俺が、ゆっくりだ! 5 21KB
『俺が、ゆっくりだ! 5』
・「俺がれいむでれいむが俺で」的設定です
・俺の考えたことは、ゆっくりでもわかる語彙であれば自動的に翻訳されてれいむが喋りやがります
・見た目、性能はゆっくり、頭脳は人間です
・「
その4」を読んでいないとよくわからないかと思われます
・ゆうか登場
八、
“俺”とまりさが巣穴を出てどれくらい時間が経っただろうか…?考えてもみれば漠然と「森の奥にいる」という
情報しかないのに、…しかもそれがこの森かどうかもわからないのに、“ゆうか”という未知のゆっくりを探しに行
く、という行為がすでに間違っていたのではなかろうか…?もうちょっと情報を集めてからでも良かったような…と
も考えられるが、個人的にそんな悠長なことは言ってられなかった。俺は芋虫を食べたくない。虫も、草も食べたく
ない。百歩譲って草は我慢しよう。だが、得るものもあった。得るもののない旅などありはしないのだろう。
「ゆうかをさがすついでにきのみさんのあるばしょがわかったのぜ!こんどはみんなでとりにくるのぜ!」
『ゆ…そうだね。でも、なるだけすくないにんずうでこうどうしたほうがいいよ』
すっかりゆっくりが板についてきてしまって、もの哀しい今日この頃ではあるが…。さすがに3日も一緒にいたせ
いか会話をすることにもだいぶ抵抗がなくなってきたように思う。最初の頃はクソ饅頭クソ饅頭とばかり思っていて
ぶっちゃけ…ゴミを見るような目でこいつらを見ていたが…。頑張ってるゆっくりもいる、っていうのがわかってか
らは…ちょっとは…少なくともこいつらはそんなに悪い奴じゃないんだろうと思える。よくよく考えてみれば、目の
合ったゆっくりなんて片っぱしから潰してたから…どんな奴か、とか考えたこともなかったもんな。それ以前に興味
さえ湧かなかったから仕方ないと言えば仕方ないんだが…。…それで、一体、何匹ゆっくり殺したっけ?俺。
道中、綺麗な小川を見つけた。さすがに巣穴からは遠いが、水場の位置は押さえておかなくてはならない。とりあ
えず、まりさを試すために木の実のある場所とこの水場の位置を帰ってからテストしてみようと思う。なんとなく帰
り着くころには忘れているような気がしないでもないのだが。
「ゆっくり、ごーくごーくするよ!」
こういうときはやっぱりウザいよなぁ…クソ饅頭。黙って水ぐらい飲めよ、と…
『ごーくごーく…』
…諦めよう。これがこいつらなんだ。何言ったって駄目さ…。
「ゆふぅ…」
まりさが相変わらず小憎たらしい笑顔で一息つく。確かにここまで歩き疲れた。“俺”も一息つくことにする。
『ひといきー』
うぜぇ。こんなとこまで翻訳するのかよ…。…っと、おや…?まりさのおさげの裏あたり…なんか…ちっちゃい火
傷の跡があるな…。なんとなく予想はできたが…本当は悪いことだとはわかってるんだが、興味本位で聞いてみてし
まった。
『まりさ…そのやけどさんのあとは…どうしたの?』
「ゆ?」
まりさはちょっと悲しむような、照れるような不思議な表情を浮かべながら、帽子をちょっと深くかぶると、
「まりさをかってくれてたにんげんさんに…やられたよ…」
俺の心臓の鼓動がどくん、と鳴った音。まりさに聞こえはしないかと不安だった。その表情は“俺”にも浮かんで
いるらしい。
「にんげんさんはおしごとさんがうまくいかないみたいで、いつもいーらいーらしていたよ…」
“いーらいーら”の言い方はごめん、俺もイラッときたけど横槍は入れるまい。続けてくれ。
「あいさつしても…いつもけられてとばされたりしてたよ。このやけどさんはにんげんさんがくちにくわえてるけむ
りさんがもくもくでるものをあてられて、できたものなんだよ」
普段の“だぜ口調”が出ないくらいには…しおらしくなってるところを見ると…。やっぱり辛い過去なんだろうな。
当然か。挨拶したらいきなり蹴り飛ばされて、煙草の火を顔に押し付けられてたんだ。…似たようなことは俺もゆっ
くりにやってきてるから…そのまりさの元飼い主を責めることは、できないけれど。
『ぺーろ…ペーろ…』
「ゆゆっ?」
『ゆゆゆゆっ??!!!』
おわあああああ??!!!!何やっちゃってくれてんの“俺”ぇぇ?!!
