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天本玲泉&アーチャー ◆lHaWUMA7LM






――――幸せになりたい、と。


生まれて初めて、少女は涙を零した。







日の沈む街の中で、家が赤く染まっていた。
夕日の赤だと思っていたものに、黒が混ざり始めた。
背負ったランドセルと同色の赤から、家を染まっていた赤は黒く濁りだし、やがて、それが赤でないことに気づいた。
それは火だった。
パチパチと、空気を弾く音が耳に届き始めた。
意味が分からなかった。
母は、母は無事なのだろうか。
父の顔も知らぬ少女にとって、母は唯一の家族だった。
燃え盛る家へと駆け出すが、すぐに駆けつけていた消防団のおじさんに止められた。
必死で叫んだ。
蒸発した父親と頭のおかしな祖母を持つためか、普段は寡黙と言ってもいいほどの少女。
その少女の叫びに、周囲が意外そうな表情を形作った。
母の名を叫び、叫び、叫び。
その叫びも、少女の声量では空気を弾き木を燃やし尽くす火炎音に掻き消された。
ガタン、と。
大きな音が響き、屋根が崩れ落ちた。
少女が首を大きく曲げてようやく見えていた屋根は、崩れ落ち、少女の目線と同じ高さに瓦を落とした。
少女は消防団員に問いかけた。

『母は?』

母は暗い女性だった。
仕事以外では他人と関わることもなく、少女と短く語り合うだけで生きている人間だった。
今日、仕事は休みだ。
ならば、まず間違いなく室内に居る。
だからこそ、少女はここまで取り乱したのだ。
まず、間違いなく、居る、はず――――だが。
それでも、ひょっとしたら、自宅に居なかったかもしれない。
可能性は0ではない。
少女は縋るように、消防団員にもう一度問いかけた。

『母は……どこですか?』

万が一はなかった。
母の遺体が見つかった。
少女には、最初はその遺体が母だと分からなかった。
黒く炭焦げた体は、しかし、わずかに肉を残していた。
肉は皮膚を食い破り、露出している。
沸騰した血が血管を破ったのか、露出した肉は歪な形をしていた。

人ではなく肉に見えたそれは、母の遺体だった。

それが母だとわかったのは、母が残していたロケットだった。
ロケットの中身を一度だけ盗み見たことがある。
蒸発して少女と母を残して消えた父と、少女を残して肉となった母と、何も分からずに眠る赤子の少女の写真だ。

『……』

それは、つまらないほどの日常の中に起こった、一つの異変に過ぎなかった。
ただ、その異変は偶然じゃなかった。
焼身自殺だった。
心神を侵した母は、少女を残して一人だけ消えていった。
母にとって、少女とは残しても良いものだったのだ。
少なくとも、少女は幼心にそう感じた。
残された少女は祖父母に引き取られた。
島では、少女の両親の話は禁忌となった。
少女は、泣くことを辞めた。
母と少女を残して勝手に消えた父と、少女を遺して勝手に消えた母に、屈しているようだった。
泣くことでは、幸せになど来ない。
だから、絶対に泣いてなどやらないと決めた。
泣くことを辞め、いつか晴らすことだけを夢に見て。
少女、天本玲泉は笑みを顔に貼り付け続けた。






「呪いですね」

ニコニコ、と。
少女、天本玲泉は笑いながら言った。
少年、小波四郎は間の抜けた顔で玲泉を眺める。
呪い。
本土から、海の向こうからやってきた少年を契機にして起こった異変。
日ノ出高校が甲子園に出場しなければ、日ノ出高校野球部の部員は『神隠し』に遭う。
神隠しに遭った者は、人々の記憶から消え去る。
呪いをかけられた当人である四郎と、呪いをかけている者以外は。
誰も覚えていないのだ。

「つまり……甲子園に行けってこと?」

曰く、戦後生き残ってやっと帰ってくるところを船が難破して死亡した若者達の呪い。
曰く、戦争が終わってようやく野球が出来ると喜んでいたのに急にその喜びを奪われたものの呪い。
曰く、自分たちが出来ない野球をやれるのに腑抜けて真面目にやらないものへの怒りによる呪い。
曰く、その呪いを解くためには、真面目に野球へと取り組んで、甲子園に出場すること。

「お祖母様の言うとおりだとすると、そうなります」
「無茶だ!」

四郎は叫んだ。
甲子園とはそんな簡単なものではない。
実力だけではなく、運も必要なものだ。
今の四郎には、今の日の出高校野球部には実力も特別な運もない。
行こうと思ったから行けるものではないのだ。

