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83-2

「ななな、何だよこれぇ!?」


サラの動揺する言葉にシモンはむしろ笑みを浮かべた。

自分の直感は何も間違っていなかった。それが証明されたのがうれしかった。

シモンが突き刺したドリルから溢れたエネルギーはやがて、その光と共にメカタマと一つになっていく。

それどころか、昨晩シモンが壊した胴体や翼の部分も再生され、他のパーツも変形し、出力も強度も遥かにアップされた。


「あれ? あれぇッ!? 直ったアア!? それに・・・・エネルギーメーターがありえないほど・・・・・螺旋の形をして今までより遥かに振り切っている・・・・・」


「気合だァ!!」


メカタマ内部でサラは突如起こったメカタマのバージョンアップに度肝を抜かれていた。

原理も意味も一切不明。

とにかくようやく口から出て来た一言はこれだけだった。


「シモンのドリルと合体しちゃった・・・・・」


「どうやらそうみたいだな」


突如起こった目の前の変化についていけなかったのは月詠も同じだった。


「合体? そんなんが? そんなもん認めませんわ~」


意を決して再び向かってくる月詠。しかしシモンは余裕の笑みで迎え撃つ。


「無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーーッ!!」


シモンがその場で拳を前に突き出した。

すると操縦者のサラの意思を無視してメカタマが右のヒレを前に突き出した。

そしてそのヒレからは二本のドリルが突き出して、月詠の剣を受け止め、次の瞬間高速回転したドリルによって月詠の剣が砕け散った。


「なっ!?」


砕け散る月詠の愛刀。

シモンはこの結果を当然だと言わんばかりに告げる。



「覚えて置けよ変態女! 互いに足りない所を補って、新たな力を生み出す気合と気合のぶつかり合い! それが合体だァ!!」


「なっ・・・・そんな・・・・・ありえへん・・・・」


「ふっ、何言ってやがる! ありえねぇ事なんて、ありえねぇんだよ!! そうだ・・・・俺を・・・・・・・・・俺・・・を・・・・・・」


「シモン?」


「?」



シモンはハッとなった。

合体という言葉を告げたとき・・・・・いや、ドリルをアリアドネーで出した時・・・・・いや、記憶を失った時から、ある一言がどうしても出てこなかった。

天を突く、その言葉と同じぐらい自分を自分だと証明するための言葉が、どうしても思い出せなかった。

だが、今その言葉がようやく自分にも分かった。

記憶は無くても自分は自分。

だからこそ、何も躊躇う事無く、最高に自信に溢れた笑みで、グラニクス全土に響き渡るほどの声で叫んだ。




「俺を誰だと思っていやがるッッ!!!」




愛刀が目の前で無残に砕け散り呆然とする月詠。しかしメカタマの攻撃は終わらない。

その光景に目を奪われない者など居なかった。

意味も分からず、シモンが何者かを殆どの者が知らないにもかかわらず、シモンの姿から目を放せなかった。


「さあ、いくぜサラ!」


サラも何が何だか分からない。

しかし今の自分自身の心を埋め尽くす物は何だ?

