兵站学初級講義

 

兵站の定義

  「兵站(ロジスティクス)」とは、軍という組織がその任務を遂行するのに必要なすべての資材・備品を調達し、必要な場所に、必要な時に、必要な分量だけ届くよう手配する後方支援業務の総称である。それゆえ単純に「補給」のひとことで片づけられる言葉ではない。
  必要とされる兵站物資を選定し、購入のための契約をおこなって調達し、それを貯蔵し、適切なタイミングで輸送する一方、整備の必要があれば整備し、回収する必要があれば回収するし、それが施設のようなものであれば建設する。こうしたシステムとそれを動かす人員を含めて兵站といえるだろう。
  兵站が上手くいっていない組織は動脈硬化をおこした人体と同じである。兵站担当者の仕事が上手く行けば行くほど、周囲は兵站の存在を忘れるであろう。健康な人間は、自分の身体が健康であることを意識しないのと同じことである。

 

兵站の重要性

  「武器弾薬や食糧など物資が不足しても優れた技量と精神力で堪え忍んで戦う」ことができる兵士は優秀かも知れないが、兵士をそのような状況に陥れる指揮官は愚劣であり無能である。
  戦いの半分以上は兵站(ロジスティクス)で決まると断言してもあながち間違いではない。どんなに優れた作戦が立案され、それに従う精鋭の軍団があろうとも、彼らが使用する銃や砲弾、車輌の燃料や食糧が無くてはすべて机上の空論に過ぎないのだ。

  我々は戦争という行為そのものが非生産的であるということを忘れてはならない。

  領土獲得や戦利品という余録が発生するかもしれないが、それとて所有者が代わっただけのことであって、決して何かの価値を増加させたわけではない。それが工場に投入されたのであれば、たとえばトラックを生産し販売し、そのトラックがまたモノを運んで価値を生み出すというように価値を増やしていくはずの「人」も「鉄」も「燃料」も、戦場に投入されてしまえばせただ消費されるだけである。
  それゆえに、経済原則としては回避すべき戦争が起こってしまった場合は、可能な限り効率的に資源が活用されるよう、適正なコストの維持に努めねばならない。

 

軍事物資と生活物資

  兵站の対象となるのは、軍事物資と生活物資である。

  戦場に立つ兵士は(ゾンビ兵士は例外としても)生きている。それがサイボーグ兵士や自動機械であっても、なんらかの形でエネルギーを補給し、損耗した部品を交換しなければならないだろう。生身の兵士なら、食事もするし、水も飲む。ポテトチップやタバコなどの嗜好品を欲しがることもあるだろうし、シャワーも浴びたいし、歯も磨きたい。自分の足にあった靴を履きたいだろうし、こうしたことすべては兵士の士気や能力に直結する。

  そして、なにより海と宙の民であるFVBが忘れてはならないものは、「水」と「空気」である。

  海に出れば無尽蔵のような水に囲まれることになるが、この水はそのままでは飲用にできない。宇宙空間に出れば、そこに「空気」はない。空気も水も兵站の対象となるのだ。

 

最終更新:2010年02月13日 12:02