おきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅちできりゅね! 38KB
「ゆゆ~ゆゆゆ~♪」
一人暮らしの男の家の庭に耳障りな音がする。
「おきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅちできりゅね!」
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ゆゆ~んてれるよ~♪」
無意味に甲高い声が響いている。
よくゆっくりが人のいない隙に庭や家に入り込んでするお家宣言だ。
普段ならば無理矢理追い出すか処分するのだが、この家の唯一の住人である男性はちょっとばっかり…感性が常人とは違っていた。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!
ゆゆ、どうしてにんげんがここにいるのおお!?」
ゆっくりれいむが男が出した声に反応して反射的に答える。
その子供であろうゆっくり赤れいむとゆっくり赤まりさが二匹ずついた。
「ここはれいむとおちびちゃんのゆっくりプレイスだよ!
じじいはゆっくりしないでどっかいってね!」
親れいむはふてぶしくそう宣言する。
「そうなんだ…ここが君達のゆっくりプレイスなのかい?」
「そうじゃよ!あちょきょがまりしゃちゃちのおうちだよ!!」
そう言う目線の先には裏口に置いてある昔犬を飼っていた頃に買った今は使われてない犬小屋だ。
家の外壁にくっつくように置かれて、犬小屋のさらに上に雨風を凌げるように屋根が取り付けられており、塀と家に三方に囲まれて風も凌げ、ゆっくりにはかなりいい物件だ。
こいつ等はどうやらそこへ勝手に住み着いたらしい。
いくら手付かず草木がぼうぼうな庭であろうと普通ならば追い出すだろうがこの男は普通の人とは価値観が違っていた。
「それはゴメンね。
ところで…君達さっきおうたはゆっくり出来るって言ったよね?」
「ゆ!しょうだよ!おきゃあしゃんのおうちゃはとっちぇもゆっきゅりできりゅんだよ!!」
「しょうじゃよ!ずっちょずっちょききちゃいきゅらいだよ!!」
「そっか…ずっと聞きたい位か…それなら…」
男は旧式のボイスレコーダーを取り出した。
「ちょっとこれにその“おうた”を聞かせてくれないかな?」
「ゆゆう、れいむのうつくしいおこえをききたいならあまあまをよこしてね!!」
ふてぶてしいのままこちらに注文をつける親れいむ。
この時点で潰されても何もおかしくはない。
そもそも男もゆっくりのおうたを聞きたいなんて酔狂にも程がある。
「仕方ないね…ちょっと待ってね」
そう男が告げると一旦家に戻り、あまあまではなく一本の人参を渡した。
あまあまだと舌が肥えてしまうという男のゆっくりに対する無駄な配慮だった。
第一野菜でもゆっくりは舌が肥えて畑を襲いだすから、あまり意味がない。
街ゆっくりだからその点は心配ないかもしれないがこれだけでも男があまりゆっくりに対しての知識が無い事がわかる。
「ゆゆう、あまあまじゃないけどしょうがないね!こころのひらいれいむはうたってあげるよ!」
しょうがないと言っている割にはよだれをだらだら垂らしているがツッコむ者はいない。
「ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~♪
ゆ~ゆゆゆ~まったりのひ~♪ゆっくりのひ~♪」
耳障りな雑音が響く。
隣家が空き家なのがせめてもの救いだ。
完全な公害なのだが何故か男は嫌な顔一つせず聞いている。
「ゆっきゅちできりゅね~♪」
「れいみゅもうちゃうよ!
ゆ~ゆゆゆ~♪」
周りのゆっくりも触発されて歌い出したり聞き惚れたりしていた。
そして数分後。
「ゆゆ~ん!おきゃあしゃんのおうちゃはとっちぇもゆっきゅりだっちゃね!」
赤れいむが賞賛の声を上げる。
人間からすれば音程もリズムもへったくれもないただの甲高い耳障りな雑音だったがゆっくり達にはゆっくり出来たらしい。
「れいむのおうたをきいてゆっくりできたでしょ!
だからさっさとあまあまよこしてね!」
先に貰った人参の事を忘れて男に言う親れいむ。
「そうだね、それじゃあはい」
男はそう言ってまた人参を渡した。
親戚から大量に送られて来ているので余裕があるのだ。
「ゆうう、あまあまじゃないけどもらっといてあげるよ!
ぽ~りぽ~り…しあわしぇええええ!!」
子供そっちのけで人参に舌鼓を打つ親れいむ。
れいむ種が母性が強いって嘘なんじゃないだろうか?
「ところでさっき君達はお母さんのおうたをずっと聞いていたいって言ってたよね?」
「ゆ!?しょうだよ!おきゃあしゃんのおうちゃしゃんはそりぇきゅらいしゅごいんだよ!」
「そっか…ならこれをあげるよ」
男はそう言ってボイスレコーダーを見せる。
「ゆ、なにそれ?あまあま?」
人参を一切子供に渡さずに食い尽くした親れいむが反応してくる。
「これはね、さっき歌っていたおうたを何回も聞ける道具なんだよ」
そう言ってスイッチを押すと、
『ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~♪』
「ゆゆう!?おきゃあしゃんのきょえだ!!」
「どうしてれいむのきれいなきれいなうたごえがきごえ゛でるの゛お゛お゛お゛お゛!!?」
「やっぴゃりおきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅりできりゅね!」
機械の存在なんて知らないゆっくりは驚きを隠せない。隠す素振りもないが。
「いいかい、れいむ。
このボタンのスイッチを押すとおうたが流れて、このボタンを押すとおうたが止まるんだ。
これがあればおちびちゃんにずっとおうたを聞かせてあげられるよ」
「ゆ、ゆうううう!?
ちゅごいちゅごいいい!!」
「ゆわあああああああああ!!?」
「はやくそれをよこしてね!!
そのあとあまあまおいてどっかいってね!!」
礼儀というものを知らない親れいむの催促に男は眉一つ変えず、
「それじゃあ使いやすいようにおうちに貼っておいてあげるね」
男はそう言いながらおうちを乗っ取ろうとしていると勘違いしているれいむ一家の体当たりをものともせずに
犬小屋の内壁にテープでボイスレコーダーを貼付けた。
「これでおうちにいる時は好きにおうたが聞けるよ」
「ゆ、ゆううううううう!!?」
「やっちゃ!やっちゃ!」
「ならじじいはあまあまおいてどっかいってね!!」
男に見向きもせずにボイスレコーダーを見て目を輝かせるれいむ一家。
男はそんなれいむ一家を見て満足そうに少し腐った人参を渡して家へと戻って行った。
庭も手入れしておらず別にどうでもよかったので放置する事にしたのだ。
街の野良ゆっくりの寿命は極端に短い。
ならば少し位はゆっくりしてもいいのではないか?
