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89-お前たちの目の前に俺は居る!

第八十九話 お前たちの目の前に俺は居る! 投稿者:兄貴 投稿日:09/07/28-20:29 No.4092
オスティア終戦記念祭



あらゆる人種、宗教、国境を越えて世界中から人がオスティアへ集まって毎年開かれる世界最大の祭典。

7日7晩、決闘、喧嘩、酒に、博打に、女に男、何でもありの大騒ぎ。

平和を願うといっても決してお堅い雰囲気は漂わず、老若男女獣魔問わずに行き交う人々に笑みが溢れていた。

そこはまるで夢の世界に見えた。

ファンタジーとかの類の言葉とは無縁のシモンだったが、きっとそれは今の目の前のような光景をそう呼ぶのだろうと思った。


アリアドネーやグラニクスとは違う、どこか神秘的な匂いと祭りの派手さで賑わい列を作る人や亜人の数々。

鳴り響く楽音。

そしてパレード。

街の至る所で行われているチンピラや拳闘家同士の賭けを混ぜた野試合。

まったくその光景に失った記憶とは繋がりを感じなかったが、目の前の祭りの光景は、シモンの目に焼きついていた。


「スゴイな~。これが祭りか~」


「ホント、ホント。しかも本番前だろ? さっすが終戦から二十周年とか言われてるだけあるじゃん?」


「ぶみゅう~」


まるでおのぼりさんの様に道の端っこでウロウロするシモンとサラ、そしてブータ。

二人と一匹は現在、魔法世界最大の催し物に目を輝かせていた。


「おい、見ろよサラ! 噂のナギとかいう奴のポスターもあるぞ。どうやら本当にスゴイ英雄みたいだな」


「しっかしスゲー人ごみだよなー。後でパパたちと合流できるかな~?」


瀬田とハルカと別行動を取り、シモンとサラは並んで祭りの中を歩いていた。

シモンは一切の変装をせず、そしてサラは年齢詐称薬で大人の姿に猫耳と尻尾を生やして姿を誤魔化し、歩いていた。

そして二人の姿はパレードの仮装した人々などの様々な人種が行き交う中で、実に自然に溶け込んでいた。

瀬田の言っていたとおり、賞金首が簡単に侵入できるというのも納得できた。


「まっ、祭りを楽しむのも良いけど、早いとこシモンの記憶をどうにかしようぜ?」


「そうだな・・・どうせ七日もある祭りだ。今のうちに思い出せることは思い出しとかないとな」


「そーゆうことだ。あの写真の女についてちゃんと話せよな~」


「大丈夫だって。記憶を映像に出来るんだろ? なら、一緒に見れば答えは得られるさ」


「まっ、そ~だな~」


サラは少し早足でシモンの前を歩く。

その表情は少し複雑だった。

目の前の祭りを楽しもうという気分も今はならなかった。それだけシモンの失われた記憶と、ニアの存在に少し気になっていた。


(ま、まあ・・・こいつに恋人くらい、いてもおかしくないんだよな~。意外とかっこいいとこもあるし・・・、でも・・・なんかモヤモヤすんな~)


周りには家族連れだけでなくカップルで祭りを回るものたちも多い。もし周りから見れば、今のサラとシモンならそう思われるだろう。

しかしサラはそれを自然と避けて少しだけシモンとずれて歩いた。何もシモンを知らない状態で間違われるのは何となく嫌だった。

しかし前を歩いているものの、足取りが軽いわけではない。シモンの記憶を知り写真に写っている女がシモンの大切な存在だと決定的な事実を押し付けられてしまうかもしれないという想いもあり、微妙な気分で人ごみの中を歩いていた。


(記憶戻ったら、・・・こいつはあの写真の女のところに帰っちゃうのかな~? パパはふざけて結婚とか言ってるけど・・・・)


シモンは一人でスタスタ歩こうとするサラに追いつこうとするが、サラもムキになって離そうとしていた。


「サラ? どうしたんだよ・・・・」


「べ、別に! な、なんでもないやい、あんまりくっ付いて歩くなよな~」


「でもはぐれるだろ?」


「うう、うるさい! 離れていてもちゃんとお前は私を守れ!」


「め、メチャクチャだ・・・・」


「お、お前に言われたくなんかねーよ!」


シモンの記憶は知りたい。しかし知りたくないかもしれない。二つの矛盾の感情が交わりながらも、足は一歩一歩前へと進んでいた。

しかし適当に歩いていたため、サラは無意識のうちに人混みを避けて歩いていたのだろう。

気づけば二人は町の中心から遠ざかり、島の外れまで来てしまった。


「ま、・・・・迷った」


「ま、まあ広すぎだからな・・・、俺もここは初めて来たみたいだからな」


「ふ~ん、ここって世界的にも有名そうな所なのに見覚えが無いって事は、お前は私たちの世界の人間なのかもな~。でも、お前みたいな奴、直ぐ有名になると思うんだけどな~」