「れいむ…ありがとうなのぜ…」
うーん…ごめん。すごく意味がわからない。いきなりまりさの火傷を舐め出した“俺”の行動もよくわからない。
そりゃ確かに可愛そうだと思って慰めようとはしたが…ほぼ俺の意思に無関係に今、動いたよな。しかも、まりさは
お礼を言ってきてるし…うっすら涙目で。…あぁ。慰める=舐める、なのか。こいつらの世界だと。犬も似たような
もんだしな。おっと、犬に失礼か。
「ゆゆっ!ここはまりさたちのゆっくりぷれいすなんだぜっ!ゆっくりできないゆっくりはどこかいってね!」
「いっちぇにぇっ!」
………。
『…………』
「れ、れいむ…」
…ハァ?なんだとコラ…クソ饅頭共が…。
『ゆぅ?なにいってるの、ばかなの?しぬの?』
お、今の翻訳は当たらずしも遠からず。野生のゆっくり親子…親まりさ、赤まりさ、赤れいむ…ってところか。
ぷっ。馬鹿面並べて何が出ていけだ。
『ゆふふ…』
「な、なにがおかしいのぜ!!!」
親まりさが“ぷくうううう”とか言いながら顔を膨らませる。滑稽だ。実に滑稽。そこから何ができるんだ?なぁ、
まりさ…って…ええええぇぇぇぇぇ?!
「れ、れいむ…このまりさはすごくつよいまりさなのぜ…けんかはやめるのぜ…」
馬鹿か。ただ水飲んで休憩してた“俺”たちに出会うなりここから出ていけ、なんて身の程知らずな口を利く饅頭
風情に何故、従う必要がある?案の定見ろ。威嚇しても平然な顔をしてる“俺”を見て、すでにうろたえてんじゃね
ーかよ。赤ゆ2匹なんてもう親まりさの後ろに隠れちまったぞ。
『ゆっ!』
一言、言っただけで、びくぅ、と後ずさる親まりさ。隣のまりさも不安そうに“俺”と親まりさのやり取りを見て
いるが…。
『まりさ!ききたいことがあるよ!』
「な…なんなのぜ…?」
『このあたりに“ゆうか”というゆっくりがいるときいたんだけどしってたら、れいむたちにおしえてね!』
ガチでやり合うつもりは最初からない。余計な体力は使いたくないからな。ていうか…。なんだ?急に震えだした
な…。近くにれみりゃでもいるのか?だったら危険だが…。
「ゆうかは……このかわのむこうに…いるよ…」
はいはい。貴重な情報、ありがとさん。じゃあ、もうどっか行けよ。目ざわりだから。
『ゆっくりありがとう。じゃあどこかいってね!』
ああ。ムカつく口調だな。言ってる内容は俺の考えと同じのはずなのに“俺”が喋るだけでウザさ8割増しだろ。
「ゆうかに…あいにいくのぜ…?」
親まりさは一体、何をさっきかから挙動不審になってるのだろうか。隣のまりさは、この親まりさにビビってるだ
けなんだろうが。
「ゆうかは…いじわるなゆっくりだから…あいにいかないほうがいいよ…」
捨て台詞を残してぴょんぴょん去っていく親子の後姿を見ながら、れみりゃに食われねーかなぁ…とか思ってた。
それにしても…
「れいむ…?ゆうかは…いじわるなゆっくりなのぜ…?」
『れいむもしらないよ…』
ネットのゆっくり飼育ブログみたいなサイトにも、ゆうかという名前は出てきてない…単純に俺が見逃してるだけ
なのかも知れないが…。いじわる、なゆっくり…?でも、花や野菜を育てるのが得意…なんだよなぁ?どうしても、
この2つのイメージがぴったり重ならないんだが…。逆に考えろ。あのまりさ親子がいじわるされるようなことをし
たんじゃないのか?むしろそっちのほうがしっくりくるような気がする。
