶらさげていた。
れみりゃは、その口にくわえているものを巣の横に放った。
狙ったわけではあるまいが、それはらんとゆかりんが隠れている茂みの前に落ちた。
「うー、くらくなってきたんだどー、しょくごのでざーとをたべたいどー」
「うー、ふらんすっきりしすぎてつかれたー」
「あまあまさがしにいってくるどー、ふらんはすのなかでまっているんだどー」
巣穴からちょっと姿を見せたふらんにそう告げて、れみりゃは夜の森へと飛び出した。
「しんじられないわ。れみりゃとふらんが、あんなになかよしにしているなんて……らん?」
ゆかりんは、らんの方を向いた。
らんは、茂みの前にうち捨てられた、子ちぇんだったものの残骸をぼんやりと見ていた。
潰され、中身の完全に吸い取られた死骸の顔は、醜くゆがんでいた。
二叉の尻尾がなければ、何の死骸かは分からなかっただろう。
「あんなにゆっくりした、かわいいちぇんのこどもだったのに……」
と、独りごちるらん。
「……らん」
「こどものらんもちぇんも、みんな……」
「きもちはわかるけど、らん、おちつかなきゃだめよ」
「ゆかりさまは、たいせつなかぞくをころされて、おちついてられるんですか」
らんの言葉に、ゆかりんは何も言えなかった。
「「おがあぢゃああああん! だれがああああっ! だずげでよおおおおおおおおっ!」」
意外と早く、れみりゃが帰ってきた。その口に、二匹の子れいむのもみあげをくわえている。
先ほど、らんが見たれいむの子供だった。
らんは知るよしもないが、既に親れいむはれみりゃにつまみ食いされて皮だけになって
いる。
そしてれみりゃが、巣穴の中に入っていった。
「「いやだあああああああっ! じにだぐないよおおおおおおおおっ!」」
ゆっくりれいむはゆっくりれみりゃやふらんに食べられるものとはいえ可哀想に。残酷な話ね。
無力に泣きじゃくる子れいむを見届けて、ゆかりんはそう思った。
「うー、おねえさま、はやーい♪」
「それじゃ、いただきますなんだどー」
「ちょっとまってね、れみりゃ、ふらん」
巣穴から、別の声が聞こえた。
「せっかくだから、れみりゃとふらんがどれくらいかいふくしたのかみたいよ」
「うー、わかったどー。ここはせまいから、おそとにでるんだどー」
「?」
穴から出てきたゆっくりの姿を見て、ゆかりんは目を疑った。
口に子れいむをぶら下げたれみりゃと、ふらんはいい。
だが、その後に出てきたのは……小振りな体のゆっくりめーりんだ。
「それじゃ、れいむをそこにはなしてね」
めーりんがそう言うと、れみりゃは素直に従う。
「じゅうかぞえるあいだに、にげきれたら、たすけてあげるよ」
そう子れいむに言って、めーりんはにやりと笑った。
「いーち、にーい、さーん……」
めーりんが、ゆっくりとカウントを始める。
「「ゆっ、ゆっくりしないでにげるよ!」」
子れいむが慌てて巣穴から離れていく。
残酷な希望を与えるものね。とゆかりんは思った。
そして、子れいむたちがこっちに逃げてこなくて良かった、と思った。
当然ながら、いくら死にものぐるいとはいえ、ゆっくりの子供の逃げ足などたかが知れている。
十数える間に、れみりゃたちの視界から消えることなど、不可能な話だ。
「……はーち、きゅーう……じゅう」
「「うー♪」」
「たいむおーばーだよ」
同時に、れみりゃとふらんが空中を駆けた。
先に飛び出したのはれみりゃだった。ややフライング気味だったが、そうでなくとも結果に大差はない。
勢いよく、片方の子れいむに後ろから噛みついて、ちぎり取る。
「ゆぎっ!」
その一撃で、子れいむは後頭部の大半を持って行かれた。
れみりゃが、動けなくなった子れいむの前に降り立つ。子れいむは既に瀕死だった。
「うー、あまあまー♪」
