千羽烏月&アサシン ◆zzpohGTsas
1:
「一つ聞かせてくれないか」
弓の弦の如くに張りつめた、何の混じり気もない清浄な空気が満ちる道場の中で、くすんだ水色の着流しを身に付けた男が言った。
「お前が刀を振ってきたのは何のためだと思う」
水色の着流しの向かいにいる男が、ややあって答えた。
――――――――――――――――――――――――
2:
此処最近の少女の行動は、常に決まっていた。
某都高校の剣道部の部活を終えた後、脇目もふらず、急いで実家の剣道場へと足を運ぶ。
市内の学校に通う、歴史ある剣の道場の一人娘。それが彼女――千羽烏月に命じられた、偽りの役割であった。
普段の彼女なら、得体も知れない存在からこなせと言われた役割を、素直にこなす事はまずありえない。命じた存在を打ちのめす事も、するだろう。
それをしないのは、この世界はそもそも元居た世界とは根本的に異なる別世界であり、この世界に於いて烏月は役割を演じる以外に道がない事。
そして、この世界には、彼女が討つべき存在である鬼や妖物の類が存在しない事。以上の2つがある。
特に2つ目は大きかった。烏月は古の昔から、人に仇名す鬼を討つ鬼切部千羽党の一員であった。
討つべき鬼がいない世界。それは、鬼切部の者達にとっては理想の世界の1つなのではあろうが、実際叶ってみると退屈なものであった。張り合いがないのだ。
今の彼女は、その瞬間(とき)が来るまで、惰性で学校に通い続ける機械のようなものだった。
それまで会話していた人間がNPCだと解ると、烏月の対応も機械的で冷たいもの。もとより玲瓏なイメージの強い美人であった烏月は、より鋭く、より冷たくなっていた。
そんな烏月が、日に1時間程だけ、生身の人間らしさを取り戻す時間があった。
その時間が訪れるようになったのは、鬼のいない世界と言う違和感から記憶を取戻した瞬間から、つまり、聖杯戦争への参戦権を得た瞬間からであった。
自らのサーヴァントと語らう時間。それはこの閉じた世界に於いて、烏月の鬱屈とした心を癒す唯一のひと時であった。
二重の意味で、その時間は楽しみであるのだ。
ツカツカと小道を早歩きで行く内に、烏月の実家が近づいてきた。
純和風の広大な庭園と邸宅を保有する、市内の名家。烏月は文武両道のお嬢様として通っていた。
玄関に上がり、厳格な父と母に挨拶する事も忘れ、烏月は道場へと直帰。
「すぐに着替える」
虚空に向かって烏月が言う。
『凛』、と言う言葉がこれ以上となく相応しい美人である。黒一色のセーラー服に、同じく黒いストッキングを着用した、眉目秀麗な濡羽色をした長髪の女性。
黒と言う色がこれ以上となく調和した女性だ。まるで夜がそのまま美女の形を取って現れたかのような印象を見る者は受けるだろう。
「わかった」
何もない空間から、男の声が聞こえて来た。烏月が道場への正扉を開ける。
道場の玄関口に上がった烏月が、靴を脱ぎ、急いで女子の着替え室に走る。
数分程が経過した後、烏月が道場へと現れた。黒の似合う女性が、白い道着に着替えていた。
黒が似合う女性は、白を纏っても様になっている。しかも道着と言う、人を綺麗に見せる為の服装でなくても、美人さは色褪せていない。
美人は何を着ても似合うと言う世の不平等/真理が、この道場の中で体現されていた。
烏月が道場に現れた瞬間、道場の中央に、フッと1人の人影が現れた。
奇妙な男であった。灰色の上着と青色の袴。古めかしい服装の男であったが、体格も良く背丈も恵まれている為、違和感や不様さはない。
だが、前時代的な服装よりも目を引くのが、黄色いひよこの頭を模した被り物を被っている、と言う事であった。
遊園地のスーツアクターのバイトかと最初は思うだろうが、違う。纏う空気が違っている。
そのひよこ頭の男が纏う空気は、常人のそれとは訳が違った。この男だけ、別の世界を背負っているような感覚。
纏っているそれは、ピリピリとした剣呑な何か。それは殺意とも敵意とも、鬼気とも形容される代物であった。
「これを」
言って烏月が、ひよこの頭の男――アサシンのクラスとして参上した自らのサーヴァント、テューン・フェルベルに竹刀を手渡す。
無言でそれを受けとり、テューンはそれを正眼に構えた。数m下がった後、烏月も構えた。足を肩幅程度に開き、竹刀を担ぐようにして構える。
