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童貞男と幼女の部屋 - (2007/08/13 (月) 21:09:05) のソース
**童貞男と幼女の部屋 ◆Qz0e4gvs0s 駐車場までなんとか車を移動させた北川は、辿って来た道を振り返ってため息をついた。 あの頭のおかしい男から逃げるときは無我夢中だったが、冷静になると逆に緊張して、同じようなハンドル捌きとはいかない。 未だ慣れない運転席から降りて車のボディを見ると、所々が歪んでいたり塗装が剥げているのが確認できた。 周囲を見渡すと、車のあった位置から駐車場に到着するまでにぶつけたガードレールや電柱が、殆ど黒く擦れているのが良く判る。 (あれ?) と、その黒い傷を目で追っていて奇妙な違和感を覚える。 こういう状況で一度気になった事は、早いうちに手を打ったほうがいい。 北川はガードレールや電柱に近づいて黒い擦り傷に手を当てた。 「別にどこもおかしくない……よなぁ」 角度を変えて検証するが、どこにも不自然な点が見つからない。 しばらく駐車場を歩き回っていたが、結局なにも閃いたりしなかったため店内に戻ることにした。 放送が終わるまで掛かると思っていた車の移動も、意外と早く済んだのだ。 この違和感はひとまず保留にして、次の行動に移そう。 するべき事は終えたのだから、早く二人に合流したい。 ふと、エントランスに足を踏み入れた北川は、昨夜の出来事を思い出して背中が痒くなった。 あのレナと名乗る少女は放送で名前を呼ばれた。だから、脅威になることはたぶんもうない。 けれども、この狭いフロアで鬼ごっこした恐怖は簡単には抜けない。 (下手に怖がらせる必要はないし……梨花ちゃんにはもう少し黙っておくか) 一瞬エレベーターに乗ることも考えたが、少しばかり躊躇った後、階段を頼ることにした。 二階の踊り場に到着すると、梨花が窓際に望遠鏡を設置して真剣な表情で外を見ていた。方角的には新市街。 「なに見てるんだ?」 「!」 突然声をかけられ、目を大きく見開く梨花。 まさかそこまで驚くとは思っていなかったため、北川もつられて驚いてしまう。 「ビックリさせないで潤」 ほっと胸をなでおろす。自分にも非があると理解しているのか、文句を言う事はない。 一息入れると、梨花は視線だけで望遠鏡を覗くよう北川に促した。 要領を得ないが、真剣な彼女の視線は遊びでない事を物語っていた。 恐る恐る望遠鏡のレンズに目を重ねて、遠くの景色を眺める。 だが、そこに映っているのはただの街並みでしかない。 細心の注意を払って円状に写る景色を穴が開くまで見つめるが、どこにも異常が見当たらない。 「なあ梨花ちゃん」 「なに?」 「これって新市街の一角しか映ってないんだけど」 「ええ」 「ええ……って。これを見てたの?」 北川の問いに、梨花は真剣な表情のまま沈黙した。 やがて、小さな微笑を浮かべると風子の居る寝具コーナーへと足を向けて歩き出した。 歩き出す直前、北川の方を一瞬振り返り小さく呟いた。 「風子の所に戻りましょう。話はそれからよ」 その艶やかな視線にドキッとしながらも、北川は梨花の後ろに続いて足を進めた。 暫定的に集合場所として利用しているのは、レストラン街を抜けた家具コーナーの一角。 その中の寝具コーナーに向かうと、いつ目を覚ましたのか、小さなテーブルの上で風子が一心不乱に筆を走らせていた。 しかもどこから持ってきたのか、ご丁寧に12色のクレヨンを使い分けている。 そっと後ろから覗き込むと、描いているのは意味不明な線と丸だ。意味不明としか言い様がない。 だがそれより問題なのは、その筆を走らせていた媒体だった。 「俺の地図じゃん!」 風子が熱心に書き込んでいたそれは、どう考えても北川の地図に違いなかった。 その証拠に、地図の端に自分で走り書きしたメモが残されているのが判る。 第一梨花の地図は当人が管理しているし、風子の地図は何も書き込まれていない状態。 風子は北川の視線に気づくと、筆を止めて腕を組んだ。 「ああ北川さん。これが気になりますか?」 