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77-分からからねえけど、とにかく気合だ!

第七十七話 分からからねえけど、とにかく気合だ! 投稿者:兄貴 投稿日:09/05/23-23:29 No.3971
この状況を乗り越えられる手段が明確にあるわけでもない。

コレットたちは無茶だと叫ぶが最もな意見だろう。

正直何故恐怖が込み上げないのかが不思議な気分だった。

ひょっとしたら自分は昔からこの様な状況に慣れていたのかもしれない。そしてそんな状況が嫌いではなかったのかもしれない。

なぜなら恐怖の代わりに衝動が込み上げた。

自分よりも数倍大きな敵を前にして、シモンは口元を吊り上げながら立ち向かう。

そして魔獣も巨大な爪を振り上げてくる。


「さあいくぜ、デカ鳥! お前の行いは天が許しても、この俺が・・・「「「何やっているんですか(のよ)!?」」」・・・・へっ?」


「早く逃げるんですよ!!」


「立ち向かってどうにかなる相手ではありませんわ!」


シモンが立ち向かおうとした瞬間後ろ襟を引っ張られて、シモンは間一髪で魔獣の爪から逃れることが出来た。


「な、なにをするんだよ!?」


「それはこちらのセリフですわ! 魔法も使えないのに特攻してどうするのですか!?」


「とにかく無理でも逃げなきゃダメだよ!!」


「早く! またブレスが来ます!!」


シモンを抱えて三人は有無を言わさずにその場から飛び出した。

コレットも気合が最初は入っていたものの、森に来る勇気と、竜種と戦うのではまったくの別の話だった。

しかし獲物を見つけた魔獣が逃してくれるほど甘くは無い。直ぐに巨大な翼を使い後を追いかけてくる。


「バカ野郎! 逃げるのが無理なら戦って無理を通せ!」


「落ち着いてください! 同じ無理なら逃げることを優先しましょう!」


「何言ってやがる! 逃げてちゃ何にも掴めないんだよッ!!」


「!?」


「ん? このセリフどこかで聞いたような・・・、とにかく! 敵に背を向けるのだけはやめようぜ!!」


シモンがベアトリクスたちに抱えられながらも後ろから迫り来る魔獣に立ち向かおうと言い張るが、ベアトリクスとコレットは聞き入れずに箒のスピードを上げながら振り向きざまに呪文を放っていく。

しかしそのどれもが魔獣の障壁の前に消え去っていく。


「ダメだよ! 全然効かない!」


「くっ、・・・このままでは・・・・。しかし竜種を相手に我々だけでは・・・・」


ベアトリクスが歯軋りする中、ふと視線を横にずらした。するとそこには箒に跨りながらもブツブツと何かを呟いているエミリィがいた。


「お嬢様?」


「逃げては・・・・何も掴めない・・・・。背を向けるな? ・・・・・・上を見ろ?」


「?」


「・・・・・・・ぐっ!!」


「お嬢様!?」


「ちょっ、委員長!?」


その瞬間エミリィはもの凄い形相でUターンし、魔獣に真っ向から突っ込んでいく。後ろからコレットとベアトリクスが叫ぶがエミリィは構わずに突っ込む。


「タロット・キャロット・シャルロット!!」


「ちょっ!?」


「お嬢様! 詠唱の時間が足りません!」


魔獣に向かいながら強力な呪文の詠唱をしようとするエミリィだが、強力な呪文には相応の時間がかかる。その時間を与えてくれることなど実戦では難しい。

現に魔獣は鋭い爪でエミリィが詠唱を唱える前に攻撃しようとしている。


「させねえ!!」


「えっ!? シ、シモンさん!?」


「ア、 アニキ!?」


エミリィが魔獣の爪で切り裂かれるかと思った次の瞬間、シモンの体から螺旋力が無意識に溢れ出し、その力が背中に天に向かって突っ込むブースターが現れた。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


ベアトリクスとコレットがその変化に驚き、思わずシモンの体から手を離した瞬間、シモンの背中の仰々しい鉄の翼が火を噴きエミリィの体を掴み、魔獣の爪から逃れて遥か上空に飛び逃れた。