他流派はこれを蜻蛉の構えと言うらしいが、烏月が学ぶ千羽妙見流においては、この構えを『破軍』と呼ぶ。
剣道の試合にしては、開始までの距離が遠すぎるかと思われるが、これは剣道の試合などではない。烏月もテューンも、試合などとは欠片も思っていない。
竹刀を使う以上、殺す事は絶対厳禁なのだが、その実、試合の最中は殺すつもりで打ちこまねばならない。
何よりも、使う攻撃手段は竹刀に限らなくても良い、体術も使って良い。敗北条件は、負けを認めるか、竹刀を手落した時のみ。
これはそう言う練習なのだ。
数分程、無言の睨み合いの時間が続いた。
道場の中は、息苦しくなる程空気が張り詰めていた。呼吸するのも苦しい程である、富士の山の頂にいるかのようである。
同時に空気は、とてつもなく重かった。気化した鉛でも大気の中に交じっているのではと錯覚する程だ。
道場の中には、物音1つない、烏月とテューン以外には生き物の気配はまるでない。此処だけが、現世と隔絶された1つの異界のような空間であった。
テューンの方は、ひよこの被り物を被っているという都合上当然だが、表情を窺い知る事は出来ない。
しかし、被り物の上からでも、この男が緊張の面持ちをしていない事は解るだろう。余りにも構えが堂々としていた。
一方烏月の方も、真顔を保ちながらテューンの顔を見つめている。一見すれば完璧な構え、完璧な精神状況と思うだろう。
だが違う。彼女の心は、少しだけ動揺していた。その証拠に、額から冷たい汗が一筋、ツツと流れている。
それだけ、目の前のテューンが、驚異的な気魄を持っているのだ。彼は、鬼を斬った経験はなく、人と獣しか斬った事がないと言う。
しかし果たして、何人もの人を斬ればそれだけの覇気を醸し出せるのか。鬼切部としていくつもの鬼を斬り捨てて来た烏月が気圧され、呑まれる程の空気。
テューンは剣鬼だった。
――破軍の構えは失敗だったか……――
今更になって烏月は、千羽妙見流に伝わるこの必殺の構えを取った事を後悔していた。
この構えの弱点は、薩長示現流における蜻蛉の構えと概ね同じ。この構えは防御と言う考えを捨てている。初太刀で相手を斬り捨てる、極端な攻撃重視の構えなのだ。
必殺に相応しい力と太刀筋を持つのは事実だが、最初の一太刀を避けられたり防御されたりすると、素人目にも明白な隙が出来る。諸刃の剣だ。
破軍はもとより、鬼に対する構えだ。ある程度腕の立つ人間に対してはまた別の構えが伝わっているのだが、今まで鬼とばかり戦って来たと言う戦歴と、
人間相手に戦った事がないと言う実戦経験の未熟さが重なり、烏月の肉体はついつい、彼女に破軍の構えを取らせてしまった。
しかし、今更構えを変える訳にはいかない。況してや破軍の状態からでは、構え直しに時間が掛かる。その隙を狙われると考えるのは、当たり前の事。
結局、烏月に残された勝利を拾う手段は、攻撃しかないのである。だが、石像の如くその場から動く事のないテューンが、易々と隙を見せる筈が――
テューンが竹刀を、中段から下段へと変え始めた。
その瞬間を見た時、烏月はバネ仕掛けの人形のように跳躍、彼我の距離六~七m程を1度の跳躍で詰め、テューンに対して大上段から斬りかかる。
――彼はそれを読んでいた。烏月が竹刀を振り下ろす前に、下段の構えに移行していた彼は、電光のような速度で竹刀を振り上げ、
その時の勢いに身を任せるように、後方へと跳躍。烏月の振り下ろしは、空を斬る。テューンの斬り上げは、烏月の道着を掠っていた。
烏月は竹刀を振り下ろす際、急激に嫌な予感を感じ取り、身体を少し反らしていた。恐らくそうしていなければ、竹刀が直撃していたろう。
テューンの持っている得物が真剣であったら、その時点で勝負は決していた。
テューンが先程立っていた地点より七m程後方に着地する。
竹刀を振り下ろし切った烏月は、急いで中段へと構え直そうとする。これだけの距離を跳躍したのである、構え直すのならば、今だ。
――テューンの身体が、朧げになった様に烏月には見えた。が、0コンマ2秒程経過した次の瞬間、テューンの姿が明瞭となる。
簡単だ、彼は烏月の間合い1m半にまで近づいていた!! 疾風のような身のこなしで、この男は間合いを一瞬で詰めて来たのだ!!
