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82-どちら様でしたっけ?

第八十二話 どちら様でしたっけ? 投稿者:兄貴 投稿日:09/06/16-22:39 No.4007
それはシモンがグラニクスに運ばれ、まだ意識が戻らずに寝かされていた頃の話。

シモンが忘れた現実世界の友たちがこの世界に足を踏み入れて間もなく、窮地に絶たされていた。


舞台はグラニクスよりも遥か東、首都メガロメセンブリアに移る。


首都にあるゲートポートは現実世界と魔法世界の二つの世界を結ぶ道。だがその架け橋が今まさに壊されようとしていた。


そこには未来の英雄が初めて訪れたこの世界の空気に浸る間もなく現れた宿敵に向かって歯軋りしていた。


不意を突かれて重症を追った少年。それはネギだった。


父親探しのために期待と興奮で胸を膨らませながらようやく一歩踏み込んだ新たな世界を見た瞬間に、ネギは背後から襲われた。


彼の肩は敵の攻撃により石槍が右肩を貫通していた。致命傷は間違いない。


しかしネギは両の足で地面に踏ん張りながら、目は鋭く敵を睨みつけていた。



「何故・・・・何故君がここに!?」



ギリッと歯を食いしばりながらも自分を襲った敵を見る。

そしてネギと共にこの世界を訪れた仲間たちも、ネギに必死に駆け寄り、恐怖と怒りと混乱を滲ませながら、近づいてくる白髪の少年を睨みつける。



「なんなのよ・・・・なんなのよ、アンタたち!?」



かろうじてその一言をアスナが叫ぶ。

すると対する白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスはアスナの叫びを無視して、ネギたちを一通り見た後に口を開く。



