ふたば系ゆっくりいじめ 410 お尋ねゆっくり

お尋ねゆっくり 62KB


※完全な独自解釈で書かれています。
※虐待……なのか………?
※ひたすら長いです。
※『嘘つきゆっくり』~『仕返しゆっくり』をお読みになってからお読み下さい。






みょんは必死に丘を目指して跳ねていた。

石吹きの得意だったまりさ、チームの突撃隊長だったちぇん。
群れでも一、二を争う剣術の使い手と自他ともに認める自分を加え、このチームは群れでも最高の戦績を誇っていた。
群れが寝静まった頃を狙った夜襲を撃退し、追撃まで行って仕留めたれみりゃの数は三体以上。
実質この森では無敵のチーム『だった』。

森の奥に広がる、木々が密集して昼なお暗い陰鬱な秘境。
れみりゃの生息地でもあるため、ゆっくり達が滅多に足を踏み入れないここにみょんのチームは踏み込んだ。
この辺りは美味しい虫が数多く生息する。それが目的だった。
自惚れがあったのは認めよう。しかし油断はなかった。
れみりゃの生息地に踏み込んで油断する馬鹿は、あの群れに必要ない。

なのに、ああ、なのに!

腐葉土を掘り返してカブトムシの幼虫を探していた時、それは聞くに堪えない醜悪な唸り声と共に現れた。
獣臭を漂わせ、醜い巨体を覆い尽くす濃い枯草色の繊毛の合間からみょん達への悪意をたたえた眼を覗かせた化け物。
突然現れた名状し難きそれに度肝を抜かれつつも、みょん達は素早く迎撃態勢を整える。
ちぇんによる先制攻撃とまりさの石吹きで敵を牽制し、みょんが乾坤一擲の一撃を叩き込む。
かつてれみりゃ追撃の際に成体のれみりゃ二人を打ち倒した必勝の戦法は、

この怪物には全く通じなかった。

体当たりの為に高く跳ね上がったちぇんは、まだ空中に居るうちに怪物の突撃を喰らい、餡子を散らして爆ぜた。
口に含んだ石を吹き付けるためにぷくーっ!していたまりさはそのまま踏み潰された。
そして『はくろーけん』を構えていたみょんが、頼もしかった戦友の余りに呆気ない死に唖然とした一瞬の隙を突かれて跳ね飛ばされ……

みょん達のチームは、最初で最後の敗北を喫した。

跳ね飛ばされた衝撃で気を失っていたみょんが目覚めて最初に見た光景は、戦友の凄惨な死体と、それを貪る怪物の姿であった。
それを見るや否やみょんは戦友の遺体も何もかも全て投げ捨て、一目散に逃げ出した。
いっそ狂ってしまえたのなら、どんなにか楽だった事だろう。
しかしみょんは優秀であった。あの群れを構成する一員として、何より群れ最強の一角として、自らの成すべき事を理解していた。
あの化け物の事を群れに伝えねばならない。そして今度こそあの化け物を仕留めねばならない。
それこそが惨たらしい最期を遂げた戦友達への手向けだと、固く決意したその時。

背後から聞こえて来た恐るべき咆哮に、その決意は呆気なく崩壊する事になる。

振り返らなくても解る。
奴だ!奴が来たのだ!!
みょんが必死で駆け抜けた距離なぞ無駄だと嘲笑うかのように、全てを薙ぎ倒して突き進む足音。
冒涜的なその足音が近付く度、みょんの正気は鑢がけされたが如く磨り減って行く。
そして肩に吹き付けられる堪え難い臭気を纏った生暖かい風と、耳元から聞こえて来るあの忌まわしき唸り声に振り返ったみょんが最後に見たものは、
ぬらぬらと輝く牙と、視界を覆い尽くす怪物の顎であった。



『尋ね人ゆっくり』



山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。
夏の日差しも陰り、徐々に秋の気配を漂わせ始めた森を睨みつけるように一人のドスまりさが立っていた。
大きさは二メートルをようやく超えた所か。ドスとしては少々小柄ながらも、その眼光は年経た老獪なドスにも劣らぬ鋭さを見せている。

このドスは今年の春にドスになったばかりだ。
だが、このドスは他のドスとは少々異なる事情を持っていた。

それは、このドスまりさはドスの因子を一切持たずに生まれたドスであった、と言う事。

通常、ドスになるゆっくりは祖先にドスがいるのが常識である。
そうして受け継がれたドス因子がある日突然覚醒し、一晩にして巨大化を果たしドスになる。

しかしここである疑問が残る。
「ならば一番最初のドスはどうやってドスになったのか?」
その答えが、このドスまりさであった。

まりさは一切のドス因子を持たぬ餡統の生まれである。
しかし幼い頃に見た光景から、ゆっくりらしからぬ深い洞察力を得た彼女は何事も深く考える習慣を持っていた。
ゆっくりの体の大部分を占める餡子はただ詰まっている訳ではない。
それは食事を司る消化器官であり、運動を司る筋肉であり、栄養を蓄える血液であり、そして思考を司る頭脳でもある。
しかし餡子の量には限りがあるので、通常のゆっくりは大部分を筋肉と血液に割り振り、頭脳に値する部分を小さく押さえてしまう。
その為、俗に餡子脳と呼ばれるおつむが残念なゆっくりばかりになるのだ。
例外はぱちゅりー種だが、それも種が持つ持病の所為で運動に割り振る事が出来ないので、相対的に頭脳に割り振る部分が大きくなっているだけの事。
それとて知識を溜め込むだけで、それを有機的に組み合わせて思考するぱちゅりーなぞ居ない。
記憶と思考は似ているようで別物なのだ。
そして何よりゆっくりと言う種は『ゆっくりしたい』という欲求を優先させてしまう。
ゆっくりしたいが為に生存活動すら放棄すると言う、生物としては本末転倒な生態も、小さな頭脳が故の底の浅い思考が原因だ。
だがこのまりさは自己のゆっくりを優先しなかった。
自らが率いる群れを維持管理する為に常に思考し続け、常に狩りや群れの防衛の為に率先して戦い続けた。
そしてゆっくりの本能である『自分のゆっくり』すら犠牲にしてひたすら頭脳と力を追い求めた結果、体が餡子の量を増やすために大きくなったのだ。

ドスとは『自分のゆっくり』を犠牲にしてまでも『他人のゆっくり』の為に尽したものが辿り着く終着点なのである。
ゆっくり達が『ドスはゆっくりできる』とドスの元に集まるのは、この遠い記憶の残滓なのだ。

こういった努力による自己進化を遂げたドスはもういない。
最近のドスは皆先祖の因子が何らかの理由で覚醒したものだ。
当然ドスになる覚悟もドスとしての使命も何も知らない。
故に強大な身体能力に任せて欲望を満たし、ゲスに堕ちて自滅する個体が後を絶たないのだ。

しかしこのドスまりさは違う。
原初のドスまりさと同じく、不断の努力から自己進化を遂げたまりさは慢心とは程遠い。
まりさは去年の秋の終わりに、それまで群れの長であったぱちゅりーを追放して長になった。
それはすなわち群れの歴史がリセットされた事を意味する。
一から群れを立て直す為には、いちいち自惚れている暇などありはしない。

だがそれ以上にこの群れが特殊であるのは『大人が居ない』、その一点に尽きる。
まりさが長になった時、群れに居たのは少数の成体ゆっくりと大量の成人直前の子ゆっくりのみ。
彼女達を養い、導くべき親は二年前に全滅している。
生きる為の知識自体は『がっこう』での教育もあってかろうじて身に付いていたものの、圧倒的に経験が足りない。
しかもこの群れのゆっくり達は皆かなりの実力者であり、れみりゃとも交戦できる個体もちらほら居る。
それ故自信過剰に陥り、調子に乗るものも少なくない。

はっきり言えば『井の中の蛙』の集合体なのである。
世の中を知らないのはドスまりさも同様ではあるが、それでも自分達の実力を過信しない程度の洞察は出来ていた。
何かと暴走しようとする群れを押さえる為に奔走するまりさが更なる力を望み、ドスに進化したのはある意味当然と言える。

ドスまりさは森を凝視したまま溜め息を吐く。
森の奥地へ狩りに向かったチームが昨日から戻ってこないのだ。
この秋でクーデターから丸一年が経とうとしている。
子ゆっくりが成体になり、家庭を持って子供を作るようになって、群れはようやく立ち直ったかに見えた。
そして今になって、この群れの問題点である経験不足が浮き彫りになり始めたのだ。
比較的安全なゆっくりプレイスで育った群れのゆっくり達は、自分が獣達にとってご馳走である事を知らない。
その上れみりゃと言う天敵を打ち倒した実績が、彼女達の目を曇らせていた。
自分達はこの森で一番強い。増長した自意識のままに危険地帯へ踏み入り、帰らぬゆっくりになったものは既に二桁に入りつつある。
元々規模の小さな群れであった彼女達にとって、僅か十人前後とはいえ見逃せぬ被害だ。
そして今日もまた一つ、戻らぬゆっくりが出た事で被害者はさらに増えてしまった。

「ゆぅ……このままじゃ………」

決してこのドスまりさに人望が無い訳ではない。
むしろその逆であり、群れに居る全てのゆっくりから尊敬と憧れを集めている身である。
敬愛するドスの役に立ちたい。憧れのドスのように生きてみたい。
その一心で彼女達は無謀な挑戦を試みて、その命を散らしていたのだ。
だがそんな事をドスまりさは望んでいない。
何度も止めたものの、元は善意から生まれるもの。
どんなに言葉を尽くしても、どんなにきつく言い渡しても止め切れるものではない。
ドスへの敬愛と憧憬が、皮肉にもドスが望まない方向へ群れを運んでしまったのである。
一度は危険地帯へ向かうゆっくりを閉じ込めるなどの強硬策をとったりしたが、そうすると今度は内緒で抜け出すものが現れる始末。
群れのゆっくり口が増加傾向にあるとはいえ、文字通りゆっくりとした勢いでしかない。
このままでは群れが維持できなくなる事は必至だろう。

