ふたば系ゆっくりいじめ 435 俺が、ゆっくりだ! 6

俺が、ゆっくりだ! 6 18KB


『俺が、ゆっくりだ! 6』



・「俺がれいむでれいむが俺で」的設定です

・俺の考えたことは、ゆっくりでもわかる語彙であれば自動的に翻訳されてれいむが喋りやがります

・見た目、性能はゆっくり、頭脳は人間です

・「その5」を読んでいないとよくわからないかと思われます









十、

 ガツン!と本能を揺さぶられるかのような衝撃が脳内に走った。お…おあ…?勝手に…口が動くのを…と、止め…
られないっ!!!

『「「「ゆっくりしていってね!!」」」』

 “俺”とぱちゅりー、まりさにちぇんがほぼ同時にこの饅頭共特有の挨拶を叫ぶ。な、なんだ?なんなんだ?

『ゆ?ゆゆゆ?』

「あら…れいむったらまだねぼけているのかしら?こんなにとかいはなあさだというのに」

 ありすがころころと笑っている。他の饅頭共もきょろきょろしてる“俺”を見ては笑みを浮かべていた。そうか。
こいつらは確か…最初に目覚めたゆっくりが「ゆっくりしていってね!」と叫び…まだ眠っている他のゆっくりを起
こす習性があったような。そして、起こされたゆっくりも「ゆっくりしていってね!」と返事をして朝を迎える…と。
そういえば、ゆうかに会いに行った日の朝もこんな感じに起こされたっけか。

 巣穴の隅っこに置いてある、野菜と種が視界に入る。俺はゆうかのことを考えていた。そういえば…あいつは一人
であの向日葵畑にいるんだよな…と。

『ゆうかは…ひとりぼっちなんだよね…』

「ゆ…?」

「れいむ…」

 ありすは首をかしげる。まりさはゆうかのことを知っているから、心配そうに“俺”の顔を覗き込む。ぱちゅりー
は、

「むきゅっ…そういえばゆうかのところににんげんさんがきた、ってきのうはなしていたけれど…」

「そうなのぜ…。ぱちゅたちはきづかなかったのぜ?」

 それは俺も考えていた。あの向日葵畑に行くなら、ほとんど昨日の“俺”たちと同じルートを通っていたはずだ。
それならば、巣穴の前も通過しているはず。あのクソガキ共は…この巣穴に気付かなかったのだろうか?だとすれば
カムフラージュは成功…といえるのか?まぁ、そもそもゆうか含めて“俺”やまりさにも気付かなかったような連中
だ…。カムフラージュの成功云々の話は…アテにならないな…。

 っと…。

『ゆっ…』

 とりあえずふらふらと巣穴の外に出る。まりさがひょっこり追いかけてくる。昨日の一件でまりさはかなり“俺”
に心を許しているらしい。ていうか、なんだよ、ついてくんなよ…。

『ゆっ、ついてこないでね!』

「れいむ…」

 そんなにしょぼくれた顔をするな…ちょっと小便したいだけだからさぁ!

『そんなかおしないでね…れいむ、しーしーしたいだけだよ』

 うっざっっっ!!!!今までで一番ムカつく翻訳だな、おい!!!!…ハッ。

「ゆっ!みんなー!みんなでいっしょにしーしーするのぜっ!!!」

 ちょっと、ちょっと待ってくれぇい!!!!5匹がかりで連れションっすか?馬鹿か?お前ら!!!

『ばかなの?しぬのっ?!』

「あら…こんなことぐらいではずかしがるなんてとかいはじゃないわ」

「むきゅっ、ふつうのことだとおもうのだけれど」

「わかるよー!れいむははずかしがりやさんなんだねー!」

 お…お前らに羞恥心ってものはねーのか!!!なんとなくだが、ありすとぱちゅりーはどっちかっていうとまだ
女のコっぽさがあると思っていただけに、ちょっとびっくりだ!まりさとちぇんは…なんだろう…。どこででも垂
れ流しているイメージが…。

