■十六日目
「さて、今日はお前達の歯と舌を潰すか。」
「「ゆっ…!!」」
いつものお仕置きフルコースを終えた後で満身創痍になっていた二匹が、
男の宣告に顔を青ざめさせる。
そんな事をされれば、これからはもう、
赤ちゃんと一緒にごはんを美味しくむしゃむしゃする事もできない。
赤ちゃんの体をぺろぺろしてあげる事もできない。
そして、何より、赤ちゃんとお話をすることも、まともにできなくなってしまう。
泣いてやめてと懇願するか、再び殺してくれと懇願するか。
その男の予想は外れる事になる。
「…ゆっ…おにいさん…」
「ん?」
「「ゆっくり、ありがとう」」
「………は?」
たっぷり十秒ほど遅れてから、男は間の抜けた声を返した。
男の困惑には気づかず、二匹は一方的に話し出す。
「まりさたちの あかちゃんを ゆるしてくれて ありがとうなんだぜ。」
「あかちゃんは… れいむたちの いちばんだいじな かぞくだよ。」
「あかちゃんが いたいこと されたら、まりさたち、とてもゆっくりできないよ…」
「まりさたち… わかったのぜ… でめきちさんは…でめきちさんも…
おにいさんの、いちばんだいじな かぞく…だったのぜ…」
「ごべんなざい… れいぶだぢ…でめきちざんのこど…
おにいさんの… だいじなかぞくを…」
「ゆぅぅ…ごべんなざいぃ…! おにいざん、ごべんなざいぃぃ…!」
男が幼い頃、両親に連れられて行った夏祭りの縁日で、でめ吉と出会った。
赤く綺麗な金魚達の群れに混ざって泳ぐ、
その黒くてブサイクなヤツが、何故か欲しくて堪らなかった。
網を五枚破いても掬えず、親からは諦めなさいと窘められたが、
泣いてその場を離れようとはしなかった。
そんな男に根負けして、普段は子供の我が儘など許さない厳しい父親が、
男の替わりに掬い網を握った。
結局、父親は網を八枚破いても掬えず、
見かねた金魚掬い屋のおじさんがでめ吉をくれたのだが。
家で飼う事になったでめ吉に、男が餌をやり忘れて遊びに行ってしまった時にも、
母親はちゃんと見ていて替わりに餌をやってくれた。
もちろん、その後で男はこっぴどく叱られた。
そこいらのペットショップへ行けば、子供の小遣いでも買える、
どこにでもいる、ただの金魚。
男自身、でめ吉を失うまでは、そう思っていた。
しかし、既に両親のいなくなった今、
男にとって、でめ吉は、
誰よりも一番長い時間を共に過ごした、ただ一つの『家族』だったのだ。
「……そうか。わかってくれて嬉しいよ。
俺も心を鬼にしてお仕置きをした甲斐があったよ。」
泣きながら謝るゆっくり達に、男は感情の籠もらない声で答える。
「だが、それはそれとして、お仕置きは最後まで続けるぞ。」
「ゆ、ゆっ!!」
「ゆっくり、か、かくごしてるよ…!」
これから起こる事に対する恐怖に体はガクガクと震えているが、
ゆっくりらしからぬ、決意の籠もった眼差しで、男の目を見据える。
二匹は、お仕置きされることが、自分達がゆっくりできない事がイヤで、
『ごめんなさい』と謝っていた。
何が悪かったか、自分達の犯した罪がどれほどの物か、
わかりもせず、わかろうともせず。
言いつけを守らず、お仕置きから逃れるために嘘をつき、
あまつさえ、お兄さんにとって、かけがえのない家族を、
また買えばいい、などと口にしてしまった。
そんな自分達がお仕置きをされるのは仕方がない。
自分達にとって、赤ちゃんは、家族は、『全て』だ。
だから、お兄さんから唯一の家族を奪った自分達は、
例え全てを奪われても仕方がないのだ。
でも、お兄さんは、赤ちゃんだけは、ゆっくりさせてくれた。
まりさとれいむの一番大事な赤ちゃんだけは、ゆっくりさせてくれた。
それならば、自分達はどんな辛いお仕置きでも、甘んじて受け入れよう。
まりさとれいむの、ただ一つの宝物である赤ちゃんがゆっくりできすなら、
例え、他の何を奪われる事になろうとも。
二匹は昨日の夜、乏しい餡子脳を振り絞って話し合い、そう決めたのだった。
お仕置きが終わった後、いつもの治療を始める前に、
男が「少し待ってろ」と言い残して部屋を出て行った。
「ひゅ…」
まりさの口から空気が漏れるような音がする。
ペンチで歯を一本一本順に砕かれ、或いは引き抜かれた。
舌は小型鋸でギコギコと引かれ、付け根から切り落とされた。
もはや意味のある言葉を発することはできない。
勿論、れいむも同じ。
だが、今日はお仕置きを終えたばかりの二匹の目は不思議と穏やかだった。
発することのできない言葉の替わりに、互いに視線で会話をする。
「よかったね」と
お話ができなくなる前に、お兄さんにちゃんと
「ごめんなさい」と「ありがとう」を言えて
そんな二匹とドア一枚を隔てた部屋の外、
そこで男は佇んでいた。
「何が…何が…『ありがとう』だ…
今さらそんな事言ったって…アイツはもう…」
独り、そう呟きながら。
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「まりさ、れいむ、今日までよく頑張ったな。」
二匹に治療を施しながら、男が言った。
「「ひゅ………?」」
この日が来るのを待ち望んでいた筈なのに、
予期していなかった突然の言葉に、
二匹はその言葉の意味を理解できず、疑問の声を上げる。
「お仕置きはこれで終わりだ。ちびのところに帰らせてやる。」
「ひゅ……ひゅうぅぅぅぅ!!」
「ふぁ、ふぁひはほうほはひふぁふ! ふぁひはほうほはひふぁふっ!」
「ふぇいふぅ!!」 「ふぁひふぁぁぁ!!」
ようやく男の言っている事を理解した二匹が、理解不能な言葉を発しながら、
ペコペコと頭を下げ、互いに涙を流して喜び合った。
二匹の礼には答えず、男は治療を終えた二匹を抱え上げた。
いつもの書斎。
だが、唯一違うのは、赤れいむが金魚鉢に入っておらず、
机の上に直接ちょこんと置かれている事だった。
「「ふぁ…!!!」」
あかちゃん!、と叫ぼうとした二匹の口を男が塞ぐ。
「ちびはもう寝てる。寝かせといてやれ。
もうこれからは、ずっと一緒にいられるんだ。明日の朝まで我慢しろ。」
男の優しい声音に、ゆっくり達は素直にコクンと頷く。
「よろしい。ちびが自分から起きてくるまで、絶対に起こしちゃダメだぞ。
俺のいいつけ、守れるな。」
その言葉に、二匹がもう一度頷く。
お兄さんの言いつけを守らなかったばかりに、
お兄さんの大事なでめ吉さんを死なせてしまい、
赤ちゃんも、自分達も、ゆっくりできなくなってしまった。
もう二度とあんな思いはするまい。
これからは、お兄さんの言いつけをきちんと守って、
みんなでずっとゆっくり暮らすのだ。
その決意を真摯な眼差しに込めて。
男が二匹を机の上、赤れいむから少し離れた所に置く。
ガラス越しに見るのではない、
触れようと思えば、触れることのできる場所にいる、自分達の可愛い赤ちゃん。
自分達は、長いお仕置きで、見る影もなく変わってしまった。
でも、自分達の赤ちゃんは、最初にこの部屋で寝顔を見せられた時から、
少しも変わってはいない。
自分達がどんなにゆっくりできなくなってしまっても、
赤ちゃんは、ゆっくりしてくれている。
その思いがまりさとれいむの餡子胸を打つ。
(あかちゃん…これからは、ずっと おかあさんたちと いっしょだよ…!)