混乱でも不安でも、疑問でもない。

ただ湧き上がる興奮を抑えきれず、サラは幼い子供のような無邪気な笑みで頷いた。


「うん!」


メカタマの口が開き、中から主砲が飛び出す。


「いくぜ! 俺のドリルとサラのメカタマが合体したメカタマスパイラルの必殺技!」


「なんだよそれぇ? まんまじゃん!」


そしてそれは只の主砲ではない。

シモンの突き刺したドリルの螺旋力を凝縮し、一気に解き放つ二人の合体技。



「「スパイラルカオラン砲!!」」



「させまへんえ~! ざんくーしょーう」


空気を切り裂く気の刃が月詠の両手から繰り出される。

しかし空気は切り裂いても二人分の気合の篭った螺旋を描く光の光線は切り裂くことは出来なかった。



「「おおおおおおおおおおおお!! ぶっ飛べええ!!」」


「なっ!? かき・・・・消され・・・・・」



二人の雄叫びが螺旋の光線となって月詠に向かって突き進む。

自身の技を正面から掻き消された月詠に成すすべは無い。



「目に焼き付けろ! これが俺とサラ、そしてブータの合体技だァ!!」



輝く螺旋を描く光線を目に焼き付けたのは月詠だけではない。

トサカやトサカの子分・・・・いや、この場に居たグラニクスの住人たちの目に焼きついた。

そして光が月詠を捉えた! そう思った瞬間だった。


「なっ!?」


「えっ!?」


月詠が姿を消したのだった。

それは一瞬の出来事だった。

月詠は交わす素振りも何も無かった。

確実に命中したと思っていた。

だからこそこの事態にシモンとサラは目を見開いた。だが、その答えはすぐ傍にあった。


「ふっ・・・・ようやく僕の知っている君らしくなった。やっぱり君はシモンだね」


「「!?」」


振り向くとそこにはフェイトが居た。

そしてフェイトの足元に呆然とした表情で両手と膝を地面に着いている月詠がいた。

彼女自身もこの一瞬の出来事を理解していなかった。


「月詠に今やられてもらうわけにはいかないんでね。転移魔法で邪魔させてもらったよ」


月詠を助けたのはフェイトだった。

転移魔法で月詠を一瞬で自分の傍まで移動させ救出したのだった。


「・・・・ふん、空気の読めない野郎だぜ!・・・・・・それで、お前はどうするんだ? お前が売ってきた喧嘩だろ?」


「・・・・喧嘩?」


シモンの問いかけにフェイトは首を傾げた。そして次の瞬間肩を竦めながらヤレヤレといった呆れた様子だった。


「くだらないな。まあ、記憶があっても無くても君に僕たちの大義を語っても無意味だっただろうけどね・・・・」


だが、そんなフェイトの様子にシモンは噛み付いた。


「テメエこそ何ふざけたこと言っている。大義だか何だか知らねえが、そうじゃないんじゃないのか?」


「・・・・・・・何だって?」


「そうじゃないのか? 俺とお前は何か大層なものを賭けて戦っていたのか? 違うだろ? 俺たちの争いは・・・・・」


覚えていないシモンの代わりにフェイトは思い出す。

そう言えば自分は何故シモンと決着をつける約束をしたのかと。

だが、シモンと戦ったことも、約束も覚えているが、肝心の戦っていた理由が思い出せなかった。


(京都で初めて彼と会って・・・・・・・ネギ君たちの様子を見るために見張っていた僕は彼に見つかって・・・・・・・)


たしかにそこに大した理由など無かった。フェイトも今になってそのことに気づいた。


「なるほど・・・・・・たしかにそうだ・・・・・僕たちの争いはなんてことのない・・・・」


「やっぱりそうだったのか? 俺たちの争いは・・・・・」


フェイトは微かに口元に笑みを浮かべ、シモンと同時に同じ言葉を口にした。



「「ただの喧嘩だ」」



フェイトもようやく納得した。

ネギたちとはこんな単純な理由では戦わないだろうが、シモンに関してはそんな形で十分だろうと自身も納得した。


「いいだろう。君を相手に大した理由も何も必要ない。ただの喧嘩相手として、処理させてもらおう」


次の瞬間フェイトの指輪が光り、フェイトは遥か上空へと飛び上がった。

顔色一つ変えず。しかし人を殺傷させる破滅への言葉を唱えながら。


「ヴィシュタル・リシュタル・ヴァンゲイト・おお、地の底に眠る使者の宮殿(オー・タルタローイ・ケイメノン・バシレイオン・ネクローン)我らの下に姿を現せ(ファインサストー・ヘーミン)」


