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83-ありえねぇ事なんて、ありえねぇんだよ!!

第八十三話 ありえねぇ事なんて、ありえねぇんだよ!! 投稿者:兄貴 投稿日:09/06/24-00:28 No.4027
10歳という年齢はシモンよりも半分の人生すら生きていないことを意味している。

しかしその半分の年齢にも満たない少年の時間の密度はとても色濃かった。

10歳という年齢なら当時のシモンはまだ地上の存在すら知らずに狭い地下の世界を全てと思い、穴を掘るだけの毎日を過ごしている頃である。

しかしこの少年は既に当時のシモンが知るはずの無い世界や力の領域に足を踏み入れていた。

それだけでなく更なる新たな世界へ足を踏み入れるために、血の滲むような努力を積み重ねてきた。


全ては父を探すという、自分自身の目標の原点のため。


六年前に遭遇した雪の日の夜の決着をつけるため。


自分自身の想いを通すために日々を過ごしてきた。


信頼でき、信頼してくれる仲間と共に、これまでの人生の中で最も努力してきたはずだろう。

しかしその努力も出会った宿敵に粉々にされた。

信頼できる仲間も敵の手によって広大な魔法世界に散り散りにされた。

新たな世界に踏み込んだ瞬間に洗礼を受けた。

力も無く、仲間も失い、洗礼を受けた少年は悔しく歯噛みした。

だが、それはいつまでも続かなかった。

今は只、今の自分が成すべきことだけを考え、上を向いてこの状況に嘆くことなく立ち向かっていた。


「後二日ほどあれば一番近くの街に着きます。ネギ先生、体調は大丈夫ですか?」


「はい、・・・完全に大丈夫とはいえませんが、メガロメセンブリアでの戦闘の最中に木乃香さんが治癒魔法を掛けてくれたので、心配はいりません」


「へっ、体に穴が相手も手をかざして呪文唱えただけで治っちまうとは、・・・・この世界の光景といい、ファンタジーに対する抵抗感が薄れてきたぜ・・・・」


「何いまさら言っとんねん」


見渡す限りの広大な大森林の中、ネギたちは手元にある魔法世界の地図を眺めながら、街を目指して歩いていた。

当初10人以上いた仲間たちも、敵の手によって離れ離れになって、今のネギの傍には茶々丸と千雨、そして小太郎の三人だけしか居なかった。


「しかし・・・・二日か・・・・もっと早く行動したいというのに・・・・」


ネギがとても歯がゆい表情で呟くと。茶々丸が心配そうにネギを制した。


「無茶はいけませんネギ先生。これでも無理を推して進んでいるんです。これ以上の無理はネギ先生だけでなく、千雨さんにも負担が掛かります」


「ちっ、悪かったな足手まといでよ」


「せやけど、訓練しとらんかった千雨姉ちゃんと早々と合流できたのは大きかったな」


「うん、たしかにアスナさんや刹那さんたちなら大丈夫だろうけど・・・・問題は・・・・」


その言葉で場に少し沈黙が流れた。

彼らが考えているのは、特に訓練のしていない朝倉、そしてイギリスのゲートで自分たちの後をコッソリ着いてきてしまい、巻き込まれこの世界に足を踏み入れてしまった五人の生徒たちのことだった。


「裕奈さん、・・・・まき絵さん、アキラさん、亜子さん・・・・」


「それに夏美姉ちゃんもな」


「前途多難だな。ったく・・・・・・とんだ夏休みだぜ」


ネギはメガロメセンブリアでの戦いで確かに見た。

フェイトとフェイトに従う数人の者たちとの交戦中、フェイトの放った魔法によりゲートポートを破壊され、フェイトの仲間の一人が放った強制転移魔法の光の中で本来居るはずのなかった生徒たちが、自分たちの後をついてきてしまったために巻き込まれたのだった。

千雨や朝倉と違い、魔法そのものの存在すら知らない普通の生活を送ってきた子達である。

アスナ達のように大丈夫だと信じられる根拠は無かった。だからこそ、そのことがネギを一層に焦らせた。

しかしネギのそんな責任感や生徒たちの安否を思う気持ちは分からなくないが、そんなネギが無理をしないようにと千雨と茶々丸、そして小太郎がストッパーとなって、ネギを落ちつかせていた。