頭の痛い問題に悩みながら、ドスは帰ってこないゆっくり達を待ち続ける。
日が沈み、あたりが薄暗くなっても動かないドスの元へ、一人のまりさが歩み寄る。
縒れ縒れの帽子の下にある筈の左目は抉られて、大きな傷跡を残している。
この群れの補佐を務めるまりさであった。

「……おさ、もうかえろう。こんなじかんになってももどってこないんだから、あのこたちはもう……」
「……うん、解ってる。……心配かけてご免ね、まりさ」

傷まりさに促され、ドスはその巨体を翻してお家に向かう。
その背中がかすかに震えているのを見て、目を伏せるように俯いた傷まりさは、悲しみを振り払うように二、三回体を震わせ、ドスの後を追った。

ドスのお家はかつて『がっこう』として使っていた洞窟である。
流石にドスの大きさに合うお家を一から造る事は難しかったので、群れがドスのお家兼役場として使う事を決めたのだ。
入り口を塞いでいた倒木をドススパークでなぎ払い、出入りを容易にしたお家でドスは傷まりさと今後の相談をする。

「……今日の子達を含めるともう十二人も居なくなっちゃったよ。春に生まれた子供達は四十六人だからまだご飯には余裕があるけれど……」
「このままじゃふゆごもりのためのごはんをあつめるおとながすくなくなるね。……もんだいは、そこじゃないけれど」
「……うん、そうなんだよ。今日帰ってこなかった子達も、れみりゃをやっつけた事がある子達だった。このままだと、最悪の事態になっちゃうよ……」

ドスまりさと傷まりさが最も恐れる事。
それは『人間さんに復讐しようとするゆっくりが現れる』ことだった。
ドスも、傷まりさも人間を見た事は無い。が、二百を超える大軍をたった一日で皆殺しにしたらしい人間と敵対するつもりは毛頭なかった。
ドスが居るうちはまだ良い。だがドスとてゆっくりだ。いつ何時何が起こるか解らない。
今はまだ押さえられているが、ドスが居なくなれば群れは簡単に増長し、人間との戦端を開こうとするだろう。
なまじ実力があるだけに、今から矯正を行うのは難しい。
実際に痛い目を見ればそこはゆっくりの事、二度と人間に近付こうとはするまいが、そうなるまでにどれだけの被害が出るのか想像もつかない。
しかも喉元過ぎれば何とやらでまた同じ事を繰り返す可能性も捨て切れない。

「……これは参ったね。まりさだけじゃどうにも出来ないよ。これじゃあ、いつまで経っても人間さんと仲直りできないね……」
「……あかちゃんのきょういくがうまくいったのだけがおんのじだね。あかちゃんたちにあのおはなしをするのって、そのためなんだよね?」

ドスには夢があった。
いつかの丘で聞かされた昔話。
仲良く暮らしていた人間とゆっくりが、たった一匹のゆっくりの所為で互いに殺し合う程の仲違いをしてしまったあのお話。
もう一度人間さんと仲直りして、お互い仲良く暮らしたい。昔のように人間さんをゆっくりさせてあげたい。
そうすればお野菜もあまあまも食べられる。冬の厳しさに怯える事も、食糧不足で飢える事も無く、皆安心して暮らして行ける。
人間とゆっくりが互いに手を取り合う理想郷の建設。
今の所、丘に開いた青空教室にてあのれいむのお話を聞かせ、赤ちゃん達にその思想を励起させる段階ではあるが、ドスはそれを最終目標にしていた。
まだまだ時間は掛かるだろうが、いつかはやり遂げて見せる。
その為には今の危機を乗り越える他無いのだ。

「……まりさはむずかしいことはわからないけれど、おさがやろうとしているのはいいことだってわかるよ。たぶん、みんなもわかってくれるはずだよ」

傷まりさはそう言ってドスを慰める。
今やこの群れで最年長となった傷まりさはこの群れの中で唯一森でのサバイバル経験を持ち、効果的な狩りや天候の変化を察知するような実地的な分野においては長をも上回る。
獣達の恐ろしさ、雨や雪と言った自然の脅威、そして同じゆっくりでさえ時には自らを脅かす敵となりうる事。
頭でっかちの群れのゆっくり達とは違い、知識ではなく経験でそれらを知るが故に長に請われ、群れの長老に治まったのだ。

傷まりさは昔話の詳細を知らない。『おめめえぐりのけい』を受けて追放されたのは以前の長の、さらに先代の頃であったし、その後は生きる事で精一杯であったから。
知能も普通のゆっくりに準じるため、難解な事は餡子が拒否してしまう。
ドスまりさの夢は傷まりさには殆ど理解できなかったが、ドスが夢の実現に向けて頑張っている事は理解できる。
この群れだけでなく、傷まりさにとっても恩人であるドスの夢だ。何とか実現してやりたい。
しかし傷まりさでは力になれない。彼女の貧弱な餡子脳ではドスの夢どころか、今現在の群れの問題すら解決できない。
傷まりさにはドスを励ますぐらいしか出来ないのだ。

(ゆうぅ……まりさじゃおさのやくにたてないよ……どうしたらいいんだろう……?)

夢への道程が余りにも厳しい事に落ち込むドスと、もどかしい思いを抱えた傷まりさが眠りに付いたのは夜も更け切ってからだった。



山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘の天辺で、二人のゆっくりが激しく言い争っている。
片方は普通より色鮮やかなお飾りのれいむ。まりさは知っている、その持ち主のゆっくりできるお歌が大好きだったから。
片方は何やら偉そうなぱちゅりー。こいつも知っている、その憎たらしい顔に心の中で何度も枝を突き立てる程大嫌いだったから。

(ああ、これは……)

まりさは不意に気付く、これはあの時、れいむがぱちゅりーに殺された時の光景なのだと。

「だから!にんげんさんとけんかするのはいけないんだよ!おおむかしのゆっくりがうそをついたから!
そんなおおうそにだまされちゃったから!にんげんさんはゆっくりをゆるしてくれないんだよ!!」
「むきゅっ!だから、ぱちぇはそんなおはなししらないっていってるでしょ!!
だいたいそんなおおうそにだまされるほど、ぱちぇのごせんぞはおばかじゃないわ!!」

「それは、だまされなかったかしこいゆっくりがみんなおやまさんににげちゃったからだよ!
れいむたちのごせんぞはみんなうそをしんじたおばかさんだったんだよ!!!」
「むきゅうぅぅぅぅっ!!ぱちぇのごせんぞをばかにしたわね!!」

徐々にヒートアップして行く口論に、周りを取り巻く群れのゆっくり達にもざわめきが広がっていく。

「この、うそつき!」

そうして、れいむの運命を決定付けた一言が聞こえた次の瞬間、まりさの意識は覚醒した。



暦の上では既に秋とはいえ、季節的にはまだまだ夏であることを実感できそうな日差しが丘を照らす。
日除けのため、大木の影に場所を移した『がっこう』で教鞭を振るうぱちゅりーの姿を眺めつつ、ドスまりさは昨晩の夢を思い返していた。

(………れいむお姉ちゃん…………あんな事言ってたんだっけ……忘れてたよ………)

ドスまりさがあのお話を聞いたのは赤ちゃんの頃。重要な部分はともかく、細かい所は流石に記憶が薄れている。

「……賢いゆっくりかぁ…………今でもお山に住んでるのかな?」

思わず口に出してみるが、そんな筈は無いと心の中で否定する。
あのお話がどれくらい昔の事なのかは知らないが、少なくともゆっくりが完全に世代交代する程度には昔の出来事の筈だ。
どんなに優秀なゆっくりとて、その子孫まで優秀とは限らない。かつてこの群れを率いていたぱちゅりーのように。
ましてお山はゆっくりにとって鬼門とさえ言える難所だ。
食糧の豊富な森と違い、まばらに生える高山植物と羽虫程度のご飯だけでは生きて行く事は難しかろう。
おまけに冬の厳しさが段違いだ。
この辺りの雪でさえゆっくりの身長を超す程度には積もると言うのに、お山を真っ白に染める程の雪なんてどれだけの量になるのか、見当もつかない。

だが、もしもそれだけの悪条件の中を生き抜ける程の賢さを持っていたのなら?

「そんなゆっくりなら、まりさ達にどうすれば良いのか教えてくれるのかなぁ……?」

しかしそれは有り得ない話だ。
仮にそんなゆっくり達が居たとしても、どこに居るのか解らないゆっくりを探し出すなぞ自殺行為にしかならない。
お山は広い。森なんて問題にならないくらいに広い。
何より険しい山道を歩くのには、ゆっくりのあんよは適さない。
あんよが破けて動けなくなり、痛みに泣き叫んで自ら呼び寄せた山の獣達の餌になるのがオチだ。

「やっぱり駄目だよねぇ…………危ないし、居るかどうかすら解らないんだから……はぁ…………」

ドスは最近癖になりつつある溜め息を吐き、重たい腰を持ち上げた。
今日は『がっこう』で狩りの実習がある。狩り場の安全は確認したが、万一に備えて群れの最強戦力であるドスが控えていた方が良い。

「みんなー、ぱちゅりー先生とまりさの言う事を良く聞いてねー!」
「「「「「「「「「「ゆっくりわかったよ!おさ!!」」」」」」」」」」
「はーい、じゃあ狩り場へ移動するよー!まりさと先生の後に付いて来てねー!!」

そういってぱちゅりーをお帽子に乗せ、ドスまりさは子供達の早さに合わせてゆっくりと進み出す。
その後を必死になって付いて行く子供達を見守りながら殿を務める傷まりさ。
微笑ましい群れのいつもの光景がそこにはあった。



何かを決意した傷まりさの表情を除けば、だったが。



無事に実習を終え、子供達がそれぞれのお家に帰り着いた事を確認して、ドスまりさもお家へ足を向けた。
子供達は素直ないい子に育ってくれている。教育の成果はまだ現れていないが、この様子なら案外上手くいくかも知れない。
今日は狩りに出たチームが全員無事に帰って来ている。いつもより多めに獲れたと喜んでいた。
集まったご飯の余剰分は保存用に加工を始めているし、この調子なら冬籠りの準備は早く済むかも知れない。
頭の痛い事が続く中で、ほんの少しだけ展望が開けて来た事に希望を抱きながら洞窟に向かい、ドスはお家の前に佇む人影に気付いて足を止めた。

