第六十八話 後日談・決意突破 投稿者:兄貴 投稿日:09/03/07-15:04 No.3870
日本の裏側にて、ウェールズのとある丘の上で一人の女が日本で働く弟の手紙を読んでいた。
<お元気ですか、ネカネお姉ちゃん。僕が日本に来て、もう半年近くが過ぎました>
ネギの姉、ネカネはとてもうれしそうに、紙の上で動くネギの映像を見ていた。
<今回は写真を同封しといたよ>
「アーニャ! ネギよ~」
「ネギ?」
ネカネは、ネギの幼馴染のアーニャを丘の上に手を振って呼び寄せる、そして、2人で立体映像に映し出されるネギの手紙を読みながら、同封されている写真を眺める。
<たった半年と思えないくらい、色んなことがありました。3-Aの皆・・・アスナさん達やコタロー君、そしてシモンさんやヨーコさん。修学旅行や学園祭・・・それに、格闘大会・・・本当に色んな事があって・・・>
「何よコレー、女の人ばっかじゃない!?」
「フフ・・・楽しそうね」
さすがに女子中学校の先生なのだから、大半が女生徒との写真ばかりである。それがアーニャには少し面白くなかった。
「むっ!」
「どうしたの、アーニャ?」
たくさんの写真の中の一枚にアーニャは手を止め、急に眉を寄せてかなり不機嫌になった。
ネカネが不思議そうにアーニャの手にある写真を覗き込むと、そこにはネギが真っ赤な顔をして、ビキニ姿の大人の女に頭を撫でられて照れている写真が出てきた。
「あらあら・・・」
「なっ、なによ、この女!? こんな品のないカッコして!?」
ネギと一緒に写っている女、それはヨーコだった。少し腰をかがめたヨーコがネギの頭に手を置きながらカメラに向けてウインクをしているツーショット写真である。
「ネネ、ネギもネギよ! こんな胸がデカイだけの女にデレデレして!?」
「フフ、ひょっとしてこの人がヨーコさんかしら? 以前手紙で、すごくきれいな人と知り合ったって言ってたけど」
「えっ!? なにそれ、聞いてない!」
ネギがどのようにネカネにヨーコについて説明したかは分からないが、ネカネは写真に写るネギの様子から、弟の淡い想いをなんとなく感づいていた。
因みにこの写真をネギは写真盾に入れて自分の机に大事そうに保管していることは、内緒である。
アーニャがヨーコについて初耳のため、少し慌てた様子で騒ぎ出す。その様子をネカネは苦笑しながら、送られてきた写真を再びめくっていく。そして女たちばかりが写っている写真の中で、ネギとコタロー以外の人物が写っている写真が目に入った。
「あっ・・・ひょっとして・・・この人が」
「なになに、まだ何かあるの?」
「ええ、ひょっとしてこの人が、シモンさんかしら?」
そこには、ネギと二人で天に向かって指を指している男がいた。
ネギは少し恥ずかしそうだが、隣にいる男は腕をピンと伸ばしてニッと歯を出して笑っている。
「うわっ、何コイツ、ダッサー」
「そう? カッコイイ人じゃない」
「え~、絶対ダサいよ~、ネカネお姉ちゃん見る目無いよ~」
「あらあら。でもこのシモンさんって言う人が、ネギにはとても重要な人だったみたいよ」
「え~、コイツが~?」
アーニャは顔を顰めながらシモンの写真を見るが、ポーズといい、服装といい、あまりいい印象ではなかった。
「ええ、その証拠にネギの顔や瞳を見て。たった半年で随分凛々しい? いえ、男の子らしくなったって思わない?」
「ハァ? ネギが?」
アーニャはそう言われて手紙から出ている立体映像のネギの姿をジ~っ見てみる。
「どこがよ。全然変わってないわ。相変わらずチビでボケでマヌケ顔なんだから」
そう言ってプイッと視線を逸らすアーニャ、すると・・・
<まだ期末テストって難関があるけど、そんな壁はみんなと一緒に気合を入れて簡単に突破して見せるよ!>
「「・・・・・・えっ?」」
<まだ詳しい予定は決めてないけど、壁を突破したら夏休み中には必ず帰るよ、ネカネお姉ちゃん>