「うん、・・・アリアドネーもグラニクスも見覚えが無かった・・・見上げる空に星は見えるのに、前も後ろも見覚えが無い。・・・案外そうなのかも知れないな・・・」


二人は島のはずれから見えるオスティアからの景色を見る。そこは空しかなく、本当に空の上に居るんだと自覚させられた。


(世界が滅ぶ・・・奴はそう言っていた、だけど・・・それがこの世界には見えない。・・・でも、サラや瀬田さんの話を聞く限り、旧世界って場所もそんな大それたことは無いようなことを言っていた。・・・・だったら俺は・・・・あの写真の女の子は・・・・いや、それももう直ぐ分かるんだ。・・・・あの子が・・・どれほど俺にとって大切だったのかも・・・・)


これほどの壮大な景色に見覚えが無いというと、サラもシモンがこの世界の者ではないと思い始めた。

それはシモンも同じである。しかしそれももう直ぐ分かる。

かつてアリアドネーで頭の中に響いた言葉。それはアンチスパイラルの言葉。ロージェノムの言葉。そして大切な女の言葉。そして己とは何か? その全てを解き明かす鍵がすぐ傍にある。

そして全てを知るということは、愛した女を失った悲しみをもう一度味わうことなのかもしれない。

だが、真実から目を背けるのは自分らしくないだろう。シモンはそう思った。

シモンはオスティアからの景色から背を向け、決意の目をした。自分の真実を知る覚悟を。

横目でサラもシモンの決意を悟った。そしてこうなれば止められない男だということも、僅かな出会いから悟っていた。

だからこそ、サラも気は進まないが諦めて、進もうとした。


「行こう、サラ。俺は決して逃げ出さない・・・」


異を唱えることはしない。サラも少し寂しそうな顔で頷いた。


「うん、しょーがねーから、最後まで付き合ってやるよ」


美しい空からの景色に背を向けて、二人は歩き出した。

シモンもサラも、待っている真実を受け入れる覚悟で目的地へ向かおうとした・・・・・





しかしその時だった!





「だっはははは、ようやく出来たぜ! 自主制作映画、紅き翼戦記!!」





ひときわデカイ声だった。

しかもその声は聞き覚えがあった。

シモンもサラも動きをピタッと止めて、声がした方向へまるで機械のようにギギギと動かす。


「なあ、・・・シモン・・・」


「い、いや・・・・聞き違いじゃないかな?」


二人の視線の先には一人の大男がいた。

長髪にトレンチコートとどこか紳士的な服装ではあるが、服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉がそれを台無しにした。

誰がどう見ても三度のメシより戦闘好きな第一印象の男。

そしてその男には見覚えがあった。



「さ~って、これの制作費はボーズにツケとくとして、アイツもそろそろ親父の事を知りたいだろうから、これぐらいのネタバレは用意してやらね~とな。流石俺様、親切だぜ!」



高笑いをする男。

シモンとサラは何度も目を拭いて目に映る男を確認した。


「おい・・・シモン・・・・あれ・・・・ひょっとして・・・」


「いや・・・・・ひょっとしなくても・・・・あの筋肉モリモリは・・・・間違いなく・・・」


サラは指を男に指しながらカタカタ震えていた。

シモンも顎がガクガク言いながら滝のような汗を流した。


「まあ、ボーズも修行を乗り越えて、嬢ちゃん達と再会できたみてえだし、俺からのご褒美ってことにしとくか。つっても金は取るけどな♪ ガッハハハハハ!!」


何度確認しても間違いない。

一度見たら忘れない。

一度戦ったら細胞にまで刻み込まれてしまうその存在。


「さってと、そろそろ・・・・・・あっ」


ジャック・ラカンがそこに居た!