「こ、この力は一体!? シモンさん、あなたは一体・・・」


「分からからねえけど、とにかく気合だ!」


「私は真面目に! ・・・っていけません!?」


「まずい!? コレット! ベアトリクス!」


遥か上空にシモンに抱えられて逃れたエミリィは、目をパチクりさせてこの状況を知ろうとしたが、最早何が何だか分からなかった。

しかし考えている暇は無い。

真っ直ぐ向かったエミリィを高速で捕まえて上空に逃れたシモンの動きを魔獣は把握できずに、獲物が目の前で消えてしまったような感覚だった。

しかしまだ目の前には獲物が二人居る。

コレットとベアトリクスだ。

魔獣は構わずにそのまま二人に襲い掛かる。


「ちょちょ、来たァァーーーーー!?」


「くっ!?」


二人もシモンの力に一瞬呆けたものの、慌てて向きを変えて再び逃げ出した。


「コレット・・・・ベアトリクス・・・・そんな・・・・」


「直ぐに追いかけるぞ! あのデカ鳥を叩き落すぞ!」


シモンは直ぐに二人を救出するために動こうとするが、エミリィは悲しい表情を浮かべて肩がブルブルと震えている。

エミリィは空を飛ぶことが出来るはずだが、シモンが抱えた手を離せばこのまま無抵抗で地面に叩きつけられるのではと思うほど、エミリィの全身から力が抜けていた。


「お前何やってるんだよ! お前の仲間が危ねえんだぞ!?」


「そうです・・・・私の所為で・・・・私が・・・・私がこんなバカなことをしたから・・・・・・」


「おい! 泣いてる場合じゃないだろ!」


シモンの腕の中で涙を流すエミリィ。しかしその間にも魔獣は徐々にコレットたちとの距離を詰めている。


「クソ! 抱えて飛ぶのは少し重いけど・・・・・」


シモンは仕方なくエミリィを抱えたまま魔獣の後を追いかける。

シモンが背中の翼に火を付けて再び飛び出した。エミリィを抱えている分スピードは落ちるが仕方ない。

とにかく原理は分からないが「速く、速く」と心の中で叫びながら必死に空を駆けていく。

だが前を行く魔獣に追いつくには、もう少し時間がかかりそうである。


「おい、いつまでそうしてるんだ! 「ですがッ!!!」・・・・・?」


腕の中で泣くエミリィに声を掛けると、エミリィは泣き顔で腫らした顔を勢いよく上げた。


「ですが、・・・・全ては私のくだらないプライドと意地・・・そして無謀と無力が引き金にあなたたちを・・・・・」


「・・・・・・お前・・・・・」


「あの日・・・あの子に偉そうに説教をした挙句に破れ・・・・自分がただの大口叩きだと知らされて、・・・とことん自分の無力を実感させられ・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「立派な魔法使いへの道など、最初から私ごときでは・・・・私ごときでは進めない道だったのです!!」


プライドの高い彼女にとって生まれて始めての泣き言かもしれない。

エミリィはそれほど弱々しくシモンの腕の中で、自らを卑下しながら泣いた。


「・・・バカ・・・・」


「あっ・・・・・・・」


「バカ野郎・・・・・」


するとシモンは小さく呟いてエミリィの頭に手を置いた。そして子供をあやす様に軽くポンポンと叩く。エミリィも少しビクッとしたが、シモンのゴツゴツとした手に黙って撫でられ、胸の中に顔を埋めた。


「・・・私は・・・・何を信じれば・・・・・」


しかし次の瞬間エミリィの嗚咽が少し落ち着きだしたのを見計らって、シモンはエミリィの整った髪の毛を乱暴にクシャクシャに掻き乱した。


「な、なななにを!?」


「バカなこと言ってるんじゃねえよ! 躓いて転んだくらいで、歩くのを止めてんじゃねえ!」


「は、・・・はあ~~?」


「・・・・俺は良く知らないけど、お前は負けて少しだけ前へ進めたんじゃないのか?」


「えっ?」


「お前は負けて知ったことが山ほどあった。それはこれから克服していけばいいじゃないか。まだやり直しが出来るんだろうが! どこの誰かも分からねえ男の胸にいつまでも寄りかかってるんじゃねえ! 進んだ先にあるものを掴みたいからお前は今日ここに来たんじゃないのかよ?」


