「そこには、もう誰もいない」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
そこには、もう誰もいない - (2007/06/07 (木) 17:16:09) のソース
**そこには、もう誰もいない 「それは……」 ファンタズマゴリアでならば、戦いに赴くスピリットやエトランジェを蘇らせる事は出来る。 もちろん、まえもって術を詠唱する事と、永遠神剣第七位“献身”を用いるのが条件だ。 だがこの地はマナが薄く、治癒の力が上手く働くかすらも分からない。 それに、人間に術が効くかすらも未知数なのだ。 「ありえないとは言い切れません。が、少なくともそれは無いと思われます」 「ん~、要するに、どちらとも言えないと言う事でよろしいですかな?」 大石の問いに答えたエスペリア自身、正しい解答を持ち合わせてはいなかった。 だが、その解答が気に入ったのか、大石は大いに笑った。 「ですよねぇ。私もそんな馬鹿な話はありゃしないと思ってるんですがね……ただ」 焦らすように、大石は言葉を切った。その度に浮かべる笑みは、エスペリアを警戒させる。 一見友好的に見えるのだが、その目は鋭く隙を見せれば危険に思えた。 「お話はそれだけでしょうか?」 「え。ああ、お引止めして申し訳ありませんでした」 相変わらず好意的に見えない笑みを浮かべながら、大石は道を譲った。 距離を開け、なるべく大石から離れて進もうとしたエスペリアの耳に、呟く声が聞こえる。 「いるんですよ」 「はい?」 思わず聞き返してしまう。 「何かおっしゃいましたか?」 「おや、聞こえてしまいましたか。んっふっふ」 興味を持った事が嬉しいのか、それとも別の理由からか、大石は先程と同じような笑みを浮かべた。 何がしたいのか分からないエスペリアは、十分に距離をとって警戒を続けた。 「いえなに、さきほどの答えなんですがね」 大石が言いたいのは、最後に聞いてきた「死人が生き返るか」と言う事だった。 「生き返っているんですよ。しかも、この島でね」 「――」 大石の言い出した事実に唖然とした。この男は、死人が生き返りこの島にいると言っているのだ。 しかも、それはおそらくスピリットではなく人間をさして言っている。 「どうしてそんな事が分かるのですか?」 「いや~、実はこの死んだはずの方々、私の知り合いでしてね」 知り合いとは言いつつも、その言葉からは友愛を感じる事は無かった。 むしろ、言葉の端々から受けるのは、敵愾心のような気がする。 「死んだはずの方々は古手梨花、園崎詩音。あとは……」 ここで一度言葉を切る。 「先程名前を聞いた前原圭一です」 真面目な顔でそう言い放つ。大石の顔からは、とって付けた様な笑みが消えていた。 「本当に死んだのですか?」 「はい。死体も見ましたよ私」 エスペリアには信じられないような事だったが、大石は真面目にそう答えた。 お互いに目を逸らさないまま、無言の時間が二人に訪れる。 先に動き出したのは大石の方だった。 「さて、お時間取らせて申し訳ありませんでした。お急ぎだったのでしょう?」 「あ、いえ」 「んっふっふ。またお会いできる事を楽しみにしてますよ」 そう言うと、大石はわざわざエスペリアが向かう方向に足早に去っていった。 「ああ、もしそのうちの誰かに会ったら、大石が探していたとお伝え下さい」 最後にそう付け加え、背を向けて去っていく大石。 その後ろ姿を、ただただ見送るエスペリアの目には、困惑の二文字が写っていた。 だが、目を閉じて頭を振るう。そしてエスペリアも歩き出す。 当初の目的地である『映画館』を目指して。 ◇ ◇ ◇ ◇ 学校では、先程の放送を聞いて動き出した四人がいた。 「このまま行けば放送室に着くんだな!?」 「あとは進むだけなの」 「四葉が現場をチェキするのデス!」 「こら、そんなに急いだら転んじゃうわよ」 先頭の恋太郎に続き、真ん中をことみと四葉、後方に亜沙と列になり校舎を駆けていた。 スピーカーから聞こえる男女の指示通り、放送室を目指しているのだ。 「けど、この人達も同じ考えでよかったね!」 場を盛り上げるように、亜沙が喋りだす。それに勢い良く頷く四葉。 だが、対照的に恋太郎とことみは神妙な顔をしていた。 「どうしたのデスか先生?」 「いや。あの放送を鵜呑みにするのはまだ早いと思ってな」 「ほぇ?」 「私達を油断させる罠かもしれないの」 「そういう事だ」 ことみの言葉を支持する恋太郎は、走るのを止め三人に注意を促す。 