第八十五話 俺は何もしていないし、しないよ? 投稿者:兄貴 投稿日:09/07/07-11:59 No.4051
「「えええええーーーーーッ!?」」
アスナと木乃香、そして刹那と楓も宿泊した宿の部屋のテレビを見て、驚きの声を上げていた。
テレビに映るのは自分たちと同じぐらいの年齢で、誰がどう見てもカッコいい王子様キャラの男が、マイクを持って高らかと告げていた。
『僕の名前は・・・ナギ・スプリングフィールドです』
その言葉にはアスナ達だけでなく、テレビの向こうにいる囚人観衆も大声を出して驚いていた。
『僕は彼とは何の関係もありませんが、強敵、難敵突破して、この最強の男の名に恥じぬ戦いをしていきます!』
それはグラニクスの拳闘試合のテレビ中継だった。
突如彗星のごとき強さと、有名すぎる名でデビューを果たした男の映像だった。
そしてその人物は自分たちのよく知る人物でもあった。
「あんの・・・バカ・・・・」
「ははは~~、ネギ君も小太郎君も無事やったんやな~。良かったわ~」
「ほんと! 心配掛けて・・・・」
アスナと木乃香は抱き合いながら仲間の無事を喜び合っていた。刹那と楓も微笑ましそうに頷いていた。
テレビに映ったのは幻術で大人の姿をしたネギ。それは彼女たちには一瞬で分かった。そして以前と変わらぬ無事な姿が見られただけで本当によかったと涙目になりながら安堵していた。
そんな彼女たちの笑顔を見て、瀬田たちも気になった。
「君たちの仲間かい?」
「ええ、我々と一緒にこの世界に来て逸れてしまったのですけど、ご無事で良かった」
「うむ、小太郎も居るようだし、ようやくこちらに風向きが来たようでござるな」
「あれが重婚する男か? まあ、たしかにツラはいいようだが・・・・」
「んも~、ハルカさん、それは違うえ~。ウチらが結婚したい思っとるのは別の人や~」
「う~ん、ナギ・スプリングフィールドねえ・・・僕が学生時代に海外の団体でそんな名前を聞いたような聞かなかったような・・・」
瀬田があごに手を置き呟くが、今のアスナ達の耳には入らない。
アスナは勢いよく立ち上がり、拳を握り締める。
「とにかく! やる事は決まったわね!」
アスナの叫びに三人はうれしそうに頷いた。
「ええ、テレビの放送によると一ヵ月後オスティアで大規模な拳闘大会があり、ネギ先生たちもそこへ行くでしょう」
「ん~~、つまり?」
「我々もオスティアを目指せばいいということでござるよ」
「そういうこと! ネギやみんなと再会して、無事に学園に帰る! これで完璧よ!」
さまようだけの旅にようやく目的地が見えた。
それが分かった瞬間のアスナ達の行動は早い。まったく予備知識の無いまま、ただ言われたオスティアを目指そうとする。
「オスティアか~~、そこも魅力的な古代都市があるって話を聞いたね」
「そうだな、情報収集の時にそんなよーなことを聞いたな」
瀬田たちもこの世界のことをそれほど詳しく知っているわけではないが、オスティアという単語に聞き覚えがあり、興味深そうに呟いた。
「えっ!? じゃあ、瀬田さんたちも一緒に行く?」
少し期待を込めた瞳で身を乗り出すアスナだが、瀬田とハルカは肩を竦めながら申し訳なさそうに首を横に振った。
「残念だけど、そういうわけにはいかないんだよ」
「えっ? なんでなん?」
「いや、私たちはお遣いに出した娘が帰ってきたら、別の遺跡に行くつもりなんだ。だからそのオスティアとやらには一緒には行けないな」
「「えええ~~~、」」
アスナと木乃香の見るからに残念そうな顔と声で、瀬田も申し訳なさそうに苦笑するが、瀬田もここは首を縦に振るわけには行かなかった。
