第四十七話 お前に殴らせてやる 投稿者:兄貴 投稿日:08/12/17-11:47 No.3769
「む~~~~、・・・う~~~~む・・・・」
会場近くの薄暗いラボ、ここで超鈴音は大会の映像とパソコンの画面両方を見ながら唸っていた。
「うわあ、凄いことになってますね~~、最早ネット上で魔法が全く相手にされてません・・・。美空さんの試合から気合の単語の嵐です・・・」
ハカセがむしろ感心したような声を上げる。当初気合という単語をシモンがネットに広めようとした時は、それほど脅威に思っていなかった。自分達のプログラムを信じていれば盛り上がりも一時的、直ぐに魔法の話題が復活すると思っていた。しかし一般参加者の興味はすでに気合に移っていた。
そもそも魔法とは世間一般から考えて、ひ弱な者が小さな杖から魔法を使う、というイメージである。ゲームにおいても魔法使いはそれほど熱血な部類には入らない。そのため美空やシモンの姿は魔法使いとはかけ離れていたため、魔法という言葉を人々は連想しなかった。
「う~~む、しかし刹那さんはどうネ? 彼女は魔法使いではないガ、翼を出したり雷を出したりで、到底気合と呼べる部類ではないネ」
先程の戦いにおいて刹那もそれなりの反響を呼んだ。人並み外れた力を持ちながら、美空とは違い気合と呼べるほど熱血の少女ではない。一種の期待を込めて超はハカセに尋ねる。しかし・・・
「あの・・・桜咲さんの力は・・・ネット上の意見によると・・・魔法でも・・・気合でもありません・・・・」
「なに!? では一体何カ?」
するとハカセは少し顔を赤らめた。人の心を科学に売ったマッドサイエンティストだが、この単語を口にすることの恥ずかしさはまだ残っていた。
「あの・・・あ・・・愛の力・・・だそうです・・・・」
「・・・・・・・・・は?」
さすがの超も固まってしまった。
「あ・・・愛? ・・・いや・・・たしかにシモンさんも愛がどうとか叫んでいた上に、刹那さん告白までしたガ・・・・・」
またもやここに来て予想外の事態に陥ってしまった。この学園祭を迎えるまでに、今日まであらゆる妨害に対応できるほどの準備をしてきた。特にこのネットによる世論の浸透は、魔法公開に欠かせない役割を秘めている。しかし自分の仕込んだプログラムがまったく意味も成さずに、気がつけば魔法という言葉が忘れられている。さすがの超も空いた口が塞がらなかった。
「す・・・スゴイですね~~、シモンさんの気合がオンラインで感染してます・・・魔法の単語を掲示板に打ち込んでも・・・」
ハカセがパソコンに単語を打ち込んでいく。すると・・・
「え~~、すぐレスが来ました・・・人の力は愛と気合が源・・・だそうです・・・。どうします?」
「ぬぬぬぬぬ~~~~、腑抜けた人間の多い現代社会でなぜ今更気合が普及するネ!?」
まるでお手上げといったような表情で画面を超に見せる。超も唸りながら考える。別にまだ手が無いわけではない、これはあくまで自分の計画のための下準備にしかすぎない。だが、だからこそ超も不安に駆られる。
シモンとの決戦は明日、言うなればこれはほんの前哨戦にしか過ぎないものである。しかし入念な準備を重ねて実行した自分の行動が、いとも簡単に追い詰められている。別にシモンをナメていたわけではない、彼女が見誤ったのは、美空を初め、観客や、ネット上でも蔓延するグレン団の影響力だった。
超は爪を噛みながら少し苛立っていた。だが、この状況がうれしくもあるという複雑な感情もあった。
「とりあえずネギ坊主とアルビレオ・イマの二人がまだ残っている。アルビレオはサウザンドマスターの仲間・・・ならばネギ坊主の経歴を公開して世論の関心を向けさせるネ・・・」
「わかりました。・・・でも・・・次の試合でシモンさんが勝ったら意味なくなっちゃいますよ?」
「それでも何もしないわけにもいかないネ」
超の少し弱気な姿だったが、ハカセは黙って頷き自分の仕事をしていく。
一方その頃、会場から少し離れた場所。会場へ繋がる通路の天井に、二人の女と一匹の小動物が片方の女の胸の谷間に座り込んでいた。
「誰も来ないわね~~~」
「ぶう~~~」
欠伸をしながら座り込むヨーコ、彼女はネギたちともシモンとも一緒に居ないで、少し会場から離れた場所にブータといた。
ヨーコがシモンたちと一緒に居ないのには大した理由など無い、別にシモンと顔が合わせづらい訳でもない。ただの何となくだった。ここらへんの自由奔放な性格は昔から変わっていなかった。
いつもシモン共に行動しているブータも、この時ばかりは一人でいなくなったヨーコが少し心配で、一人だけ彼女の後を追っていた。それはいらない心配だったのだが、今は彼女と共にこの場に残っていた。
そんな一人と一匹を見てもう一人の女がため息をつきながら口を開く。
「まあ、私は仕事が無い分楽でいいが・・・、それより・・・いつまでココに居る気だい?」
「別にい~いでしょ~、お互い一回戦敗退同士邪険にしないの」
「まったく・・・まあ、仕事の邪魔にならなければ・・・、しかし妙だな・・・本当に誰も来ない・・・」
龍宮は仕事が無さ過ぎることに少し首を傾げた。