『とにかく、あってみないことにはなにもわからないよ!かわさんをわたれるばしょをさがそうね!』
「ゆっくりりかいしたよ!」
と、言ってもこの辺に橋などあるまい。なるだけ水かさの少ない場所を探して川の中を歩いて行くしかないな。皮
がふやけやしないかだけが、心配だが…。まぁ、山の中の小川だ。上流に行けば川幅も水かさもクリアできる場所が
あるだろ。とりあえずは川沿いに進むとするか。
九、
俺の読みは当たっていた。テストの勘もこれぐらい当たってくれればもうちょっと楽できるのになぁ…。少し回り
道にはなってしまったが…小川を渡れる場所を見つけることに成功した。太陽の位置からいって、午後1時くらいだ
ろうか。帰りは道がわかってるから早いだろうが…なんとか早くゆうかに会って、日暮れまでには帰りたいところ。
ちぇんとありすとぱちゅりーは今頃なにをしてるだろうか…。油断してれみりゃとかに食われてなければいいけど。
「ゆわぁ……すごいのぜ……」
さっきから歩いているこの道…周りが向日葵だらけだ。向日葵は全部太陽のある方向を向いてるんだが、なぜか…
向日葵に見られているような錯覚に陥る。それぐらい、綺麗なことは綺麗なんだけど、少し不気味な数だった。この
向日葵畑も、噂のゆうかが作ったのだろうか?だとすると、とんでもないゆっくりがいたもんだ…。
『んゆっ…?』
向日葵畑を抜けると、開けた場所に出た。色とりどりの花…それにたわむれる蝶々。向日葵畑に入った時点で森の
木々は途切れていたから太陽の光が入り込んでいる。思えば久しぶりに太陽に当たった気がするな。そして、そんな
幻想的ともいえる、風景の中心に…
“ゆうか”と思われる、ゆっくりがいた。こちらに気付いたようだ。じっと“俺”たちのことを見ている。他のゆ
っくりみたいに視界に入った瞬間、「ゆっくりしていってね」とは言わないんだな。…まぁ、こっちも言ってないけ
どよ。
それにしても…。うん。やっぱこいつは見たことないや。緑色の髪に、赤い瞳。目つき悪いなぁコイツ…。そっち
系のゲームだと、間違いなく凌辱されるポジションにいるね。まぁ…こいつに関してはただ、気が強い、ってだけで
はなさそうな…雰囲気を感じないこともないけれど。
「とまりなさい」
それだけでまりさ、お前はちょっと驚きすぎだ。そりゃ確かにいきなり話しかけられて俺も思わず足を止めちまっ
たけどよ…。なんか…ゆっくりっぽくない喋り方だな…。まずは挨拶だろ。常識的に考えて。…べ、別にゆっくりじ
ゃなくて、人間的にも常識なんだからねっ!
『…ゆっくりしていってね』
「………。ゆっくりしていってね…」
相当、警戒してるんだろうな。…まぁ、さっきの馬鹿まりさ親子みたいにすぐに「出ていけ、出ていけ」言う奴ら
ばかり周りにいるなら、そうなるのも無理はないような気がするが。それにしても、ハスキー気味な声だな。声だけ
聞いてれば、達観した大人の女みたいな声だぜ。
「なにをしにきたのかしら?」
『れいむは…ゆうかというゆっくりをさがしているよ」
「そう…。それはわたしのことだわ。わたしになにかようかしら…?」
わたし…?てっきり、ゆっくりは自分のことは全部、自分の名前で呼ぶもんだと思ってたが…。「れいむは…」と
か「とかいはなありす」とか「ぱちゅは…」とか。まぁ、そのへんからだけでも、このゆうか、ってのは毛色がちょ
っと違うゆっくりなのかな…?
