第五十七話 さあ、そこを通してもらうぜ!! 投稿者:兄貴 投稿日:09/02/04-15:51 No.3830
『さあて、混乱が起こる大激戦!! この戦いの流れは最早この私にも理解できません!! 誰が味方で敵かは分からない! だからこそ、己の目で敵と味方を判断して戦ってください!! それと湖のウルトラヘビー級対決は危険です! 湖にいる生徒は逸早く退散してください!!』
大混乱する麻帆良大戦。その戦いはある程度の事情を知る朝倉でも、もはや収拾がつかないほどの混乱と化していた。
しかしその状況をお構いなしに、混乱の元凶はその持てる力をこれ見よがしに振るっていた。
「そこを通せ、茶々丸!!」
魔道グレンの繰り出す拳、それをグレンラガンモドキは正面から掴み取った。
『そうはさせません』
魔道グレンの拳を掴んだままグレンラガンモドキは余った腕で殴りかかる、しかし今度は魔道グレンもその拳を掴みとった。
互いの拳を掴み合い、両者は一歩も引かない。
周りを気にせぬその戦いに危険を感じ取った湖畔に待機していた生徒達は慌ててその場から離れ出す。
「ちょっと~、これもイベントなの!?」
「分んないわよ、それにシモンさんが戦ってるほうのロボット、茶々丸さんの声がしたよ」
「ええ~~? じゃあシモンさんと茶々丸さんが戦ってるの?」
クラスメートと知り合いが巨大ロボット越しに戦っている。
美砂、円、桜子の三人もいつしかイベントを忘れてその戦いに見入っていた。
「でもよー、結局どっちが味方なんだ? あの兄さんはヒーローユニットと戦ってたけど、もう片方のロボットも味方に見えねえよ」
他の参加者の生徒達も、この状況にどう動いていいのか分らなかった。
仮に動いたとしてもどうしようもない。
なぜなら両者の戦いには素人が使える魔法具などではどうしようもないほどのレベルだったからである。
『魔法光弾射出!!』
掴みあっていた腕を離し、グレンラガンモドキは距離を取った。そして胴体のグレン部分の口を開き、光の光線を放つ。
これは脱げビームなどではない正真正銘のレ-ザー砲である。
「させるかァ! 超螺旋フィールド!!」
シモンも螺旋力を込め、魔道グレンに流す。そして魔道グレンが緑色の光に包まれて、レーザー砲をかき消した。
「はあ、はあ、はあ・・・・」
だがリスクはあった。
これだけの巨大な質量にフィールドを張ったのだ。流石のシモンも少しだけ息が上がり、膝をついた。
だが茶々丸は待ってはくれない。
『流石です。ですが、あなた相手に手は抜きません』
少し疲れたシモンに向かって茶々丸は容赦なくグレンラガンモドキを真っ直ぐ走らせる。
それを見てシモンも疲れた体を無理やり起こし、拳を突き出す。
今度は両者の拳がぶつかりあい、巨大な威力に湖に波という波紋が広がった。
「ぐっ!?」
衝撃をコクピットの中ではなく魔道グレンの頭上で受けるシモンは思わずバランスを崩す。
その隙に茶々丸はグレンラガンモドキを巧みに操作し、強烈な蹴りを叩き込み、魔道グレンを水上に二回三回転させて吹っ飛ばした。
巨大な水しぶきが上がるものの、巨大な学園をその水で包むことは無い。学園にとっては湖などほんの一部分のエリアでしかない。
それが今では学園中のいたるところで戦いが繰り広げられているのである。
「影分身の術」
「うおっ、一体アンタは何人姉妹なんだよー!?」
その身を実態と同じに分身させる高等忍術を楓は繰り出す。その数は十を超えている。美空相手に楓が本気である証拠だ。
分身した全てが本物に近い代物である。本体を見極めることは不可能だった。
だが美空にそんな必要はない。
「舐めんなよ~~、こっちも全開だよ! いくよ、ココネ!!」
「コクッ」
ココネが肩車された状態で魔力を流し始めた。
そして強化された美空は分身した楓に勇猛に立ち向かい、お得意の蹴りを分身たちに炸裂させる。
