ニノン・ベアール&すてねこオートマトン ◆wgC73NFT9I


 たとえば道を歩いていて、目の前に凶暴な食屍鬼(グール)が現れたとする。
 わたしはそんなもの少しも恐ろしいとは思わない。
 纏わりついてくる挙動が鬱陶しければ、指先に小さな雷光をともして軽くひと振り。それだけで食屍鬼は全身を黒焦げにされて、情けない断末魔を上げて灰に還るし。
 たとえそれが食屍鬼ではなく死徒だったとしても結果は同じ。必殺技じゃなくて超必殺技を御披露目することになるかもしれないけど。
 わたしには、怖いものなんか何もない。
 わたしにはそれだけの、おばあさまから受け継いだ“力”があるし。

 なのに、お姉ちゃんはきっとそんなわたしを背後にかばって、声と足を震わせながら、食屍鬼に立ち向かおうとする。わたしはお姉ちゃんに守られるほど弱くないのに。
 っていうか、むしろわたしのほうがお姉ちゃんを守ってあげる立場だし。
 野良犬さえ満足に追い払えないお姉ちゃんは、こんな危ない場所に来るべきじゃないし来なくて当然だし。
 そのくせ、私が食屍鬼を浄化した後には、お姉ちゃんはきっとこんなこというんだから。

「大丈夫だった、ニノン? お姉ちゃんとはぐれちゃダメよ、もう!」

 半泣きでそんなこといっても説得力ないし。
 第一わたしがお姉ちゃんとはぐれたわけじゃなくて、お姉ちゃんの魔力が弱くてわたしに置いていかれただけだし。
 そもそも誰もいっしょについてきてなんて頼んでないし。

 わたしは聖杯戦争のことだって知ってる。
 沢山の魔術師が聖杯を求めてそんなことをしてるのは、おばあさまから聞いてるし。
 サーヴァントの召喚の方法も知ってるし。
 何ならヘラクレスみたいな偉大な英霊をバーサーカークラスで召喚しても余裕だし。
 むしろ、わたしはお姉ちゃんより優秀なんだから、それくらいのサーヴァントでないと釣り合わないし。

 だから例え、聖杯戦争の会場にいつの間にか誘拐されて記憶を改竄されていたことに気づいても、わたしは怖くなんかない。
 ……本当だし。
 っていうか、目の前にこんなやつがいたんだからすぐに気づいたし!!


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おー、記憶が戻った? おめでとう。しきたりみたいだから聞くけど、アンタが私のマスターよね?」
「あ、あなた、一体何クラスのサーヴァントだし!! 色々おかしいし!! 真名を名乗りなさい!!」

 閉館時間を過ぎた、月明かりだけが差す大きな図書館に、ニノン・ベアールの声が響いた。
 彼女が勢いよく立ち上がったはずみで、椅子が倒れて床にガタガタと転がった。
 切り揃えた銀の髪に黒いゴシックロリータのドレスを合わせた彼女は慄きながら、西洋人形のような細い指先を伸ばす。
 震える指がさした相手は、テーブルの向かいで今の今まで一緒に本を読んでいた人物だ。

 確か、ニノンは魔術で光を灯して、一般人がそれらしくでっちあげただけの『魔法入門』とかいうアホくさい本に、ツッコミを入れながら今の今まで笑っていたような気がする。
 気がするだけじゃなくて、実際に今その本は『ネクロマンシー』というページが開かれて目の前に置かれている。
 今まで自分はこの異変にも気づかず、呑気にこの向かいの人物と、友人のようにくっちゃべりながら本を読んでいたということに他ならない。
 恥ずかしすぎて顔から火が出そうだった。

「ったく、そんな慌てなくても答えるって」
「刀があるからセイバー――、なわけないし。こんなセイバーいるわけないし!!」

 ニノンの向かいに座っていた少女は、今まで読んでいた『歪曲の舞踏』という大判の本を閉じて、苦笑しながら立ち上がった。

 その少女は、背格好で見ればニノンと同じく十代半ばだろうか。
 無造作なアクアグレーのショートヘアに、中学校の制服と思しきプルオーバージャケットとスカートを着こんでいる。
 そして腰には、その上背に比して長い日本刀が携えられている。
 ここまでならその正体は東洋系のセイバー、例えば中国の十三妹(シーサンメイ)なども考えられた。