そしてフェイトの唱える呪文と共に、上空にビル一棟にも匹敵するほどの巨大な石柱が無数に姿を現した。


「な、なんだ!?」


「なななな、何だよこれぇ!?」


あまりにも巨大。

あまりにも強力すぎるフェイトの魔法は、サラとシモンだけではなく、本場の魔法世界の住人たちをも震え上がらせるほどだった。

この日初めて広場に集まった人々が悲鳴を上げて逃げ惑った。

激しい戦いすら、暇つぶしと賭けの対象としてしか見ていなかった彼らですら、上空から狙いを定めている魔法の力がどれほどのものなのかを直感で理解していた。


「取り合えず再会の挨拶代わりだ。受け取ってくれたまえ」


フェイトは上空に浮かぶ全ての巨大な石柱を最後の言葉と共に一斉に振り下ろした。



「冥府の石柱(ホ・モノリートス・キォーン・トゥ・ハイドゥ)」



正にその名の通り、冥府へ誘う呪文だった。

まともに受ければ自分一人が死ぬだけでは済まない。

確実に起きる大惨事を防ぐためにも、シモンは無茶を承知で気張るしかなかった。


「させるかよォ!!」


「シモン!? バッ、バカァ! 無理すんなよな!」


「無理を可能にするんだから・・・・無理なんかじゃねえ!!」


シモンはメカタマの頭部から飛び跳ねて降り注ぐ石柱に真っ向から向かっていく。

一本でも巨大な柱が無数も存在している。

しかしやるしかなかった。



「ギガドリル・マキシマム!!」



数には数で、デカさにはデカさの両方でシモンは戦った。

たとえ全身が壊れようとも、口から血が大量に吐き出され、傷口が大きく開こうとも、シモンは構わずドリルをぶっ放した。

無数に出現したギガドリルが、フェイトの魔法を砕いていく。

だが、それだけでは有効な手段ではない。

なぜなら砕いた柱の破片が粒になった大量に街に降り注いでいるからである。

このままでは被害に大差は無い。

だが、それはシモン一人で闘っていたらの話である。


「メカタマ・ドリルミサイル一斉射出!! うりゃあああああああああああああ!!」


「ぶみゅうううううう!!」


シモンが離れて螺旋力の供給が成されなくなったにも関わらず、メカタマは更なる螺旋力を身に纏い、只のミサイルを螺旋の弾丸と変えて、シモンが砕いた柱の破片全てにロックオンして打ち落としていく。


「サラ! ブータ!」


「へへ、よく分かんないけど、ブータがいるお陰で色々出来るようになっちゃった!」


「ぶみゅっ!」


そう、シモンの螺旋力がなくてもブータがいた。

メカタマの変形強化の原因はシモンのドリルとラガンと同じ能力によるものである。しかし、今の技とシモンは関係ない。

原因はブータの螺旋力にサラが応えたのである。

この土壇場の状況にて、初めて螺旋力と異世界のメカの力が融合した。

シモンが学園祭で鬼神やエンキに似たようなことをしたことがあるが、今回は少し違う。

魔法の力を一切借りていない純粋なメカと人と螺旋力の合体。

それは最早ガンメンと同じ存在だといっても過言ではなかった。


「ははっ、頼もしい限りだぜ!」


「へへん、今頃気づいたのかよ! ほら、ぼやっとしないで、どんどん行くぞォーーーッ!!」


サラの言葉と輝くブータの螺旋力の光にシモンは力を貰った。

全身の痛みも血の味も全てを飲み込んで、気合の限りを尽くし空一面にドリルの弾丸を無数に放つ。

無数のドリルと石柱のぶつかり合いは、嫌でも街中の注目を集めた。

戦争と呼べるほどの規模をただの喧嘩として捉える者たちのぶつかり合いは、人々の心に何かを感じさせた。

少なくとも呆然と口を半開きにして眺めているトサカはその一人だった。


「こいつら・・・・・・・なんなんだよ・・・・・・・・この・・・・・人の力をあざ笑っちまうようなとんでもねえ力は・・・・・クソッ・・・・・むかつくぜ・・・・そんな力がある奴に・・・・・俺の気持ちが分かってたまるかよ・・・・・・・・・」


