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75-今の俺はただのシモンだ

第七十五話 今の俺はただのシモンだ 投稿者:兄貴 投稿日:09/05/20-07:03 No.3960


―――人は問う



―――己とは何か。



―――命とは何か。



―――宇宙とは何か。



―――その答えを知らぬまま人は死ぬ。



―――それこそが、人の宿命。




起き上がれぬ意識の海の中で、不意に言葉が頭を過ぎった。









魔法世界の北の大陸にあるアリアドネーという国は、世界最大の独立学術都市国家と呼ばれ、どの権力にも屈しない中立国家として名を馳せていた。


だがそんな情報など、この男には何の意味もなさない。


アリアドネーどころか、この魔法世界、それどころか自身のことすら思い出せない男なのである。


ましてやこの男はこの世界の人間でも、旧世界の人間でもないのである。そんな情報を聞かされてもピンと来るはずがない。


だが一つ言えることがある。


それは、たとえアリアドネーがどの権力に屈さなくても、関係ないということである。


なぜならこの男は最初から誰だろうと、何事だろうと決して屈することは無いからである。


この男は次元を超えた世界に広がる銀河の中でも極めて珍しい男である。


たとえ記憶を失っても人間の本質が変わることはない。


多くの戦いと悲しみと困難を打ち破って来た不撓不屈の気合だけは失ったりはしない。


これはそんな男が新たに旅立つ物語である。



「う、・・・・・うう・・・・」



意識を戻そうと唸るシモン。


しかし頭の中に響く声がそれをさせなかった。


意味は分からない。


しかし何か大切なことを言われている気がしたが、自分は答えが分からない。


今の自分は何も思い出せない。


しかし男は分かる。


これは自分の記憶ではない。


しかし、何故か頭の中にその言葉が流れ込んでくる。


だが声の主には覚えがある。


漆黒の人影。


二つの目の光以外表情も何も分からぬ黒き闇の人の姿。


そんな彼の半ばあきらめたかのような問いかけが、シモンの頭に流れ込んでいた。


だが、あまりいい気分はしない。


答えの分からぬ問いかけから逃れようと、シモンは意識の海から無理やり体を起こす。


そして、




「・・・・ここは?」



僅かに痛む頭の痛みを手で抑えながら、シモンの意識はゆっくりと覚醒した。

その瞬間、自分の握り締めた左手の痛みに気づいた。何事かと思い視線を向けると、握った拳の中から光が漏れ出している。



「こ・・・・これは・・・・」



慌てて手を開けると、中には小さなドリルがあった。そしてその瞬間、小さなドリルから溢れ出した光は消えた。



「どう・・・なっているんだ?」



頭は痛むが意識はハッキリしている。どうやら相当長い時間寝ていたようである。



「俺は一体・・・・・・」



見知らぬ部屋のベッドで体を起こしたシモンは現状を把握しようと辺りをキョロキョロ見渡すが、この部屋に心当たりは無い。しかし真っ白い部屋と独特な薬品の匂いから医務室のような部屋だと予想できた。


「なんで俺ここにいるんだっけ・・・・・・いや、それに・・・」


辺りを見渡したシモンは突如真下に視線が止まる。

寝ていたシモンの上で丸くなって寝息を立てている小動物が気になった。


「え・・・え~~っと・・・・」


目の前の小動物の扱いに困ってしまったシモン。すると小動物は起きたシモンの気配に反応して、ゴシゴシと眠そうに見える目を擦りながらゆっくりと目を覚ました。


「ぶう・・・・・ぶっ!?」


妙な鳴き方をしながらゆっくりと起き上がる小動物。すると上を見上げた小動物は驚きの声を出した。

その反応にどう対応していいか分からないシモン。だがとりあえず、適当に手を上げて挨拶をした。


「えっと・・・・・・・おはよう・・・・」


「ブミュウゥゥ!!」


「う、うわああ!?」


シモンが挨拶をした瞬間、小動物はシモンの顔に飛び掛り、何度も何度もその顔を舐めまわした。


「ブミュウ、ブミュウ!」


「ちょっ、お、落ち着けって!?」


シモンが飛びついてきた小動物を引き離そうとするが、決して離れようとせず、シモンの体にまとわりついた。

この小動物にとってシモンはそれほどの存在なのである。

故郷の村から共に飛び出した。

シモンの魂の兄弟よりも、最愛の女よりも最も長い時間共に過ごしてきた相棒、それがブータ。この小動物の名前である。



(あれ・・・・こいつ・・・・え・・・・えっと・・・あれ?)