 だがこの少女の出で立ちはそれに留まらない。
 左腕には、長く無骨な鎖が巻きつけられ、その先に大きな鉄球を吊るしている。
 全身の皮膚からは、名称の判然とせぬ蔓植物が繁り、襟や袖口から溢れ出している。
 そして何より――。

 彼女の左眼があるべき場所には、顔の後ろまで見通せるような『おおあな』が開いていた。


「……バーサーカーのサーヴァント、『すてねこオートマトン』よ。よろしく」
「バーサーカー……!? 確かにステータスはアップしてるし……。でも口調は普通だし……。
 いやでも、その見た目はそもそも普通じゃないし!! その名前明らかに偽名だし!!」


 ニノンが指先をその『おおあな』に向けると、すてねこオートマトンと名乗った少女は「うっ」と唸りながら左の顔を覆った。
 恥ずかしがっているように見えたが、その顔はさほど赤くならなかった。
 そもそも彼女の顔は、死人のような灰白色をしていた。

 ……いや、それどころか間違いなく、このサーヴァントの実体は、少女の死肉でできていた。
 彼女から漂ってくる匂いは、果物か植物のような甘い香りで緩和されてはいるが、それでも誤魔化しようのない死臭である。
 その衣服も体も、煤けた土埃や、赤黒い粘菌が染みて薄汚れていた。


「……まぁ私は、ネクロマンサーからもボロクソにこき下ろされたし……、その反応が正常よ、ね。
 ……私はあいにくネクロマンシーで作られた『ドール』でさ。自分の名前含め、生前の記憶の大半を失ってるわけ。
 だから、自分のポジションに『捨て猫』と冠して取り敢えず、すてねこオートマトンと名乗ってる」
「『死霊魔術(ネクロマンシー)』……?」


 彼女は口の端に自嘲を歪ませて、左に顔を伏せながら呟いた。
 ニノンは彼女の言った魔術の名を反芻しながら、すてねこオートマトンの姿をまじまじと眺める。

 『死霊魔術(ネクロマンシー)』。
 読んで字のごとく死体と共に発展してきた魔術だ。
 己の「死」を見つめ、肉体が腐乱していく様を幾度となく観察し、最終的に「死」を統べることを目標とするもの。
 死者を食屍鬼に作り変え、死体を継ぎ接ぎして生み出した怪物を蘇生させて使役したりするわけで、一流の死霊魔術師は革命やクーデターで大量虐殺が行われると狂喜乱舞して死体を掻き集めるのが習わしだったと聞く。

 だがニノンが目の前の少女を観察するに、どうやら自分の知る死霊魔術というよりもそれは『置換(フラッシュ・エア)』か『蝶魔術(パピリオ・マギア)』の産物のようにも思えた。
 少女の死体を材料とはしているものの、そこに防腐処理を兼ねて特殊な粘菌を流し込み、一体の人形として存在を確立させている。
 更にそこには、しっかりと統一された少女の人格と精神が転写されている。
 決して、死体から生み出された怪物と見て良いモノではない。

 彼女は確かに、誰かの作品である人形だ。
 だが彼女はそれ以上に、誰かに愛された少女だ。
 不安定な自分の正体に悩み、自己の存在意義を確かめようともがく、確かな人間。
 決して、捨てられても、蔑ろにされても良いモノではない――。

 ニノンは、自分が祖母からもらったアンティークなビスクドールを、胸元で強く抱きしめた。

「……ああもう、いい加減にその批評じみたねめつけをやめなさいよ!
 何? 私みたいな『失敗作』がサーヴァントだからって不服なわけ?」

 すてねこオートマトンは、黙ったままじっと見つめてくるニノンの視線に耐えきれずに叫んだ。
 バツの悪さをはねのけるように両手を上げて身を乗り出した彼女に、ニノンはゆっくり首を振る。


「……いや、あなたがわたしのサーヴァントなのは決まったことだし。今更変えるなんて許されないことだし。
 それならせめて、わたしに相応しいサーヴァントらしく、身なりを整えるべきだし」
「……あれ? 受け入れてくれるんだ。意外」
「仕方ないからだし。さっさと手近なホテルでも探してシャワーをあなたに浴びせるべきだし」
「ああ……、そっか! この時代はまだ汚染されてない水が残ってるのよね。すごいわねぇ……」