「……ゆ?まりさ、どうしたの?」

そこに居たのは思い詰めた表情をした傷まりさであった。
ドスの呼び掛けに、傷まりさは俯いていた顔を上げ、ドスに宣言した。

「……ねえ、おさ。まりさはかしこいゆっくりをさがしに、おやまにいってくるよ」
「え?………!!!駄目だよ!!お山になんか行ったらいくらまりさでも許さないからね!!」

傷まりさの言葉が一瞬理解できなかったドスまりさだが、それが昼間の独り言を指している事に気付いて慌てて引き止める。
あんな曖昧な可能性の為に長老を失う事にでもなれば、群れは増々ゆっくり出来なくなってしまう。
それだけは何としても避けたかった。

「……まりさはおばかだから、おさのやくにはたてないよ。でも、むれのみんなよりおそとのことはしってるよ。
おやまのこともしってるから、ほかのこたちがさがしにいくより、まりさがいくほうがいいよ。
みんなにはまりさがしってること、ぜんぶおしえてあげたから、もうまりさができることはのこってないよ。
だから、さいごにむれのやくにたてるなら、まりさはうれしいんだよ」
「違うよ!まりさは役立たずなんかじゃない!!まりさがドスになれたのだって、まりさが手伝ってくれたからだよ!!
それに今まりさまで居なくなっちゃったら、皆がゆっくり出来なくなっちゃうよ!!」

いっそ清々しい程に覚悟を決めた表情の傷まりさを何とか思いとどまらせようと、ドスまりさが必死に説得する。
しかし、どんなに言葉を尽くしても傷まりさの決心を翻す事は叶わなかった。

「………どうしても行きたいの?どこに居るかも解らない、それ所か本当に居るかどうかすら解らないゆっくり達を探しに?」

数え切れない問答の末、傷まりさの説得が不可能である事を悟ったドスが、確認するように尋ねてくる言葉に、傷まりさは大きく頷いた。

「……解ったよ。どのみち今のままじゃジリ貧なのは変わらないしね。だったら可能性が少なくても欠ける価値はあるかも知れない」

ドスの言葉に目を輝かせる傷まりさだが、続く一言に目を剥いた。

「ただし!まりさも付いて行くよ。じゃ無ければ行っちゃ駄目だよ!」
「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!!な゛に゛い゛っ゛でる゛の゛お゛お゛お゛お゛!!」

完全に予想外の言葉にパニックになる傷まりさに、ドスは自分の考えを披露する。

お山は広い。当ても無く探していてはまず見つからないだろう。
ならば本格的に捜索隊を組み、皆で手分けして探した方が効率が良い。
幸い今は夏が終わったばかり。お山もまだ過ごしやすい季節だ。
遠出の狩りも兼ねるなら、仮に見つからなかったとしても群れの益にはなるだろう。
チーム毎の人数を増やして普段より厚めの布陣で臨むなら、危険も多少は減る筈だ。
何より、ドスが出向く事で山の獣達への牽制には十分な効果がある。
二メートルに届く巨体はそれだけで脅威になるし、たとえ出くわしたとしても、ドススパークと言う必殺技があるので対抗は可能だ。
むしろ飛び道具であるドススバークなら間合いの外から攻撃が出来る。体当たりが精々のゆっくり達だけではこうは行かない。
群れの最精鋭を揃えて傷まりさが指揮を取り、後詰めにドスまりさを配置して秋が終わる前に丘へ帰還する。

いかにもドスらしい堅実な計画である。確かにこれなら安全に、かつ効率的に捜索が可能だろう。
だが傷まりさはその提案を受け入れられない。
元々お山のゆっくり探しはドスの思い付きに近い。それも実現不可能な妄想と言って良いものである事ぐらい、傷まりさの餡子脳でも理解できる。
それでも尚探しに行くのは傷まりさの我侭であった。

傷まりさが今の地位に就いているのは、この群れで最も高いサバイバビリティを持っていたからである。
絶え間ない努力の果てに、遂にドスにまで至った長を支えるには力不足だった。
後進の若者達が頼もしく成長した今、自分が長の補佐である理由は無い。傷まりさはそう考えていた。
そして昼間たまたま聞いたドスの独り言に、傷まりさは最後の花道を見出した。

つまり、この探索は傷まりさの自殺に近いものなのだ。
なのに群れの皆はおろか、ドスまで着いて来てしまっては本末転倒にも程がある。
さっきまでとは逆に、今度は傷まりさが慌ててドスを説得にかかった。

「だ、だめだよおさ!!ふゆのごはんはどうするの!?むれのみんなをだれがまもるの!?」
「冬籠りのご飯を集めるついでだよ。山に向かう途中でも集めれば、ここで集めるよりもっと沢山捕れるかも知れないしね。
遠くへ行くから、連れて行く子はまりさが多くなると思う。その分みょんやちぇんを残して、まりさ達がいない間群れを守ってもらうよ。
ご飯は……まだ心配する程じゃないよ。丘の周りの森だってご飯は沢山あるし、近くなられいむやありすでも狩りは出来るから、食べる分には充分だよ」

ドスまりさはそこまで言うと、言葉を切って傷まりさを見据える。

「……それに、今のまりさはなんだかゆっくり出来ないよ。何かゆっくり出来ない事をする気なんだね?」
「……!」

ドスに内心を見透かされ、傷まりさは返答に詰まる。
その様子に自分の直感が正しかった事を確信したドスまりさが、一瞬だけ自らの髪を飾る二つの赤いカチューシャへ目をやり、
噛み締めるように傷まりさへ言い聞かせた。

「……ねえ、まりさ。まりさはもう、お友達に死んでほしくないよ。そんなの嫌だよ。
ありす達が死んじゃった時、まりさはとっても悲しかった。あの時と同じ思いはもうしたくないよ……」

傷まりさに必死に訴えるドスまりさ。その目元にはドスになって以来流していなかった涙が溜まっている。
今までの会話で傷まりさの本心に気付いたドスは、あえて群れごと動かす事で生きて帰れるようにしたのである。
傷まりさを失ってはこの群れは立ち行かない。何よりドスにとって傷まりさは元年長組に次ぐ古い友人だ。
これ以上、ドスまりさは友人を失いたくは無かった。



今年の春、雪融け間もない頃に小さな地震が起きた。
極々小さなそれは、丘に暮らすゆっくり達に何ら影響を及ぼすものではなかった。
本来なら。
時期が悪すぎた。いくつもの不幸な偶然が重なった事故だった。

クーデター後、長になったまりさは今までの掟を継承する事を決め、群れに宣言した。

「みんなまだすっきりー!はしちゃだめだよ!はるさんがくるまでまってね!」

群れの大部分を占めていた子ゆっくり達は素直に聞き入れた。
成人直前とはいえ、まだ独り立ちはしていない。赤ちゃんを作るには時期早々であることは解っている。
だが既に成人して独り立ちしていたゆっくり達は、特に元年長組のありす達は不満であった。
ほぼ一年間禁欲を続けていたのである。いろいろ溜まっていたのだから当然だ。
しかし尊敬する長の言葉だ。従わない訳が無い。ありす達はそのまま冬籠りに入り……
春を迎えた矢先に地震に遭った。
長い禁欲から解放されたばかりのありす達にはひとたまりも無かった。

ドスに成り立てでいっぱいいっぱいだったまりさが気付いた時には、事態は最悪の結末を迎えていた。
レイパー被害で死んだゆっくりこそ一桁で済んだが、ありす達には何の慰めにもならなかった。
ドスまりさは一生懸命ありすを説得した。ありすは悪くない、気付かなかった自分が悪かったんだ、気にする事はない、等々。
そしてありすが少しだけ微笑みを見せ、これで大丈夫だと安心して目を離したその晩に……

ありす達はそろって小川に身を投げた。

夜中に響いた水音に気付いたゆっくりは居なかった。



小川の畔に揃えて置かれていた二つの赤いカチューシャは今、ドスまりさの髪に飾られている。
あのとき、僅かでも目を離していなければこのお飾りは今でもありすの髪にあった筈だ。
いや、そもそも自分がすっきりー!禁止を言い渡さねば、ありす達がレイパーになるのを防げたのではないか?
カチューシャが目に入る度、ドスの心中に苦い後悔が浮かんでくる。
これだけではない。
れみりゃに挑んで散って行ったみょんや、狩りの最中に不慮の事故で死んだまりさ、赤ちゃんの命と引き換えに永眠したれいむ。
群れのゆっくり達が犠牲になる度、形見のお飾りは増えて行く。

本来、群れの仲間達から預けられるお飾りは信頼の証なのだが、ドスまりさのお飾りは違う。
共に苦境を乗り越えて来た仲間を助けられなかった後悔、死地に向かう子達を止め切れなかった無念。
死臭すら漂わせるお飾りを敢えて身に付け、ドスはお飾りの持ち主達をずっと偲び続ける。
即ちこのお飾りは、ゆっくり達の墓標なのだ。そこに新たな墓標を加えるつもりなぞ、ドスには無かった。

ドスの眦から一筋の涙が流れていく。それを見た傷まりさはドスの説得が不可能である事を悟らざるを得なかった。

「……わかったよ、おさ。みんなでおやまにいこう」
「……うん、それじゃあ明日皆に話そうね。誰を連れて行くかはこれから決めようね」

そう言って傷まりさをお家へ入るよう促すドス。こっそり抜け出して一人でお山に行こうとするのを防ぐ為だ。
傷まりさもドスにここまでされればおとなしく従う他無い。溜め息を一つ付き、促されるままにお家へ入る。
その後を塞ぐようにドスが続く。
そのまま夜は更けて行った。



結論から言えば、ドスはお山に向かう事自体を止めるべきだった。
ドス自身がこの探索に淡い希望を持っていた事が、その選択を選ばせなかった原因だろう。
全てが終わった時、ドスまりさはこの決断を死ぬまで後悔する事になる。



翌朝、丘に集まった群れのゆっくり達にお山の探索に向かう事を告げる。
反応は様々であった。
まりさやちぇん、みょん等の活動的なグループは真っ先に賛成、対してぱちゅりー達のようなインテリ派は慎重論を述べた。

「まりさたちならおやまでもへいきなんだぜ!まかせるんだぜ!」
「どんなあいてでもみょんの『はくろーけん』でいっぱつ!だみょん!」
「みんなでたくさんかりをしてくるんだねー!わかるよー!」