『ゆ?』

 おい、おいおい。何を並んでるの。一列横隊?一斉になんか身震いし始めたし…、あ、それすごいムカつく。そ
のこれから何かをやり遂げようとしてる感じの自信たっぷりの笑顔がムカつく。

「「「「しーしーするよ!!!」」」」

 なんという…整然とした…放尿…。呆気に取られて尿意が完全に収まる、俺。ほぼ同時に饅頭どもの放尿が終了
すると、“我、成し遂げたり”と言わんばかりの顔で、

「「「「すっきりー!!!」」」」

 叫びやがった。もうホント、呆然とせざるをえない俺。完全に置いてけぼりです。

「れいむはしーしーしないのぜ?」

「ほんとうにはずかしがりやさんなのね…」

「むきゅきゅ!」

「わからないよー!しーしーはみんなでしたほうがきもちいいんだねー」

 ごめん。理屈がわからん。ちっともわからん。ていうか、危なかったな…。まさか、今のがネットで噂の“すー
ぱーしーしーたいむ”か…っ?!危うく、人としての尊厳をまた一つ粉々に砕かれるところだったぜ…。決めた。
暴飲暴食は絶対にすまい。この饅頭共のことだ。次は“すーぱーうんうんたいむ”に巻き込まれかねん。

「ちーちーしゅりゅよ!」

 …………。

『…………』

 饅頭共も固まっている。放尿後の状態で固まっている。何…?今の声…?一番端っこにいるありすのすぐ横に…
なんか、ちっちゃいありすがいる…。饅頭共の視線を一斉に浴びて、その赤ありすは少し怖くなったのか…

「ゆ…ゆぅ…ごめん…しゃい…」

 ありすの後ろに隠れた。えーと…?隠し子か何かですか…?でも、こいつら元飼いゆだから…子供はできないは
ずだったのでは…?“俺”も含めて完全に理解不可能な状態で硬直しているわけだが…。あ、わかったぞ。人間に
ゆっくりが酷い目に遭わされてるときに状況整理が追いつかなくて、フリーズすることがよくあるけど、今がまさ
にそれの状態なんだ。うん。ごめん。まったく動けない。

「あ…ありしゅ…おねーしゃんたちがみんにゃでなかよくちーちーしてりゅのみちぇ……ぅ…ゆ…ゆぇ…っ」

 泣きだす理由がわからん。

『なくりゆうがわからないよ』

 えっらい、冷たい声で言ってくれたなぁオイ!!!こんな…えーと…プチトマトかピンポン玉くらいのサイズの
饅頭を前に、なんでそんな言葉がかけられる!!!お前は鬼か!!!ああ、お前は…俺か…。だが、“俺”の発言
は饅頭共の硬直を解くには十分のようだった。一番近くにいたありすが赤ありすの顔を舐めている。ああ、慰めて
あげてるんだな。…理解してる自分が際限なくイヤだけどね。

「おちびちゃんなかなくていいのよ…?ぺーろぺーろ…」

「ゆっくち…ゆっく…ゆぅぅぅ…」

 隣にいたぱちゅりーと目を合わせる“俺”。お互い、言いたいことはなんとなくわかっているらしいな。まりさ
とちぇんは呆けたままだが…。

「れいむ…」

『ゆぅ…』






「むーちゃ、むーちゃ…ちあわちぇぇぇぇぇ!!!!」

 とりあえずゆうかに貰った野菜を食わせてみたが…。おお、おお。さっきまでぴーぴー泣いてた豆粒が…。何、
涙目で喜んでやがる。…やべぇ…忘れかけていた嗜虐心がガンガン蘇ってくる。俺はこいつを見てるのは耐えられ
ないとみたね。巣穴の外に行って、野菜畑を作る準備でもするか…っと……え?

「ゆっくち…」

 ………。

『………』

 何かな…?この豆粒はぁ…。何踏ん張ってリボンの端っこ咥えてやがんだぁ?あ?…っと待った待った待ったー
ーーーー!!!!くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!