そこでネギからの手紙は終わった。
ネギは最後に、夏休みには帰ってくるという報告をしたが、今の二人は、ネギが発したネギらしくない言葉に少し驚いてしまった。
「な・・・何よアイツ・・・急にカッコつけちゃって・・・」
「ふふふ、本当にね。誰に影響されたのかしらね?」
ネギが急に力強い瞳で喋ったことに、頬を染めるアーニャ。そしてネカネは半年前には想像も出来なかったネギの様子に可笑しさとうれしさがこみ上げて、広い空を見上げながら微笑んだ。
そしてネギの言葉どおり、たしかに期末試験は難関だった。
特にクラスには、鬼やロボットと戦える兵がいるのに、何故か彼女たちは机の上にある紙に書かれている問題と言う名の壁は、彼女たちにとって強固だった。
学園最強の頭脳を誇る超鈴音がクラスから去ったことに、平均点が大幅に下がることを抜かしても、バカレーンジャーの五人組は普通に夏休みの補習を受ける可能性もあった。
だが中学最後の夏休みを台無しにしてはならぬと、彼女たちはネギと協力して足掻いて足掻いてジタバタした。
当然ネギ自身も相当力を入れた。
その甲斐あってか、一人の脱落もなく、見事壁を打ち破るという結果に至った。
取りあえず補習生徒がいないため、ネギが夏休みに授業で借り出されると言う事態は避けられた。
だがしかしその結果、ネギの夏休みの予定、そして補習を免れたアスナたちの予定が明確化されることになる。
彼女たちの向かうべき場所、それは勉強のように、がんばれば何とかなるというレベルを超える場所である。
そしてこちらでもそうだった。
日本・麻帆良学園の敷地内にある教会で。
「えっ、魔法世界に~?」
「はい、アナタとココネ、そして中等部の佐倉さんと、高等部の高音さんです」
「ちょっ、何で私たちなんすか~?」
「魔法協会から回された仕事です。とてもいい経験になると思いますよ?」
それは美空とココネにとっては予想もしていなかったことだった。
夏休みの間に、魔法使いとしての仕事で、魔法世界に行けというのである。ココネは魔法世界出身だが、美空にとって魔法世界はかなり危ないというイメージしかなかったのである。
そうなると当然以前までの美空なら、どうにか理由をつけて断ろうとしただろう。
「ふ~ん、魔法世界・・・っすか・・・」
しかし今は違う。
美空はシャークティから提示された仕事について、真剣に考えていた。
「・・・たしかに、強くなるには本場の空気を味わっとくのも手っすね」
「ほう、意外ですね、アナタにそんな前向きな考えがあるだなんて」
確かに意外だった。と言ってもシャークティは大して驚いていない。むしろ今の美空なら当然の考えだろうと見通していた。
「まあ、そりゃあ・・・私もいつまでも遊んでらんないっつうか・・・」
少し気恥ずかしそうに頭を掻いて視線を逸らす美空。しかし美空の思いはシャークティには分かっている。
「ふふ、敗北がよっぽど堪えたみたいですね」
「うっ・・・・まあ・・・・」
楓との戦いの敗北から、性格はあまり変わっていないものの、美空の心構えは学園祭を経て大きく変わった。
自分の強みを理解し、そして力のなさからの後悔が、美空を一回りも二回りも成長させた。
シャークティはそのことをとてもうれしそうに微笑んだ。
そしてパートナーの美空が前向きな態度を見せるとココネも身を乗り出して意思を示した。
「ココネも行ク!」
「う~ん、よっし、せっかくの中学最後の夏休みっすけどやりますか!」
半年前ならこんなことにはならなかっただろう。
もし美空を今回の仕事に行かせるとしたら、命令で強制させたり、招待客で持て成されるという餌をぶらさげたりしなければ、美空は頷かなかっただろう。
しかし今の彼女は自分の意思で、魔法世界行きを決めた。それがシャークティにはうれしかった。
(成長しましたね、気合が偽りでない証拠ですね)