(さびしいおもいをさせちゃって、ごめんね…!
あしたからは、いっぱいいっぱい、ゆっくりしようね…!)
口には出さずに赤れいむにそう語りかけながら、
静かに眠る赤れいむの姿を見つめている内に、
やがて二匹も穏やかな眠りに落ちていった…
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翌朝
「おはよう…って、ちびはまだ寝てるのか…」
朝食のゆっくりフードを持ってきた男に、二匹は苦笑を返す。
あかちゃんはゆっくりしすぎだよ!、とでも言いたそうな表情だ。
「まあ、寝かせといてやれ。
飯、置いておくからな。ちびが起きたら一緒に食え。」
二匹はとてもゆっくりとした表情で頷き、男が部屋を出て行く姿を見送った。
そして、昼近く
男が再び書斎に様子を見に来るが、ゆっくりフードはまだ一口も減っていない。
「なんだ、まだ起きてないのか。」
「「ひゅ~ん…」」
赤れいむは、朝とまったく変わらぬ様子で、まだ穏やかな寝顔を浮かべたままだった。
まりさとれいむは、少し寂しそうな表情で、その寝顔を眺めている。
「随分、ねぼすけだな。」
男がそう言うと、二匹はそわそわとしながら、
何かを期待するような視線を男に投げかけてくる。
「…もう十分寝ただろ。すりすりでもして、ねぼすけを起こしてやれ。」
律儀に男の言いつけを守っていた二匹だったが、
お許しが出たので、ずりっずりっと底部を引きずりながら、
満面の笑顔を浮かべて赤れいむの元へ這って行く。
ナメクジよりも遅い歩みに、焦れったい思いをしながら、
やっと…やっと赤ちゃんとゆっくりできる…!、その一心で
焼け焦げた足が痛むのも我慢して、這い続ける。
そして、二匹にとっては何時間にも感じる時間をかけて、
ようやく赤れいむの元に到達する。
まりさは赤れいむの左に、れいむは赤れいむの右に、赤れいむを挟み込む形で。
二匹は互いに視線を交わし、
(せーの)
同時にその頬を赤れいむの頬にすりつけた。
水玉模様に焼けこげてしまった親ゆっくり達の頬に、
赤れいむの柔らかく、もちもち、ぷにょぷにょとした饅頭肌が
押し返してくる感触が返って
……こない
「「ひゅ………?」」
違和感に二匹が同時に疑問の声を漏らす。
もう一度、頬に全神経を集中させて、赤れいむにすりすりをする。
だが、返ってくるのは、木や石にでもすりすりしたような、
無機質な固い感触だけだった。
「「…?…?」」
いまだに目を覚まさず寝顔を浮かべたままの赤れいむに、
更に頬を押しつけるが、何度やっても同じ。
困惑し、半泣きになった二匹は、助けを求めるように、
自分達を頭上から見下ろしている男を見上げた。
「「ひゅっ?!」」
その瞬間に恐怖の叫びを漏らす。
男は、まりさとれいむを見つめながら、笑顔を浮かべていた。
目を飛び出さんばかりに見開き、
口を張り裂けんばかりに大きく開いて、歯茎まで剥き出しながら、
狂気に満ちた笑顔を浮かべていた。
それは、でめ吉が死んで以来、男が初めて浮かべた心からの笑顔だった。
「どうした?ちびの体がどうかしたか?
ん?固いのか?ちびの体が固くなってるのか?」
ずっと待ち望んでいた、この時の到来に、
興奮で声を裏返させ、早口になりながら、笑顔で尋ねる。
ガラッ!