「おにぇーしゃん…おこっちぇりゅの…?ありしゅ…ごめんしゃいしゅりゅから…ゆりゅちてにぇ…?」

 潰しちゃダメだ

 潰しちゃダメだ

 潰しちゃダメだ

「れいむ…こんなかわいいちびちゃんのまえでそんなこわいかおするなんてとかいはじゃないわ…」

「わかるよー!れいむはちっちゃいこがにがてなんだねー!」

 苦手って言うか、ねぇ…。ぱちゅりーは何を真剣な眼差しで俺を見てやがる…?

「むきゅ…れいむは…このこをどうおもうかしら?」

 ぱちゅりーにそう質問されて、初めて冷静になったのだろうか。よく考えてもみろ。なぜ、こんな親がいなけれ
ばすぐに捕食種や動物の餌食になるような赤ありすが、一匹でこの辺りをうろついている…?おお…今回ばかりは
ゲロ袋のほうが一枚上手だったな…。赤ありすを見て気が動転していたのだろう(ヒャッハー的な意味で

『ゆっ!ちびちゃんにききたいことがあるよ…』

 努めて怖がらせないように言ったつもりだ。赤ありすが“俺”の方を見る。つぶらな瞳で。あぁ、ホントにもう!

『ちびちゃんは…どうしてこんなところにひとりでいるの?おかあさんは?』

「ゆ…ゆぅぅぅ…」

 赤ありすはすでに涙目だ。まあ、全部を聞きだす必要はなかった。恐らくこの赤ありすの親は何者かに既に殺さ
れている。心当たりのほうが多すぎるがな。捕食種、野生動物…人間…。ペットショップで売るために…野生ゆ狩
りなんてのも行われてるみたいだし…。しかし…ホント、死亡フラグの塊みたいな連中だな。改めて。…ていうか
俺もたった3日で何度死ぬ思いをしたことかわからないけどよ。

『…まりさ、ちぇん、ぱちゅりー…れいむたちはおやさいさんをそだてるはたけをつくりにいくよ。ありすはちび
 ちゃんを…』

「むきゅ!それははんたいだわ」

 え?何が?

『ゆ?』

「れいむは…ぱちゅたちのりーだーだから…」

『だからなんなの…?』

「…むれをおさめるりーだーにじぶんのこともほうこくできないゆっくりをおいておくわけにはいかないのぜ」

 詰まる所、この赤ありすを追い出すこともやむなし、って考えてんのかこいつら…?ていうかリーダーねぇ…。
別に誰がなってもいいような気がするけど…こいつらなら…。

「むきゅ…とつぜんごめんなさい…。これはきのうありすとちぇんとはなしあってきめたことなの」

「…とかいはなむれをつくるには…むれをおさめるりーだーと…むれのおきてがひつようだわ」

「そうだよー。りーだーはれいむがいいとおもうんだねー…」

「まりさもあかちゃんのころは、むれのりーだーにあいさつをしにいったのぜ…」

 最低、それができなければ群れの一員としては認められない、ってわけか。わからんでもないが…。そもそも俺
たちは群れ、と呼べるのか?たった5匹だぞ?

「ありしゅ…」

 今のやり取りを聞いていたんだろうか、この赤ありす。突然喋り始めた。泣きながらだが。俺の意見としてはと
りあえずこいつが落ち着いてから話を聞かせてもらえばいいと思うんだけどなぁ…。

「ありしゅの…おかーしゃんは…にんげんしゃんに…つれちぇいかれちゃったよ…」

 4匹の表情が凍りつく。“俺”はまぁ、別にそんなのはゆっくりにとってごくありふれた悲劇だと思ってるから
そんな驚くほどのことでもなかったけど。正直、対策どーすっかなぁ…ってほうが先に頭をよぎったしな。あ…そ
うか…こいつらも…同じ目に遭ってるわけか…赤ん坊のころに。

 途端に巣穴の中が暗くなったな…。重苦しい雰囲気に包まれちまったよ…。やれやれ…。良くも悪くも…こいつ
らにでかい影響を与えてくれちゃってまぁ…。だが…人間がこの辺りまで入ってくる、ってのは昨日のクソガキ共
の件も合わせて、もう間違いないみたいだな…。どうする…?巣穴を…森の奥に移すか…?