「ち、違います・・・・私は・・・私はただ・・・雪辱を晴らしたく・・・・ただの無謀な修行を・・・・」


「だったら晴らせ! 相手にじゃない! お前自身にだ! お前が見損なったお前自身を見返してやれ! お前が無謀だと決め付けたお前自身の常識を見返してやれ!」


シモンはそう言って魔獣へ向かって指を指す。


「俺も手伝う! 倒すぞ、あの魔獣を! 仲間を救ってなッ!」


しかしシモンに頷くことは簡単には出来なかった。


「ダ、ダメですわ・・・・私の・・・・私程度の魔法では・・・・」


散々思い知らされたのだ。

自分ではどうにも出来ないことなど自分が一番分かっていた。

しかし、そんな諦観はこの男が許さない。


「バカ野郎!! 魔法使いがテメエの魔法を信じられなくってどうする! お前の魂と気合をぶつけてやれ!」


「た、・・・・魂?」


「そうだ。魔法は、お前の魂だ! だから自分を信じろ! お前が信じて進んできたこれまでの全てを信じろ!」


その時シモンの頭の中で、砕け散ったと思っていた記憶の結晶が蘇った気がした。


[いいか、シモン。忘れるな・・・・]


自分に向かって語りかける男。


「いいか、エミリィ!!」


その時シモンは始めてエミリィの名前を呼んだ。

名前を呼ばれて少しドキリとするエミリィ。

そしてシモンは自然の流れに従い、記憶の欠片から流れてきた言葉をそのままエミリィに向かって叫ぶ。



「お前を信じろ!!」



[―――俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる――――!!]