突如、男が乱暴に机の引き出しを開き、中から千枚通しを取り出す。
そして、眠っている赤れいむを乱暴に掴み、
親達に見せつけるように、その底部に千枚通しの先端を押し当てる。
「ひゃふぇふぇぇ!!」 「ふぁはひゃんひ、ひほひほふぉ…!」
男の突然の豹変に混乱しながらも、
赤れいむの身に危険が迫っていると感じた二匹がやめて、と叫ぶ。
ザクッ
だが、その願いも虚しく、千枚通しが、赤れいむの体に深々と突き立てられた。
「「ひゅうぅぅぅぅぅ!!……ひゅ……?」」
絶叫の後、空気が抜ける音のような間抜けな疑問の声が上がる。
ゆっくり達が疑問を抱くのも無理からぬ事だった。
金属の凶器がその体に深々と突き刺さっているにも関わらず、
赤れいむの寝顔は、いまだ笑顔の形を保ったままだったのだから。
二匹が男の手に掴まれた赤れいむを呆然と見上げる中、
千枚通しが、赤れいむの体から引き抜かれる。
サラ… サラサラサラ……
赤れいむの体に開いた穴から、何かがこぼれ、二匹の目の前に落ちる。
それは、黒い餡子では無かった。
細かくて、乾燥した、粒状のもの。
「…ほふふぁ……?」
先にその正体に気づいたのは、れいむ。
それは、砂、だった。
「はんふぇ…?」
まりさが、なんで、と呟く。
まりさの疑問の声を無視したまま、
男は、Uの字型ににっこり笑っている赤れいむの口に千枚通しの先を押し当て、
その上唇をめくりあげる。
開いた口の中から覗くものは、歯でも歯茎でも舌でもなかった。
そこには、ただ砂が詰まっているだけだった。
そして、新たな出口からも砂が零れ始める。
千枚通しが、今度は赤れいむの右の瞼をなぞる。
まりさもれいむも、自分達の理解を超えた出来事を前にして、
ただ黙ってその様子を眺めている事しかできない。
赤れいむの瞼が開かれる。
その内側には、きらきらと輝く大きな瞳が、当然、無い。
赤れいむの体から、三つの滝となってこぼれ落ちる砂が、
みるみるうちに、呆然とする二匹の前に砂の山を築いて行った。
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「ほひぃふぁん…?」
砂の山と、男の手の中の赤れいむに交互に目をやりながら、
まりさが男に呼びかける。
男は笑顔を浮かべたまま、黙って机の引き出しを開き、
そこから一台のノートPCを取り出して、机の上に置いた。
男がPCの電源を入れ、待つこと数十秒。
ようやく起動したOSの画面で男が何やら操作をする。
すると、画面一杯に映像が映し出された。
「「ひゅっ…!!」」
まりさとれいむが、その映像を食い入るように見つめる。
そこに映されていたのは、赤れいむの姿だった。
場所は、恐らく、この机の上だろう。
その赤れいむは、今、男の手の中にいる赤れいむと違い、
ゆっくりとしていない表情をしていた。
『ゆぅ…おにいしゃん…おちょうしゃんたちの、おちおき…
まりゃ、おわりゃないにょ…?』
悲しそうな顔でモニタの外の親ゆっくりに、ではなく、カメラに向かって話しかける。
『ああ、まだ終わらない。』
今度は男の声がモニタから聞こえてくる。
『ゆぅぅ…れいみゅ…しゃみちいよぉ…おちょうしゃん…おきゃあしゃん…』
「ほひひひゃん! ひふひょ! ほふぁはひゃんはひょひょひひふひょ!」
「ひゅっふひ! ひゅっふひひふぇふぇぇ!」
二匹が懸命にモニタに向かって、ここにいるよ!ゆっくりしてね!と叫ぶ。
「落ち着け。これは何日も前に撮ったちびの姿だ。
この中にいるわけじゃない。テレビと同じだよ。」
男の言葉に二匹が落胆するが、それでも食い入るようにモニタを見つめ続ける。
その内に、画面が暗転し、場面が切り替わる。
シーンは切り替わったが、場所は変わっていない。
相変わらず、この机の上だった。
だが、よく間違い探しをしてみると、先程とは違っている点が幾つか。
机の上に、様々な道具が置かれている事。
何本ものオレンジジュースのペットボトルが所狭しと並んでいる事。
そして、赤れいむが泣き叫んでいる事。
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ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ!
『ゆぴゃあっ!! いちゃぁっ! いちゃいよぉっ! ゆびぃっ! ゆびぃっ!!』
まりさとれいむが、片目を驚愕に大きく見開いている前で、
机の上に転がった赤れいむが、一面に撒き散らされたオレンジ色の液体を
ピシャピシャともみあげで叩きながら、じたじた身悶えている。
そこにハエタタキが何度も振り下ろされる。
ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ!
『いちゃいぃ! たちゅけちぇっ! たちゅけちぇぇぇ!』
赤れいむの叫びなど、まるで意に介さずに打撃音は続き、
小さな体はみるみる内に腫れあがって行く。
時折、乱暴にオレンジジュースがぶっかけられては、また、ハエタタキが舞う。
『ゆぴぃぃぃぃっ!!!』
潰さないよう、手加減はされているようだが、
それでも時折、力を込めすぎるのか、はたまた故意か、赤れいむの皮が破ける。
すると、手早くその箇所に水溶き小麦粉が塗られる。
ゴオォォォォォッ
『あちゅい! あちゅい! あちゅいよぉぉ!
たちけちぇぇ! おきゃあしゃぁん!!』
補修箇所を手早く乾燥させるため、ドライヤーの熱風が赤れいむに吹き付けられる。
ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ!
『ぴぃぃっ! ぴぃぃっ! たちゅけちぇぇ! おちょうしゃん、たちゅけちぇぇ!』
そして再び打撃が繰り返される。
「………っ!!」
まりさが男を睨む。憎しみと殺意の籠もった右目で。
男はその視線を冷ややかに受け止める。
「なんだ、その目は。『赤ちゃんにはお仕置きしないって言ったのにぃ』か?
そうだな。言ったなぁ、確かに。」
「『テーブルの、上には、乗るな』と。」
まりさに負けない程の憎しみを視線に乗せて、男がまりさを睨み返す。
「ひゃふぇふぇぇぇぇ!!」
男の視線に気圧されかけていたまりさが、
れいむの悲痛な叫びを機に、再びモニタに視線を戻す。
『ゆぴ…! ゆぴぃ…! おにいしゃん、やめちぇ…? やめちぇね…?
どうちちぇ…きゃわいいれいみゅに、こんなことちゅるの…?