「ゴメンね・・・しかしちょっとこの世界で気になることがあってね。どうしてもその気になることを調べておきたいんだ」
「気になることですか?」
「うん、少しね・・・」
そう言った後、瀬田は一度タバコに火をつけて煙を大きく吐き出した後、自分たちの目的について語り始めた。
「ちょっと、この魔法世界がどうも・・・・まあ僕の仮説が間違っていることはよくあることだが・・・この魔法世界の表面積が地球の半分~三分の一っていうのが引っかかってね・・・、それにこの世界の地形の形などから辿り着いたモルモル王国側の立てた予想。ひょっとしたらこの仮説を公表されたくないために、魔法世界は僕らを狙っているんじゃないかってね」
「「「「・・・???」」」」
「実はモルモル王国が世界中から事前に集めた魔法世界の情報と、独自で調べ上げた過去に隠された歴史と、魔法とか気の類ではなく科学的な視点から分析したら面白い仮説に行き当たってね。実はこの魔法世界はひょっとしたら・・・僕たちの世界で言う、火せ・・って・・・」
「「「「????」」」」
瀬田が少しディープな話をしようとしたが、気づいたらアスナ達は話が少し難しかったのかボケーッとして、目が点になっていた。これはマニアが熱く語ろうとしたとき対応に困っている人達の目だった。
瀬田はその反応を見て、少し肩を落としながら、咳払いをした。
「おほん・・・まあ、ようするに僕たちはそれが理由で色々動き回った結果、魔法世界からも入国許可が下りずに、こうして密入国して来たわけだ」
「あっ、そうですか・・・・まあ、よく分かりませんけど・・・」
「まあ、それでちょっと気になる遺跡があって、私たちはそっちに行こうと思っているってわけさ」
「うう~む、瀬田殿たちが入れば心強かったが」
今すぐ旅立ちたいアスナ達とは違い、瀬田とハルカには待っている人も居て、別の目的がある。
そしてこればかりはどうしようもなく、そしてアスナ達も何時来るか分からない瀬田の娘を待つよりも、早くオスティアへ向かいたいという気持ちでいっぱいだった。そのため、瀬田たちと行動できないと分かり、とても残念そうに肩を落とした。
「ふん、女でガキとはいえ、覚悟して来たんだろ? だったらあんた達はあんた達のやるべきことをするんだね」
「うう~~、残念だけど仕方ないか~。瀬田さんたちも遊びできたわけじゃないんだしね」
「そういうことだな。こっちも元の世界に帰る前に一つや二つの謎を解き明かしてから帰りたいしな」
「うん、ごめんね。でも、もし僕たちも早目に切り上げられたらオスティアに向かうよ。ゲートが全部テロで壊された以上、オスティアには行かなくちゃいけないからね」
「分かりました、ではオスティアで再会できることを楽しみにしています」
「うむ、今度は遅れを取らぬようにこちらも気合を入れるでござるよ」
「よ~っし!じゃあ、今日休んだら、明日はオスティア目指して出発よ~~!」
「お~~~!」
この時彼女たちは風向きが自分たちに向いたと信じていた。
事実向かい風ではなかったので、この時はこの決定を誰もが疑わなかった。
実際それは間違っていない。しかし後数時間の差だった。
思い立ったら行動という彼女たちの特性が、僅か数時間でも遅れていれば、望むべき再会が待っていたことに、彼女たちが気づくはずも無かった。
そして同時刻の同じ空の下で・・・・
「ふ~ん・・・・グラニクスでそんなことが・・・もう少しゆっくりしていたら俺たちもコイツを見れたのにな~」
「ん、ナギって奴のことか~?」
「いやさ、ブータがテレビを見た瞬間過剰に反応して・・・でも俺は・・・まったく心当たりはないんだけどな」
「ぶうぶ! ぶうぶ!」
「ああ~もう、どうしたんだよ~?」