「万が一に備えて、三人はドア越しに控えていてくれ。相手に敵意がないなら部屋に呼ぶ」 「も、もしボク達を騙してるとしたら?」 「その時は……逃げるしかないな」 お手上げといったジェスチャーをする恋太郎。だが、その目は逃げる事を語ってはいなかった。 重くなりつつある空気を打ち破ったのは、四葉だった。 「大丈夫デス! 先生と四葉とことみちゃんと亜沙さんがいれば無敵なのデスよ!」 「ははは……そうだな」 拳を高々と掲げ宣言する。その様子に、一同から重い空気が散っていった。 自分がそんな事をしたとはつゆ知らず、四葉はせわしなく周囲を観察し始める。 厳しい目をしていた恋太郎の目は、穏やかなものに変わっていた。 緊張していたことみや亜沙も、肩の力を抜く事が出来た。四人は再び放送室を目指し歩き出す。 と、窓の外を見ていた四葉の目にあるものが飛び込んでくる。それは、校庭を走る二つの影。 「先生! 見るデス!」 四葉の指差した方を見る三人。そこには、校庭の真ん中を走り抜ける人間の姿だった。 「まさか、さっきの放送の二人!?」 「え、どうして校舎から出てっちゃうの?」 「置き去りにされたの」 「待つのデス!!」 「ばっ、行くな四葉!」 恋太郎の叫びを無視して、四葉は先程来た道を駆け下りて行く。 追いかけようとした恋太郎だったが、一瞬だけ思考を張り巡らせる。 「ことみ。この校舎であの出て行った二人以外に人がいると思うか?」 その質問に首を振ることみ。 「隠れていれば分からないけれど、その可能性は低いと思うの」 「だよな。放送室は俺達を上に固定させる罠だったって事か」 「おそらくそうなの。でも、不思議なの」 「ああ、俺達を上にひき付けるておく理由が見当たらない」 二人のやり取りに、一人だけ付いていけない亜沙。 「と、とにかく四葉ちゃんを追いかけようよ!」 「ああ」 そして三人も、四葉を追って一度来た道を戻っていった。 ◇ ◇ ◇ ◇ エルルゥを弔い、先程の男を追いかけようとしたオボロの耳に、懐かしい声が届く。 「兄者か!?」 だが、呼びかけても返事は無い。 「もっと遠くから聞こえたのか……」 オボロは悩んだ。先程の男を追うには建物の多い東に進むべきである。 だが、信頼する兄貴分であるハクオロの声は、西から聞こえてきた。 「エルルゥの事を告げねばなるまい」 思案した後、オボロは声のした方向に進んでいった。 聴覚を働かせ森を駆けると、目の前に大きな建物が広がった。 「ここか?」 だが、ハクオロの姿は無く、辺りは静まり返っていた。 (聞き間違えたのか? いや、兄者の声を間違う訳が無い) 茂みに隠れ、もう少し周囲を観察する事にする。するとそこへ、建物のほうから誰かが近付いてくる。 「どこに隠れたデスか!」 (何だと!?) 建物から走ってきた少女は周囲を見渡し、ゆっくりとオボロの方に足を進めてくる。 (馬鹿な……気配は消したはず) だが、少女の足は確実にオボロに向かっている。もうあと僅かで見つかってしまう。 迷わず向かってくるその態度に、オボロの心は焦りを生んでいた。 なぜなら、見つけたものは殺すと決意した直後に現れた少女は、妹のユズハよりも幼いのだから。 「隠れても無駄なのデス! 四葉にはお見通しなのデスよ!」 その言葉で、オボロの心は決まった。そっとボーガンを絞り四葉に向ける。 二人の間に障害は無い、狙いを定めれば一発だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 四葉は、突然辺りが暗くなって驚いてしまった。前後の記憶の曖昧である。 意識が朦朧としていて、今時分が何をしているのか把握できていない。 と、すぐ傍で誰かが立っているような気がした。 「兄チャマ?」 「…………ああ」 呼びかけると、それは四葉の兄だった。 眠たいのか目が開けられず、聞こえてくる声も遠かったが、それでも大好きな『兄』だった。 「兄チャマごめんなさいデス。四葉、眠くて目が開けられないのデスよ~」 「そうか」 「でも、せっかく兄チャマが一緒にいるのだから頑張って起きるデス」 「いや。そのままでいい」 「そうデスか? あ、そう言えば兄チャマにご報告があるのデス!」 「……」 「四葉、本物の探偵さんの生徒になったのデス。これで四葉も探偵に一歩近付きましたデスよ」 「ああ……ッ」 四葉の顔に、幾つかの雫が落ちる。 「兄チャマ大変デス。