そう言ってれみりゃは、口内の子れいむの一部をもてあそび、堪能する。
徹底的な恐怖と絶望に苛まれた子れいむは、さぞかしれみりゃにとって美味だろう。
「も、っと……ゆっくり……したかっ」
最期の言葉を言い切る直前に、れみりゃが大きく口を開け、子れいむにかぶりついた。
出遅れたふらんだったが、もう一方の子れいむに追いついたのはれみりゃとほぼ同時だった。
ふらんは、れみりゃとはまた違ったやり方で、自分の体が完全であることを示した。
まず、子れいむの前に回り込んで、体当たりで子れいむの体を撥ね飛ばした。
そして、近くに落ちていた木の枝を口にくわえる。
それで何度も何度も子れいむの体を、叩いて、突き刺した。
「ゆべっ、ぐべっ、いじゃいよおおっ! だれがだずげでよおおっ! ぎゃあああああっ! れいむのおめめがあああああっっ!!」
子れいむは両目を潰され、もはや闇雲に逃げまどうしかない。
そうこうしているうちに、子れいむはいつしか、めーりんの目の前まで戻ってきていた。
もう少し、あの子れいむは長生きするだろう。ふらんの気が済むか、何もかも諦めるまで。
ゆかりんはそれよりも、子れいむを見るめーりんの様子に目を見張っていた。
――あんな、底意地の悪い笑顔を、これまでゆかりんは見たことがなかった。
れいむを、完全に見下している。その笑みには、憎しみすら浮かんで見える。
「ふらんのやりかたは、のろくてこうりつがわるいんだどー」
とっくの昔に子れいむを食い終わったれみりゃが、物言いを付けた。
「うー。おねえさまのほうが、あまあまのこと、わかってないー」
ボロボロになって痙攣するだけになった子れいむの横で、ふらんが言い返した。
「う? ふらんはれみりゃにくちごたえするなんて、ごひゃくねんはやいんだど?」
だんだん、れみりゃとふらんの口調が剣呑になってきた。
これはひょっとして、仲間割れでもしてくれるのかしら? とゆかりんは少し期待した。
だが、ゆかりんのそんな淡い期待を打ち砕くように、めーりんが横から口を出した。
「ふたりとも、やめるんだよ! なかよくしようねっていったでしょ!」
「うー? そうだったどー」
「ふたりとも、げんきになれたのはだれのおかげだとおもってるの?」
「うー……めーりんだよ」
「ふたりとも、すごくかりがうまかったよ! いっきにころすのも、じっくりいたぶるのも、どちらもせいかいなんだよ!」
「うー、わるかったどー」
「あやまるのはこっちじゃないよ!」
「うー、わるかったど、ふらん」
「ふらんもおねえさまにくちごたえして、ごめんなさいー」
信じられない光景を、一日の内に次々と見せられて、ゆっくりの中でも知能が高いとされているゆかりんでも、頭が混乱するのを抑えられなかった。
どうしてめーりんがあんなに流暢に喋っているのか。
どうしてめーりんの言うことを、れみりゃとふらんがあんなに素直に聞くのか。
「うー、はんぶんおねえさまにあげるー♪」
「うー、ふらんのあまあまは、れみりゃのより、ちょっとあまいんだどー♪」
れみりゃとふらんが仲良くしていることなど、めーりんに関する疑問に比べれば、些細なものだ。
「ちょっとこれは、やっかいそうね……いったん、ひきあげましょう、らん」
らんは、答えない。
らんはずっと、あのボロボロになって死んだちぇんの事を思い出していたのだった。
――ぐずのめーりんにやられた。
それが本当だとすれば……
「らん、らん! ここはきけんよ。ものおもいにふけるのは、あんぜんなところにいってからでもおそくないわ」
体を揺すられて、ようやくらんはゆかりんの言葉に従った。
ゆかりんの巣は、石の目立つ所にあった。
「ここが、わたしのいまのかりずまいよ」
ゆかりんは、坂にある大きめの石の前で言った。
「ちょっとまっててね」