「れいむ…ゆうかのところにもきのうにんげんさんがきたのぜ…?」

 同じことを考えていたか、まりさよ。さすがに赤ありすの親を連れ去った人間とは無関係だろうけど…。考えて
る暇はないか…。これまでの考えが甘かったんだ。もっと…もっと森の奥へ行く必要がある。

『ゆっ!みんな!ゆっくりしないできいてね!』

 一斉に饅頭共が“俺”のほうを向く。恐らく、何を言いたいかはわかってるんだろうな。表情とか目とか見れば、
“俺”の言葉を待っているだけ、のように見えなくもない。

『あたらしいおうちをさがすよ!』











十一、

 ゆっくりが簡単に全滅する理由の一つに、絶望的なまでの“危機意識の低さ”が挙げられると思う。その点、こ
の元飼いゆの野良共は…街でくぐってきた修羅場の数が違うのだろうか。そのあたりの意識はゆっくり水準では高
いように思う。今回のメンバーは、“俺”とまりさとぱちゅりー。いきなり、集団で新しい住処を探して動き回る
ような危険は冒さない。出発前に、ぱちゅりーから何故自分を連れて行くのか、と聞かれた。

 恐らくはここ数日の間に知りうる限りで2度、人間が自分たちの巣穴の周りに現れている。野生ゆ狩りは毎日行
われているわけではないから、そう何度も人間に遭遇するわけではないだろうが…。警戒をしておくに越したこと
はない。…ぶっちゃけ、ぱちゅりーが巣穴に残っていたら、いざというときに逃げることができないだろうから、
という理由なだけだった。

 ありすとちぇんなら…逃げ切れる可能性がある。まぁ、正直…“俺”をリーダーとして見てくれるなら…まりさ
は食糧調達係。ぱちゅりーはご意見番…と言ったところだろうか。ベースとなる地点を決めて…後は“俺”が周囲
を探索していく…。そのためにも、まずは安全な場所の確保だ。最悪、自分たちで穴を掘って作ることになるかも
知れない。周囲を探索してみて…危険が少なそうということがわかれば…その近辺で本格的に住処にできそうな場
所を探す…という寸法だ。

 途中、ゆうかを尋ねた。この近くまで人間が来ている、という話をすると相変わらずの冷静さで「新しい住処を
探す」と答えた。まりさとぱちゅりーは一緒に来ないかと誘っていたが、ゆうかは断った。慣れ合いは好きじゃな
いんだろうか?

「れいむ…おやさいさん…まだつくれそうにないね…」

『ゆっ…しかたないよ…。ふゆさんがくるまえににんげんさんにみつからないようなあたらしいおうちをさがすほ
 うがさきだよ』

「むきゅ…そうね…えっとうのじゅんびもしなければいけないわ…」

 ぱちゅりーを真ん中に、“俺”が前、まりさが後ろという配置でそれぞれ周囲を見渡しながら進んでいる。人間
なら、踏み進んで行くところだが…この姿だとちょっと背の高い草が目の前にあるとそれを避けて通らないといけ
ない。…逆に言えば、身を隠せてることになるんだろうが。

 この森は…どこかに大きな谷があったはずだ。子供の頃、今通ってるルートとは違うけれども…父親と夏休みに
クワガタを取りに来た記憶がある。そこにも…小さな川が流れていたような気がする。少し見晴らしのいい場所ま
でたどり着ければ…街を見渡せる場所が見つかれば…ある程度、その谷付近の予想がつくのだが…。谷付近は加工
所とも反対方向のはずだから、加工所職員に捕まる可能性も薄いだろう。まりさにもぱちゅりーにも言っていない
が、出発する前からある程度向かう場所は決めていたのだ。

「それにしてもありすはうれしそうだったのぜ」

 まりさが口を開いた。確かに。自分に似た…というかほぼ自分のプチトマトみたいな存在がぴょこぴょこ跳ねて
ついてくれば…可愛がり甲斐があるというもんだろう。ありすはすごく喜んでいたように思う。なまじ、自分も同
じ境遇に立たされてるから、余計に思い入れは強いはずだ。それは、こいつらも同じなわけだが。

