野々原紀子&エンペラー ◆2lsK9hNTNE
「ゲームオーバー」
そう言って女は楽しそうに笑った。
降りしきる雨が傷に染みる。背中に当たるコンクリートの壁がやけに冷たい。のっこちゃんにはもう立ち上がるだけの力もなかった。
眼前には女の構えた銃が見える。普通の銃ではない。のっこちゃんの知らない、特殊な力が込められた銃だ。その威力は魔法少女の肉体をも貫く。
のっこちゃんの『自分の感情を周囲に伝播させる魔法』もこの女に効かなかった。意思が強いのか、あるいはそういう能力をもっているのかもしれない。
セイバーも女のサーヴァントと相打ちになってもういない。場所は人っ子一人いない暗い路地だ。
この状況を打開する手段はもはや残されていない。のっこちゃんは今ここでこの女に殺される。
それでいいのかもしれない。ふと、そう思った。
のっこちゃんは今までに何人もの人を殺してきた。直接手を下したことはないが、そうなるように仕向けてきた。
それは生きるために必要なことだったし、後悔もしていない。
しかし自分勝手に人を殺した事実がずっとのっこちゃんの心に重りのように伸し掛かっていた。
疲れたのだ。誰かを犠牲にして生きることに。
もともと一度は死を覚悟した身だ。
NPCとはいえ最後に元気なお母さんと一緒に過ごすこともできた。
本物のお母さんにも大金を残せたはずだ。ここで楽になるのも悪くない。
しかしそのとき――コツ、と足音が響いた。
一日中、空を覆っていた雨雲が途切れ、月が除く。人気のない路地にいつの間にか男がいた。
月の光に照らされながら、男は歩いた。女の持つ銃に怯えることもなく、堂々と。
女が軽く舌打ちし、ドスの利いた声で言った。
「失せな。今取り込み中だ」
男は止まらない。それどころか女の挑発するように――あるいはのっこちゃんを安心させるように薄い笑みを浮かべた。
「逃げて……」
無意識にそう言っていた。相手は魔法少女であるのっこちゃんを圧倒するほどの実力の持ち主だ。
男が何者かは知らないが、太刀打ちできるはずがない。
のっこちゃんは魔法で『逃げたい』という感情を男に伝播させようとした。
しかしその直前、瞬きする暇もないほどの一瞬で、女が男に銃を向け引き金を引いた。
轟音が鳴り響き、悲鳴が上がる。
女の悲鳴だ。弾は放たれなかった。
引き金を引かれると同時に銃は爆発し、はじけ飛んだ破片で女の全身を貫いていた。
「もしいま撃たれていたら、僕は抵抗する間もなく死んでいただろう。でも君は僕を撃てなかった」
男が言う。さほど大きいわけでもないのに、不思議とその声は悲鳴の中でよく聞こえた。
「君は僕を止める存在に選ばれなかったんだ」
女はありったけの憎悪を込めた目で男を見て、その場から走り去った。傷のせいか、並の人間程の速度しか出ていない。。
のっこちゃんには何が起こったのかさっぱりわからなかった。
男が銃に細工した様子はない。あの爆発はむしろ銃に不具合でも生じたような感じだ。
しかしあのタイミングで偶然銃が壊れるなんて、そんなことがあるだろうか?