ゆかりんが、石の隙間に体を押しつけて、他のゆっくりではとうてい入らないであろう隙間の中に入っていった。
そして、内側から石をどけると、ぽっかりと穴が空いていた。
らんがその中にはいると、ゆかりんは外から石を元に戻し、また隙間から入ってきた。
中は、仮住まいという割には、意外と広かった。ゆっくりの二、三匹は優に入る。
それでも、らんとちぇんの一家が棲んでいた大木の根元の巣穴よりは狭かったが。
「せまいところだけど……ゆっくりしていってね」
そう言って、ゆかりんは蓄えていた食料を、らんの前に出した。
だが、らんはそれに口を付けなかった。
「わがままね……おなかすいてるでしょう? たべなさい、らん」
ゆかりんがそう命令してようやく、らんがぼそぼそと食事を口に運んだ。
ゆかりんは嘆息する。
「とてもゆっくりしているらんとちぇんがいるときいて、やってきたんだけど、こんなことになっているとはおもわなかったわ」
「ゆかりさま。ちぇんは……うちのちぇんは……ぐずだったかもしれないんです」
「どういうことかしら?」
らんはうつむいて、自分の考えていることを語りだした。
らんにしては酷く支離滅裂な説明だったが、ゆかりんに言いたいことは伝わった。
自分の伴侶のちぇんが、いなくなるまでの経緯。
子供達だけで留守番を任せて長い時間遠出していた短慮。
道ばたで見つけた、死にかけのちぇんが吐いた暴言。
そしてあの、巣を襲ったれみりゃとふらんとめーりんの三匹。
あのめーりんが、ちぇんの言っていたぐずのめーりんなのだと思う。
他のめーりんがちぇんに自ら襲いかかるとも考えられない。
だが、れみりゃとふらんを手なずける胆力のあるあのめーりんなら可能だろう。
それでも、感情がなかなか推測を認めたがらない。
それを認めれば、あの汚い言葉遣いのちぇんこそが、自分の伴侶だったと認めることにつながる。
あの日、ご飯を採りに行くと言って帰ってこなかったのは、家族をほったらかして逃げ出すつもりだったのかもしれない。
半年もの時間をかけて築き上げてきたあの金色の幸せが、メッキをはがせば汚泥まみれだったなどと考えたくもない。
「みんな……みんなゆっくりしたいいこだったのに……」
「らん、わたしにはあなたが、なにをなやんでいるかわからないわ。いいえ、わかるけど、それがぴんとこないの」
らんは、ゆかりんの顔を見る。
「どんなゆっくりのこころのなかにも、げすになるかのうせいがあるわ。もちろんわたしにも、あなたにも」
ゆかりんは、毅然とした口調で告げる。
「ドスまりさだって、げすになるものがいたわ。ましてや、あのめーりんや、あなたのちぇんがれいがいになるはずがないわ」
らんは何も言えずにいる。
それでも、とゆかりんは続ける。
「――それでも、あなたのまえでは、ちぇんはいいおやちぇんだったんでしょ?」
はい、とらんは涙ぐんでうなずいた。
「それなら、それをしんじなさい。さいごにあったのは、べつものだとおもいなさい。それでいいのよ」
「……むずかしいです」
わたしだって、そうかんたんにできるわけじゃないわよ。とゆかりんは微笑した。
そして、らんが眠りにつく前に、ゆかりんは優しく言った。
「はがれたきんめっきだって、かきあつめればほんもののきんよ」
石の隙間から、こぼれ入る朝の光に照らされて、らんは目覚めた。
「ぐう……ぐう……」
ゆかりんは深い眠りについている。おそらく、このまま昼まで眠っているだろう。
起こすわけにはいかない。このまま心地よい眠りを楽しんでいてほしい。
らんは石を押しのけて外に出て、石を元の穴に戻した。
そして、かつての住処に向かって跳ねていった。
さすがにれみりゃもふらんも、日の昇っている間は巣の中で大人しくしているのだろう。
らんが、茂みの中から様子を探ると、めーりんが穴の前でじっとしていた。