雨が降ってきましたデスよ」 「大丈夫……よ、四葉が濡れない様に俺が傘に……なる」 それでも、落ちる雫は止まらなかった。 「あ、久しぶりなのデス」 けれど、四葉は嬉しくて濡れる事など忘れて喜んだ。 「兄チャマが四葉の事を呼ぶのが……懐かしく……聞こえ……」 「すまない。すまない!」 何かを詫びる様な兄の声。その声を頼りに、四葉はそっと手を伸ばした。 そして、兄の頬に手を当てる。 「兄チャマ……も……風邪ひく……デス」 その頬に触れた手を兄は力強く握り返す。 「ゆっくり休むといい。おやすみ……四葉」 「お……やすみ……なさい……デス」 そして、四葉は二度と目覚めぬ眠りについた。 物言わなくなった四葉に、兄を名乗ったオボロは泣いていた。 額から矢を抜き取り、胸に手を組ませる。 もう引き返せない。大切な『妹』を手にかけ光ある場所に戻ろうとは思えない。 あとはただ進むだけである。進むしかない。 オボロの目指す先には、許される事の無い修羅の道しか見えないのだから。 ただ孤独のまま、オボロはここから去っていった。 目指すは西……ハクオロの声が聞こえた方向へ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 校門から飛び出し、しばらく身を潜めていたハクオロと観鈴は北西を目指していた。 まずこの島の情報を得たいと提案したハクオロに対し、観鈴は博物館と役場を挙げた。 博物館をならば島にまつわる物が展示してあるだろうし、役場は資料が沢山あった。 それに、食料や安全区域を確保するためにも百貨店に行く必要がある。 最終的には博物館を経由し役場。その後百貨店へとの考えをまとめ、二人は走り続けていた。 だが、男であり大人であるハクオロと違い観鈴の体力は少ない。 しばらくは持っていたが、観鈴が苦しそうな表情になった所で走るのを止めた。 「大丈夫か観鈴」 問いかけるハクオロに対し、観鈴はVサインを作って答えた。 「にはは。大丈夫」 無理やり笑顔を作るが、どうみても疲れきっている様にしか見えなかった。 新市街まで距離はあるが、少なくともあの四人は巻いたはずである。 近くにあった平べったい岩に観鈴を座らせ、自身も適当な岩に腰を下ろした。 「少し休もう。実は私も疲れてしまってな」 実際にはまだ走れるが、休憩を取りたいのも事実だった。 そんなハクオロを見て、観鈴は頭を下げる。 「ごめんなさいハクオロさん」 「ん?」 「私のせいでこんな事になって」 しょぼくれる観鈴。だが、ハクオロは優しく諭した。 「いや、むしろ感謝している。こうやって志同じくする人間と会えたのだからな」 「が、がお……」 泣きそうな顔を伏せ、いつもの口癖を言ってしまう。だが、叩いてくれる者はそこにはいない。 「往人さん……無事かな」 「大丈夫だ。聞けばその青年、方々を巡って旅をしているらしいな。そんな男ならこの状況でも生きられるさ」 もちろん、その言葉に根拠は無い。それでも、観鈴を安心させる事がハクオロにとって大切なのだ。 「うん。私信じる……往人さんと、私を信じてくれたハクオロさんを」 「ありがとう。観す――誰だ!?」 何者かの気配を感じ、観鈴を庇うように立ち上がる。 すると、二人の向かっていた方向から一人の男が現れた。 「いや~お邪魔でしたかな。んっふっふ」 男は笑いながら二人に近付く。 「何者だ?」 「ああ、警戒しないで下さい。私怪しい者ではありませんよ」 そう言って、警察手帳を取り出す。 「私……××県警興宮警察署の大石蔵人というものです」 エスペリアにしたように、大石はいつも通りに名乗った。 警察手帳が解からないハクオロだったが、観鈴はそれが何を意味するか解かっていた。 「警察官さん?」 「はい。そうですよお嬢さん」 「警察? 大丈夫なのか観鈴」 「はい。えっと、私の国では市民を守ってくれる人達です」 「民を守る……なるほど」 ハクオロが頷くのと同時に、大石は再び喋り始めた。 「ところで、よろしければお二人のお名前を聞かせていただきたいんですが」 即座にハクオロに目を向ける観鈴。しばらく考えたハクオロは、名乗る事を決めた。 「私はハクオロ。この少女は観鈴だ」 「神尾観鈴です」 「いやいや。これはご丁寧にど~も」 顔こそ笑っているが、その視線はハクオロを強く刺したままだった。 いたたまれなくなった観鈴が、ハクオロの袖を掴む。 (とは言え、こう怯えている観鈴を前面に出す訳にはいかんな) 大石の視線から観鈴を遮るように、ハクオロが立ち塞がる。 