やめ…やめちぇ…ゆやぁぁぁ! やめちぇぇぇ!! ぴぴゅぅぅぅっ!!』
まりさがモニタから目を離していた間に、
赤れいむの体からは何本ものマチ針が突き出していた。
そして、また一本、マチ針が赤れいむの真下から突き刺さる。
オレンジジュースをかけてから、もう一本
『ゆぴぃぃぃ!! いちゃいぃぃぃっ!!』
オレンジジュースをかけてから、もう一本
『ゆっ…ゆっ…ゆぎぃぃっ!!』
「ひゃふぇふぇ…ひゃふぇへひょぉぉ…」
れいむがもう見ていられないという風に、涙を流す左目を閉じる。
だが、男はそれを許さない。
れいむの左の瞼に指をかけ、そのままビリィッと破り裂く。
ついでに、まりさの右の瞼も引き裂く。
「ゆっくり見ようぜ。これからが面白いんだよ。」
目を閉じる事すらできなくなった二匹の頭を両手で押さえつけながら、
男が二匹に笑顔を向ける。
『いちゃっ…! いちゃいよぉ! たちゅけちぇぇぇ!! たちゅけちぇぇぇ!!
おちょうしゃぁん! れいみゅ、いちゃいよぉぉ!! たちゅけちぇぇ!!
おきゃあしゃぁん! ちくちくしゃん、とっちぇぇぇ!
いちゃいよぉぉ! ぺろぺろちてぇぇぇ!
たちゅけちぇぇぇ! ゆんやぁぁぁぁ…!』
モニタの中では、男の指にリボンを摘まれ、宙に浮いた赤れいむが、
右から、左から、前から、後ろから、下から、上からと、
縦横無尽にマチ針を突き刺され、みるみる内に生きた針山と化して行く。
男が、リボンと髪の毛の生えた針山をカメラの前に近づけ、針山がアップになる。
マチ針の頭がピクピクと痙攣するように蠢く中、
そこだけ針が避けている赤れいむの目が白目を剥き、
針の林の隙間を縫うようにして、涙を流し続ける。
また、画面が暗転して場面が切り替わる。
ゴン!ゴン!
カメラは、仰向けに寝かされた赤れいむの姿を横から捉えている。
ゴン!ゴン!
『ゆぇぇ…! きょないでぇ…!』
その横、赤れいむから見てあんよを向けている方向から、
金槌が机を叩きながら、徐々に赤れいむに近づいて来ている。
赤れいむは、その鉄の塊を、恐怖に震えながら涙の滲む目で見つめている。
逃れようと身を捩るが、男の指が髪の毛をきつく抑えつけており、
ふりふりと体が左右に揺れるだけだ。
ゴン!ゴン! ………
金槌の頭が、赤れいむの真上で止まると、赤れいむは思わず目を瞑る。
そのまま、数秒が経過し、
『ゆ……?』
赤れいむが恐る恐る目を開いた瞬間、金槌の頭が重力に引かれて落下する。
ドスン!!
『ゆぼぉぉぉっっ!!』
落下した鉄の塊によって赤れいむの腹がベコンとへこみ、
引き替えに、赤れいむの口から餡子が噴水のように勢いよく噴き出す。
すぐに金槌が除けられると、男の手が吐き出された餡子を手早く集めて、
赤れいむの口に詰め込み、赤れいむの腹を元のポッコリとした丸い形に戻す。
そして、オレンジジュースを飲ませた後、再び、金槌の音が鳴り響く。
ゴン!ゴン!
机が叩かれる音が響くたびに、カメラを固定した三脚が揺れ、映像がブレる。
『ゆ…やめ…ちぇ…おにいしゃん…れいみゅ…いちゃかっちゃよ…?
ゆっくちしゃしぇてね…? ゆっくち…ゆっくち…してっちぇね…?』
揺れる映像の中で、赤れいむが、カメラに目線だけを向けて涙目で訴える。
ゴン!ゴン! … 『ゆやぁぁ…れいみゅ、くりゅちぃの、やぢ…』 ドスン!!
『ゆぶぼぉっっ!!』
再び餡子が噴き出す。
ゴン!ゴン! … ドスン!! 『びゅぼぶっ!!』
ゴン!ゴン!ゴン! ………… ドスン!! 『ゆぶぅぅぅ!!』
ゴン! ドスン!! 『ぽぶぉっ?!』
『ゆっ…! ゆっ…!』
何度も机の上に吐き出した餡子を再び体の中に戻され、
ブルブルと震えている赤れいむに、男が細かく切ったガムテープを貼り付けている。
口に。そして左目に。
それから、赤れいむが、カメラに正面を向けて俯せ気味の体勢にして置かれる。
ゴン!ゴン!ゴン!
『……!! ……!!!』
背後から迫ってくる金槌の音に、
赤れいむが塞がれていない右目から涙を流して、
懸命にカメラに向かって視線で助けを求める。
ゴン!ゴン!ゴン! ……… ドスン!! ぷち
金槌が落ちると同時に、赤れいむの右目から餡子がにゅるん!と飛び出す。
「ひゃめへぇ…」「ひゃめへ ふはふぁひ……」
カメラのレンズに貼り付き、
大写しになった赤れいむの潰れた眼球に見つめられながら、
まりさとれいむが、力無い声で男にやめて、と懇願する。
二匹も気づいていた。
自分達の可愛い赤ちゃんが、自分達と同じお仕置き、いや、虐待を受けている事に。
それならば、まだこれだけでは終わらない筈だ。
親である自分達でさえ、いっそ死んで楽になりたいと何度も思ったあの虐待が、
赤ちゃんの小さな体を苛んでいる。
もう、これ以上はやめて欲しい。
だが、二匹が見ているのは、過去の映像。
例え、どのような奇跡が起きようとも、過去の出来事は覆りはしない。
場面は替わり、逆さまにされた状態で卓上バイスに挟まれ、
身動きの取れない赤れいむが映し出される。
『ゆぎゅぅ…! おにいしゃん…やめちぇね…! やめちぇね…!
れいみゅ、ゆっくちしちゃいよ…!』
逆さまでもがく赤れいむに、電子工作用の小さめのハンダゴテが近づいて行く。
『ゆぅぅ! やめちぇ…! れいみゅに、いちゃいこと、ちないでにぇ…!』
ジュッ
ハンダゴテの先端が赤れいむの底部にチョコンと一瞬だけ触れる。
『ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? あっぢゅぅぅぅい!!
あぢゅいよぉぉっ! れいみゅの あんよしゃんが、あぢゅいよぉぉ!!
たちゅけちぇぇ!! たちゅけちぇぇ!
おちょうしゃぁんっ! おきゃあしゃぁんっ!