当然シモンには見覚えがあった。

名前も寸前まで出掛かっている。

しかしどうしても名前が喉を通って口から出すことが出来なかった。

しばらく唸っても、どうしても出てこない。

だからとても強い絆で結ばれたはずの相棒に、シモンは残酷な現実を突きつけることになった。


「えっと・・・・その・・・お前・・・・誰・・・だっけ?」


「ブッ!?」


記憶を無くしたシモンはそれ以外の掛ける言葉など思い付かなかったのである。

だが、この残酷な現実にどんどん目が潤んできたブータは耐え切れずに、鳴いたカラスが今度は盛大に泣き出した。



「ぶ、ぶふううううううううううう!」


「なっ、おいおいおいおい、なんで泣いているんだよ? ほら、泣くなよ~」


「ぶうう、ぶむううううううう」



突如その小さな瞳からは考えられないほどの涙を溢れ出すブータに、シモンは驚きながらも、ブータを胸に抱き寄せて頭を撫でる。

しかしブータは必死にシモンにしがみ付きながら、この現実に悲しみを止めることは出来ずに泣き叫んだ。

そんな姿に心を痛めながらも、シモンはもう一度ブータを見る。


(なんだろ・・・・この一緒に居ると安心する感覚・・・・こいつの温かさ・・・・)


抱きしめて伝わるブータの柔らかな感触と温もり、そして安心感。


(やっぱり・・・・俺はこいつを知っている・・・・)


シモンはそれだけは分かった。


この目の前の小動物は、只の動物ではない。


自分にとってかけがえの無い絆で結ばれていたのではないかと感じ取った。



「なあ、・・・・お前・・・」



口を開こうとした瞬間、それを遮るように部屋の扉が勢いよく開いた。



「よかった、意識を取り戻したんですね!!」


「鳴き声が聞こえたと思ったら、・・・・ふふ、良かったわねコレット」



開いた扉に驚いて視線を向けると二人の女性がそこにいた。

シモンが目をパチクリさせていると、シモンの居るベッドへと駆け寄ってきた。

少女の顔には見覚えがある。

確か自分が意識を失う前に会った少女である。


「えっとたしか・・・・・・コレット、・・・だったよな?」


ブータの名前を覚えていないのに、コレットの名前だけは覚えていた。

名前を呼ばれ、シモンの無事を確認したコレットは、深い安堵の息を吐き出した。


「はいそうです。よかった~、私、あなたを本当に死なせてしまったんじゃないかと・・・」


安心したのか、腰が抜けてヘナヘナとその場に座り込むコレット。そんな彼女の頭を優しく撫でながら一人の女性が近づき、そして深々と頭を下げた。


「ごめんなさいね。昼間コレットがあなたにしてしまったことは全部聞いたわ。私の生徒が、本当にご迷惑を・・・・」


「あっ、いや・・・俺は別に気にしては・・・・」


コレットと同じように褐色肌で眼鏡を掛けた獣の耳の形をした女。しかし年はコレットよりずっと年上だろう。


「シモンさん・・・・」


「・・・えっ?」


不意に名前を呼ばれてドキリとした。


「コレットからあなたの名前を聞きました・・・そして・・・あなたが名前以外を思い出せないということを・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