「ところで……二、三お聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか」 「……内容によるな」 「あ~、一つ目は赤坂衛という男性、または前原圭一と言う少年を探しているんですが。ご存知ですか?」 観鈴もハクオロも横に首を振る。もっとも、ハクオロは後者の名前に聞き覚えはあったがそれは伏せた。 (あのタカノと女性に向かって叫んだのが確か……) だが、あれっきり前原圭一を見たことは無い。だから、これは嘘ではなかった。 「そうでしたか、んではもう一つ。あなた方、最初に飛ばされた場所はご存知で?」 「私は学校の近くだな」 「わ、私もです」 そう答えると、大石は地図に何か書き込み唸り声をあげる。 「なるほど~。決して一マスにつき一人配置ではない……と」 「どう言う事だ?」 「あ~いえ、この地図ご丁寧に64マスに区分けしてあるので、一マスに付き一人と思っていたんですがねぇ」 顎に手をやり考え込む。やがて地図をしまうと、再び喋り始める。 「こんな事を聞くのもなんですが、宜しいでしょうか?」 「手短に頼む」 どことなく気の置けない大石に対し、ハクオロは強く警戒していた。 「ええ、ではお聞きしますが……お二人は、死んだ人間が生き返るなんてことがあると思いますか?」 大石の唐突な質問に虚を突かれる。 「死んだ人間が」 「生き返る?」 二人は合わせた様に呟く。どちらも、言葉の真意を計りかねていた。 「いえ、実はこの島にいるんですよ。死んだはずの人間が」 「ッ!!」 「何を根拠にそんな事を」 怖がる観鈴を抱きとめ、ハクオロは大石を睨んだ。 「まぁまぁ、その人間ってのが、先程聞いた前原圭一なんですよ。他にも古手梨花、園崎詩音もそうですね」 言葉が出なかった。もし大石の言う事が事実なら、タカノに食い掛かった前原圭一は誰なのだろう。 「もし、お会いしましたら大石が探していたとお伝え下さい」 言い終わっても、大石の目線はハクオロから外れなかった。 「そうそう。追加でもう一つ宜しいですか?」 「何だ?」 「なぜ、お二人は急いでおられたのですか?」 「それは……」 正直に言うべきか言い淀む。そんなハクオロを見た観鈴は、前に出て喋りだした。 「私達、学校にいた他の人たちから逃げてきたんです」 「それはどうして?」 「あ、あの……それは」 「そこにいた四人が、この殺し合いに乗っているかもしれないからだ」 キッパリと言い切る。だが、大石は疑いの目を向けたままだった。 そう、この時点でようやくハクオロは気付いたのだ。大石の目が友好的でないことに。 「本当にそうなのですか? もしかして、貴方が先に何かなさったのでは?」 言葉を濁し「襲い掛かった」とは言わない。だがその目は語っていた。 大げさな大石の態度を流し、こちらも正面から相手を見据える。 「ちょっと見て来ましょうかね。現場を見ないことには分かりませんから。んっふっふ」 ハクオロは困っていた。もし大石が一緒に学校まで来てくれと言い出したら、逃げた意味が無い。 ついていくのを拒んではこちらが怪しまれるし、拒みきれても無駄な時間を消費してしまう。 かといってこの場から逃げ出したくても、観鈴が居ては逃げ切れない。 悩みに悩んだ末、ハクオロはある決心をした。 「私達は何もしていない。それが信じられないなら」 そう言って、デイパックから銃を取り出す。それを見た大石は、警戒して後ろに跳びさがった。 だが、ハクオロは銃を構えずに地面へと投げた。 「ぉ?」 「その銃を貸そう。確かめて、もし私の言っている事が嘘ならば、追いかけてきて撃つといい」 「……いいでしょう。貴方を信じます」 そう言って、銃を懐にしまう大石。 「ならば私達は行く。さ、観鈴」 「は、はい!」 「あ、最後にもう一つ……これからどちらへ?」 信じたものの、心のどこかでは信じ切れていないのが良く分かった。 「新市街地だ」 そう言って、ハクオロと観鈴は走り出した。 それを見送った大石は、二人の言った事を確かめるため学校を目指し歩き出した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 校門を出た三人が見たのは、二度と目を覚ます事の無い四葉の遺体だった。 「四葉ちゃん!」 駆け寄った亜沙は、四葉を抱きかかえ必死で呼びかける。 「ねぇ! 返事して! 四葉ちゃん!!」 その横で、静かに震えることみ。目には、涙を浮かべていた。 恋太郎は、間に合わなかった事を悔いた。