「……ああ。凄く気になる」 疲れた表情で投げやりに答える北川とは裏腹に、風子は得意げに地図を広げてみた。 「風子特製『DX人生ゲーム風子Ver』です!」 北川はもはや言葉が出てこない。 「ちなみに、優勝賞金は一億ペリカです」 誰もそんな事を聞いてもいない。 「これは地下帝国でのみ使える貴重な通貨なんですよ!」 興奮気味に熱弁する風子だったが、やはり二人とも聴いてなどいない。 そんな二人を置き去りにして、風子はこのゲームの素晴らしさを一生懸命説いた。 北川は疲れきった表情で生返事を繰り返し、梨花も風子の言葉を右の耳から左の耳へと聞き流す。 熱弁を止めることに労力を使うより、適当に相槌を打ったほうが得策だろうと考えたのだ。 その判断から、二人は早く風子が飽きるように思いつつ、空返事を続けていた。 「だから、一攫千金のため温泉に向かうのがミソなのです」 「はいはい」 「ですが、困ったことに入り口が二つしかないんです」 「はいはい」 「これでは一発逆転が難しくなってしまうんですよ!」 「はいはい」 「だいたい西口と南口があるのに、どうして東口と北口がないのでしょうか?」 「はいは――え?」 適当に聞き流していたはずの梨花だったが、突然疑問系で語られたことに驚いてしまう。 ここで今まで空返事でしたと悟られるのも面倒なので、興味があるように聞き返す。 「ごめんなさい。もう一度お願いしていいかしら」 「も~! ですから、どうして廃坑の西口と南口はあるのに、東口と北口がないのかという事です」 「廃坑?」 何か考え込む梨花とは対照的に、北川は呆れ顔で地図に指をさす。 「そんなのお前、島の西側と南側に位置するから記しただけだろ?」 「でもそれなら、風子的には北口と南口と記してくれた方が混乱しなくて済みます」 「だから、それだと格好悪いからそれっぽく記したんだろう?」 「やれやれ。北川さんにはロマンの欠片すらありませんね」 「くぅっ」 肩を竦めて、呆れる様に北川へと視線を投げかける風子。 一方の北川も、今までの経験上言い返しても無駄である事を悟ったのか、怒りを抑えてその視線を流す事にした。 ただ一人、梨花だけが難しい表情で地図と睨み合いを続けていた。 なにか問題が発生したのかもしれないと思い、北川は伺うように声を掛けた。 「梨花ちゃ――」 『参加者の皆さん、ご機嫌如何かしら? 』 呼びかける北川の声を遮るように、第二回定時放送が流れ始めた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 『――この島には法律なんて存在しないのだから、思う存分殺し合いなさい』 鷹野の上からものを告げるような放送が終わり、梨花は軽いショックを受けていた。 (大石……) 引退寸前とはいえ、まさか現職の刑事が殺されてしまうとは思わなかった。 周囲に対する警戒心や判断力。単純な身体能力のどれをとっても優れた部類に入る。 そんな男ですら、この島では簡単に殺されてしまうということだろうか。 つまりそれは、赤坂とて例外ではないと言う事に繋がる。 それにもう一つ、死者の数が一回目の放送に比べて増えている事。 減っているならまだしも、増えているということは『殺人否定派』から『殺人肯定派』へと、 その立ち位置を鞍替えした者が居る可能性を秘めているのだ。 自分とて、絶対に殺人を犯さないとは言い切れない。 「じゅ――」 潤に声をかけようとして思い留まる。 彼の顔が普段から考えられないくらい硬直していたからだ。 放送を聴くまでそんな顔はしていなかった。それが放送後にこうなった理由は一つしかない。 (そう……親しい人物が死んだのね) 詩音やレナを失った時、梨花は酷く取り乱したのをまだ覚えている。 今回はある程度覚悟していたのと仲間がいたという事で、混乱するまでには至らなかった。 だが、もし次に圭一と赤坂が呼ばれた場合、混乱しないという保障はどこにもない。 梨花は無意識内に潤へと視線を送っていた。 「梨花ちゃんは」 「え?」 俯いていた顔を上げ、寂しそうな表情で梨花を見つめる潤。 