『れいむはゆうかがおはなやおやさいさんをそだてるのがじょうず、ってきいたよ』
「…それで?」
『…もしおはなやおやさいさんのたねがあまっていたられいむにちょうだいねっ!』
待て。今の言い方は何か語弊を感じさせる。俺は“分けて”というくだりを思考に含ませたつもりだったが、全然
…一言も出てないじゃねーか。しかも“ちょうだいねっ!”とか…人に物を頼む態度じゃないだろ。なんなんだこい
つは…常に挑発的な口調じゃないと気がすまないのかっ?!
「いやだわ」
「ゆゆっ?!」
ですよねー…。頼み方最悪ですもんねー…。
『どうして?ゆっくりおしえてほしいよ』
「…あなたたちにおはなさんやおやさいさんをそだられてるとは、とてもおもえないから…」
おお、“さん付け”は同じか。ちょっと安心した。それにしても高飛車な表情だなぁ…。俺、こいつの出るエロゲ
があったら真っ先に攻略対象にしてるかも知れない。ゆっくりにしとくのが惜しいくらい、好みの女(?)だぜ。
「…だったら、ゆうかがそだてかたをおしえてね!」
おおおおおおおおおおいいいいいいい!!!!!!まりささぁんっ?!アンタ、本当に何様ですかぁ?!どう考え
ても喧嘩売ってるでしょう、それ?!
『どおしてそんなこというのぉぉぉぉぉ??!!!』
“俺”のセリフに、まりさはおろか、ゆうかも目をぱちくりと見開いている。うわっ…やべ、ちょっと可愛いよ、
ゆうか…。…って落ち着け俺!!!!たかがゆっくりぞ!!!!!!
「まえにもそういってわたしにたねをもらいにきたゆっくりがいたわ…」
『そのときはどうしたの…?』
「たねをわたしたらすぐにたべちゃったの」
ああ。そりゃまずいわ。馬鹿だろ、そいつら。…ん?それでも“野菜を育てようとした”ゆっくりが俺たち以外に
この森の近くにいる、ってことなのか…?侮れないな、野生ゆっくり…。奥地に行けば頭のいいゆっくりとか普通に
いるんじゃないか、とさえ思えてくるわ。
『ゆっくりできないゆっくりだね…』
「そうでしょう?」
ゆうかがクスリと笑った。その次に見せた表情は、驚くほど冷たくて、しかも明確な殺意のこもった瞳で“俺”た
ちを見据えていた。
「あなたたちはおはなさんをたべすぎなのよ。わたしのおはなばたけまであらして…」
待て。それは俺達とは無関係だ!…と言いたいところだが、通じそうな雰囲気じゃねーな、オイ!つまりアレか。
ゆうかは自分の花畑が荒らされるから、ゆっくりたちを攻撃していると。…いじわるなゆっくりとかそういう問題じ
ゃねーよ、あの馬鹿親まりさ!!!!!
「たねはあげない。おはなさんもたべさせない。すぐにでていってちょうだい」
正直、ゆうかには気の毒だが…“俺”やまりさはともかく、俺には、絶対に負けられない戦いがそこにはある。
『ゆうか…それでも、れいむはゆうかにおはなさんのたねをわけてほしいよ』
「れいむっ?!そこまで…?!」
『まりさはさがっててね…。これはれいむのもんだいだよ』
本気でそう思う。俺は野菜が食べたい。
「…おはなさんはわたしがそだてたの。わたしのこどもたちみたいなものだわ」
…なるほどねぇ。そうきたか。
「たいせつなこどもたちを…ろくにそだてることもできないむのうなゆっくりなんかに…わたすわけないじゃない」
…って、おお?!ゆうかが口に咥えてるのって…移植ごてじゃないか…!園芸用の小さいスコップを…ゆっくりな
んかが、何故…?そんなことより…あれはれみりゃのキバに相当するヤバさだぜ?!
