アサシン&野咲春花 ◆GsX/Tt1F2.


 いつもの帰り道。

 見慣れた並木通りを、仲の良い女友達と姦しく談義しながら歩く。

 蜂蜜色の夕陽が射し込み、鴉がかぁかぁと一日の終わりを告げ始める頃、私は友達と別れ帰途に着く。

 当たり前の日常。中学生になってからかれこれおよそ三年間、毎日のように繰り返してきた生活サイクル。

 けれど、一人分かれ道へ進み出し、振り返って彼女たちへ手を振り、また明日ねと笑いかける時、私は不意に思うのだ。


 ――これは、なに?


 既視感という言葉がある。
 しかし、私が感じているのはむしろその真逆だった。
 未知感。当たり前に過ごしてきた筈の日常が、どういうわけか奇妙に映る。

 例えば、今日一緒に日直の仕事をしたおかっぱ頭の大人しい彼女。
 あの子は、あんな風に元気いっぱいな笑顔を浮かべる人物だったろうか?
 もっと卑屈で、暗く、――言ってしまえば、ひどく“人間らしい”人物ではなかったか?

 考え出すとキリがない。
 もう姿は見えなくなってしまったが、この帰り道を歩いてきた二人だってそうだ。
 そも、自分はあの二人といつ出会った? どのような経緯を経て、私達は友達になったんだっけ?

 カメラの似合う彼。密かに気になる、クラスメイトの優男。
 いつもみんなの人気者、クラスの中心にいるスタイリスト志望のあの子。
 みんなみんな良い子達で、かけがえのない友人だ。
 なのに最近、そんな幸せな世界をどこか冷めた目で見つめている私がいる。
 隣の芝生は青く見えるという諺があるけれど、まさにそれ。
 今の私には、彼女たちのことが、隣の芝生にしか感じられない。

 「……疲れてるのかな」

 こめかみに手を当ててため息をつく。
 こんなことばかり考えていては気が滅入ってしまう。
 私がどう思おうと、彼女たちが大切なクラスメイトで、共に卒業しようと誓い合った友達なことに変わりはない。

 もう、一緒に過ごせる時間も長くはないんだから。
 おかしな空想は早く忘れて、またいつもどおりの毎日へ戻ろう。

 踵を返しながら、私は前向きに頷いた。

 ◯  ●


 「ただいま」

 言った瞬間に、異変に気がついた。
 ――――臭い。
 玄関の扉を開けた途端、鼻腔を通って嗅覚を埋め尽くす、鉄錆によく似た悪臭。
 思わずその場でたたらを踏む。次に、はっとなって靴の数を確認した。
 お父さん、お母さん、妹のしょーちゃん。……家族全員、この家の中にいる。

 少しだけ逡巡したが、堪え切れずにおっかなびっくり、いつもと違う自宅へ踏み入った。
 脳裏を過ったのはガス漏れというワードだった。
 果たして家庭で使うようなガスがこんな酷い匂いを持っているのかどうかは分からなかったが、つい最近にも隣町でガス漏れによる死亡事故があったと記憶している。
 もしもそうだとしたら一大事だ。悠長に大人を呼んでいては間に合わないかもしれない。

 胸の鼓動が早まる。
 背筋へぞわぞわと這い上がってくる冷たいものがある。
 家族を失うというイメージが脳裏へ浮かび――そこで、私は思わず足を止めた。

 「……え」

 違う。
 ――違う、違う。
 頭の中にあるのは、もはやイメージなどではなかった。

 冬の夕暮れ、季節に似合わない熱気が煌々と立ち込めている。
 大勢の野次馬。誰もが憐れんだ眼差しで燃え盛る自宅を見つめている。
 まるで悪い夢。でも、これは紛れもない現実で……
 そして、見覚えのある顔をした少年が、“ナニカ”を抱えて炎の中から現れる。
 その細腕に抱いたのは、黒く焦げ付いた――私の、いも、うと。


 「――ッ、しょーちゃんッ! お母さん、お父さんッ! いるなら返事してッ!!」


 違う、空想なんかじゃない。
 私は今思い描いた光景を知っている。
 悪夢と一蹴してしまいたくなるような、火柱をあげて燃え上がる家を見たことがある。
 いつ? どこで? テレビ? ゲーム? それとも映画? 小説?
 必死に、浮かんだ恐ろしい想像を払拭するように選択肢を乱立させながら、私は叫んで止めた足を再度進ませた。
 返事はない。それどころか、錆の匂いはどんどん濃くなっていく。