「むっきゅっ!ふゆごもりのまえにみんないなくなったら、ごはんをあつめられなくなるわ!」
「おやまはゆっくりできないのよ!そんなおりこうなゆっくりがほんとうにいるの?」
「おちびちゃんたちをおいていけないよ!みんながいないあいだになにかあったらどうするの!?」

喧々諤々、賛成派と慎重派の意見の対立は収まる事を知らず、丘は増々混迷して行く。
それを止めたのは、ドスまりさの言葉であった。

「皆のお話はよく解ったよ!でも、このままじゃ群れの皆がゆっくり出来なくなるかも知れないんだよ!
だから余裕がある今のうちに解決策を探さないといけないんだよ!!」

まさに鶴の一声。
慎重派もドスが決めた事に反対している訳ではないし、賛成派も群れの安全は気にかかる。
そこでドスは昨晩傷まりさと話し合って決めた編成を発表した。

「まずはお帽子を持ったまりさ達を三つに分けるよ!二つはまりさに着いて来てね!残ったまりさは群れのご飯を集めてね!
みょんとちぇんは二つに分かれてね!片方は群れに残って皆を守ってあげてね!もう片方はお山に行くよ!
おちびちゃんの事はぱちゅりーとれいむに任せるよ!ありすは二つに分かれてぱちゅりー達とまりさ達のお手伝いをしてあげて!」

帽子と言う大量輸送が可能なお飾りを持つまりさを中心とした編成である。
ちぇんとみょんを半分残すのは、この時期の獣達がゆっくりしない事を知っている傷まりさの提言によるものだ。

群れにはぱちゅりーとれいむ、そしてありすを置いて行く。
基本ありすは活動的な種ではないが、レイパー化した際の身体能力が示すように通常種中一、二を争う潜在能力を誇る。
ましてこの群れのありすだ。いざとなれば並のゆっくりでは歯が立たない事でもやり遂げてみせるだろう。
まりさ達のサポートなら充分に過ぎる。

「冬が来る前に帰ってこないといけないから、森の葉っぱさんが真っ赤になったら引き返すよ!
それまでにまりさ達が帰ってこなかったら、群れの事はれいむとぱちゅりーに任せるからね!!」
「むきゅううぅぅぅぅっ!?なんてこというの、おさ!?」
「ぜったいかえってきてね!おかあさんたちみたいにいなくならないでね!?ぜったいだよ!!」

不吉な事を言うドスに憤慨するぱちゅりーと、かつての記憶が甦り涙ながらに懇願するれいむ。
ドスまりさもこの探索で死ぬつもりは無いが、大規模な遠征はこれが初めてだ。備えは万全にしておく必要がある。
泣き縋る元年長組の二人を宥め、捜索隊に抜擢された精鋭達に向かい、ドスは高らかに宣言した。

「皆、用意はいいね?それじゃ、お山に向けて出発するよ!」
「「「「「「「「「「えいえいゆー!!!」」」」」」」」」」

「がんばってねぇぇぇぇえええ!まりさぁぁぁぁあああああっ!!」
「「「「「おとぉぉおさぁぁぁぁあああん!かならずかえってきてねぇぇぇぇっ!!」」」」」
「どすぅぅぅぅぅっ!あとはまかせるんだぜぇぇぇええええ!!」
「ちぇぇぇぇぇえんっ!きをつけてねぇぇぇぇぇえええ!!」
「ちぃぃぃぃいいんぽぉぉぉぉぉっ!!」

残された群れの仲間達から盛大な見送りを受け、捜索隊は丘を出発した。



季節は秋の入り口、たわわに実った木の実や果物、そして木の根元に沢山生えた茸は道中の捜索隊の目を輝かせた。

「ゆっ!おいしそうなくだものさんがあるんだぜ!どすにとってもらうんだぜ!」
「果物さんは傷みやすいから駄目だよ!それより長持ちする木の実さんを沢山集めてね!!」

「ちょうろう!おいしそうなきのこさんをみつけたんだよー!」
「それはたべられないきのこさんだよ!がっこうでならったよね!?」

「これはいい『ろーかんけん』になりそうなきのえだだみょん!」
「そんな長い枝は持ち歩けないよ!もっと短くて丈夫な枝を見つけてね!」

いくら実力者揃いとはいえ、殆ど縄張りから外れた事のない者が多い群れだ。
初めて見る森の景色に皆大はしゃぎしてドスや傷まりさに嗜められる。
普段口を酸っぱくして注意を促していた事柄ばかりではあるが、こうして実体験すれば覚えも早い。
この探索が実地訓練的な効果をもたらしてくれた事に、自分の我侭に皆を巻き込んだ事に気後れしていた傷まりさは安堵する。
それはドスも同様だった。
元々自分の軽口が原因だった事もあり、気後れと言う点に置いては傷まりさ以上のものを抱えていたのだから。

(ここに来て良かったよ。ご飯も沢山集まりそうだし、お山の天気もいいから、この調子なら無事に帰れるね)

内心で一人ごち、ドスまりさは徐々にきつくなって来た上り坂を見上げる。
その視線の先には森の木々がない。ここは山と森の境目、ここから先は今まで経験した事がない程厳しい道程になるだろう。
これからを思い気を引き締めるドスに、傷まりさが進言する。

「おさ、ここにおうちをつくろうよ。ここではんぶんのこたちにかりをしてもらって、はんぶんのこたちでおやまをさがそう。
くらくなるまえにここにかえってきて、あかるくなったらこうたいでおやまをさがせば、つかれにくいし、あんぜんだよ」

傷まりさの提案を、ドスは吟味する。
ベースキャンプを作って捜索隊を二つに分け、交代で狩りを兼ねた休息を取らせながら捜索を行う。
成る程、それなら効率的だろう。だがそれは長期に見た場合の話、ドスは短期決戦の心積もりでこの捜索に臨んでいる。
元々あまり期待はしていないのだ。ここに根付いてだらだらと探すより、さっさと探して帰るべきだろう。

「うーん、それだと時間が掛かっちゃうよ。森が赤くなる前に帰りたいから、皆で探した方がいいよ」
「でもれみりゃはともかく、くまさんやいのししさんがいたらみんなあぶないよ?」
「それは大丈夫だよ。まりさがいれば動物さんは熊さんと勘違いしてくれるし、熊さんだって自分より大きな動物は襲わないんでしょ?
もしも襲って来てもドススパークで威嚇すれば引き返してくれる筈だよ。それより早く帰らないと冬になっちゃうからね。そっちの方が心配だよ」

ドスの反論を傷まりさも吟味する。
確かに捜索隊は数がいないし、それを分ければ時間も相当取られるだろう。
お山の天気は崩れやすい。それを考えれば素早く目的を達成して帰った方が良いかも知れない。

「ゆう……それもそうだね。じゃあ、きょうはここでおやすみしようよ。あした、あかるくなってからさがしはじめよう」
「そうだね、そうしようか」

そして捜索隊はここで一泊する事になった。
木の枝と葉っぱを集めて山にする。この中に潜って寝るのだ。
ここに居着く訳ではないのでお家を掘ったりする必要は無い。後は見張りを立てておけば緊急の事態にも対応できる。
野営の準備が揃った頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

「それじゃ見張りの子以外はお休みしててね!まりさも見張ってるから安心してね!」

長の言葉にそれぞれ葉っぱに潜り、すぐ寝息を立て始める捜索隊のメンバー達。何だかんだ言って初の遠征に皆疲れていたのだ。
そしてそれは見張りをしていたゆっくり達と、ドスまりさにも当て嵌まっていた。

深夜にもなれば、見張りをしていたゆっくり達にも睡魔が襲いかかる。
捜索隊に選ばれる程のゆっくりだ。見張りの重要性なぞ百も承知ではあるが、疲労も溜まった状態での眠気は如何ともし難い。
一人、また一人と夢の世界に旅立つ中、ドスまりさは必死に眠気と戦っていた。

(…………ゆ……ゆぅ……………眠いよ………………でも、今寝たら………………皆が………………)

抗い難い眠気と、捨てるわけにはいかない責任感の狭間でもがき苦しむドスまりさ。
そして葛藤の軍配は睡魔に上がり、ドスの意識は急速に暗闇へ落ちて行く。
最後に何を思う間もなく、ドスもまた夢の世界に旅立って行った。



「……ゃ…………ゅ………………ょ…………」

(………うるさいなぁ………眠れないよ……………)

「……ゃ……じゃな……………わがらな………!……」

(……ゆん?なんだか様子が変だよ?………)

「……たす…………おさ………い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!」

(!いけない、見張りは!?まさか!?!?)

耳を劈く悲鳴に、ドスまりさは夢の世界から一気に現実に戻る。
そして見開いた目に飛び込んで来たものに、ドスは魂消るような悲鳴を上げた。

「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!み゛ん゛な゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」

そこに広がっていたのは地獄絵図であった。
まりさが、みょんが、ちぇんが。
ドスが育てて来た精鋭達が、毛むくじゃらの何かに貪り食われていた。

ゆっくりは動く饅頭である。皮膚は小麦粉で出来ているし、中身は餡子やチョコレートだ。
そんなものが固まって甘い匂いを漂わせていれば、空きっ腹を抱えたそれに狙われるのは当然であろう。
まりさ達を襲っていたものの正体、それは山を縄張りにしていた野犬の群れであった。

「み゛ん゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!い゛ま゛だずげであ゛げる゛がら゛ね゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

現在進行形で食われて行く仲間達の元へ駆けつけるドス。二メートルを越す巨体が跳ね飛び、芯に響く轟音を立てて着地する。
それは野犬を怖じ気付かせるのには充分であった。
獲物を放り出し、悲鳴を上げながら山へ逃げ込んで行く野犬。

「ま゛でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!に゛げる゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
よ゛ぐも゛!よ゛ぐも゛み゛ん゛な゛を゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」
「……まっ…………て……おさ………」

体を突き動かす怒気に駆られ、夜の闇に散って行く野犬達を追いかけようとするドスに、か細い制止の声が掛かる。
慌てて振り返ったドスの視線の先にいたのは、体を半分喰い千切られた傷まりさの姿であった。