「・・・・シモンはどうした?」



「えっ?」



「「「「「「!?」」」」」」



その一言にこの場に居た全員が肩を震わせた。



「どうして君たちだけしか居ないんだい? シモンはどこへ行った?」



フェイトの言葉に誰もが悔しそうに歯を食いしばる。

そう、フェイトは知らないのだ。

シモンは自分たちとは一緒に居ない。

自分たちを残して彼は故郷へ帰ったのだ。

もし居たのならどれほど頼もしいだろう。どれほど安心できるだろう。彼が居たならこの状況すら苦も無く乗り越えるはずだ。

そんなことはネギたちが一番分かっていた。

しかしシモンはここには居ない。だからネギはフェイトを睨みながら口を開く。


「シモンさんは・・・来ていない・・・・」


その一言はフェイトの興味を削ぎ、少しだけため息をついた。


「そうか・・・来ていないのか。偶然とはいえ君たちと会ったのだから決着をつけようかと思ったが・・・・。彼は来ていないのか」


「偶然!? 偶然ってどうゆうことよっ!?」


「言葉の通りさ。僕の本来の目的はここ、ゲートポートの破壊だ。君たちは無関係さ。ネギ君が僕の気配に気づかなければ見逃していたんだけどね」


「「「「「!?」」」」」


まるで当たり前のように簡単に人を傷つける。

まったく表情を変えずに冷たい言葉を言うフェイトにのどかや夕映たちは足が竦んでしまった。

だが、それなりに実戦経験の多い刹那たちは、木乃香やのどか達の様な非戦闘員を後ろにやり、力の差が分かりながらも勇ましく敵に構える。


「・・・・お嬢様下がってください!」


「小太郎・・・相手は強敵でござるよ」


「ああ、分かっとる」


だがそんな彼女たちの力も勇ましさもフェイトにとっては無にも等しかった。

するとフェイトはやれやれといった感じで、指に嵌めた指輪を光らせてネギたちに告げる。


「どうせならシモンも居れば良かったが・・・・仕方ない。君たちはこの場で僕が舞台から退場させてあげよう」


その言葉を遮ろうと、既に重症のネギが刹那や小太郎たちよりも早くにその身を奮い立たせ、フェイトに向かっていく。

その背中を追いかけるように刹那や楓、小太郎にアスナ、そして古が続く。



「仲間に手は出させないぞ。僕を誰だと思っている!!」



今この場にシモンは居なくとも自分が居る。

決して誰にも手は出させないと叫びながらネギは向かう。

しかし対するフェイトは相変わらずの無表情で、ネギの決死の特攻すら冷静に返す。



「ふん、・・・・・・今の君は誰でもないさ」



この数分後にメガロメセンブリアのゲートポートが破壊されたことが魔法世界全土に知れ渡る。


首都のゲートを破壊した歴史的なテロリストたちの正体は、幼い少年少女達として、その素顔と名前を公表された。


これがシモンの知らない間に起こった魔法世界の大事件の一つ。そして始まりでもあったのだった。





首都のゲートの破壊。それはたしかに魔法世界にとっては大事件であるが、この世界に住む者たちにとってはそれほどの問題でもなかった。


現実世界、この世界では旧世界と呼ばれる世界とは殆どの者に縁が無い。それゆえ一度壊れたゲートの修復に数年掛かるといわれても大して困ることは無かった。


困るのは・・・・・


「うぎゃあああああ、帰れねえええええ!?」


「帰れナイ・・・・・・・・・アニキ・・・・」


「ぎゃああああ、いくら私の速さでもこれはどうにも出来ねえッ!? どうすりゃいいんだァーーーッ!? このままじゃ留年しちまう~~~ッ!?」


「グスッ・・・・アニキと・・・・・・・会えない・・・・・」


「泣くな~~~ッ!? つうか私も泣きたいっすよーーーッ!?」


と泣き叫ぶ旧世界からの訪問者ぐらいのものだった。




だがこの事件で影響を受ける者も居た。



「男なんて・・・・男なんて・・・・」


「お、お嬢様・・・・」


「男なんてみんなバカばかりですわーーーーーッ!!!」



首都より遠く離れたアリアドネーの地で、エミリィは天に向かって大声で叫んでいた。

その様子にベアトリクスも心配で口を挟もうとするが、有無も言わせぬエミリィの気迫に圧され、なかなか声をかけることができなかった。

それほどエミリィは荒れていた。

先週までは荒れるどころか部屋に引きこもっていたエミリィ。

そして数日前には照れながらも純情な可愛らしい女の雰囲気を出したエミリィが今度は荒れていた。


「お、落ち着いて下さい! アニキさんにはきっと何か事情が・・・」


―――ギロッ!!


「うッ・・・」


ベアトリクスの言葉にエミリィはもの凄い殺気で睨みつける。そして次の瞬間不気味に笑い出し、ベアトリクスの鳥肌を立たせた。


「ふっ、・・・ふっふっふ・・・・アニキ? それはひょっとして人に散々言いたいことを言って、別れも告げずに消えたあの方のことですか?」


「お嬢様・・・・」


「あ・ん・な・薄情な男をあなたはまだ兄と呼ぶのですか?」


「も、・・・・申し訳ありません・・・・・」


「まったく。もう顔も見たくありませんわ、あんな男! やはり私の認める殿方はナギ様だけですわ!」


結局シモンは帰ってこなかった。

いくら探しても見つからなかった。

エミリィだけではなくコレットやベアトリクスもシモンを探し、帰りを待ち続けたが、シモンとブータの痕跡はアリアドネーには何も無かった。

ただ彼女たちの胸に穴だけ開けて、シモンは姿を消した。


(お嬢様・・・あんな風に言っていますけど・・・・本当は・・・・)


何があったのかは分からない。

ひょっとしたら何か事件に巻き込まれた可能性も高い。

だからこそベアトリクスは分かっていた。

エミリィの言葉と態度は、シモンのことを気が気でない態度の表れなのだと。

その証拠に一頻り叫んだ後のエミリィはとても寂しそうに天を見上げている。


(まったく・・・あなたは女にこれほど心配させて・・・・・)


ギュっと拳を握りながら、エミリィは決して口には出さない本音を、心の中で呟いていた。


(どこに・・・・どこに行ってしまわれたのですシモンさん? どうしてナギ様といい、男はこうやって女を悲しませるんですの? ・・・・・早く帰ってきてください・・・・)


