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斧乃木余接&クトゥルフ・ガール  ◆Ee.E0P6Y2U


少女は速かった。
例外的に速かった。

その時、サーヴァント“クトゥルフ・ガール”の生理時間は極限までチューンナップされていた。
ミリ秒、否、マイクロバイオーム環境における基本時間“モエ”の時間で彼女は生きているのだ。

――おれを闇から襲おうなんざ、

七十年程早い、と彼女は数モエの間に思い、その槍を振るった。
ぶん、と空を切る音がする。根癖のついた紅い髪が可憐に舞い、少女は襲いかかる敵を退けんとする。
サーヴァント“クトゥルフ・ガール”の膂力に押され、敵は弾かれていった。

“クトゥルフ・ガール”のサーヴァントはモエの時間に生きている。
“モエ”は漢字を当てるのならば“萌え”になる。
彼女たちは萌える外見をしているのだ。
アニメリー因子が美少女アニメのカタチを被って表現された姿こそ、“クトゥルフ・ガール”なのである。
故に“クトゥルフ・ガール”の一角、例外少女ウユウもまた

それは何故か。
何故“クトゥルフ・ガール”はアニメの美少女の姿を取るのか。
それは

――なんでだっけ……

ウユウは思い出せなかった。
もちろん知らない筈がない。
自分たちが属するエクストラクラス“クトゥルフ・ガール”にまつわることだ。
自分たちがこのように記述される理由はサヤキが解き明かした筈で、それをサーヴァントとなった彼女は識っている。

――えーと、えーと、えーと……

思い出そうとするが、しかし思い出せない。
若い頃はこうではなかった。もっと簡単に思い出せた筈だ。
しかし、最近はどうにも衰えている。認めたくはないが、仕方がない。

「頑張ってよ、おばあちゃん、ぼくをその敵から守るんだ」

後ろでマスターたる少女が言った。
実に平坦かつ適当な口調で、激励の言葉の筈であるのにやる気をそぐような言い方であったが、ウユウは一言、

「私はおばあちゃんじゃない!」

そう言い放つだけだった。

……実際、“クトゥルフ・ガール”というかサーヴァントに年齢などという概念はない。
元となった精神性と身体の年齢がずれているだなんて例もあるくらいだ。
それにウユウは可憐な少女の外見をしているのである。だからおばあちゃんなどという呼称はおかしいのだ。

「何を言っているんだ、おばあちゃん。
 だって貴方は70歳越えてるんだぜ。怪異仲間じゃともかく、人間基準ならもう年金生活の年齢だぜ」
「…………」

ウユウは言い返すことができなかった。
ある意味でマスターの言葉も正しくはあったからだ。
ウユウは――“モエ”の時間に生きていない桂木憂優は70を越える老婆である。


人間のヒフや口、とりわけ腸内には何兆もの細菌や微生物がいる。
ヒトに固有の遺伝子の数は、二万から二万五○○○ほどしかない。それに比して体内細菌、微生物の遺伝子は三三○万の数に上るのだという。
それらが巨大なネットワークを形成し、ヒトは単なる生物である以上に“環境”でもあるのである。
そうした生物の生態系こそが“マイクロバイオーム”である。

憂優はマイクロバイオーム――腸内壁の数億個のニューロンを一種のコンピュータとして使い、プログラムに介入することができる。
そうした演算領域がある理由――ウユウは健忘している――によってアニメの少女として表現された結果。
それが例外少女ウユウなのである。

――まぁ、確かにおれは例外だけどさ……

少女の中で彼女は例外的に老女である。
“ツンデレ”のサヤキや“メガネ”のニラカは一応基となった人間は若い女性だった。
ウユウだけが老女なのである。
“ヤンデレ”のマナミは分からないが……

――でも、おばあちゃんはなあ

マナミが“ちゃん”付けされるのを嫌がるように、ウユウもそう言い放たれることは少し抵抗があった。
第一マスターだって厳密な年齢はあやしいものだ。
可憐な童女の姿をしているが、その実彼女は死体なのだから。