「ば゛り゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!ばり゛ざじっ゛がり゛じでえ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」

半狂乱で駆け寄るドスに、傷まりさは「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛……」と断末魔の痙攣を起こしながらも微笑んでみせた。

「…………こめんね……おさ…………まりさの……………せい……で…………みんな………ゆっくり……できなく………なっ……ちゃっ………た………よ……」
「違うよ!まりさが居眠りしちゃったから!皆を守れなかったから!!皆をここに連れて来たから!!!」
「……せ…っ…………かく…………おさ………が………やめ…………よう………って……いって………くれた……………の……に…………
………いう……こと……………きかな…………った………まりさ…………が…………わる………………い………ん……………だ………よ……………」

傷まりさの声から段々と力が失われていく。己の最後を悟った傷まりさは、最後の力を振り絞ってドスに告げた。

「………あり…………が………と……………まりさ…………ご………あい……さつ…………うれ……し……………かっ……………………た………………」

あの時、まだ子供だったドスと初めて出会ったあの時、片目を無くした自分に掛けられた「ゆっくりしていってね!」の一言。
たったそれだけが、傷ついた体と心にどれだけ暖かく染み込んだ事か。
あの言葉のお礼には自分の命は軽すぎる。まして自分の我侭の所為で仲間達が死んだのだ。憎まれて当然だろう、
だが、それでも傷まりさはドスに伝えたかった。

感謝の言葉を。

思いの丈を込めた言葉を紡ぎきり、傷まりさの目から光が失われていく。
痙攣も止み、最早ピクリとも動かない傷まりさの姿に、ドスはまた一つ大切なものを失った事を知った。

「ばでぃ゛ざぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」

慟哭は夜が明けるまで途切れる事は無かった。



捜索隊の構成員二十四名中、長老を含むまりさ五名とみょん三名、ちぇん一名が死亡。
野犬の群れに襲われた割に被害が少なかったのは、傷まりさが必死に抵抗してくれたお陰であると生き残ったまりさが証言した。
朝になり、捜索隊の現状を確認したドスまりさは即座に撤収を決めた。
九人もの犠牲者を出してまで望みの薄い捜索活動を続けるつもりは無い。まして傷まりさまで失ったのだ。これ以上は無意味であった。

「ごめんね皆………まりさの所為で沢山の子が死んじゃった……………これ以上はもう駄目だよ。丘に帰ろう?」

増やすつもりの無かったお飾りを付けたドスが、泣き疲れて赤くなった目で探索の中止を告げる。
捜索隊からも反対の声は出なかった。
往路の意気揚々とした雰囲気とは真逆の葬列の如き復路の道中、すっかりふさぎ込んだドスを心配そうに見守るゆっくり達。
やがて重石のような空気に耐えられなくなったのか、一人のまりさが声を掛けた。

「げんきだすんだぜ、おさ!いつまでもそんなおかおじゃ、ちょうろうやまりさたちがうかばれないんだぜ!」

そう言ってドスを慰めたのは昨晩の襲撃で野犬と戦い生き延び、傷まりさの勇姿を証言したまりさだった。
傷まりさの最後の直弟子に当たる彼女の慰めに、ドスは力無く反論する。

「何言ってるの……長老や他の子たちが死んじゃったのはまりさの所為なんだよ?まりさがしっかりしてなかった所為で、皆死んじゃったんだよ……
まりさが、お山に行こうなんて言わなければ死ななかったんだよ…………全部、まりさが悪いんだよ…………」

だが、胸を引き裂くような悲しみに沈むドスの言葉にまりさは強く反発した。

「おさこそなにいってるんだぜ!ちょうろうも、みんなも、おやまはあぶないってわかってたんだぜ!
それでもむれのみんなのために、みんながんばっておやまにきたんだぜ!それなのにおさがあきらめてちゃだめなんだぜ!!」

もしも彼女達が普通のゆっくりならば「ゆっくりさせないどすはしね!」と自分達の事を棚に上げ、ひたすらドスに責任転嫁するだけだっただろう。
だがこの群れのゆっくり達は心の底からドスを尊敬している上、ここにいるのは遠征の為に選ばれた精鋭だ。
こんな失敗程度でドスを責め立てるようなゲスは存在しない。
それを物語るまりさの言葉に捜索隊の面々が一斉に頷く。が、続く発言が捜索隊の目の色を変えた。

「それに、あいつらはちょうろうたちのかたきなんだぜ!まりさたちのふいをうっておそってきたひきょうものなんだぜ!!
いまはむりでも、いつかみんなのかたきをうつんだぜ……ぜったい、ぜったいにやっつけてやるんだぜ!!!」

野犬達への憎しみを秘めた漆黒の殺意をたたえ、かつて長ぱちゅりーへ復讐を決意したドスと同じ表情でまりさは吼えた。
激情のままに放たれた言葉は徐々に捜索隊の餡子に染み込んでいく。
確かに、昨晩の襲撃は疲れ果てた所を狙われたからあんな被害を被ったのだ。れみりゃにすら勝てる自分達なら、不意打ちさえ無ければ負けなかった筈だ。
ましてこちらにはドスがいる。昨晩とて奴らはドスを見た途端逃げ出したではないか!
ならば勝てる、勝てるのだ。
復讐、自分達に最も馴染み深いその言葉。甘い毒のようなそれが次第に捜索隊の面々に広がっていくのを察知したドスは慌ててまりさを諌めた。

「ゆ゛っ゛!?駄目だよそんなの!!また昨日みたいな事になったら、今度こそ皆死んじゃうかも知れないんだよ!?」
「そうならないようにまたきたえなおすんだぜ!もっときたえてつよくなって、もういちどおやまにいくんだぜ!」

拙い。まりさの主張に「そーだ!そーだ!」と同調し始めた捜索隊を見て、ドスまりさはこの遠征が全く逆の効果を発揮し始めた事に今更ながらに気付いた。
元々この遠征の目的である賢いゆっくりを尋ねる理由も、こういった暴走を諌める方法を教えてもらう為のもの。
賢いゆっくりも見つからず、傷まりさを失い、優秀な子達を死なせてまで得たものが更なる暴走では本末転倒にも程がある。
しかし今言い聞かせる事は困難だろう。仲間を失った事で冷静さを失ったまりさ達をいくら諌めたとて、聞き入れてくれる可能性は限りなく低い。

「……ゆぅ……ゆっくり解ったよ。でも今は丘に帰る事を優先するよ。鍛えるのは春さんになってからにしようね」
「わかったんだぜ!おさ!」

結局ドスは問題を先送りにする事にした。今はとにかく丘へ帰還し、群れの皆に長老達の死を伝えねばならない。
それに時間が経てばまりさ達も冷静になるだろう。その時改めて説得すれば解ってくれる筈だ。
さらに増えた問題に内心頭を抱えながら、ドスは丘を目指して足を進めた。




「………これはどういう事!?一体何が起こったの!?」

山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘を見上げながら、ドスと捜索隊は唖然としていた。
捜索隊が群れを出発してから三日しか経っていない。
たったそれだけの時間が経過しただけなのに、丘はすっかり姿を変えていた。

「むほぉおおおおお!!ばでぃさぁああああ!!かわいいいわぁあああああ!!」
「やべてぇぇえええええ!!ばでぃざぼうずっぎりじたくないぃいいいいいいい!!」

「むーしゃ!むーしゃ!それなりー!!」
「それはふゆごもりのごはんさんだよぉおおおおお!!どぼじでたべちゃうのぉおおおおおお!!」

「ゆっ!きれいなせみのぬけがらさん!……あっ、ふんじゃった。てへっ」
「ありすのたからものになんてことずるのぉおおおおお!!!このいながものぉおおおおおお!!!」

「きゃわいいれーみゅがうんうんしゅりゅよ!」
「そこはおといれじゃないのよぉおおおおお!!ぱちぇのおうちがぁああああああ!!」

「きれいなおはなね!ありすのたからものにしてあげるわ!」
「それはちぇんがとってきたおくすりなんだよぉおおお!!もってかないでねぇええええええ!!」

「おはなしできないなんてみょんはゆっくりできないくずだね!おお、おろかおろか!」
「ぢぃいいいいいいんぼぉおおおおおおおお!!!」

丘のそこかしこで乱暴狼藉を働く無数の見慣れぬゆっくり達。
それから逃げ惑う群れのゆっくり達、あちこちに転がる黒ずんだものはその末路か。
そして群れの阿鼻叫喚を見下ろすように丘の天辺にふんぞり返っていたのは見た事の無いゆっくりだった。

「ここはまりささまのゆっくりぷれいすなのぜ!ぐずなゆっくりはまりささまのどれいになるのぜ!ありがたくおもうのぜ!!」

微妙にだぜ言葉を間違えて使うゆっくりの言う通りなら、こいつはまりさらしい。
だが、ドス達はそれがまりさであるとは解らなかった。
大きさこそ標準的な大きさながらまりさの特徴的なお帽子が無く、代わりにれみりゃのお帽子がてっぺんハゲ頭の頂点を覆っている。
帽子のすぐ下辺りから生えた髪は元が何色だったか解らない程薄汚れており、死臭漂うお飾りが幾つも付けられていた。
何よりもドス達の目を引いたのはそのお顔。
広範囲に渡って何回も抉られた傷跡が走っており、最早元の人相を見つけ出す事すら難しい。
ゆっくりの形をした化け物。ドス達にはそうとしか思えなかった。

「貴女達!!どうして此処にいるの!!まりさの群れに何してるの!!」

巨体を唸らせ、丘に跳ね出すドス。それを見た見慣れぬゆっくり達は悲鳴を上げて四散したが、丘の上の化け物まりさだけは平然としていた。

「……だれかとおもえば、からだがでかいだけのどすなのぜ?ここはまりさのゆっくりぷれいすなんだからさっさとでていくのぜ?」
「何言ってるの!此処はまりさ達のゆっくりプレイスなんだよ!!それに何で皆を酷い目に遭わせてるの!?返答次第では容赦しないよ!!」
「ひどいめになんてあわせてないのぜ?まりささまのむれのどれいになるのはしあわせなことなのぜ。むしろかんしゃするべきなのぜ」