「むっ!?」
一体、二体、続けて美空の蹴りに分身が消滅していく。流石に多重に分身すれば密度も薄く、美空の強烈な蹴りの前には敵うはずも無い。
美空に本体を叩くという戦法はない。分身全員を倒すという、単純かつ確実な戦法を選んだ。
「やるでござるな!」
笑みを浮かべて分身体の数人が手裏剣とクナイを取り出し美空に投げつける。
一斉に襲い掛かる飛び道具で足を狙うか、牽制しようという作戦かは分らない。
だが、今の彼女にはどちらも通用しない。
「ふふん、誰かが言っていた! 触れもしないスピードに、どんな力も通用しないよ!!」
高速で縦横無尽に駆け回る美空には何を投げても当たることはない。
「ほら、三体目ー、四体目ー! ほらほら、どんどんいくよ!!」
美空は次々と楓の分身体を蹴散らしていく。
流石の楓も少しだけ背中に汗を掻いた。
「強い・・・武道会のときよりも更に・・・」
予想を上回る敵の強さに楓もかなり驚いた。だが、裏の世界で美空よりも長い期間戦ってきた彼女の力も経験値もこんなものではない。
「ふふ、まだまだこれからでござるよ」
少し驚いた頭を冷静にさせ、楓は美空に向かっていく。
別の場所では銃声が永遠と鳴り響いていた。
その銃弾の雨を掻い潜るのはヨーコだった。
「これは跳弾!?」
龍宮の放つ銃は一発当たれば退場という特殊弾。さらに攻撃範囲も広い。掠る事すら許されないうえに龍宮に比べてヨーコはでかいライフルをもったまま交わさなければならない。
そのうえ龍宮の壁や障害物に当てて弾丸の方向を操作する技術にも舌を巻いた。
「やるわね!」
だがヨーコも負けてはいなかった。ヨーコは自分に向かってくる特殊弾目掛けて十分な距離を保ったまま撃ち抜いた。
「粘るじゃないか。だが一発の威力はそちらが上でもこちらは機動力と連射で勝っている。時間の問題だね」
龍宮の言うとおり、物量攻撃ならば二丁拳銃の龍宮の方が勝っている。
さらに長らく実践から離れ、しかも対人間相手との戦いは滅多にしていなかったヨーコには射撃の腕を含め、既に戦士として完成されている龍宮の力は想像以上だった。
「ふう、息もつかせぬ攻撃ね・・・おまけにあの子、冷静すぎて動きが読めないわね・・・」
建物の物陰に隠れながらヨーコは龍宮の位置を探る。
一方龍宮も油断はしていない。正面から出て行くなどと間抜けな真似はしない。龍宮もまたヨーコを警戒して建物の陰からヨーコの出方を探っている。
すると数発の大きな銃声と何かが崩れる音がした。
この音はヨーコの電動ライフルの音である。
だが龍宮には当たっていない。
「一体どこを狙って・・・」
物陰からヨーコの様子を見ようとした瞬間、龍宮の頭上から気配がした。
慌てて見上げると崩れた建物の破片が頭上に落ちてきている。
「なにっ!?」
慌てて龍宮は体を回転させて物陰から外に飛び出した。
そう、ヨーコは龍宮ではなく近くにあった建物を狙っていた。そしてまんまと出てきた龍宮に向けてヨーコは狙いを定める。
「いただき!」
「させないよ!」
龍宮も両手に持つ銃ですぐさま応戦した。
すると龍宮の特殊弾とヨーコの弾丸がぶつかり中央で誘爆し合い、両者の間に特殊弾の黒い渦が巻き上がり二人の視界を遮った。
そして数秒後に黒い渦が消えて両者の視界が空けたと思った瞬間、両者は既に移動していた。
そして再び二人共別々の物陰に隠れ、互いの様子を探り合っている。
「さすがだね・・・実践慣れしている・・・」
「あの子の持っている弾丸はたしかに脅威だけど、物理攻撃は出来ないみたいね・・・。でも掠ったら負け・・・。長引きそうね・・・」
互いの力を認識し合い二人のガンウーマンの熱も徐々に上がっていった。
そしてその近くでも二人の女の争いが激化していた。
黒いシスター服を着た女にジャージを来た女性が剣を振りまわして襲い掛かる。実に異様な光景だった。