そんな変な所で出た男の無駄な仏心でれいむ一家は犬小屋に住む事を許されたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
れいむ達はボイスレコーダーを受け取ってどうしたかというと、れいむ一家は次の日になるまでその
ボイスレコーダーの事をすっかり忘れていたのだった。
昼に差し掛かる時間、朝から延々と流れ続けた雑音が急遽止まった。
「ゆひーゆひー…おちびちゃん…ずこしやずまぜてね…」
「ゆゆーん。もっちょおうちゃききちゃいよー!」
「おうちゃはゆっきゅりできりゅよー!!」
どうやら子ゆっくりのリクエストで延々親れいむはおうたを延々と歌わされたらしい。
「ゆ、ゆう…そ、そうだよ…あのじじいがよこしたおどうぐをつかおうね…」
歌うというのは存外疲れるものだ。
何とか休む方法を少ない餡子で考えた結果、ボイスレコーダーの存在を思い出せた。
「ゆ!?しょうだね!ありぇがありぇばずっとおうちゃをきいちぇりゃりぇりゅね!」
「おきゃあしゃんはやきゅきかしぇちぇよー!!」
「ゆぅ…わかったよ…」
息も絶え絶えになりながら犬小屋の中にあるボイスレコーダーの前へ跳ねていく。
そして…、
「どうぐさん、ゆっくりしないでおうたをながしてね!!」
目の前でそう叫んだだけだった。
昨日男から聞いた操作方法はすっかり忘れ去られていた。
所詮ゆっくりに機械は過ぎたものだったのだ。
『…………………』
音声で反応する機能がある訳のないボイスレコーダーがそれで反応する訳がない。
「むししないでね!!
はやくおうたをながしてね!!」
疲れてるせいか…いやゆっくりだからか、親れいむは声を荒げる。
勿論そんな事でボイスレコーダーは動かない。
「ゆううううううう!!?
なんでじじいのいうこときくのにれいむのいうごどぎがないの!!?ばかなの!?じぬの!?」
いくら叫んでも反応する訳が無い。
ただでさえ皆無に等しい我慢が限界を迎え、親れいむの怒りが頂点となる。
「ぷくうううううう!!!
れいむのいうことをきかないクズはゆっくりじねええええ!!!」
親れいむは本末転倒な叫びを上げてボイスレコーダーの貼られた犬小屋の壁に体当たりする。
ボイスレコーダーは壊れる程やわではない。
しかし老朽化した犬小屋は今の攻撃で下の土台が壊れてしまい若干斜めになって
しまった。
まぁれいむ達は気付いてないので気にする程のものではないだろう。
しかし、偶然にもそれが再生ボタンを押し、また雑音が響き始めた。
『ゆ~ゆゆゆ~ゆ~ゆゆゆ~…♪』
「やっちゃあ!おうちゃじゃああ!!」
「ゆっきゅりできりゅよ~♪」
「れいむのつよさをようやくりかいしたみたいだね!」
喜びに湧く二匹に誇らしげに無い胸をはる親れいむ。
そして雑音を響かすボイスレコーダー。
れいむ一家は気付かない。
これによってれいむ一家はゆっくりできなくなる未来が待っているという事に…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方その頃、折角の休日なので、れいむ一家のボイスレコーダーを渡した男は一人自宅で寝転がっていた。
ヘッドフォンをして音楽を聞いていたから外の雑音が耳に入る事はない。
「やべ…明後日台風来るのかよ…」
携帯でニュースを見ていた男はまったりと休日を過ごしていた。
だが何か変な雰囲気を感じ取った男は何ともなしに庭の方を見てみる事にした。
そこでは、一匹の成体まりさが親れいむに体当たりを仕掛けていた。
何かあったのか?
男は首を傾げながらも野次馬精神で親れいむ達のいる庭へとゆっくり玄関から回っていった。
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「ばかなれいむはゆっくりしぬんだぜ!!」
「ゆぴいッ!!?」
「やめちぇね!おきゃあしゃんいちゃぎゃっちぇりゅよ!!?」
「どうちちぇぎょんなきょちょずるこぼお゛お゛!!?」
男が庭に来た頃にはボロボロの親れいむとそれに尚も体当たりする体格が通常の成体ゆっくりよりも若干大きいゆっくりまりさ。
それの周りでやめるように懇願する赤まりさとただ騒ぐ赤れいむがいた。
どうやら庭に侵入してきた野良まりさがこのれいむ一家を襲撃したらしい。
ヘッドフォンをしていたし、家はゆっくり対策用の強化ガラス&防音設定にしていたから男は気付かなかったが、
おうたがさっきから結構な音量で流れている。
これは自分の場所をここですと告げているようなものだ。
それに、端から見ればこのれいむ一家は飼いゆっくりのように見えてしまう。
幸せそうにおうたを歌うれいむ一家に怒りをぶつけても仕方が無いだろう。
と男はまたまた無駄な所で変な洞察力を働かせた。
普通は家の敷地に侵入してきたゆっくりなど潰してごみ箱か無理矢理追い出すかが常識だ。
しかしこの男は少し一般人とは何と言うか…思考が違っていた。
「ゆうう!!じじい!はやきゅおきゃあしゃんをたちゅけりょおお!!!」
男に気付いた赤まりさが男に叫ぶ。
人参とおうたをきける道具をよこした男はれいむ一家にとって下の存在とされていたのだ。
すると、男が行動するより早く親れいむを攻撃していたまりさが男の方を向き、
「おにいさん!まりさはこのにんげんさんたちにめいわくをかけるわるいゲスなゆっくりをせいっさいしてるんだよ!!」
と言ってきた。
それはまるで面接で自分の長所をアピールしているように感じられた。
「ゲスばぞっびでじょおおおおお!!?」
「うるさいんだぜ!!
ゲスはさっさとしぬんだぜ!!」
だが親れいむの叫びに反応して一瞬にして化けの皮が剥がれている。
「まりさはやくにたつゆっくりだよ!