「お前が信じる、お前を信じろ!!」



流れる記憶に従い、何の迷いもなく告げるシモンはエミリィの心の中に突き刺さった。


「ふっ・・・・ふふ・・・・」


「エミリィ?」


「ふふ・・・・ふふふ」


その時エミリィは笑った。

それはいつものように高飛車で高慢な笑い方ではない。

普通の年相応の少女のような笑顔でシモンを見る。


「似ていますね・・・・あなたは・・・・」


「似てる? 誰にだ?」


エミリィの脳裏に美空の姿が浮かぶ。

正確にはシモンが似ているのではなく、美空がシモンに似たのだが、知るはずも無いエミリィは思ったままのことを口にする。


「私のプライドを粉々に砕いたあの子にです・・・・。無茶苦茶なのに・・・・何故か筋が通っている・・・・」


「・・・・はは、そうなのか?」


「私をどん底に落としたあの子に似ているあなたが、今度は私を下から押し上げてくださるとは・・・・変な話ですわね」


少し自嘲気味に呟くと、エミリィはシモンの手から離れ、自らの力で箒に跨り空を飛ぶ。

並んで飛ぶエミリィの表情には、どんどん力強さが漲っていく。


「でも、そこから這い上がるのはお前次第だぞ?」


「当然ですわ! ・・・・・・誰に・・・・・誰に向かって言っているのですか!」


その言葉は以前のように自惚れから言った言葉ではない。

ハッタリでもない。

自分自身の力を知っても立ち向かおうとする、己を奮い立たせようとする言葉だった。

シモンも頷き、共に全速全快のスピードで魔獣の後を追いかける。


「シモンさん! 私が攻撃して魔獣の障壁を上にずらします。貴方はその隙に魔獣の弱点である角を攻撃してください!」


「弱点だと?」


「ええ、魔獣の頭部にある角を刺激すれば魔獣といえども只では済まないはずです。」


「なるほど、連携攻撃ってわけだ」


「ええ、・・・・・危険かもしれませんが・・・・その・・・」


するとエミリィは少し顔を赤らめながらシモンに告げる。


「て、手伝ってくれるのでしょう? 魔法使いの魔法を生かすも殺すもパートナーの役割なのですよ!」


「パ、パートナ~~?」


「そそ、そうですわ! 何か問題でもあるのですか!?」


「いや・・・・まあ・・・別にいいけど・・・・まあ、どうでもいいからさっさとやるぜ! コレットたちがやられちまうぞ!」


「ええ! では行きますわよ!」


二人は互いに笑いあい、短時間で互いの役割を決め頷き合った。


「では、あなたが信じるに値する方かも見定めさせてもらいますわ」


「ああ! それじゃあ、いくぜ!」


シモンとエミリィはそのまま分散した。

エミリィはそのまま魔獣の上空で詠唱を唱える。そしてシモンはスピードを上げて魔獣を追い越し、コレットとベアトリクスの正面に止まり、魔獣を迎え撃つ。


「アニキ!」


「シモンさん!」


急に前に現れたシモンを思わず追い越してしまう二人。しかしシモンは追い抜いていった二人に振り返ったりせず、直進してくる魔獣を真正面から身構える。

そして同時に空から氷の雨が降り注がれる。エミリィの魔法だ。


「氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!!」


氷の弾丸が雨となって降り注ぎ、魔獣は思わず直進を止めて真上に障壁を集中させてエミリイへと視線をかえる。

その隙をシモンは待っていた。

多少の被弾を覚悟でシモンは魔獣へ向けて飛び掛かる。翼のスピードを加速させ、魔獣の角を目掛けてとび蹴りを放つ。


「よくも俺の妹分たちをキーック!!」


「だ、誰が妹ですかァ!?」


スピードに乗ったシモンの蹴りが角を目掛けて一直線に入る。

技名は考え物だが、意外と強烈に音を響かせるシモンの蹴りに、コレットもベアトリクスも振り返りながら口を開けて驚く。エミリィも小さく拳を握り締めてガッツポーズをする。

だが、


「クアウウウーーーーッ!?」


「なっ!?」


「危ない!?」


「アニキィーーーー!?」


シモンの蹴りは間違いなく強烈だった。

魔獣の角をへし折るとまでは行かなかったが亀裂が入っている。

しかし、そのことに驚いたのか、魔獣は身を捩じらせて暴れ、その拍子にその鋭い爪でシモンをなぎ払い、シモンは木々をなぎ倒しながら激しく飛ばされた。


「ぐわああああああああ!!」


激痛のあまりに絶叫するシモン。

シモンは腹から肩に掛けて魔獣の爪で斜めに表皮を切り裂かれ、シモンの悲鳴と夥しく血が吹き飛んだ。


「シ、・・・・シモンさ!?・・・・・」


「・・・・・・・そんな・・・・・・」


「アニキ・・・・・・・・・・」


森の奥深くへとなぎ払われたシモン。


「アニキ! アニキィーーーーッ!?」


あれほど激しく森中に響いていた音が、コレットの叫びを除いて一瞬で静寂へと変わった。

なぎ払われたシモンを見て、エミリィもベアトリクスも呆然としてしまっている。

その衝撃は昨日今日シモンと知り合った彼女たちにも衝撃だった。

だがしかし、


「ちっ・・・ごふッ・・・・・・・気合が・・・まだ・・・・・足りねえか・・・・・」


「アニキ!?」


「だ、大丈夫ですか!?」


吹き飛ばされた場所で、木々の山の中から体を起こすシモン。

無事だったことに安堵したコレットたちだが、シモンの足元に流れる夥しい血と、体に残った激しく抉り取られた魔獣の爪あとがコレットたちの顔を蒼白させた。

しかし魔獣は生きていたシモンを見て、再び羽を広げてシモンに向かっていく。


「くっ、タロット・キャロット・シャルロット!!」


「アニキ!?」


「まずいです!?」


一瞬の動揺に反応が遅れた。

このままではシモンが殺されてしまう。

しかしこの時、立ち上がったシモンに異変が起こった。



[どうした。お前の――もタネ切れか?]