「斬岩剣!!」
「風障壁!!」
振り下ろされる剣をシャークティはロザリオを媒体にして強力な障壁を張って防ぐ。
だが攻撃を防がれても刀子の剣気は止まらない。
「少し落ち着いたらどうです!」
「ふっふっふっ、落ち着く? 無理に決まってるじゃないですか!!」
必死に宥めようとするシャークティに向かって狂気と化した刀子は止まる様子はない。たとえ同僚の教師といえども、今の彼女にまったく気遣いはなかった。
今の彼女はシモンに全裸にされた怒りから、シモンに関わる全てを斬り捨てるまで止まることはない。
それはシモンと共に行動しているシャークティも例外ではなかった。
「あんな男を大した取調べもせずにこの学園にいつまでも置いていたのが間違いだったんですよ!!」
「なっ!?」
「今回もよくわかりませんが、彼と超鈴音が原因なのでしょう? だったら当然のことです!!」
攻撃重視の接近戦はシャークティには不利な分野だった。しかも相手は一流の剣士である。シャークティの劣勢は明らかだった。
だが、
「違います!! 間違いなどではありません!!」
彼女は退かなかった。
「なんですって?」
思わず怒りの顔に更にピキッと音を立てて血管が浮き上がる刀子。しかしシャークティは強い瞳で返した。
「私は・・・私達は・・・彼に出会えてよかったです!! だから・・・彼の下へは行かせません!!」
「いい度胸です! なら、容赦なく斬って差し上げましょう!!」
女達の戦いは止まらない。
戦う理由はそれぞれだが、誰もが一歩も引く気は無い。容赦ない攻撃をお互いに交わしながら、それぞれの想いを乗せてぶつかり合っている。
「ぐううう、・・・くそっ!」
湖の上で体勢を立て直すシモンだが、茶々丸の猛攻は止まらない。
巨大な拳、蹴り、実に慣れた操縦である。
いかにシモンがガンメン乗りの凄腕といってもやはり勝手が違い、茶々丸の攻撃を防ぐのがやっとだった。
「くっ、メカならなんとかなると思ったんだけどな。せめてビームがもっとマシなのだったら・・・」
ロボット相手に脱げビームを繰り出しても何の意味も無い。だからと言って魔道グレンがドリルを出すということも出来なかった。
『それはロボットではなく科学装置で制御されている鬼神です。制御されている科学装置をシモンさんが支配することは出来ても、生命体である鬼神の構造までは変えることはできません』
「そういうことか、どうりで変形が出来ないはずだ」
ラガンに乗っているときは自分の螺旋力が続く限り何度だってドリルを出すことが出来た。しかし魔道グレンが生命体である限りドリルを装備させるのは困難だった。
『分りますか、シモンさん? だから・・・たとえどれほど巨大になろうとも・・・』
茶々丸と対峙するのはただの巨大ロボット。
『ドリルの無いあなたなど、恐れるに足らない!!』
グレンラガンモドキが走り出す。立ち上がらない魔道グレン目掛けて湖に波を立てて走り出す。
「分らねえよ・・・」
しかしそれがどうした! シモンはそう言っているような目で睨みつける。
ドリルが出せる出せない、恐れる恐れない、そういうことではない。
「分ってるのは・・・」
魔道グレンは立ち上がり、正面からグレンラガンモドキにぶつかっていく。
「俺の信念は・・・絶対止まらねえってことだ!!」
緑色に輝き出す魔道グレンの拳がグレンラガンモドキのボディをとらえ、今度は逆にふきとばした。
「すごい! シモンさんも負けて無いじゃん!!」
「くう~~、木乃香が惚れんのもわかるね~、よっし、どっちが勝つか賭ける?」
「う~んロボットとしては茶々丸さんの乗ってるほうがかっこいいんだけどな~」
カウンターの攻撃に美砂たちを含め見物の生徒達は大盛り上がりだった。
特にどちらを応援しているわけでもない。
しかし白熱するロボットバトルに興奮を抑えきれずに彼らも大騒ぎだった。