 ニノンの言葉に、すてねこオートマトンは一瞬きょとんとした後、パッとその表情を明るくする。
 照れ隠しのように踵を返して歩き出そうとしていたニノンが、その声で振り向く。
 まるで彼女のいた時代には、体を洗う水すらないかのような言い草だった。

「……何それ。フィクションの世紀末じゃあるまいし。水なんかたっぷりあるし」
「……いや。私のいた未来、2140年過ぎには、世界中が核戦争で汚染されていたみたいなの。
 ここら辺、もう私には植え付けられた知識でしかないけど……。
 そこで出た大量の死体をもとにネクロマンシー技術が台頭し、世界は本当に最終戦争を起こして、死に絶えた。
 あとは少しのネクロマンサーと、生物兵器と、私たちのようなアンデッドだけしか動かない、終わりの先の、後日談の世界だった……」

 彼女の言葉は次第に呟きのようになり、夜闇の図書館の中に薄れて消えていった。
 気温が何度か下がったように思えた。
 ニノンは何度か亡霊と会話した経験もあった。
 だがその時には感じられなかった、氷水で心臓を絞られるような苦しさが、胸の内に湧いた。


「世が世なら、私も格好良くセイバーだったのかも知れないわ。それか、本の校正の経験を活かしてキャスターとか。
 だけどあの後日談の世界は、何もかもが狂っていた。姉妹みんなが、狂気に堕ちそうな自分の心を支え合って。
 自分が生きていた人間である証明を求めて、記憶のカケラを辿り、『未練』にすがった。
 いくら狂っても、心に残った最後の潤いと温もりだけは手放さぬよう、耐え忍び、足掻いてきた。
 狂った世界で散々狂いながら、自分を求めてもがいてきた。それが、私なのよ」


 すてねこオートマトンは、そう訥々と語った。
 ニノンには解った。彼女のいた時代は、途轍もなく過酷なものだったのだと。
 自分とそう変わらぬ年頃の少女にはそれこそ、心のどこかを半壊でもさせてなければ耐えられないほどの荒廃した世界。
 だから狂気の中でもがく彼女の姿勢は、本来狂化で曇るはずの彼女の精神へ、仮初にも思考を許す『宝具』になっていた。
 ニノンは気づく。彼女がその脇に大切そうに、ボロボロになった熊のぬいぐるみを抱えていることに。
 そんなわずかな心の拠り所だけを頼りに、姉妹とその狂気の中を戦い抜いてきた彼女は、間違いなく英霊だった。
 そう、姉妹と――。

「ねぇ、バーサーカー……。あなたには、お姉ちゃんがいたの……?」
「ん……? まぁ、姉か妹かいまいちハッキリしないけど。私はポジション的に6人姉妹の真ん中あたりだったわねぇ。
 うちの姉連中は頼り甲斐あって結構しっかりしてたわよ。お姉ちゃんってそういうもんでしょ」
「……わたしのお姉ちゃんは、そんな頼り甲斐ないし」

 その言葉に、口調に明るさを戻していたバーサーカーは、じっとニノンの顔を覗き込む。
 そしてふと得心したように笑みを深めた。

「な、何だし……」
「あー、なるほどなるほど。大方、お姉さんに魔術の腕で追い抜かされるのが不安ってわけか~。
 対抗か憧憬か……、まぁそういう適度な未練は遣り甲斐と上達のモトよ!」

 朗らかに語られた言葉を耳にした瞬間、頭に血が逆流したようにニノンは感じた。
 同じような指摘をかつて、不思議な牧師の亡霊から受けたときには湧かなかった感情だった。

「――わ、わかったような口を、聞くなッ!!」

 口から火のような熱さが出た。
 すてねこオートマトンが眼を見開く。
 次の瞬間には、ニノンはその腕を大きく振るっていた。


「『我が前にラファエル』!!」


 瞬間、渦を巻くように一帯の空気が収束し、ニノンの目の前にあったテーブルの脚が4本全て、鎌鼬のような円盤状の風の断層に切り裂かれていた。 
 僅か3文節の詠唱で発動されたその魔術は、その短さにそぐわぬ凄まじい威力を見せた。
 テーブルの天板が、倒れた脚の上に落下し、載っていた本がばさばさと宙に舞う。
 すてねこオートマトンが先程座っていた椅子の背までも、すっぱりと切断されている。
 彼女自身は、もう一つ奥のテーブルの上に飛び退ってそれを躱しており、突然のマスターの暴挙に目を丸くしていた。