命拾いしたはずの男は驚いた様子もなく平然と携帯を取り出し、どこかに電話を掛けている。
「僕だ。西通りへ血塗れの女が逃げていった。捕まえてくれ。三班を呼べば挟み撃ちにできるだろう。
ああ。抵抗したなら構わない。それと至急医療班を寄越してくれ。場所は……」
男はここの住所を伝え、電話を切った。
こちらに近寄り、雨に濡れるのも構わず膝をついて、のっこちゃんと目線を合わせた。
「大丈夫かい?」
「あ……ありがとうございます」
男は異性への興味が薄いのっこちゃんでも一瞬見とれる綺麗な顔だった。そしてよく見ると見覚えがある。
知り合いというわけではない。ただ街を歩いているときに何度か見かけたことがある。
確か最近町で評判の自警団のリーダー。名前は――忘れてしまった。人の名前を覚えるのはあまり得意ではない。
「君はまだ小学生だね? こんな時間に人気のないところに来ちゃいけないよ」
「ごめんなさい。すぐ帰ります」
「その怪我じゃ無理だろう。家はどこだい? 僕の方で連絡を……」
男が言葉を止め、のっこちゃんの右肘の辺りを凝視していた。正確にはそこにある、破れた服から除いた令呪を。
のっこちゃんは慌てて左手で隠した。小学生が刺青なんていい印象は持たれないだろう。
ただでさえ、夜遅くにボロボロの状態で発見されたのだ。男が善人なら親に話をするかもしれない。
できればそれは避けたかった。例え偽物でもお母さんに無駄な心配は掛けたくない
そんなことを考えていたからだろうか、男の口から「フフッ」と声が漏れたとき、笑っていると気づくのに少し時間がかかった。
「あの、どうしたんですか?」
「失礼。少し以外だったものでね。
マスター達の素性をそれなりに調べがついているが、君がマスターだとは知らなかった」
のっこちゃんの感情が驚愕に染まる。反射的に臨戦態勢を取ろうとして痛みに顔を顰めた。
「安心していい。君に危害を加えるつもりはない」
のっこちゃんの感情が伝染っているはずなのに、男の余裕ある態度は変わらない。
のっこちゃんは心を落ち着け、冷静さを取り戻し、男を見た。
「あなたは……マスターなんですか?」
サーヴァントにはサーヴァントの気配がわかる。セイバーはこの男を見かけてもなんの反応も示さなかった。
NPCがマスターの存在を知っているはずもない。ならそういうことになる。なのに男は「いいや」と首を振った。
立ち上がり、片手を胸に当て、言った。
「僕は犬養舜二。エンペラーのサーヴァントだ」
「そんな、だって私のサーヴァントは……」
「僕はサーヴァントしての気配を消すスキルを持っている。君のサーヴァントが気付かなかったのも無理はない」
言おうとしたことを先読みされた。確かに意識を集中するとステータスも見れる。サーヴァントで間違いないようだ。
しかしだとすると別の疑問が生じる。
「だったらどうして、私に手を出さないんですか?」
「君に僕のマスターになって欲しいからさ」
「マスターに?」
「ああ、僕のマスターは先ほどやれてしまってね。君もサーヴァントを失っているんだろう?」
どうしてわかったのか聞こうと思ったがやめた。令呪を残しながら、一人で死にそうになっていたのだ。
それくらい推察できても不思議はない。
のっこちゃんは考える。犬養の申し出は聖杯戦争の勝利を目指すなら、願ってもないものだ。
だがそれは誰かを犠牲にしながら進む道だ。あの苦しみはできればもう二度と味わいたくない。
迷うのっこちゃんに犬養は言う
「未来は神様のレシピで決まる――という言葉を知っているかい」
「いえ」
「人は皆。何かしらの役割を担い生まれ、使命を果たして死んでいく。そういう意味の言葉だよ。
マスターを失った僕とサーヴァントを失った君が出会ったのは偶然じゃない。
運命が僕達に戦うことを望んでいるんだよ」
「運命が……」
のっこちゃんは自分の命を絶つ直前にこの街に連れて来られた。今まではただ偶然と片付けていたが、もしそれが運命だとしたら?