「「あっ・・・・・」」


ラカンがこちらを振り返り、視線が交錯した。

シモンの姿を見て口を半開きにしてポカンとしていた。

そしてお互い呆然として数秒後・・・・




「「うわああああああああああァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」




「ブミュウウウウ!?」




シモン、サラの覚悟と決意も空しく、二人はソッコーでその場から逃げ出した。

当てもなく、只遠くへと逃げ出した。


「ななななな、なんでアイツがいるんだよーーーーッ!?」


「し、知らない! でも、まずいな・・・あんな奴と二度と戦いたくない・・・」


「うううう~~~、来た瞬間にあんな化け物に会うなんて勘弁してくれよ~!? シモン、蹴散らせ!」


「バ、バカ言うな!? あんなもんと戦ったら街がメチャクチャだぞ!?」


「ちょっ、マジで勘弁しろよーーーーッ!?」


振り向く暇も無く二人は全力逃走を図ろうとした。

だが、瞬間に自分たちの上を飛び越えて、走る自分たちの前に男が現れた。


「「!?」」


立ち塞がれたシモンたちは肩をビクッとさせる。

そして対するラカンはニヤニヤ笑いながら口を開いた。


「おいおい、ヒデエじゃねえか~。 逃げることはね~だろ~?」


「くっ、・・・・」


「うう・・・逃げるに決まってるじゃんかよ・・・・・」


こうして対峙すると、相変わらずの桁違いの迫力だった。その実力を身をもって知っているだけに、恐れは前回以上に感じていた。

しかしシモンはサラを渡さないためにも、逃げるわけには行かない。

ラカンを睨みつけ、戦闘準備に入る。


「サラ・・・急いで瀬田さんを探し出せ! コイツは・・・俺が・・・・」


「バ、バカ!? んなこと出来るわけ・・・「おいおいおいおい! ちょっと待てよお二人さん」・・・・へっ?」


突然ラカンが両手を前へ出してシモンとサラを制した。その行動が意外でシモンもサラも首を傾げてしまった。

するとラカンから意外な言葉が出された。


「ったく、落ち着けよ。俺は今オフだ。ついでに言うと、もうお前らの首を取る必要は無くなった。当然親父さんとお袋さんのもな」


「「へっ?」」


サラや瀬田を捕まえに来たからこそ、シモンはサラを守るために戦った。そして今もその覚悟だったのだが、何とラカンは瀬田たちを、もう捕まえないと言ったのだ。これにはサラもアッサリ納得できなかった。


「ど、どういうことだよ!? お前は、私やパパを狙っていたから、シモンとあれだけ戦ったんだろ?」


「ふん、その様子じゃあ冒険王とやらもここにいんのか? チット興味はあるが、残念ながらこっちにも事情があってよ~。あれから確認したら首都の依頼に何か異変があってな・・・お前らの首は諦めることにした」


「「はあ!?」」


気づいたらラカンからのプレッシャーも消えていた。どうやら本当に自分たちを捕まえるつもりも、戦う気もないようだ。


「依頼の異変だと?」


「ああ、まっ考えるのはメンドクセーし俺もあれから色々と忙しいことがあったからな。まあ、そーゆうわけだ。シモンには色々と仕返ししてえこともあるが、今は無しにしてやるよ」