めーりんはぼんやりと中空を見ていた。魂が抜けたような姿だ。
昨日見た、邪悪な笑みからは想像も付かないもので、らんは場所を間違えたかとすら思った。
そのまま、動く気配はない。
出来たら、巣穴の中の様子を知りたかったのだが、これではまともに近づけない。
これは持久戦になりそうだ。そう判断したらんは、腹ごしらえをしようと決めて、その場から離れた。
一人で食べる分を集めればいいのに、つい、家族の分もと無意識のうちに思っていたのだろう。
山盛りの食料を前に、らんは苦笑する。
まあ、余った分はゆかりんの住処に運ぼう。
「むーしゃ、むーしゃ……」
普通のゆっくりなら、食事中に出てくるはずの、次のフレーズが出てこない。
味気ないその食事を、腹一杯に詰め込む。
それでも、食料は一人では運びきれないほど残っている。
さてどうしようかと、悩んでいたときだった。
「ゆっ! たくさんたべものがあるちーんぽ!」
そう言って近寄ってきたのは、ゆっくりようむだった。
歯には武器となる二叉に分かれた枝をくわえている。
「そんなにたくさんとっても、はこびきれないちーんぽ! ようむにわけてほしいんだちーんぽ!」
「……じぶんのたべものは、じぶんでとってくるものだぞ」
無駄だと思いつつも、らんはそう言った。
「ゆうっ! だから、ここにあるものをじぶんでとるちーんぽ! さからうならじつりょくこうしだちーんぽ!」
予想通りの返答だった。らんは呆れる気にもならなかった。
「いいよ。わかったよ。おおこわいこわい。らんがもってかえるぶんいがいは、ぜんぶもっていっていいぞ」
「ちんぽっ! はなしのわかるゆっくりでよかったちんぽっ!」
らんが自分の帽子の中に食料を入れている最中、ようむは気を許したのか身の上話を始めた。
「まったく、うちのれいむとまりさとぱちゅりーは、なまけすぎなんだちんぽっ!」
らんが聞き流していたようむの話の内容は、大まかにこういう事だった。
――ずっと昔のこと、初めて狩りをした。れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、ちぇんがいっしょだった。
ありすはその狩りの時に死んでしまったが、初めての狩りは成功して、残る者達は食料のたっぷりある巣を手に入れた。
何を狩ったかはよく覚えていないが、確かぐずのゆっくりだった。とてもうれしかった。
ようむはれいむと、まりさはぱちゅりーとつがいになった。
ちぇんは外に出て、らんとつがいになった。
それからは、それぞれ子供を作って気楽にやっていたのだが、どうも最近他の連中が怠けだしてきている。
れいむは妊娠をネタに。まりさはようむの強さをネタに、ぱちゅりーは自分の脆弱さをネタにして、ようむに食料探しを押しつけるようになった。
二つの家族みんなの分を集めさせるなど、無茶もいいところだ。
ようむとれいむのつがいは、割と珍しいかな、とらんは思った。
食料を詰め込んでぱんぱんにふくらんだ帽子をかぶる。
「それじゃ、のこりはいただくちーんぽ!」
帽子も持っていないのに、どうやって運ぶんだろうとらんは思った。
が、これ以上深入りする気はなかった。手伝いなんてごめんだ。
「あーあ、うんざりするちーんぽ。いっそ、ちぇんみたいにつがいをとっかえひっかえしてみたいちーんぽ」
聞きたくもない事を聞いてしまった。らんはいそいそとその場から立ち去る。
「ちぇん、おまえじゃ……ないよな」
一旦、巣に戻った。
さすがに昼過ぎになって、ゆかりんも起きていた。
「ゆかりさま、しょくりょうをとってきました」
「ああ、ごくろうさま、そこにおいて」
例のごとく外から穴を塞いで、ゆかりんが隙間から巣の中に戻る。
「さて、めーりんたちのようすを、ほうこくしてもらおうかしら」