何も出来ずトサカはただこの攻防を、拳を強く握り締めて眺めているだけだった。

ただ悔しく、歯も食いしばりながら、生涯賭けても自分では決して届かない領域の力のぶつかり合いを眺めているだけだった。


だが、次の瞬間ハッとした。


「なっ!?」


「お、おいヤベえぞ! 柱が一個落ちてくる!」


「しししし、死ぬぬうううううう!?」


「逃げろォ!!」


騒ぎを聞きつけ集まった市民たちが次の瞬間悲鳴を上げて一斉に逃げ出した。

それはシモンとサラが捉えきれなかった柱だった。


「し、しまった!?」


「やべえ、落ちる!? ま、間に合わない!」


二人と一匹だけでは数が多すぎた。

いかにフェイトの呪文を破壊できても、破壊した柱の欠片全てを打ち落とすにはいくら二人でも無理だった。

そして二人の攻撃を逃れた巨大な柱は重力に任せて真っ直ぐにグラニクスに落とされる。

そう思った瞬間、一人の男の雄叫びが聞こえた。


「クソッタレがアアアアア!!」


その叫びはシモンではない。

フェイトでもない。


「「トッ・・・・・・・・・トサカの兄貴ィ!?」」


降り注ぐ巨大な柱の下で、両手を翳して柱の落下を防ごうとするのは、トサカだった。

その意外な行動にシモンとサラ、そして街中の騒ぎが一斉に止まった。

そしてトサカは少ないながらも全魔力を両腕から放出して巨大な柱の落下に持ちこたえた。


「どいつもこいつも、余所者が人を無視して勝手なことしやがって!! こちとら、チンピラにはチンピラの意地ってもんがあるんだよォ!!」


防ぎきれるはずはない。

その証拠にトサカの両足は重さに耐えられずに徐々に地面に埋まっていく。

しかしトサカは柱の落下を僅かにでも止めた。

そしてその僅かの瞬間にトサカの元にトサカの仲間が現れた。


「バルガスさん!?」


「奴隷長まで!?」


それはメイド服を着た熊のような獣人と、頭髪のない筋肉の盛り上がった大男だった。


「ぐぬぬぬぬぬぬ、気張れよ、トサカァ!!」


「まったく、拳闘士は引退したってのに、人使いが荒いさね!!」


飛び出したのは奴隷長とバルガスの二人だった。

二人はトサカと共に全魔力を解放して、三人がかりで巨大な柱の落下を持ちこたえる。

雄叫びを上げる三人の魔法世界の住人。

そしてトサカは悔しそうに顔を歪めながら、呆然とするシモンとサラに向かって叫ぶ。


「さっさとやりやがれぇ! クソッタレ奴隷共がァ!!」


その叫びに顔を上げて二人はトサカたちが押さえている柱に向けて、最後のドリルを解き放った。


「ああ! 穿孔ドリル弾!!」


「へっ、命令すんなよな! スパイラルカオラン砲!!」


二人の放った螺旋の力は、結果的にフェイトの魔法を全て消し去り、被害状況ゼロという快挙を成し遂げた。

その快挙に街中が一斉になって歓声を上げる。

だが、シモンとサラはその歓声に応えたりはしない。

その視線の先には、全魔力と気力を放出し、激しく消耗して地面に腰を下ろしている影の英雄を見ていた。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」


「ふう~~~、・・・・・トサカ、大丈夫かい?」


「ああ、・・・・ママや兄貴は?」


「ふん、俺の心配するのは10年早いぞ?」


今の一瞬で鍛え上げた魔力全てを出し切ってしまった三人は力なく地面に腰を下ろしていた。互いに互いを苦笑しながら、一仕事を終えたような表情をしていた。

そんな彼らに・・・・・・というよりもトサカにどうしても問いただしたいことがシモンにはあった。

だがその前に、上空からの声に遮られた。


「やれやれ、たしかに君はシモンだけど・・・・それでも、まだまだと言ったところだね」


「て、テメエ!」


「喧嘩と捉えるのは構わないが、やはり決着はもっとちゃんとした形がいいね」


建物の屋上から見下ろして告げるのはフェイト。そしてその隣には折れた刀を二刀抱えながらフェイトと同じような表情でこちらを見つめる月詠がいた。


「シモン、・・・・オスティァで待っている」


「・・・・・・・オスティァ?」


「それまでに記憶を取り戻し、僕の知っている君になってから、約束を果たそう」


「まっ、待て! 勝手なことばっかヌカしてんじゃねえ!」


シモンの言葉にフェイトは耳を貸さない。するとフェイトの足元に水溜りが出来、その水が渦を巻いてフェイト自身を包み込んでいく。


「それじゃあ、また会おう」


「まっ、待ちやが・・・・・・・」


そしては渦巻いた水が元に戻った瞬間、先ほどまでいたはずのフェイトは完全に姿を消した。

おそらく移動魔法の一種なのだろうが、そんなものはシモンにはどうでもよかった。

ただ、フェイトが言い残した自分の忘れた何かをずっと心の中で考えていた。


「ウチもまたアンタに会いに来ますえ~」


そしてフェイトが消えた場所の隣で、月詠が折れた二本の剣を抱えながら、札を取り出した。

その札が合図となり、月詠の体の周りに花吹雪が舞い上がり、フェイと同様にその身を包み込んだ。


「刹那センパイを手に入れるために可愛がっていたウチの大事な剣を二つも折ってくれたんですからな~。次は・・・・・・次は・・・・・」


月詠が微笑みながらもその瞳だけを異常な眼差しに変えた。その目に込められた感情は憤怒か、それとも恨みかは分からない。しかしそんな背筋も凍るような瞳で月詠はシモンに告げる。