「ッ!?」
驚きと焦燥の混じった顔で、テューンのひよこ頭を見る烏月。あの時下段に構え直したのは誘いだった事に、今更ながら気付いてしまった。
驚愕の理由はいろいろだ。あれだけの距離を自分に気取られず詰めて来る速度、板張りの床に音一つ立たせない見事な体裁き。
だが驚愕の一番の理由は何と言っても、この男が竹刀の間合いにいると言う事実1点。互いに攻撃を繰り出せば、その全てがクリーンヒットする距離にいるのだ。
烏月が右肩で以て、テューンの胸部目掛けて体当たりを行おうと試みようとする。
しかし、烏月が行動に移るよりも速く、テューンは竹刀を振り上げ、彼女の竹刀を打ち据える。
パシイイィィンッ!! 気持ちが良くなる位耳に心地よい、乾いた竹の音が道場に響き渡った。
遅れて、ゴトンッ、と言う野暮な音が響いた。烏月の数m後方の板張りの床に、竹刀が落ちていた。
彼女の両の腕に、ムカデでも這っているような鈍い痺れが走っている。彼女の手に、竹刀は握られていなかった。
「……強いな」
烏月が観念したように口を開いた。遠回しの、敗北宣言だ。
「そうだな」
謙遜するでもなく、テューンが返した。自信満面の言葉であるが、それに実力が伴っているのだから文句のつけようがない。
烏月に言われるでもなく、先程まで握っていた竹刀入れを、それをしまっている籠の中にテューンが入れに行く。その様子をただ眺める烏月。
アサシンのサーヴァントとしてテューンが烏月の前に現れたのは、3日前の事だった。
鬼のいない世界に対する違和感から記憶を取戻した自らの前に現れたのは、ひよこの被り物を被ったあの侍。聞けばこの男、生前は剣士であったと言う。
無辜の人間を斬らねばならない聖杯戦争自体に気乗りはしないが、いかんせん戦いの末に手に入る聖杯が聖杯だ。相手に敵意がないとも言い切れない。
戦闘技術の維持と、鬼のいない世界による気の紛らわしの為に、烏月は、呼び出した当日にテューンと軽い剣の試合を申し込んだ。
――強かった。いや、強すぎると言っても良い。
サーヴァントとして呼び出される程の剛の者であるのだからそれは当然なのかも知れないが、そうと解っていてもなお、テューンの剣の冴えは凄いものがあった。
烏月の剣筋の尽くが読まれ、捌かれ、防がれて。逆にテューンの剣筋は、読めず、捌けず、防げずで。
彼女が追い求めてやまなかった、彼女の兄、千羽明良をも超える剣の腕であろう。
敗北を喫した時、烏月は悔しかった。子供と遊ぶときに使うようなひよこの被り物などを被って、自分を馬鹿にしてるのかとすら考えた。
常人ならへこたれる程の完敗を味わっても、すぐに気を持ち直して立ち上がり、再び試合を申し込む。
これを、学校の部活が終わってから実家の道場で繰り返していた。そしてこの瞬間こそが、千羽烏月と言う少女が人間らしさを取り戻す瞬間なのである。
「どうして其処まで強くなれたんだ」
烏月が訊ねる。鬼切部千羽党の人間として、1人の剣士として、テューンが此処までの剣の腕を得るに至ったのか、興味があったのだ。
「お前は剣の為に全てを捧げられるか」
逆に、テューンの方が問い掛けて来た。
「私は鬼切部だ。鬼を斬ると言う使命の為に、他の全てを擲つ覚悟は出来ている」
「……俺のパパは、世界一の強さを持った剣豪だった」
烏月の確固とした決意を目にした後で、テューンは静かに語り始めた。
「その名を世界に轟かせていたパパに、剣士が決闘を挑むのは当然の事。ある時、パパと全く同じ技量を持った剣士が決闘を挑み、パパは両腕を斬り落とされた。何故だと思う」
「話の流れから言って、剣の為に全てを捧げきれなかったからか」
「そうだ。パパはその時、俺の母親と恋仲になっていた。女に気を取られていた、と言うその差が勝敗を別った。
剣に生きるとはそう言う事だ。お前にそれだけの覚悟はあるのか?」