「でも、行こうと思わなければ行けないもの。
 そうではないですか?」
「……そ、そうだけど」

四郎は困ったように眉を寄せた。
玲泉は笑った。
悪意というものを、四郎は感じなかった。
釣られるように、困ったように、四郎は笑った。
笑顔に釣られて笑顔になり、仕方ないから、これから頑張れるだけ頑張っていこうと思った。
愚痴を言ってもしょうがないと、そう思った。


――――翌朝、玲泉は日の出高校の部室に火を付けた。


部室も用具もなくなった日の出高校野球部は、四郎を除いて部員が居なくなった。





玲泉は、祖母が嫌いだった。
優しかった祖父とちがって、祖母は厳しかった。
いや、厳しいだけならばよかった。
ただ、優しかった祖父を御座なりにして、若いころのロマンスばかり夢に見ていた。
ロマンス――――戦争に帰ってこようとしていた恋人が、難破によって死んでしまった事実。
いい年をして、いや、いい年になってまで悲劇のヒロインを気取っているのか。
あれだけ優しい祖父が居て、何が不満なのか。
玲泉は、祖母が嫌いだった。
祖父が亡くなってからは、それがさらに強くなった。

だから、『邪魔』をした。

『日の出高校野球部に呪いをかける』ことで、『日の出高校野球部を野球へと真剣に取り組まそう』としている祖母を。

玲泉は『邪魔』をした。

日の出高校野球部が甲子園に出たら、亡くなった恋人が喜ぶというのだろうか。
後輩が野球に対して真剣に楽しんでいれば、亡くなった恋人が喜ぶというのだろうか。
不快な感情が、玲泉を襲った。

――――まずは、部室に火を付けた。

そもそもとして、四郎以外の呪いを認識していない人物は必死ではない。
部室も用具もなくなれば、野球を辞めてしまうだろう。
玲泉はそう考えた。
だが、野球部は再建した。
四郎が部員集めに奔走したからだ。
問題はなかった。
練習の期間を短くすることが出来た、後は一年と半年もない。
四郎の言ったとおり、『出ようと思って出れる』ようなものではないだから。

――――次は、一回戦を勝ち抜いた野球部に笑いが止まらなくなるきのこを匿名で差し入れた。

試合当日、部員は病院に運び込まれ、不戦敗となった。
二年目の秋のことだ。
これで、残りは三年目の夏しか残されていない。

祖母は、日に日に弱っていた。
神隠しの呪いをかけることから生まれる負担が、祖母の身体を襲いかかっているのだ。
恐らく、近いうちに死ぬだろう。





ある日の事だった。

「俺は、天本さん好きだからさ」

何の気もなしに、玲泉は四郎から告げられた。
相変わらず困ったように笑う四郎を前にして、いつもの笑顔を作ることも忘れた。

「だから、付き合ってください」

呆けた顔を崩すことが出来ず、ただ、時が流れた。
四郎の笑みが崩れてきた。
断られた、と思ったのだろうか。

「……あっ」

その時、玲泉の目に、一つの生き物が映った。
死にかけの猫だった。
四郎の告白を一度置いておいて、玲泉は猫を抱えた。

「……車に、惹かれたんですね。
 まだ、生きてはいますけど、このケガでは……
 家に、連れて帰りますね」

か弱く震えていた。
震えが止まるのも近いことだと、玲泉は分かった。
玲泉は、困ったように四郎へと顔を向けた。

「ああ、うん、一緒に行くよ」

逃げたと、思われたかもしれない。
事実、逃げはあった。
それでも、この死にかけの孤独な猫を放っておくことが出来なかった。
なるべく、揺らさないように抱えて神社へと向かう。