テレビに映し出されたネギの姿にブータは過剰に反応してシモンにテレビを見るように促した。
しかしテレビに映っているネギは幻術で成長した姿のために、シモンはあまりピンと来なかった。学園祭で、ネギの大人バージョンの姿を見たことはあるが、チラッと見た程度であり、今のシモンにそれを思い出せというのは無理な話だった。
せいぜいテレビに映っている男は普通じゃないと思うぐらいだった。
「しかし・・・なんかコイツ凄いかっこいいぞ・・・」
「ほんとだな~、ダッサいお前とは大違いだぜ♪」
シモンがテレビに向かって呟くと、サラは意地悪な笑みを浮かべてシモンを笑った。
「ええ!? 俺って・・・ダサいのかなあ?」
「あ~もう、シュンとすんなよな~。安心しろよ。かっこいい男とイイ男ってのは女からしてみりゃ、意味が全然違うんだからさ」
「そうのなのか? じゃあお前で言うと俺はどうなのかな?」
「う~~ん・・・10点」
「低ッ!?」
「まあ、まだまだってことだよな~・・・・・(10点満点中だよ・・・・ばーか・・・)」
少し顔を赤くしながらソッポ向くサラだった。そして照れ隠しをするようにわざとらしくあくびをした。
「さ~ってと・・・明日にはパパに会えるし、今日はもう寝ようぜ!」
「ああ、そうだな。俺も体がクタクタだよ~」
「まあ、お前は随分バカやりまくったからな~。グッスリ休んどけよな」
「はいはい」
「あ、あと!」
「ん?」
「その~~、なんだ・・・あれだ・・・・いくら私が可愛いからって・・・」
「・・・なんだ?」
「イ、イタズラしたらぶっ殺す・・・のはやりすぎだし・・・そんなに嫌でも・・・・ううう~~んと・・・」
「サラ?」
「な、なんでもないよ! 調子に乗るなよな~~!」
「いや・・・別に・・・俺は何もしていないし、しないよ?」
「うるさい、うるさい、うるさい! とにかく、イタズラしたらデコピンだからな!!」
一頻り真っ赤になって叫んだ後、サラは勢いよく頭から布団を被って顔を隠した。
シモンはそんなサラの子供みたいな態度に苦笑しながら、部屋の電気を消してゆっくりと布団の中に入った。
そんなシモンの気配と動作を、布団を被りながらもチラチラと様子を伺いながらサラはため息をついた。
(あ~、危なかった~~、このサラ様が危うくダサ男に屈辱を合わされるとこだったぜ~~)
布団を少しだけずらして後ろをチラッと見ると、真っ暗でよく確認は出来ないが、たしかにシモンがベッドで寝て、その隣でブータが丸くなっているのを確認した。
その様子から見て、シモンはどうやら自分に手を出すような様子はないと分かり、サラはひとまずホッと安堵の息をして、もう一度シモンを見る。
(・・・まあ、・・・こいつは意外としかっかりしてそうだし・・・・イタズラしてこないよな~?)
そしてもう一度チラッと確認する。
(・・・・しないな~~~)
更にもう一度様子を見るが、自分とは違ってシモンは完全に寝る体制に入っていた。
(うん・・・・しない・・・・)
するとサラは少しだけムッとなった。
女である自分はこれほどビクビクしているというのに、肝心のシモンはまったく興味もなさそうに寝ているのが、少しムカついた。
(・・・そりゃあ・・・休めって言ったのは私だし・・・・手え出したら怒るって言ったけど・・・・)
自分だけ緊張してのんきに寝ているシモン。
そう考えるだけで理不尽な怒りが込み上げてきた。まるで自分に女としての魅力がまるで無いかのように思われている感じだった。
(・・・・少しぐらい・・・・・そわそわしたてくれたっていいじゃんかよ!)
何故木乃香や刹那を含めてこの世代はネジが一本ぶっ飛んでいるのか?