「あ、あっぶなぁ……! いきなり何すんのよ!?」
「わたしのサーヴァントならこれくらい躱せて当たり前。わたしがお姉ちゃんになんて追い抜かされるわけない。
 ……だからこれ以上無礼なこというと令呪使うし」
「何それ理不尽!!」
「下手に理性が残ってるせいでわたしに従わないサーヴァントなんて願い下げだし。
 こうなったらわたしは絶対に聖杯をとって、お姉ちゃんより優秀な魔術師であることを証明してやるんだし!!」
「っかぁ~、折角お姉ちゃんのように守ってやろうと思ってたのに、可愛くないヤツ!」
「うるさいし! そんなぬいぐるみ抱えてるバーサーカーのほうが子供だし!」

 言い合いながら、小脇に抱えたぬいぐるみがニノンに指さされる。
 すてねこオートマトンの顔は、死体だとは思えぬほど真っ赤になった。全身に廻っている赤い粘菌が、顔に集中してきてしまったらしい。

「な、なっ、良いじゃないこれは私の『たからもの』なのよ! アンタだって人形持ってて子供でしょ!?」
「ふっ、子供という方が子供なんだし」
「初めに言ったのはアンタじゃない!!」
「令呪」
「ぐぅ~……!!」

 じっとりと眼を坐らせるニノンの言葉に、すてねこオートマトンは歯噛みした。
 その様子に、ニノンは勝ち誇ったように踏ん反り返り、肩を怒らせて図書館を抜けだそうとする。


「ほら、主従関係はわかったでしょ? 着いてきなさい、バーサーカー」
「……ちょっと待て。言うことは聞いてやるわ。ならせめて、私のことを『狂戦士(バーサーカー)』と呼ぶのはやめて」


 ニノンが振り向くと、すてねこオートマトンは、崩れたテーブルから散乱してしまった本を拾い集めて、本棚に戻しているところだった。
 彼女はそのまま、ニノンに無事な右眼を真っ直ぐに向けた。

「例え狂っていても、私は『オートマトン』と呼ばれたい。それが、姉妹の中で呼ばれていた、私の名前だから」
「……それ、一応あなたの真名じゃない。ステータス見た限り、強みも弱みも二極化したピーキーだし。
 知ってるヤツがいたら、あなた弱点がバレるわよ……?」
「いや、知ってるヤツがいたら、その方がむしろ有り難いわ。私が今までやってきた功績が、無駄にならなかったってことだから。
 それに私は、自分の記憶を取り戻したいのよ。聖杯を手にする前に手がかりでも掴めるなら、それに越したことはないわ」

 彼女は手に取った最後の本を、愛おしそうに眺めて本棚へ戻す。
 その大判の本の題には、『永い後日談のネクロニカ』と書かれていた。


「……本を出版するのって、大変なことなのよ。あの後日談の世界ではなおさら。
 私たちがあの世界で敢行した本が、何の因果か、この世界の時間軸には存在している。
 多くの人があの終末に気付いて、もう私たちのような狂人を作らぬ幸せな未来に変えてくれるのなら、これ以上のことはないから」


 ニノンは努めて無表情を装いながら、その足を震わせていた。
 自分の背負っているものの重さが、吹いて飛ぶようにすら思えた。
 それでも彼女は唇を噛んで、見つめてくる赤い瞳と『おおあな』の貌を振り切った。

「……わたしがその程度のデメリットで脱落するマスターだと思ったら大間違いだし!!
 いくらでも呼んでやるし、この『自動人形(オートマトン)』!!」
「はいはい。一応ありがとマスター……、って、ああと……」
「ニノン。わたしはニノン・ベアールだし。偉大なるおばあさまの血筋なんだし!」
「わかったよ。ありがとね、ニノン」

 精一杯の大股で歩んでいたニノンの隣に、早くもすてねこオートマトンは追いついて、彼女に微笑みかけていた。
 その呼び掛けが何故か、いないはずの姉の声に被った。
 簡単なアンロックの魔術が勢い余って、非常口のドアノブがぼきりと折れてしまう。