ラカンはケタケタと笑いながら二人の肩を叩いた。

あまりにも意外な展開にシモンもサラもしばらく固まっていた。


「しっかし、嬢ちゃんの方は、エラく美人になったじゃねーか。これが幻術か? 俺の弟子も正体隠すために使ってるが、見事なもんだぜ」


「な、・・・・なんだよ・・・恥ずかしいから見んなよ・・・」


「しかも猫耳とはな! アレか? 語尾にニャンとか付けてんのか? 守ってくださいニャンとか言ってんのか!」


「バ、バッカやろーーーッ!? 何で知って・・・じゃなくて・・・その・・・・フガアアア!?」


毛を逆立てて怒るサラを、ラカンは爆笑しながらあしらっていく。

シモンはその光景にホッとしたのか、深い安堵の息を漏らした。


「とにかく、・・・・お前と戦わなくていいんだな?」


「まーな、ちっと残念だが、まあ俺も弟子の面倒やら親友の娘の相手で忙しくてな。それにメンドクセー理由を除けばテメエとは酒でも飲みてえからな」


ラカンが何の含みも無く歯を出して笑ったことにより、シモンも最悪の事態を免れたことに肩の力が抜けた。

そんなシモンにラカンは大笑いしながら肩を組む。


「ったく、ビビるんじゃねえよ! 一応俺に勝った男だろーが」


「い、いや・・・俺にも記憶が・・・・気づいたときはベッドの上だったし・・・」


「なんだ、そーなのか? 一応俺はあれから歩いて帰ったけどな」


「ちょっ、お前は歩いて帰ったって・・・シモンのドリルで穴開きだったじゃんか!?」


「まーな! 内臓がぶっ飛んでて大変だったぜ!」


とても笑えないような出来事を笑って語るラカンの器の大きさを改めてシモンとサラは感じた。


「とにかく最悪の事態にならなくて良かったな」


「そーだな、これで心置きなくオスティアで過ごせるぜ」


「まっ、安心しろや! だが・・・・・・う~~ん・・・・」


シモンとサラが一安心して、ラカンに別れを告げてその場を立ち去ろうとした時、ラカンが顎に手を置いて唸りだした。


「どうしたんだよ?」


「いや・・・せっかくお前と会えてこのままにしておくのも勿体ねえと思ってな・・・・・」


非常に嫌な予感がした。


「そうだ☆」


シモンとサラはお互い同じ思いだったらしく、急いでその場を立ち去ろうとしたが、ラカンが一瞬速かった。


「なな、なんだよ、もう私たちは狙わないんだろ!?」


「まあ、そーなんだが、これじゃあツマんねーだろ? ちょっとお前らに・・・俺の弟子のライバルになってもらうぜ♪」


「何言ってんだ、俺たちにはやることがあるんだよ!?」


「まーそーゆうな。殺し合いをした仲だろ♪」


「ちょっ、はーなーせー!?」


ラカンがニコッと笑うが、その笑みからは不安な事しか想像できず、二人はズルズルとラカンに拳闘大会が行われるコロシアムへと連れて行かれたのだった。












祭りの賑わいでどこの店もオスティア内は満員である。そんな中で、働く三人の少女は一人の男が言う言葉に目を輝かせていた。


「それ、本当!? 朝倉に茶々丸さんに、古に、早乙女がこっちに向かってるの?」


「ああ、飛行船買ってコッチに皆と一緒やそうや! それに のどかの姉ちゃんも世話んなっとる人達と一緒に向かってるそうや。アスナの姉ちゃんたちも今頃ネギと再会しとる!」


「それにこの間はまき絵と裕奈から連絡があったし、スゴイ・・・・どんどん皆が集まっている」


小太郎の言葉に涙を流しながら喜んでいるのは、夏美、アキラ、亜子の三人だった。

奴隷として捕らえられてからは、目の回るような忙しさに追われていたが、小太郎の言葉に心の底から喜んでいた。


「そやったん、皆無事やったんやなー!」


「ああ、そんで後は俺とナギが拳闘大会で優勝して、夏美姉ちゃん達を開放したら終いや!」


「ちょっ、小太・・・じゃなくってコジロー君、そんなこと言ってるけど大丈夫なのかな~」


小太郎の自信満々の言葉に少し顔を赤くする。

現在小太郎は、コジローと名前を変え、ネギ同様子供の姿ではなく、変装のための大人化をした姿であり、事情を知らず、ネギの大人バージョンに恋をしている亜子を気遣って、三人の前ではコジローと名乗っていた。