 「……違う……」
 か細い、消え入りそうな声で呟いた。
 「ガスなんかじゃ、ない」
 この匂いも、私は知っている。

 居間の扉を開けた先には、予想通りの惨劇が広がっていた。


 最初に目に入ったのは、胸を刺され、首と胴体が離れて死んでいるお父さん。
 次に、混乱の余り窓から逃げようとしたのだろうか。
 首から下は窓の取っ手へ手を伸ばしたままで、首から上は切断されて床へ転がっている。
 その顔は、見間違いようもないお母さんだった。

 膝から下の力が一気に抜けてしまった。
 そんな私に追い打ちをかけるように、視界の端から変わり果てた矮躯が放り投げられる。
 胸を刃物で貫かれ、眠るように安らかな顔で息絶えている少女。
 ――私の、たったひとりの妹……


 「違うだろう」

 大声をあげて泣き叫ぼうと思った私へ、聞き覚えのない、この家に居るはずのない男の声が投げかけられる。

 「“こうじゃねえ”。そうだろう、Master?」

 マスター……と私を呼んだその男の右手には、巨大な出刃包丁のような凶器が握られていた。
 刃には真新しい血がべっとりとこびり着き、今も耐えることなく血糊の雫を涎のように垂らしている。
 わざわざ根拠を探すまでもなく分かる。この男が――私の家族を殺したのだと。
 だが、不思議と腹は立たなかった。拍子抜けするほどあっさりと、私はこの惨劇を受け入れている。
 常識的に考えて、刃物を持った相手へ丸腰の子供が敵うわけはないけれど、それでも普段通りの“野咲春花”ならば、怒りを抑えられずに家族の仇へ挑みかかるはずだと自分でも思えた。だから、この瞬間をもって、私は真に確信する。

 ――ああ。私はやっぱり、“この”野咲春花ではないんだ。

 「exactly」

 男は、無気味な格好をしていた。
 ポンチョ……というのだったか。
 そういう衣装に身を包み、大振りの包丁を持った姿は絵に描いたような殺人鬼のそれ。
 なのに、やっぱり怖いと感じない。

 「何か……知ってるんだね」
 「おっと、勘違いするなよ。俺はMaster、お前の過去については何も知らねえ。興味もないさ。だが」

 口許がにやりと歪む。

 「この街で何が起ころうとしているのかは知っている」
 「……教えて」
 「No、俺が教えちゃ意味がねえ……それに、お前も知っている筈だ。よぉく思い返してみるんだな、自分の記憶を」

 言われた通りに、記憶を遡る。
 あれほど充実していたはずの学校生活も、“知って”しまった以上はもう薄ら寒くしか感じない。
 そういう偽物の思い出を蹴り飛ばして、辿り着いたのはやはり、あの炎の夜だった。
 焼ける、家。
 全身に酷い火傷を負い、意識さえ戻らず虫の息で眠り続ける妹。
 そして――……

 下卑た声が頭の中で木霊する。
 人を人とも思わずに、私の家族を焼き殺した奴ら。
 その顔は皮肉にも、さっきまで一緒に帰っていた二人の女子生徒に瓜二つだった。

 私はそれを殺す。
 一人、二人、三人。
 虫でも叩き殺すように淡々と、撲り、撲り、撲り殺す。
 一度箍が外れれば後は早かった。
 悔やみ、自責しながら、それでも止まらずに私は殺す。
 刺し、斬り、射ち殺す。
 そして最後は、私も死んだ。

 ……多分、これで全部。全てを思い出した私の頭は、氷でも入れられたように冷ややかだった。


 「……ごめんなさい。手間を掛けさせちゃったね、アサシン」
 「No Problem。物分かりの良いMasterで助かったと喜びたいくらいだぜ」

 どうして今まで忘れていたんだろう。
 これがこの町の仕組みだとすると、相当に悪趣味だ。反吐が出る。
 でも、もう大丈夫。私のやることはちゃんと思い出せた。


 私は――――家族を取り戻すために、また、人を殺す。



 「それじゃあ、思い出した所で一つ出掛けようじゃねえか」
 「……? 敵のマスターを未然に探し出して倒す……ってこと?」
 「違えよ」

 くつくつと嗤って、人殺しの私が喚んだ人殺しのサーヴァントは、血飛沫で汚れた顔を私へ向け、言った。

 「生け簀かねえFakeをぶっ壊しに行くのさ」


 ●  ◯


 昨晩の夕方から夜に掛けて、特定地域の中学生を対象とした連続殺人事件が発生しました。
 被害者はいずれも×××中学校3年×組在籍の生徒であるということです。
 未だ消息不明の生徒も少なからずおり、警察は慎重に捜査を続けていく方針です――――