「知り合いがいたか?」 あえて『死』という単語は省き、淡々と用件を述べた。 「一人いたわ」 「そっか」 それだけ呟くと、潤は天井を見上げ大きく呼吸を吐いた。 自分より大きい背丈なのに、どうしてか小さく見えてしまう。 (ダメっ) 思わず立ち上がり、潤の袖を握り締める。 突然の事に驚いて梨花に視線を落とした潤だったが、ゆっくりと両手を自分の頬に当てると、力強く手の平で叩いた。 「!?」 「っつぅ~……」 頬を真っ赤にして目尻に涙を浮かべた潤は、子供のような顔で笑みを浮かべた。 「心配してくれてありがとな梨花ちゃん。でも、もう大丈夫だ」 「え?」 「今の放送で親友……みたいな奴が呼ばれちまってさ。結構ショック受けてた」 「ぁ」 「けどさ、復讐だのなんだの考える前に、そいつを慕ってた女の子達や風子や梨花ちゃんが心配になってさ」 その言葉が本音かどうかは不明だが、少なくとも潤の瞳からは復讐の二文字は読み取れない。 握っていた袖をゆっくりと離し、梨花は安堵した表情を浮かべた。 「潤は……」 「ん?」 この男は刑事のように危険な事件などに慣れていない。 首輪を何とか出来るような天才少年でもない。身体能力も平均的な男子でしかない。 名探偵の様にどんな難事件でも解決できる明晰な頭脳の持ち主でもない。 それでも……それでもこの男の瞳は心の波紋を鎮めてくれる。 「潤は本当に女たらしね」 梨花は、この北川潤と言う男に出会えた事を心から感謝していた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「そうだッ! 俺なんかより風子だ!」 北川は梨花の「女たらし」発言で傷つきながらも、ずっと気になっていた風子に声をかけた。 あの放送の中に、風子が知り合いであると言う人物が呼ばれていたからだ。 だが、テーブルの向かいに座っている風子は、普段と変わった様子はない。 北川は心配そうに顔を近づけて声を掛けた。 「おい風子、大丈夫か!?」 「北川さん顔を近づけないで下さい。暑苦しいです」 もしかして、座ったまま気を失ったのではないかと心配して顔を近づけたが、見事にそっぽを向かれた。 さすがにこれは予想外の反応である。呆然とする北川を無視して、風子は立ち上がるとベットへ足を進めた。 「おまっ、平気なのか?」 あまりにも冷静過ぎるその様子は、北川に不安を抱かせるのに十分だった。 本当に平気か確かめるため、なんとか寝かせない様にベットの前で通せんぼする。 「何がですか?」 「何ってそりゃ……」 口にして良いものか悩む。事情が解っていない梨花も、北川が何を言いかけているかは分かった。 三人の間に、微妙な沈黙が訪れる。 「北川さん。梨花ちゃん。一つ質問しましょう」 「な、なんだ?」 「私も?」 沈黙を破った風子は、二人に対して偉そうな態度で質問を投げかけた。 「風子達は死体に遭遇しましたか?」 突然そんな事を聞かれ、虚を突かれたような表情を浮かべる二人。 殺し合いに乗っている人間ならば遭遇したが、確かに死体と遭遇したことは無い。 「俺は……無いけど」 「私も一応」 「風子もありません」 自信満々に言うが、北川には風子がなにを言いたいのかサッパリ理解できなかった。 「実際に見ていない以上、風子は放送なんて信じません」 「それは――」 勢いに任せて「事実から逃げているだけだろ」と言いかけるが、梨花がそれを遮る。 「どうしてそう思うの?」 梨花の問いに、風子は自信満々に答えた。 「風子が信じる事に間違いが無いからです。えっへん」 「信じる……か」 梨花は、その言葉を何度か繰り返し呟いた。 確かに前向きと言えば聞こえがいいが、北川には放送こそが真実と直感で気付いていた。 仮に死んでいないのだとしたら、今まで名前を挙げられた人間はどう思うだろう。 すでに半分に届きそうな数が、放送で読み上げられている。 単独行動しているならまだしも、集団で行動していて、その内の一人だけ読み上げられたら不自然だろう。 それが島に居る参加者を煽る手段であるとしても、すぐにバレるのは時間の問題。 だから、北川は呼ばれた人物は死んでしまったと結論付けている。 (けれど、今はそれでもいいかもしれないな) 言い方は悪いが、どう理由であれ泣き喚くよりもマシだ。 問題は今後誰かの死体を発見してしまう事だが、ここから動かない限りそれはない。 色々考えた末、北川は下手に突っつかずに静観する事を決めた。 「そういえば、放送の前に梨花ちゃんは何を言おうとしてたんだ?」 決めた以上、その話題を長引かせるより、新たな話題を作るべきだ。 それに、踊り場でのやりとりもまだ答えてもらっていない。 梨花は禁止エリアを書き留めた地図を手に取ると、席を立ってどこかにいってしまった。 「ついてきて」 「え、ちょ」 テーブルで舟を漕ぐ風子を置いて、北川は梨花の後に続いた。 目的地に向かいながら、梨花は何気ない質問を投げかけた。 「潤。貴方の家に電気やガス。それに水道は来ていたかしら」 「来てたか……って、そりゃ来てるよ」 「水道はどこから?」 「えっと、浄水場から管を通って家に来てたはず」 「ガスは?」 「ガスは定期的にガス販売の人が来てた気がする」 「なら電気は?」 「電気なら、発電所から電線を伝って家に届いてたぞ」 最後の問いの答えが出ると同時に梨花は足を止めた。辿り着いた場所は、望遠鏡のあった踊り場だった。 「そう。その答えを頭に置いて、もう一度この景色を見て頂戴」 意味が解らなかった。この望遠鏡はつい先ほど見たばかりだ。 まさか、この十数分程度で景色が様変わりなどという馬鹿げた事はないはず。 けれども、梨花は先ほどと同じように真剣な表情のままだ。からかっている様子はどこにも無い。 どちらにせよ、覗けば全て判るのだ。意を決して、北川は望遠鏡に目を合わせた。 予想はしていたものの、その景色は先ほどとまったく同じものだった。 いつの間にか隣に立った梨花が、小さな声で呟く。 「潤……どこかおかしくないかしら?」 「そう言われてもなぁ」 「さっきの最後の質問。答えは何だったかしら」 そこに来て、初めて梨花の伝えたかった正体が理解できた。 新市街の街並みの中、一定の距離で配置されている電柱。しかし、その電柱と電柱の間には―― 「電線が……ない?」 「ええ。私も外を警戒するために見ていたんだけれど、ちょっとしたきっかけで違和感に気付いたの」 そこで北川は駐車場での違和感を思い出す。 あの違和感は車でつけた黒い傷にではなく、その上のほうに位置する電柱の先端から感じていたのだろう。 近づいたら気にならなくなったのも、おそらくは視界から外れたため。 その事実を頭に置いて再びレンズを覗くと、その違和感がハッキリ見て取れた。 一度気付いてしまうと、この気持ち悪い感覚から逃れられないらしい。 (あれ、でも電気は来てるよな) 電線は見当たらないが、電気が供給されている。 もしかしたら、百貨店のどこかで自家発電をしているのかもしれない。 その事を告げる前に、梨花はさっさと風子のもとへと歩き出してしまう。 「あ、おい」 今日は梨花の尻を追いかけてばかりだと思いつつ、北川は梨花の後を付いていった。 ◇ ◇ ◇ ◇ (思わぬ所でヒントを得られたわね) 風子のもとに向かいながら、梨花は地図を睨んでいた。 バラバラに砕かれた正解に嵌るピースは、確実に揃い始めている。 けれども、これだけではまだ少な過ぎる。行動に移すのはもっと情報を集めてからだろう。 些細なきっかけでも欲しい梨花は、頭の中で考えていた事を口から漏らした。 「もし潤がこの殺し合いを『させる側』だったら、禁止エリアはどうする?」 「どうするって……え~っと、俺だったら反乱に利用されそうな場所を優先的に潰すかな」 「そうね。私も同じ意見よ。けれど見て」 隣を歩く潤に、すでに禁止エリアにされた場所と、今後禁止されるエリアを見せる。 「何もないな」 「ええ。ちょっとした民家や建物はあるかもしれないけれど、地図で示されるような特殊な施設や建物は一つもないの」 梨花の言葉に、潤は何か閃いたのか、自分なりの意見をそっと述べる。 「う~ん。