「ウチの大事なモンをメチャメチャにしたドリルごと、アンタをズタズタに斬り裂いてみせますえ!」


そして花吹雪が完全に月詠の存在をグラニクスから消した。

捨て台詞にしては、ありきたりだろうが不気味な瞳で告げる月詠から、決して大げさではないとサラは感じた。

しかしシモンは震えない。

臆すこともない。

目の前で消えた女の因縁よりも、今は自分のことしか頭になかったからである。


「ったく、結局何も教えてくれなかったなアイツら・・・・・。終わってみれば分からないことが増えただけじゃないか」


シモンの呟く自問自答。

いくら考えても答えは出ない。

結局全ては自力で思い出すしかないのである。


「シモン?」


「・・・・なんでもない。なんでもなくはないけど・・・・今は・・・もういいよ」


どうしようもなくただ天を見上げるシモン。

しかしそこには、懐かしいと思う空はなかった。


「けっ、いつまでそうやって突っ立ってるつもりだ?」


空を眺めるシモンに、地面に腰をついているトサカが気に食わないといった感じで声を掛ける。

しかしその言葉には何か突き放したような感情が込められているような気がした。


「奴隷の分際で、ハシャギやがって・・・・」


「・・・・・お前のほうこそ・・・・・」


「あん?」


「さっきみたいな・・・・あれほど真っ直ぐな気合を持ってるくせに何でお前は・・・・ひねくれている?」


「・・・・・・・・・・・・・ちっ・・・・・・・」


シモンは先ほどその問いかけをしたかった。

自由に生きることを、運命という言葉で否定した、ひん曲がった性格をしているかと思っていたトサカの、降り注ぐ巨大な魔法に立ち向かう気合は一体なんだったのかと。

しかしトサカは舌打ちをして目を逸らすだけで、答えはいくら考えても出てこなかった。


「ちっ、・・・・分かんねえよ・・・・ただ体が勝手に・・・・」


「そうか・・・・俺もだよ」


「なに?」


「結局俺は何も分からないんだ。でも、何も分かっていなくても、自分がこうしたいと思ったことだから俺はお前とも、アイツとも戦った・・・・結局、自分で決めたことを自分の意思でやる・・・・それだけだよ」


「・・・・・けっ、何も分からねえなら、何もすんじゃねえよ・・・・ったく、気に食わねえ・・・・・」


そう呟いてトサカは何かをあきらめたかのように肩の力を抜いて、シモンとサラに告げる。


「なあテメエら・・・・この街からさっさと消えろよ・・・・・」


「何?」


「はあ?」


「首輪がねえ今なら・・・・当局には俺が適当に誤魔化しておくから・・・・頼むからこの街から・・・・いや、俺の前から消えてくれよ」


「なんだと?」


「えっ、いいの!?」


それはあまりにも意外な言葉だった。

頑なに奴隷の逃亡を否定して来たトサカの発言には、奴隷長もバルガスも目を見開いて驚いていた。


「テメエらみてえな奴隷がウロチョロしやがると・・・・俺が俺じゃなくなっちまいそうで、むかつくんだよ! 奴隷の・・・クソッタレ共の地べたを這いずる人生を知らねえくせに文句ばっか言いやがって・・・」


「なっ、ふざけんな! そもそも奴隷っていう制度自体が、「よせよシモン!!」・・・・・・サラ?」


シモンが何かを言い終わる前にサラが言葉を遮った。


「お前の言いたいことは私も分かるよ。けど言っちゃダメだ」


「・・・・・えっ?」


「出て行けって言ってくれたんだ。もうそれでいいじゃん!」


「サラ・・・・・・・・・」


シモンは奴隷制度自体に噛み付こうとした。

しかしその言葉を予期したサラは逸早くシモンを止めた。

彼女自身も気持ちはシモンと同じだろう。

しかしサラは幼い頃から父と世界中を旅しているからこそ、その言葉を言ってはならないと分かっていた。

国や地域には受け継がれてきた宗教や文化がある。

それを余所者の自分たちが心の中でどう思っても、それを否定してはいけないとサラはサラなりに理解していた。

奴隷という制度から逃げ出そうとしたサラだが、受け入れない代わりに否定はしなかった。

シモンもサラの目を見て、何となくサラの言いたいことは理解できた。

しかし心のどこかで、引っ掛かりがいつまでも残った。


(ダメだ・・・分からない、結局俺には何もかもサッパリ分からないよ・・・・・)