龍宮の仕事はチケットを持たない者が進入することを防ぐ役割だった。それを指示したのは超。ネットで魔法を騒がせておけば、当然魔法先生たちの耳にも入る。会場は入るまで長蛇の列、しかもチケットは入手困難。魔法先生たちが会場に辿り付くとしたらこの道を通過するはずだった。しかし大会が終盤に差し掛かっても一向にその気配を感じられなかった。
だが彼女は知らなかった。すでに大会へのネット上での関心は魔法から気合に移っているということを。それゆえ魔法先生たちが目くじら立てて、ただでさえ人員が少ない上に、会場にはすでにタカミチやシャークティも居る場所に増員を送る理由など無かったのである。
それゆえ龍宮は完全に暇を持て余しており、唯一来たヨーコと談笑していたのである。
「まあ、いいじゃない、観客席は騒がしいけど、ココは特等席よ」
会場は人が多く少し騒がしかったうえに、この大会で自分にも多くのファンが付きまとい有名人になってしまったヨーコは、それから逃れるために当ても無くブラブラしていてココで龍宮と会った。
「たしかに・・・しかし刹那がシモンさんに負けるとはな・・・。まさかあの人があれほどとは・・・」
先程まで眺めていた戦いを思い出し、龍宮は少し意外そうに答えた。彼女は予選会でシモンの力量はある程度理解していた。しかし戦いの中で急激に進化していくシモンに脅威を感じていた。
「アイツはいつでもあんなもんよ。私としては刹那の告白のほうが印象的だったけどね~」
「ぶ~う」
ヨーコとブータは違った。なぜならそれがシモンなのだと骨身に染みて理解していたからである。むしろ彼女達にとっては進化しないシモンの方が有り得ないのである。
「あれが・・・当たり前・・・ふふ、超もとんでもない人達を敵にしたものだな・・・」
シモンのあの急激な進化を当たり前と言ってしまう目の前の女も、龍宮から見れば脅威に思えた。
龍宮も暇だったためヨーコとブータ遠ざけるようなことはしなかった。他愛の無い雑談をしながら時間を過ごしていく。しかしその時だった。
「むっ」
「ぶう?」
「誰か・・・相当の人数がここに向かってくるわね」
突如迫り来る複数の気配に三人が反応した。もし大会を妨害しようとする魔法先生が複数現れたのだとしたら少し面倒になりそうだった。しかし一瞬間を置いてすぐに龍宮は警戒を解いた。
「大丈夫だよ、彼女たちは主催者から通行許可されている子達だよ・・・」
「ん・・・あの子達って・・・たしかネギの・・・・」
気配の主を視認出来るようになり、ヨーコと龍宮はすぐに肩の力を抜いた。
気配の主は龍宮の顔見知りだった。それも当然、ほぼ毎日顔を合わしているものたちなのである。大会へ続く長蛇の列を避けて不法侵入しようとするものたちは、自分のクラスメート、つまりネギの生徒達であった。
「おっ、会場見えたよ」
「あ、ホントだ、よーし皆の衆・・・」
会場が近づき生徒達がお互い顔を見合わせ、本当に忍び込むつもりがあるのかどうか分からないほどの大声を一斉に上げる。
「「「「「ネギ君の試合を見るために、GO!!!!」」」」」
その姿に龍宮とヨーコは苦笑するしかなかった。
「ちょ・・・ちょちょちょっとお待ちなさーーい!! やはりクラス委員としてこのような不正は許すわけにはいきませんっ!!」
ここまで来てから今更の発言だった。完全なるネギ信者の委員長だが根はいたって真面目なため、ネギの試合の見たさと違法行為に心を板ばさみに合い、相当悩みながら言っている。しかしそれで退くネギの生徒達ではない。
「うんうん、委員長は真面目だね~、分かった、委員長の犠牲は無駄にしないよ!」
「その通り! ネギ君の試合は私達が責任を持って見ておくよ!」
「えっ・・・いえ・・・その・・・」
抜群のコンビで委員長を看破しようとするまき絵と裕奈。あくまで自分の言葉を逆らって試合を見に行こうとする彼女達に、委員長も再び悩んでしまった。
そんな彼女達のやり取りを見たヨーコは後ろから彼女達に声を掛けた。
「悪戯っ子がいるわね、先生に告げ口しちゃおうかしら?」
「えっ?」
「「「「あっ・・・ヨ・・・ヨーコさん!?」」」」
手を振りながら笑顔で彼女達に挨拶するヨーコ、それに連れられて龍宮も姿を現した。
「ヨーコさん・・・それに龍宮さんまで、何故こちらに?」
「ん~~、お祭りで悪さをしようとする子達を取り締まるためかしら?」
「え~~、そんな~~、見逃してくださいよ~~」
ヨーコは少し冗談めいた口調で言うが、彼女達は信じてしまい、ここまで来て帰らなければならないのかと一同に不満の声を上げるが。すぐに龍宮が訂正した。
「冗談だよ。3-Aのクラスの生徒には特別な許可が下りている。君達は特別待遇だ」
「と、まあそういうことよ。よかったわね♪」
その瞬間彼女達は一斉に花が咲いたような笑顔とガッツポーズをして盛り上がった。先程まで不正との板ばさみに合い苦しんでいた委員長も、そういうことならと一緒に手を上げて喜んだ。
「それならば話は早いですわ! 皆さん、さっそくネギ先生の応援に向かいますよ!!」
「「「「おーーう!!」」」」
懸念が解消された委員長は先頭に立ちクラスメートを先導して会場まで走って向かう。その後ろ姿をヨーコたちは苦笑しながら見送った。
そして彼女達が離れたのを見計らい口を開く。
「ネギ・・・次はシモンと・・・か・・・。ねえ、私達も行かない?」