そしてシモンは黙った。

『シモン』それが自分の名前だということは認識していた。

それは今でもハッキリしている。だが、・・・


「そうだ・・・・俺はシモン・・・・そして・・・・・それで・・・・ッつ!?」


「お兄さん!?」


その瞬間軽い頭痛がシモンを襲った。

グルグルと頭の中が回るような感覚。それはコレットと会った時と同じ感覚だった。

名前は覚えている。

しかしそれ以上をどうしても言うことができなかった。


「ちょっと失礼」


「・・・・・はあ、はあ、はあ・・・・」


「力を抜いて、少し刺激があるわよ」


「・・・えっ?・・・・っつう!?」


頭を抑えるシモンを見て、コレットの担任は小さな六芒星を手のひらに浮かべてシモンに向ける。

すると羽を生やした小さな精霊が召喚され、シモンの頭の周りを回り始めた。


『検査中(エクサミナームス)♪ 検査中(エクサミナームス)♪』


精霊から発する光がシモンを包み込み、シモンの体中に静電気のような軽い刺激が駆け巡ってきた。


「あの・・・これは?」


「心配しないで。少し検査しているだけだから」


そして精霊は一頻りシモンの体を調べ終わると、小さな紙を女に差し渡し、一言添えた。


『異常なしデッス』


「そう、大丈夫なようね。体も頭の中身も問題ないわ」


『お大事二~』


そう最後に言い残して精霊は煙に包まれて消えた。


「やはり頭部を強打したことによる一時的な健忘と未熟な忘却呪文が原因ね。でも、しばらくすれば失われた記憶も戻ってくるはずよ」


「えっ? あ・・・・そうですか・・・・(なんだろう・・・今の力・・・)」


「ただ、あなたは身分を証明するようなものを何も持っていなかったので素性は分からなかったわ」


「何も持っていない?」


「ええ。持っていたといえば、あなたが着ていたコート。でもあれはあなたの血が付いていたので、人に渡して今洗わせている最中よ。明日渡せると思うけど・・・・」


自分は何も持っていない。

そう言われてシモンは少しズボンのポケットや服を調べるが、あったのは首から下げている美しい緑色に輝く指輪と、左手に力強く握り締めている小さなドリルだけだった。


シモンが指輪とコアドリルの二つを見て、何か懐かしいような感覚に包まれていると、女性は更に近づきシモンの両肩に手を置いて、優しく語りかける。


「不安でしょう。自身が何者かを思い出せないことは。でも安心して、ここはどんな権力にも屈しない世界最大の独立国家よ。記憶が戻るまで安心してここに居ていいわ」


「そうか、ありがとう。俺もどうしたらいいか分からないし、少しお世話になるよ。記憶は直ぐに戻るのか?」


「うう~ん、確かに検査の結果、脳にも体にも異常は見当たらないわ・・・」


診察結果を知ったコレットとブータが身を乗り出して喜びの声を上げる。


「それじゃあ先生、シモンさんの記憶はいずれ戻ってくるんですね?」


「ブミュウウ!」


「ええ、もっとも・・・・・・あなたの未熟な忘却呪文がどう作用しているか・・・解除も出来ないし・・・・・・」


「うっ!!??」


シモンに異常が無いことに安堵したコレットだが、女性の言葉で直ぐに固まってしまった。


「えっ? どうゆうことだ? そういえば、頭部の強打以外に忘却呪文って・・・・・」


その意味が分からずシモンとブータが首を傾げていると女性が固まっているコレッとの代わりに説明する。


「実は・・・コレットがあなたに衝突した際に、課題の初級忘却呪文が充填されていた杖が暴発してしまったの・・・・」


「えっ!? それじゃあ、俺が名前以外思い出せないのは(でも、呪文って何のことだろう)・・・・・」


「そう、・・・・頭部打撲、及びコレットの未熟な忘却呪文・・・・これが原因よ」


「うええええええん、ゴメンナサイ~~~~~!!」


笑ったり、固まったり、泣きじゃくったり、誤ったりと、実に忙しい少女だった。

事故の実行犯ゆえに、頭部打撃以外の原因がバレるのは早かった。コレットも大変反省していたために、隠すつもりは無かったが、知られたときはひどく怒られたようだ。