だからまりさはおにいさんのかいゆっくりにしてほしいよ!!」
まりさは再び猫かぶりして男に要求を言った。
つまりはこのまりさは勝手に現れた野良を退治するからお礼に飼ってくれと言ってきたのだ。
通常は共々潰されるのがオチだが、この男は別段れいむ一家を迷惑と考えていなかったので、
別にまりさに感謝する事は無いのだが半ば嫌がらせとばかりに大量に送られて来た人参を渡して出て行って貰う事にした。
しかし飼ってくれないとわかると途端に本性を表し、
「これじゃぜんぜんたりないんだぜ!!」とか「あまあまをよこすんだぜ!!
それとかいゆっくりにするんだぜ!!」とか喚いていた。
男はそれに顔色一つ変えず、「ごめんね」と言いながら人参を渡していた。
ここを詳しく書いてもビキィ!!としかならないので割愛させてもらう。
「ゆ、ゆひぃ…おしょいよ…」
まりさにお帰りしていただいた後男は傷だらけの親れいむの側に近寄る。
「はやきゅおきゃあしゃんをなおしぇじじい!!」
赤まりさが男に命令する。
むしろここで潰した方が世の中の為ではと思うのだがこの男はストレスを感じな
いのか赤まりさに何もせずに親れいむを抱えた。
「ぎぢゃ…ないでで…ざばぶな…」
直せと言ったり、触るなと言ったり一体どうすればいいのだろうか?
実は案外親れいむの傷は見た目よりは軽微で野良ならともかく人が近くにいれば小麦粉で塞いでおいてけば大丈夫なレベルだ。
だがゆっくりに対しての知識が乏しい男ではどうしようもない。
「ゆぴぃ…なんだが…ねむぐなっでぎだよ…」
親れいむはそう言って目を閉じる。
ただ寝ただけなのだが状況が状況のため死んだようにしか見えなかった。
「おきゃあしゃんしんじゃやじゃよ゛お゛お゛お゛!!?」
「おきちぇね!?ゆっきゅりちにゃいでおきちぇね!?」
親れいむにすがる赤ゆっくり達。
「じじいぎゃおちょきゃっちぇしぇいじゃあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「おきゃあしゃんじゃなきゅちぇおみゃえぎゃちにぇばよきゃっちゃんじゃあ゛
あ゛あ゛あ゛!!!」
赤まりさは男の足元に体当たりを仕掛けている。
痛い内にも入らないが男は相手せずそのまま庭の草が生い茂っているからわかりにくいが花壇のある所へ歩いていく。
そして土をシャベルで掘り始めた。
「じじい、にゃにしちぇるんのお!?」
「お墓を作ってるんだよ」赤れいむの質問に男は答える。
「にゃにいっちぇるにょおおおお!!?
おきゃあしゃんはみゃじゃいきちぇるよお゛お゛お゛お゛ッ!!!?ばがなの!?じぬの!?」
事実その通りなのだが親れいむの疲弊しているため、か細くなった寝息はボイスレコーダーから発せられる自身の“おうた”という名の雑音で
完全に聞こえなくなっており誰にも気付かれる事はなかった。
男の頭は固い。
一度死んだと思い込んだらそいつは死んだのだ。
他の生物なら確認のしようがあるが相手は謎の生物(なまもの)ゆっくりだ。
加工所や虐待お兄さんでもない限りゆっくりの生死の境目はわかりにくい。
勘違いしてしまうのも無理はなかった。
それでもぎゃーぎゃー騒ぐので男が人参を大量にくれてやるとそれに夢中になっ
てしまい、親れいむの安否など見向きもしなくなった。
目先のゆっくりしか考えられないゆっくりのごく普通の行動である。
「ゆぴー…おちびちゃんゆっくりしてね…」
一方眠っている親れいむは今自分が埋められようとしているなんて夢にも思っておらず夢の世界でゆっくりしていた。
その肝心の寝言も、
『ゆっくりのひ~♪まったりのひ~♪』といった雑音で上書きされて男には届かない。
そうして、男は親れいむを穴に入れ、土を被せはじめた。
「ゆぎぃ!!?」
いきなりの事に流石に親れいむも目を覚ます。
だが男はそれに気付かず土を被せ続ける。
「ゆぺ!?なにずぶのお!?」
必死で親れいむは止めるように叫ぶがボイスレコーダーからの自分の歌声が親れいむ自身の声を掻き消してしまう。
「やめで!?ゆっぐりでぎな…!!?」
叫びは懇願へと変わるが男は気付きもせずに親れいむは完全に土の中へと埋められていく。
「ゆぴゃあ゛!?ごべんなざ!?ゆるびで!?」
今までの強気な態度が見る影もなくなり謝罪するが、何の効果もなくれいむはそのまま埋められた。
「さて目印っと…」
男はパンパンと土を叩きながらそう呟き、使わなくなった漬物石をその上に置いて目印としたのだった。
皮肉にもこれが重りとなり親れいむは土の中で身動きも出来ず緩やかに死んでいく事となった…。
『ゆ~ゆゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~♪』
そしてその場ににはただ耳障りな歌のみが響くだけだった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結局、赤ゆっくり達は大量の人参で親れいむの一件の話を終わらせてしまった。
人参は赤ゆっくり四匹が住むには広すぎる犬小屋の奥に山となって積まれている。
乱雑に置いたので崩れそうになっている。
親れいむが死んで尚ゆっくり出来るおうたはまだボイスレコーダーから流れてた。
それが親れいむが死んだという実感を鈍らせている。
そして当面は人参でゆっくり出来る。
所詮野良ゆっくり。
家族が死ぬのは茶飯事の事だ。
むしろ親が死ぬ事により出来る食料調達や住居の問題が無くなった今、赤ゆっくり達は存分にゆっくり出来た。
食事もあり、安定した住居もある。
そしてゆっくりできる“おうた”はボイスレコーダーに記録されている。
つまりはもう親れいむは正直な話、いてもいなくてもどっちでもよかったのだった…。
「おきゃあしゃんはいにゃきゅなっちゃけどまりしゃたちはおきゃあしゃんのぶんみゃでゆっきゅりちゅるよ!!」
「ゆっきゅりちゅるよ!!」
残った四匹が互いに寄り添ってゆっくりしている。
食って寝て、ゆっくりして遊ぶ。
次の日はそれを繰り返してゆっくりしていた。
それは四匹にとってとってもゆっくり出来る幸せな日々。
だが赤ゆっくり四匹は天候が崩れ始めているのに気付かなかった…。
そして…その天候の崩れが赤ゆっくり達がゆっくり出来なくなる要因の一つとなると知る由もなかった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ゆうう、あめしゃんゆっくちしにゃいでどこきゃいっちぇね!」
雨が降り始めて赤ゆっくり四匹は急いでおうちの中に避難する。
屋根と雨風を防ぐ壁があるため犬小屋には水が入る事はなかったが、それでも外
に出るのは危険だというのは幼い赤ゆっくりでもわかった。
目先の事しか考えられないゆっくりで尚且つ幼い赤ゆっくりであれば尚更わからなかっただろうが現在この地域は台風が直撃しており、
雨は一日中降り注いでいる。
後の調べによるとこの台風によって死んだゆっくりは街だけでも千は超えたと推定された程のものだった。
「ゆゆう、あめしゃんはゆっきゅちできにゃいよ…」
動きたい盛りのゆっくりにとって家の中でじっとしているのは苦痛であった。
「がみゃんちちぇね!