行く当てのない言葉を心の中で何度も呟きながら、エミリィは目に浮かび上がって来る水分を決してこぼさないように上を見続けた。

心は下を向いているが、決して下を向かずにシモンが言ったようにエミリィはずっと上を見続けた。


するとその時生徒たちの騒ぎが聞こえてきた。


「た、大変大変!? コレットが・・・・コレットがまたバカやったって! 箒に乗ってたら人を轢いちゃったんだって!」


それは突然の出来事だった。

状況は分からないが、コレットが過ちを繰り返したということだけは分かった。


「ええ~~!? それでその人は!?」


「そうそう、どうなったの?」


生徒たちが集まり、状況を聞きだそうとしていた。エミリィとベアトリクスも少し気になり離れた場所から聞き耳を立てる。

すると・・・


「記憶喪失だって・・・・」



「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」



「・・・・お嬢様?」



一瞬の間を置き、その沈黙をエミリィが破った。



「男と・・・・記憶喪失という設定なんか信用できませんわーーーッ!!」



「不憫な・・・・・」



しかし今回の事件がキッカケになり、エミリィもベアトリクスも近い将来シモンと再会することになる。


今回のコレットが轢いてしまった人物との出会いと縁が、再びシモンと結びつくことになる。


だが、その時の再会は実に大きな混乱と修羅場と女たちの戦いを巻き起こすことになる。


なぜならシモンによって心に穴を空けられた少女たちが一斉に会合するからである。


シモンが無意識に立てた全てのフラグの道が捻って交わる恋愛道の果てでの再会だからで
ある。






確実に大きく流れ出した魔法世界。


そのキッカケを作ったとも言える男は再び立ち上がった。


「気分はどうなんだよ?」


「ああ、・・・まだ結構体が重く感じるけど動けなくはない。心配かけたみたいで悪かったな、サラ、ブータ」


目覚めたシモンにうれしそうにすり寄るブータ、そして最悪の事態を回避できたことに安堵の表情を浮かべるサラ。

サラが目を覚ました時には既にシモンは起きていた。

体中に痛々しく包帯が巻かれているが、それでもその表情は決して悪くはなかった。それがサラにはうれしかった。


「へへ、とにかく死んでなければ安心だ。あんまり無茶すんなよな」


「ああ、今度からは気をつけるよ。俺も死ぬのも痛い思いをするのも嫌だしな」


「そうだよ。お前はケータロみたいに不死身じゃないんだからさ♪」


「ケータロ?」


「ん? ああ、こっちの話だから気にすんな」


万全とはいえないが、体を起こし動くことは出来そうである。昨日まで死に掛けだったと考えれば、十分すぎるほどの回復である。


「まあ、でも目が覚めてくれて安心だ。その様子なら・・・・特に何か問題があるってわけでも無さそうだな」


「ああ、お前の看病のお陰だ。ありがとな」


「うっ、・・・・・へんッ、何笑ってるんだよバーカ!」


「バ、バカ! 蹴るな!?」


「ふっ、ふんだ! シモンのクセにかっこつけるからだよ~。・・・・・・ちょっとかっこよかったけど・・・・」


「ん?」


「な、何でもねーよ。無事で良かったなって言ったんだよ!」


シモンの素直な感謝の気持ちにサラは顔を赤くしてソッポを向いて素直に受け取れなかった。

だが、それでも気持ちはうれしく、僅かにシモンに見えないようにサラの口に笑みが浮かんでいた。

そしてサラはもう一度シモンの様子を一通り見る。

体は少し重そうではあるが、意識はハッキリしている。あれほどの死闘の末のあとにも関わらず、何か重大な問題があるようには素人の目から見てもあるとは思えなかった。

これもサラの看病の他にも、この世界の医療技術と買い取った薬の質の高さが伺える。

だからこそサラも安心し、まだ万全ではないシモンにいきなりだが本題を告げる。


「まあでも・・・・・なあ、・・・その・・・・さっそくでワリーけど・・・」


「何だ?」


「無茶すんなって言った傍から悪いけど、さっそく少し無理にでも動いてもらうぜ」


「えっ?」


「・・・・・・・・・・逃げるぞ」


「?」


あまりにも急すぎる言葉にシモンの頭はついていかなかった。思わず首を傾げてしまうが、サラはいたって真面目だった。


「逃げる?」


「そっ。お前も心配いらないみたいだし、さっさとこっから逃げんぞ」


それだけを言ってサラは黙々と自分の荷物をカバンに詰め込み始め、旅立つ準備を始めている。

そしてシモンのコートとゴーグルをシモンに投げつけ、準備を着々と進めだした。

しかし急すぎる展開にシモンはどうすればいいか分からず、準備を進めるサラの手を無理やり止めた。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。逃げるって何でだよ。ここに何かあるのか?」