例えば、他の参加者が集まり過ぎてたとか」 「殺し合いをさせるのに、わざわざ散らすかしら」 「そこにいた全員が反抗的だったとか」 「可能性は否定できないけど、それなら禁止エリアから全員で移動されたら終わりじゃないの?」 「むむむ」 出す案が即効で言い負かされて、潤は両手を突き上げギブアップのジェスチャーを見せた。 頃合良く寝具ルームに到着したため、二人はいったん会話を打ち切る。 荷物を置いた場所まで行くと、風子はすでにテーブルに突っ伏して眠りこけていた。 緊張感の欠片も無いことは、口元から垂れている涎が物語っている。 そんな風子を無視して、二人はテーブルを挟んで会話を再開した。 「この禁止エリアの謎……ある仮定を当てはめれば納得がいってしまうの」 「仮定ねぇ。例えばどんな?」 「例えば、その場所には『地図に記されていない何かがある』とか」 「あいつらが地図には記さなかった場所って事か」 風子のデイパックの中から、派手に塗り潰された地図の裏面が出てきた。 それは、潤の地図を無断で拝借し、カラフルに書き換えられた風子特製の人生ゲームだ。 「風子の言ってた事、覚えているかしら」 「あー、なんとなく」 梨花は頷くと、地図の中の廃坑の入り口を手の甲で叩く。 「この二つの他に入り口があるんじゃないかって事」 「おお。確かそんな感じだったな」 「で、ここからが本題……見てて」 梨花は南口から北に向かって器用に直線を引く。 続けて、西口から東に向かって直線を引いた。 「あ」 何度か角度を変えて交わっているうちに、遂に禁止エリアとぶつかる。 「仮定でしかないけれど、可能性はゼロじゃないわ」 もちろん、この考えが間違っている可能性のほうが高い。 「けれど、あの電線や廃坑。禁止エリアの意味する所が、なぜか重なって見えるのよ」 「なら、早く確認しないと!」 「駄目よ」 立ち上がる潤と違い、梨花の重い腰はあがる事は無かった。 「私達がどんな行動に移るにしても、三人では人数が少な過ぎるわ。 この拠点を捨てずに、かつ島を探索出来るくらいの人数が欲しいの」 「……」 その言葉に、潤は飛び出しそうな勢いを抑える。 「まずはこの拠点に罠を仕掛けましょう。私は風子と罠を製作するから、潤は使えそうな資材を持ってきて」 「そうだな……」 気持ちを切り替えたのか、潤はやる気に満ちた表情で拳を握った。 「待つしか出来ないなら、やれる事から始めるとするか!」 ◇ ◇ ◇ ◇ それから数十後、北川達は拠点を寝具ルームから二階の第二守衛室へと移していた。 一階の第一守衛室という案もあったが、万が一来た人物に敵意があった場合の事を考えて却下された。 たとえ設備が整っていても、逃げるには慌し過ぎるのが主な理由だ。 そこで、設備は劣るが防犯扉と監視カメラが備えてある二階の守衛室が繰り上げ当選されたのだ。 部屋で罠を製作する梨花と風子のために、北川は百貨店を走り回って使えそうな物を集めて回っていた。 そして、現在北川がいるのは……非常に危険な場所だった。 (俺の命もここまでか) 目の前に迫る四本の脅威を必死に回避しつつ、北川はどうしてこうなったか思い返す。 少し前までは前向きな展開ばかりで、今回はきっとこれで終わるだろうと油断したのが甘かったのか。 ――それは、数分前の出来事だった。 一階で適当に資材を見繕っていた北川は、階段を往復するのに嫌気がさしていた。 そこで目に付いたのは、今まで使っていなかったエレベーターである。 あれだけ嫌な予感がして避けていたのだが、楽をしたい気持ちが優先され乗り込んでしまったのだ。 箱に乗って二階のボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと動き出す。 そして、出入り口の上で点灯する『1』という文字が『2』に変わった瞬間事件は起きた。 エレベーターは突然停止し、明かりも消えてしまったのである。 「うわ、予想はしてたけどやっぱりかよ」 うな垂れつつ、並んだボタンの中から緊急用のボタンを発見し力一杯押し付ける。 だが、ボタンは軽い音しか鳴らず、どう見ても作動したようには見えなかった。 「って事は、やっぱりアレか」 泣きそうな表情で天井を見上げる。