そして落ち着くたびにネギは呟いていた。


「強く・・・・強くなりたいです・・・・本当に・・・・」


「ったく、またそれかよ。今回は相手が化け物過ぎただけだろうが・・・直ぐ何でもかんでも力ばっか求めてたって仕方ねえだろうが」


千雨は呆れたように頭を掻きながらネギに言いにくそうに告げる。

ネギが力を求める理由は今回のこの結果を見る限り仕方の無いことなのだろうが、それは何か違うのではと千雨も思い、自分の言葉に自信が無くとも、ネギに告げる。

しかしネギは千雨が思っているよりも我を見失っては居なかった。

その眼は自分が良く知っている憎たらしいほど純粋で真っ直ぐな目だった。


「違います、千雨さん。たしかに力が欲しいです・・・・でも、僕はまず・・・・もっと・・・ここの強さが欲しいです!」


ネギは自分の胸を叩きながら言う。

その言葉に茶々丸と千雨はキョトンとし、小太郎は感心したような笑みを浮かべた。


「信じているはずなのに・・・皆は無事だと信じて探すしかないのに・・・・ずっと不安や嫌なことばかり思ってしまうここの弱さが・・・・僕は悔しいです・・・・」


ネギは心底悔しそうに歯軋りをした。

しかしそれは悔しさで不貞腐れた様子ではない。悔しさをいつか変えて見せるんだと意気込んでいるように見えた。

そんなネギを見て、小太郎は機嫌よさそうにネギの肩に手を回した。


「はっはっは、そう落ち込むなやネギ! そういう考え方出来る時点で、けっこう強い思うで? それに俺もお前の仲間は無事やと信じとる! 俺らは信じて前へ進むしかないんや!」


「小太郎君・・・・そんな根拠も無く・・・・」


「そうかァ? 俺はよう知らんけど、あの兄ちゃんや超鈴音と学園祭で戦った時のお前らの絆はそんな柔なもんやなかったんやろ?」


「・・・・・・あっ・・・・・・」


「せやろ? それにお前はお前やけど、親父同様にあの兄ちゃんに憧れてるのもまた事実や! だったらあの兄ちゃんみたく根拠も無く仲間を信じて前へ進めや!」


小太郎の言葉にネギはハッとなった。

そしてあの男のことを話題に出されれば、たしかに根拠は無いが、自分のすべきことは小太郎の言うとおりだと納得できた。

その様子に千雨も茶々丸もホッとしたような安堵の笑みを浮かべた。


「へっ、ごちゃごちゃ考えるクセに、納得する時はアッサリしやがるんだな。まっ、いいことだけどよ」


「しかし小太郎さんの言っていることは的を射えています」


「そうやな・・・そして今のお前に足りないもんゆうたら・・・・やっぱ・・・・」


「その答えはもう分かっているよ」


「ほう、なんや? 力! なんてゆうたら張っ倒すで?」


「決まってるじゃないか! 僕に足りないもの・・・それは、気合だよッ!!」


自信満々のネギの答えに、三人は少し間を置いて考えた。


「「「・・・・・う~~~ん・・・・(・・・・まあ、これはこれで・・・いいのかな?)」」」


だが三人が正否を答える前に、ネギは自己完結して、大森林のど真ん中で大声を張り上げた。


「よ~~~っし!! やるぞォ! いつまでも下を向いているわけにはいかない! アスナさんに殴られるだけじゃなく、シモンさんや、ヨーコさん・・・・そして・・・カミナさんにがっかりされないように突き進んで、必ずみんなと再会してみせるぞ!」


何はともあれ答えに至ったネギはやることは一つ。

とにかくまずは前へと進んで、この状況を少しでも変えることだった。

後悔も、仲間の安否も、己の弱さも、全ての不安を取り消すにはまず、只ひたすら今は前へ進むしかなかった。


「気合の注入完了ってか? まあ、ええんやないか?」


「まっ、ウジウジされるよりはこっちも気分が良いしな」


「はい! それでは行きましょう!!」


根本的には何も変わっていないかもしれないが、それでも先ほどまでの空気よりは何百倍もマシだった。

そんなネギを見て、茶々丸は一人の男を思い出した。


(シモンさん・・・・・・・・・アナタは今・・・・どうしていますか?)