『ゆっ…』
「もういいわ。ゆっくりしんでちょうだい。わたしはあなたたちみたいなゆっくりがくるしんでるのをみるのもとて
もすきなの」
わーい、サイコさんだぁ。とんでもねぇドSだなこいつ…!!!もう向こうも殺る気満々だし…こうなったら、戦
うしかないっぽい。なに、れみりゃ並みの攻撃力はあっても、スピードはそんなでもないだろう。
『ぴょんぴょんするよっ!!!』
掛け声のつもりか、“俺”ぇぇぇぇ!!!!でも、ゆうかが移植ごてなんか持ってる以上、迂闊には近寄れない。
『ゆっくり!!!』
ゆうかの側面に回る俺。ゆうかの対応はそんなに早くない。あっけなく終わりそうだな。所詮はゆっくりか。
「れ…れいむーーーー!!!!!」
『ゆげぇっ!!!』
なん…だと…?体当たりしようと飛びかかったら…こいつ…体をいきなり捻ってカウンターを合わせやがった…。
対応が遅いんじゃなくて…今のは攻撃を誘われた…ってわけか…。れみりゃと違って、そこそこ頭が回るな。冷静に
こっちの動きを見て攻撃してくるんじゃ…。トロいれいむの姿じゃ圧倒的に不利だ…。向こうが攻撃を仕掛けてくる
わけでもないから、隙を突くこともできない。あと、移植ごてで叩かれた左頬がめっちゃ痛い。生命の危険は感じな
いけど、涙目になるくらいは痛い。
「あら…ないてもいいのよ…?」
クスクスと笑うゆうか。くそっ…野菜の壁は高いな、オイっ!!!!
「うっわーーー!!!すげぇ、向日葵畑だなぁ!!!!」
「山の中にこんなところがあるなんて知らなかったぜ!!!」
人間の声に、三匹が三匹とも動きを止めた。
突然、ゆうかの向日葵畑に入ってきた小学生くらいのクソガキ共は…こともあろうに背の高い向日葵を棒きれで次
々と殴り倒していった。…いや、俺もあいつらぐらいのときに似たようなことやって遊んではいたけど…!まさか、
こんなところに来てまで…?!探検ごっこにしても、深入りしすぎだろぉ?!
「れいむ!にげるのぜ!!」
『ゆうか!ゆっくりできなくさせられるよ!はやくにげようね!』
「あ…」
呆けてる。無理もない。さっき、こいつは自分の育てた花や野菜は自分の子供だ、とか言っていた。それが今、無
慈悲に棒で殴りつけられ、薙ぎ倒されていっている。ゆうかの口から移植ごてがぽろりと落ちた。まりさがそれを拾
う。
『ゆうか!!』
“俺”は体を振り回して、左の揉み上げをゆうかの頬に叩きつけた。ゆうかが我に返る。
『おはなさんやおやさいさんはまたそだてればいいよ!ゆっくりしないで…』
そこまで言って、しまった、と思った。思わず黙りこんじまったね。正直、まずいことを言ったと思う。子供が殺
されたら、また生んで育てればいい…それと同じニュアンスのことを、俺は今…言ったんだ。ゆうかは顔を真っ赤に
して、目に涙を浮かべて“俺”を睨みつけていた。そうこうしているうちにクソガキ共はどんどん向日葵畑の奥へと
入ってくる。
「れいむ…あなたのかおはにどとみたくないわ」
ぶっちゃけへこんだね。この姿になって一番へこんだかも知れない。ゆっくりの気持ちとか…少しはわかるように
なっていたつもりだっただけに…このゆうかの気持ちを全然理解してやれてなかったのが…情けなくて…悔しかった。
「ゆうか…」
まりさが口を開く。ゆうかは振り向かない。ただ、向日葵畑を蹂躙し続ける人間たちをずっと見つめている。
「ゆうかが…にんげんさんにみつかったら…ゆっくりできなくさせられるよ…」
「…おはなさんをおいてにげるくらいなら…そのほうがいいわ」
俺としてはその言葉には賛同できなかったが、当然、俺が何を言ってもゆうかは聞いてはくれまい。“俺”はただ
唇を噛み締めてるだけだった。…何が、饅頭共の神になる、だ。笑えねェ…。
「ゆうか!ゆうかがゆっくりできなくなったら、だれがのこったおはなさんをそだてるのぜっ?!」
…まりさ…?