烏月の方に体を向けて、テューンが言った。きっとあのひよこの被り物の下では、真面目な顔付きを作っているのだろう。
「……ある」
数秒程の逡巡をおいて、烏月は口にする。が、テューンの反応は冷淡な物だった。
「口ではどうとでも言える。だが、お前の剣筋は嘘をついている」
「何……?」
「剣士としての理想の姿とは何か教えてやろう。囚われず、揺るぎなく、力強い。心の持ちようが重要なんだ、剣は」
更にテューンは言葉を続ける。
「お前の腕前なら、心に迷いを抱いていても、格下相手ならば容易く斬り捨てられるだろう。だが、同じ腕前の相手になると、途端にその迷いが枷になる」
「私が迷っているとでも言うのか」
「お前は昔の俺と同じだよ。復讐を果たしたいのか違うのか、自分でも良く解らなくなってるんじゃないのか」
「ッ……」
痛い所を突かれたような顔をして、烏月は道着の脇腹部分をギュッと掴んだ。
「家族を殺されたんじゃないのか」
図星である。
千羽烏月には兄がいた。千羽明良と言う名前のその男は、烏月が尊敬していた程の凄腕の鬼切り役であった。
しかし彼は既にこの世にいない、故人となっている。明良は、鬼を調伏する役目を負った一族でありながら、鬼に憑りつかれた少年をかくまっていた。
その少年に、明良は殺された。明良を殺した鬼が、憎かった。鬼を斬る一族にありながら鬼をかくまっていた家族がいたと言う事に、負い目を感じていた。
烏月は、己の過去にけじめを付け、清算したいのである。そしてその手段は、1つ。明良を殺した鬼である、ケイと言う少年を討つ事。これ以外に、ないのであった。
この思いはテューンから言わせれば、剣の太刀筋を曇らせる要素以外の何物でもないようだ。
そんな事は、烏月にだって理解出来ている。理解したからと言って迷いを消せるようならば、苦労はしない。烏月は菩薩や如来の類ではないのである。
解って居ながら抜け出せない。烏月は未だ、深い深い無明の最中にいるのだった。
「斬りたい相手がいると言うのなら、それでも良い。剣を振るうのに目的は必要だ。だが今のお前の心境で、この聖杯戦争を切り抜ける事も、仇を斬る事も出来ると思うな」
「参考程度に……聞かせて欲しい。昔の自分と同じだとお前は言ったが……お前にも私と同じ、仇に似たような者がいたのだろう。お前はどうやって、乗り切ったんだ?」
「過去を冷静に見つめ直した。俺の仇に類する男は、大層腕の立つ剣士だったからな。世界一の剣士になると言う目標を達成する為、俺はそいつを仇じゃなく、
1人の、超えねばならない相手として認識する事にした。ただ純粋に、剣士として高みを目指すと決めた瞬間、俺から迷いは消えていた」
「尤も、俺とお前とでは境遇が違うだろう。あまり参考にするな」、と即座にテューンは付け加えた。
「……強いな、お前は」
観念した様な口調で、烏月が言葉を口にする。
テューン・フェルベル。その年齢は18歳だと言う。若すぎる、烏月と1歳しか違わない。であるのに、この青年は達観し過ぎている。
一体何を経験し、幾人もの人間を斬ってきたら、その境地にまで辿り着けるのか。同じ剣の道に身を置きながら、烏月にはそれが予想すら出来なかった。
「最後に聞かせて欲しい。お前が刀の道を志した理由とは……何だ?」
烏月が刀を手にした理由は、自分が鬼切部の一族に生まれたからに他ならない。
もしも市井の中の普通の過程に生まれたのであれば、彼女は剣の道など先ず間違いなく志す事はなかったろう。
テューンは、何を契機として刀の道を歩もうとしたのか。それが、彼女には気になってしょうがなかった。
「……刀を愛していた」
数秒程の間をおいてからテューンが口にした。
「俺は刀だけを見て、刀と共に何処まで狂えて、何処まで技を極められるのか。……それが知りたかった」
「……そうか」
純粋に、刀が好きだったから、刀に打ち込めたから、テューンは強くなれたのだ。