れいみゅを たちゅけちぇぇぇ! たちけてぇぇぇ!!
れいみゅ、いいこにしゅるから、たちけちぇぇぇ! ゆびぇぇぇん!!』
それだけで、ゆんゆんと激しく泣き叫び、何もできない親に助けを求める。
ジュゥゥゥゥ
そんな赤れいむの底部の上に、水平に寝かされたハンダゴテが乗せられる。
『あびょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうっ?!?!?!』
赤れいむが、左目を飛び出さんばかりにクワッを見開き、
スピーカーが音割れを起こすほどの絶叫を放つ。
そのまま、ハンダゴテが、ゆっくりと、赤れいむの底部をコロコロと転がされ、
満遍なく足を焼き焦がしてゆく。
『ゆ゛わっ……ゆ゛わっ……』
底部が一面真っ黒になる頃には、赤れいむの絶叫も止んでいた。
チロチロと漏れるしーしーが流れ込む口からは、呻き声だけが漏れている。
そのしーしーの源泉に、ハンダゴテの先端が押し当てられる。
ジュゥゥゥゥ
『………あぢゅ……あぢゅいぃぃぃぃぃ………!!!!』
ジュゥゥゥゥ
『ぴぎゅぅぅぅ…! ぴぎゅぅぅぅぅ……!!』
あにゃるにも。
ジュゥゥゥゥ
『あ゛っ……ぢゅいぃ……れーみゅのぉ……れーみゅのぉぉ……!』
まむまむにも。
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またも画面が暗転する。
右目を失い、肌色だったもちもちの饅頭肌も痛々しく腫れ上がり、
焼けこげていない部分が、そうでない部分より少なくなっている。
しかし、親達とは違い、飾りと髪の毛、歯や舌はまだ健在だ。
『ちび、そろそろ、お前を殺す事にする。』
『…ゅ………』
男の処刑宣告に対し、
遅かれ早かれ、そうなると覚悟していたのか、
或いは、そうなるのを期待していたのか、
意外にも、赤れいむは俯いて一声鳴いただけで、
泣き喚いて命乞いをする事はなかった。
今の赤れいむには、希望は残されていなかったのだ。
『死ぬ前に、まりさとれいむに会いたいか?』
だが、男の言葉が、赤れいむに最後の希望を持たせる。
『…ゆ……ゆぅ……ゆぅぅ……! あいちゃい! あいちゃいよ!!
おちょうしゃんに、しゅーりしゅーり、ちてもらいたいよ…!
おきゃあしゃんに、ぺーりょぺーりょ、ちてもらいたいよ…!』
『そうか。そんなに会いたいか。』
『あいちゃいよぉぉ! おちょうしゃぁぁん! おきゃあしゃぁぁん!!
あいちゃい! あいちゃい! あわちぇてぇぇぇ!!』
『だが会えない。』
『あい…ぴっぎょおぉぉっ!?』
男の手に握られた金属製の細い棒ヤスリが、赤れいむの右の眼窩から突き刺さり、
グジュグジュと音を立てながら前後に抽送を繰り返し、
赤れいむの餡子の内側削る。
『ゆ゛…あ…あいちゃい… あいちゃいぃぃぃ! ゆびびぃぃっ?!』
『おちょうじゃあぁん…!! あいちゃ… びゆぎぃぃっ!!』
『おきゃあじゃあぁん…!! あ… ゆびゅびゅびゅびゅぅっ!!』
男の手が止まると、赤れいむが己の希望を口にしようとするが、
その度にヤスリが動きだし、赤れいむの希望を削り取る。
『ゅ……ぁぃ………ぃ……ょ……』
赤れいむの声と共に、削られた希望が小さくなって行く。
「ははは、何言ってんだ、コイツ。会わせる訳ないよなぁ?
でめ吉は死ぬ前に俺に会えなかったのになぁ?な?」
男がまりさとれいむのハゲ焦げた頭をぽんぽんと叩きながら、
楽しそうに笑う。
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『さあ、じゃあ、これから殺すとするか。』
『………』
再び場面が替わる。
今度は、男が手でカメラを握っているのか、その映像は小刻みに揺れている。
『おい、ちび。あいつらに何か言い残す事はあるか?』
『ゅ……?』
『お前がいなくなった後、お前はあいつらにどうしてもらいたい?
それを言えばいい。』
男の声と共に、カメラが赤れいむの顔にズームし、
画面一杯に赤れいむの表情が大写しになる。
苦しげな表情を浮かべて黙り込んでいた赤れいむが、
やがて、カメラに向かって、モニタの前のおとうさんとおかあさんに向かって、
口を開き始める。
『ゆ…ゆ…… れいみゅ……れいみゅは……
れいみゅがいにゃくなっても… おちょうしゃんと、おきゃあしゃんには…
ゆっ ダンッ!
何かが激しく叩きつけられる音と共に、カメラの映像がぶれ、
赤れいむの声が止まる。
再び、カメラの映像が固定されると、そこに写った赤れいむの顔は、
固く瞼を瞑り、歯を食いしばりながら、ブルブルと激しく震えていた。
徐々にカメラがズームアウトを始め、
それと同時に、赤れいむの口がパクパクと動きだし、口の端からゴポリと餡子が漏れる。
カメラはズームアウトを続け、フレームの外に隠れていた赤れいむの全身を映し出す。
赤れいむの口よりも下、ゆっくりの下半分を何かを握りしめた男の手が覆い隠していた。
その手がスッ、と離れ、握っていたものをカメラの方に見せつける。
それは黒い餡子のこびりついた剣山だった。
『………! …………っ! ……………ぎ゛っ!
ぎゅびぃぃぃぃぃっっっ!!!!!』
衝撃に声を発することすらできなくなっていた赤れいむが、
数秒遅れでようやく絶叫を上げる。
剣山を叩きつけられた赤れいむの下半分は、剣山の針の高さまで潰れて広がり、
開いた幾つもの穴から、餡子が漏れ出している。
『ぎっ…! ゆ゛っ…! ゆ゛…おちょ……! おきゃ……! ゆっく ダンッ!