それは中学生になり、ようやく男子を友達ではなく男と意識する年齢ゆえの反応である。
本来15歳でそうなるのは遅すぎるぐらいだろう。
しかし今までシモンと出会った女たちは大概が女子校育ちだったり、男に免疫が無い者達ばかりだった。当然サラは思春期に入ってからは父ぐらいしか男の免疫が無い。
そんな彼女たちの目の前にいきなり、男というより逞しい漢が現れ傍にいたら、心の乱れも半端ではなかったのである。
結局サラはこの日は一睡も出来ず、シモンとブータだけ大爆睡だった。
次の日サラが不機嫌だったのは言うまでもなかった。
地図にしてみればそれなりに離れているものの、アスナたちにとっては目と鼻の距離にシモンとサラはいた。
メカタマの移動時間を考えて数時間という距離であり、待てなくも無い時間である。
しかし賞金首である自分たちがのんびり出来ないこと、そして早く仲間の元へと駆け付けたいという思いから、まだ朝靄の掛かる早朝にアスナ達は旅立つことにした。
「では、我々は行きます」
「瀬田さんもハルカさんも色々とありがとな」
「いや~、大した力になれなくて済まなかったね」
「そんなことないわよ。それに瀬田さんたちもオスティアに来るかもしれないんでしょ? だったら、また会おうね」
僅か一晩の出会いであったが、同じ同郷ということから、瀬田とハルカとはすっかり打ち解けてしまった。もとより、瀬田もそれほど細かいことを気にする人間ではないだけに、アスナ達がお尋ね者ということに大した警戒心も見せずに、気さくな態度で接してくれただけに、少しアスナ達も名残惜しかった。
「でも、残念やな~、瀬田さんとハルカさんには、ウチらがモルモル王国に住むことになったときのために、色々聞きたいことがあったんやけどな~」
「はい、それに青山素子さんのことも聞きたかったのですが・・・・我々もあまりゆっくり出来ませんから・・・」
「うん、そのことに関してはもしオスティアで会えることになったらゆっくりと話そう。取り合えず今は君たちの仲間のところへ駆け付けるんだね」
「そん時面倒なことになったら、手ぇ貸してやるよ」
「はい、よろしくお願いします!」
一人ずつと軽く握手を交わして、瀬田たちに手を振りながら、アスナ達はまだ早朝の村から飛び出し、真っ直ぐオスティアへと進路を目指す。
ネギがいる。
他の仲間もきっと目指している。
その思いが一歩、また一歩、進む速度が速くなっていく。
そしてもう一度、後ろで視界に写る大きさが小さくなっていく村を眺めながら、アスナは呟いた。
「アッサリと別れちゃったけど、なんかスッゴイ人たちだったね!」
「はい、好奇心で家族三人魔法世界に密入国とはメチャクチャですね。それにまさか神鳴流宗家の方とお知り合いだったとは・・・」
「うむ、拙者らが束になっても太刀打ち出来ぬとは、世界は広いでござるな~。まだまだ修行が足りん」
「そうね~、あんだけ強くて、かっこよくて、優しくて、少年っぽい心も持ってるって反則よね~」
アスナが心底残念そうにため息をつきながら、瀬田の顔を思い出して、顔を思い出す。
昨日、瀬田の微笑を見ただけで緊張の余り失神してしまったアスナだったが、目が覚めたとき、瀬田は既に既婚者で、自分たちと同じ年齢の娘が居ると聞かされて、それはとてもショックだった。
「あ~あ~、瀬田さんが結婚して無ければな~~」
するとアスナの呟きに、反応した木乃香が、頬をぷくっと膨らませてアスナに講義する。そしてそれにつられて刹那もアスナに異議を唱えた。
「む~、アスナ~、結婚した人好きになったらアカン決まりなんかないえ~」
「そ、その通りです。本気で慕っているのであれば、些細なことです」
「あ~もう、はいはい! そりゃあ~、シモンさんの場合は特殊だからね~」
「・・・・・・・・む~・・・・」
「・・・・もう、・・・アスナさんは・・・・」
「ふっふっふ・・・シモン殿・・・か・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
シモン、
その名をアスナが呟くと少しだけ場が静かになった。
そして次に口を開いたのは木乃香でも刹那でもなく楓だった。
「・・・・瀬田殿を見ているとまったく似ていないのに、何故かシモン殿を思い出したでござるよ」
楓の言うとおり、シモンと瀬田はまったく似ていないだろう。
しかし何故か楓の言葉はアスナ達も納得できた。
「あっ、それ私も! なんか分かるかも」
「うむ、瀬田殿はシモン殿と同じ土の匂いがしていたでござるからな~」
「そやったん? ウチは気づかんかったわ~」