「むきゅ…そうね。ぱちゅたちはあかちゃんをつくれないから…ありすにとってはじぶんのちびちゃんみたいにお
 もってるのかもしれないわ」

『ありすにそっくりだしね…』

 自然と会話がつながるのは喜ぶべきことか、否か…。もう、なんとも言えないな本当に。

 出発するまでの間、ありすはずっと赤ありすの面倒を見ていた。もともと世話好きなありすだ。ぱちゅりーの言
うように本当に自分の子供のように思っているのかも知れない。そんなことを考えていると、

「むきゅ…れいむ…あのちびちゃんは…どうするの?」

 まりさも不安そうに“俺”の顔を覗き込んでいる。

『…ぱちゅりーは…どうしたいの?』

「むきゅ…」

「れいむ…」

 正直、新しく住む場所も探さないといけない、冬に向けて準備もしなければいけないというこの状況で、自分た
ちの役に立たない…どころか世話役に一匹人員を割かないといけないことを考えれば…あの赤ありすの存在に有益
なものは何もない。何もない…が。あの赤ありすがやって来なければ…こうして新しい住処を探す必要があるとい
うことにも気付けなかったかも知れない。現に、俺は野菜を作る気満々だった。

『ちびちゃんさえよければ…れいむたちといっしょにくらしてもらうよ』

「むきゅっ…いがいだわ…」

 なんでだよ、ゲロ袋?

『ゆ?なんなの?』

「ご、ごめんなさい…!その…れいむはあのちびちゃんのことをすきだとはおもってなかったから…」

 まぁ、好きじゃないな。

『すきじゃないよ』

 訳さないでください。こんなこと…。まるっきり嫌な奴じゃねーかよ。

「じゃあ、どうしてなのぜ?」

『こまってるゆっくりをほっておくほど…れいむはばかじゃないよ』

 我ながらキモい。以前の俺は、困ってるゆっくりはおろか、幸せそうなゆっくりもいじめ抜いてきたわけだが…。
あの赤ありすは正直嫌いだ。というか、元々子供自体が好きじゃないんだよな。絶対保父さんとかなれないタイプ
って自分でわかるくらいの勢いで。…だから子供っぽいゆっくりも見てるだけで癇に障るっていうか、ね。

 沈黙がちょっと恥ずかしい。なんか喋れや馬鹿饅頭共が…。…って、おお?

『ゆゆっ?』

 森が途切れて光がさしている。だいぶ高いところまで登ってきたはずだ。もしかしたら街が見えるかも知れない。

『ゆっくりぴょんぴょんするよ!』

 走ろうとしただけでこれか…翻訳機の域を超えてやがるな…チクショウ…。まぁ、ジャンプを繰り返して前に進
んでるわけだから…当たってはいるんだけど。行動をいちいち口にするのは慣れないなぁ。考えてることならまだ
我慢できるんだけど…!自分にビキィ!してるのがいろんな意味で虚しい。

 視界が開けた。眼下には街が広がっている。まりさもぱちゅりーもこの風景を見て…色々と思うところがあるの
だろう。ただ無言で街を見下ろしていた。…思えば遠くへ来たもんだ…。いや、ゆっくりの足で、という意味でね。

 あ…俺の家が見える…。学校も…。父さんと母さん…どうしてるかなぁ…。“れいむ”は…大人しくしてるだろ
うか。

『ゆゆっ?!』

 思わず叫ぶ俺。まりさとぱちゅりーが“俺”を見る。

(しーしーするね!!!!)