その言葉を聞いて龍宮も少し悩んだ。自分が評価している二人の男がぶつかるのである。
「そうだね・・・、色々とあったが、ようやく魔法と気合がぶつかるからね・・・魔法側の人間として見るに越したことは無い」
龍宮も頷き、二人とブータは生徒達を追って会場へ向かう。この場を放棄してでも見る価値がある。仕事人である龍宮にもそれほどの期待が胸の中で広がっていた。
その頃、もう一つの準決勝が会場で繰り広げられていた。
楓とクウネル、両者共に桁外れの力を持った実力者のため、会場から期待の視線が注がれていた。
だが戦況は一方的なものであった。
強烈な爆音と共にリングに叩き付けられた楓。ボロボロになりながら彼女は呟く。
「・・・これは勝てる気がせぬでござるな」
常に戦いの時でものほほんとしている彼女らしからぬ後ろ向きな言葉である。しかし常に自分を見失わない彼女だからこそ力の差を理解していた。
戦況がこうなったのはたった一つの出来事が原因だった。当初は外野から見て互角の戦いを繰り広げているように見えたが、突如クウネルが出した一枚のカードによって全てが決まった。ネギたちにはそれが何なのか一瞬で理解できた。それはアーティファクトだった。そしてクウネルがアーティファクトを発動した瞬間、楓は、そしてそれを外から見ていたネギやアスナたちは驚愕の表情をした。
クウネルはフードを被っている為にその素顔を完全に見ることは出来ない、しかしアーティファクトを使用した時のクウネルは完全に別の人間の姿をしていた。そしてその姿の人間が楓を圧倒した。
その姿を見てネギは思わず口を漏らした「父さん・・・」と。クウネルの能力を知っているエヴァもその言葉を聞いて少し舌打ちをしていた。だがその能力の正体をエヴァも、そしてタカミチも話す気は無い様である。ゆえにネギの混乱だけが加速していった。
「・・・今のは・・・英雄とまで言われたというネギ坊主の・・・」
体をヨロヨロと起こし楓はクウネルに呟く。しかしクウネルはあいかわらずその口元の笑顔は崩さずに本心を悟らせないような表情だった。
「ふふふ、さあ、どうでしょう・・・」
「・・・なるほど・・・お主の目的が理解できたでござるよ・・・」
楓なりにクウネルの能力、そしてその目的を察したようだ。目的も分かり勝てる気のしない相手に彼女がこれ以上足掻く理由もない、
「あいわかった、拙者の負けでござる」
『おお~っと長瀬選手ギブアップ! しかし無理もありませんボロボロだ! これによりクウネル選手の決勝進出が決定ーっ!!』
勝敗は決した。終わってみればクウネルの圧勝だった。しかしそれでも楓の並外れた力への賞賛も大きく会場は大いに盛り上がっていた。
しかしその波に乗り切れない男がいた。
「クウネルさん・・・アナタはいったい・・・・」
今の戦いを間近で見ていたネギの肩は震えていた。思えば控え室でクウネルと初めて話をした時もそうだった。突如クウネルの声と雰囲気がとても懐かしいものへと変わった。そしてその正体が自分の中でどんどんと気になり始めた。
(お父さん・・・そんなバカな・・・でも・・・)
そんなネギの動揺をアスナたちも声を掛けられずに見ていた。彼女達もネギの心の不安が分からないでもなかったからである。すると今戦いを終えたばかりの傷だらけの楓がその足でネギに向かって歩いてきた。
「か・・・楓さん!? ・・・あ・・・あの・・・惜しかったですね。 それで・・・その・・・」
「はっはっはっ、落ち着くでござるよネギ坊主、拙者は大丈夫でござるから」
動揺するネギの頭を楓は軽く撫でる、そして
「クウネル殿から伝言でござる・・・決勝で待つ・・・と」
「!? ・・・・はい」
別の場所でも動揺が走っていた。戦いを観戦しながらパソコンを常にチェックしている千雨は再び盛り上がり出した話題に目を見開いていた。
「これは・・・どういうことだ・・・」
彼女が現在開いているページにはこう書かれている。「涙の過去話、噂の子供先生の生涯プロフィールと大会出場の理由」と書かれていた。
行方不明の父親を探すために日本へ、今回の大会の出場も25年前の同大会での優勝者が彼の父親だと書かれている。
「あのガキに・・・そんなことが・・・それに・・・」
そして千雨はもう一つの驚愕な情報に辿りついた。それはクウネルがネギの父親ではないかという情報である。
「おいおい・・・これが本当だとしたら・・・」
「俺が勝ったら非難される・・・かな?」
「!? ・・・ってうおっ!? シモンさん・・・いつからそこに?」
後ろからの声に振り返ると、そこにはパソコンの画面を首を伸ばして覗き込むシモンが居た。
「さっきから居たけど、随分集中してたみたいだからな、・・・そんなに衝撃な事実だったか?」
「ん・・・そりゃあまあ、・・・担任ですし・・・それに今では魔法や気合どころか先生の話題で今度はネットが溢れてますよ?」
千雨はそう言ってパソコンの画面をシモンに向ける、本当はネギの話に気になっていたのだが、素直な態度を見せずに、すぐに話題をシモンとの共同の話しに戻した。
「ったく・・・まあ、シモンさんもウチのクラスの奴に告白されたりと色々忙しそうですが・・・」
「ははは・・・まあ、その話は置いておこう・・・今はコッチだ」