「なんじゃ?
 死にかけの猫なんぞ持って帰ってきて。
 さっさと殺してやったほうがそいつのためじゃぞ」

その様子を見た玲泉の祖母、不吉ババアは冷たく言い放った。
瞬間、四郎の頭に血が上る。

「なっ……!
 そんな言い方――――!」
「気まぐれです」
「えっ?」

ただ、その怒りをぶつける前に、玲泉の言葉が被さった。
不思議そうに、四郎は玲泉を見た。
普段の笑顔が張り付いている。
仮面のようだった。


「この猫の生きている残りの時間は、苦しみだけ。
 ですから、これは優しさではなく気まぐれです」

四郎は、玲泉を眺めた。
本気で言っているようだった。

「……フン。勝手にせい」

不吉ババアはいつもの調子で背を向けた。
海の見える場所へと向かう。
四郎は、死にかけの猫を抱える玲泉に隣り合って座った。

「………そろそろ、ですね……お休みなさい」

眉を寄せて、哀しみの表情を作った。
笑みのままでも、玲泉は悲しんでいた。
四郎は、言葉が零れた。

「本当に、気まぐれなの?」

聞いてはいけないことだったのかもしれない。
それは、玲泉の自分でも自覚していない部分に触る言葉だから。

「はい。
 こうして死ぬときに、誰かがそばに居てくれるのは良いものかと。
 そう思ったものですから」

玲泉は本気でそう言っていた。
これは優しさではない、と。
自分にそう言った感情はないのだ、と。
四郎は、耐え切れずに聞いた。

「それが、優しさじゃないのかな」

玲泉は、一瞬笑みが止まった。

「……小波さん、この猫を埋めるの、手伝ってもらえませんか」

四郎は頷いた。
小さな穴を作り、その猫を埋めた。
やがて猫の遺体は栄養となり、他の植物の一部となる。
土に帰るの生命は、決して一人にはならない。

「……その、さっきの答えですが」

ぴくり、と。
四郎が震えた。
玲泉も震えた。
少年と少女は震え、顔を動かした。
震える瞳と瞳が交錯した。
玲泉の唇が、ゆっくりと動いた。



「よろしく、お願いします……四郎さん」










「いやだ、俺は……俺は……!

 天本さんと、幸せに――――!!!」





.





「ハァ……ハァ……」

表情は作れなかった。
テレビは、慈悲もなく結果を発表するだけであった。

「所詮、ここまでか」

玲泉の祖母、不吉ババアと島民から嫌煙されている老婆は倒れ込みながら呟いた。
玲泉は側で同じくテレビを眺めている。
笑顔の仮面が、わずかに崩れていた。
甲子園の出場を決めたのは、日の出高校はなかった。
日の出高校は、甲子園に出場できなかった。
つまり。
小波四郎は。
神隠しに――――。

「ゲフッ、クッ、フォ!!」

その思考を止めるように、祖母が苦しそうに呻いた。
呪いをかけすぎたことが原因で、ただでさえ弱っていた身体に限界が訪れたのだ。
このままでは、死んでしまうだろう。
玲泉は無意識に電話を手にとった。

「すまんなぁ……廉也さん、すまんなぁ……日の出高校の名前を……甲子園に連れて行けず……」

祖母は苦しそうに呻きながら、誰かに謝り続けている。
その言葉を聞いて、電話を取る手が止まった。
憎しみではない感情があった。
哀れみにも似た、それでいて哀れみとも違う感情だった。
苦しそうでありながら、申し訳なさそうでありながら、どこか、満たされた顔だった。

「…………」

祖母は、最後に夢を見れたのだ。
かつて愛した恋人と『酷似した少年』が野球をやっている姿を見れて。
小波四郎の姿に、かつての恋人を重ねた。
その少年が必死に野球をすることで、どこか、理不尽で醜悪な満足を覚えていた。
ただ、玲泉は不思議とその姿を憎いと思わなかった。
ようやく、救われたのだとすら思った。
そもそも、自分の妨害がなければ、少年はもっと練習が出来た。
『少年』から『あと一歩』を埋めるための練習を奪ったのは、『少女』なのだ。
四郎が消えたことで、祖母を恨むのは見当違いなのだ。


祖母は、死んだ。
玲泉は、医者に電話をかけた。


葬儀をすました翌日。
神社は無人となっていた。
島民の間では、可哀想な少女の話は禁句となっていた。
島民の間では、日の出高校野球部はとうの昔に廃部になっていた。

神隠しは、人の記憶から少年の事実を奪っていった。
神隠しは、人の歴史から少女の事実を奪っていった。

少女には、何も残されていなかった。
だから、何も残さないことに決めた。
蒸発した父は、すぐに見つかった。
少女は、何も残さないために動き出した。







「おじ様は、ご家庭をお持ちなんでしょう?」

『嫌なことを聞く』と言った意味合いの言葉を返してきた。
誘ってきたのはソッチのほうだ、という意味合いを持った言葉でもある。
玲泉は笑った。
泣いているようにも見える笑みだった。
何時頃からか、そんな笑みしか出来なくなっていた。
男にとっては、そんな笑みが妙にエロティックで、劣情をそそった。