茶々丸は空を見上げて、いつも天ばかりを目指していた永遠のライバルを思い出す。

シモンが今のネギと同じ状況に陥ったら、きっと今のネギと同じ答えを出すだろう。そう感じた茶々丸は、この世界には居ないであろう男を想い、心の中で呟いた。



だが、そんな茶々丸の想いを知らずに、シモンはちゃっかりこの世界の同じ空の下にいた。



そしてそのシモンは・・・・



シモンは今・・・・・・・



ネギたちを最悪の状況に叩き落した元凶と・・・・・



コーヒーブレイク中だった・・・・・・・・。




「へえ、・・・・それはまた随分と面倒な展開だね」


「信じてくれるのか? 俺が記憶喪失って」


「おいおいおい、シモン! お前そんなこと一言も言ってなかったじゃないかよ!?」


「マジか!? どうりで話の通じねえ野郎だと思ったぜ・・・」



グラニクスの中心部のカフェにて、変な四人組が客として丸いテーブルを囲んで座っていた。


それは超異質な光景だった。


記憶を失ったとはいえ大グレン団のシモン。


現実世界の考古学者の娘、サラ・マクドゥガル。


魔法世界の拳闘士トサカ。


そしてフェイト・アーウェルンクス。


本来なら一生縁の無いはずの者たちが四人揃ってティータイムをしていた。


提案したのはフェイトだった。


状況をどうしても知りたく、落ち着ける場所としてカフェテリアに腰を掛けた。


「まさかネギ君や僕だけでなく、自分自身の名前以外を忘れているとは・・・・・随分とタチの悪い魔法を掛けられたものだ・・・・」


「それは否定できないな。・・・っで、ネギって誰だ? いや、・・・その前にお前は何者だ? 俺の・・・・友達・・・っていうには随分と目つきが悪いな」


「ふう、やれやれ・・・・・さて・・・どう説明したものか・・・・」


フェイトはカップのコーヒーを飲みながら、この意外な展開の行く末をどうしようかと考えた。

そんなフェイトの一挙一動をサラとトサカは神経を張り巡らせて警戒していた。

こうしてほのぼのと談笑しているかと思えばとんでもない。フェイトからは戦闘の気配は感じないものの、身に纏う不気味さと、底知れない瞳は二人には初めて見る存在だった。


(こいつ、・・・なんか嫌な感じがする・・・・・)


サラもこれまで強い力を持つものはいくらでも見てきた。だが、フェイトほど不気味な存在と会うのは初めてだった。


(ちっ、・・・・なんだよこのガキ。人の存在にまったく興味を示さないような目をしやがって・・・・)