画面を見せられシモンも少し考える。この話題をネギが自分で大々的に公表するわけは無い。公表するとすれば一人だけ、大会を盛り上げ、さらにシモンを勝ちにくい雰囲気にもっていこうとする人物。
「超・・・か・・・。まあ、これで次の試合から皆ネギを応援するんだろうな・・・」
顎に手を置きシモンは考える。だが、考えたところで答えは変わらない。たとえ非難の声が上がろうとも、シモンは常に自分の思ったとおりにしてきたのである。そもそもクウネルはネギの父親ではないのである。しかしそれでも妙な引っ掛かりがあった。
「あの・・・負けてやる気はないんですか? その・・・あのガキが親父と会えるかもしれないんですよ?」
千雨が少し不安そうに答えた。素直じゃない彼女だが、本心ではこの話が事実だとしたらネギの願いを叶えてあげたいという気持ちだった。その気持ちはシモンにもよく分かった。
「そうだな・・・それはネギと相談して決めるさ・・・拳を交えてな・・・」
「ちょっ・・・おいおい・・・アンタあのガキとマジでやり合うつもりか?」
「どうだろうな・・・本当にガキなら俺も無理をしなくていいんだが・・・、アイツはどうなんだろうな・・・」
シモンは空を見上げて呟いた。
この世界に来てネギと出会い、それなりに長い日々が経った。見守り、叱咤し、共に戦い、語り合い、顔面を殴り飛ばした時もあった。そんな少年の追い求めていたものがシモンの戦いの先にあるかもしれない。
「舞い上がってるかもなアイツは。・・・今頃動揺しまくって俺のことは眼中に無いんじゃないかな?」
もしそうだとしても気持ちが分からないでもなかった。どれほど大人ぶろうともシモンから見ればやはりネギは子供、そうなっても仕方のないことだった。
「でもクウネルさんのことを抜きにしても・・・もう時間がないからな」
この大会が終わればいよいよ超との決戦が始まる。その時はネギたちとは別行動になる。そして超のことに対してネギがどう動くのか、その答えはネギたち自身に委ねた。その時ネギがどんな答えを出そうが、道に迷おうが自分は何もしない、その時ネギを助けるのはアスナたちの仕事だからである。
つまりシモンがネギに対して言うことがあるすれば、これが最後の機会なのである。
「ならこれで最後だ・・・俺がアイツに出来ることは・・・」
ネギとの初めての出会いは森の中、泣きながら俯くネギの姿にかつての自分を重ねた。かつて自分が奮い立たされたカミナの言葉の数々をシモンはネギに送った。だが、それはいつまでも続いた日々ではない。カミナは死んだ、その瞬間からシモンは自身の力で立ち上がるしかなかった。
ネギも同じである。いつまでもシモンが側にいるわけにも行かない、そろそろネギも自身の力で己の信念を貫かねばならないとシモンは思った。だからこれを最後にしようと思った。
「シモンさん・・・アンタ・・・・なにをする気だよ」
「心配しなくていいよ、ネギがガキで居るのか・・・それとも男になるのか・・・お前はそれをしっかり見ていろよ」
『さあて、いよいよ武道会も残すところあと二試合!! 準決勝第二試合を開始します!!』
「・・・さて・・・行って来るか・・・」
「あっ・・・おい・・・」
大会のアナウンスを聞き、シモンは千雨に背を向けリングへ向かおうとした。だが急に何かを思い出し立ち止まった。
「そうだ・・・長谷川・・・」
「ん? なんですか?」
「色々と協力ありがとうな、お前のおかげで助かったよ」
「なっ・・・あっ・・・いやまあ、別にかまいませんけど・・・」
シモンの素直なお礼に、人の感謝に慣れない千雨は少し顔を赤くして両手をパタパタさせた。するとシモンは急に真剣な表情になった。
「それで最後に頼みたいことがあるんだ・・・聞いてもらえるかな?」
「・・・・何をです?」
シモンの言葉から何か重要なものを感じ取り、千雨も真面目な顔になって聞いた。
「次の試合・・・俺が勝っても負けても試合が終わったらこの大会の掲示板に、この言葉を打ち込んで欲しい・・・それが・・・俺の最後の頼みだ」
千雨はゴクリと唾を飲み込み聞く。・・・だが・・・シモンの言葉を聞いて一瞬呆けてしまった。シモンの言葉は真剣なのだが、あまりにも意味不明な言葉に訳が分からず呆然としてしまった。
そんな千雨にシモンは「じゃあ頼んだぞ」と笑顔で別れを告げてこの場を後にした。
試合前の選手控え室、しかし大会の試合もほぼ消化し、既にここを使用する者もいない、ネギは思う存分瞑想して気分を落ち着かせようとした。だが、それでも彼は集中しきれていなかった。
「父さん・・・楓さんとの戦いも・・・それに僕に話しかけてきた時の声も間違いなく父さんだった・・・」
集中しきれない原因は一つしかない、しかしそれが分かっていてもどうしようもなかった。
「ネギ君大丈夫なんかな~?」
「やはり先程の試合が気がかりのようですね・・・」
部屋を覗きながら木乃香と刹那が口を開く。他のものも口に出さないが同じ気持ちのようだ。
だがエヴァとタカミチは違った。
(アルのアーティファクト・・・たしかにアレを使えばぼーやはナギと会うことが出来るだろう・・・時間限定だがな・・・しかし今のままではそこまで辿り着けないぞ・・・)
(ネギ君・・・次はシモン君じゃないのか? 彼は彼で君の目指したもう一人の男じゃないのかい? 今のままで彼と戦う気なのかい?)