 ニノンは顔を真っ赤にして振り返り、すてねこオートマトンの体を奥に押し戻した。


「~~ッッ、あなたはわたしがホテルとってくるまで隠れて霊体化してるべきだし!!
 着いてくるなし!! ズタボロの野良猫みたいな人形のくせに!!」
「はぁ~!? ちょっと、何その言い草ァ!? おいちょっとこら、待ちなさいよ!!」

 言い捨てるや否や、ニノンはゴシックロリータの裾をはためかせて、朝焼けの街に飛び出してしまう。
 非常口に取り残されたすてねこオートマトンは、舌打ちと共に髪を掻き毟った。

「他のサーヴァントに狙われ……、ったく。ホント可愛くないわねぇ。何あれ。
 ちょっと私ナメられすぎてるのかしら……。こりゃ少しは良いとこ見せてやんないとね……」

 その呟きも聞こえぬ距離に走りながら、ニノンはしっかりとその胸に、祖母からもらった大切な人形を抱えていた。
 ホテルをとったら、ニノンは自分の『人形』のために、コンビニで包帯を買ってきてやろうと、そう思って走った。


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【クラス】バーサーカー
【真名】すてねこオートマトン@永い後日談のネクロニカ
【属性】混沌・善(狂)

【パラメーター】
筋力:A 耐久:B++ 敏捷:C 魔力:E 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
狂化:D
 筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
 ただし、彼女は後述の宝具『未練(たからもの)』により、発狂を一時的に免れている。
 彼女の思考における狂化の影響は、宝具『未練(たからもの)』の効果に準ずる。

【保有スキル】
無茶:-
種別:対人魔剣 最大捕捉:1人
 肉体を酷使して破損させることで、その破損させた部位数に等しい、異なる軌道を描く複数の攻撃を全く同時に放つ。
 相手が一つの攻撃を受け止めても、残る攻撃により四散させられる。
 魔術を使わずにただ執念のみで第二魔法級の現象を起こす人の領域を超えた技ではあるが、代償として行使するごとに自分の肉体が破損していってしまう。
 彼女たちドールにしか扱えぬ不完全な代物である。

死神:B
 ネクロマンサーに植えつけられた知識・技術により、自身が『白兵攻撃武器』であると思ったものを、長年愛用した武器のようにDランク相当の宝具として扱うことができる。
 例としては、肉切り包丁や釘バット、芝刈り機、スコップ、パイルバンカーなどがある。
 宝具を手に取った場合は、元からDランク以上のランクならば従来のランクのまま扱える。
 ただしあくまで扱えるだけで、他のサーヴァントが所持している状態の宝具の所有権を奪うことはできない。
 銃火器などは明らかに『射撃攻撃武器』であるため扱いきれないし、戦闘機などももちろん扱えない。
 戦闘においては同ランクの心眼(真)の効果を兼ねる。

災禍:A
 自身の対人用の宝具・魔剣が対象にダメージを与えた際、その『結果』を対軍化させることができる。
 縦横無尽かつ無差別に攻撃を行なうことで、その宝具・魔剣の性質は、
 『種別:対軍宝具・魔剣 レンジ:1~10(または元のレンジの長い方) 最大捕捉:最長レンジ×3人(または元の最大捕捉の多い方)』
 に変化する。
 因果を捻じ曲げ、最初に命中した攻撃結果をその場の相手全てに引き起こすスキルであるため、そもそも最初の一撃を命中させないか、範囲内から脱出していない限り、対象はこのスキルの被害を回避することができない。
 ただしこのスキルは仮に範囲内に攻撃を当てたくない対象がいても必ず命中してしまう上、発動後は1ターン(約6分)の間敏捷が1ランク低下してしまう。

失敗作:A
 攻撃時にのみ幸運が1ランク上昇する。
 相対的に敵のST判定成功率が低下することで、攻撃の命中率及び追加効果の付与率が上がる。
 ただし戦闘が1ターン(約6分)経過するごと、及び戦闘終了時に必ず、肉体か宝具の一箇所が負荷に耐え切れず破損してしまう。
 戦闘のみを求めて作られたドールであるが故の性質である。

記憶のカケラ(図書館、ゲーム):D
 TRPGのエラッタ作成をしていて思い出した記憶に基づく知識。
 書籍、ゲームに逸話が利用されている宝具を目にした場合、それなりの確率で真名を看破できる。