そして生徒の失態を教師の女性も、心から深く頭を下げてシモンに謝罪する。

だが、シモンはコレットを責めることなどせず、頭に優しく手を置いた。


「分かったからもう泣くなよ。別に気にするなって言ったろ? いつか思い出せるならそれでいいよ」


「うえ? でも・・・・お兄さん・・・・」


「細かいことを気にするな。記憶が無くても、俺は俺だ!」


ちっとも細かいことで済まされないことすら、場合によっては小さな問題でしかない。


「大体何を忘れたのかも覚えていないんだし、怒るに怒れないよ。それに時間がたてば戻るんだろ?」


「・・・ええ、でも・・・あなたはそれでいいの?」


「ああ。それでいいんじゃないか?」


だがシモンの言葉がコレットの心を救ってくれた。

シモンがニッと笑ってコレットに掛けた言葉はコレットを罪悪感から救ってくれた。

シモンの言葉にコレットは小さく頷いて、年相応の笑顔を見せてくれた。


「はい、・・・ありがとう・・・お兄さん・・・」


涙を拭きながら笑顔を見せるコレット。

その様子を温かい眼差しで見つめながら、担任の女性は感心したようにシモンへ視線を向ける。

するとシモンは顎に手を置き何かを考えているようだった。


「あのさ・・・・コレット・・・・」


「はい?」


「その・・・・・・お兄さんって・・・やめてくれないかな。なんか・・・・ピンと来ないんだよ・・・」


「えっ? え~~~?」


妙な引っかかりだった。だが、その妙な引っ掛かりがシモンは気になり、コレットに告げる。


「えっと・・・それじゃあシモンさん?」


「あっ、名前で呼べってことじゃなくて・・・・なんだろう・・・お兄さんって呼ばれ方が気になって・・・・」


「?」


シモンも自分で何を言っているのか分からなかった。その様子を見て女性が何かを思いついた。


「ひょっとしたら・・・・あなた弟、もしくは妹がいたんじゃない?」


「えっ? ・・・・俺に?」


「ええ、それでいつもとは違う呼ばれ方に反応したんじゃない?」


「ブフウウ!!」


「あら、この子もそうだって言っているみたいよ?」


ブータの反応と女性の今の言葉を聞いてシモンはもう一度考える。

弟、妹、兄弟、家族、たしかに自分に居てもおかしくはないだろう。ならばそれは自分が記憶を思い出す鍵になるかもしれないと思い、コレットを見る。



「兄弟か・・・・よしコレット、名前とお兄さん以外で俺を呼んでみてくれないか?」


「は、はい。それじゃあ・・・・・・・・お兄ちゃん?」


「・・・・・うう~~ん、違うな・・・・・」


「えっと・・・・・お兄様?」


「・・・・ピンと来ないや・・・」


「ええ~、それじゃあ・・・・お兄ちゃま、あにぃ、おにいたま、兄上様、にいさま、兄くん、兄君さま、兄チャマ、兄や・・・とか・・・」


「・・・・・・・それ・・・・・・同じ意味なのか?」


「私もはじめて知ったわ・・・・・」



意味不明な呼び方だけが並び、シモンは一向に納得せず、予想が外れたのではと少し残念な表情を浮かべる。


「う~ん、兄弟の線は微妙になってきましたね~、・・・他に呼び方があるとすれば・・・にーにーとか・・・・アニキ・・・とか・・・・」


「!?」


諦めかけたその時シモンの肩が大きく揺れた。それはブータも同じだった。

適当に言ったコレットの『アニキ』という単語に二人は大いに反応した。



「それだああああああ!!!!」


「ブゥヒイイイイイ!!!!」


「ひっ!?」


「アニキ・・・・しっくり来る・・・・アニキ・・・そうか・・・・アニキだよ!!」


「あの~~~・・・・」



急に大きな反応を見せて声を張り上げるシモンに、二人がビクッとするが、シモンは一人納得のいったような表情でウンウン頷いている。



「ちょっ、シモンさん?」


「よしっ、決めたぞ。コレット、俺を今日からシモンじゃなくてアニキって呼べ!!」