だが、報告できることなど特に無かった
ずっとめーりんが巣穴の入り口にいて、中の様子を探ることは出来なかった。
「――わかったわ、それじゃ、ゆうがたごろに、もういちどいきましょう」
らんは承知した。
「さすがに、にじゅうよじかん、おきていられるわけでもないでしょう。すいみんじかんがながくて、かぶるということもありえるわ」
いやそれはゆかりさまだけでしょ、と言いたくなるのをらんはこらえた。
「なあに? なにかいいたそうなかおしているけど」
ゆかりんが笑みを浮かべてらんの顔をのぞき込む。
「いや、なんでも……ないです。ほんとです、ほんとですってば!」
「ほんとうに?」
「あ、いえ、じつはあるんです」
と言って、らんは思っていたことと別の話題を出した。食料集めの時に出会ったようむの話を。
「ようむとれいむのつがい……なるほど、たしかにちょっとめずらしいわね」
「ゆかりさまでも、めずらしいものがありますか」
「あのめーりんも、そのひとりね」
「はい、れみりゃとふらんをしたがわせるめーりんなんて、はじめてです」
ん? とそのとき、ゆかりんは首を傾げるように、体を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
「へんね……たしか、そのしんだちぇんは、ぐずのめーりんにやられた、といったのでしょう?」
「……はい」
「もし、あのめーりんがちぇんをころしたんだとしたら、おかしいとはおもわない?」
「どういうことですか?」
「わからない? ……いいわ。ふつうにかんがえれば、わざわざめーりんがてをくだすひつようはないじゃない?」
らんは、合点がいったように、表情を変える。
「あ……そうか、れみりゃやふらんにやらせればいい。というより、そっちのほうがかくじつですよね」
「かいふくがどうとかいっていたから、けがをしていた、とかんがえてもいいけど、それでもちぇんひとりでは、おやのれみりゃとふらんのあいてにはならないわ」
返り討ちに遭う危険を冒してでも、めーりんひとりでちぇんを襲った。
その理由として考えられることは……選択肢はわずかだった。
「ちぇんをぼろぼろのしにかけでのこしたやりかたをみても、つよいにくしみがあったとしか、かんがえられないわ」
「……すをおそったのと、べつのめーりんのかのうせいは、ないですか?」
愚か者と罵られることを覚悟で、らんは尋ねる。
「ないわ」
ゆかりんは即答する。
「べつべつのめーりんが、おなじひに、たまたまあなたのすみかのちかくにいたというの?」
らんは、答えられなかった。
それでも、らんは言葉を絞り出す。
「でも、それじゃどうして、なんのつみもないこどもたちまで……」
「ふたつかんがえられるわ。ひとつは、ちぇんをころすだけじゃまんぞくできなかった」
「そ、そんな……」
「そして、もうひとつは、れみりゃとふらんのこどもをつくるためよ」
ゆかりんは、極めて冷静に語った。らんは対照的に、取り乱していく。
「でも! どうして、それがうちのこなんですか!?」
「たまたまちかくに、べんりなすみかが、あったからよ。めぼしをつけていたのでしょうね、きっと」
どこまでも、どこまでも合理的に、方程式を解くように、ゆかりんは答えを出した。
「うっ……ううっ……」
ぼろぼろと涙を流し始めるらん。ゆかりんはそれに寄り添う。
らんが泣き止んだ頃、ちょうど夕暮れ時になっていた。
ゆかりんとらんが、例の茂みに身を潜めた。
めーりんは未だに、門番を続けていた。
「ひょっとして、あさからずっとこうなの? きんべんなものね」
さすがに、夕方になって、れみりゃとふらんが活動し始める時間帯に、巣穴を確かめに行く勇気はなかった。
「あら?」
ゆかりんが、別の方角に目を向けた。