半身を貫かれた痛みに苛まれながらも、そこにいない親ゆっくりに何かを伝えようと、
懸命に言葉を紡ごうとする赤れいむだったが、
その言葉を遮るように、再び剣山が叩きつけられる。
『び…やぁぁ……!』
ダンッ! ダンッ! ダァンッ!!
『俺はっ!俺は…!最期のお別れも聞いてもらえなかったんだぞっ…!!
お前だけっ!お前だけっ!お別れを言うつもりかぁっ?!あぁ!?』
ノートPCのスピーカーから聞こえる絶叫と共に、ポトリと、涙が落ちる。
男に押さえつけられた、まりさとれいむの頭上に。
『ゆぼっ! ゆぼぉっ!』
赤れいむが咳き込み始め、口からも剣山で開けられた傷口からも、餡子が飛び散る。
それでも、赤れいむは、まだ言葉を紡ごうとする。
『ゆ゛…! ゆ゛…! ゆ゛っ……! ゆっ…ぐ…ち ジュッ!!!
ジュッ…… ジュジュッ……
赤れいむの言葉が完全に止む。
その口には、ハンダゴテの先が押し込まれていた。
赤れいむの歯と舌が、一瞬にして熱で融解し、蒸発して煙に変わる。
口の周りの饅頭皮は真っ黒に焦げ、こちらも白い煙を立ち昇らせている。
残っていた片目がグルンと回転して白目を剥き、
赤れいむの体がビクンビクンと激しく痙攣を始める。
ジュゥゥゥ………………!
餡子が焼ける音。
ハンダゴテが赤れいむの餡子の中を突き進み、
その先端が中枢餡近くまで到達し、中枢餡が沸騰した所で、
赤れいむがビクン!と一際大きく、跳ねるように痙攣した。
ハンダゴテが引き抜かれる。
眼球を失った右目からは熱々のお汁粉のようなドロドロの黒い涙が流れ、
眼球を残す左目からは熱でカラメル状になった茶色い涙が流れる。
体中に開いた穴という穴から、煮え立った餡子が湯気を立ち昇らせ、
赤れいむは全ての動きを停止していた。
その顔に苦悶と恐怖と絶望の表情を貼り付けたまま。
そして、映像もその表情を映したまま、停止した。
==================
「苦労したよ。
ちびの傷ついた皮を修復して、この表情を安らかな寝顔にするのはな。」
凍り付いたように動かない親ゆっくり達を前に、
モニタをコンコンと叩きながら、男が話し始める。
再び映像が動き出し、男が一人黙々と"工作"を行う様子が、
早回しで流れてゆく。
「大変だったんだぜ。もうこいつの皮、ボロボロのグチャグチャで
ゴミクズみたいだろ?」
赤れいむの饅頭皮に開いた穴に、固めに溶いた水溶き小麦粉を塗って補修し、
焼け焦げた箇所は紙ヤスリで削ってから、緩めの水溶き小麦粉を塗る。
焦げ方がひどい場所は、切り落とし、穴の補修と同じ工程を施す。
「一番苦労したのは、この気持ち悪い顔を寝顔にするとこかな。」
皮の補修が終わった後、ピンセットを使って、
苦悶に歪んだ赤れいむの顔を寝顔の形に整え始める。
まず赤れいむの頭を押して、クワッと開かれた目と口を閉じさせる。
それから、ピンセットで瞼や唇をちょんちょんと摘んで、
ニッコリと笑っているような形に変えてゆく。
決して手先が器用とは言えない男が、何度も失敗を繰り返しながら、
淡々と作業を続ける。
時折、うっかり破いてしまった瞼や唇を水溶き小麦粉で再補修する。
その様子が延々と映し出された末に、
ようやく、二匹が毎晩眺めていた、あの赤れいむの寝顔が完成した。
「本当に長かったよ。朝から作業を初めて、ここまででもう日が落ちてたからな。」
男の手が、ハケで赤れいむの全身に何かを塗っている。
防腐剤と、饅頭皮を固めるための凝固剤だった。
「一日だけ、お仕置きがなかった日があっただろ?
あぁ、そうそう、お前等がのんきにおうたを歌ってた日だよ。覚えてないか?
あの日だよ、コレ。コレのおかげで、お仕置きができなかったんだ。」
「お前らがおうたを歌っている間、
ちびの奴、ずぅっと、お前らの事呼んでたんだぞ?
『おちょうしゃん、たちゅけちぇぇぇ』
『おきゃあしゃん、たちゅけちぇぇぇ』って、な。」
シーンは飛び、男の指が赤れいむをちょんちょんと小突いている。
柔らかく、もちもちとしていた饅頭皮は少しもへこむ様子が無い。
凝固剤の効果により、完全に凝固していた。
その事を確認してから、ナイフで赤れいむの底部を丸く切り取り、
開いた穴にスプーンを差し込んで、中の餡子を刳り抜いてゆく。
「ああ、そういえば、さ、
あの日のごはん、美味しかったろ?
いつもより甘くてゆっくりできただろ?
何でだと思う?何が入っていたと思う?」
まりさとれいむが、イヤイヤをするようにゆるゆると首を横に振る。
「教えてやるよ。」
カメラの前では、男の手がゆっくり達の餌皿に
ゆっくりフードを盛っている様子が映し出されている。
「ひゃめへぇぇ!!」 「ひひはふふぁひぃ!!」
男の言葉を聞く事に拒絶の意志を示すが、男が聞き入れる様子はない。
そもそも、その拒絶こそが、聞かずとも答えを知っている事の何よりの証。
それでも、聞きさえしなければ万に一つの可能性が残る、
そんなありもしない希望に縋るゆっくり達は拒絶の言葉を紡ぎ続ける。
だから、男はその希望を摘み取る。
「お前達の大好きな が入ってたから。」
「ひゅべぇっ!ひゅべぇっ!ひゅっべぇぇぇ!!」
「ひゅ…!ひゅ…!ひゅぶべぇぇぇぇぇ!!」
男の言葉を聞き、カメラの前でゆっくりフードと混ぜられたモノを目にし、
まりさとれいむは、激しく餡子を嘔吐する。
男がその餡子を掬って、ゆっくり達の口の中に押し戻す。
ゆっくり達が再び嘔吐をするが、男も再び餡子を詰め込む。
その光景が繰り返される前で、モニタの中では、
男が"外側"だけになった赤れいむの体に砂を詰め込んでいた。
最後に、切り開いた底部を接合して、赤れいむの剥製は完成した。
男がマウスを操作すると、モニタの中の映像が、
剥製になる前の、赤れいむのデスマスクの映像に戻る。
「さ、これで餡子脳でもわかったよな?お前達のちびがどうなったか。
なかなか、よくできてただろ?本当に眠っているように見えただろ?」
二匹は何も答えず、ただただ、涙を流す。
「お前達、毎晩ちびの寝顔見て頑張ってたもんなぁ…
お仕置きは、痛かっただろ…?苦しかっただろ…?