きょうはおうちでおきゃあしゃんのおうちゃをきいちぇゆっきゅちちようね!」
身体をうずうずさせながら不満そうに言うのは末っ子まりさ。
それを戒めるのが長女れいむ。
「おきゃあしゃんのおうちゃはとっちぇもゆっきゅりできゅるね!」
「ゆゆぅ…でもあめしゃんがうるしゃいよ…」
流石の大音量ボイスレコーダーも台風相手じゃ分が悪い。
次女まりさと三女れいむはおうたがちゃんと聞けなくて不満そうだ。
乱雑に積まれた人参を食うしか不満を紛らわせる方法はなかった。
すると、
「あ~あ、これじゃあゴミ出しも無理だよな」
男の呟く声が聞こえ裏口から姿を現した。
電車が運休になり不服ながらも男は今日は臨時の休みとなってしまったのだ。
「ゆ!くしょじじいのきょえぎゃしゅるよ!!」
三女れいむがそれに気付く。
「くちょじじいははやきゅあめしゃんをにゃんときゃちりょおッ!!!」
親れいむが男のせいで死んだと思っている赤ゆっくり達は男が自分達の世話をするのが当然だと思い込んでいる節があった。
男も別に何も言わなかったのがそれを真実だと尚更赤ゆっくりを増長させた。
「ん、何だか騒がしいな」
どうやら赤ゆっくり達の声に気付いたようだ。
赤ゆっくりの声は無駄に甲高いからわかったのだろう。
「どうした?」
家の壁に燕の巣が出来た位の感覚でいた男は何気なく犬小屋を覗いてみると、
「はやきゅあめしゃんをなんちょかちりょくちょじじい!!!」
「あみぇしゃんのしぇいでおきゃあしゃんのおうちゃがきけにゃいよ!!」
「ゆっきゅちちにゃいではやきゅちりょきょのきゅじゅ!!」
男の顔が見えた途端罵倒し始める赤ゆっくり達。
完全に嘗めくさっている。
だが男は赤ゆっくり達の暴言を気にも留めてないのか、
「雨は流石に無理だな…」
マジで対処するつもりだった…。
雨は対処出来ないがおうたの方は何とか出来る。
男は念の為にボイスレコーダーの電池を取り替えて、音量を最大にした。
今まで電池がよく保ったなとかそういうツッコミは無しの方向でお願いします。
「ゆゆう!おきゃあしゃんのおうちゃがちゃんちょききょえるよお!?」
「よきゅやっちゃよじじい!!
おりぇいにまりしゃがゆっきゅりちちぇやりゅからかんしゃちゅるんだよ!!」
「でみょちょっとうるちゃいよ!!
もうちょっとおうちゃをちじゅかにちりょじじい!」
「はやきゅおうたのおちょをちいちゃくちちぇあみゃあみゃもっちぇきょい!!
」
相変わらず好き勝手言う赤ゆっくり達。
だが男は別段気にせずボイスレコーダーを壁に貼り直した。
男はあまり考えてはいなかったが貼った位置は赤ゆっくりの誰にも届かない高さに貼っていた。
「ついでに…入口も塞いどいてやるか…」
ちょっとした親切心が芽生えた男はそう呟く、入口を都合よく粗大ごみに捨て忘れて置いてあった電子レンジを使って出入口を塞いだ。
これだけでも風や雨が吹き込む事は無くなっただろう。
そしてそれはある意味赤ゆっくり達が犬小屋から出られなくなった事でもあり、
そして…、
「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
「うるぢゃい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?」
今まで外に漏れていた音が内に篭る事も意味していた。
「これで存分にゆっくり出来るな。
おうたはゆっくり出来るんだもんな」
男はそれに気付かず、いい事をしたとばかりに裏口から家へと戻って行った…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
男の手によって今まで存分にゆっくり出来た犬小屋はゆっくりで言うならば“とてもゆっくりできない”場所になった。
『ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~!!!』
今まで赤ゆっくり達がゆっくり出来たおうたは一瞬にして脳に響く恐怖の音に変わった。
耳が無く、全身聴覚であるゆっくりにその音を防ぐ術はなかった。
雨や風によってゆっくり出来なくなっていくゆっくりが恐怖に怯え、飢えに苦しむゆっくりが多い中、
この四匹の赤ゆっくり達は安全なお家と十分な食糧の中、大音量で響く、本来ならとてもゆっくり出来る筈のおうたによって全然ゆっくり出来なくなっていた…。
「うるちゃいよおおおおおお!!!?」
「おうちゃをとめちぇええええ!!?」
狂ったかのように跳ね回る赤ゆっくり達。
だが跳だが跳ねているだけじゃ事態は好転しない。
騒音に精神を蝕まれていくだけだ。
「おきゃあしゃんおうちゃはみょういいきゃらゆっきゅちやめちぇね!!」
「まりしゃはみょうだいじょうぶじゃからおうちゃはやみぇちぇどきょかいっちぇね!」
おうたがボイスレコーダーから流れている事も忘れていなくなった親れいむに止めるよう叫ぶ。
本当の親れいむは今土の中で存分にゆっくり出来なくなっているのだが…。
「じゃっじゃどどきょきゃいけえ゛え゛え゛!!!?