しかし涙は流さない。 「まだ、近くにいるかもしれない。ここは危険だ」 「……」 「とりあえず、一度校舎に戻ろう」 「……して」 「え?」 「どうして恋太郎さんは平気なの!? 四葉ちゃん、死んじゃったのよ!」 「分かってる」 「なら、どうしてそんなに冷静でいられるの!? おかしいよ!」 「俺だって悔しい!」 「!!」 「だがな、ここで俺達がすることは泣き続ける事じゃない」 四葉のデイパックを取り、校舎に戻る事を促す。 「これをやった奴……四葉の見た二人組を見つけて」 直情的になりそうな頭を必死で冷ます。短絡的な思考は危険である。 「見つけて……詫びを入れさせよう」 「ぐすッ……ぅぅ」 「亜沙さん」 泣き続ける亜沙をことみは強く抱きしめる。亜沙も、ただただことみを抱きしめるしかなかった。 一緒に居た時間は少ない。それでも、その死は衝撃的で悲しかった。 三人で用具室に戻り、スコップを片手に四葉の元に戻ってきた。そして、黙々と穴を掘り始める。 やがて、ひとが一人入る穴になると、三人は四葉をゆっくり持ち上げ、その中に埋めた。 その顔は、どこか安らかで笑顔を浮かべているように見えた。 最後に、近くにあった太い枝を盛った中心に刺し、近くにあった花を添えた。 その墓に黙祷を捧げる三人。だが各々の考えはまるで別々だった。 (四葉。悪かったな……先生として、探偵のイロハ教えられなかった) (四葉ちゃん。ゆっくりお休みして欲しいの) (ボク……仇を撃つからね。必ず!) やがて黙祷を終え、立ち上がる三人の後ろから声がかかった。 「おや~、聞いていたより一人少ないですね」 その声の主は、森の中からひょっこりと姿を現した。 「んっふっふ。こんな島で何度も人に会うのは珍しいですね」 その笑い方は、恋太郎や亜沙の神経を逆撫でる。 男は三人とは違い余裕の表情で歩み寄ってきた。 「どうして知っているの?」 最初に言葉を発したのはことみだった。 「どうしてことみ達が「四人」だって知ってたの?」 その言葉に身構える恋太郎と亜沙。双方に緊張が走る。 「ありゃ、失言でしたかな。しかし鋭いですねお嬢さん。もしかして探偵さんか何かですかな?」 「探偵は俺だ……」 噛み合っているようで噛み合わないやり取り。亜沙は、銃のトリガーに指をかけた。 「おおっと、撃たないで下さいね。二、三聞きたいことがあるだけなんですから」 と、顎に手をやった大石の腰の銃を、恋太郎は見逃さなかった。 (アレは――四葉が俺にくれたS&W M60か!) これでほぼ確定だった。校庭から逃げ去り、四葉を殺したのはおそらくこの男である。 同じように銃に気付いたことみは、指示を仰ぐように恋太郎を見つめていた。 とりあえず男の隙を付いて銃を奪い返したかったが、どういう訳か隙が無かった。 ただ立っているのに、いつでも臨戦態勢をとれる状態なのだ。 無言の睨みあいが続くと思われたが、男の銃に気付いてしまった亜沙が最初に動いた。 亜沙はイングラムM10を大石に向けると、躊躇せず発砲した。 「四葉ちゃんの仇ぃぃ!!」 「やめろ亜沙!」 小気味いい音をたて銃口が火を噴く。だが、反動に耐え切れない亜沙は、地面に尻餅をついてしまう。 狙いも外れ、撃ったほとんどの弾があらぬ方向に飛び去っていく。 一方の男は、亜沙が撃ちなれていない事を見抜いたのか冷静にそれを避け亜沙に近付く。 亜沙の危険性を感じ取った恋太郎は、ことみから鉈を奪い取り大石に飛び掛る。 その攻撃を回避し、恋太郎の額に銃口を突きつける。 「いやはや。撃たれるとは思いませんでしたよ。なはは……あ、手は挙げてくださいね」 「くっ……」 余裕のある男と違い、恋太郎は背中から滝のような汗を流していた。 「俺達をどうするつもりだ」 「いえ、お話を聞きたかったんですが……どうやらそう言う訳にはいかないようですね」 尻餅をついていた亜沙は、今度こそ大石に狙いを定める。 だが、恋太郎を盾にするように立ち位置を変えるため発砲できない。 ことみも、動こうとすれば恋太郎が撃たれるのが分かっていたため動けない。 「先に聞かせろ」 「なんですか?」 「あの観鈴という女の子はどうした?」 「さぁて、どうして私に聞くんですかねぇ?」 「とぼけやがって」 「逆にお聞きしますが、もう一人はどこに行ったんですか?」 男の問いに違和感を感じる。 (まただ、何でこいつはこんな事を聞く? 殺したなら分かっているはず) 頭をフルで回転させる。必要なピースは揃っているはず。 (もしかして、殺したのはこの男じゃない?) それならば、男の言動も辻褄が合う。試しに質問を投げかける。 「どこで四人だと知った?」 「ああ。貴方達から逃げる二人組からですよ」 (やはり) 今まで組み立てていた推理を一度崩す。恋太郎は慎重に切り出した。 「あんた騙されたな」 「は?」 「俺達の仲間を殺したのはそいつら……いや、男の方だ」 「……なんですって?」 その言葉に食いつく。僅かながら動揺しているのが分かる。 「さらに言えば、男か女の態度がおかしくなかったか?」 「むむ」 男は考え込む、こうなるのも恋太郎の考えのうちだった。この状況でこう言えば、大抵の人間は悩む。 さらに、恋太郎の中ではこの目の前の男はこちらを殺すつもりがないのも薄々感じ始めていた。 しばらく思案した男は質問を切り返す。だがそれも、恋太郎の計算の内だった。 「証拠は?」 「そのS&Wは俺が仲間から預かったものだ。弾もある」 そう言って、デイパックから予備の弾を取り出す。 「ふむ。確かに同じですね……これはまた」 そう言って、額に当てていた銃口を外し、差し出された弾を確認する。その瞬間を亜沙は見逃さなかった。 あと少しという所だったが、恋太郎の計算は仲間によって破られた。 「今だぁッッ!」 「駄目だ、やめ――」 亜沙を止めにかかるが、男にグリップで殴られ額が割れる。さらに、男は恋太郎を蹴り飛ばした。 恋太郎が離れた隙を狙ったつもりが、逆にまた男と亜沙の間に投げ出された恋太郎を見て躊躇してしまう。 男は、最初から恋太郎が隙を作るため喋っていたと判断していたのだ。 撃つに撃てない亜沙を尻目に、今度こそ男はトリガーを引いた。 だが、銃声は鈍い怒声を鳴り響かせ、次の瞬間には男の呻き声に変わっていた。 「ぐむぅ! むうぉう……」 「ぐおぉぉあああああ!!」 亜沙とことみが見たのは、二の腕から先が散ってしまった男と、目を押さえ地に伏す恋太郎だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 大石が発砲したのは、威嚇を意味してだった。 もともと当てるつもりはない。相手は素人なのだから、体一つで抑えられるはずだった。 だが、その結果は悲惨なものだった。 大石の片腕は半分吹き飛び、詰問していた男は目から血を流し気絶している。 二人の少女は、何が起きたのか分かっていない。どうしてこうなったか大石は気付いた。 (ぐぅ、っつぅ、暴発したみたいですね……) そして、その怒りはハクオロに向いていた。 (道理で銃を手放すわけです。最初からこれが狙いでしたか) 確かにああすれば、大石の信頼も一時的にとれるし、何よりその場から離脱できる。 その後大石が発砲しようがしまいが、ハクオロには関係なかったのだ。 (よくよく考えてみりゃ、あのお嬢さんを喋らせないよう遮ったのも頷けるか) 目の前の男の情報と、大石の考えが同じ方向を示し始める。 血が流れ続ける片腕を抑え、大石は目の前の男に近付いた。 それを庇うように、銃を持って居なかった少女が立ち塞がる。 傷口を見て青くなりながらも、その場を引かない強い意志を瞳に宿していた。 どうやら、銃を持っていた少女は校舎に向かったらしい。 「なにも……しませんよ。む、むしろ、手当てして欲しいくらいです……っだだ」 「どうして撃ったの?」 「いえ、あつ、ぐぁ、い、威嚇のつもり……だったんですが、ぅつッ」 「原因は暴発?」 「よく、ご存知です……あー、あだッ、ねぇ」 「銃を貴方に渡したのは」 「貴方達が……ごふッ、追ってた男の方です。どうやら、ッ私はめられたみたい、ッです」 「名前と特徴は?」 「女の子が神尾観鈴さん……でしたかな。男の、ぐふん、方はハクオロ」 「ハクオロ……」 「仮面付けて着物、ごぶッ、みたいな姿で……新市街に行きましたっ、よ」 尋問されていたのに気付かず、大石は聞かれた事を全て話していた。 「ちょっと、私でも、辛い、はッ」 咳き込みつつも、手馴れた手つきで応急処置を施す。 そして無くなった腕の先を抑え、その場から去っていく。 「どこにいくの?」 「いえ、病院まで、はぁ、行くんですが……来て下さいますか?」 大石からの質問に、ことみは寂しそうに首を横に振る。 「そうですか。では、ッぁ、さ、さようなら」 「さようなら。あ、お名前聞いてなかったの」 「なはは。大石……蔵人ですよ、お嬢さん」 ゆったりした動きで、大石はふらふらと立ち去って入った。 ◇ ◇ ◇ ◇ ことみの指示通り、亜沙は保健室に向かった。 