視線の先には緊急用の脱出口が備わっていた。 楽をするどころか、とんだ災難である。 とりあえず堅くて安定した資材を土台にして、北川は天井の脱出口から抜け出した。 だが、箱の屋根によじ登ったものの、残念ながら二階のドアには手が届かない。 どこか出られそうな場所はないかと周囲を見渡すと、足元の緊急避難通路が目に付いた。 「他に出られそうな場所もないしなぁ」 諦めた表情で避難通路の網を外す。中は暗いものの、四つん這いで進めば通るのは可能なようだ。 黙々と通路を前進していくと、三方向に別れる分岐点に差し掛かる。 北川は守衛室の位置を必死で思い出して、おそらくこの方向だろうと言う通路に体をねじ込んだ。 しばらく進んでいくと、ようやく頭上から光が漏れている場所に到達する。 (よかったぁ~) 光が漏れているという事は、この上に位置する場所は、少なくとも北川達が通った場所だという証明になる。 早く出たい気持ちが先行していた北川は、深く考えずに頭上の蓋を開けてしまう。 暗い場所から飛び出した北川の、一番最初に写った光景は幼女の生足だった。 (避難通路の長いトンネルを抜けると天国であった。視界一面が絶対領域になった) 著名な作家の一節が北川の頭をよぎる。 (って、まてまてまて!) 目の前に迫る可愛らしい太ももに目が釘付けになりながら、北川はパニックになりかけていた。 「ん?」 生足の主が何かに気づいたのか、体を屈めテーブルの下を覗こうとしている。 (まずッ!) 反射的に、北川は蓋を頭に乗せて避難通路へと身を隠した。タッチの差で発見されるのを回避できたようだ。 だが、よくよく考えてみると、身を隠した事は余計誤解を招いてしまう事に気付き後悔する。 (なんで隠れたんだ俺……) やましい所は無いのだから、素直に事情を話せばよかった。 けれども、あの眼前に迫った絶対領域は、そんな冷静な判断すら奪い去ってしまうらしい。 (落ち着け俺。KOOLだ……素数を数えてKOOLになるんだ潤!) どこかで見た漫画を思い出し素数を数える。 が、その度に目に焼きついた太ももが頭から離れない。 (そうだ! 脳内で妄想……じゃなくて、想像するから美化されるんだ。現実を見ろ潤!) 意を決して、もう一度蓋を開ける。今度は音を立てないよう静かに頭を突き出した。 (ふ、太ももが四つになってる) 黒と白の太ももは、北川の想像を遥かに超える代物だった。 太ももの主達は、足元に北川がいることを知らずに無防備な体勢で話を続ける。 「それにしても、潤は遅いわね」 「まったく。どこで道草を食っているのでしょう」 喋るたびに腰を動かすためか、そのさらに奥が見えそうで見えない。 危険だと理解しつつも、北川は血眼になりながらその奥を覗く。 もっと近くで見ようとした瞬間、白い方のふとももが体勢をずらす。 それと同時に床に何かが落ちる音がした。 (こ、これは!) それに気付かないほど、眼前に広がる新たな景色は北川を虜にしていた。 「潤」 (ああ、梨花ちゃんって意外と……) 「潤」 (風子は年相応というか、それはそれで素晴らしかったが) 「潤」 (梨花ちゃんのは……こう、幼い姿に似合わないアンバランスな) 「潤」 (だが、それがいい!) 「……潤」 肩を叩かれてようやく気付いた。 北川の眼前にあるのは、大人びた景色でなくこめかみに青筋を立てた梨花の顔。 「あ、いや、その……梨花ちゃんってさ」 「なにかしら」 「意外とセクシーだ――」 「寝てなさい」 親指を立て爽やかに褒め称える北川を、梨花は容赦なく踏み潰した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 北川が折檻されている際、風子は眠いからという理由でその場を離れていた。 守衛室に備えてあったベットに潜り込みながら、小さく息を漏らす。 (第二回の放送に到達できませんでしたか) 二人にはああ言ったが、風子は生きているとは微塵も思っていなかった。 岡崎の事は辛いが、泣き叫べば蘇る訳ではない。 だからと言って、復讐するつもりなど絶対にない。 