「ああ~~、ここに・・・うう~~ん、まあ、あるんだよな~。法律というか・・・借金というか・・・・」


「・・・・・・・・・・・・借金?」


借りた覚えも貸した覚えもシモンにはなかった。

するとサラは少し言いづらそうな引きつった笑みを浮かべながら口を開く。


「ああ~~、その~~、・・・お前の~・・・・・」


「ん?」


「だから~、・・・・その・・・なあ・・・・」


まさかシモンが寝ている間に止むを得なかったとはいえ奴隷契約をしてしまったということをどうやって伝えようかと悩むサラだったが時間の余裕は無かった。

自分たちが首輪を嵌められるまでの監視役の男が、近づいてきたのである。


「おい、もう起きてんだろ? さっそくだが首輪を嵌めてもらうぜ!」


扉の外からトサカの声がした。


「なっ!? あの野郎もう来やがったのかよ~」


「・・・・・・・・・・・・・・・首輪?」


状況を把握できないシモン、そして舌打ちをするサラ。だがシモンにゆっくり説明している暇は無い。

あきらめたサラは頭を掻き毟りながら、開き直るしかなかった。



「だああ、細かいこと気にするなよな~! とにかく逃げるぞ! 充電完了、来いメカタマ31号!!」


「お、おいおいおい!?」


説明することが出来ないサラは答えを有耶無耶にしたまま、リモコンのスイッチを押した。

すると部屋の壁が壊れ、外からメカタマが顔を出した。

そしてサラはそのまま荷物を抱えて、シモンの腕を掴み取り、無理やりメカタマの甲羅の上に登る。

本来なら色々と計画を立てて逃げようと思っていたが、借金をして奴隷になるということをシモンに説明できず、言葉に詰まったサラは開き直った。


「へへ~ん、そんじゃあいくぞ~シモン! 乗れ! 若者は自由を目指すんだぞーーッ!!」


「お、おおーいッ、サラ!?」


「行けえーーーッ!」


急展開過ぎてシモンは頭が追いつかず、されるがままだった。

壊した壁の向こうに広がるグラニクスの街並み。

そこはシモンが知らない世界である。

その街並みを駆け出そうと、サラがメカタマを動かそうとした瞬間、部屋の扉が開いた。


「おい! 一体何の音・・・・ぶほッ!?」


入ってきたのはトサカだった。

メカタマが部屋の壁を壊した音は外まで聞こえ、慌てて扉を開けたのだろうが、トサカが扉を開いた瞬間、頭上から土器がトサカの頭に落ちてきた。


「ぐおお、痛てえええッ!?」


「お、おい!? 誰だ? それに何だ!?」


「へへ~ん、見たか! 昨日の仕返しだい! 」


頭を強打したトサカが部屋の中でうずくまると、サラがガッツポーズをしてトサカを見下ろした。

どうやら部屋の扉にサラが罠を仕掛けておいたようだ。

そしてサラはそのままメカタマを起動させ、人が行き交うグラニクスの街並みへ飛び出した。


「おいおいおいーーッ!?」


シモンが少し情けない声を出すがサラは気にしない。サラはその巨体なメカをまるで手なずけた猛獣のように自由自在に操作して、街を駆け巡る。

突如現れた謎の物体と甲羅に乗った二人の男女の姿に当然街中が注目を集めている。

メカタマを避けたり、振り返ったりと街中が少し騒がしくなる。


「さあ、行っくぞォーーーっ! この街を飛び出したら自由がある! 奴隷なんかに、なってたまっかよーーーッ!!」


「サラーッ!? 頼むから状況を教えてくれよーーッ!?」


「気にすんな! 逃げ切ったら教えてやんよ!」


メカタマに乗り二人は街の外へと目指し突き進む。状況が理解できないシモンだが、少しこの状況に何かを感じ取った。


(あれ・・・・なんか・・・これと似たようなことがどこかで・・・・)


それは不意に思ったことだった。

今のこの無理やりの脱走劇を、以前にもどこかで経験したような気がした。

その時もメカタマぐらい大きな動物の群れの背に跨って、自分とそしてもう一人と共に何かを目指して突き進んでいたことがある。


(そうだ・・・そして・・・今のサラみたいな言葉を聞いたんだ・・・若者は・・・若者は・・・地上を・・・・・)