考え方は違うが思いは一緒だった。クウネルの力は幻術と少し似たようなものである。それゆえ、限りなく本物に近くても本物ではない。しかしシモンは違う。間違うことなく本物である。しかし今のネギは父の幻影を追い求める余り、現実にいるシモンを考えることが出来なかった。
不安そうにネギを皆が眺める中、勢いよく扉を開けてネギにズカズカと歩み寄る少女がいた。
「えっ・・・あっ・・・アスナさん・・」
「何やってんのよ、もう名前呼ばれたわよ。・・・次・・・シモンさんとでしょ・・・」
アスナに言われてようやく気付いたネギはハッとした。
「そ・・・そうでした・・・マスターに勝った刹那さん・・・その刹那さんに勝った人です・・・「何言ってんのよっ!?」」
アスナは急に声を張り上げてネギの胸倉を掴み上げた。
「アンタ・・・どうしてか分からないけど・・・私は刹那さんたちと違って戦いのことで口を挟めないけど・・・アンタ・・・今のままで勝てるの?」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよバカネギ! アンタがお父さん以外に憧れた人と今から戦うのよ? 高畑先生の時のような目はどうしたのよ!?」
アスナの声が控え室に響く。こういう時にまだうまいことを言うことが出来ない。しかしシモンは道に迷ったネギを助けるのはアスナの役目だと言った。だからアスナは今のままネギを送り出すことは出来なかった。
そしてその想いは十分に伝わった。
(そうだ・・・次はシモンさんが相手じゃないか! 僕は・・・初めて会ったあの日からあの人の背中を見てきた・・・それなのに・・・)
自分の父とは違って、己の目の前にその姿を現し、常にその魂を熱く振るっていた男。ネギはいつしか憧れ、この男に笑われないようになりたい。そう心に誓っていた。
絶望の時に、何度も自分達に魂を吹き込んでくれた男。その男を前にして自分は今何を考えているんだとネギは後悔した。
「アスナさん・・・その・・・」
「決勝に行けば分かるんでしょ・・・だったら今は考えてないで・・・あの人と戦ってきなさいよ、そうじゃなきゃ・・・ガッカリされるわよ・・・」
アスナはそう言ってネギの胸倉を離した。ネギは少し俯きながら考えているような様子だったが、直ぐに顔を上げた。
「アスナさん・・・そうでした・・・僕・・・なんてことを・・・次は・・次はあのシモンさんなのに・・・」
「いいわよ・・・ったく」
今目の前にいる自分のパートナー、そのストレートな叱咤が身に染みた。その様子を見て少し安心した面々が部屋に入ってくる。
「ネギ先生、シモンさんは試合中にも強くなっていきます。強敵ですよ」
「刹那さん・・・・」
「まあ、兄貴に気合負けしないようにね♪」
「美空さん・・・・」
一人一人がネギの肩を叩き声援を送る。シャークティや美空やココネ、木乃香たちもシモンに対する想いがあるが、今はネギに激励の言葉を贈る。その一つ一つが心に響き、ネギ自身、ようやく心が落ち着いてきた。
「ネギ君・・・」
「・・・タカミチ・・・・」
そして最後にタカミチがニッコリ笑ってネギの頭を撫でる。
「この戦いに勝利すれば・・・少し形が違うかもしれないが君の望む物がある。その最後に立ちはだかる壁に・・・おもいっきり、ぶつかってみなさい」
「うん!!」
ネギはローブを翻し、魔法の杖を抱えて皆に背を向け、男の待つリングへと向かって行った。最後にはこの場にいる全てのものに激励を貰い、一層気持ちが高ぶる感じがした。
『さあ、まほら武道会も残すところ後2試合になりました!! 決勝進出をかけた最後の戦いはこの二人です!!』
大詰めを迎えた大会で、もっとも大会の盛り上げに貢献した二人の選手がリングに現れた。
『一回戦でデスメガネと大熱戦を繰り広げ、2回戦ではニューヒーロー、神速の美空を倒した脅威の子供先生、ネギ選手!!』
途端に黄色い大歓声が巻き起こる。
「とうとう来た~~、ネギく~~ん!!」
「んまあああ、なんと凛々しい!! ネギ先生! わたくし感動ですわ!!」
「い・・いいんちょ達が来てるわ・・・」
「ほんまや・・・いつのまに・・・」
大いに盛り上がる3-Aのクラスメート、この広い学園祭の一つのイベントにしか過ぎないこの大会に、すでにほとんどの3-Aの生徒達が集結していた。そのことにネギも礼儀正しく深々と頭を下げると、そのかわいらしい姿に別の女生徒からも歓声が飛んだ。