だが、いつまでも呑気に観戦しているわけには行かない。
「おおい! またロボット達が来たぞ!」
「まだいんのかよ!?」
湖から離れたのは生徒達だけではない。防衛する者がいなくなり、田中さんたちの群れも一斉に上陸させてしまった。
「ちょっ、やばいじゃん!」
「ここは・・・逃げた方がいいかも・・・」
「来たよーー!? 脱げビームはいやーーー!!」
手持ちの武器で何とか対抗しようとするものの、崩れた陣形を立て直すことは指揮官もいない上に、素人の彼らには無理だった。
生徒達は少しずつ後退し、田中さんの群れは世界樹中心へ向けて徐々に近づいていった。
徐々に戦況が超たちに有利になってくる。それは茶々丸にとっては喜ばしいことなのだが、今の彼女はその戦況を見ていなかった。
彼女は今、目の前のシモンしか見ていない。
『そうでした・・・アナタには気合という名の武器がありました・・・』
自分を殴り飛ばした魔道グレンを見上げながら、ゆっくりとグレンラガンモドキは立ち上がった。
「そうだ、機械のわりには忘れっぽいじゃねえか?」
『大丈夫です、改めて記録したので二度と忘れません』
茶々丸は実に冷静である。
シモンに集中する彼女、そしてシモンとしばらく接し計算違いをいつも見せられただけに、多少の予想外の事態にも取り乱さなくなった。
茶々丸も成長しているのである。
「くそ、これでもダメか・・・」
逆にシモンは少し焦っていた。
徐々に戦況が不利になるこの状況を彼は戦いながら把握していた。
そもそもこの魔道グレンで2500のロボット相手に対抗するのが狙いだった。手に入れた巨大ロボットで逸早く世界樹広場の防御を固め、あとは超一人の行方を探す。それが望ましい作戦だった。
しかし思ったより茶々丸がはやく動き出したこと。さらに学園側の魔法先生の足止めをくらい、時間をロスしてしまい、世界樹広場に行くことが出来なくなってしまった。
このまま自分がここで茶々丸と長期戦をするようであれば、勝敗はどうあれ超の勝ちになる。それだけは避けたい、しかしここで茶々丸を倒せなければ一気に世界樹の防衛も潰されてしまう。
だからこそシモンもこの場から離れることが出来なかった。
だからだろう。
そんな状況だったからこそ、この仲間の出現が大きな助けとなった。
「リーダー、ココハ私ニ」
声がした。
それは人間の声ではない。
ロボットの声である。そう、敵である田中さんの声である。
しかし2500体もいる田中さんの中でシモンのことをリーダーと呼ぶのはたった一人しかいない。
「エンキ!?」
湖畔から駆け出し一直線に自分に向かい、そしてその高い跳躍でエンキはあっという間に魔道グレンの頭上まで登ってきた。
『アレは・・・』
この意外な助っ人にシモンだけではなく、モニター越しの茶々丸も少し驚いた。いくら計算外のことに慣れたといっても、田中さんの一体を仲間にされていたことは知らなかったのである。
「エンキ、来てくれたのか・・・」
シモンはうれしさと驚きの両方の感情を込めて言う。しかしエンキは茶々丸同様トーンの変わらない声で口を開いた。
「世界樹広場ノ防衛ハ問題ナシデス。シカシヨーコサン、美空サン、ココネサン、シスターシャークティハ強敵ト戦闘中デス。ソシテ超サンモ現在学園側ト戦闘中」
「超!? あいつも出てきたのか!?」
自分達の最大の標的の人物の出現、それにシモンも胸が高鳴った。
しかし一つ気になった。
「だけど交戦中か、ボヤボヤしてられないな」
超の能力を知ってはいるが、もし学園側に出し抜かれてしまったら、それはおもしろくない。その気持ちは察したからこそエンキは自分に任せろと言ったのである。
だが、それには大きな問題があった。
「エンキ、お前の気持ちは嬉しいけど俺がここを離れると俺の螺旋力が伝わらなくなり、魔道グレンが動かなくなる。そうなったら茶々丸を抑えることは出来ない・・・」