【宝具】
『永い後日談(ネクロニカ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 ネクロマンシー技術で作られた、『すてねこオートマトン』の肉体そのもの。
 少女の屍肉に血液代わりの粘菌コミュニティを廻らせて稼動する彼女の肉体は、痛覚をほとんど有さない。
 またその一部を破壊されても、新たなパーツをくっつければそこに新たな粘菌コミュニティが形成されて損傷は修復される。
 霊核である粘菌がわずかでも残っていれば、実体で身動きできぬほど完全解体されても、適切な修復と魔力による粘菌の補充で復活することができる。
 これにより、ある程度彼女は自分の損傷を省みずに継戦することが可能。

『未練(たからもの)』
ランク:D 種別:結界宝具 レンジ:0 最大捕捉:6人
 過去の記憶を失い、滅んだ世界で突然に目覚めてしまった彼女の精神をつなぎとめている心のよりどころ。
 自分の大切にしているたからものの他、会話の通じる相手に深い感情を抱くことで、狂化に追い詰められた自身の精神を一時的に正気に保っておける。
 現在彼女は下記のような未練を抱いており、これが多くなればなるほど、精神安定が図りやすくなる。
  • ボロボロになった熊のぬいぐるみ:【依存】[発狂:幼児退行]
  • ニノン・ベアール:【対抗】[発狂:過剰競争]
 ただし、戦闘が1ターン経過するごと、または精神を侵すような攻撃・事態に直面した際に狂気はどんどんと溜まってゆき、ついには併記したような精神異常を来たし発狂してしまう。
 これを防ぐには、積極的な会話や精神治癒魔術によって狂気の度合いを減らし、心を落ち着かせることしかない。
 なお、原作における未練と発狂の種類を聖杯戦争用に再解釈するとだいたい以下のようになる。
  • 【嫌悪】[発狂:敵対認識]敵に避けられた攻撃を嫌悪の対象へ当てに行く。
  • 【独占】[発狂:独占衝動]ことあるごとに対象の肉体を損傷させる。
  • 【依存】[発狂:幼児退行]思考が幼くなり、敏捷が1ランク低下する。
  • 【執着】[発狂:追尾監視]戦闘時でもねめつけ続けるので、対象に狂気が増す。
  • 【恋心】[発狂:自傷行動]ことあるごとに自傷する。
  • 【対抗】[発狂:過剰競争]戦闘時に狂化のランクが1上昇し、魔力消費増大・凶暴化する。
  • 【友情】[発狂:共鳴依存]一段落ついたら友情の対象が損傷している部位数と同じになるだけ自分の肉体を損傷させる。
  • 【保護】[発狂:常時密着]対象のいるエリアへの移動を最優先で行う。
  • 【憧憬】[発狂:贋作妄想]対象のいるエリアに移動できない。また、対象が同じエリアにいるなら離れなければならない。
  • 【信頼】[発狂:疑心暗鬼]自分以外の味方全員にプレッシャーをかけて敏捷を1ランク下げる。
 利用できる発狂状態も無くはないが、まかり間違ってマスター相手に発狂した場合ロクでもない効果もかなり並んでいる。
 これらの精神効果は『未練』のランクと同じくDランクとして扱う。

『リミッター』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 彼女の身体機能を抑えている、頭部に埋め込まれたリミッター。
 この宝具が破損していると、敏捷が1ランク上がる。

『おおあな』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1人
 彼女の左目部分から後頭部にまで大きく開かれている風穴。
 顔面への攻撃をこの穴で避けるなどして、自分の回避判定にボーナスを得ることができる。

『ほとけかずら』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
 後日談の世界で生み出された変異植物であり、彼女の体に寄生・繁茂している。
 思考によって自在に動き、相手の体にツタを絡めて動きを束縛するなど、多彩な戦術を採れる。

【weapon】
 スキル『死神』により、現在のところ下記の2つの武装を宝具としているが、今後の状況により容易に替わりうる。
  • 『日本刀』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
 与ダメージ時に対象の命中部位に切断判定を行う。
 この効果はバッドステータス付与扱いなので、相手はST判定に失敗すると切断された部位の装備を全損する。
  • 『鉄球鎖』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
 与ダメージ時に対象を転倒させる。サーヴァント相手の場合には相手の足を強制的に霊体化させて転倒させる。
 この効果はバッドステータス付与扱いなので、受けるとしばらく立ち上がれない。