いっそ死んでしまった方が楽だと何度も思っただろ…?」
「正直、俺は感心したよ。
お前達は、ちびのためなら、こんなにも頑張れるのか、ってな…」
「ちびはとっくの昔に死んじまってたのにな。」
「ふほはぁぁぁっっ!!!」
「ひんふぇはいっ! はふぁひゃんふぁ、ひひふぇるひょおぉ!!」
そんな事は嘘だ。まりさとれいむの可愛い赤ちゃんはまだ生きている。
だって、だって、今だって、すぐ目の前で、
可愛い笑顔を浮かべてすーやすーやしているではないか。
「嘘?嘘だと思うなら、ホラ、もう一度すりすりしてやれよ?」
男は赤れいむを元の場所に戻す。
まりさとれいむのほっぺたの間に。
「ふぁはひゃん! ひゅっふひ! ひゅっふひひひょうふぇ!」
「ほふぁあひゃんふぁ、ひゅーひひゅーひ、ふふひょ!」
赤ちゃん!ゆっくりしようね!、おかあさんがすーりすーりするよ!、
懸命に赤れいむに呼びかけながら、二匹は頬を押しつける。
ベコ
中身の砂を抜かれて、がらんどうになった赤れいむの体は、
親ゆっくりの頬から受ける圧力に負けて、ベコリとへこむ。
「ふぁはひゃん!? ふぁはひゃぁん!!」
「ひゅっふひ! ひゅっふひひへっへふぇ!!」
その感触を感じながらも、二匹は涙が流れ続ける頬を押しつける。
クシャ
紙くずが潰れるような音と共に、
まりさはれいむの、れいむはまりさの、互いの頬がくっつくのを感じた。
「あーあ、潰しちまいやがった。」
男は二匹の間から、ペラペラに潰れた赤れいむだったモノを引き抜いて、
二匹の目の前に放り捨てる。
可愛い赤いリボン、サラサラとした柔らかな黒髪。
そこに貼り付いた、ベシャリと潰れた、肌色の紙くず。
紙くずに開いた小さな二つの穴は、まりさとれいむをじぃっと見つめ、
大きな一つの穴は、まりさとれいむに助けを求めて叫んでいるように見えた。
男は、二匹の前に、赤れいむの絶命直後の映像を映し出すノートPCを引き寄せ、
キーボードの上に、髪とリボンのついた紙くずを置いた。
「「ひゅぅ……!ひゅぅぅ……!」」
まりさとれいむは、モニタとキーボードの上を、
閉じられない瞳で呆然と見つめ、泣き声を上げる。
「さあ、見たか?見たな?
ちびがどうなったか、ちゃんと頭に焼き付けたか?焼き付けたな?」
ガチャガチャと、男が引き出しを探る音。
その音には気づくことなく、二匹の残された片目は、
愛する我が子の、二度の死に顔のみを映し、
その光景を餡子脳の奥深くにまで焼き付ける。
「じゃあ、コレはもういらない。」
男の言葉と共に、突如、二匹の瞳が映していた映像が消え、暗闇が訪れた。
男は両手に握っていた物を無造作に机の上に放り投げる。
まりさの右目が刺さった千枚通しと、れいむの左目が刺さった千枚通しが、
机の上をコロコロと転がった。
二匹が見ている暗闇には、脳裏に焼き付けられた、最後に見た映像だけが浮かぶ。
まりさとれいむが、それ以外の物を目にすることは、
もう二度とない。
==================
「じゃあ、仕事行ってくるからな。」
今日も男は、まりさとれいむの口に
オレンジジュースと一緒にミキサーにかけたゆっくりフードを流し込み、
仕事へと出かける。
居間のテーブルの上、いつも出目金のでめ吉の金魚鉢が置かれていた場所に、
二匹は鎮座している。
外では雲一つ無い明るい青空が広がり、庭先で一匹の蝶が飛んでいる。
自分達の赤ちゃんの末路を知らされた後で、二匹は足を完全に焼き焦がされ、
もはや一歩たりとも這うことはできなくなっていた。
僅かに数センチだけ離して置かれている二匹だったが、
今の二匹にとって、その距離は無限と同義。
互いに寄り添ってすりすりをして慰め合う事もできない。
動く事ができなければ、どこかに体を打ちつけて餡子を吐いて死ぬことも許されない。
おうたを歌ったり、おしゃべりをしたくても、
歯も舌も無くなった口から出るのは、意味を為さない単なる空気の流れる音ばかり。
おたべなさいおたべなさいおたべなさいおたべなさいおたべなさいおたべなさい
何を思いついたのか、一時期、二匹は狂ったようにそう叫び続けていた。
いや、叫ぼうとしていた。
だが、口から発せられるのは、ほはふぇはひゃい、という奇声のみ。
二匹の身には、何も起こらなかった。
とてもゆっくりとした、可愛い赤ちゃんの声を聞く事は、もうできない。
もう一度、可愛い赤ちゃんを産みたくとも、既にその機能は失われた。
ヒラヒラと庭を舞っていた蝶が、
庭の隅の土に立てられた割り箸の先に止まり羽を休める。
そのすぐ隣には、色褪せ、薄汚れた赤い布が巻かれた、
もう一本の割り箸が立てられていた。
二匹の目が、その光景を映す事はない。
まりさとれいむには、何もない。
ただ一つのモノを除いて。
まりさとれいむの世界に与えられた、ただ一つのモノ。
それは、暗闇の中に浮かぶ、まりさとれいむの赤ちゃんが最期に見せた表情。
その世界で、まりさとれいむは、今日も生き続ける。
おわり
これまでに書いたもの
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 飼い主をクズ呼ばわりする連中は「ペットを家族と考えている人はバカじゃねw」って言ってるようなもんだね、わかるよ~
子ども頃から一緒にいる金魚はもう兄弟みたいなものなのに、ルールを破った奴に殺されて悲しく無いわけ無いだろ! -- 2018-01-02 17:49:40
- 作品自体はGJだと思う。ゆっくり剥製は素晴らしい!