【クラス】アサシン
【真名】PoH@ソードアート・オンライン
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:A 宝具:A

【クラススキル】
気配遮断:B
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
 PoHのそれは“悪”に偏っており、彼の悪性へ魅せられ、時に人は狂気の道へと迷い込む。

軍略:B
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、
 逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

ソードスキル:A
 MMORPG「Sword Art Online」内に存在したスキルシステムを使用することが出来る。
 彼の扱うソードスキルは高度なもので、技量は一級の剣豪にも匹敵する


【宝具】
『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:1~99
 SAO世界にてPoHが統率していた、最凶と称されるPK(プレイヤー・キラー)ギルド「笑う棺桶(ラフィン・コフィン)」のメンバーを召喚する。
 呼び出される殺人鬼たちは皆PoHにこそ及ばないものの実力者揃いで、また殺人行為へ毛ほどの躊躇いも覚えない性格破綻者が集っている。彼らは宝具が使用されるなり現れ、己の思うままに殺戮の限りを尽くす。
 無論、その全員がソードスキルを扱うことが可能。

『友切包丁(メイトチョッパー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
 SAO世界でPoHが使用していた、モンスタードロップのレアアイテム。
 ゲーム中でも最強クラスとされる武器で、出刃包丁を巨大化させたような形状をしているのが特徴。
 これそのものに特殊な能力は無いが、武器としては非常に優秀な品物である。

【人物背景】
 殺人ギルド「ラフィン・コフィン」のリーダーにしてSAOで最も猛威を振るったPK(プレイヤーキラー)。躯で膝上までのポンチョで身を包みフードを目深にかぶっている。美貌と強烈なカリスマ性を持ち、少なくとも三ヵ国語を話すマルチリンガルで張りのある艶やかな美声にやや異質なイントネーションを潜めた話し方をする。
 ユーモラスなキャラクターネームと裏腹に、冷酷で狂気的な思考を持った殺人鬼で、デスゲームとなったSAOにおいて「ゲームを愉しみ殺すことはプレイヤーに与えられた権利」という扇動を行い多くの「オレンジプレイヤー(犯罪者プレイヤー)」を誘惑・洗脳して狂的なPKに走らせた。最強クラスの武器の1つだったモンスタードロップの大型ダガー「友切包丁(メイト・チョッパー)」と凄まじい剣技で数多のプレイヤーを斬殺しており、殺戮の前には決め台詞として「イッツ・ショウ・タイム」と宣言する。
 「ラフコフ」結成以前の第2層の時点で既にPKを画策していた節がある。
 「ラフコフ」討伐戦では姿を現さなかったが、カルマを回復して圏内に潜伏、なおも暗躍を続けていた。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯の使い道は手にしてから考える。今は殺し合いを愉しむ

【マスター】
野咲春花@ミスミソウ

【マスターとしての願い】
焼き殺された家族の蘇生

【weapon】
クロスボウ、包丁などオーソドックスな凶器。現地調達。

【能力・技能】
特になし。だが、クラスメイトを殺害した経験があるため殺しに対し無防備ではない。

【人物背景】
 心優しい性格をした清楚な美少女。父親の仕事の都合で東京から大津馬村に引越し、大津馬中学校に転校するが、「よそ者」であることからイジメの対象にされる。同級生たちから陰惨なイジメに遭うものの、優しい両親や最愛の妹、クラスの中で唯一味方をしてくれる相場晄の存在によってイジメに耐える事が出来ていた。
 しかし、イジメグループによって家族が焼き殺されたことと、その証拠隠滅の為に自殺を強要された際、主導した吉絵が口を滑らせたために全ての真相を知ったことで彼らへの復讐を誓い、関与した者達を次々と惨殺していった。
 終盤、「全ての原因が自分にあった」と後悔に苛まれた妙子の心からの謝罪を受けて彼女と和解し、「前を向いて生きていこう」と誓い合って復讐にピリオドを打った。しかし、最終的に想いを寄せていた晄の本性を知り、そこに雪崩れ込んできた流美の襲撃によって致命傷を負わされた際、晄が後生大事に持っていた春香の家族の死体を収めた写真を見てしまった事から全てに絶望。最後の戦いを開始し、これを制した。
 作中に直接の描写はないが、復讐を完遂した直後に死亡した模様。

【方針】
アサシンと共に聖杯戦争を勝ち抜き、願いを叶える

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最終更新:2015年04月14日 16:49