「悪い人ですね」

ハハっと、男は笑った。
男は妻と子供を愛していたが、どうしようもないほどのセックス依存症だった。
女性を孕ませることに偏執的なまでの執着を持った男だった。
虚言癖の、セックス依存症。
今回の家庭でようやく落ち着いたように思っていたが、それは消えていなかった。

「本当に……悪い人」

そもそもとして、誘ってきたのは少女のほうだ。
セックスに対する興味を口にして、セックスパートナーとしての関係を求めてきた。
男は断らなかった。
妻に対する負い目も感じはしたが、セックスは死ぬほど好きだったからだ。
現に、今も玲泉の手首を掴んで、ベットに押し倒して顔を近づけた。
だから、玲泉のその言葉を聞くまでは、何の反省もしていなかったのだ。



「血を別けた娘の処女を奪って、まだ性交を続けようるだなんて」



さっと、男の顔が青ざめた。
男の唇が動いた。
『あ、ま、』まで動いたところで、封じるように玲泉は口づけを行った。
中年特有の臭気が漂う息が口内に入っても、玲泉は笑っていた。
そして、泣いてるようにも見える笑みを浮かべたまま言葉を奪った。

「覚えていませんか、『天本玲泉』って名前?」

男の唇が震えていた。
玲泉はまだ嘲笑っていた。

「お母様からは、貴方が名づけてくれたと聴きましたよ」

トン、と胸を軽く押した。
男は大げさなほどに尻もちを付いた。
玲泉は、まだ嘲笑えていた。

「私は古臭くて大っ嫌いだから、『天本ちゃん』のままでいいですけど、まあ、それはそれとしてですね」

その瞬間、玲泉の笑みが消えた。
母を亡くしてから、ずっと貼り付けていた仮面が取れた。
不自然なほどに、のっぺりとした顔だった。
懐から、コンドームを取り出す。
同時に、ピンを取り出し、コンドームを貫いた。






「私、赤ちゃんが出来ました」


「もちろん、堕ろしますので手術代をお願いしますね……お父様」





わー、わー、と。
少年の声が響き渡る。
なんてことはない、河川敷。
当然のように少年たちが白球を追いかけている。
懐古の念が湧き上がる。
もう、覚えても居ない、覚えることが出来なくなった少年への想いが、理解も出来ず蘇る。
カキン、と。
金属バットがボールを叩く音が響く。
視界が、揺れた。
破滅へと向かうことに、どこか憧憬を抱いていた。
破滅することでしか、自分は救われないのではないかと、本気で思っていた。
ただ。

『本当に、気まぐれなの?』

少年が遺したあの一言だけが、少女の中で生きている。
覚えているはずのない言葉なのに。
神隠しの『共犯』であって、『主犯』ではない少女は、神隠しに遭った人間のことを覚えていない。
なのに。

『それが、優しさなんじゃないのかな?』

少女が忘れてしまったはずの言葉が、それでも消えずに胸のうちに残っている。
誰かに優しくされたことを、誰かを好きになったことを。
少女は忘れてなどいなかった。
ひょっとすると、別の形で幸せになれたのではないだろうか。
満たされないのは、こんな復讐を望んでいたわけではないからではないだろうか。

本当は、祖母のことを好きだったのではないだろうか。
本当は、父を不幸になどしたくなかったのではないだろうか。
本当は、幸せな人を妬んでいただけなのではないだろうか。

少女は、涙が零れていることに気づいた。
腹部に、大きな穴が空いたような気がしている。
初めから何も無いと思っていたのに、何を失くしたのだろうか。
初めから何も無いと思っていたのに、なんでこんなにも喪失感が襲い掛かってくるのだろうか。
涙は止まらなかった。
少女は、涙を止めなかった。