(・・・・・・ これは・・・・・・・)



時々ある。

自分の頭の中に映像が流れてくることが。

しかし今回はいつもと違う。

いつも映像は首から指輪と共にぶら下げているコアドリルから流れてきていたが、今回は違う。

そして今まで見覚えの無かった映像ばかり見せられていたが、今回見る光景は見覚えがあった。人物だけでなく、その時の場面がシモンには見覚えがあった。


螺旋の炎を燃やした男が圧倒的な力を見せ付ける光景。



(ああ・・・・・これは・・・・たしか・・・・)



そしてまた場面は変わる。



[お前にそいつは似合ってるぜ。――はお前の魂だよ]



青い髪、と背中に刻んだ炎のような刺青で心を熱く燃やす男が自分に向かって言っている。



(ああ、・・・・分かる・・・これは・・・・これこそ・・・・)



シモンには一瞬で理解できた。



(俺の・・・・過去か・・・)



今まで見せられていた訳の分からぬ光景と違って、これこそが間違いなく忘れた自分自身の記憶だということを。


そして・・・・・



[シモンが何とかしてくれます]



「!?」



可愛らしい微笑を見せる少女。

その笑顔は真っ暗な闇の中ですら、彼女の周りだけが輝いて光が差してしまうのではと思えるほどの輝かしい笑顔。



[なぜならシモンの――は・・・・]



シモンを信じ、只信じ、誰より信じている瞳で彼女は指を天に向かって突く。



[お前の――は・・・・]



男も天に向かって叫ぶ。


そして・・・・



[俺の――は・・・・・]



ボロボロになってもなお立ち上がろうとするその姿。間違いない。それは自分自身だ。

何度も何度も躓いては立ち上がり、何度だってあきらめずに叫んだ。



「俺の・・・・、俺の・・・・・・・・」



流れる血と痛みを気にせずにシモンはブツブツとつぶやく。その間にも止めを刺すために魔獣が向かってくる。


「させませんわ! 氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」


氷の雨に続き、氷の星が今度は空から降ってきた。

エミリィの仕業だ。

魔獣の視線がシモンに逸れた瞬間、逸早く冷静さを取り戻し、強力な呪文を詠唱して真上から突き落とす。

この攻撃は流石に予想外で、魔獣の障壁を突き破り直にダメージが入った。

激しくのた打ち回り鳴き出す魔獣。


「委員長、スゴ!!」


「私たちも援護しますよ!!」


コレットとベアトリクスが今のうちにと無詠唱で休みなく攻撃を放つ。


「いつだって・・・・風穴開けて突き進む・・・・それが俺の・・・ドリ・・・だ・・・・。俺の・・・・俺のッ!!」


激しく魔法が飛び交う中でシモンは未だにブツブツと言っている。

そしてやがて顔を上げて一切の迷いの無い目で手をかざし、その手に緑色に輝く光が集い、シモンの魂が具現化される。


「えっ!?」


「それは!?」


「アニキ!?」


突如光を発してシモンの手に出現した物体。シモンはそれを魔獣に向けて叫んだ。



「俺のドリルは、天を突くドリルだァーーーーーーッ!!!!」



体と心と魂は覚えている。その力は何のためにあったのかを。

シモンは出現した自分の代名詞とも呼べるドリルを、今ある目の前の壁に向ける。

激しく回転してシモンと共に突き進むドリル。

シモンは魔獣の角を目掛けて突っ込んだ。

その姿にエミリィたちが何を思ったのかは分からない。

そんな魔法も能力も力も見たことも聞いたことも無い。

ただ、一つだけ分かったことがある。それは三人とも同じだった。

自分の胸がかつて無いほど熱くなっていることだ。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


雄叫びを上げながら障壁にヒビを入れていくシモン。その口元に笑みが浮かんでいる。


「悪いな、デカ鳥! テメエが俺の壁となって立ちはだかるなら、何度だって風穴開けて突き破らせてもらうぜ!!  それが、・・・それが!」


しかしその時胸元のコアドリルが再び光った。

嫌な予感が不意に過ぎった。

再び自分の頭の中に何かが流れ込んでくのが分かる。

自分の記憶ではない記憶。

コアドリルが見せる遥か昔の記憶。その記憶には良い予感がしなかった。



―――愚かだな・・・・その力が破滅への道だと気づかぬとは・・・・・



(ぐっ・・・・何だよ!? 人がせっかく作業中だってのに・・・・)



突如流れる光景にシモンは顔を歪める。



――その行いが人類を・・・宇宙を破滅へと導くことも気づかぬとは・・・・



(くそ、・・・・・何だってんだよ!!)