激昂するドスにふてぶてしく応える化け物まりさ。その返答にドスは即座に臨戦態勢をとった。

「もう許さないよ!ドススパー…………!!」
「まあまつのぜ。これでもみるのぜ」

ドス必勝のドススパークの構えを見ても慌てる事無く、化け物まりさは体を少しずらして背後にいたそれを見せる。
そこにいたのは……

「「「「「お゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!だじゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」」」」」
「お、おちびちゃぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ゛!?!?!?!?」

あんよを喰い千切られ、動く事が出来なくなった子供達の姿であった。

「うちたければうつのぜ!いっしょにこいつらもふきとぶのぜ!!」
「くっ……!」

大口を開けて下品に笑う化け物まりさと、撃つに撃てず歯軋りを響かせるドスまりさ。
平和だった丘は今、クーデター以来の殺気に満ちあふれていた。



場面は捜索隊が出発した直後に遡る。
遠ざかるドス達の後ろ姿を見送っていた群れの面々は、その姿が見えなくなるまでその場を動かなかった。

「……ゆぅ。みんな、そろそろおしごとしようね」

やがて元年長組のれいむが皆を促し、群れはいつもの日課をこなし始めた。
狩りに出るまりさとちぇん。子供達を引き連れ青空教室での授業を始めるぱちゅりー。長期保存用の干し草を作るれいむ。
そして武器を持って丘の見回りをするみょんと、それぞれのお手伝いをするありす。
働き手が十人ちょっとしかいなくても、群れを任されたからには頑張るしかない。そのことは群れの全員が理解していた。
赤ちゃんの頃から皆で協力し、足りない所を補いながら生きて来たのだ。何よりあのドスのようになりたいのなら、ゆっくりなんてしていられない。
明日ゆっくりする為に、今日ゆっくりせずに頑張る。
この群れはそんな希有な気質を持ったゆっくり達で構成されていた。

だが、彼女達は知らなかった。
自分達のスタイルが、ゆっくりの中では異端である事を。
赤子の頃から一致団結して育ったこの群れを、残虐極まる悪意が狙っていた事を。

最初に悪意と出会ったのは、見回りをしていたみょんとありすの一組であった。

「ゆっ!?みょん、あそこにみなれないまりさがいるわ!!」
「ゆっ!とりあえずごあいさつするんだみょん!」

丘の入り口、下生えの薮が途切れている場所に佇むまりさを発見した彼女達は、ご挨拶の為に接近した。
ご挨拶はゆっくり同士の習性みたいなものだが、それにどう応えるかで敵意の有る無しを確認する意味も含まれている。
ゆっくりできるお返事なら良し、ゆっくり出来ないお返事なら……場合によっては実力行使も有り得る。
警戒しながらも歩み寄り、まりさに向けてご挨拶の言葉を掛ける。

「「ゆっくりしていってね!」」
「ゆっ!……ゆっくりしていってね!」

ゆっくり出来るお返事を返して来た事に胸を撫で下ろしながら、ありすは見慣れないまりさを観察する。
大きさは自分達より一回り大きいぐらいだが、この秋でようやく満二歳になる自分達よりも随分若いようだ。
野生のゆっくりらしく薄汚れたお帽子に、何故か小さなれいむのリボンが飾られている。
この丘を取り囲む森の中には幾つかの群れがあり、お互いある程度は交流もあるが、こんなお飾りを持った群れはありすの知る限りでは存在しない。

「……まりさはどこからきたの?」
「まりさはもりのおくのむれからきたんだぜ!」
「もりのおくから!?あそこにゆっくりなんていたんだみょん!?」

まりさの言葉に仰天するみょん。森の奥と言えば、最近凄腕の狩り手が何人も行方不明になっているいわくつきの場所だ。
ドスがお山に向かったのも、森の奥にいるであろう敵をやっつける方法を知るためとみょんは聞いている。
それは即ちドスでさえ敵わない何かがいると言う事ではないか?
そんな所に住んでいるゆっくりがいた、と言う事実はみょんにとって衝撃であった。

「……まりさはなんで、ここにきたの?それにそのおりぼんは……?」

対してありすは冷静だった。
森の奥はれみりゃの生息地である。好き好んで住んでいる通常種なぞいる訳がない。
改めて観察してみると、このまりさには目立った傷跡もなく、お帽子も汚れてはいるが破れた所は無いようだ。
百戦錬磨のこの群れのゆっくりでさえ、れみりゃと戦って無傷ではいられない。森の奥から来たと言うのは眉唾物だ。
それにお飾りの事もある。
ゆっくりはお飾りで個体識別をする。その為、ゆっくりにとってお飾りは命の次に重要なものだ。それを手放すゆっくりはいない。
だからドスに自分のお飾りを贈る行為が信頼の証足り得るのだ。
なのに、このまりさはお帽子に明らかに自分の物ではないリボンを付けている。
可能性としては形見か、あるいは強奪か。後者ならこのまりさは群れの敵になる。
これを警戒しての質問であったが、帰って来た答えにありす達は度肝を抜かれた。

「……まりさのむれがれみりゃにおそわれたんだぜ。このおかざりはまりさのかぞくのかたみなんだぜ。
おさもれみりゃにたべられて、いきのこったみんなはばらばらににげたんだぜ。
にげてるときに、ここのうわさをきいたんだぜ。れみりゃをやっつけるむれがあるって。
……おねがいなんだぜ!まりさもこのむれにいれてほしいんだぜ!!かぞくのかたきをとりたいんだぜ!!!」
「「ゆゆっ!?」」

此処の群れの事は森に暮らすゆっくりなら一度は耳にする程広く知れ渡っている。
その上ドスを擁する群れだ。今までにも「むれにはいりたい」と言って来たゆっくりは沢山居た。
だがドスは余所者を決して迎え入れなかった。
移住希望者は皆ドスに寄生してゆっくりしようとする魂胆が見え見えのゆっくりばかり。
どのゆっくりも群れに入るために媚を売り、ドスが折れないと知るやゲスの本性を露にして去っていく。
そんなゆっくりは群れの方から願い下げだ。
だが、このまりさは仇討ちの為に群れに入りたいのだと言う。
前例の無い事態を前に、ありすは悩む。

「……ありすたちにおねがいされてもだめよ。おさにおねがいしないとありすたちのむれにははいれないわ」

結局、ありすは判断を長に委ねる事にした。
こんな高度な政治判断、群れの一ありすには荷が重すぎる。

「わかったんだぜ!じゃあどすのところにいくんだぜ!!」
「いま、おさはおでかけちゅうよ。ふゆになるまえにはもどってくるとはおもうけど、いつかえってくるかはわからないわ。
……はるがくるまでまったほうがいいかもね。このあたりはごはんさんもおおいし、ふゆごもりできそうなおうちもたくさんあるもの」
「………わかったんだぜ。もういちどでなおしてくるんだぜ」

残念そうに身を震わせながら、まりさは森へ跳ねていく。
その姿を見送りながら、みょんはありすに声を掛けた。

「……ありすはやさしいみょん」
「べ、べつにみょんにほめられるようなことはしていないわ!ほら、はやくみまわりのつづきをするわよ!」

若干赤くなった顔を見られまいと、ありすは勢い良く駆け出した。その後を苦笑いしながらみょんが追う。
だから気付かなかった。
森に去るまりさの口元に、邪悪な笑みが浮かんでいた事に。

長が旅立って二日目。

この日、ぱちゅりーは子供達を引き連れて比較的安全な狩り場に赴いた。狩りの方法を教える為である
狩りの実習はこの季節に多く行われる。春や夏にも行われるが、秋の狩りは冬籠りの準備と言う面も持つので、特に重要だからだ。
勿論安全は確保しているが、万一に備えて護衛にみょんとちぇんが就いている。
普段ならドスのポジションではあるが、ドスが居ないからと言って実習を疎かには出来ないので無理を通してもらったのだ。

丘からそう離れていない場所にある実習地には先客が居た。
薄汚れたお帽子にれいむのリボンが飾られている。
ぱちゅりーはそれが昨日ありすから報告のあったまりさである事に気付き、警戒心を少し緩めながらご挨拶をした。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっ!ゆっくりしていってね!ぱちゅりーはおかのむれのぱちゅりー?そのおちびたちは?」
「むきゅ!ぱちぇはおかのせんせいなのよ!このこたちはいまからかりのやりかたをおべんきょうするのよ!」

自分の仕事に誇りを持っているのだろう。胸を反らしながら答えるぱちゅりーに、まりさが再び質問する。

「おべんきょうするのはきょうだけなのかだぜ?まりさもかりをするからおじゃまにならないようにしたいんだぜ」
「きょうはここでおべんきょうするけれど、あしたはおかのむこうがわでおべんきょうするわ」

ぱちゅりーの答えを聞き、まりさは理解を示すように頷いた。

「わかったんだぜ!じゃあきょうはむこうでかりをしてくるんだぜ!」

そう言って森の中へ跳ねていくまりさを見送り、ぱちゅりーは感心する。

「きくばりのできるまりさなのね。あれならおさもむれにいれてくれるかもしれないわね。
……さあ、みんな!あのまりさのようにみんなでゆっくりできるゆっくりになるために、がんばっておべんきょうするのよ!」
「「「「「「「「「「わかったよ!せんせい!」」」」」」」」」」

子供達もまりさの言動に感動しているようだ。目を輝かせて真剣に実習に臨む。
だから気付けなかった。
立ち去るまりさの目がどす黒い欲望に輝いていた事に。

そして長が旅立って三日目の今日。

ぱちゅりーは子供達を連れて実習に向かい、襲われた。
無数の、幾つもお飾りを付けたゆっくり達に。

護衛のみょんとちぇんは奮闘したが多勢に無勢。
十匹程を落とした所で無念の戦死を遂げ、子供達を庇ったぱちゅりーはのしかかってくる無数のゆっくりの重さに耐え切れず圧死した。
そして子供達はあんよを喰い千切られ、人質にされた。