烏月はそう解釈した。しかし、テューンの被るひよこの被り物の下で、彼がどんな表情を浮かべているのか、烏月は想像も出来ないであろう。
ファンシーで愛くるしいひよこの被り物のその下で。
テューン・フェルベルは、健常人が目の当りにしたらぞっとする程危険な光を宿した瞳で、うっとりとした微笑みを浮かべているのであった
3:
「一つ聞かせてくれないか」
弓の弦の如くに張りつめた、何の混じり気もない清浄な空気が満ちる道場の中で、くすんだ水色の着流しを身に付けた男が言った。
「お前が刀を振ってきたのは何のためだと思う」
水色の着流しの向かいにいる男が、ややあって答えた。
「刀のためです」
道場の張りつめた空気が弛緩していた。
あれだけピンとしていた空気はだらしなく緩み、隔絶された結界の中か何かを思わせるような異界感は、完全に消え失せている。
道場主がいなくなるだけで、此処まで道場の空気は変わるのか。ひよこ侍の真正面で、水色の着流しの侍が、血を流して死んでいた。
「……今ようやく分かった」
菩提樹の木の下で悟りを啓いて見せたシッダールダの如き態度で、ひよこ侍が口にする。
「俺は刀だけを見ていたんだ」
鞘に納めていた刀を引き抜き、その剣身を蠱惑的な瞳で見つめる。
先程斬った、水色の着流しの男の真新しい血臭が、剣身から香っていた。
「俺を突き動かしていたのは、他の何者でもない。……俺はお前を愛していたんだ。やっと、俺とお前だけになれたんだ」
刀は――何人もの人や獣を斬り殺して来た、ひよこ侍の相棒は、黙して語らなかった。
「どうすればお前を俺のものに出来るか、そればかり考えてきた」
「だが俺にはまだ……」、ひよこ侍は言葉を続ける。
「お前がずっと遠くで妖艶なその姿を横たえているように見えるんだ」
その声には深い悲しみが混じっており、その声は何処か震えて、泣き声のような者が混じっていた。
「なあ……。どうすればお前を完全に俺のものにできるんだ……?」
4:
主を失った一軒の家。そのはなれに建てられた道場で、2人の男が死んでいた。1人は、その家の主である侍、ユキムラ。
そしてもう1人は、二刀の剣士ジャンルーカとユキムラを斬り殺し、世界最強の剣士となったが、自分が振るって来た最愛の人/刀と共に死ぬ事を選び、
それを自らの腹部に突き差し自害した、緑髪の青年、テューン・フェルベルだった。
道場の中には、死そのもののような静寂が張り詰めていた。
【クラス】
アサシン
【真名】
テューン=フェルベル@ひよこ侍
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具B
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
透化:A
精神面への干渉を無効化する精神防御。
暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。
アサシンがこの世で最も信頼し、そして愛しているものは、自らが振るう『刀』だけである。
無窮の武練:B
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
アサシンは一切の迷いを捨てている為、精神的な障害を原因として武術の腕は劣化せず、多少地形条件が悪くとも、武術の劣化は小さく済ませる事が出来る。
もと居た世界に於いて、アサシンは最強の剣士として数時間、世界に君臨していた。
見切り:B
敵の攻撃に対する学習能力。相手が同ランク以上の『宗和の心得』を持たない限り、
同じ敵からの攻撃に対する回避判定に有利な補正を得ることができる。但し、範囲攻撃や技術での回避が不可能な攻撃は、これに該当しない。
真名秘匿:E(B)
真名及び過去に何をしていたかと言う事の露呈を防ぐスキル。
ランクEは、相手に真名が本当であるかどうか、少しだけあやふやにさせる程度の力しかない。