――ま、とにかく

敵を倒してしまおう。
そう思い、ウユウは槍を再び振るった。
一度弾き飛ばされた敵は今になってようやく態勢を立て直している。
遅い。
ウユウには彼の動きが緩慢なものに見えた。

“モエ”の時間に生きているウユウは通常の時間よりも速い時で表現される。
クトゥルフ少女でなく、サーヴァント“クトゥルフ・ガール”は単位の変換率が少し悪くなっているが、しかしそれでもなおウユウたちは速い。
またたく間に“モエ”の時間を駆け抜けることができる。

“モエ”の時間を生きるウユウはそのまま萌える力を使った。
痺れるような技である。

「というかそのまんま電撃なんだけどね」

……後ろでマスターがやはりやる気をそぐようなことを言った。
“クトゥルフ・ガール”はそれぞれが特殊能力を持っている。
ウユウの場合は電撃――サーヴァントとしての宝具『電磁気に対する感作力<エレクトロソーム>』である。

とはいえそれだけじゃない。

――まずは相手の動きを止めて、と。

ウユウは電撃を迸らせつつも、敵が立つ地面に干渉した。
そして、ぬる、と敵は足を沈みこませた。


……大腸菌だ。
ウユウは大腸を選択的に発現させることができる。
大腸菌はもともと繁殖に最も成功しているバクテリアといっていい。
ありとあらゆる土壌の中に大量に棲息しているばかりでなしに、腸管内細菌としても、他の追随を許さないほどの成功を収めている。
ウユウはそうした大腸菌を思うがままにあやつることができるのだった。
敵が立つ地面に棲息していた大腸菌の遺伝子を一気に発言させ、ぬかるみの水分含有量を増やし、結果として敵の足を止めることができる。

――決めるよ

ウユウは跳んだ。
その手からはバチバチと電撃が迸っている。
撃った。
敵は反応できない、。
時間にしてたった三モエのことだ。
秒の世界に生きる英霊ではすぐには反応できない。
ましてや彼はいま足を取られている。
ジジジジジジ、と飛び散る火花がマイクロバイオームの空を切った。

「ばーんって爆発して欲しいところだよね」

後ろでマスターがやる気のない言葉を漏らした。
その言葉通り――轟音と共にその英霊は爆散していた。

電撃と大腸菌。
それが例外少女ウユウの能力である。






「ありがとう、おばあちゃん。お蔭で助かったよ。ホントホント、こんなに人に感謝できたのは何時振りだろうってくらい感謝してるよ。
 鬼いちゃんにおばっちゃんのイボを煎じて飲ませてあげたいくらい。エレキバンって奴かな」
「少しは感謝して欲しいもんなんだけどな……」

ウユウは頭をかきつつも、マスターである少女と共に拠点へと赴いていた。
襲ってきた敵サーヴァントを撃退し、その帰りである。
無駄に派手な演出をキメて敵を倒してしまったので、急いで帰る必要があったのだ。

マスターの少女に寄り添いつつも例外少女はウユウは今後のことを考える。

聖杯戦争。
エクストラクラス“クトゥルフ・ガール”
今回彼女が表現されたのはそのような舞台だった。

――聖杯なぁ

多分目的自体は変わらない。
ゴキブリを守ることだ。
宿敵である“進化”の“起源”――“クトゥルフ”に対抗する為、ゴキブリという種を守る。
その為に聖杯を求める魔法少女が、ウユウだ。
そういう殻を被って今回は表現されているのだろうが、

――ハーレム系アニメみたいだ。

そう思わずにはいられなかった。
聖杯など、どうせ中身はかわっぽだろうという気がする。
碌でもないものだ。
からっぽで空虚な、そんなものを求めて幾多もの少女が相争う。
まさしくそれはハーレム系アニメの構造ではないのか。