色々なことがありすぎた。

記憶を無くして数日の出来事だけでも既に語りつくせないほど濃いものとなっていた。

しかもそこには分かったこともあれば余計に分からなくなったことも山ほどあった。

そんな時、アンチスパイラルの言葉を不意に思い出した。


「己とは何か・・・・・命とは何か・・・・・宇宙とは何か・・・・か・・・・・」


結局、己の事も世界のことも、何も分からない今のシモンに答えられるはずは無い。

奴隷という世界の常識、フェイトという自分を知る男との出会い、しかしそれらはシモンの頭の中を余計に分からなくさせるだけだった。

だからこそシモンは思った。

自分が何者なのかを思い出したい。

世界とは何なのかをこの目で確かめたい。

ラカンとの戦いで絶望に囚われた自分を救ってくれた女の言葉が真実だと確信したい。


サラとブータと共に、グラニクスの都市に背を向けながらシモンは心の中で思っていた。














「いいのかい? 逃がしちまってさ」


「はん、あんな奴ら置いといても騒ぎを直ぐ起こして余計に金が掛かるだけだからよ。単なる厄介払いだよ」


「はいはい、そうゆうことにしておくさね」


トサカの勝手な許可で立ち去る二人の奴隷を奴隷長は引き止めることはしなかった。

いつもトサカを殴り、バカな行動を注意してきた奴隷長にしては珍しいことだった。

そして奴隷長は少し機嫌よさそうに疲れた体を起こした。


「まあ、奴隷二人分はアンタがちゃんと働くんだよ?」


「ああ~~ッ!? って・・・・・ちっ、・・・・分かったよ。俺は一生それでいいんだよ」


「ったく、無理にひねくれちゃったね、この子は」


「お~お~、ひねくれ者で結構だよ」


トサカはつまらなそうに呟きながら、たった今立ち去ったシモンとサラの向かった方角を見つめ、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。