――突き進むことを美と想い、己の本能すら制御できない愚かなる種、それがお前たちだ。私は何度も見てきた。進んだ先に待っていた絶対的絶望に飲み込まれた螺旋族の歴史を全て・・・・「うるせんだよっ! 人の頭の中でゴチャゴチャ喚きやがって!!」


ドリルを回転させながら、シモンは頭の中に流れる言葉を自分の叫びで追い払った。



「突き進んで何が悪い! テメエを偽らずにいて何が悪い! お前が何を言いたいのかまだ思い出せないけど・・・・こいつが掘るのは破滅への道じゃない! こいつが掘るのは・・・・こいつが掘るのは・・・」



そして障壁を破り、魔獣の角に目掛けて飛び込んでいく。だが言葉を叫ぼうとしたシモンの頭の中に、また言葉が流れ込んだ。



――それこそが破滅への道。螺旋族の罪・・・・これが真実だ・・・。



「っ! ・・・・ったく、頭に響く・・・・・ネチネチめげない奴らだ。だけど今は・・・・・掘り抜けさせて貰うぜ!!」



黒く闇の言葉をなぎ払い、シモンは掘り抜ける。

次に見た光景は角を折られて横たわる魔獣の上で、ドリルを天に翳すシモン。

エミリイたちにはその時のシモンは、まるで太陽の光を一身にスポットライトのように浴びているように思えた。


「ほ・・・・・本当にやってしまいましたわね・・・・・・・」


「・・・はい。・・・あんな力・・・私も見たことがありません。本当に・・・・・彼は・・・・彼は何者でしょうか?」


ドリルを片手に立つシモンの姿はこれまで見てきたどの魔法使いとも戦士とも違う。一瞬だが、光を浴びるボロボロの男に彼女たちは見惚れてしまった。


しかし当の本人は少し浮かない表情だった。


「なんだろうな・・・、せっかくピンと来たのに・・・・・スッキリしない。頭の中に響くあの声が・・・・進む俺の後ろ髪を引いた・・・・」


再び手にした自分の魂であるドリルに触れてみる。その重さと感触は、まるで自分の一部のように感じた。

だが、この魂を認めないものたちの声が、先ほどからずっと流れてきた。


「なあ、・・・・お前は・・・どんな壁にぶつかったんだ? 俺は・・・ドリルは・・・・そこまで罪深いのか?」


壁を突き破ったのにスッキリしない、そんな心の中の戸惑いが今のシモンにあった。

コレットたちの興奮も少しずつ収まり、先ほどとは打って変わって静かになったシモンに首を傾げている。コレットたちはシモンから少し声の掛けにくい雰囲気を感じ取ったが、シモンは取り合えず螺旋力で作り出したドリルを消し、全身の力を抜く。


(記憶に出てきたアイツら・・・・アイツらは何をドリルに見たんだろう・・・・・。そして・・・・以前の俺はどんな答えを出したんだろう・・・・)


問題文すら理解できない問題の答え。そんなものを今のシモンが導き出させるはずが無い。しかしその内記憶を取り戻せると聞いても、ジッとしていることがどうしても出来ない。


(破滅への道・・・・この世界がそうだって言うのか? ドリルの力がこの世界を破滅に導く? そんなこと・・・・そんなこと信じられないや・・・)


細かいことを気にしない、それがこの男だ。しかし強制的に見せられた記憶の欠片と絶望への示唆がシモンの頭の片隅から離れなかった。


ドリルとは何だ?


破滅とは何だ?


自分は何者だ?


まるで今まで住んでいた場所から放り出された子供のように、いくつもいくつも疑問が沸き起こる。


(この世界は・・・・破滅の道に続いているのか?)