『超絶人気に伴う実力を持ったネギ選手、立ちはだかるのはこちらもニューヒーロー、どんな壁をも突き破るシモン選手!!』
ネギに対してシモンには野太い男の声が上がる。
「「「「うおおおお、ア~ニ~キ~!!」」」」
<この豪徳寺、アンタを待ってたぜ! シモンさんよぉ!!>
「ネ・・・ネギとはエライ違いね・・・」
「そ、そうですね・・・」
女生徒に大人気なネギに対してシモンは男達に人気があった。うれしいかどうか微妙だったが、シモンも拳を突き上げて歓声に応え、再び会場が盛り上がり出した。
「へ~、大した人気ね~。でも・・・どんな形で勝負が決まるのかしら・・・」
そう言ったのは委員長達とこの戦いを見物する、この超絶な人気を誇る二人のうち片方から告白され、片方には穂のかに想われている、ある意味最強の女が口を開く。彼女は彼女で戦いの行方を気になっていた。
「アナタはどう見るんだい?」
「どうかしらね~、シモンに負けて欲しくないけど、ネギにも勝たせてあげたいしね~」
龍宮は腕を組みながら隣にいるヨーコに尋ねる。それに連れられて他の生徒達もヨーコに注目する。だがヨーコはそれほど深く考えずに言う。
「モチロン勝つのはネギ君!! いけーネギ君!!」
「ネギ先生! 我々も応援しますわ! 是非ともシモンさんを倒し、栄冠を勝ち取ってください!!」
「・・・となれば私達の出番!!」
「よっし、それじゃあチアリーダーの名にかけて・・いや・・・3-Aのクラスメイトの名にかけて・・・・」
「「「「ネギ先生を応援よ!!」」」
チアリーダー三人組の桜子たちを先頭に、クラスの生徒達が一丸となりネギに声援を送っていく。遠くはなれた場所でその様子を眺めるアスナたちも苦笑して、改めてネギの人気を理解した感じがした。
そしてシモンとネギ、両者がそれぞれの場所に立った。
『会場が二つにハッキリ分かれて応援していますが、勝者は一人!! では・・・いきます・・・Fight!!』
戦いのゴングが鳴り響き、ネギとシモンの初めての決戦が始まった。
向かい合う二人の男。年の差は実に倍は離れている。そんな大人と子供が今から戦おうとしている。それは道徳的に問題があるが、そのことを問う人間は今いない。シモンもネギもそれぞれの想いを抱えて今ここに居る。
(シモンさん・・・アナタに憧れていました・・・。戦うことが出来て光栄です。・・・だからこそ・・・)
ネギはシモンに向かって指を指し、己の決意をぶつける。
「全力でいきます、シモンさん!!」
その子供ながら勇敢な姿勢に観客は大盛り上がりである。委員長辺りも大声を上げている。
だが、今のシモンは珍しく静かな反応だった。いつものシモンならここから言い合いが始まって、少しやかましいが熱い戦いが始まる。しかし今のシモンは違った。ネギの宣誓に対してあまり反応を示さなかった。その様子にネギやアスナたちも何か異変を感じた。
それは当然だった。今のシモンはタカミチと同じような気持ちだったのである。初めて会ったときは未熟だった少年が今目の前に居る。それは少し妙な感覚だった。
(これがちょっとした・・・親心って奴なのかもな・・・心がなんだか温かいや・・・)
だがそれでも戦わなければならない。明日にはもうこの少年と道を違えるかもしれないのである。ネギに兄貴面して言葉を送るのは最後になるかもしれない、だから・・・
「ああ・・・そうだな」
それだけを告げシモンは前を向いた。構える少年の前に立ち、その顔を睨みつける。まだまだ発展途上だが、自分と同じように成長していく少年。その力の底はまだ分からない。
そんなネギに対してシモンが最初にとった行動は会場中を驚愕させたのであった。
シモンの最初にとった行動は・・・それは逆に動かないことだった。
「・・・シモン・・さん?」
これまでは開始と同時に初回から果敢に攻撃を仕掛けていたシモンが動かない、これはネギにとっても予想外だった。ネギは自分が先に動いていいのかどうか少し悩んでいたら、シモンはとんでもないことを言い出した。
「ネギ・・・お前に殴らせてやる」
「えっ!?」
「「「「「!?」」」」」
腕を組み仁王立ちするシモン。その突然の言葉に全員が動揺し始める。しかしこれは何の戦術でも罠でもない、シモンのただの思い付きだった。
「高畑さん、それにウチの美空・・・この大会を経てお前も強くなったんだろ? だったらその全力を今見せてくれないか?」
「ええっっ? シモンさん・・・一体何を・・・た・・・戦わないんですか?」
シモンの真意が分からずに混乱するネギに、シモンはニッと笑い口を開く。