うるしゃくちぇゆっきゅりできにゃいだりょうがあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
次女まりさがブチ切れる。
そんな事しても何の意味もないが…。
『ゆ~ゆゆゆ~ゆゆ~ゆゆゆ~♪
ゆ~ゆゆゆ~まったりのひ~♪ゆっくりのひ~♪』
雑音が内に篭り、反響し、犬小屋の何処にいても大音量の餌食になる。
ただ一つの場所を除いて。
「ゆべ!!?」
何とかして今の状況から逃げ出そうとした末っ子まりさが転んで犬小屋の中にあった人参の山の裏のわずかに開いたスペースに逃げ込んだ。
「ゆゆ!!?おうちゃがちいちゃきゅにゃっちゃよ!!?」
すると人参の壁が音を緩和したらしく、騒音から逃れる事が出来た。
全身聴覚器官でもあるゆっくりからすれば床の部分の振動が緩和されるだけでも十分楽になったのだ。
これで末っ子まりさは一安心…という訳にはいかなかった。
危機的状況で安全な場所があるとわかればそこに駆け寄るのは人間もゆっくりも同じだ。
「まりじゃあ゛あ゛あ゛!!ぞごをどげえ゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「でいぶぼいれでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「ぞごはばりざのゆっぐりぶれいずだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ
゛あ゛!!!」
末っ子まりさがゆっくりしているのを見つけた他の三匹がそこへと跳ねていく。
そこに家族の絆等は微塵もなかった。
いや、むしろ元からなかったのかもしれない。
「ゆゆう!!?こっちこにゃいじぇね!!
ゆっきゅりできにゃいよ!!?」
人参の壁と言っても乱雑に積まれた人参の山の裏側と犬小屋の壁との間に偶然入り込んだだけのものだ。
蜜柑サイズのゆっくり三匹が襲い掛かれば簡単に崩れてしまう。
「やめちぇ!!きゅじゅれりゅうううう!!?」
末っ子まりさが危険を本能的に感じて叫んだ。
だがこんな時止めろといわれて止める奴はいない。
ゆっくりならば尚更だ。
それにそもそも大音量のおうたで聞こえなかった。
「ひとりじめはよぐないよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
完全に気違いじみた長女れいむが人参に体当たりする。
成体ならまだしも赤ゆっくり程度の体当たりで人参が壊れる訳はないが不安定な山が崩れるのには十二分だった。
「ゆ、ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
人参の山が崩れた先にいた末っ子まりさに人参が降り注ぐ。
「ぎゅぶ!!?げびゃ!!?」
人参の下敷きになった末っ子まりさは重さで餡子を吐きながらもまだ死んではい
なかった。
だがそれが幸せという訳ではない。
まだ死ねないだけだ。
「いちゃいよ…つびゅれりゅ…」
まりさの身体から餡子が染み出していく。
『ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆ~♪』
そんな末っ子まりさに届くのはあのおうた…。
ゆっくり出来る筈だったおうた…なのに今は末っ子まりさは全然ゆっくり出来ない。
「うちゃって…にゃいで…たちゅけりょ…きゅずおや…」
末っ子まりさからしたらどうしてかわいいまりさがこんなめにあってるのにおうたをうたってるの?ばかなの?しぬの?といった所であった。
まぁ自分が死にかけてる横で呑気に歌を歌われてたら腹が立つのは仕方ないだろう。
音を流しているのはボイスレコーダーであって親れいむじゃないなんて事実は末っ子まりさは忘れているし関係がなかった。
「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
「どうぢでにんじんざんのぢかぐなのにおうだがうるざいの゛お゛お゛お゛!!
?」
『みんなで~♪ゆっくりしていってね~~♪
ゆゆゆゆ~♪』
人間でも耳を塞ぐ雑音に赤ゆっくり達はのたうちまわる。
人参の壁が崩れた今、音を和らげてくれるものは何一つない。
独力では人参一つ運べない赤ゆっくりに出来る事はただ苦しむだけだった。
そこにいる無事な赤ゆっくり三匹全員が末っ子まりさの存在など記憶の隅にも残っていない。
「も…ちょ…ゆっ…り…」
ゆっくりできる筈の人参とおうたによって末っ子まりさが死んでいくのも誰も気付かなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ゆぎい゛い゛い゛い゛ごごがらだぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
次女まりさが出入り口を塞ぐ電子レンジのの壁に体当たりして犬小屋から脱出しようと体当たりを続けている。
側面の壁ならまだしも出入口は重い電子レンジによって塞がれており、人参も運べない赤ゆっくりに壊せる訳無くただ狂ったかのように
無意味な体当たりで自身の身体を傷付けていくだけだ。
「じじい!!!はやきゅおうちゃをとめりょお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!?」
長女れいむは男に命令するが家の中に入っていった男に届く訳がない。
「ゆぴいいいいいいいい!!?」
三女れいむにいたってはただ跳びはねているだけだ。
「………………」
末っ子まりさは言葉すら話す気力すらなく、もはや一応まだ生命活動をしているだけ、人間で言えば脳死状態に近い状態だった。
誰も彼もゆっくりしていない。
今や阿鼻叫喚の地獄絵図。
それもこれも原因は自分達の欲求と、男のありがた迷惑な親切心が原因だった。
耳に突き刺さる大音量のおうたが元々出来ないまともな思考をもっと出来なくさ
せていた。
「ゆっきゅり!ゆっきゅりい!!ゆゆゆっぎゅり゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!
!!」
苦しみが限界を迎えたのかいきなり三女れいむが口から餡子色の泡を吹き始める
。
だがそんな三女れいむの様子に気付くゆっくりはいない。
「どげえ゛え゛え゛え゛!!!
ゆっぐりじでないがべはざっざどどべえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
自らの餡子が飛び散ってるのにも構わず次女まりさは自傷行為以外のなにものでもない体当たりを繰り返していく。
「どまれえ゛え゛!!!