アサシンの場合は後述する、自らの顔を隠す為に被っていた宝具をつけていた時の方が、どちらかと言うと有名なサーヴァントで、
寧ろこれを外した素顔の状態の時の方が、真名秘匿ランクは上。宝具を外した場合にはカッコ内のランクに修正される。
【宝具】
『亡き友の形見の雛頭(ひよこの被り物)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
アサシンが常にその頭にかぶっている、黄色いひよこの頭を模した被り物が、宝具となったもの。
生前の幼少期に、二刀の剣士・ジャンルーカによって斬り殺された幼馴染であるソラが大事にしていた着ぐるみ。
このひよこのぬいぐるみを被りながら、アサシンは生前幾人もの剣豪を斬り殺し、遂には世界最強の剣士の高みへと上り詰めた。
そう言った経緯から、少しばかりの神秘性を帯びており、Dランク以下の精神耐性宝具やスキルを持たない者は、愛くるしいデザインとは裏腹の、
宝具が放つ異様な血臭と空気に呑まれ、気圧されてしまう。
自らが振るう刀をこの世で最も愛しているアサシンではあるが、この宝具も刀と同じ位重要なものであると言う意識は変わっていない。
気心の知れない相手にこの宝具を触られる事を、彼は何よりも嫌う。
『フェルベルの血筋』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
今まで戦って来た数々の剣豪が必殺技として来た、数々の剣技を摸倣、完璧に自分のものとしてきたアサシンのエピソードが宝具となったもの。
アサシンは、一度見た、或いは受けた剣技を、対人魔剣か否かを問わず、完全に自分のものとして、剣技の使い手と全く同じ技量と速度、威力で使う事が出来る。
奥義の発動に魔力や霊力と言ったものが必要な剣技には、マスターから供給されるそれを徴収し、使用コストに充てる事が可能。
但し、発動に術者の肉体的特性や、余りにも強すぎる個性が関わる剣技に関しては、アサシンは摸倣する事が出来ない。
故郷マニマニにおいて最強の剣士であり、世界中でも最高峰の剣技を誇っていた、アサシンの父、リクナー=フェルベル。
その様な血統と、世界で最も優れた剣士に師事した事で、アサシンの剣の腕前は、凄まじい勢いで開花されて行くのだった。
【weapon】
宗光:
よく手入れされた打刀。師匠であるユキムラから与えられた最初の真剣である。
【人物背景】
マニマニと言う国に生まれた子供。父に、元国家最強の剣士であるリクナーを持つ。
後に師匠となるユキムラと呼ばれる侍が決闘を申し込んだ際、その時の戦いでリクナーは両腕を斬り落とされており、彼は二度と剣を握れぬ身体になってしまった。
其処で彼は、自分のような目にテューンはあわすまいと、なるべく剣から遠ざけるように、平和な生活を送って来た。
ある日マニマニに興行の為にやって来たサーカスに所属する少女であるソラと友達になり、楽しい日々を過ごす。
が、リクナーが戦えない身体になっていた事を知らない、ジャンルーカと呼ばれる剣士がテューンの屋敷を来訪。彼との決闘を要求する。
リクナーが戦えない事に気付いたジャンルーカは逆上、リクナーと彼の妻アヤカ、屋敷で働いていたメイドのミリと、偶然遊びに来ていたソラを殺害する。
その時にテューンは、ひよこの着ぐるみ、ソラの大事な宝物であり、初舞台で彼女が演じていたひよこの役の為のそれを着込んで、屋敷から逃走。
決闘後もリクナーと親交があり、面識のあったユキムラの家へと駆けこみ、何とか事なき事を得る。
それから10年後、18歳となったテューンは、世界最強の剣士となるべく、自らの意思と足でユキムラの道場を出、旅に出る事にする。
この時、ソラの形見であるひよこの着ぐるみの頭の部分を被り、『ひよこ侍』として、サーカス団で一番の女優になる事が夢であったソラの分まで自分が世界一になる事を誓う。