「えっ、ええええーーーーー!?」



ぱちんと指を鳴らして少し興奮気味のシモン。コレットもアニキという言葉に抵抗を感じるが、シモン本人に言われてしまえば断ることも出来ず、頷くしかなかった。

そしてシモンはそのまま視線を真下に向けて、ブータを見る。


「よ~し、それでさっきから俺に懐いているお前・・・・」


「ぶい?」


「お前は・・・・俺の仲間か?」


「ブヒィ!!」


シモンの問いかけに「当たり前だ!」と言わんばかりの勢いで返事をするブータ。そんなブータを見て、シモンは顎に手を当てて考える。



「それじゃあ・・・お前は・・・・ブタ?」


「ブブウ(違う)!?」


「違うのか? それじゃあ・・・・ブータロウ?」


「ブ、ブブ(違う、でもある意味惜しい)!?」


「これも嫌か・・・・それじゃあ・・・・」


「どうでもいいけど何で会話が成立してるの?」


「・・・・・・・・さあ?」


「それじゃあ・・・・・ブー・・・・・タ?」


「!?」


「ブータ?・・・・」


「ブミュウゥゥゥゥゥ!!」


「正解か! よしっ、お前はブータだ!」



ようやく正解の名前を呼ばれてブータは歓喜のあまりにシモンに飛びついた。


「よしよし、直ぐに思い出してやるから安心しろ!」


「ブミュ!!」


そんなブータを優しく撫でるシモン。二人のほほえましい光景にコレットたちは笑みを浮かべて眺めていた。






結局外はもう暗くなっていた。


明日は一応休日ということで、今日はこれ以上無理しないで休み、明日に具体的なことを話し合おうとコレットと決め、その場は解散となった。


そして医務室の窓から散歩に出たシモンは、魔法世界の夜の下で、自分が持っていたコアドリルを夜空に翳しながら眺める。


「それにしても・・・・なんだろうこのドリル・・・・・・すごく・・・ズッシリする・・・・」


シモンは目を閉じてコアドリルを握り締める。

そして闇夜に静寂だけが漂う中、僅かな光がドリルから発し、シモンを包み込んだ。


「なっ・・・これはなんだ!? 何かが・・・何かが俺に流れ込んでくる・・・・」




―――敵機無量大数!!


―――表面装甲剥離!!





(何だ・・・これは・・・)



流れ込んでくるのは、闇夜でありながら、多くの光の粒と爆発で埋め尽くされる世界。


鳴り響くサイレン。


空間に広がる爆音。


駆け巡る顔の大きな機械兵器。


「人」の叫び。


そして慌てふためく人々の前に、一人の男が現れた。



―――うろたえるな!!



屈強な肉体と、強大な覇気に包まれし豪傑は、威風堂々と現れた。



―――ふん、天の光は全て敵、・・・というわけか・・・



無限に点滅する光を眺めて男は呟いた。



―――総司令、アシュタンガ級が数対接近しています!


―――ワシが出よう! グアームよ、ここの指揮権は少しの間お前に委ねよう。


―――かしこまりました。



すると男の肩の上に載っていた一匹の小動物が飛び降りて言葉を話した。

そして男はその場に背を向け雄叫びを上げる。



―――ラゼンガン、スピンオン!! 銀河に轟く螺旋戦士の力を見せてやろう!!



遥か昔から人類は銀河を舞台に争っていた。

広大な宇宙すら埋め尽くす命と兵力が爆炎の中に消えていく。

その中で雄雄しき螺旋族を束ねた一人の男が動き出そうとする。

しかしその時、戦士たちの意識の中に語りかける声が聞こえた。




―――進化の快楽に身を委ねた愚かなる種よ・・・・・




戦士たちは響いた声に反応して辺りを見渡すが、誰もいない。



―――総司令、この声は・・・


―――俺たちにも聞こえるぞ!



しかし確かに自分たちは声を聞いた。



―――ほう、・・・・ようやくお出ましか・・・



シモンも流れ込む映像の中で確かに感じ取った。



―――この宇宙に破滅をもたらす螺旋の民よ、その罪の重さを知るがいい。



この声は、どこかで聞き覚えがあった。



―――ふん、声だけでなく姿も見せたらどうだ?