螺旋力の無いエンキに魔道グレンを操り戦うことは出来ない。
むしろシモンが離れると魔道グレンが元の敵に戻ってしまう恐れもある。それだけは避けたかった。
だがシモンは忘れていた。
螺旋力を持つのはシモン、ヨーコの他にもう一人いたことを。
シモンが悩みながらグレンラガンモドキを見るとコートの中がモゾモゾ動き出した。
何事かと思うとそこからは一匹の小さな仲間が現れた。
「ブータ!?」
「ぶいっ!!」
いつも自分と共にいた相棒であり、元祖グレン団のメンバー。
服の中から現れたブータはシモンの肩に駆け上り、そこからエンキの肩に飛び移った。
そしてエンキの肩に乗ったブータはその小さな体から緑色の光を放った。そしてその光はエンキを、そして魔道グレンを包み込んだ。
シモンは思わず目を見開いた。
「ブータ・・・お前・・・」
ブータの体から溢れ出す光は螺旋力だった。
「ブミュウウウッ!!」
それがブータ也の叫びなのだろう。その鳴き声から溢れる螺旋力にシモンはブータの想いを感じた。
ブータは自分に向かって「行け!」と命じているようだった。
「そうか、お前も戦ってくれるんだな」
その小さな体でいつだって自分と共にあり続け、時には助けてくれた。
カミナと共にジーハ村を飛び出し、そしてこの世界に来てからもずっと自分の側にいてくれた最高の相棒。
そう、ブータの気合は半端じゃない。
だからこそシモンは安心してこの場を任せられる。
「よし分った! エンキ、ブータ、お前達は新生大グレン団のメンバーなんだ。だから・・・ここはまかせる!!」
「ブイ!!」
「了解」
シモンはエンキとブータを残して魔道グレンから飛び降りた。
そしてシモンを失ってもブータの螺旋力が魔道グレンを制御することが出来た。
シモンは後ろを振り向かない。そして横も見ない。
グレンラガンモドキを通り過ぎ、一目散に駆け出した。
『シモンさん、逃げるのですか!?』
「俺は逃げるんじゃねえ、一足先に前へ進ませてもらうだけだ。そのかわりに、新たな仲間と、この全宇宙で俺と同じ数だけ本物のグレンラガンに乗った奴を置いていってやる」
通り過ぎるシモンを捕らえようと茶々丸が動き出す。
しかしその動きを魔道グレンが止めた。
『・・・立ちはだかるのですか?』
茶々丸は冷たい声でエンキに向かって告げる。しかしエンキとブータは正面から返した。
「リーダーノ命ニヨリコノ場ハ通シマセン」
「ぶう!!」
自分と同じロボット。そして小動物にここまで言われては今の茶々丸もこの場を離れるわけにはいかない。
『・・・いいでしょう。あなた方を倒してシモンさんを追いかけましょう』
この場に人間はいなかった。
そしてこれは人の世を左右させる喧嘩。彼らには何の関係も無い話だった。
しかし彼らは戦った。
人と接して芽生えた譲れぬ想いをぶつけ合った。
ロボット軍団との交戦、巨大ロボット対決、そして女達の戦いが繰り広げる。
そしてこの場でも学園トップクラスの者達が人知れず死闘を繰り広げていた。
「はあ、はあ、・・・超くん」
体中が埃まみれのタカミチ。相変わらずタバコを口に咥えてポケットに手を入れたままだが、その表情に余裕は無い。
それはネギ、アスナ、刹那も同じだった。
そして超本人もそうだった。
「流石に高畑先生もいるとキツイネ・・・」
カシオペアと強化服がある限り超自身は無傷である。それほどまでにネギたちとは能力差があった。
しかしそれでも経験の差から決定打を打ち込むことが出来なかった。
早々に特殊弾を撃ち込み彼らを退場させたかったがそうもいかなかった。
「へへん、ロボット達はぶっ倒したわよ!!」
「あとは、キサマだけだ!」
ロボット達の残骸の上に立ち、アスナと刹那は刃を超に向ける。
「ふ、流石に刹那サンたちに量産型では相手にはならなかたカ・・・」