「…あなたたちにはかんけいない」
「…まりさは…まりさ“たち”は…あかちゃんをうむことができないのぜ」
何?初耳だぞ、それは。思わずまりさの顔を見る俺。ゆうかも同じようにまりさの真剣な顔を見つめていた。
「まりさたちは…にんげんさんにかってもらうために…あかちゃんをうめないからだにされたのぜ」
「………」
ゆうかが黙りこくる。この時ばかりは…俺も普段はクソ饅頭クソ饅頭言ってる、このまりさの“言葉”を黙って聞
いていた。
「だから…どんなにあかちゃんがほしくても…あかちゃんをそだてたいとおもっても…それはできないのぜ」
聞いたことがある。「飼いゆ保護法」でペットショップに並ぶ飼いゆっくりは、野良ゆに無理矢理子供を作らされ
ることがないよう、市場に出回る前に去勢をされるという話を。考えてみれば、そうだ。まりさも、ありすも、ちぇ
んも、ぱちゅりーも…みんな、元・飼いゆだと言っていた。誰一人…子孫を残すことはできないのだ。
「でも…ゆうかはおはなさんをそだてることができるのぜ!まりさたちにはできないことを…ゆうかはできるのぜ!」
ゆうかが俯く。泣いてるんだろう。体全体を震わせている。
「ゆうか!!!!」
まりさが耳元で怒鳴りつけた。ゆうかがようやく口を開く。
「…むりよ…」
何がだ…?花を育てるのが?それとも、花を置いて逃げるのが…?まりさもゆうかを睨みつけていた。
「わたしは…あなたたちみたいに…はやくははしれないもの…」
まりさと“俺”の目が合う。同じことを考えたらしい。饅頭と同じことを考えていたのはちょっと、アレな気分だ
けども…今は悪くないように思う。“俺”はゆうかの頭を。まりさはゆうかのあんよを。それぞれ持ち上げた。戸惑
うゆうか。
「え…っ?ちょっ…?」
『「ゆっくりはしるよ!!!!」』
初めてだ。饅頭とハモった。ゆうかを二人がかりで抱えて、花畑の奥へ奥へと走り出す。向日葵を薙ぎ倒すのに夢
中になっているのだろう。クソガキ共は気づかない。もし気づかれたら…仲良く殺されていただろう。もうじき日も
暮れる。あのクソガキ共が帰るのも時間の問題だ。せめてそれまで…身を隠せていればいい。走りながら…ゆうかが
何かつぶやいたような気がした。
「…が、とう…」
何を言ってるかまではわからないから、とりあえず全力疾走する“俺”とまりさ。身を隠せそうな場所についてか
ら、ゆうかをゆっくりと降ろした。“俺”もまりさも息が上がっている。ゆうかは何も言わないまま、もそもそと離
れていった。
「れいむ…ゆうかのこと…」
『ゆうかは…いいゆっくりだよ…それはれいむにもわかるよ』
「れいむ…っ」
一息ついていた“俺”とまりさの前に、再びゆうかが現れた。ゆうかは口に咥えていたものを吐き出すと、目をそ
むけて
「…あげるわ。たべなさい」
ゆうかが置いていったのは里芋だった。2個置いてある。先ほどの一件があったので、“俺”はすぐには食べられ
ない。
『ゆうか……』
「…………」
ゆうかは何も答えない。“俺”は黙り込んでしまった。でも、今は黙り込んでる場合じゃないと思いなおした。非
を認めている。それなのに、相手に詫びを入れないのは…筋が通らない。それは人間だろうが、ゆっくりだろうが…
同じことだ。
『ゆうか…ごめんなさい』
まりさも“俺”のほうを見ている。まりさにとっても意外だったのだろうか。思えば、この姿になって…こんなに
真剣に謝ったのは…初めてだったかも知れない。“俺”はずっとゆうかの後姿を見ていた。振り向いてもらえるまで、
見ているつもりだった。
「…いいのよ…。わたしのほうこそ…あなたたちにいわなければいけないことがあるわ」
振り返るゆうか。うっすらと涙と笑みを浮かべ、
「たすけてくれて…ありがとう」
“俺”とまりさは並んで自分たちの巣穴に帰る途中だった。まりさの帽子がいつになく盛り上がっている。ゆうか