ぎょのぐじゅお゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
長女れいむも混乱してボイスレコーダーと親れいむを混同しているようだ。
一時間もしない内に赤ゆっくり四匹全てがまともな思考が出来なくなってしまった。
「むむむ~しゃむ~しゃしあわせ~♪ゆゆゆっきゅりいいい!!!」
三女れいむが口から泡をふきながらも人参を貪っている。
「どげえ゛え゛え゛え゛え゛!!!まりざをゆっぐりざぜろお゛お゛お゛お゛!!!」
声だけは大きいが体当たりの勢いは弱々しくなっている。
電子レンジにだけではなくそこら中に体当たりしたらしくまりさの餡子が犬小屋中に撒き散らされている。
「む~じゃ…ぐげぇ…ゆ゛ゆ゛ゆ゛…む~じゃ…」
三女れいむは人参を食っては吐いて食って吐いてを意味もなく延々と繰り返していた。
食う労力と吐く労力と食ったものを無駄にしている事を考えれば体力がプラスどころかマイナスになっているのは明らかだ。
何の意味もない。
だが狂った三女れいむはこの行為を笑いながら行っていた。
狂ったゆっくりの考えなどわかる訳がない。
狂人の倫理は狂人自身にしかわからない。それと同じだ。
大方おいしいものを食べる事はゆっくりできるからゆっくりできる事をして現実から逃避しようとしたのだろうと予測する位だ。
「む~しゃ…ゆげえ゛え゛え゛え゛…」
段々と吐く量と食う量の割合が変わってきている。自滅するのも時間の問題だろう。
「ゆぎゅぎゅぎゅっきゅり~♪」
一方、
「ゆう゛う゛う゛う゛う゛!!?
じずがにじどお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!
がわい゛いでいむぼいじめりゅくじゅはゆっぐりじべえ゛え゛え゛え゛え゛!!!」
長女れいむも体当たりをし始めた。
ただし次女まりさのようにそこら中にではなくボイスレコーダーのある壁にだ。
体当たりをしてボイスレコーダーを落として止めようとしているのだろうか?
いや、おそらく長女れいむにとってうるさいおうたを歌うクズ親をせいっさいしようとしているのだろう。
「じねッ!!じねッ!!ゆっぐりじねえ゛え゛え゛ッ!!」
狂ったかのように…いや事実狂ったのだろう…。
体当たりを繰り返す。
ここで本来ならば壁に体当たりし続けて衰弱して行くはずだった。
だがここで奇跡が起きた。
「だぜえ゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「じね゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
偶然次女まりさと長女れいむが同じ方向へ体当たりした。
がむしゃらな赤ゆっくりの体当たりが老朽化して傾いていた犬小屋に微かなダメ
ージを与え、傾く。
しかしゆっくりのがむしゃらだろうが渾身だろうが結局体当たりだけでは揺れる
だけで傾ける事は出来ても戻る力の方が強く、何の意味もない。
だが揺れて軽く斜めになる事で動くものがあった。
人参だ。
山が崩れてそこら中に散っていた人参が転がり、長女れいむ達が体当たりした壁に転がっていく。
「ゆゆ~!?」
三女れいむも転がっていく。
「ゆべぇッ!!?」
人参に巻き込まれる形で長女れいむ達が体当たりした壁に三女れいむは転がりぶつかった。
「ゆゆゆう゛…いぢゃあ゛い…」
痛みに涙ぐむ三女れいむ。
だがすぐにそうしている暇が無くなった。
完全に犬小屋が立て直せなくなり、横倒しとなる。
その結果人参が降り注がれる事となる。
「ゆゆ!にんじんしゃんゆゆゆっきゅ…」
最初の人参には耐えられた三女れいむもあまりにあっけなく、沢山の人参の体当たりを受けて餡子を吐き出す。
「ぐひゅッ!!!?」
人参に圧し掛かられる形で潰される三女れいむ。
「ひ…ひふぁいよぉ゛…」
眼から餡子が押し出されて餡子の涙が流れている。
だがそんな三女れいむに次々と人参が転がっていく。
三女れいむは今度は悲鳴すら上げる事も出来ず人参の山の下敷きになっていった…。
「にんじ…しゃん…どいちぇ…ね…」
三女れいむは衰弱した身体で、目の前にゆっくりできる食糧があるにも関わらず
衰弱し、緩やかに死んでいったのだった…。
「た…ひゅへ…」
三女れいむは助けを求めるがその様子を気にしている暇は他の二匹にはなかった。
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
「ゆぴい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?」
瞬く間に長女れいむと次女まりさも人参の雪崩にのまれていったからだ…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
赤ゆっくり全員が人参の雪崩にのまれて犬小屋は静寂に包まれる。
犬小屋は横倒しになっており、その結果出入口の向きが変わり、何とか出入り出来る程度のスペースは開けていた。
それにどうやらボイスレコーダーもその時のショックで止まったらしい。
「ゆ…ゆぅ…」
すると、人参の山から次女まりさがはい出てきた。
「ばりざは…ゆっぎゅり…ずりゅんだ…」
ずーりずーりとはいながら出口へと向かっていく。
その後に点々と餡子の跡が残っている。
「ゆべ!!?」
人参の山をよじ登り、、何とかまりさ達にとって地獄のような犬小屋から脱出する。
だが、外も地獄である事を次女まりさは忘れていた。
まりさは落下の衝撃で転がりある地点で止まった。
それは水溜まりだった。
まりさ達は完全に忘れていたが今は台風が直撃している。
外に出ればゆっくり出来なくなるのは当然だった。
しかも運が悪いことに次女まりさが入った水溜まりは雨が直接降り注いで出来たものではなく、
屋根に出来た穴から垂れた水滴がゆっくりゆっくり垂れて出来た水溜まりだった。
それこそ赤ゆっくりでなければ障害にもならない程度のものだった。
「ゆ!?ゆ!?どうぢであんよがうごきゃないのォ!!?」
しかしそんな小さい水溜まりでもボロボロになったまりさのあんよを使い物にならなくさせるには十分だった。
そして、
「ゆぴぃッ!!!?」
次女まりさの帽子に冷たい水滴が落下する。
「ゆぴぃッ!!?ちゅめちゃいよ!!みずさんはゆっくりしないでどこかいってね!!!」
帽子に落ちてくる水滴に文句を言う次女まりさ。
しかしやめてと言ってやめてくれたら自然災害など起こりはしない。
「ゆひぃ!!?やめちぇね!!いいきゃげんにしにゃいとまりしゃおきょりゅううう!!?