「そうですか・・・・しかし確かにあの人は考古学者。つまり穴を掘るですからね」
「・・・・うん・・・そうだね~」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
そこでもう一度静かになったが、その空気に耐え切れず、アスナが一度大きくため息をついて空を見上げて呟いた。
「・・・・・・・・・・シモンさんか~、・・・なんか会いたいよね」
「・・・うん、ウチもや・・・・」
「そうですね、一言でもいいから、何か言って欲しいです」
「・・・・しかしあの方が居たら、魔法世界での拙者たちは今以上の大事に巻き込まれる気がするがな」
「あっ、それ絶対にそうだわ!」
「う~ん、ウチはそれでもええからシモンさんと一緒にいたかったわ~」
「はいはい、ご馳走様」
「も~、アスナ~・・・・・ん?」
その時、木乃香は途中で足を止めて、空を見上げた。そして不思議そうに首を傾げながら、後ろを振り返っていく。
それに気づき、アスナ達も後ろを振り返ると、木乃香は無言で自分たちの来た道の空を眺めていた。
「・・・・木乃香?」
「・・・・ん? う~ん・・・・・・・・今・・・・大きなカメが飛んでたんやけど・・・・」
「カメぇ? う~ん、まあ首都に着いたとき、空飛ぶクジラとかいたし、別に不思議じゃないんじゃない?」
「う・・・・ん・・・・そなんやけど・・・・」
「もういいから~、先は長いんだしさっさと行くわよ」
「あっ、アスナ、置いていくんは嫌や~」
木乃香は慌てて前を行く三人を追いかける。
彼女は一体何故空飛ぶカメを気にしたのかは分からない。だが、木乃香の気になったことに他の面々も気づいていれば、彼女たちの願いは叶っていたのだが、そう簡単にはいかず、空飛ぶカメは真っ直ぐアスナ達が来た方向へ向かって飛んでいた。
間違いなく風は自分たちに吹いている。
しかし完全な向かい風ではなかった。
彼女たちがそれを分かるのはもう少し先のことだった。
だが、この時彼女たちが気づいていなかったのは、シモンのことだけではなかった。
そしてシモンも気づいていない。
当然ネギや、他の仲間たちも、そしてこの魔法世界の住人は誰一人として気づいていなかった。
十数年間、無風だった魔法世界の風は、シモンが来て、そしてネギたちがやって来たことに徐々に風が吹き始めた。
そしてもうじき、この風は大嵐のように吹き荒れて、魔法世界に大きな影響を及ぼすことになる。
そして場面は、魔法世界から麻帆良学園に移る。
今は夏休みに入り、生徒たちも居ない静かな学園・・・・のはずだった。
しかしその学園の敷地内で、目をギラギラさせて、己を高める男たちがいた。
シモンが・・・・
ネギが・・・・
アスナ達が、それぞれ遭遇した事態に臆すことなく立ち向かい、精神も力も身に付けていた頃、彼らの旅立った麻帆良学園では、可憐な少女たちとは正反対のむさ苦しい男たちが汗みどろになっていた。
「ちっ・・・四人がかりでも、勝てねえか・・・・喧嘩三十段のこの俺がよォ・・・」
「ふっ、さすがは高畑先生というところか」
膝を突きながら肩で息をする四人。
対する高畑は余裕の表情でニコニコ笑いながら両手をポケットに入れたままである。
力の差は誰の目から見ても歴然。しかし四人は一人も諦めの目をしていない。
「けっ、だがよ、意地の一太刀でも入れなきゃグレン団が廃るってもんだぜ。なあ、薫ッち、山ちゃん、ポチ?」
「無論」
圧倒的な力の前に四人の男たちは立ち上がる。
豪徳寺薫、山下慶一、中村達也、大豪院ポチ。一般人では麻帆良学園高等部男子最強の四人は、裏表問わずに学園最強クラスのタカミチと戦っていた。
「ふっふ、夏休みに入ってイキナリ修行してくれって言われて驚いたけど。随分頑張るね」
豪徳寺たちのギラついた目を見ながら、タカミチが機嫌よさそうに言うと、全員の気持ちを豪徳寺が代弁する。
「へっ、シャークティの姐さんが言ってたんすよ。美空ちゃんも、ココネちゃんも、この夏は一皮向けるために気合入れてんだって。だったら、俺たちだけ遊べるかってんだよ!」
「「「おうよ!!」」」
男たちが四方に分かれた。
そして正面から豪徳寺とポチが迫ってくる。
近接近の打撃技を得意とする二人である。その打撃は一般人からすれば最強レベルだろう。しかし、タカミチには遠く及ばない。
それは彼らにも分かっている。
しかし無謀だろうと力の差がどうであろうと、彼らに後退のネジは無い。己の拳にと心に気合を込めて、強固な壁へと殴り続ける。
「うりゃああああ! 喧嘩殺法・タコ殴りィ!!」
「豪乱打!!」
最終更新:2011年05月12日 14:32