シモンは覚えていないがブータは覚えている。

地上の存在を信じ続けたカミナが、シモンを無理やり同行させてブタモグラの背に跨り地上を目指したときがある。

たしかあの時もこの様に注目を集めていた気がした。

どこか懐かしい気分になったシモンとブータ。

だが、似たような状況は仮定だけではない。結果も似ていた。

かつて地下から脱走しようとしたカミナとシモンだが、最後の最後で村長に邪魔された。

そして今回も最後の最後に立ちはだかれた。


「なにやってんだいアンタたち!!」


立ちはだかるのはメイド服の巨大な獣人。

それは奴隷長だった。


「どけーーーッ、着ぐるみ!!」


サラが叫ぶがその言葉にカチンと来た奴隷長は目がキラリと光り、拳を振り上げる。


「生意気な小娘だね! 元拳闘士を舐めんじゃないよ!!」


「だから、状況を教えてくれよーーーーーーッ!?」


勇ましく叫ぶサラ。しかし二つの影が重なった瞬間、街中に鈍い拳骨の音が二発響き渡った。


「「ぐほおッ!?」」


魔法世界は侮りがたし。

メイドもまた現実世界の常人を遥かに超えた力を持っていた。

サラとシモンはデカイたんこぶが頭にでき、そのままメカタマの甲羅の上から放り出されてしまった。

地上に叩きつけられるサラとシモン。

二人を見下ろしながら奴隷長の女は両手を腰において、仁王立ちした。


「まったく、最近の新入りは立場も弁えないのかい?」


見下ろされる二人は体を痙攣させながら殴られた頭を抑えていた。


「いって~~~~・・・・もう少しだったのに・・・・・・・・・」


「だ・・・・だから状況を・・・・・・」


結局最後までシモンは何が何だか分からなかった。


「へっ、でもこんなんで、まいったなんて言わないからな~~」


だが、これしきのことでへこたれるサラではない。

サラは痛い頭を抑えながら即座に立ち上がり、服の中から取り出した何かを地面に投げつけた。


「煙幕弾!!」


「ちょっ、また逃げる気かい!?」


サラが投げた煙幕弾が煙を上げて視界が遮られる。

そしてサラはメカタマの甲羅に乗り、シモンのコートの襟元を掴み、再びメカタマを発進させる。


「おい、ママ!? 新入りはどこだよ!?」


煙を掻き分けて咳き込む奴隷長。するとサラの罠に掛かっていたトサカがようやく追いついた。


「トサカ、あいつら逃げ出したよ! 何やってんだい、まったく。さっさと追いかけな!!」


「ちっ、アイツら舐めたマネしやがって・・・・・。拳闘士のネットワーク使って、街を包囲してやる! 絶対に逃がさねえぜ!」


トサカは直ぐにメカタマを追いかけ、街中の仲間たちに手助けを要求する。

その言葉を聞いたトサカの仲間のチンピラたちが挙って街の中心部を目指し始めた。


「やっほ~う、ドケドケーーー!! サラ様とシモンのお通りだぞォ!!」


そんな状況をまったく知らないシモンは、目をパチクリさせながら笑うサラに連れまわされていた。


「サラァ、何で俺たち追いかけられているんだ!? 何か俺が寝ている間にあったのか?」


「ん、そりゃあ・・・・・あいつら・・・・・私が可愛いから・・・」


「はっ?」


「そ、そう! あいつら私が可愛いから賞金首ってことを脅して、自分の言うことを聞く奴隷にしようとしている変態たちなんだ!!」


何故かシモンの所為で借金したとは言うことができず、サラは不意にメチャクチャな嘘をついてしまった。


(・・・って、いくらコイツが単純バカでもこんな嘘信じるわけ・・・・)


言って後悔したサラだったが、そんなことは無かった。


「なんだって!? ふざけんな! そんな理由でサラが奴隷にされてたまるかよッ!」


「・・・・・・・・・へっ?」


信じてしまった。


「安心しろサラ! 俺が絶対にお前を奴隷になんかさせねえ! 誰が立ちはだかっても、絶対にお前を守ってやるぜ!」


「あ・・・・あのさ・・・・シモン?」


「たとえお前が賞金首でもお前は俺の友達だ! 俺の前から訳もわからねえ理由で、女を攫われてたまるかよッ!!」


「へっ、・・・へっ・・・・ええ~~~? ・・・・・・信じちゃったよ・・・コイツ・・・・」


しかもヤバイぐらいスイッチが入ってしまった。

サラの冗談を真に受けたシモンは、答えに至ったような目で自らの意思で前を見る。

すると前方に筋肉の盛り上がった大男が自分たちの行く手を遮っていた。



「テメエらか、トサカの言ってた脱走者は!」
最終更新:2011年05月12日 14:27
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