みょうおきょったよみずしゃんはゆっきゅゆひゃあ゛あ゛!!?」
何を言っても水滴の落下は止まらない。
「みょうやじゃあ゛!!まりしゃおうちきゃえりゅうう!!?」
だが次女まりさのあんよは動かない。
「ゆぴぃいい!!?やめちぇええ!!まりしゃにゃにもわりゅいきょちょちてにゃいよぉ!!!
ひゃひい!!?
ごみぇんなしゃい!!まりしゃわりゅいきょちちゃにゃらあやまゆひゃあ゛!!?」
何度も何度も落ちてくる水滴を浴びながら自身の名の通りゆっくり…ゆっくりと帽子が溶け、髪が溶け、
自分の身体が溶けていくのを感じながら水の冷たさで意識を失う事も出来ず次女まりさは死んでいくしかなかった…。
「ゆ…ゆひィ…だれ…きゃ…たちゅけ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何があったんだ?」
翌日、男が犬小屋を見てみると茶色い水溜まりと横倒しになった犬小屋があった。
「昨日台風凄かったからなぁ…」
この状況に陥ったのは台風が原因と判断したお兄さん。
「このまま放っておくのも何だしな…」
男はあのゆっくり一家に何かがあったのを理解し、おそらくは全滅したと考えた男は一応葬ってやろうと犬小屋を覗いてみた。
すると、
「ゆゆ゛…おじょいよ…きゅじゅ…」
ボロボロになった長女れいむの声がした。
「大丈夫か!!?」
男は急いで人参をどかす。
いつの間にか死んでいたのなら仕方ないがまだ生きているのならば助ける事にした。
その結果犬小屋の中から潰れた饅頭二つと人参沢山とボイスレコーダー、そしてボロボロの長女れいむが見つかった。
一匹足りないのだが、男は何処か行ったのだろう程度にしか考えなかった。
大分長女れいむは衰弱している。
回復させようと男は人参を長女れいむの口に捩込んでみたが歯が何本か折れただ
けで何の効果もなかった。
小麦粉やオレンジジュースをかければ大丈夫だという知識も男にはない為どうしようもなかった…。
「にゃんぢぇ…ぎゃわい゛い゛…れいみゅぎゃ…ぎょんなめに…」
長女れいむは自分がなんでこんな酷い目に遭って目の前にいるクソジジイが無事なのか全くわからなかった。
とっちぇもきゃわいいれいみゅをゆっきゅちさしぇるのぎゃとうじぇんなのに…。
「れいみゅを…ゆっきゅちちゃちぇろ…きょのきゅず…」
「ゆっくりさせろって…どうやって?」
長女れいむの要求に男はそう言い返す。
途端に長女れいむは「そんなこともわからないのか」といった顔をし、
「そんにゃの…じびゅんで…きゃんぎゃえりょ…きょのきゅず…」
と言ったのだった。
男は言われた通りに自分で考えてみた。
答えはすぐに見つかった。
「え~っと確か…あったあった」
男が手に取ったのはボイスレコーダー。
「ゆ…?」
長女れいむは男の行動に疑問を抱く。
何故なら男が何をしようとしているのかよくわからないからだ。
男は「今ゆっくりさせてやるからな」と告げ、衰弱して対応出来ない長女れいむの体にボイスレコーダーを入念にくっつけ、
「今おうたを聞かせてゆっくりさせてやるからな」
と告げた。
「ゆ゛、ゆ゛ゆ゛ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!?」
その言葉に戦慄する長女れいむ。
おうたによってゆっくりできなくなったのだからその反応も当然だ。
だが、男はそれを知らない。
長女れいむの言う通り、自分で考えた結果、
誰かが過去に言っていた「おきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅりできゅりゅね!」の一言からおうたを聞かせてやればゆっくり出来ると考えただけなのだから…。
ボイスレコーダーを直接付けたのはよく聞こえるようにする為だ。
「ぞれはゆっぐぢできないきゃら…やめちぇにぇきゅじゅ…!!」
長女れいむは必死に拒絶の言葉を紡ぐが男は「大丈夫だからね」としか答えない。
そしてそのままボイスレコーダーの再生ボタンを押した。
機能はそのまま、つまり最大音量の状態で…。
『ゆ~ゆゆゆゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆゆ~!!!ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆゆ~ゆゆゆゆゆゆ~~!!!』
途端に鳴り始める大音量の騒音。
それが直接体内に響き渡る長女れいむ。
「ゆぎゅぶぎゅばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」
れいむは勢いよく口から餡子を吐き出す。
おうたに対する拒否反応とただ単純におうたが大音量によるショックだった。
男は理解していなかったが、全身聴覚でもあるゆっくりに直接大音量を流すとい
う事は、大音量のスピーカーに耳と身体をピッタリくっつけて聞くのと同じ事…いや、多分それより酷い事だった。
男にとってはヘッドフォンで使うか使わないか程度の差としか思っていない為、
今の長女れいむが餡子を吐き出したのは衰弱しているせいだとしか思わなかった。
まぁ、流石に男も餡子を吐かせるのは危ないと判断したので長女れいむの口を手で塞いで流出を防いだ。
「ゆ…ぐ……ぎぃ!?」
気持ち悪くて騒音が中の餡子にまでガンガン響くのに気持ち悪くて吐く事も出来ない長女れいむ。
ゆげぇ゛え゛え゛ぎぼぢわるいよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!?