引き連れてきたロボット達は粗方アスナと刹那に倒されてしまった。そして自分自身はネギ、タカミチに足止めを受けている。
「超さん、ここまでです。あなたを・・・捕まえさせてもらいます」
杖を構えながらネギは一切の隙を見せずに超に向かって告げる。その瞳は相変わらずだった。
迷い無く自分をしっかりと見据えている。
だからこそ不可解だった。
昨晩は自分が打ち明けた真実の内容にネギはおろか、後ろにいる刹那も取り乱していた。あの場にはいなかったがアスナも恐らくは聞いたはずだろう。
世界を左右させるほどの重い選択。
親しい者との対立。
その二つの板ばさみにあっていたはずの彼らが今はどうだ? たった一晩明けただけで、己の選んだ答えと道を迷い無く進んでいる。
超にはそれが不思議でならなかった。
(僅かな間でこれほど成長し・・・そしてこうも最善の策を考えるとは・・・)
自身が優勢であることには変わらないが、ネギたちの計算外の行動が計算外だった。
シモンが計算外の行動をするのは当たり前、驚いたら負けだと自分に言い聞かせていた。
だが、常に教科書どおりの答えしか出さないと思っていたネギが、一般人を巻き込み、自分ともシモンとも対立する道を選んだのが計算外だった。
そして今のネギの目を知っている。
それはシモンと同じ、揺るがない信念を秘めた目である。
だからこそ・・・この手は通じないだろう。
「ネギ坊主なら分るハズ、この世界の不正と歪みと不均衡を正すには、私のようなやり方しかないと」
それは揺さぶりだった。
この語りなら、以前のネギならば100%揺らいだだろう。
現にタカミチも超の言葉に少し動揺している。
だが・・・今のネギは違う。
「・・・確かにそうかもしれません。だから僕はアナタを否定しません、・・・ですが、それは僕達が求める明日じゃありません」
微塵も決して揺らがなかった。
「タイムマシンを使った僕に、歴史の改ざんを否定は出来ません。ですが、僕達の明日は・・・超さんに与えられる明日ではなく、自分のこの手で掴んで見せます!!」
「――ッ!」
その言葉は超の胸に深く突き刺さった。
10歳の少年の言葉に言い返すことが出来なかったのである。
そしてタカミチも同じように目を見開いて驚いた。
昨日までとは精神的にもまるで違う今のネギ、そしてそんな彼の後ろにつくアスナと刹那の姿がとても大きく見えた。
そして、決め手に欠けて時間をかけ過ぎた超は、とうとう周りを囲まれてしまった。
「超!」
「!?」
第三者の声がした。
振り返るとそこにはクラスメート達がいた。
戦っていたのが一目で分る。しかし服が多少破れている物の無事な姿を見せてこの場に現れた。
「古・・・それに他の皆さんもお揃いで来たようネ・・・」
目の前のネギたちに集中していた超はこの場に現れた古や木乃香達の接近に気がつかなかった。
そして気付いた時にはもう遅い。前後を武装したクラスメート達に囲まれてしまった。
「お嬢様、皆さん、ご無事でしたか! ・・・楓は?」
「楓さんは途中遭遇した強敵の足止めをしています。我々も多少無茶はしましたがなんとか無事です」
ロボット達に行く手を阻まれた夕映達だが、手にした武器を構え、正面から壁を突破してこの場までたどり着いたのである。楓を除いて誰一人未だ脱落する者なく超を見つけた。
「おい、いくらお前がトンデモアイテム持っててもこの人数に囲まれたら無理だろ? 大人しく捕まってこの騒ぎを止めてくれよ」
魔法否定派で非戦闘員だったはずの千雨も脱落していなかった。彼女も口では文句言いながら魔法具を片手に服を少し破きながらもロボット達を乗り越えてきた。
それはのどかやハルナ、木乃香もそうである。古を除いた全員実戦経験がゼロの者達だが、逞しく気合で無理を通してきた。
このことが超をさらに驚かせた。
(まさか・・・全員無事だとは・・・本当に予想外ネ・・・。ネギ坊主だけでなく彼女達にも何があったネ?)