 中身が…“れいむ”で…外見が俺なら…。………。よそう、考えるのは。悲しくなってくるだけだ。





 あれから数時間歩いて…“俺”たちは俺が目指していた谷の付近までたどり着いた。谷底には小川が流れている。
ここまでは余程のもの好きでもなければ人間は入ってこないだろう。最近は、クワガタ取りなんかに来るガキもい
ないし…。何より危ない場所だから大人が近づけないはずだ。巣穴を最初から掘らなければいけないのが、辛いと
ころだが…。水場も近い。谷の斜面を掘って平坦面を作れば、野菜を育てるスペースも十分にあるだろう。少し、
日照条件が悪いが…。尾根の頂上まで登れば、太陽の光を浴びることもできるし、街を一望することもできる。次
は、ありすとちぇん、それから赤ありすを連れてこの谷に移動するのが目標だ。

「ゆっくちぃ!」

 巣穴に帰りつくと、赤ありすがぴょんぴょん跳ねて出迎えてきた。途中で拾ってきた野イチゴを食べさせてやる。

「むーちゃ、むーちゃ…ちあわちぇええ!」

 “俺”は巣穴の中の饅頭共に移住する場所が決まったことを告げた。ここからは結構距離がある。記憶が正しけ
れば明日は木曜日。先日、ゆうかの所に現れたクソガキ。今度は授業がある午前中を狙って…動く。問題はそれ以
外の人間だが…今日、通ったルートを進む限り、遭遇するようなことはないだろう。脅威になりそうなのは…捕食
種だけだ。

「やっぱりありすはきようなのぜ!」

「むきゅっ!とてもすてきなかみかざりだわ」

「わかるよー…すっごくかわいいんだねー」

 赤ありすの髪にはありすが作ったのであろう、小さな花の髪飾りが付けられていた。ありすも、赤ありすも嬉し
そうだ。柄じゃないが、思ったね…。こいつらの…こういうところは…嫌いじゃない。仲間思いのいい奴ら…。

『ちびちゃん…』

「ゆ?」

 ありすだけが不安そうな視線を送る。

『ちびちゃんがよければ…れいむたちといっしょにくらさない?』

 ありすの顔にぱぁっ、と笑顔が浮かぶ。赤ありすも目に涙を溜めながら、

「ゆっくち…!いっちょにくらしゅよ!!!」

 答えてくれた。ま、このちびの世話はありすに任せるとして…。当面はあの場所にどうやって巣穴を作るかを考
える必要がある。これについての会議は、今日の3匹にちぇんを交えて行うことにした。ありすは赤ありすの子守
にかかりっきりだったから、話し合った結果だけ伝えると約束した。

 たった数日間しかこの場所にはいなかったけれども…。それぞれ思い入れがあったのだろうか。たまに巣穴の中
を見渡しては物思いに耽ってる饅頭共がいた。“俺”もそのうちの一人だったかも知れない。

「れみりゃにおそわれたときは、もうだめかとおもったのぜ…」

「ぱちゅがれいむをたすけたんだねー!かっこよかったよー」

「むきゅぅ…はずかしいわ…」

 本当にいろんなことがあった。でも、この場所も手放さなければならない。付近に現れた人間のせいで。ゆっく
りたちは毎日、こんなことを繰り返して生きているのだろうか。家族を奪われ、住む場所を奪われ…。…普通のゆ
っくりはそれでも泣き寝入りするしかない。人間と戦う術がないのだから当然だ。でも…“俺”たちは違う。戦う
術こそ持たないが…人間から逃げる術は持っている。生き延びるために、逃げるのだ。

 出発は明日の午前九時。学校のチャイムが聞こえてくるので時間は正確に把握することができる。移動ルートは
今日と同じ。街を見渡した丘の上で休憩。昼過ぎには、目指す場所にたどり着く計画だ。

 赤ありすを寝かしつけたありすにもその旨を伝え、この巣穴での最後の夜を…6匹固まって過ごした。寝息が聞
こえてくる。ありすが小声で話しかけてきた。

「れいむ…ありがとう…」

 …………。

『………』

 俺は寝たフリをしていた。ありすが、小さくクスリと笑った。









 思えば、これが…このメンバーで過ごした最後の夜だった。










つづ…く?

挿絵 by余白あき



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感想

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  • これはいい仏頂面 -- 2011-04-12 16:02:21
  • ↓その意見にはすごく同意できる。絵はともかく文章が巧いのは役に立つしね。 -- 2010-08-20 01:11:12
  • 余白あきさんは絵も可愛いし文章も上手だし尊敬する -- 2010-08-01 00:13:29
最終更新:2009年10月27日 18:04
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