シモンは拳を握り締め天を見る。しかしそこにあるのは、まったく見覚えの無い空しかない。記憶を失っているとはいえ、そんなことがありえるのか不思議だった。

だからこそ思う。

この世界をもっと知りたいと・・・・・・


「あの・・・・・その・・・・・アニキ?」


「・・・・・・えっ、ああ、コレット。ゴメンよ、少し考え事」


「いや・・・・それはいいんだけど・・・・その・・・・」


「?」


「・・・・・それ・・・大丈夫なの?」


そう言って恐る恐るコレットが指を指した先には、魔獣の爪により深く抉られたシモンの痛々しい腹と、激しく流れる血だった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



シモンも今気づいた。

その瞬間汗が全身から一気に吹き出た。



「だ、・・・・・大丈夫なのですの?」



引きつりながら尋ねるエミリィ。しかし答えなど決まっている。


大丈夫なわけが無い。


「・・・・い・・・・・痛すぎる・・・・・・ガクッ・・・・・・・」


「ア、アニキィーーーー!?」


「いいい、急いで治癒魔法を!? い、いえ、急いで学園に!?」


痛みに気づいたシモンは、認識した瞬間出血多量でそのまま倒れた。





魔獣に襲われた時並に動揺し、右往左往する少女たちだが、一刻も早く学園に帰るべきだと三人の中では唯一冷静さを保っていたベアトリクスの言葉に従い、急いでシモンを学園まで移送した。


学園に帰還すると、エミリィの救出に向かおうとする教師陣と鉢合わせになり、即座に行われたプロによる治療活動によりシモンも一命を取り留めた。


その際エミリィやコレットたちは、今朝シモンと出会ったクラスメートたちと共に、シモンの無事に涙を流しながら抱き合い、安堵した。


色々とあったが今回の一軒でシモンは生徒たちにとって、とても心の近い間柄になったのかもしれない。シモンの無事に安堵する彼女たちの様子は、決して昨日今日初めて会っただけとは思えぬほどに教師たちは感じていた。


そのことが更に深まった事件がその直ぐ後にあった。


それはエミリィに対する処分である。


禁則事項を破っただけでなく、一般人でもあるシモンやクラスメートを危険に晒したのである。相応の処分、退学の可能性も大きくあった。エミリィ自身も潔く処分を受け入れる覚悟だった。それが自分のケジメだと思っていた。


しかし巻き込まれたシモン本人と、コレット、ベアトリクスによる処分に対する断固反対があった。巻き込まれた本人たちの反対、そして森の竜種を倒すという功績、そして一番被害を被ったシモンの一言が教師たちの決断を揺るがせた。


「エミリィの魔法が、俺たちを救ってくれたんだよ」


そう言われてしまえば、どうすることも出来なかった。


そのため結局エミリィの処分は停学三日という比較的軽く収まったのだった。


その時、赤くなった顔を逸らしながらも素直に小さく「ありがとう」と呟くエミリィの姿はコレットたちの心に残ったのだった。



こうして学園に緊張を走らせた事件は、大々的な問題にはならずに極めて小さな問題として片付けられたのだった。







後書き。

意外と早くドリルを出しましたが、シモンの記憶喪失は当分続きそうです。色々と考えていますが、その色々に時間がかかりそうです。しかし今のシモンも受け入れてもらえたのならうれしく思います。

さて、この第二部に入って話の流れは大まかに考えていますが、そろそろ別に考えていかねばならないのがあります。それはシモンへの恋愛をどうするかです。第一部であんな状態ですから、第二部は更に踏み込むべきなのでしょうが、私自身がニアを大好きなため、どうしても安易にしたくないのですが、恋愛に時間も掛けたくない。しかしネギまは気づけば恋愛になってしまう・・・・不思議だ・・・。そう考えると超鈴音、そして美空の二大ヒロインとシモンとの恋愛抜きの絡みはマジで書きやすかったです。

しかし後日談でも色々やってしまったので、ネギまを書く以上避けて通れぬ道としてニアファンの反感を受ける覚悟でどうにかせねばと最近思います。

というわけで早速次回の話では、せっちゃんがぶっ壊れます。

エミリィ? 別にフラグは立ってませんよ? ・・・・・・・多分。

私はシモンハーレムにはしないつもり・・・・・・とは最近言えないですけど・・・・・・

まあ、とりあえず次回は肩の力を抜く話です。
最終更新:2011年05月12日 14:22
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