そこにいたのは、まりさとれいむの、別に珍しくも何ともないつがいだった。
「ゆ? あそこにあなさんがあるよ?」
「ほんとだ! ちょうどいいね! まりさとれいむの、しんこんまいほーむにしようね!」
まさか、門番をしているめーりんの姿が見えないわけでもあるまいに。
れいむとまりさは、巣穴に近づく。と、すっとめーりんが二匹の行く手を塞いだ。
「ゆううっ? まりさ。なんでこのぐず、じゃましてるの?」
「おいおい、ぐずはぐずらしく、いねむりでもしてるんだぜ!」
「このすあなは、ゆっくりできないところだよ。ゆっくりひきかえしてね」
そうめーりんが言うと、まりさとれいむは、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ゆ? どうしてこのめーりん、しゃべれるの? じゃおおおんじゃないの?」
「しょうじきどうでもいいんだぜ。いまからここを、まりさとれいむのゆっくりプレイスにしてやるんだぜ!」
「……けいこくは、したよ」
めーりんは脇に退いた。まりさとれいむは疑いもせず、巣穴の中に入っていく。
二匹分の悲鳴が巣穴から聞こえる。めーりんは笑みすら浮かべない。
「ほんと、どうしてああもおろかなのかしらね……だからいとしくもあるのだけれど」
と、ゆかりんが言った。
巣穴から飛び出そうとしたまりさを、めーりんが体当たりで巣穴の中に弾いた。
「あら、さっきのまりさをみた? あたまにいっぱい、れみりゃやふらんのあかちゃんをくっつけてたわ」
と、ゆかりんはらんに言った。
らんは、ぎりぎりと自分の尻尾の端を噛みしめていた。
「うー、めーりーん!」
「どうしたの、れみりゃ」
めーりんが、呼ばれて巣穴に入る。
「ちょっと、きけんをおかしてみましょう。ちかづくわよ、らん」
ゆかりんとらんは、茂みから出て巣穴の近くまで忍び寄った。
中まではのぞけないが、それでも喋っている言葉は聞こえる。
「れみりゃのあかちゃんが、うまれてこないんだどー。こっちはうまれたのにいい」
「れみりゃ、これはもう、しんじゃってるんだよ」
「やだやだやだ! れみりゃのあかじゃああああん!! じんじゃやだあああ」
「げんいんはこのあかちゃんのらんだよ。こいつが、れみりゃのあかちゃんのえいようをとったから、あかちゃんはしんじゃったんだよ」
「ぐううううっ! ごろじでやるううううっ! ごのあがぢゃんごろじいい!」
「だめだよ! れみりゃ、おあずけ! こいつは、ほかのれみりゃのあかちゃんのためにのこすんだよ!」
「ふらんのは、ぜんぶちゃんとうまれたー。かわいいちびちゃんー」
「ぐうううううううううううううっっっ!!!」
「もう、このしたいにはようはないから、すててきてね。たべてもいいけど」
「うううううっっっ! こんなのたべたくもないんだどー!」
巣穴から出てくる気配を感じて、慌ててらんとゆかりんは大木の裏に身を潜めた。
れみりゃとふらんは、口に子ちぇんや子らんの変わり果てた死骸をくわえていた。
それは、れいぱーありすにれいぷされた子ゆっくりと、ほぼ同じ姿だった。
黒ずんで縮んだ体。植物型妊娠の茎。
そして、絶望と虚無をたたえた顔に残る涙の跡。
れみりゃとふらんは、森の奥に姿を消したかと思うと、すぐに手ぶらで帰ってきた。
「あかちゃんもまともにつくれないぐずは、ぽーい♪ なんだどー。れみ☆りゃ☆うー♪」
と、楽しげに言いながら、巣に戻る。そして数回、死体遺棄を繰り返した。
ゆかりんとらんは、れみりゃが向かった方に走る。
そして、地面に落ちてひしゃげていた、子供達の死骸を見つけた。
「うああああああああああっ!」
その死骸にすがりついたらん。それきり微動だにしない。
ゆかりんは、その親子を残して、巣穴の見える茂みに戻った。
ゆかりんは、らんをあの場所に残した自分の選択が正しかったと知る。