↓×15 「カブトムシに蜜を~」の考えは間違っている。
言葉をある程度理解するゆっくりは犬など動物に近い。(知能は人間の子供くらいの設定が多い。)
知能に関しては、虫と同列にするのは違うでしょ?
※飼い主クズ発言している米もいくつかあるが、その理由くらい書け!
理由も書けないなんてゆっくり以下の餡子脳ども!ww -- 2018-01-02 17:40:28
- 最高! -- 2016-12-08 20:22:08
- ↓×13 これを聞くと一瞬だけ目をそらしていて園児が亡くなってしまった後全責任を負わされてどう
どうしよもなくなった保育士の話を思い出すなぁ。人には流石に大丈夫だろってと思ってるラインが
あるんだよなぁ。どんな人間にも存在する事だから俺は鬼威惨を責めれないやぁ。 -- 2016-01-26 17:56:24
- ↓↓どこがクズなんだよ…自分がとにかく大事にしてた物をたかが饅頭にこわされて… -- 2016-01-26 17:47:52
- 本当にゆっくりはクズだな -- 2016-01-04 00:32:40
- これ飼い主一番クズじゃん -- 2015-07-27 04:19:19
- いじめたいなぁ...女でこんなこと思ってる奴少ないと思うけど...精神的にいたぶりたいですね...反撃できないゆっくり見たら興奮します。変ですよね? -- 2014-08-07 21:31:36
- ゴミ饅頭を肉体的・精神的に甚振るのはすごく良いよぉ
すっきり~~~ -- 2013-10-29 22:39:03
- 一時の感情に任せて虐め殺すならともかくここまで時間かけてネチネチいたぶるのは流石にキチガイすぎて共感出来ないよ -- 2013-08-03 23:48:47
- 本とっ糞兄さんのgdgdした虐めにイライラするね~ 後まぬけ~ 殺したいね~ by.ゆ殺者 -- 2012-07-26 15:38:55
- クズSS 兄いさんをブッ殺して~ by.ゆ殺者 -- 2012-07-26 15:37:02
- 俺の望んでいた虐待ssだ
すっきり〜! -- 2012-05-04 00:56:24
- ↓↓詭弁くせえレスだなぁ -- 2012-04-22 01:19:29
- すっきりー!! -- 2011-02-12 20:26:46
- ↓その論法は通らないはず。
まりさたちはこれまでは言いつけを守っており、でめ吉に対して被害を及ぼすことは一度も無かった。そのため、飼い主はまりさ達を信用し、でめ吉のいる部屋での自由な行動を許した。
赤ゆが生まれてからは机に上がるのを禁止した。それもひとえに親であるまりさたちがやってはいけないことを理解し、赤れいむの抑止力として働くと信じたため。
それは、自分の目が届かない間でめ吉の管理責任を親たちに預けたということ。
結果信頼を裏切られる形になったが、飼い主の責任は親ゆの管理能力を見誤ったことのみに尽き、でめ吉の管理責任をゆっくりに転嫁しているとは言えない。これを責任転嫁と呼ぶのなら、例えれば、友人に単車を貸している時にその友人が鍵を付けっぱなしにして単車を盗まれた場合、全責任は盗難事件とは無関係の単車の持ち主にあり、友人に過失は全く無いと言っているようなもの。明らかにおかしく、筋が通っていない論法だ。
親ゆっくりはある程度高い知能を持ち、飼い主との取り決めについても理解しているため、基本的な部分は人間と変わらない。それを、取り決めどころか言葉さえ通じないカブトムシと混同して扱うのは悪質なこじつけか、書いた人の頭がよっぽど悪かったとしか言いようが無い。
ゆっくりごときに任せたほうが悪い、と思うかもしれないが、それも通らない。
この親ゆっくりは銀バッジである程度高い知能を持ち、加えて今まで取り決めを破らなかったことから、信頼される条件は十二分に満たしている。
これを信用するほうが悪いとするなら、例えれば、賃貸住宅の大家が今まで家賃をきっちり払い続けてきた入居者を、なんとなく来月は払わないかもしれないから、という理由で退去させようとするのが正しい姿勢ということになる。これも明らかにおかしく、筋が通らない。
まあ、何が言いたいかっていうと、でめ吉の死は9割方ゆっくりに責任があるはずだってことなんだ。 -- 2011-01-12 21:53:19
- ゆっくりの行動範囲にかけがえのないものを放置した奴が最もアホ。
例えれば、カブトムシの目の前に蜜を置いて食うなと釘を刺し、その後「俺の大事な蜜になんてことを」といって体罰をしているようなもの。
まりさ達を信用していたとも言えるが、だとしても管理責任を免れるものではなく、そこから目を逸らして全ての責任を転嫁しているのは滑稽である。 -- 2010-12-26 02:14:07
- 素敵でした!ゆっくりはでめきちさんの足元にも及ばないカス!
存在自体が悪なのでこういう制裁最高です!
素晴らしいアイディアと文章に読み入りました! -- 2010-11-11 01:46:09
- ゆっ!ゆっくりー!!
これめっちゃおもしれえ!マジパねえ!
これは本当に最高級の制裁でした!
ウソをついたとは言え基本的には
善良なゆっくりをジワジワと追いつめる・・・
最高にゆっくりできました!
長期間の制裁で心が折れたら希望を与えるという
心遣いが憎いですねw
お兄さんの趣味も多分に入っていそうですが
金魚の仇という大義名分がある以上は制裁で、
そのおかげで陰鬱さが緩和されています
大義名分は大事だねw
-- 2010-10-25 07:24:25
- なんだ、ただの虐待か。 -- 2010-10-19 18:39:37
最終更新:2009年10月27日 13:27