龍宮や茶々丸といった超側の主力は既にグレン団に抑えられているものの、圧倒的な兵力差を前に木乃香たちまで無事な現在の状況に信じられなかった。
「ネギ坊主・・・いや、皆・・・一つ教えて欲しい。・・・一体何があったネ?」
疑問を抑えることが出来なかった超はネギに尋ねる。
「解せないヨ・・・どうして・・・なんの迷いも無くいられるネ?・・・まったく分らないヨ・・・」
するとネギや木乃香たちはニンマリと笑みを浮かべ、ネギはコアドリルを超に見せた。
「たった一つの出会いが・・・僕たちを変えてくれ・・・いえ、教えてくれたんです。僕達は・・・分ったんです!」
コアドリルは何も変わらない。
しかし絶望の中、コアドリルが点滅した時に現れた男をネギは忘れない。
「そうよ、私達はただ分らなかっただけ。でも今は違うわ!」
アスナも前へ出た。
「そう、私達は答えに辿り着いたんです」
刹那がアスナの横に並んだ。
「考え方に賛否があるかもしれませんが、その人の言葉は私達に無限の可能性を教えてくれました」
夕映も語る。
「せや、シモンさんと超さんが自分の譲れへんもんを持っとるんなら、ウチらも自分達で決めたことは譲れへん」
木乃香も続ける。
「だからこそ私は、友として超を止める道を選ぶアル」
対峙した友へ向けて古が告げる。
「超さんのやろうとしていることはとても重要なことかもしれません。だけど・・・私・・・たちは・・・ネギ先生たちと離れたくありません」
のどかが純粋な想いを打ち明ける。
「まあ、要するに何も変わらねえ日常を好きな奴だっているんだ。相談なしにそんな日常を勝手に変えようとするんじゃねえよ」
千雨は少し不機嫌そうになりながらも強い口調で言う。
「超りんは超りんで苦しんでたのかもしれないけどね、ぶっちゃけ私はファンタジーだらけの世界にも興味あるけどさ、今はコッチにつかせてもらうよ♪」
ハルナは冗談交じりだが、それでも自分の考えを述べる。
「そういうことだ! もうテメエがどう言ったってアニキも姉さん達も揺るがねえってことよ!!」
カモがその小さな体から精一杯の大声で超に叫んだ。
「だから僕達は、この道を譲りません!! 超さんにも、シモンさんにも!」
「その通りよ!!」
ネギの叫びと同時にアスナたちは今一度、超を囲み武器を向ける。
「超さん、思いを通すのが力ある者のみなら・・・・」
「私達の力で貴様を、そしてシモンさんも止める!!」
超を囲む者達の力強い決意を秘めた瞳が一斉に彼女に向けて注がれた。
「僕を・・・」
全員の心を一つにして、同時に超に向けてあの言葉を叫んだ。
「「「「「「「「私達を誰だと思ってやがる!!」」」」」」」」
これ以上超の心に深く突き刺す言葉があっただろうか。
溢れ出す少年と少女達の魂の叫びに超はしばらく呆然としていた。
話の内容が未だに分らないタカミチでも、ネギたちの最後の言葉だけはよく分った。戦いの最中でありながら、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「あっ・・・・あっ・・・・」
これほど呆然とした超をネギたちは始めて見ただろう。
いつも底を見せない超鈴音が今始めて心を揺るがせた。
圧倒するネギたちの叫びに超は足を震わせ、飲み込まれそうになってしまった。
「いきます、超さん!」
踏み出したネギ。
超はまだ動けないでいた。それは致命的なミスだった。
動揺している超の思考にカシオペアを使って逃げるという簡単な考えすら思いつかなかった。
「し、しまっ!?」
だからもし、この場にこの男が現れなければ、もっと早くに決着がついていたかもしれない。
「飲み込まれるな、超! お前と決着を付けるのは、俺達だろ!!」
「!?」
男の声がその場に響いた。
声の方向を見ると、超を捕らえようとしたネギに向かって巨大なブーメランが飛んできた。
「こ、これは!?」
ネギは慌てて反応して真上にジャンプしブーメランを交わした。
そして交わしたブーメランはクルクルと勢いよく回転しながら主の手元に戻っていった。
「お前の信念が強固だからこそ、俺は全力で戦うと誓ったんだ」
「シ、シモンさん・・・」
シモンがこの場に現れた。未だに動揺していた超はシモンにまだ反応を返せないでいる。
先ほどまで学園中が注目する中で巨大ロボットを従わせて戦っていたはずの男が目の前に現れた。
だがネギたちも最初は驚いたものの、ようやく自分達の目の前に現れた男にうれしそうに笑った。そんなネギたちにシモンも笑みを返した。
「話は聞いた。・・・答え、見つかったみたいだな」
シモンの言葉に対してネギは言葉ではなく預かっていたコアドリルをシモンに向けて投げた。