トサカも同じだった。

座りながら背中に汗が吹き出ていた。

これで何度目か分からないが、緊張した彼らは既に空っぽのはずのカップを気づかず口元に近づけて、のどを潤そうとした。

それほどまでに二人は緊張していた。

だが、シモンは少し違った。

記憶を失ってからたびたび見せられた、忘れた記憶の断片とコアドリルに眠る記憶。

あの男でもない。

あの女でもない。

そしてアンチスパイラルやロージェノム、彼らとも違う。

目の前の男に関する記憶は無い。

しかし目の前の男はシモンを知っている。

そう言われてシモンも何となく心に引っかかりを感じた。

自分もひょっとしたら目の前の男を知っているかもしれないと思った。

だが、仮に知り合いだったとして、それはどういう関係だったのか。それがシモンには気になっていた。

いや、本当は何となく気づいている。

この少年の気に食わない目を見ていると、忘れたはずの心の底から声が聞こえてくる。

記憶を失う前の自分と、目の前の男はどんな関係だったのか・・・・・・


「お前は・・・・・・・俺の・・・・て「たしかに」・・・・?」


「・・・たしかに言われてみれば、僕は君の事を、それほど知っているわけではない・・・・」


「?」


シモンが確認しようとした言葉を遮るようにフェイトが口を開いた。


「因縁は少なからずあるが、君が忘れているならその約束も意味を成さないしね・・・・」


「・・・・約束?」


「・・・・そして、言わせて貰えば僕の計画に君は組み込まれていない。僕を忘れて邪魔することも無いのなら、脅威にもなりえないだろう。つまり・・・・・今ここで僕たちが争う理由は何も無い・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


シモンの勘は間違っていなかった。

間違いなく自分と目の前の男はかつて戦っていたのだろう。

だからこそフェイトが戦う理由が無いと言っても、それを信じて話を中断できるはずも無かった。

だが、対するフェイトは少しがっかりしたようなため息をついた後、シモンを見た。

それは対象のものに興味を無くしたかのように思わせるような瞳だった。


「今の君には興味も沸かない。・・・・・楽しみを一つ削がれた気分だよ。まあ、構わないけどね」


「・・・・・・・・ま・・・待てよ、興味あるとか無いとかじゃなくて、・・・・お前は俺の何を知っているんだ? 俺は・・・・一体何者なんだ?」


「・・・・ふん、今のネギ君たち同様に君も僕の敵ではなくなったが・・・・以前の借りを返さないままでいい理由にもならない・・・・ならここは・・・・」


その瞬間フェイトは指をパチンと鳴らした。

その音が合図となり、この場に一つの殺気が迫ってきた。


「「「!?」」」


殺気の方向へ三人が目を向ける。

すると輝く太陽と重なって、剣を振りかざしながら、一人の女が飛び込んできた。


「なっ!?」


「な、何だよ!?」


「ちっ、敵かァ!?」


三人が慌ててテーブルから飛び退くと、円卓が現れた少女により真っ二つに両断された。

一方フェイトはその事態にまったく動じず、テーブルから自分のコーヒーだけを避難させ、椅子に座ったまま口を開く。


「少しつまらないけど仕方ない。君に恨みを抱いている彼女に譲るとしよう」


フェイトの言葉と共に、現れた少女はゆらりと立ち上がった。


「お久しぶりですぅー。こうして話すのは初めてですなー」


フェイトとはまた少し違う不気味な空気を醸し出す眼鏡を掛けた少女は、笑みを浮かべながら飛び退いたシモンに微笑みかける。


「テメエは・・・・・・・」


「シモン、この女もお前の知り合いか?」


「う~~~ん、・・・・・どこかで会ったような気もするが・・・・・・・」


「ちっ、次から次へと、テメエらは一体何者なんだよ!?」


顔を上げた少女は、実にのほほんとした口調でこちらを見ている。

彼女こそ京都で戦った神鳴流剣士、月詠だった。

しかし当然シモンは覚えていない。

それどころかいきなり斬りかかる人間にしては随分と、気の抜けた女だと思い、少し拍子抜けをした。

しかしその考えは一瞬で改めさせられる。


「ずっとあんたを斬りたくてウズウズしていましたわ~」


「・・・・なんだと?」


空気が寒気に変わった。

少女は小刀と、長刀を取り出し、シモンに向けて構える。

眼鏡の奥に光る瞳はより一層不気味さをまし、シモンとサラとトサカの鳥肌を立たせた。


「シモン、恨みって・・・・お前コイツに何したんだ?」


「いや、・・・・・・だからそれを覚えていないんだよ・・・・・・」


こんな不気味な女にどんな恨みを買ったのかと、シモンは忘れた記憶をフル回転して思い出そうとするが、まったく心当たりはない。

すると少女は長刀の刃に舌を這わせながら、答えを告げる。


「うっふっふっふ、強くて・・・・凛々しくて・・・・刃のように鋭い眼をしたウチの刹那センパイを、アンタはメチャクチャにして、ただの恋する女にしてもうた・・・・許せませんわ~」