美空とココネの成長振りに最近涙腺が緩むシャークティだった。
「おっ、どうしたっすか? さては私たちの成長に感動っすか?」
「・・・ふっ、いいえ、これでココネに変な言葉を教えたり、クラスメートの真剣な恋愛に妙なアドバイスを送ったりしなければと思っただけです」
「うっ・・・・」
「ソウイエバ結局教えてくれナカッタ。サイショウドウキンって何?」
「「生涯知らなくていい!!」」
教会の家族が一人今いないが、それでもそれなりに賑やかで温かかった。
シモンがいなくなり、たしかに前よりは寂しさがあるが、いつまでもそのままでいるわけにはいかない。
それぞれにやることもあるし、何よりつまらない表情はグレン団としては許されなかったのである。
「まあ、出発までにはまだ時間があります。それまではコチラの代表として恥ずかしくないように修行していきましょう」
「「はいっ!!」」
「よっし、それじゃあさっそくあれ教えて欲しいっす、グランドクルスと七星剣(グラン・シャリオ)! あれスゲーカッコイイっすからね」
「ココネもやる!」
「・・・・・・・・・・・・・無理です」
それはまだ早かった。
そして美空とココネが魔法世界行きを決めたころ、こちらのグループも夏休みの予定が決まっていた。
朝早くの女子寮にて、一人の少女が夢の中にいた。
空飛ぶ巨大な物体。
光る巨人。
そしてその巨大な影が自分を覆いつくす。
だが、自分はそこから一歩も動かない。
恐怖で動けないのか? それとも鎖で身体を縛られて動けないからなのか?
だが、自分はその様子に一言も声を発さなかった。
すると急に周りの人間が騒ぎ出した。
そして巨大な雷光と共に、三人の男が迫りくる巨大な物体を退けて、自分の前に現れた。
その中の一人の男が言う。
『安心しな、俺たちが全て終わらせてやる』
自信に満ち溢れた表情で告げる男。しかし自分の周りにいる老人は首を縦に振らない。
『しかし・・・敵の数を見たのか!? お前たちに何が・・・』
すると男は鼻で笑った。
『俺を誰だと思ってる、ジジイ』
どこかで聞いたようなセリフを男は言う。
『俺は、最強の魔法使いだ!』
三人の男たちは自分に背を向けてそのまま飛び出した。その背中はどこまでも頼もしく、全てを任せることが出来た。
そこでアスナは現実に飛び起きた。
ひどく寝汗を掻いているが、夢の内容が頭の片隅に残っている。
「あ・・・ああああああーーーー!! 思い出したーーー!!」
飛び起きた第一声がそれである。
「ここ、このかーー! アレ、いない。ネギー! エロガモーー!」
夢の内容を忘れぬうちに、同じ部屋にいるはずの木乃香やネギ、そしてカモを探すが見当たらない。
「もー、夏休み初日の朝からみんなどこに・・・」
しかし事態は急を要した。
アスナはパジャマ姿のまま、廊下に飛び出し、取りあえず知り合いを探そうとする。
そして刹那の部屋を見つけて、何のためらいもなく入ろうとするが、中から、妙な騒ぎ声が聞こえた。
「しかし現実問題としてはやはりまずいです!!」
(!?)
部屋のドアノブに手をかけようとした瞬間中から刹那の大声が聞こえて、思わずピタッとアスナは手が止まってしまった。
「それやったら、どっちかがお嫁さんで、どっちかがパートナーてのはどうや?」
「いえ、・・・ですが・・・やはりシモンさんにご迷惑では・・・」
中から刹那と、探していた木乃香の声が部屋の中からした。
(木乃香? 刹那さんと一緒にいたんだ・・・でも何の話をしてるんだろう? ・・・聞き取れない)
中から聞こえる刹那の声に、何か真剣な話かもしれないと思い、気になったアスナはゆっくりと扉を開けて中の会話を聞こうとする。
「それにシモンさんは魔法使いではありませんし・・・そういえば以前エヴァンジェリンさんが仮契約しないかと誘った時も、自分は穴掘りシモンだからと断っていました・・・」
(シモンさん? ちょっと二人して何かあったのかな?)