巣穴の前で繰り広げられていた光景。
「ほらほら、ゆっくりしないでね。すのなかでくわれたいんならいいけど」
と、めーりんに巣穴の外に追い立てられる、ちぇんとらんの赤ちゃん達。
「おやのれみりゃとふらんは、こいつらをいっぴきもにがしちゃだめだよ。でも、ころしちゃだめ」
「「うー、わかったー」」
「それじゃ、れみりゃとふらんのあかちゃんたちも、ゆっくりでてきてね」
これから何が起こるかなど、言葉にするまでもなかった。
古今東西、様々なゆっくりの生き様と死に様を見てきたゆかりんも、今度ばかりは体を震わせずにいられなかった。
ちぇんとらんの赤ちゃん達の断末魔が、脳裏にこびりついて離れない。
――どうしておとうしゃんもおかあしゃんもいないの
厳密に言えば、父親はれみりゃとふらんで、母親は母体となって死んだ子ちぇんと子らんなのだが。
「うー、まんまー、れみりゃ、にひきつかまえたー」
「さすがはれみりゃのゆうしゅうなこどもなんだどー! えらいえらいなんだどー」
無論、赤ちぇんや赤らんに、れみりゃとふらんが親の情を示すことなど無い。
初めての狩りの成果を自慢する子供達を見て、れみりゃもふらんも有頂天だった。
その様子を見て、計算通り、とばかりに笑みを見せるめーりん。
先ほど、ゆかりんは自滅していったまりさとれいむを見て、その愚かさに愛しささえ感じていた。
では、あいつらはどうだ?
百歩譲って、れみりゃとふらんはゆっくりの摂理でなすべき事をなしているのだ、と納得しよう。
だが、あのめーりんは? あの悪魔のような笑みを浮かべるゆっくりに、愛しさなど感じられるだろうか?
ゆかりんは、もう見るべきものはここにはないと判断して、茂みを離れた。
らんの様子は、全く変わっていなかった。
物言わぬ残骸に寄り添ってじっとしている。
実はもう死んでいるんじゃないか、とさえ思えた。
「らん。きもちはわかるけど、いつまでもここにはいられないわ」
「……かわいいかわいいちびちゃん、ずっとゆっくりしてね」
らんが、死骸に話しかけていた。
この子も頭が可哀想なゆっくりになってしまったのか。とゆかりんは思ったがそうではなかった。
「いきましょう、ゆかりさま」
その穏やかな笑顔には、どこか諦念にも似た狂気が漂っていた。
「……ええ」
今さっき見た、めーりんと同じ笑みだった。
それから、数日が過ぎた。
いまや、らんの頭の中には、一つの情念が渦巻いていた。
それは、すっきりで殺された子供の死骸のように、どす黒い情念だった。
「めざめるたびに、あなたのかおがかわっていくのがわかるわ」
と、ゆかりんは言った。
夕方、捕食種達がうめき声を上げて、活動を始める。
それまでは、親のれみりゃか、ふらんが外に食事を探しに出かけていた。
だが、今日は様子が違った。
ぞろぞろと、家族総出で巣穴から湧き出てくる。
「うー♪」「うー♪」「うー♪」「うー♪」
親を含めると、総勢で六匹。れみりゃとふらんが三匹づつ。
そして、めーりんがゆっくりと歩き出す。
まるで、遠足の補導をする先生のように。
親たちがそれに従い、子供達は親に従う。
らんは気付かれないように距離を取って、めーりんと同じ歩調で後を追う。
幸い、捕食者達が浮かれて騒いでいるので、尾行は気付かれなかった。
めーりんが立ち止まるのを見て、らんは近くの木の陰に身を隠した。
おそらく、めーりんたちは何かを見つけたのだろうが、ここからでは見にくかった。
らんは、横手に回り込む。そして、めーりんたちの視線の先にあるものを見た。
「まったくみんなしごとをみょんにおしつけすぎだちーんぽ!!!」
みょんがぶらついていた。先日、らんが集めた食料を持って行ったみょんだった。
おそらく、今日も他のゆっくりに食料探しを押しつけられたのだろう。