「おちびのいのちがおしかったら、まりさたちのいうことをきくのぜ!!」

突然現れた化け物まりさと、ゆっくり出来ない匂いを漂わせるお飾りを付けたゆっくりの大軍勢に、丘は大混乱に陥った。

「お゛ぢびじゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ゛!!」と、愛娘達の惨状に泣き叫ぶれいむ。
「まりさはどうなってもいいから、おちびたちをはなすんだぜ!!」と、化け物まりさと交渉しようとするまりさ。
「!あのまりさは!……ありすをだましたのねぇえええっ!!このいなかものぉおおおおお!!」と、軍勢の中に見知った顔を見つけて悔しがるありす。
「むきゅぅうう!!とにかくひとじちをきゅうしゅつしないと………!」と、人質奪回の作戦を考えるぱちゅりー。
「ぜんいんせんとうたいせいだみょん!」「おいかえすんだねー!わかるよー!」と、戦いの準備を始めるみょんとちぇん。

だが、人質を押さえられている限り手は出せない。
少しでも反撃の素振りを見せると、途端に化け物まりさが厭らしく笑いながら子供達を踏み潰そうとするのだ。

「まりさたちのどれいになれば、おちびのいのちはほしょうするのぜ!だまっていうこときけばいいのぜ!!」

余りにも勝手な言い分、だが丘のゆっくり達には他に選択肢が無かった。
そして惨劇は始まり………そこにドス達が帰って来たのだ。



この丘の群れほど優秀ではなくても、どこの群れでも掟の一つ二つはある。
化け物まりさが率いる群れは、そう言った掟を破ったゆっくり達で構成された無法者の集まりであった。
しんぐるまざーを強調して贅の限りを尽すれいむ、弱者を踏みつけにするまりさ、ありすは言うに及ぶまい。
群れを追放され、森をさまよっていたゲス達を取りまとめたのが化け物まりさ。
かつてれみりゃを倒したというこのまりさは、そのゆっくり出来ない外見とはかけ離れた実力をもって群れを支配した。
群れとは言っても実際には強盗団のような物であり、小規模な群れを襲っては皆殺しにして、戦利品としてお飾りを奪う日々を送っていた。
そしてある群れを襲った際に、この丘の群れの事を聞いたのである。

「あのおかのどすがいれば、こんなことには………!!」

れいむ種主体で構成された群れの、長れいむの末期の言葉に興味を引かれた化け物まりさは、丘の群れの事を徹底的に調べ上げた。
かつて森中にその名を知られた『おかのおいしゃさん』が作った群れの流れを汲み、去年の晩秋にクーデターでまりさが長になった若者ばかりの群れ。
しかしその実力は折り紙付きで、単独でれみりゃを倒せるものがゴロゴロしてる上、長になったまりさがドスに進化した事で再び森中にその名を轟かせていると言う。
それだけ優秀な群れならば、使い勝手の良い奴隷になり得る。そう考えた化け物まりさは群れの中で一番の詐欺師をスパイとして送り込んだのだ。
それは最悪のタイミングであった。
ドス達が遠征し、しばらく帰ってこないこと。
群れの凄腕達が遠征隊に参加したため、働き手が激減したこと。
人質になりそうな子供達が、狩りの実習の為に一塊になっていたこと。
これ以上無いほどに好条件が重なっていた獲物を見逃す訳が無い。スパイの報告に化け物まりさは襲撃を決意して……
見事、襲撃を成功させたのだった。



「ほ~らほ~ら、どうしたのぜ?うたないのぜ?」
「こ、この卑怯者!今すぐ皆を離してね!!」
「ゆふん、しょせんどすなんてまりささまのあしもとにもおよばないのぜ!!さあさあ、ひざまづいてあんよでもなめるのぜ!!」

泣き叫ぶ子供達を踏みつけ、悔し涙を流すドスを嘲笑う化け物まりさ。
それに安心したのか、化け物まりさの群れも再び乱暴狼藉を働き出す。
捜索隊や留守番組の武闘派も抵抗しようとするが、化け物まりさがあんよに力を込めるのを見るや無抵抗になる。
ドスまりさは強気の表情のまま化け物まりさと睨み合うが、その内心は焦燥で一杯だった。

(このままじゃ皆死んじゃうよ……しょうがない、最後の手段だよ!!)

ドスは決意を固めると、丘の天辺でふんぞり返る化け物まりさに告げた。

「解ったよ!この丘はまりさ達にあげるよ!まりさの群れはここを出て行くから、皆を離してね!!」
「「「「「「「「「「ゆ゛っ゛!?!?!?」」」」」」」」」」

生まれ育った故郷の放棄。それがドスの下した決断であった。
皆で一致団結して育てたゆっくりプレイスを捨てるのは惜しいが、皆の命には変えられない。
断腸の思いで告げた降伏宣言を、化け物まりさは一蹴した。

「なにいってるのぜ?ここはさいしょからまりささまのゆっくりぷれいすなのぜ!!どれいにそんなことかんけいないのぜ!!」
「「「「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」」」」

化け物まりさは最初からドス達を見逃すつもりは無かった。
人質を取ったことでイニシアチブは常に自分達にある。ドスの能力はかなり有用だし、死ぬまで扱き使ってやろう。
そう目論んでいたのである。

「ば!ばでぃ゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!お゛ばえ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」
「……どれいのくせになまいきなのぜ。みせしめにおちびをつぶしてやるのぜ」

狂気に近い憎しみを込めた視線を浴びせてくるドスに、あくまで余裕の態度を崩さずに見せしめの処刑を実行しようとする化け物まりさ。
今や丘の全てのゆっくりの視線はこの二人に集まっていた。丘の群れも、化け物まりさの群れも固唾を呑んで二人の対決を見守っている。

だからどのゆっくりも気付けなかった。
化け物まりさの背後から、静かに忍び寄る影に。

「よくもみんなをぉおおおおお!!じねぇえええええええ!!!」
「「ゆっ!?」」

ドスも、化け物まりさも虚を突かれた。
化け物まりさに躍りかかった影、それは道中ドスを慰めたまりさであった。
みょんが使っていたのであろう太い木の枝を銜え、空高く跳ね上がって化け物まりさに襲い掛かる。
普通のまりさ種なら確実に仕留められただろう。いや、れみりゃをも倒せたかも知れないその一撃は、

「おそいのぜ!そんなこうげき、あくびがでるのぜ!!」
「ゆびっ!?」

あっさり躱され、むなしく宙を薙いだ。
しかしこの好機をドスが見逃す筈は無い!

「ゆっ!有り難うまりさ!……ドススパーク!!!!」
「ゆうぅうううううううううううううう!?!?!?」

化け物まりさ目掛け放たれるドススパーク。間一髪避けられたものの、子供達から離すことは出来た。
今が反撃の好機とばかりに色めき立つ丘のゆっくり達とは対照的に、形勢逆転を決められた筈の化け物まりさ達には動揺が見られない。
それを不審に思うドスだったが、その答えはすぐに解った。

「そこまでなんだぜ!これをみるんだぜ!!」

突然響き渡る怒声に驚いたドスがそちらに目を向けると、そこには一人の子れいむを踏みつけ、化け物まりさと同じ厭らしい笑みを浮かべるまりさがいた。
お帽子に赤いリボンを付けたスパイ役のまりさが、予め一人だけ人質を別に確保していたのだ。

「こいつをつぶされたくなければいうことをきくんだぜ!」
「ま、まりさのおちびちゃんがああああああああ!!」

先程化け物まりさに襲い掛かったまりさが悲鳴を上げる。どうやらまりさの子供らしい。

「ゆ!?ちょうどいいのぜ。そのおちびのいのちがおしければ、どすをころすのぜ!!」
「「ゆ゛っ゛!?!?」」

化け物まりさの残酷な命令に凍り付くドスとまりさ。だがドスはすぐに決断する。

「まりさ!いいよ、まりさを殺して!おちびちゃんの命には代えられないよ!」
「なにいってるんだぜぇえええええ!?おさをころせるわけないんだぜぇええええええ!?」

あっさりと『自分を殺せ』と言い出したドスに、まりさは絶叫する。
そんなまりさに、ドスは優しく笑いかけた。

「……お山でも言ったけど、こうなったのはまりさの所為なんだよ。だから責任を取らないといけないんだよ。
……おちびちゃんの為に死ねるなら本望だよ。さあ、早く!おちびちゃんが死んじゃうよ!」
「ゆぐぐぐぐ……………」

まりさは悩んだ。この群れでも上位の狩り名人である彼女は、その運動能力と引き換えに少々知力が足りなかった。
足りないとは言っても標準的なゆっくりからすれば天と地ほどの差はあるが、それでもこの状況をひっくり返す方法を思い付けない程度には悪かった。

「ほらほら、どうしたのぜ!?はやくしないとおちびがしぬのぜ!?」
「そろそろおんよがつかれてきたんだぜ!!はやくきめないとつぶしちゃうんだぜ!?」

癇に障る笑い声を上げつつ、化け物まりさ達が急かしてくる。足下の子れいむは「ぶぎゅ゛う゛う゛う゛う゛っ゛!!」と、今にも潰れそうな悲鳴を上げて泣いている。
胸を焦がす焦燥にまりさは悶え……………そして、

「…………ゆわぁああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」

とうとう枝を振り上げて躍りかかった。
……人質を取っていたまりさに向かって。

「まりさああああああああ!?!?!?」
「なにしてるのぜ!?おちびのいのちがおしくないのぜ!?」

突然のまりさの行動に慌てるドスと化け物まりさ。
だが、一番驚いたのは襲い掛かられたまりさだっただろう。

「ゆっ!?なんでこっちにくるんだぜ!?どすはあっちだぜ!?
…………ゆがあああああ!くるなくるなくるなぁああああああ!!!!!!」

恐慌状態に陥り、身を翻して逃げ出すスパイの背に太い枝が突き立てられる。

「ゆ゛ぎゃ゛っ゛!?!?」
「ゆ゛びぃ゛っ゛!?!?」

枝はスパイを貫通して即死させつつ、足下の子れいむにまで達した。
守ってくれる筈の親が襲い掛かってくる姿に、大きく目を見開いたまま子れいむは絶命した。

「あ、ああ………なんで…………」

まりさの凶行に餡の気が引くドスに向かい、まりさは叫んだ。

「おさぁあああ!!いまのうちにみんなをつれてにげるんだぜぇええええええ!!」
「ゆっ!?!?」

まりさには解っていた。ドスはいつもこの群れのことを考えていてくれたことを。
クーデターの時も、お山の探索も、野犬の時も、そして今この時でさえ。
何時だってドスは自分より群れの皆を優先してくれたことを。
そしてドスはこの群れの希望そのものであると言うことを、自分と子供の命と引き換えに出来るような存在ではないことを、まりさは知っていた。
自分の浅はかな行動がドスを更なる窮地に追い込んだのだ。たとえ子供を見殺しにしても、責任は果たさねばならない。

(ちょうろうがむれのためにいのちをはったように!まりさもみんなのためにいのちをはってみせる!!)