木乃香と刹那は共に親友同士でありながら、同じ男に惚れている。
刹那の真剣な声から、何か二人にあったのかもしれないと思い、アスナは黙って耳を立てる。
すると・・・
「ふふ~ん、こ~ゆう手段もあるえ! あれからちょっと調べたんや!」
「・・・えっ、それは・・・一体・・・」
(ゴクリ・・・)
刹那とアスナが息を呑む。すると・・・
「モルモル王国ゆうところは何人と結婚しても認められとるえ!」
(・・・・・・へっ?)
「なんでも王女様が日本のある一人の東大生と結婚できんかった腹いせに法律変えたそうや!」
(はあああっ!?)
部屋にコッソリ忍び込んだアスナ。
しかし普段の刹那なら気配で感づいていいものの、どうやら木乃香との会話に集中しているようで気づいていない。
「な、なるほど! ・・・確かにそれなら合法ですけど・・・しかしお嬢様、それなら実家をどうなさるおつもりですか?」
(ちょっ、刹那さんまで・・・なるほどって・・・)
「む~、せっちゃんはシモンさんと一緒にいたくないん?」
「そ、それは・・・ですけどその前にやるべき事が山ほどありますよ! 大体私たち振られているわけですし!」
アスナは声を失った。
しかもそれが当たり前のように広がる二人の姿が、さらに追い討ちをかけた。
「そんなんわかっとる。せやけど一度好きになったからには逃げへん、退かへん、悔やまへん、前しかむかへん、振りむかへん! それぐらいの心意気無いと、二人がかりでもニアさんにもヨーコさんにも勝てへんよ」
「で、ですが・・・その・・・こうゆうことをシモンさんが果たして受け入れられるかどうか・・・その、何を考えてるんだ、などと言って怒られてしまわないでしょうか・・・それにあまり行き過ぎると煩わしいと思われるかもしれませんし・・・」
「あ・・・・あの・・・木乃香・・・刹那さん・・・」
もう限界だった。とんでもない会話中の二人に口を挟み、アスナは二人に姿を見せる。
「えっ!?」
「あや、アスナおはよ~」
突如背後から聞こえたアスナの声に振り向き、硬直する刹那。
それとは対照的に何事もないかのように普通に挨拶する木乃香。
そして対するアスナは・・・
「あ・・・・あの・・・」
ドン引きだった。
「い・・・いやいや、いいんじゃない!? シシ、シモンさん喜ぶんじゃない!? 若い女の子に、ここ、ここまで愛されて!?」
「ちち、違うんです!? いえ、違いませんけど・・・こここ、これは教会の悪魔に囁かれてしまい!?」
「あはは~、この続きはまた今度やな~」
慌てて飛び出そうとするアスナの足にしがみついて、必死に弁解をしようとする刹那。と言っても弁解の余地などはないのだが、とにかく涙目になりながらアスナを引き止める。
にもかかわらず、木乃香はいたっていつも通りのため、ある意味最強の精神力かもしれなかった。
「アスナー、そんな慌てて何の話やったん?」
「えっ・・・え~と・・・」
そこでようやく自分が何をしにここに来たのかを思い出したが、何を言おうとしていたのかは頭から飛んでしまった。
少し間を置いて苦笑いを浮かべた。
「・・・忘れたわよ。朝からとんでもないヘビーな作戦会議聞いちゃったから・・・・」
「いえ、その・・・これにはわけが・・・」
何とか言い訳をしようとする刹那を置いて、アスナはそのまま部屋の外に出た。
「はー・・・アホらし。どんな夢見てんだか、私ってば。ネギのお父さんや、このかのお父さんまで出て来て・・・こないだ見たハリウッド映画の所為かな~」
最終更新:2011年05月11日 15:54