口を開けば、不満が次々とあふれ出していた。
しかし、ふと立ち止まり「まらまらまら……」と忍び笑いを始めた。
何かエッチなことでも思いついたのだろうか。
その隙を、子れみりゃと、子ふらんは見逃さなかった。
みょんは、初めのうちは敵が子供二匹だとみて、口の枝を振り回して応戦していた。
だが、次々と新手が襲いかかってくる。
一分持たずに、その体はあちこちを食いちぎられ、動きはみるみる鈍くなっていった。
そして、真打ちが現れる。
めーりんは、みょんが落とした枝を、ぺにぺにの辺りに突き刺してとどめを刺した。
「ぢぃいんぼおぉぉぉぉっ!」
そして、何度も中身をかき回す。ずいぶんと、念の入ったとどめだった。
「「「うー! うー♪」」」
ゆっくりの中でも、強い部類に入るみょんを倒したことで、捕食種たちの士気も上がっていた。
「このまま、やつらのところにいくよ。れみりゃ、ふらん、こいつをはこんでね」
「うー、あまあまいっぱーい♪ はやくいきたいー」
「きょうは、たべちゃうぞー。はらいっぱいたーべちゃうぞー♪」
「「「うーっ!」」」
めーりんの足取りには迷いはない。この辺りの地理を知っているのだ。
その場所の近く、森の外れの肥沃な場所に、れいむ中心の大家族が最近住み着いたことを、らんは知っていた。
だが、めーりんはそんなことは素知らぬふりで、別の方へ足を向ける。
そして、めーりんたちがたどり着いた場所を見て、らんは全て合点がいった。
それは、一つの大きな巣穴だった。
以前、みょんと出くわしたときは思い出せなかったが、今やっと、らんは思い出した。
実は、らんは出会ったばかりのちぇんに連れられて、ここにいた家族に会ったことがあったのだ。
れいむ、まりさ、ぱちゅりー、そしてみょん。
昔の仲間だという。既に、そこには大勢の子供がいた。
その家族のかしましい様子を見て、らんもちぇんとの子供を作りたいと思ったのだった。
ただ、親のガラはあまり良いとは言えなかった。
言葉遣いの端々に、子供のいないちぇんとらんを馬鹿にする響きがあった。
巣穴の奥にうんざりするほどの食料をため込んでいるくせに、らんたちに食べさせるのをケチった。
「そんなおおくのたべものを、どうやったらとれるのかおしえてくれないか」
と尋ねると、誰も彼もが言葉を濁した。
「せいいっぱい、がんばる。これがひけつなんだぜ!」
と、答えになっていない答えを返してもらうのがせいぜいだった。
「しょうじき、あまりいいれんちゅうじゃなかったな……」
とこぼすと、ちぇんは意外にもこう言った。
「わからないよー、らんしゃまはちょっと、おかたいんだねー」
ちぇんが口答えめいたことを言うのは、初めてだった。もっとも、そのときはさほど気にすることもなかったのだが……。
「らんしゃまー、ちぇんたちもはやく、こどもをつくろうね!」
そんな言葉と笑顔で、ごまかされたのだった。
めーりんが他の群れではなく、わざわざここを目的地にしたその理由を、らんは悟った。
れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、みょん、そしてちぇん。
何もかも、偶然ではなかったのだ。
かつて、この巣穴には、別のゆっくりが住み着いていた。それはおそらく……
いや、もう断定しても良いだろう。
ここには、他のゆっくりにくずだぐずだと蔑まれているめーりんの家族が住んでいた。
それを、あのれいむたちは殺し、奪ったのだ。
そして、他のゆっくりから奪うことの快感と旨味を、れいむたちは知った。
その復讐を、今、受けようとしていた。
めーりんが、巣穴の入り口で叫ぶ。
「ゆっくりしんでいってね!!!」
元ネタ作品『ぐずめーりん』byぱちゅあき
最終更新:2009年10月23日 05:24