は“俺”たちに野菜と花の種を分けてくれた。ついでに、ゆうかが育てた野菜…里芋、じゃがいも、ニンジンなども
おすそ分けしてくれた。ゆうかは自分の育てた野菜を渡す時に、照れくさそうに
「その…おいしくなかったら…ごめんなさい…」
と、言っていたが“俺”もまりさも、“おいしくないわけがない”と言った。ゆうかは“たべてみなければわから
ないじゃない”と言った。お互い、それ以上は何も喋らなかったが…なんとなく顔を見合わせて笑った。
「ゆうかがそだてたおやさいさんだもんね!おいしくないわけがないよ!」
帰り道、まりさが嬉しそうに“俺”に話しかける。“俺”も、思わず笑みを浮かべる。
『ゆっ!あたりまえだよ』
巣穴の前には、心配そうな表情を浮かべる、ぱちゅりーとありす、それからちぇんがいた。“俺”とまりさの顔を
見るなり、飛びついてくる。…今日も本当に長い一日だった。さすがに今日は疲れたので、“俺”もまりさも巣穴の
中に入ったら、すぐに眠りについてしまった。眠りに着くまでの間、ずっと俺はゆうかとのやり取りのことを考えて
いた。
ごめんなさい。俺はゆうかにそう言った。
ありがとう。ゆうかは俺にそう言った。
お互い、なかなか口に出せないことを…言い合った。言い合って、初めて…俺はゆうかのことを理解できた気にな
った。この4匹と行動を共にするようになってからも、何度も「れいむの意見も聞かせてほしい」「言ってくれなけ
ればわからない」と言われてきた。
自分の気持ちを、言葉にする…ということ。少なくとも…家や学校では…そういうのはなかなか上手くできなかっ
た。言わなくても伝わるだろう…と考えてるフシもあった。事実、人間は頭がいいから、表情などからお互いどうい
うことを考えてるか…ある程度はわかってくれるところがある。それも、“ある程度”でしかないのだが。
でも、ゆっくりは…そこまで賢くはないから…伝えたいことははっきりと言わないと絶対にわからない。なんとい
うか…子供の頃は、お互いに自分の意見をぶつけ合って、喧嘩して…そんなことばかり繰り返していたような気がす
る。でも、年を重ねるにつれ、それを煩わしいと感じるようになってきた。
ゆっくりは…おそらく生まれてから…死ぬまで…ずっと、こうやってお互いに意見をぶつけ合うのだろう。ある意
味では素直なのだ。…ホントに、ある、意味では。ゆっくりが人間に自分の意見を言うのも…いろんなことを要求す
るのも…素直に自分の考えを相手にぶつけてるだけなのだろうか…?もし、そうなら…人間はそんなゆっくりに対し
て…殴るか蹴るか…あるいは潰すかでしか答えを返していなかったりする…のかなぁ…?
正直、よくわからない。俺だって、人間だったときは有無を言わさずゆっくりを潰してたし。
とりあえず今日はもう寝よう。明日はゆうかから貰った野菜の種をまかないといけない。ゆうかは“わからないこ
とがあればいつでもたずねてきなさい”と言っていた。
巣穴の中、“俺”とゆっくり4匹は…正直、幸せそうな顔で眠っていたことだろう。認めたくはないが。
つづ…く?
挿絵 by儚いあき
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- ゆうかを虐める田舎者の糞ガキは、
ゆっくり死になさい!
ゆっくりできないわ
-- 2017-12-27 08:25:04
- 糞ガキ・・・溺れてゆっくり死んでね!!! -- 2012-01-28 20:42:00
- おい、クソガキ共…表へ出ろ -- 2012-01-04 16:53:17
- ↓そのれいむは学生だけどな -- 2011-08-04 23:52:57
- ゆうかがかわいい件について
ゆっくりれいむとはいい酒が飲めそうだ。 -- 2010-09-23 02:12:25
最終更新:2009年10月27日 17:07