―――貴様が今回の螺旋族の長か? 幾度も幾度も人は繰り返す・・・・。どれほど時が流れようとも、行き着く進化の果てはいつも同じ・・・・。これで何度目か・・・・。


―――何を言っている? 訳も分からぬ理由でワシらの平穏を脅かした貴様らの言うとおりになると思うか!



謎の言葉と共に、光景が歪みだした。



―――ならば知るがよい・・・・この宇宙の・・・・行く末を・・・・



そして総司令と呼ばれた男は頭を抱えて苦悶の表情を浮かべる。

シモンは、覚えていない。しかしこの男を知っている。


(俺は・・・俺はこの男を知っている・・・・・・たしかに・・・どこかで・・・・。)


そしてこの声の主も知っている。


(この光景は知らない! でも・・・でも・・・俺はこいつを・・・こいつらを知っている!!)


男の苦しみにあえぐ姿と共に、シモンも頭に痛みが走る。だが、意地で襲い掛かる頭痛に逆らい、この先にある真実を見ようとした。




―――人は問う



―――何故戦う。



―――何故殺す。



―――何故滅ぶ。



―――その答えを知らぬまま人は死ぬ。



―――それこそが人の幸せ。




再び聞こえる言葉。無機質で冷たいが、どこかあきらめの感情が含まれている気がする。


(なんだ!? 何を言っているんだ、こいつは!?)


苦しみに喘ぐ男に向かって、闇の人影は小さく呟いていた。





しかし、その時だった。




「タロット・キャロット・シャルロット!!」




「!?」



シモンの意識を呼び戻すように、ある一人の少女の詠唱と魔力により、大気の温度が一気に下がった。

コアドリルから流れる映像から開放されたシモンは、慌てて声のした方向へ視線を向けると、まるで星のように大きな氷の球体が、少女の手のひらの上に蓄積され、少女はそれを一気に下へ振り下ろした。


「氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」


広場に振り下ろされた巨大な氷の惑星。


「な、何ィ!?」


状況を把握できないが、人一人の力によって放たれた異形の力は、シモンを驚かせるよりも血を沸騰させた。


(す、すごい! ・・・こいつ・・・一体何者だ?)