もう、生きている残りの時間は苦しいだけだ。
なのに、自分の側には誰もいない。
他のだれでもない。
側に居てくれたかもしれない誰かを、自分が消したのだ。

18の誕生日だった。
側には、誰も居なかった。

少女は、泣いた。


――――幸せになりたい、と。


生まれて初めて、少女は涙を零した。




「ヤマダくん、実はね、俺は別の世界から来たんだ」
「別の世界……海の向こうでやんすか?」
「空の向こうさ……太陽の昇る島なのさ」

カラカラと。
笑いながら勇者は友人に語りかけた。
勇者、と言っても、彼には劇的な力はない。
時には龍の潜む山から魔宝を見つけ出し。
時には呪法に満ちた砂漠の遺跡から魔宝を見つけ出し。
時には魔王の棲む城に足を運んで交渉の末に魔宝を手にした。
彼は怪物のような強さを持っているわけではなかった。
国の誰よりも頼りになり、間違いなく指折りの戦士であった。
それでも、彼はあくまで人間の範疇にあった。
そんな彼が勇者で在り続けたのは、生存に長けていたからだ。
ただ、生き延び続けた。
戦争もないこの国で、平和を守るために生き延び続けた。

「いろんなことを残してきたからさ」

空を眺めながら。
太陽の昇る朝空を眺めながら。
その先に、辿りつけない故郷を見ながら。
勇者は呟いた。

「いつか帰りたいな……
 俺じゃないと出来ない、なんて言わないけど……それでも、幸せにしてあげたかったんだ。
 もう、名前も顔も覚えてないけど……ね」

それは目標ではなく夢。
辿りつけないことを認識した上で見る、理想の話。
勇者は諦めている。
この異世界で生きると、諦めたのだ。
故に、もはや故郷に遺した父の顔も名前も覚えていない。
故に、もはや故郷で出会った初恋の少女の顔も名前も覚えていない。

勇者は目の前のゴーレムを撫でた。
それでも、忘れていないものがあった。

「キャッチボールしようよ、ヤマダくん」
「えー……なんでオイラが野球人形のまね事なんか……」

口ではそう言いながらも、ヤマダは立ち上がった。
勇者の秀でた箇所。
それは投石とも呼ばれる、『投げる』という動作にあった。
これで爆弾を投げて、投げて、投げて。
時には爆弾魔の異名をもらいながらも、モンスターを倒し続けた。
そうだ、野球だ。
かつてあったもの。
かつて『少年』であった勇者と、もはや名前を覚えていない『少女』を繋ぐもの。
みっともないほどに、今の勇者とかつての少年を『繋ぐもの<野球>』に縋り付いている。
野球人形を、優しく撫でた。

これは勇者伝記の、その一文。
キングダム王国の危機を幾度もなく救った、勇者の出生の謎。
曰く、勇者は日出づる島より訪れたとのこと。
その一端を察することが出来る、なんてこともないお話。







「此度の聖杯戦争において、アーチャーのクラスにて現界した」


「まずは、問おう――――君が、俺のマスターかい?」



.





斯くして。
仮面の少女は聖杯に導かれ。
異界の勇者は少女に誘われた。
少女と勇者の視線が交錯する。
お互いに、懐かしい感情が蘇った。
だけど、それだけ。

少女は自らの意思で少年の存在を消して。
勇者は自らの諦観で少女の存在を忘れた。

それでも、残ったものがある。
勇者は、ふと、視界が潤んでいることに気づいた。
少女は、ふと、頬が濡れていることに気づいた。

失ったものは取り戻せないかもしれないけど。


――――忘れてしまったものならば、いつか思いだせるだろう。


【クラス】
アーチャー

【真名】
勇者シロウ(小波四郎)@パワプロクンポケット4 RPG風ファンタジー編

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:C+

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
心眼(真):E
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
異世界に放り出された勇者が、生存のために行った冒険の末に身につけた生存技術。

仕切り直し:A+
窮地から脱出する能力。
不利な状況であっても逃走に専念するのならば、相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
勇者が勇者となり得た原因は、ひとえに『生存』に長けていたためである。

被呪体質:D
あらゆる呪いに対して不利な判定が働くバッドスキル、呪いと名の付く物には対魔力スキルを発動することが出来ない。
神隠しによって(便宜上)『異世界』と呼べる世界へと飛ばされたことで、勇者は被呪体質を持っている。


【宝具】
『日出づる島より訪れし勇者(ザ・ブレイブ)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
勇者として成した伝承において、必ず異なった武装と機転を以って伝説を作り上げた逸話が幻想と化した宝具。
勇者は特別な神剣・魔槍・聖弓のいずれも所持しておらず、また、特殊な戦車を駆ったこともない。
己の肉体と唯一常備する無銘の剣、使い捨てを前提した爆薬、そして、己の機転と経験を以って伝説を成した。