「「「・・・・・・はあ?」」」


「あんな可愛らしいセンパイもそれはそれで食べてしまいたいぐらいおいしそうですけど~、ウチが興奮したセンパイをアンタがつまみ食いしてもうた~、もうウチ・・・・悔しゅうて、悔しゅうて・・・・・」


顔を赤らめながら、興奮しているのか激しくあえぎ声を出しながら、月詠はシモンにありのままを伝える。

しかし対するシモンたちは答えを聞いた事で反応するよりも、只単純に月詠そのものにゾワゾワと鳥肌を立てながらドン引きしていた。


「な、・・・・・・なんだこの変態女は・・・・・」


「あん♪ 言葉攻めは嫌いですう~~、ウチをイカせたいんなら、激しく打ち込んでくれへんと・・・・」


「シモン・・・お前・・・・・女をメチャクチャにしたってどういうことだよ!? しかもつまみ食いって、このスケベ!」


「テメエ、人を変態呼ばわりしているがテメエも人のこと言えねえじゃねえか!」


「ま、まてまてまて、まったく心当たりが・・・・・」


「無いとは言わせませんよ~、あんたの所為で、センパイの瞳と匂いは恋焦がれる乙女のモンや。アンタに焦がれてイケナイ妄想を毎晩して自分を慰めとる瞳や~、京都で会った時には既に兆候があったんやけど、メガロメセンブリアで見た先輩は完全にウチと同じ雰囲気でしたから分かりますえ~」


「「「うっ・・・・・・・」」


全身の鳥肌が全て立った。


「シモン・・・・お前こんな変態と同じような女を堕としたのか?」


「そんなこと・・・・無いとは記憶に無いから言えないよ・・・・・・」


「おいおい、奴隷がどうのとか文句言っているお前が実は一番やべえんじゃねえか?」


目の前の女の言葉をこれ以上聞きたくないほど、シモンたちは気持ち悪くなった。

すると、激しく喘ぎながらも月詠は光る二本の刃を構え、不気味さと含めて、一本の殺気をシモンに飛ばす。


「ですから~、その報いをうけてもらいますえ~」


「!?」


月詠の興奮した震えは止まり、真っ直ぐシモンに向かってくる。


「下がってろ、サラ! ブータ!」


「シモン!?」


「おいおい、テメエら! 人を無視して何勝手に・・・・「バカ! お前も巻き込まれるぞ!」」


サラはトサカの腕を掴み、急いでその場から飛びのいた。

シモンは逃げずにブーメランを構えて迎え撃つ。

そんな二人のぶつかり合う瞬間を、フェイトは一人優雅にコーヒーを飲みながら眺めていた。


「さあ、見せてみるんだね。君が僕の敵になりえなくなったのかを・・・・」


再びグラニクスの街中で戦闘が始まった。


「おい、また何か始まったぞ!」


「俺はさっきの男に200!」


「じゃあ俺は女剣士に300だッ!」


辺境のそれほど治安のいい地域ではないため、街のものたちは大して普段から争いに驚いたりはしない。

だが、その代わり今日この日の戦いを極めて印象深い戦いとして彼らの記憶に残ることになる。


「神鳴流・・・・にとーれんげきーざんてつせーん」


「うおおおおおおおおおお!!」


二つ・・・いや、三つの刃が交錯しあう。両者の激しき剣閃が互いの周りの空気を斬り裂いていく。


「なっ!? 神鳴流って・・・・・素子と・・・・素子と同じ・・・・・」


サラの呟きは両者の剣の打ち合いの音に掻き消された。


「うっふっふ、児戯にも等しい剣ですな~、こんなんでセンパイを虜にしたんですか~?」


「ったく、さっきから訳のわかんねえこと言いやがって!!」


「ざーんがーんけーん」


「ぐっ!? 何だコイツ、変態のクセ強い!?」


「ふっふっふ、この程度じゃウチはまったく濡れることも無いですわ~」


長刀と小刀の連撃は間合いが取りづらく、シモンも対処に手こずった。


(こいつ・・・・やりづらい・・・)