そこでテューンは様々な剣士と出会い、彼らの苦悩や生きざまを目の当たりにし、時に自らの生き方と在り方に悩み、そして剣士としての宿命により、彼らを決闘で下して行く。
遂には、自分の家族の仇であり、圧倒的な剣技の腕前を武器に、小さな共和国の軍隊を壊滅させて、国を吸収。
自らの帝国を一代で築き上げたジャンルーカをも死闘の末に下して見せた。
表向き世界で最強の剣士と知られるジャンルーカを倒した後テューンは、隠居し、世界の誰にも知られていない最強の剣士――即ち、自らの刀の師匠である、ユキムラの道場へと足を運ぶ。
テューンの意を理解したユキムラは、彼を道場へと誘う。彼は、自らの師匠をも斬り殺すつもりであった。
ユキムラは訊ねる。「何のために刀を振るうのだ」と。対しテューンは答えた。『刀のためです』、と……。
今回のテューンは、3つあるマルチエンドの内の一つ、自らが振るって来た刀の美しさを愛し、この刀をどうすれば永遠に自分だけのものに出来るのかと考えた末、
自らの腹部に突き差し、自刃を遂げるエンドからの参戦である。
【サーヴァントとしての願い】
自らの刀に、更に血を吸わせてやる。
【基本戦術、方針、運用法】
ステータス自体は平凡以下のサーヴァントであるが、その実、保有スキルは極めて実戦的なものが高いレベルで揃っている。
ステータスこそ低いが戦闘自体は得意であり、マスターの殺害に失敗した場合は、三騎士が相手でも技術でステ差を覆す事も、不可能ではない。
『フェルベルの血筋』は、宝具にも匹敵する剣技を武器とするサーヴァントを相手には絶対的な優位を保てる宝具ではあるが、逆に言えば使い道はそれだけしかなく、
強いには強いが限定的な宝具であると言わざるを得ない。またアサシン自体も、辿ったエンドの都合上、やや精神を病んでいるきらいがある為、其処も懸念と言えば懸念。
王手をかけるには、やや難しいサーヴァントだと、言わざるを得ないであろう。
【マスター】
千羽烏月@アカイイト
【マスターとしての願い】
不明
【weapon】
維斗:
烏月が保有している、千羽妙見流に伝わる、千鬼を調伏したとされる太刀。
『折れず、錆びず』と伝えられる破妖の太刀で、千羽党鬼切部の証である。
【能力・技能】
千羽妙見流:
烏月が修めている剣術の流派。専ら鬼との戦いの為の剣術であるが、人間相手にも応用が利く。
人ではない存在を相手にする為の剣術であり、気功の概念を取り入れている。八極拳、北辰一刀流、示現流と似通っていると言う
魂削り:
「オン・マカ・キリ・チリベイ・ソワカ」と言う真言を唱えながら、相手を斬る技。
物質的な肉体を持たない、霊体のみの鬼を斬る奥義であり、己の魂を削り、相殺効果で相手を斬る。
が故に、己の魂の絶対量が相手より豊富であることか、相当のやせ我慢が必要。
見鬼:
視えないものを視る能力。妙見(たえみ)の技とも。
鬼や、鬼に取り憑かれた人間、物に込められた力などを見抜くことができる。使用中は右目が蒼く光る。
また、極低ランクの邪視の類を無効化する
経観塚(へみづか)に足を運ぶ前の烏月である為、千羽妙見流の裏奥義である鬼切りは使用不可能。
【人物背景】
人に害をなす鬼を調伏する為の組織である、鬼切部千羽党の鬼切役。
若干17歳と言う若年にも程がある年齢であるが、これは先代の鬼切役である千羽明良が死亡し、その後目を継いだからである。
まだ年若いがその実力は確かで、大の大人が数人がかりは愚か、雑魚の鬼が何体いても退ける程の実力を誇る。
兄が鬼に殺されたと言う過去から、人外の存在に対しては一切容赦と言うものをせず、余程の理由がなければ、問答無用で斬り捨てる。
今回は経観塚に足を運び、羽藤桂らと出会うまえの烏月である。
【方針】
さしあたっては様子見。人外の存在に対しては、容赦はしない。
最終更新:2015年04月20日 21:07