そんな事を言いたそうな表情をしているが男は気付かない。
男も直接ではないにしろ、おうたという名の騒音を聞きながられいむの口を塞いでいるのだ。
気付くまでの余裕はない。
男は今時珍しい程キレにくい男だった。
散々罵倒を重ねた長女れいむも今は必死にゆっくりさせてやろうとしていた。
故にこれは全て善意の行動なのだ。
まぁ、その全てが長女れいむにとって逆効果になっているのだが…。
鼓膜が破れて音が聞こえなくなるという事のない饅頭であるゆっくりにはこれは終わりのない拷問だ。
「………………!!?」
遂には長女れいむは白目をむき、ビクン、ビクンと痙攣し始めた。
それを男はどう勘違いしたのかようやく長女れいむを解放した。
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛…」
もう状態は末期だ。
これでは治療してもまともな状態には戻れないだろう。
男も流石に何かおかしいことに気付くが「あれ、間違えたかな?」みたいな顔をして首を傾げるだけだった。
『ゆっくりのひ~!!!まったりのひ~!!!』
だがどれだけ衰弱しようにもボイスレコーダーのおうたは止まってくれない。
コプ、と長女れいむの目から黒っぽい餡子色の涙が流れる。
「お゛…お゛ぉ゛…お゛うちゃは…ゆ゛、ゆ゛…ゆ゛っぐり……できないよよぉ……ゆぎぃ!!?」
ビクン!と一際大きく動いた後、その言葉を最後に長女れいむは二度と動く事はなかった…。
『みんなで~ゆっくり~してってね~!!!』
楽しそうな騒音のみが皆死に絶えた場所で流れていた…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うぅん…何を間違えたんだろう?」
男は長女れいむが死んだ後、完全に溶けた次女まりさを除いた三匹を人参と一緒
に男は埋葬した。
それから数日が経過し、男は公園のベンチに座って“ゆっくりの疑問100”と
書かれた本を読んでいた。
結局長女れいむは「おうたはゆっくりできない」と言って死んだ。
前までは「おうたはゆっくりできる」と言っていたのにそう言って死んでいった。
つまりはゆっくりがゆっくりするにはおうたはダメなのだ。
男はそう考えた。
勝手に住み着かれたとはいえ、袖振りあうも多生の縁。
何かしてやれたのではないかと男は思った。
野生で生きているゆっくりに人間が手を出すのは双方にとってもあまりいい事ではないのは男も百も承知だ。
だが、最期の時位は何かしてやれてもよかったのではないか?
そう考えた男は友人に相談してまずゆっくりの事を知ろうと本を買ってみた。
何で公園で読んでいるのかはなんとなくである。
「“ゆっくりは死ぬ事を永遠にゆっくりすると言う事があります”か…成る程…」
男は合点した。
きっとあのれいむは苦しむくらいならせめて一息に殺してくれと言ったのだ。
だが俺はそれを額面通りゆっくりさせる事だと勘違いしてしまい、よりにもよってゆっくりできないおうたを聞かせてしまったのだ…と男は一人で結論づけた。
実際は的外れにも程があるのだが男はそう思い込んだ。
もし次があるのなら、ちゃんとゆっくりさせてやろう。
ゆっくりの言葉には色々意味があるとこの本には書かれていた。
それをちゃんと理解して、ゆっくりさせてやろう。
そう誓って男は本を閉じた。
そして少しの間、ここで小休止して、家に帰る事にした。
すると…、
「ゆっくりしていってね!!」
いきなり公園のベンチで座って休んでいた男に成体のれいむ一匹と赤れいむ二匹…おそらく親子なのだろう、が話し掛けてきた。
「……………ゆっくりしていってね」
男は戸惑いながらもそれに答えた。
すると、れいむ親子は、
「にんげんはかわいいれいむのおちびちゃんたちにあまあまをよこしてね!!」
「れいみゅのかわいしゃにめりょめりょだにぇ!」
「きゃわいきゅっちぇぎょめんにぇ~!!」
と好き勝手喚き始めた。
「………………」
男はよくわからなかった。
今、三匹の内の一匹が「かわいくってごめんね」と言った事の意味に…。
だから考え、そしてわかった。
確か本に書いてあった…「ゆっくりは自身の容姿に自信があり、とくに野良や野生にはそれが顕著である」と。
男にはゆっくりの美醜の基準なんかわかりはしない。
だが謝る位なのだからきっと美しい部類に入るのだろうと判断した。
美しかったり可愛い事はいい事だ。
だが日本の歴史で美人とされていた人物はどれも非業の死を遂げている…。
美しさは罪…罪とは悪い事…。
この赤ゆっくりはそれを憂いているのだ。
憂い…それは人間でもゆっくりしているとは到底いえない状態だとわかる。
もし次があるのなら、ちゃんとゆっくりさせてやろう。
先程そう誓ったばかりだ。
ならば今すべき事は一つ…。
可愛くてゆっくりできないのならば可愛くなくしてやればいい…。
そうすれば思う存分ゆっくりできる筈だ…。
男はそこまで苦しんでいた赤ゆっくりの心境に深く同情し、一筋の涙を流した。
そして…、
「…謝らなくっていいんだよ」
優しく、諭すように告げたのだった…。
END
あとがき
「おうた」がゆっくり出来るなら好きなだけ聞いてもらおうと考えて書いた筈なのに変な方向に…。
もう前々作に登場したれいむですっきりして子供を殺したゲスまりさの末路のSSが進まないのにこういうのはすぐに出来るんだろうか。
それはさておき今回は天然なお兄さんによるありがた迷惑な虐待を書かせていただきました。
まあわざとじゃないからこうなっても仕方がないよね!!
それではこの作品をご覧いただき誠にありがとうございました。
天然あき
過去に作ったSS
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- ゆーゆゆゆーゆー!ゆっくりのひー!ゆっくりーのひー!ゆゆ!ゆーゆ!ゆ!ゆーゆゆゆゆゆ! -- 2016-08-02 19:30:11
- 天然過ぎ -- 2014-11-15 02:50:32
- パタリロやんwww
↓ -- 2014-06-11 23:46:35
- 今回の教訓
強欲は無欲に通ず -- 2014-06-11 23:45:09
- 怖ーい -- 2013-06-26 21:46:06
- 天然の怖さを改めて知れたwww -- 2012-07-14 15:03:14
- 両方いたぶるに決まってるだろ -- 2011-08-16 19:28:49
- らんを手に入れた後ちぇんは潰す気だな…? -- 2011-02-14 12:20:38
- ちぇんー俺が立派なかいゆっくりにしてやるからこっちおいでー
らんしゃまも一緒にねー
わかるよねー? -- 2010-09-27 01:59:13
- 安心しろ。このお兄さんはゆっくりへの分け隔ての無い優しさをもっているからちぇんみたいなゲスも優しく死なせてくれるぞ。 -- 2010-09-16 00:17:57
- 過ぎたるは及ばざるがごとしなんだねー。お兄さんはわかってねー。
あと、お兄さんはゆっくりできないから、ちぇんとらんしゃまに近寄らないでねー。わかってねー。 -- 2010-07-05 04:26:49
- お兄さんが善意でゆっくりが自爆しているのがおもしろい -- 2010-06-02 02:23:23
- これも怖面白い話だよね。 -- 2010-05-17 15:39:57
最終更新:2009年10月27日 18:18