激しい連戦の末に螺旋力や技、体の扱い方を徐々に思い出してきたシモンだが、月詠の純粋な剣の技術レベルはこれまで戦った中でも最強レベルとも言えた。

魔獣やラカンのようなバグキャラとも違う純粋な技術はシモンをいとも容易く追い詰めていく。

以前シモンは同じ門下の剣士でもある刹那に学園祭で戦い、勝利したことがある。

正直刹那と月詠の剣のみの技量なら今のところ互角と言えるだろう。いかに最強レベルの技術が相手とはいえ、シモンが容易く追い詰められるはずも無いのだが、今のようやく戦い方を思い出してきたばかりのシモンに求めるのは酷な話だった。


そしてもう一つ、今のシモンには抱えている問題があった。


「ぐっ・・・・・・・・・・・・はあ、はあ・・・・」


「ん~? どうしたんですか~?」


戦いのさなか、シモンの顔が歪み、動きが格段に鈍った。

その様子を見てサラがハッとなり、肩を震わせた。


「シモン!? お前、昨日の化け物との戦いの傷がまだ!?」


当たり前だ。直っているはずがない。

よっぽどの力の差がある相手なら螺旋力を身に纏った強力な一撃で倒すことができるが、今の月詠のように技術で上回る相手にはシモンの一撃は軽やかに交わされてしまう。

長引けば長引くほどハンデを抱えているシモンが不利になっていく。


「おいおい、あの野郎ヤベエんじゃねえか?」


「シモン・・・・・・・・(どうしよ・・・・・私の所為だ・・・・・)」


サラは顔を歪めて戦うシモンを見て胸が締め付けられる思いだった。

今のシモンが負っている傷は、全てサラをラカンという化け物から逃がしてくれるために命懸けで戦った証拠である。

そのことに気づいたからこそ、サラは今の自分はどうすべきなのかを思いなおす。


(クッソ~・・・・どうして私がこんなに悩まなくちゃいけないんだよ・・・・・・これも全部・・・・全部・・・・・・)


一体どこから自分の旅はおかしくなったのだ?

父と母の冒険についていくと決めた時からか?

この世界に足を踏み入れる決意をしたときか?

父のために役立ちたいと思い、一人でアリアドネーに向かったときからか?

いや、違う・・・・


(そうだよ・・・・・全部・・・・全部・・・・お前と会った所為で・・・・・・)