その逸話が転じて、彼が所持する武装は全てEランク相当の神秘が施される。


『炸裂する幻想(ブレイブ・ファンタズム)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:5人
ドラゴンを爆弾によって打ち払った逸話が幻想と化した宝具。
勇者は武装を意思によって『爆発』させることが出来る。
『神秘を爆発させる』というよりも、『物体をEランク相当の爆弾に変える』という能力。

つまり、どれだけ神秘の込められた物体を爆破させても、『Eランク相当』の神秘へと劣化する。
そのため、場合によっては魔具を用いて行う通常の魔術よりも大きく劣る威力になり得る。


『野球人形(キングダム王立野球軍) 』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大補足:9
野球をするための、人型ロボット。
上記宝具で四肢・胴体・頭部の野球人形のパーツを集め、組み上げることで完成する。
野球以外の目的で動くことはなく、戦闘の役には立たない。
勇者が遂にはその生涯で帰還することが出来なかった、『日出づる島』に残してきた未練の塊のような宝具。

この聖杯戦争を戦う上でも、全く役に立たない代物である。


【weapon】
『無銘・剣』
『勇者』の肩書が『冒険者』であった頃から使っている剣。
携帯に優れ、戦闘に限らずサバイバル生活における様々な局面で扱う。

『手投げ式爆弾』
龍が棲む山の主や王国を襲った巨大ゴーレムを撃退した際に使用した手投げ式の爆弾。

【人物背景】
キングダム王国を幾度となく救ってきた勇者。
秀でた戦士ではあるが、特殊な武装や技術は持たない。
それでも英雄となれたのは運か、それとも目には見えない技術によるものか。
装甲車バトルディッガー編では伝話として代々彼の活躍が語り継がれていることが確認できる。

その正体は、別世界で神隠しに遭ってファンタジー世界に飛ばされた野球少年である。

本土の都会から日の出島に引っ越してきた野球少年。
誕生日は6月の第1週。
高校は元々大安高校に通っていたが、父親の都合で日の出高校に転校してきた。
引っ越してきて早々にあけぼの丸の慰霊碑を倒してしまい、そのせいで「甲子園で出場しないと解けない神隠しの『呪い』」を受けることになる。
その呪いの結果、一時は日の出高校野球部解散の危機にまで陥ってしまうが、一から部を立て直すことに成功する。
満を持して、最後の夏に挑むが敗北し、神隠しに遭う。
この世界から『小波四郎』という人物は消え去ってしまった。

【サーヴァントとしての願い】
元の世界を見たい。

【基本戦術、方針、運用法】
あらゆる武器を爆弾に変えて投擲することが出来る。
また、トップクラスの仕切り直しスキルを所持しているため、ヒット・アンド・アウェイの戦法が主となる。


【マスター】
天本玲泉@パワプロクンポケット4 日の出高校編

【マスターとしての願い】
幸せになりたい。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
特別な技能は持たない。

【人物背景】
主人公の同級生、いつも笑顔で物静かな優等生タイプの女の子。
日の出神社で巫女として手伝いながらセツと二人暮らしをしている。
二人暮しの理由は、まず最初に父親が玲泉が生まれる前に蒸発。
その後、玲泉が9歳のときに母親が焼身自殺をしたことにより、両親を失う。
このせいか、彼女の両親の話は日の出島で禁忌とされており、周囲の人物も中々話そうとしない。

実はこの『父親』はメガネ一族の父親と一緒、つまり彼女もメガネ一族の一人である。
そして、矢部明雄や、同作に登場する山田平吉とは異母兄妹にあたる。
山田が教室で矢部明雄の話をした時に、玲泉が反応を示すイベントがあるが、
これは「『父親』の苗字は『矢部』であると、生前の母親から聞かされていた」故の反応である。
なお、この時点では自身と山田の関係については知らなかったようである。

いつも笑顔でいる理由は「表情が不器用だから」「笑っていれば幸せがくるかもしれない」とは本人の弁。
ただし主人公(4)は彼女にした場合のアルバムで、「あの笑顔は他人から自分を守る為の盾だった」と回想している。
また、パワポケダッシュのキャラクター図鑑においても「いつも、わらっているのは、自己防衛(じこぼうえい)のため」と明記されており、
主人公の見方は正しかったと示唆されている。

祖母のことを憎んでいると口にはするが、心の奥では嫌ってはいない。
歪んでしまった『良い子』であり、幸せは自分から失ってしまっただけ。

【方針】
幸せになりたい。

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最終更新:2015年04月14日 17:12