我が子をその手に掛けた無念に、両の目から餡子の涙を流しながらまりさは吼えた。

「まりさがこいつらをおさえてるうちに、このおかからにげきるんだぜぇえぇええええ!!」

魂の底から吐き出されたかのような絶叫に、硬直していたドスの思考が動き出す。
まりさが作った千載一遇の好機、見逃しては子れいむの死が無駄になってしまう。
それが解っていてもドスにはまりさを見捨てる事が出来なかった。
この三日で何人もの仲間が散っていった。そこにまりさまで加えるなんて、ドスには耐えられない。

「……解ったよ!皆、この森から逃げるよ!!いつもの所で落ち合おう!!」

だが、まりさの覚悟を汚すことはもっと耐えられなかった。
生き残った群れに、緊急時に備えて避難場所とした森の出口付近にある大木を目指すように指示すると、動けない子供達を口に含んで一目散に逃げる。

「……あっ!ま、まつのぜ!!にがさないのぜ!!」

その声に、一連の出来事に呆気に取られていた化け物まりさが正気に返って後を追おうとするが、何者かに目の前を塞がれる。

「……いったはずなんだぜ。ここからさきはとおさないんだぜ」

未だ餡子の涙を流し続けるまりさが、化け物まりさを足止めする為に立ちふさがったのだ。

「どくのぜ!いたいめみたいのぜ!?」
「……いたいめならみせてやるんだぜ。おさのためなら、みんなのためなら、まりさはひゃくにんりきなんだぜ!!」
「ねごとはねてからいうのぜ!!みんな、こいつをいためつけてやるのぜ!!」
「「「「「「「「「「じねぇえええええええ!!!!!」」」」」」」」」」

まりさと化け物まりさ達の会話を背後に聞きながら、ドスは涙を浮かべて丘を脱出したのだった。







……お、また見つけた。
やっぱり旬だなぁ、こんなに立派な茸が生えてるよ。
……あんまり遅いとゆっくり共に喰われるからな。早めに探しに来て正解だわ。

……ん?何か騒がしいな……
……うわっ!なんだあのデカいゆっくりは!?
集まって何か話してるようだが…………まさか畑荒らしでも企んでるんじゃないだろうな?
……確認しとくか。

……よう、ゆっくり共。
……そうだよ、俺は人間だよ。
……はいはい、ゆっくりゆっくり。で?何してんだよ。

……『まりさ達のゆっくりプレイスを横取りされた』?
……またかよ。よく飽きないなお前ら。
去年もそんなことを言ってた奴が居たな。確かぱちゅりーだったと思ったが。

……え?あのぱちゅりー追い出したのってお前らだったのか?何でまた……
……『あのぱちゅりーの所為でお母さん達が死んだから』って、お前らあの群れの子供なのか!
よく生きてたな……
……『皆で頑張ったから、何とか生きて来れたんだよ』ってか。随分謙虚な奴だな。
普通のゆっくりは皆そこで自画自賛してくるもんだが。

……おや?おい、そいつらどうしたんだ?さっきから呻いているが……
……『ゲスにあんよを食べられちゃったんだよ……』だと?
成る程、そいつらがお前らの住処を襲ったって訳か。んで、住む所を探してる、と。
……『どうして解ったの?』って、これも何回か聞いたような気がするな……
まあ、ちょっと考えれば解るもんさ。
それより、お前ら畑でも荒らすつもりじゃないだろうな?だったら容赦しねえぞ?
……『畑って、何?』ぃ!?お前ら畑を知らないのか!?
……ああ、だからゆっくりは畑を荒らすのか……
いいか?畑は人間がゆっくりする為に必要な野菜を育てる場所だ。
野菜は勝手に生えてこない。土を掘り返して柔らかくしてから野菜の赤ちゃんを蒔いて、毎日ゆっくり出来るように世話するんだ。
ゆっくり出来た赤ちゃんだけが大きくなって野菜に育つ。大体お前らが子供から大人になるくらいの時間を掛けて成長するのさ。
……何驚いてんだよ。お前らが知らないだけで、人間はそれだけの手間を掛けて野菜を育ててんだよ……

……へ?違う?
……『れいむお姉さんのお話の通りだ!』?『やっぱりお姉さんは嘘吐きなんかじゃなかったんだ』って……
まさかお前ら、あのれいむの子供か何かなのか!?
……あ、違うの?……ふうん、歌を歌ってくれたのか。そうかそうか。
あいつ、やっぱり良い奴だったんだな。惜しい奴を無くしたもんだ。

……ん?何だ?
……『人間さんと仲直りする方法を教えてほしいんだよ』?
仲直りってお前、どうする気だ?お前らが人間をゆっくりさせない限り、人間はゆっくりのことが嫌いだぞ?
……『それを教えてもらう為にお山のゆっくりを探しにいったら、ゲスが襲って来たんだよ』……
……あの山に、ゆっくりは住んでないぞ?
……『昔、嘘吐きに騙されなかった賢いゆっくりがお山に居る筈だよ』って…………
……なあ、あそこに居たゆっくりはもう全滅してるんだよ。山の厳しさに耐えられなかったのさ。
だからあの山には今、ゆっくりは一匹も居ないんだ。

……泣くなよ。お前が悪い訳じゃない、運が悪かっただけだ。

……おい、お前ら。
住む所が無いのなら、こういうのはどうだ?………







山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。
群れの皆を逃がすため、一人残ったまりさはもう動けなかった。
倒したゲス達は三十匹までは数えていたが、そこからは覚えていない。
たった一人で、木の枝一本で戦ったにしては上等の部類に入るだろう。
しかし相手が悪かった。
何匹倒しても後から後から湧いてくるゲスどもに、先にまりさのスタミナが尽きたのだ。
そこからは正に嬲り殺しであった。
四方八方から体当たりされ、のしかかられ、獲物で突かれて、まりさの体は満身創痍。
それでも尽きぬ闘志を込め、まりさは唯一動く目を動かして群れの首魁を睨みつける。

「……さんざんてこずらせてくれたのぜ!でも、これでおわりのぜ!!」

そう言う化け物まりさの口には、先程取り落としたまりさの獲物が銜えられている。
まりさ自身の武器でとどめを刺すつもりだろう。悪趣味だが、このゲス共ならためらい無く実行する筈だ。
ふと、空を見上げる。
雲一つない青空。それはまるで、まりさの心を映したかのようで。

(……おさ、あとのことはたのんだぜ。……おちびちゃん、いまいくんだぜ)

突き立てられた枝に悲鳴すら挙げず、まりさは永遠にゆっくりした。

自分の遺志を継いでくれるであろう、仲間達を信じて。






※誰か、私に文才を下さい……もしくは時間(切実)
大変長らくお待たせしました!続編をお届けします!!
……前作からかなり開きましたが、覚えていて頂けましたでしょうか?
ここまで来ると虐待SSじゃないよなー、と思いつつも書かずにはいられなかったお話。
後は外伝一話を挟み、いよいよ完結編へ!
また間が空くかもしれませんが、どうかお付き合いくださいませ。

※前作『仕返しゆっくり』の感想欄にて、名前を付けてほしいとのコメントを頂きました。
新参者で遅筆な自分が名乗るのは気後れしますが、よろしければ今後『一言あき』と名乗らせていただきます。
お名前を下さった方も、応援して下さった方も本当にありがとうございました。


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感想

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  • これはゆ虐じゃないな

    でもゆ虐じゃないだけだそれだけだ
    (*TーT)b -- 2016-03-29 03:12:55
  • >楽しいのは本人だけ
    これだけ称賛コメのついてる作品なんだから、この言葉が
    的外れなのははっきりしてるでしょ
    自分の好みじゃない作品に対して
    批評家ぶってコメントしたかったんだろうけど
    恥かいたよねこいつはw -- 2016-01-16 23:36:57
  • ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






    -- 2014-08-11 08:19:39
  • 凄いわ、連作お疲れ様です。
    続きが気になる終わり方が秀逸w -- 2014-05-11 10:04:05
  • アドバイスって言うかちゃんとどういうところがダメって言ってるから餡子脳じゃないでしょ -- 2013-04-28 01:23:56
  • 正直つまらないなら何も言わずに去るか何かアドバイス位はすると思うから餡子脳じゃないかな? -- 2013-04-21 00:04:09
  • 否定的な意見言われてムッとくるのはわかるけどつまらないって感想言っただけで
    餡子脳扱いはダメでしょ -- 2013-04-16 21:51:31
  • 3の十倍まで数えられるまりさだと・・・!? -- 2012-10-03 20:01:37
  • いい話だ、つまらないとか態々言う餡子脳は放置して
    書いて欲しい、良い作品だと思うよ。 -- 2012-08-12 20:27:56
  • 俺は好きだよ、頑張れ -- 2011-10-13 23:02:49
  • てかあのまま終わってよかったんじゃ、なぜわざわざ悲劇に持っていったし -- 2011-09-26 23:32:03
  • ↓↓つまらないって思ってるのはお前だけかもしれんぞ? -- 2011-07-20 20:54:22
  • 漢だな…!!最期に一花咲かせやがった、あのまりさは… -- 2011-03-30 09:54:10
  • 前作から続いているドスまりさに愛着が湧くのは
    分かるが、贔屓しすぎて話をつまらなくしているね
    僕・私の考えたゆっくりを愛でたいのは分かるが
    それを見て楽しいのは本人だけってのもよくある話 -- 2010-10-26 23:35:08
  • ドスがゆっくりできるかが気になる
    こういうゆっくりばっかりだったらなぁ・・・ -- 2010-03-05 15:36:56
  • 「お話しゆっくり 前中後編」に続く -- 2010-02-23 11:42:28
最終更新:2010年01月27日 16:48
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