アリアドネーでシモンと出会った時から何かが狂い始めた。

だが、狂っただけではない。


「ぶふうう!!」


「っ!? ・・・・・・・・・ブータ・・・・・」


追い詰められていく相棒を指を咥えて見ているだけではいられない。そんな様子でブータは今にもラカンとの戦いのときのように飛び出さんとしていた。

それを見てサラは意を決した。


「お、おいテメエ!?」


トサカの声を無視してサラはブータを抱きかかえ走り出した。

何か作戦があったわけでも勝算があったわけども無い。

しかしシモンが窮地に立たされているのを見て、黙って見ていることは出来なかった。

事情どころか、サラは結局シモンのことを何も知らない。

しかしいつの間にかたった一日でサラはシモンを見捨てることなど出来ないほどになっていた。


「動きが鈍いですな~、まだやるつもりですかえ?」


月詠の言っていることは間違っていない。それはフェイトも感じ取っていた。

以前よりもシモンの身に纏った光の輝きは強くとも、肝心のシモンの体がおぼつかなかった。

正直シモンも全身に悲鳴を上げて、今すぐにでも倒れこみたい気分だった。しかし決して弱音を吐かずに前を見る。


「当たり前だ! 何も知らないまま負けちまったら記憶を失う前の俺に申し訳ない!」


「はあ~、そう言われましてもあんたはウチの好みやないから打ち合っとっても興奮しませんからな~、はよう斬られてくれるとありがたいんやけどな~」


月詠は、シモンとの間合いを詰め、一気に刀を振り上げる。

体が重く反応の鈍いシモンは、辛うじて交わすものの肌の表面が斬られ、胸の包帯が血で滲み出した。

舌打ちするシモン。しかし月詠の剣は終わらずに更にシモンに接近する。


「ほな死んでくださいな~」


目の前に迫る月詠の短刀。

その刃先はシモンの心臓を目指していた。

シモンも頭で交わしているつもりでも、体が動かない。しかし全身の筋肉と怪我の痛みが響いてもシモンは足掻くのを止めなかった。


「終わりです~」


月詠の刀が後一歩でシモンを貫くかと思われたまさにその時だった。


「カオラン砲発射!!」


「「!?」」


月詠を目指し一直線に光の柱が真横から迫ってきた。

月詠が寸前のところで後方に飛び、光の柱が通過した後、光の発信源を見るとそこには、直立したメカタマがいた。


「サラ・・・・・・お前・・・・・・」


「へん! 昨日は怯えてできなかったけど、小さいブータががんばってお前を助けたんだ。私一人でグチグチ言ってるわけにはいかねんだよ!」


「ぶみゅう!」


サラはメカタマ内部から少し怯えながらも懸命に引きつりながら笑みをシモンに送る。そんなサラの肩にはブータが胸を張って乗っている。


「ああ、それは本当に助かるよ」


「だろ? いい女ってのはみんな勇敢なんだよ!」


そしてサラの想いを正面からシモンも受け止め、ニヤリと笑みを返した。


「そうか、・・・・そいつは助かるぜ。なら遠慮なく力を借りる! サラ、アレをやるぞ!」


「アレ? アレって何だよ?」


シモンの突然の提案にサラは何のことを言っているのか分からずに首を傾げるが、サラの肩に乗っているブータは激しく体を振るわせた。

シモンの言っている「アレ」という言葉が、もしブータが想像したとおりのものだったとしたらと、期待と興奮を隠し切れなかった。

そしてシモンはブータの期待通りの言葉を自信満々に言い放つ。


「アレって言ったら決まってるだろ!」


アレをやるぞ! その言葉はシモンも自然に出た言葉だった。

自分でも何故そんなことを口に出したかは分からない。

しかし口から出たその言葉を、シモン自身はまったく変だと思わなかった。

シモンは瞳をキラリと光らせ、力強く叫んだ。




「合体だァ!!」




その言葉を言っただけでシモンは己の奥底から熱さと力が湧き上がってくるような気がした。



「はあ!?」



「合体!?」



「「「「「「「合体!?」」」」」」



「合体!?」



「・・・・・・・何を言っているんだい、君は?」



広場に居たシモンとブータ以外の全てのものが、シモンの言葉を繰り返し驚愕してしまった。

最初は必殺技か、巨大魔法か、と思っていたが、どちらにせよ市民たちの期待していた展開とは想定外の言葉だった。


「あ、あのあのあの・・・・・ががが、がったいいいいいって・・・・」


そして何より、直接言われたサラは、何を勘違いしたのか顔を真っ赤にして、頭から湯気をだし、プルプル震えながらメカタマのヒレでシモンを殴った。


「このスケベー!? セクハラァ!?」


「ぶほっ!?」


「お、おまおま・・・お前、言い方ってもんがあるだろ~!? そりゃあお前も男だし・・・・・私も女だけど・・・・・合体なんて直球な言い方あるわけないだろ! しかも戦いの最中に何言ってんだよ! ムムム、ムードを考えろよなー! お前も変態がうつったのかよ!?」


「はあ?」


「そそそ、そりゃあお前も少しかっこいいとこもあるけど・・・・私たち会ったばっかだし・・・・そういうのは大事にしろってハルカも言ってたし・・・・・」


何やら別の意味で解釈してしまったようだ。

この戦いの後、シモンがサラに合体の意味をどういう意味と勘違いしたかを問いただそうとしたが、その謎は永遠に謎に包まれた。

何はともあれ、シモンの合体とサラが思った合体の意味は違う。


「何だかよくわからねえが、安心しろ! 問題ない! 俺たちなら出来るはずだ! 俺の忘れちまった何かがそう叫んでいるんだ!」


「忘れちまったナニって!? むむむ、無理だよぉ!? ・・・そりゃあ・・・・私はもう15だけど・・・・まだ・・・早いよぅ・・・・胸だって・・・・ちっさいし・・・・・」