それがネギの返答だった。
「はい、ようやく・・・たどり着きました」
投げられたコアドリルをパシッと受け取ってシモンは小さく「そうか・・・」と呟いてそれを自分の首にかけた。
「シモンさん、もうこれまでにしてください。私達は、あなた達の喧嘩を見て見ぬ振りは出来ません」
夕凪をシモンに向ける刹那。格闘大会でシモンに向けていた獲物はモップだったが今度は違う。真剣である。
そして刹那が冗談で刃を自分に向けているわけではないことが、シモンには直ぐに分った。
「余計なお世話なんて言わせへんよ。超さんはウチらの大切なクラスメート、シモンさんもウチらにはかけがえのない人や。そんな二人が大勢の人を巻き込んで喧嘩するなんて黙ってられへん」
シモンと戦うかもしれない。
その可能性を示唆しただけで涙目になっていた木乃香も今は違う。そう、シモンにも彼女達の成長ぶりが直ぐに分った。
大よそのことは見当がついた。ネギたちはきっと大きな出会いをしたのだとシモンはなんとなくだが気付いた。
でもだからこそ、シモンも譲るわけにはいかなかった。
「・・・って言っているぞ、超。本当はようやくお前と会えたんだから、このまま二人で戦いたかったんだけどな・・・」
「・・・シモンさん・・・」
呆然とする超の横に並んでシモンは見下ろした。
「先に言っておくぞ。俺は絶対にお前にグレン団を証明しなくちゃならない。だから、こんなところで立ち止まる気は無い。今も戦ってくれている仲間のためにもな!」
シモンは拳を握り締めて目の前に立ちはだかる少年と少女、そして学園最強のタカミチを睨みつける。
多勢に無勢、
しかし大人しく出来るはずは無い。
「ここで終わってたまるかよ! そうだろ、超!」
「・・・では・・・どうするネ? どうすればいいネ?」
超とてこのままネギたちに黙って捕まるわけには行かなかった。
しばらく呆然としてしまったものの、シモンが登場したことにより、自分の譲れない物に再び熱を取り戻した。
シモンと決着をつける。
そして自分の抱いた憧れに見切りをつけて、望みを叶える。
超はそのために過去にやって来て長年の準備と積み重ねをして来たのである。
ここで終わらせていいはずが無い。
「簡単なことだ。決着をつけたい、その気持ちは同じなんだ。だったら今だけでも敵の敵は味方ってことでいいんじゃないか?」
「はっ?」
意味が分からずに超は変な声を上げてしまった。
それはネギたちも同じである。
「シモンさん・・・何言ってんのよ?」
「・・・まさか・・・」
嫌な予感がした。
「ネギ君! どうやら厄介なことになりそうだよ!」
シモンの言葉の真意に気付いたのはタカミチが最初だった。
そして超もようやくシモンの言葉の意味が分かったのか、心の底からおかしそうに笑ってしまった。
「あっはっは、それは実におもしろいネ!」
超の笑いを見てネギたちはハッとした。それは相変わらず予想もつかない展開だった。
笑い終えた超は拳を握り締めてシモンを見上げた。
「なるほど、道が重ならない同士だが・・・少しの間だけ一緒に並んで歩くのも一興ネ」
「ああ、ここで終われるほど、俺もお前も俺達の仲間もまだ何も見せちゃいない。だから、ここは一気に突っ走るぞ!!」
シモンは螺旋力を解放し、ドリルの槍を作り出し構える。ゴーグルをかけ、本気のスタイルである。
そして超もシモンの隣で構える。
ここで超が隣にいるシモンに特殊弾を使えばまた違った結果になっただろう。超は卑怯な手を使うと宣言しているのだ、使っても何も問題は無いはずだ。
だが超は使わなかった。
思いつかなかったわけではない。だが、その考えを却下してシモンの提案に乗ることにした。
「可能性は・・・無限に広がる・・・カ。 こんな可能性は予想して無かったヨ・・・」
「そうだ、誰だって先のことは分からないんだ。 ・・・でも、俺もお前もこの戦いに決着をつけなければ・・・前には進めないだろ?」
超とシモンは同時にネギたちに向かって走り出した。
「そんな、シモンさん!?」
「来るぞ、ネギ君! 戦えない子達は後ろに下がって! ここで彼らを逃がすわけには行かない!」
元凶の二人が取った手段、それは一時の共闘だった。
これが終われば二人はまた敵同士に戻る。だが今だけは、決着をつけるという両者の望みのために・・・
「成り行きだけどある意味・・・」
「ウム、最強タッグの完成ネ!!」
シモンも超もお互いを信頼しているかのような笑みを浮かべて共に駆け出した。
「「さあ、そこを通してもらうぜ(ネ)!!」」
ついに会合した物語の主役達。
だが、戦いはまだ終わらない。
最終更新:2011年05月11日 15:46