「覚えているか? 初めてお前と会った日を・・・」
ネギは黙ってコクリと頷く。それは忘れることなど不可能な、自分にとっての運命の日と言えるものだった。
「あの時、情けない面で下を向いて歩いていたボウズに俺は昔の自分と重ねた・・・。そのボウズの今の全力を俺に見せてみろよ!! 腹でも顔でも構わない、最強の一撃を打ち込んで来い!!」
シモンは叫び螺旋力を身に纏い始めた。力強く、何処までも大きな光だった。
「シモンさん・・・でも・・・」
「来ないのか? うまくいけばその一撃で俺を倒せるかもしれないぜ? そうすれば一気に決勝進出だ」
「!?」
決勝、その言葉にネギは大きく反応した。考えないようにしていたがやはり気になり始めた。
「・・・・分かりました・・・なら・・・遠慮なく行かせて貰います!!」
少し考えたがネギは誘いに乗った。拳を握り締め魔力を練る。ネギの今の最強技、それは拳に魔力を纏った桜花崩拳、あのタカミチを倒した技である。これが直撃すればいくらシモンでも立っていられる訳がないとネギは思っていた。だが、それを簡単に覆すのもシモンであるというのも理解している。
「シモンさん・・・これが当たればアナタでも保障できませんよ? それでも・・・いいんですか?」
シモンの螺旋力に負けぬほどの光がネギの拳に集中していく。だが、シモンは汗一つ流さずに笑う。
「俺を誰だと思っている?」
「わかりました、では行きます!!」
シモンは組んでいた腕を崩し、何も構えずにネギの前に立つ。ネギはシモンの一言を聞いて決心した。
「ちょっ・・・シモンさん何考えてんのよ!?」
「そ・・・そうです、高畑先生を倒した技を・・・正面から受けるつもりなのですか?」
シモンの行動が分からないのは彼女達も同じだった。アスナと刹那の声に皆頷く。その答えは誰にも分からない、だがシャークティは少しだけ何か分かった。
「多分・・・何も考えていないでしょう・・・純粋にネギ先生の力を知りたいだけかも知れません・・・・」
「バカな、いくらシモンでもぼーやの技を受ければ・・・・」
「たしかに・・・直接喰らった僕も・・・これはバカな考えだと思う・・・」
だがシャークティは首を横に振り、シモンを見つめた。彼女には分かっている、シモンの考えを予測するのは至難の業、仮に答えが分かったとしても他愛のないことかもしれない。・・・だが・・・
「まあ、見てみましょう。考えなしのバカな行動も・・・シモンさんの場合必ずどこかに繋がるものだと思います」
その瞬間リング上に居たネギがシモンに向かって走り出した。手加減などない全力の一撃を、狙いを定めて打ち抜く。
「これが僕の全力です! 桜花崩拳!!」
大量の風が吹き荒れる。だがその時だった、不動のシモンの口元が微かに動く。シモンは顔色一つ変えずに小さく呟く。
「・・・それじゃあ俺には響かないぜ・・・ネギ」
シモンの呟きはネギには聞こえない。ただその全力の一撃をシモンの腹にぶつけ、強烈な爆音と水しぶきで会場全体を覆った。
『衝撃波が吹き荒れる~~~!? 最早定番となったこの展開! しかしこれを受けるのは無謀だ~~! シモン選手は生きているかっ!?』
(手ごたえあり! 完全に入った)
ネギは拳に残る感触を確かめた。自身でも文句のつけようがないぐらいの一撃だった。
だが・・・会場を覆う埃と水しぶきの中、シモンの声がした。
「これがお前の全力か?」
「!?」
それは何の変哲もない声だった。だが、それゆえネギには信じられなかった。自分の一撃は間違いなく直撃したはずである。無傷など有り得なかった。だが埃が晴れて視界が明るくなったとき、ネギは、そしてエヴァやタカミチたちも信じられないものを見た。
「そ・・・そんな!?」
「ば・・・・バカな!?」
「あっ・・・有り得ない!」
『シ・・・シモン選手健在だ~~!? あのデスメガネを葬ったネギ選手の一撃にノーダメージです!!』
微動だにせずそこに立つシモンの姿を確認し、会場全体がざわめき出す。だが、今もっとも混乱しているのは他ならぬネギ自身だった。
(そ・・・そんな!? い・・・いくらシモンさんでも・・・これをまともに受けて・・・)
ネギは自分の力に自惚れたりはしない、しかし僅かながらの自信はあった。修行中の身の自分が考えた程度の技かもしれないが、タカミチに勝利した力を受けてまったくの無傷など信じられなかったのである。
(こ・・・これがシモンさん・・・僕は今まで何を見ていたんだ!?)