【人物背景】
 核戦争によって人類文明と地球生態系が完全に崩壊した近未来を舞台に、生ける屍(ゾンビ)となってしまった少女たちの悲劇を描くSFホラーもののTRPG『永い後日談のネクロニカ』における、サンプルキャラクター6人姉妹の1人。
 彼女たちはこの世界を支配する「ネクロマンサー」たちによって作り出された愛玩死体、通称「ドール」であり、自分の生前に関するほとんどの記憶が奪われている。
 死体操作技術ネクロマンシーは、粘菌ナノマシンによって死体に統一意思を持たせ、そこへ「人格ダウンロード」を行なうことによってドールを作成する。
 ネクロマンサーが彼女達に完全な記憶を取り戻させないのは、荒廃した世界とのギャップで精神が簡単に崩壊しないようにするためでもあるが、単に記憶の欠落に悶える姿を観たいという理由も大きい。
 自分に完全服従しない「人間的」なアンデッドを作り出して、それの反応を見て楽しもうとしているわけだ。
 ドールたちの目的は、滅んだ世界を旅しながら、自分たちの失われた過去を取り戻すことである。

 すてねこオートマトンの容姿としては、アクアグレーのショートヘアに、中学校の制服と思しきプルオーバーのジャケットとスカートを身につけている。目の色は赤い。
 生前はかなり可愛らしい見た目であっただろうと容易に想像できるが、おおあなの開いている顔面の左側は大きく肉や髪が抉れており、普段は気にしていないものの、ふとした時に恥ずかしくなってしまうことがあるようだ。
 皮膚から生えているほとけかずらも決して見栄えのいいものではなく、その身体も服も、歴戦の返り血のような粘菌で薄汚れている。
 名前に関する記憶も失われているため、彼女は姉妹間でも「オートマトンさん・君」などと呼ばれている。

 製作者のネクロマンサーからは酷評されており、引用すると以下のように語られている。
『程度の低い自我しか持てなかった人形が、未だ狂わず彷徨っていたとはな。
 戦うしか能のないクズめ。原始的な【日本刀】と【鉄球鎖】で、せいぜい踊り狂うがいい。【死神】を気取るもいい。
 雑兵のゾンビどもには【災禍】というべきか? そうだな、戦力はたいしたものだ。
 醜い【おおあな】とみっともなく生えた【ほとけかずら】で足掻くがいい。
 【リミッター】を壊せば今以上の動きもできるだろう。
 しかし、どうせ【無茶】の果てに、【失敗作】の醜さを露呈し、壊れ果てる。
 戦う力は並以上でも、不完全な体はおまえの枷だ。欠かさず修復して、ここまでたどりついて見せるがいい。』

 だが公式FAQにてツッコミ役と進行役を担う彼女の性格は、『程度の低い自我』などとはとても思えないほど快活である。
 彼女曰くそのスタイルは「実用性重視よ! オートマトン的に考えて!」とのことらしい。
 自分たちの世界をシステム化して遊べるようにするゲーム制作の過程だったので身が入ったのだろうか。
 良識を保ちつつ、敵味方問わず容赦なく日本刀や鉄球鎖でツッコミを振るう彼女の存在は恐らくFAQに不可欠だったろう。
 英霊の座には、停滞していた製品版エラッタ作成にこうして多大なる貢献をしたことで登ったものと思われる。
 その際の知識と関連する記憶は潤沢にあるため、特にSF、ホラー系の宝具への見識は意外と多い。
 もしかすると聖杯を手にせずとも戦いの過程で、何らかの既視感から自分の記憶を思い出すかも知れない。

【サーヴァントとしての願い】
 自分の記憶と過去を取り戻す。
 願わくは自分たちのいた核戦争の未来が、もう起こらないようにして欲しい。


【マスター】
ニノン・ベアール@KOF MAXIMUM IMPACTシリーズ

【マスターとしての願い】
 自分が姉より優れた魔術師であることを証明する。

【weapon】
 黒魔術+中国拳法を格闘スタイルとする。
 『KOF MAXIMUM IMPACT 2』及び『KOF MAXIMUM IMPACT Regulation "A"』の技は全て使用できる。


【人物背景】
 ローマよりも古いケルトの系譜に連なる、ドルイドの血を引く純然たる魔術師の生まれ。
 魔術は姉、ミニョン・ベアールと共に祖母から教え込まれたもので、大切にしている人形も祖母から貰ったもの。
 魔術は人を幸せにするためにあると主張する姉に対し、純然たる力でしかないと考えている。
 そのため自分の気の向くままに魔術を使う事を躊躇わない。
 幼くもリアリストかつ皮肉屋な性格。語尾に「~だし」「~し」をつけるのが口癖。
 キャッチコピーは「悪魔と踊る少女」。