そこで、保健室から持てるだけの包帯と消毒液、タライ、痛み止め、それと救急セットをデイパックに詰め込む。 最後に、給水室にあった薬缶に水を汲み、それもデイパックに詰めた。 恋太郎とことみの所に戻ると、先程の男は居なくなっていた。 「あの男は!?」 「歩いていっちゃったの。病院に行くって」 「そう」 安心したのか、亜沙は座り込んで恋太郎の目をタオルで拭く。 割れた額の止血はすんだが、目の方は素人の判断では難しかった。 「ん」 何度か目を拭いたところで、恋太郎は目を覚ました。 「ここは……ってぇ」 「あ。お薬どうぞなの」 「これ、お水」 そんな二人から水と薬を受け取ろうとしたが、目に違和感を感じる。 目は開けているつもりなのに、二人の姿がぼやけて見える。 「なあ、俺の目……開いてるか?」 質問の意味が分からない亜沙。逆にことみは俯いてしまう。 「おめめ、見えてない?」 ことみの言葉に、恋太郎は納得した。今、自分は目を開けているのだ。 恋太郎の目を近くで見たことりは、その事実を突きつけた。 「たぶん、網膜剥離だと思うの」 「え!?」 「ああ、やっぱりそうか」 先程の男が撃った銃の暴発で、目に何かが飛び込んできたのは分かった。 咄嗟に避けたつもりだったが、無事ではすまなかった。 「ど、どうするの?」 「参加者に医者がいればいいが、名簿だけじゃ分からないしな」 「知識はあるけど、治療は出来ないの」 「いや、ことみの応急処置には感謝してるさ。それより、あの男何か言ってなかったか?」 恋太郎の言葉に、ことみは先程のやりとりを聞かせる。 恋太郎の目に包帯を巻いていた亜沙は青くなり、自分の早とちりを後悔した。 「ごめん……ボクのせいだ」 「いや、亜沙は悪くないさ。そう自分を責めるな」 「でも――」 「それより、これからどうする?」 恋太郎の唐突な質問にキョトンとする。 「俺はそのハクオロって男を追う。観鈴って子も心配だし、四葉に詫びを入れさせたい」 「私も恋太郎といっしょ」 「ぼ、ボクは……」 亜沙は悩む。稟や楓など知り合いを探すべきか。だが、その考えはすぐに捨てた。 「ボクも一緒に行くよ!」 「そっか……じゃあ」 恋太郎はことみの手をかり、四葉の墓の前に立つ。 「いってくるぜ四葉」 「いってきますなの」 「待っててね。四葉ちゃん」 三人の顔を朝日が照らす。今、心は一つになった。 あれだけ騒がしかった学校……そこには、もう誰もいない。 【&COLOR(red){四葉@Sister Princess 死亡}】 【D-3 映画館の北側周辺/1日目 早朝】 【エスペリア@永遠のアセリア】 【装備:木刀】 【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。 基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。 1:大石との話が終わったので『映画館』という所に行ってみる。 2:悠人、アセリアと合流。 【備考】 大石の話した「死人がいる」という言葉をどう受け止めていいか迷っています。 【D-3 映画館の南側周辺/1日目 早朝】 【ハクオロ@うたわれるもの】 【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】 【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】 【状態:やや疲労】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1・観鈴と新市街へ向かう。 2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する 3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す 4・観鈴を守る。 【備考】 ※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み ※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。 ※放送は学校内にのみ響きました。 ※銃についてすこし知りました。 ※大石をまだ警戒しています 【神尾観鈴@AIR】 【装備:Mk.22(7/8)】 【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】 【状態:疲労大】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1・ハクオロと行動する。 2・往人と合流したい 【備考】 ※校舎内の施設を把握済み ※大石に苦手意識 【D-4 神社付近/1日目 早朝】 【オボロ@うたわれるもの】 【装備:クロスボウ(ボルト残8/10)】 【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】 【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】 【思考・行動】 0:ハクオロの声の聞こえた方向(西)を目指す。 1:エルルゥを殺した犯人を殺す。 2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。 3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘) ※四葉を殺した事を未だ後悔しています 【F-4 住宅街外れ/1日目 早朝】 【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】 【状態:右肘から先を損失。疲労大】 【思考・行動】 基本:不明 1:治療のため病院へ。(厳しいなら商店街の薬局へ) 2:1の後、別の場所に行く。 3:赤坂衛、前原圭一と合流。 【備考】 ※綿流し編終了後からの参加です。 ※ハクオロを敵視。観鈴がどういう立ち位置かは考えていない 【E-4 校門の外/1日目 早朝】 【双葉恋太郎@フタコイ】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、参加者の術、魔法一覧、.357マグナム弾(40発)、四葉のデイパック】 【状態:両目とも失明。額に傷。肉体疲労・精神疲労】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1・ハクオロと観鈴を追う 2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いや亜沙の知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す 【備考】 ※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み ※ハクオロが四葉を殺害したと思っています ※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません 【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】 【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】 【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】 【状態:精神疲労】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1・恋太郎と共にハクオロと観鈴を追う 2・恋太郎達と行動を共にする 3・朋也たちが心配 ※ハクオロが四葉を殺害したと思っています 【時雨亜沙@SHUFFLE!】 【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾17/32)】 【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×8、他ランダムアイテム不明】 【状態:肉体疲労・精神疲労】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1・恋太郎やことみと共にハクオロと観鈴を追う 2・稟、ネリネ、楓と合流 3・同志を集めてタカノたちを倒す 【備考】 ※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。 ※ハクオロが四葉を殺害したと思っています ※四葉の遺体は【E-4】学校の校門前で埋葬されました。三つの花が手向けられています prev:[[紛れ込む悪意二つ]] next:[[]]