強くなったと調子に乗っていた自分が恥ずかしかった。シモンから見れば自分など道端の小石にしか見えない存在なのだと感じてしまった。
「シモンさん・・・あの・・・」
未だに身動きしないシモンをネギは見る。シモンを失望させたのかもしれない。なんと声を掛ければいいか分からなかった。
だが事態は一変する。
「シモンさん・・・・・ん?・・・?」
ネギは何かに気付いた。会場を覆っていた埃が晴れてシモンが完全に姿を現した。だが・・・・
「お・・・・おう、・・・・うっ・・・・ぐっ・・・」
シモンは唸っていた。その肩は小刻みに揺れて、額には汗をかいている。そしてネギに殴られた腹は真っ赤に腫れ上がっていた。
「あ・・・・あれ?」
『こ・・・これは・・・シモン選手・・・一体?・・・』
他の者も異変に気付いた。明らかにおかしいシモンの様子。するとシモンは突然そのままリングに倒れこんだ。
「えっ? ちょっ・・・シモンさん、どうしたんですか!?」
突然倒れたシモンにネギが慌てて駆け寄った。するとシモンは震える唇で・・・
「い・・・いっ・・・痛てえ・・・・・」
「・・・・・・・えっ?」
「「「「「「「「・・・・・・・・・はっ?」」」」」」」」
より一層混乱が深まった。倒れて悶えるシモン・・・その姿に呆気にとられてしまい、そして・・・
「「「「「「な・・・・なんだそりゃーーーーーっ!?」」」」」」
どちらのファンだとかそんなのは関係なかった。一瞬静まり返った会場は全員一丸となり驚愕の声を上げてしまった。
『シ・・・シモン選手・・・ただのやせ我慢だった~~~!? しかし耐え切れず沈没!』
「なにやってんのよ、シモンさん!?」
「あなたは一体何がやりたいんですか!?」
「シャークティよ・・・シモンの奴は・・・」
「何も言わないで下さい・・・・」
余りにも馬鹿げた展開にシモンの友もシャークティたちも頭を抱えてしまった。まだ自分達ではシモンの考えを理解できないのだと感じてしまった。
『ええ~~と・・・とりあえず・・・カウントを取ります。1・・・2・・・3・・・』
シモンの真横で朝倉が呆れたままカウントを取り始めた。だがそれが全て言い終わる前に、シモンがヨロヨロと立ち上がった。
「くっ・・・はあ、はあ、はあ・・・」
悶絶するような一撃を喰らい、すでに大ダメージのシモン。だがそれでも精一杯自分の体に鞭を打ち、歯を食いしばりながら起き上がる。
『おっと、シモン選手・・・シモン選手立った~! 凄い執念です!!』
さすがにあのまま終わればカッコ悪すぎた。ボロボロだろうと立ち上がったシモンに観客は苦笑しながら拍手を送る。だがシモンの体調は悪そうである。
(な・・・なんて威力だ!? これが十歳のガキの力か? ・・・本当にすごいや。・・・これが魔法の力・・・。だけど・・・)
腹を撫でながらシモンは目の前の少年を見る。十以上も離れた少年の力を受け止めながら。
「うっ・・・げほっ、げほっ」
呼吸が整わないシモン。さすがにネギもこのまま追撃することも出来ずにシモンを心配そうに見つめる。
「あの・・・大丈夫ですか?」
するとシモンは口元に笑顔を浮かべて答える。
「痛いよ・・・確かに痛い・・・内臓が全部ぶっとびそうなぐらい痛かった・・・すごい力だよ・・・ネギ・・・大したもんだよ・・・」
「あ・・・その・・・ありがとうございます」
素直な賞賛にネギは少し戸惑いながらお礼を言った。だが、シモンの笑顔が急に真剣な表情になる。
「・・・でも・・・それだけだ・・・。・・・まだ・・・負ける気がしない・・・」
「えっ?」
「たとえ骨が何本折れようとも・・・、これじゃあ俺の心は・・・」
シモンが両拳をグッと握り締め唸り、雄たけびを上げる。
「俺の心は・・・決して折れない!!」
「――っ!?」
走り出したシモン、その力強く握り締めた拳をネギに振るう。ネギも咄嗟にガードをしたが、何の変哲もないパンチの威力に押されて後方まで飛ばされる。
『た・・・立ち上がったシモン選手の反撃だ!! 子供先生ふっとばされる!!』
「ネギく~~~ん!?」
「なななな、なんてことを!? シモンさんに一体何の権限があってネギ先生にあのようなことをっーー!!」
会場に悲鳴が響き渡る。だがシモンはそんな声など気にしない。殴り飛ばされたネギに向かって指を指す。
「お前の力は見せてもらった・・・今度は・・・俺の番だ!」
気を落ち着かせるシモン。それでも傷の痛みが響くが関係ない。
「いくぜ、ボウズ! 今からグレン団の力、見せてやるぜぇ!!」
ネギは自分の全身の毛が逆立つような感覚だった。シモンの叫びだけで圧倒されてしまうような気がした。
自分の一撃は間違いなくシモンに大ダメージを与えたはずである。しかしシモンの戦意にはヒビ一つ入っていなかった。
だが感心している場合ではない。タカミチが言っていた、最後の壁に思いっきりぶつかれと。その壁は容易ではない、だが、負けるわけにもいかなかった。
向かってくるシモンにネギは真っ向から立ち向かう。
「ならば僕は・・・アナタを超えていく!!」
ネギは立ち上がり、己の拳と魔法使いの杖を持ち向かっていく。シモンも拳とブーメランを手に持った。
今、二人の男が初めてぶつかり合った。
後書き。
え~、こんな所まで読んで頂きありがとうございます。
いよいよ武道大会も終わりが近づいてきましたが・・・長い・・・その気持ちでいっぱいです。学園祭はまだ続くのに、これだけで十話以上掛かるとは予想外でした。元々は美空の覚醒、そしてヨーコとシモンの戦いを書ければ満足だったため、原作にある戦いは少しカットしていますが、それでも長かった・・・・。
しかし皆様からの感想に支えられて、何とかここまで来れました。ありがとうございます。
最近は本編でのアスナの正体が気になって仕方ありません。その事実しだいでは本編の読み方がガラリと変わるかもしれません。しかし中々出てこない上に、このSSでの武道大会に行き詰まりしていたので、正直ネギま離れしてきたので最近書く気力が無くなっていたのですが、不意にグレンラガンの11話、そして最終回の口上シーン、そして主題歌と挿入歌を見たら俄然とやる気が出てきました。
あれはある意味魔法だと最近思いました。
まだ当分続くので、よろしくお願いします。
最終更新:2011年05月10日 15:01