――それにイエス・キリストにまつわるものって時点で厭な予感するんだよなぁ。

彼女は以前表現された際、疑似的なエルサレムを舞台にヨハネを名乗るものと戦ったことがある。
というかその戦闘で死んだ。
仲間の盾にされ――まぁ状況的に仕方ない部分もあるのだが――そこで一度命を絶った。
彼女の想い人であるマカミが“マウス・クリスト”とかいう説もあった。
マウス・クリスト――イエス・キリスト的な言葉だ。

どうにもあの聖杯の持ち主は“クトゥルフ”側に関係している存在な気がしてならない。
聖杯へと近づくこと自体が“進化”のような“クトゥルフ”からの攻撃の可能性がある。
色々と考えて動かねばならない。

「おばあちゃん」

不意にマスターが立ち止まった。
なんだ、と思い考えを中断すると、彼女は街中に備え付けられたディスプレイを指差していた。
そこではアニメのオープニングが流れていた。


『なんて素敵なヘル・エポック
 忘れられないヘル・エポック

 わたしたち友達になるの
 コルク張りの部屋のなか
 花咲く乙女たちのかげに
 マドレーヌをいただいて
 失われた未来をもとめて』

そこでは戦闘ドレスを身にまとった少女たちが、激しいダンス・ビートを刻んでいる。
色分けされていて見やすい。とはいえ色遣いはとてもではないがセンスのあるものではなかった。

どうやら魔法少女物のようだった。
何故そんなものを余接が示したのか。
考えるまでもなかった。

――ま、そりゃ疑問に思うような。

だってウユウはそのアニメ『クトゥルフ少女戦隊』のヒロインと酷似した外見をしているのだ。
どちらがモデルになったのかは分からないが、ともかくウユウら“クトゥルフ・ガール”とアニメ美少女は切り離せない関係にある。
とはいえそれが何故かはウユウにも分からないのだ。

――えーと……うーん、ボケてない筈なんだけどな

思い出せない。
70歳の老女であることの影響を受けているのか、どうにも上手く説明できる気がしなかった。
そこを突っ込まれるとまた“おばあちゃん”と馬鹿にされそうだったが、

「なんて適当なアニメだろうね。今時あんなものが放送されただけで放送事故、いや放送事件だと思うよ。
 作画・音響・シナリオ……どれをとっても駄目としかいいようがないよ」
「素人がそんな批評しなくてもいいだろう」

というかシナリオを数秒で判断するな。

「ことアニメにいたっては僕にも一家言あるよ。
 なんたってアニメヒロインを務めたこともあるからね。
 おばあちゃんはまだアニメ化されていないみたいだけど」

余接はそう言ってまた歩き出した。
ウユウは思わずきょとんとしてしまう。
メタメタな存在であるウユウだが、しかし突っ込まれなかったのだ。

「アニメファンには“キメ顔でそう言った”とかいうのが僕のキメ台詞みたいに思われているけど、それはにわかだからね。
 原作の僕はそんなことを言わないよ。言う訳ないじゃないか。そんな黒歴史満載な台詞。
 言ってたとしたらそれは誤植の類だよ。鬼いちゃんみたいなものさ」

代わりにそんなことを言って、彼女は街をかけていく。
例外少女と共に。例外の方が多い規則を抱えながら。

【クラス】
クトゥルフ・ガール

【真名】
例外少女ウユウ@クトゥルフ少女戦隊

【ステータス】

筋力C 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具B

【属性】

中立・善

【クラススキル】
  • モエ A
クトゥルフ少女表現型は表現される単位。
彼女らの活動領域であるマイクロバイオーム環境において、内部時間一キロモエが主観時間にして十五分に当たる。
――要するに思考や活動が相対的に加速するのである。

本来ならば百モエ秒が十ミリ秒と表されるのだが、この聖杯戦争ではリミットが課せられているようだ。


【保有スキル】
  • 変化 -
文字通り「変身」する。
元々は桂木憂優がマイクロバイオーム環境に反転/フリップすることで例外少女ウユウが表現される。
が、この聖杯戦争においては例外少女ウユウの名に縛られる為、憂優の姿を取ることができず機能していない。