「けっ、・・・・テメエなんかに・・・・テメエなんかに分かってたまるかよ・・・・」


それは悔しさではない。

負け惜しみではない。

純粋なシモンに対する嫉妬だった。


「お前みたいに・・・・地上の太陽の光を一身に浴びる奴なんかに・・・・光の届かねえ奴の気持ちが分かってたまるかよ・・・・・・・」


決して人には言わないだろうトサカの気持ち。

ボロボロになりながらも何とかするシモンを見て、自分もやれば何とか出来るのではないかと、一瞬でも思ってしまった自分自身を卑下していた。

なぜなら結局シモンも自分では一生届かない領域にいる人間である。

「俺を誰だと思っていやがる」そう言った時にまるで太陽の光をスポットライトのように浴びているシモンを見て、自分には一生出来ないことだと理解した。

だからこそ、甘い夢を見ないためにもシモンとサラを逃がすことにしたのだった。



「俺は一生光が届かねえ・・・・・・穴の中だ・・・・」



だが、変わらないためにシモンとサラを逃がしたトサカだったが、この事件をキッカケに何かが変わったのである。

シモンとサラがいなくなって数日後に再び新たな奴隷が自分たちの前に現れた。

奴隷になった理由はサラと同じ理由で、病気になった友を救うために借金した少女たちだった。

彼女たちは魔法も何も使えない旧世界のただの三人の女子中学生である。

しかし金が絡めばそんなことはどうだっていい・・・・・・はずだった・・・・・

数日後のグラニクスで首輪をしてメイド服を着た新たな奴隷がフラフラの状態でカフェテラスを掃除していた。

さらに少女の顔は赤く、誰がどう見ても体調が悪いのは一瞬で分かる。

しかし奴隷となった少女は同じ奴隷になった二人の友に心配掛けまいとかなり無理をしていた。

だが、その無理はいつまでも続かない。やがて少女は意識が朦朧とし、そのまま倒れてしまった。


「きゃあ!?」


「亜子!? しっかりして!」


「和泉さん!?」


倒れた少女に仕事をほっぽりだして急いで駆けつける二人の少女。しかし倒れた少女は懸命にハニカンで見せた。


「ご、ゴメン・・・少しクラクラして・・・・せやけど大丈夫や」


「うそ言うな! 寝てなきゃダメじゃないか! まだ熱があるんだし・・・・あとは私と村上が・・・」


「ううん、大丈夫やアキラ。ウチの所為でこないなことになってもうたんやし、ウチだけ寝とるわけにもいかへんよ」


「でも・・・・」


二人になんとも無いと言って直ぐに立ち上がろうとした亜子だが、体に力が入らない。

アキラも夏美も自分たちを気遣って無理をしようとしている亜子に涙が出そうになるほど悔しく思った。

だが、どうすることも出来ない。

正直夢なら覚めろと、何度もこの目に見える現実に叫んだか分からない。

するとその時、仕事をしていない自分たちに怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい、何サボってやがる!!」


「「「!?」」」


「何サボってんだって聞いてんだよ!」


アキラたちは恐怖で肩を震わせながら振り返った。そこには不機嫌そうな男が自分たちに歩み寄ってきていた。

その男こそトサカだった。


「ごめんなさい、ウチのせいで・・・・・」


「ああ~~ん?」


亜子は必死になって二人を庇おうとするが、その言葉を聞いてトサカは益々不機嫌そうになった。

このままでは何をされるか分からない。

するとアキラは勇敢にもトサカの前に立ちはだかって、足を震わせながら口を開く。


「私たちが亜子の分も仕事をします。だから亜子を休ませて欲しい」


「アキラ!?」


「いいから!」


「あ~んテメエ・・・・、まさか体調が悪いとでも言うのかよ?」


亜子を守るために恐怖で震えながらもアキラは現れたトサカに懇願する。

するとトサカは奴隷であるアキラたちに言われたのがムカついたのか、睨みつける目を余計に鋭くさせた。

ヤバイと直感で感じた亜子が必死になって首を横に振ろうとする。


しかし・・・・・



「だ、大丈夫です! せやから・・・「だったら!」・・・・・はい?」



「だったら無理しねえで寝てりゃ良いだろうが」




「「「・・・・・・・・・・・・へっ?」」」



一瞬何を言われたのか分からない亜子たちだった。



「・・・・・・・・・いいんですか?」



「あ~? 言い訳ねえだろうが! だが仕方ねえだろ! 貴重な奴隷が早々と潰れたらこっちが迷惑すんだよ! ほら、治ったらコキ使ってやるから、さっさと戻ってろよ!」



「えっ、えっ? ・・・・・・・・は、・・・・・はい」



あまりにも意外すぎる言葉に三人がキョトンとしてしまった。するとトサカは舌打ちしながら、その場に背を向ける。


「けっ、大体俺はよ~~」


「「「?」」」


「無理して何とかしようとするバカが死ぬほど嫌いなんだよ! 無理なら無理しねえで、大人しくしてりゃいいんだよ!」


トサカはそれだけを言い放ちその場を後にする。

一瞬呆然としてしまった三人だが、立ち去るトサカの背を見て、アキラは慌てて頭を下げる。


「あの・・・・その・・・トサカさん・・・・ありがとう・・・・亜子を気遣っくれて・・・・」


するとトサカは勢いよく振り返り、顔を真っ赤にさせながら叫んだ。


「べ、別にテメエらのためなんかじゃねえんだからな!! 俺がムカつくからだよ!」


そして再び舌打ちしながらトサカはその場から逃げるように走って立ち去った。

何だか訳の分からないことになったが、とにかくホッとしたアキラは倒れている亜子をゆっくりと起こす。


「亜子、戻ろう」


「良かったね、和泉さん!」


「ウン、・・・せやけどあの人・・・・・」


「うん、怖いけど、根はいい人なのかも」


この出来事は恐怖と不安で溜まらなかった三人の奴隷生活に僅かな安堵をもたらす物だった。

素直ではないトサカの不器用な心遣いに、亜子たちは逃げるように立ち去るトサカの背中を見ながら、この世界に来て初めて笑った。

そしてこの後、トサカは自分の行為と言葉に、もの凄い恥ずかしさと自己嫌悪に陥り、何度も何度も壁に頭を叩きつけて後悔していたところを、奴隷長に見つかったそうだ。
最終更新:2011年05月12日 14:29
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