先ほどの回想が頭の片隅に追いやられ、少女の見せた魔法に覚えていないがどこか懐かしくシモンは感じた。

すると少女はシモンを感心させる巨大な魔法を見せたにもかかわらず、その場で地面を蹴り、舌打ちをした。


「ダメですわ、こんな・・・こんな魔法・・・・彼女には当たらない・・・・」


シモンの存在に気づいていない彼女は、今放った己の魔法を卑下していた。

それは謙遜ではない。

何故なら彼女は初対面のシモンですら分かるほど、悔しさで顔を滲ませているからである。


「威力が上がれば当然詠唱にも時間がかかるうえに、魔力を消費しすぎる・・・・。それにこの程度の速さでは、彼女に何度やられるか・・・・」


少女は唇を噛み、拳を握り締める。


「・・・・勝てない・・・・。これでは勝てません・・・・・」


少女は悔しさのあまり両膝と両手を地面に付き、その瞳に涙が溜まっていた。


シモンは影から少女を眺めていた。


恐らく何かの壁にぶつかり、どん底に陥っているであろう少女。


しかし何も事情も知らない自分にはどうすることも出来ないとシモンは思った。しかしその場を立ち去ろうとは思えなかった。

下を向いて涙を流す少女。

それを見て、こんな時に何か掛ける言葉があったような気がした。


「ぐっ、・・・・・・・春日・・・・・・美空・・・・・」


「ミソラ!?」


「・・・・・・えっ!? だ、誰ですの、そこに居るのは!?」


「あっ・・・・・・」


「・・・・・・・・えっ・・・・」



考え込んでいたシモンだが、少女が呟いた美空の名前に反応してしまった。

当然今のシモンは美空のことを覚えていない。

しかし、不意に体が反応して声をだしてしまった。そして二人の目が合い、シモンの存在に気づかれてしまった。


「・・・・はっ!? ちょっ、少し待ってください!」


この場に居た見知らぬ男に一瞬驚き警戒心を強める少女。

しかし自身の瞳に溢れる涙の存在に気づき、少女は慌てて涙を拭い、一つ咳払いをしてシモンを改めてみる。


「あなた・・・・一体何者ですの? この学園の者ではありませんわね?」


警戒心を出して強い口調で尋ねる少女に、シモンは観念したかのように言葉を返す。


「俺が何者か・・・その答えは・・・俺が一番知りたいよ」


「・・・ふざけているのですか?」


「ふざけていないさ、今の俺は・・・・誰でもない。そう、今の俺はただのシモンだ」


「・・・シモン? そういえば・・・・部屋の外でベアトリクスが何か言っていましたわね。コレットが事故を起こしたとか・・・・」


「ああ、多分俺はそのシモンだ」


「・・・・それで・・・そのシモンさんが私に何の用ですの? ・・・・」


別に用などない。

ここに居たのは只の偶然である。

しかし下を向いていたエミリィに何かを言いたくて、悩んでいたのは事実だった。



「用・・・と言うよりも・・・・そうだ・・・・、何で下なんか向いている、成したいことがあるなら上を向いて立ち上がれ!!」



『上を向け!』その言葉が急に口から吐き出された。

それはごく自然に出た言葉で、シモンはその言葉をずっと言いたかったのだと確信した。


「・・・・・・はああ~~~~~?」


しかし逆にエミリィは、見ず知らずの男に言われたこの一言に肩をプルプルと震わせた。



「何も・・・・何も知らないクセに・・・」


「?」


「お・・・・大きな・・・・」


「・・・・・ん?」


そして少女はすぅっと息を吸い、そのまま大声で怒鳴りつける。



「大きなお世話ですわ!!!!」



少女に鋭く睨まれ、怒鳴りつけられて、今日のシモンの一日は終えた。


そしてシモンの遠慮ない一言に、不意に己の宿敵と重ねてしまった少女の機嫌は悪化し、彼女はそのまま踵を返して早足でその場を後にした。


何を怒らせてしまったのか分からないシモンは、しばらくポツンとその場に残されていた。



人の縁とはどこで繋がっているか分からないものだ。



美空に返り討ちに合い、以来塞ぎこんでは、こうして夜な夜な自分自身を苛めていた少女エミリィは自身の宿敵の兄貴分と出会った。

そしてシモンも、魔法世界という新たなる世界に訪れた今日この日から、コレットやエミリィだけでなく、多くの者と出会い、そして多くの戦いに巻き込まれていく。





魔法は、おまえの魂だ! 第二部開始!





後書き。

少し早いかもしれませんが、第二部始めちゃいます。

取り合えず一定のところまでは書くことにしました。色々考えた結果、原作通りは難しいと考え、少しオリジナルを混ぜることにしました。

原作ではしばらく離れ離れになるネギパーティー。その中で、ネギ、木乃香、アスナ、刹那など、もしくは我らが美空。一体誰とシモンと行動を共にさせるべきかと考えましたが、しばらくはシモンが勝手に動くことにしました。

ですから、ネギたちと合流どころか、ネギたちはまだ魔法世界に来ていません。一応頭の中で話の流れは考えていますが、文章にするには時間がかかると思うので、第一部ほど更新は早くないと思います。

完全オリジナルは嫌だと言いましたが、超鈴音の計画同様に少しオリジナルを混ぜるかもしれませんが、あらかじめ言っておきますが、これはネギまの世界の話ですので、グレンラガンの世界とは関係ありません。ですからあまり壮大すぎる話を期待されても想いに応えられないと思います。例えばフェイトとアンチスパイラルは・・・・など、一切無いと思って下さい。第一部で語れなかったシモンをネギたちが知るには、アンチスパイラルの話題は出ますが、それとネギまの世界を関連させるという大それたことをする度胸は私にはありませんので!!

兎にも角にも、天の向こうを目指してがんばります。
最終更新:2011年05月12日 14:21
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