  • 戦闘続行 A+++
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
このランクになると異常なまでの死ににくさを誇る……というか死んでも活動停止に到るまでがとにかく長い。
決定的な致命傷を受けた場合も、実時間にして一日は活動することができる。(死んでいるのは変わりないので治療はできない)
ただし魔力切れの場合はこの限りではない。またこっぱみじんにされれば意味がない。

  • さっぱり D
アニメの美少女のの属性。
この属性を持って表現された以上、何事にも寛容に流すことになる。
このスキルは外せない。

【宝具】
『電磁気に対する感作力<エレクトロソーム>』
ランク:B 種別:対ゲノム宝具 レンジ:1~30 最大補足:30
その名のごとく電磁気を操る力。
腸内のネットワークを駆使して電磁気を発生させることができる。
これ単体を武器に使うことができるほか、コンピュータのプログラムなどに干渉することもできる。
どの程度複雑なことができるかは不明だが、パチンコのプログラムは操作できた。


  • weapon
自在に操ることができる。
クトゥルフ少女は高い身体能力を誇る。

  • 大腸菌
自在に操ることができる。
地面をぬかるませ、物を沈めたりできる。

【人物背景】
5億4000万年まえ、突如として生物の「門」がすべて出そろうカンブリア爆発が起こった。
このときに先行するおびただしい生物の可能性が、発現されることなく進化の途上から消えていった。
これはじつは超遺伝子「メタ・ゲノム」が遺伝子配列そのものに進化圧を加える壊滅的なメタ進化なのだった。
いままたそのメタ進化が起ころうとしている。怪物遺伝子(ジーン・クトゥルフ)が表現されようとしている。
おびただしいクトゥルフが表現されようとしている。この怪物遺伝子をいかに抑制するか。発現したクトゥルフをいかに非発現型に遺伝子に組み換えるか?
そのミッションに招集された現行の生命体は三種、敵か味方か遺伝子改変されたゴキブリ群、進化の実験に使われた実験マウス(マウス・クリスト)、そして人間未満人間以上の四人のクトゥルフ少女たち。その名も、究極少女、限界少女、例外少女、そして実存少女……。
クトゥルフと地球生命体代表選手の壮絶なバトルが「進化コロシアム」で開始された!
これまで誰も読んだことがないクトゥルフ神話と本格SFとの奇跡のコラボ! 読み出したらやめられない、めくるめく進化戦争!
(クトゥルフ少女戦隊 あらすじ)

クトゥルフ少女の一人。さっぱりした性格で、紅い髪で槍を使う。
クトゥルフと仮に呼ぶしかない何かが起こした進化砲撃“クトゥルフ爆発”を防ぐため、最前線に投入されたクトゥルフ少女の一人。
実存少女サヤキ、限界少女ニラカ、究極少女マナミと共に“クトゥルフ”の進化コロシアムに挑む……前に爆殺された。(それから復活)
現実世界での姿は70歳の老女であり、彼女の大腸菌がプログラムに反応しパチンコで大勝することができた。
他のクトゥルフ少女と同様“マカミ”に惚れている。


【マスター】
斧乃木余接@物語シリーズ


【能力・技能】
『例外の方が多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』
身体の一部を変化させて攻撃する。
「例外の多い規則(離脱版)」というのもあるが、ただのレバー入れ大ジャンプである。


【人物背景】
初登場は「偽物語」で月火を爆殺する。
人間に見えるが実は影縫余弦の式神。見かけによらずパワータイプで、自らの肉体を強化する技を使う。
忍野忍に対し「後期高齢者」呼ばわりするなど調子に乗るも、その後大変な目に遭わされトラウマとなってしまう。
容姿は不明だったが、アニメ化の際に予想以上に奇天烈な外見であることが判明した。

以降も定期的に出演を果たし、物語シリーズ・セカンド~ファイナルシーズンでも活躍。
巻数が進むにつれ他のヒロインの出番が減る中、彼女はだけは後半になるほど出番が増えており、相対的に存在感を増した。

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最終更新:2015年05月01日 01:48