それがどんな悲劇を引き起こすかは『前回』で痛いほど理解していたから。 部屋の隅で怯える北川と、鬼の形相でお仕置きをする梨花を見つめながら、今まで見せた事のない緊張した表情を浮かべた。 (ちょっと喋りすぎでした。風子はもっとお馬鹿でないといけませんね) この島に連れて来られた時から決めていた。普通の伊吹風子でいようと。 連れて来られて気付いたが、鷹野と言う女性は風子について特別なにか行動を起こすことはなかった。 それはつまり、あの女でさえ風子が二度目の参加者だと言う事実を知らされていないかもしれないと言う事だ。 だから下手に名乗り出ずに、事情を知らない一人の少女として振舞ってきた。 余計なことは口出さないつもりだったし、能動的な行動を起こすつもりもない。 ただ、北川や梨花が危険な事態になった時だけは、能動的になろうとも考えている。 そんな心情を悟られないために、風子はギリギリまで『天然で自己中心的な伊吹風子』を演じなければならない。 (ごめんなさい北川さん。梨花ちゃん。風子は悪い子です) 何も言えない事を心で詫びつつ、風子は固い決意を胸に誓った。 (今度こそ、風子は『仲間』と一緒に元の世界に還ります) 心に潜む『伊吹風子』を丁寧にしまい、今まで通りの『伊吹風子』を体に馴染ませ、浅い眠りに落ちていった。 【A-3 百貨店二階第二守衛室/1日目 日中】 【北川潤@Kanon】 【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾6/6)、首輪探知レーダー、車の鍵 【所持品】:支給品一式×2(地図は風子に奪われまたまま)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本) ノートパソコン(六時間/六時間)、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7 【状態】:お仕置き中 【思考・行動】 基本:殺し合いには乗らない。というかもう乗れねーつーの! 0:ゆ、ゆるじで梨花ぢゃん…… 1:百貨店内の探索&トラップ 2:信頼できる仲間が来るのを待つ 3:百貨店を拠点とし、風子と梨花を守る 2:水瀬名雪や信用できそうな人物を捜索したいんだけど、二人(風子達)をわざわざ危険に晒すわけにもいかないからなぁ 3:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える 4:鳴海孝之(名前は知らない)をマーダーと断定 5:またか!また『童貞男』なのか! 【備考】 ※チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明。 ※チンゲラーメンを1個消費しました。 ※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。 また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。 ※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。 ※首輪探知レーダーが人間そのものを探知するのか、首輪を探知するのかまだ判断がついてません。 ※車は百貨店の出入り口の前に駐車してあります。(万一すぐに移動できるようにドアにロックはかけていません) ※車は外車で左ハンドル、燃料はガソリン。 ※一連の戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついています。 ※梨花をかなり信用しました。 ※電線が張られていない事に気付きました。 ※『廃坑』にまだ入り口があるのではないかと考えています。 ※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。 ※ノートパソコンの二回目の新機能は確認していません。 ※幼女に目覚めました 【伊吹風子@CLANNAD】 【装備】:無し(コルトパイソンは潤に預けたまま) 【所持品】:支給品一式、猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)、風子特製人生ゲーム 【状態】:健康。満腹 【思考・行動】 0:今まで通り『伊吹風子』を演じる(受動的) 1:Zzzzzz… 2:北川さんは風子がいないと本当に駄目ですね。やれやれです 【備考】 ※状況を理解していないように装っています ※どれだけの知識や経験があるかは、後の書き手さんにお任せします ※北川をかなり信用。梨花も信用しています。 【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】 【装備】:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭 ヒムカミの指輪(残り2回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S. 【所持品】:支給品一式 【状態】:頭にこぶ二つ。北川をお仕置き中 【思考・行動】 基本:潤と風子を守る。そのために出来る事をする 0:このロリコンめ! 1:捜索、トラップ仕掛けを潤と一緒に始める(風子のトラップ技術を評価) 2:百貨店に誰かが来るのを待っている 3:取り敢えずは潤達と一緒に居る 4:もしも(別の仲間が入る等して)自分がいなくても潤達が安全だと判断出来たら、一人で圭一達を探しに行く(D-2へ) 5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を見付けたい) 【備考】 ※皆殺し編直後の転生。 ※ネリネを危険人物と判断しました。 ※探したい人間の優先順位は圭一→赤坂の順番です。 ※北川と風子をかなり信用しています。 ※電線が張られていない事に気付きました。 ※『廃坑』にまだ入り口があるのではないかと考えています。 ※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。 ※ヒムカミの指輪について ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。 ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。 原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。 ※紫和泉子の宇宙服について 紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。 ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。 水に濡れると故障する危険性が高いです。 イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。 朝倉純一にはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。 またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。 (うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします) 宇宙服データ 身長:170cm 体重:不明 3サイズ:110/92/123 偽装体データ スレンダーで黒髪が美しく長い美人 身長:158cm 体重:不明 3サイズ:79/54/80 |122:[[コンパスを失い道に迷った人間は、こんなにも愚かになるの]]|投下順に読む|124:[[信じる者、信じない者(Ⅱ)]]| |122:[[コンパスを失い道に迷った人間は、こんなにも愚かになるの]]|時系列順に読む|125:[[魔法少女の探索。]]| |112:[[童貞男の乾坤一擲]]|古手梨花|| |112:[[童貞男の乾坤一擲]]|北川潤|| |112:[[童貞男の乾坤一擲]]|伊吹風子|| ----