「やってみなくちゃわかんないだろ!! 重要なのは胸の中に秘めた想いの大きさだ!」


「///!?」


勘違いしたまま、サラはフルフルと真っ赤になって震えだした。

一見意地の悪いマセガキに見えても、すでに思春期の彼女には男女間の知識は持っている。

今まで男っ気が無かっただけに、シモンの直球な言い方はある意味胸に響いた。


(えっ、なになに、こいつってそんなに私のこと・・・・あっ・・・・でもさっき刹那って女がどうとかあの女も言ってたけど・・・・・あ~~でもでも・・・)


サラは頭を抱えて何度も唸り始める。

しかし切羽詰ったこの状況で考えている暇はない。

決心したサラは顔を真っ赤にしながら両手を広げて叫んだ。その動きに合わせてメカタマが両ヒレを広げた。


「わ・・・・・わかったよ・・・・・でも・・・でも! 私・・・・やり方分かんないんだよ! だから・・・だから・・・」


「ああ、俺に任せろ!!」


シモンは空高く舞い上がる。

何故それほど勢いよく助走をつけるのかは知らないが、この瞬間を広場のものたちは眼を見開いて見守った。

そして観念したサラは目を瞑り数秒後に自分に飛び込んでくるシモンを待ち続ける。

そして・・・・・



「シモン・インパクトォォーーーーーッ!!」


「へっ?」


「あらら?」


「「「「んだそりゃあ!?」」」」



シモンがドリルを真下に向けて、サラというよりもサラが武装したメカタマの頭部に螺旋力を放出しながら突き刺した。

メカタマの頭部部分にドリルを突き刺し、そのまま頭の上に立つシモン。

それはただ単に二つの足で立ち上がったカメの頭に男がドリルを突き刺して立っているだけにしか見えなかった。



「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」



この場にいた全てのものが、シモンの言う合体という言葉から想像していた形とはまったく予想がはずれ、唖然としているものの、シモンは静寂する街の中心部で高らかに叫んだ。



「見たか! これが俺たちの合体だァ!!」



しかし周りの者たちの反応は悪く、しばし沈黙が漂ってしまった。


「ウケ狙いにしては、センスがありませんな~」


常に不気味な笑みを浮かべていた月詠も、この時ばかりは呆れて笑顔が消えていた。


(ねえ、・・・・これって訴えたら死刑に出来るだろ? 女の純情踏みにじったって言えるだろ? 勘違いしてたのって私だけじゃないよな?)


「おい・・・・あの野郎は本当にバカなのか?」


サラやトサカを含めて周りの者たちも呆れていた。

口を半開きにしながら固まっていた。

例外はブータ、そして只一人シモンのことをある程度知っている男を除いて、みんながため息をついていた。


「ドリルか・・・そういえば君はそうだったね・・・・・・さて・・・・・・バカな奴で終わるのか・・・・・・それともバカみたいなことが起きるのか・・・・・見せてみるんだね」


只一人この状況でフェイトは無表情な様子とは裏腹に、僅かな期待を抱いていた。


「ウケへん芸は強制的に終わらせてもらいますえ~」


完全に興味を失った月詠はサラとシモンを二人まとめて討ち取るべく、二つの剣に速さと重さを加えて迫ってきた。

ぶつぶつ文句を言っていたサラが月詠の動きに気づいた頃、彼女は既に目の前で剣を振りかぶっていた。

サラが自然と眼を瞑ってしまったが、シモンは自信満々に両手を前に翳した。すると月詠の剣は二人に届くことなく、寸前で見えない壁にはじき返されてしまった。


「な、なんやァ!?」


斬ったと確信した瞬間に見えない何かに阻まれた月詠は眼を見開いた。

するとシモンが突き刺したドリルから光が漏れ出し、突き刺した部分からメカタマのボディ全体が光で包まれた。

この異常事態にメカタマを内部から操縦しているサラも包み込む光の強さに圧倒されていた。
最終更新:2011年05月12日 14:29
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