脳裏に病気で苦しむお母さんの顔が浮かぶ。聖杯の力ならあんなもの簡単に治せるだろう。他にも聖杯に願いたいことはいっぱいある。
「……あなたの願いはなんですか?」
「正しい世界」
迷いなく断言する。
その瞳は今までのっこちゃんが見てきたどんな大人よりも、そしてのっこちゃん自身よりもずっと綺麗で純粋に見えた。
のっこちゃんは覚悟を決めた。
「私は自分のために誰かを傷つけたくありません」
犬養は何も言わない。ただ黙って話を聞いている。
「だから私はあなたのために人を傷つけます。あなたのために戦います。
あなたが願う正しい世界のために尽くす、あなたの『人形』になります。
だからお願いです。あなたが聖杯を手に入れられたら――その『お礼』として私にも使わせてください」
「約束しよう。君の願いが間違ったものでないのなら、自由に聖杯を使っていい」
こんなのただの欺瞞だ。やってることは何も変わらない。でもそれでいい。
正しいことのために戦うのだと、自分に嘘をつければそれだけずっと気持ちが楽になる。
幸いにしてのっこちゃんは自分を騙すことに慣れている。
犬養が手を差し出し、のっこちゃんはその手を握った。傷のせいで力は入らないが、それでも強い思いを込めて。
魔法少女のっこちゃんこと野々原紀子、エンペラーのサーヴァント犬養舜二と再契約。
【クラス】エンペラー
【真名】犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX
【属性】混沌・善
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX
【クラススキル】
君臨:A
王は表舞台に立つことを宿命付けられる。霊体化能力を失う。
かわりにサーヴァントとしての気配を完全に消し、マスターからもステータスを秘匿する。
サーヴァントであることを知っている相手には無効。
【保有スキル】
カリスマ:EX
人を指揮、統率する才能。ここまで来るともはや人望ではなく信仰である。
配下の者にスキル『殉教者の魂(ランクは個人差あり)』と同等の効果を与える。
話術:A
言論によって人を動かせる才
国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
多数の者に向けた演説において特に強い力を発揮する。
無我:A
生も、死も、運命も受け入れ、自分の役割を全うする無我の精神。
あらゆる精神干渉を高確率で無効化する。
【宝具】
ランク:EX 種別:運命宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
『神様のレシピ』
未来は神様のレシピによって決まるというエンペラーの理念が宝具となったもの。
世界を変える役割を持つ彼を運命が守護する。
彼を止める運命を持つ者、彼を超える運命力を持つ者に対しては無効になる。
【サーヴァントとしての願い】
世界を変える。
【人物背景】
自警団「グラスホッパー」の代表取締役。ユニセックスな容姿をしている美形。
型破りかつ強い意志を感じさせる言動で大衆からはカリスマ的人気を持つが、
裏では自身の望む街の改革に邪魔な存在を暴力で排除するという残忍な一面を持つ。
「未来は神様のレシピで決まる」という理念を持ち、自分は世界を変える役目をもっていると考え、運命をあるがままに受け入れようとしている。
【マスター】
野々原紀子@魔法少女育成計画
【能力・技能】
魔法少女『のっこちゃん』に変身できる。
魔法少女は人を超えた力を持ち、基本的に生理現象も存在しない。
それぞれ固有の魔法を持っておりのっこちゃんの場合は「自分の感情を周囲に伝播させる」
対象はおよそ半径二十メートル以内の全ての生物。
集中することで特定の人物だけを狙うような調節も可能だが、基本は垂れ流しになっている。
自分自身が本気で思わなければいけないが、のっこちゃんは欺瞞の達人である。
病気で入院している母親の面倒を見ながら一人で暮らしているため、生活に必要なことだひと通りできる。
【weapon】
魔法少女固有のアイテムとして丈夫なモップを持っている。
【マスターとしての願い】
お母さんの病気を治したい。生活のためのお金が欲しい。聖杯が本当に万能ならマジカルデイジーや@娘々達も生き返らせたい。
【人物背景】
眞鍋河第三小学校に通う小学四年生。十歳の子供だが魔法少女歴は六年のベテラン。
普段は魔法でクラスの雰囲気を良くしたり、病気のお母さんを元気づけたりしながら生活している。
病気の母親をおいて父親が逃げ出したあと、生活のお金を稼ぐために犯罪に加担していた過去がある。
そのことをネタに脅され、ゲームの死が現実の死に直結したあるゲームにおいて、他プレイヤーの最終目標である魔王を担うことになる。
他のプレイヤーを殺すことに迷いを覚えながら勝利を目指し、あと一歩のところで追い詰められた。
のっこちゃんを殺すことに躊躇するプレイヤー達に、クリア賞金の一部をお母さんに渡すよう頼み、自殺しようとしたところでこの街に連れて来られた。
【方針】
人心を掌握する。
最終更新:2015年05月02日 06:30