 出来が悪い上に情けない姉を見下しており、毒舌で「姉いじり」することを日常としている。
 だが内心では、そんな姉にいつか追い抜かされてしまうのではないかという漠然とした不安を抱いており、それを指摘されることもある。
 実際の姉妹仲はそれほど悪くなく、ただ愛情が歪んでいるだけらしい。

【能力・技能】
 姉の白魔術とは対照的に黒魔術を使う。
 失敗ばかり繰り返している姉と違って魔力の扱いには長けており(人形を操る術も身につけている)、実力は相当高い方である。
 姉と同様、多少は中国拳法も心得ているが、「自分らはあくまで魔女であって格闘家ではない」という思想を持つ。
 悪魔召喚や呪詛も趣味としている。
 少なくとも風、火、空の三重属性を有していると思われ、その魔術回路の本数、鍛錬の度合いもかなりのもの。

 また、伝授された魔術刻印を格闘用にアレンジしているらしく、普通の魔術師に比べかなり高速で強力な魔術を行使できる。
 雷光を放つガンド、隕石の投影など、その応用は多岐にわたる。
 本来ならば大魔術レベルの代物の空間転移であるが、彼女は固有結界の限定展開と同様の手法で、自身とその付属物のみを十数メートルの短距離に転移させる技『リリスの誘惑』を編み出している。
 詠唱も『ル・オーラム・エイメン』の3小節と、かなり短い。
 この他、彼女の行使する魔術の詠唱は基本的に『我が~に○○』という3文節の構造をとっている。
 強力な攻撃魔術であっても、『イヨ・イヨ・ザバティ・ラキラキ』、『ザーザース・ザーザース・ナースタナーダー・ザーザース』などと4小節に収めており、その時間対効果は破格のものである。

【基本戦術、方針、運用法】
 バーサーカーは単純な近接攻撃能力ではかなり高い実力を有しており、スキル『失敗作』や『無茶』、『ほとけかずら』の効果で、致命傷となる攻撃を確実に当て、如何なるサーヴァント相手にも一撃必殺を狙うことができる。
 その上多数の敵に囲まれても、スキル『災禍』によって一帯の敵を瞬時に叩きのめすことができるだろう。『無茶』と『災禍』を組み合わせれば、一撃必殺かつ回避不能の全体攻撃を繰り出すことも。
 戦いが長引くと肉体的にも精神的にも自壊していくが、『永い後日談』の効果によって痛覚はほとんどなく、肉体の大半が破壊されても修復可能なので、多少の被害は無視して早急に敵を仕留めにいくことが可能。
 やろうと思えば、『死神』によってありあわせの武器を宝具とし、『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』によってゾンビボムよろしく自分の腕ごと敵陣を爆破、という離れ業も行える。
 スキルが良いバランスで噛み合っており、ネクロマンサーの評価通り、戦闘能力は大したものである。

 問題としては、バーサーカー単独では中距離以遠の相手に対して全く攻め手がないところがある。
 また『おおあな』や『ほとけかずら』による回避能力はあれど、バーサーカー自身の防御力は物理的にも魔術的にもほとんど無きに等しい。
 特に精神攻撃を受けて発狂してしまった場合のデメリットは、通常の『狂化』によって引き起こされる思考の単純化とは全く異なる場合がほとんどのため、対処が必須である。
 相性の悪い相手に対しては、マスターが率先して補助することが望ましいだろう。
 一般的なバーサーカーよりは消費魔力が少なめであるとはいえ、戦闘ごとに必ずどこかが破損してしまうバーサーカーの修復にも、マスターの手と魔力は不可欠である。
 このため運用としては、初めは魔力の補充できる陣地を探しつつ情報収集に徹し、状況がわかり次第相手の直近にバーサーカーを乗り込ませて速攻を決めるのが良いだろう。

 基本的に聖杯を求めて戦う方針だが、両者ともに聖杯は手段に過ぎないため、目的が達成されるならば他の者と共闘したり、聖杯自体は他者に譲るなり壊すなりする可能性もある。

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最終更新:2015年04月28日 05:18