すると小太郎は胸を張って当たり前のように言う。


「ったり前やろ! 俺らを誰だと思っとんねん」


その言葉に夏美は顔を赤くしてポカポカ小太郎を殴った。


「む、む~~~、何カッコつけてんだよー!? そんなんだと大事なところでミスするよ!」


「ああ!? なんやてぇ!?」


普段は姉弟のように見える二人も何やら微笑ましく感じ、亜子もアキラも笑った。

このまま、本当に皆と一緒に帰れると心の中で思っていた。

すると談笑する四人に奴隷長とトサカが近づいてきた。


「こらこら、強敵もいるんだから、油断してると本当にやられるさね」


「けっ、大体何ノンキに話してんだよ! 忙しいんだから、とっとと働け!」


トサカが精一杯悪ぶって亜子たちに悪態を付こうとした。

しかし以前なら男にこれだけ怒鳴られたら涙目になって震えていた亜子も、何故かトサカには何とも無く、苦笑しながら謝った。


「エヘヘ、ゴメンなさい、トサカさん♪」


するとトサカは亜子のヘラヘラした表情が気に食わなく、さらに文句を言う。


「コラぁ! 何が「♪」だ!? テメエ俺をナメてんのかぁ!?」


亜子の間近で睨みつけるトサカだが、亜子は怖がる素振りはまったく見せずに、少し考えて、アキラや夏美を見た。


「だって・・・・なあ? トサカさんウチらに優しいから・・・」


「はあ!?」


「亜子の言うとおりです、この間も怖いチンピラの客に絡まれた時に助けてくれたし・・・」


「うん、私たちのシフトが無理にならないように調節してくれてるし・・・・」


「はっ、はあ!? て、テメエら、何を勘違いしてやがる!?」


「そーいや、俺らの拳闘士の仕事も結構世話してくれとるしなー」


「くっ/////・・・・大体トサカさん、じゃなくてト・サ・カ・様だろ! ふざけた事ばっか言ってると、はっ倒すぞ、この奴隷共がァ!!」


「何だ、お前さんそんなことしてたのかい? そして本当に奴隷を殴らない辺り、アンタも成長したさね」


奴隷長が意外そうにトサカの顔を覗き込むと、トサカの顔は赤く、うろたえた表情をしていた。


「ちっ、ち・・・か、勘違いしてんじゃねえ! 俺は別にお前らのことなんざ、どーでもいいんだからよ!!」


苦し紛れに言う言葉にまったく迫力の欠片も無かった。

素直ではないトサカの照れた態度に四人は笑いながら頷いた。


「「「「はーい♪」」」」


「ぐっ、・・・・てめえら・・・・・」


それ以上何も言えずにトサカはうな垂れてしまった。その様子を奴隷長はうれしそうに笑った。


「はっはっはっ、アンタも最近働くようになったじゃないさ! 奴隷も大事にしているしどんな心境の変化さね?」


「ちっ、・・・別に俺は・・・・」


トサカが不貞腐れたようにプイッとそっぽ向くと奴隷長は静かに呟いた。


「あの・・・あの時の男が原因だね?」


その瞬間、トサカの肩が大きく動いた。


「ち、ちが・・・俺はあんなヤローに影響されてなんか・・・」


「あの男?」


「ああ、亜子ちゃんたちが来る少し前に居た男だったんだが、コイツが面白い男で・・・」


「ママ!?」


「何々? 教えてや、トサカさん!」


「私も知りたいな」


「私もー!」


「何や、トサカ、さっさと言えや」


「だああーーー!? テメエらいい加減にしやがれ!」


第三者から見たらこの光景は決して奴隷と主人たちの会話には見えなかっただろう。

それほどまでにこの空間は暖かかった。奴隷という呼び名と、首輪さえ気にならなければ、亜子達も、それほど苦痛ではなかった。

それは奴隷長やトサカのお陰だったかもしれない。

巡り合った境遇に最初は嘆いたものの、今を生きていることに亜子たちは心の中で二人に感謝していた。

そしてそんなトサカに影響を与えたのかもしれない男。

それが少し気になっていた。

だが、小太郎たちは全員この少し後にその男が何者かを知ることになる。










そしてこちらも喜びの笑みでいっぱいだった。

ネギが、

アスナが、

木乃香が、

刹那が、

楓が、ようやく再会できたのだ。

あのメガロメセンブリアでのテロ事件以来離れ離れになってしまった仲間との、ようやくの再会にアスナは涙を流しながらネギを抱きしめたぐらいだった。

再会した時のネギは少し背が伸びたような気がしたと、アスナは思った。

しかし成長期であるとはいえ、一ヶ月そこらで変わるはずは無い。

だが姿勢や態度の変化で人は数字よりも大きく見えることがある。

今回はきっとそれが原因かもしれない。

アスナ達が賞金稼ぎやモンスターたちと戦っていた頃も、ネギは自分自身を追い込んでいたのだと口にしなくても感じ取れたのだった。





「これで・・・朝倉たちが合流すれば、残るはアーニャちゃんたちだけってことね♪」


「はい、あと夕映さんもまだ見つかっていないそうですけど・・・・」


「大丈夫や! ユエやったらウチらよりしっかりしとるし、きっと無事や! ユエを信じるウチラを信じなアカンえ♪」


「・・・・はい!!」


この世界に来てから全ての人達とバラバラにされてしまった。しかしその様々な境遇で生徒たちは逞しく生き、また再会できたのだ。

根拠は無い。

しかし夕映やアーニャもきっと無事だろうと心の中で呟いていた。


「はい・・・、だから僕たちは、いつでも彼女たちを迎えに行ける準備と、帰る方法を確保していなくてはなりません」


*1))


ネギの言葉に少し意外そうにアスナたちは感じた。

いつもなら自分の責任や教師としての仕事だとか、そんな言葉で自分を責めてウジウジしているのだろうが、その様子はまるで無い。

今の自分に出来ることを、自分なりにやろうという空気が漂っていた。


「へ~~、アンタ、また一段とイイ目してんじゃん?」


「えっ、そうですか?」


「本当よ、いつもならウジウジして無理して、強くなんなきゃーって言って無茶なことばっかすると思っていたけど・・・・」


「うっ・・・無茶な修行は当たってます・・・・」


「そう・・・ってはあ!?」


「あっ、でもそれは無茶ではなかったというか・・・大変でしたけど無理ではなかったというか・・・」


「ちょっ、どーゆうことよ、ちゃんと説明しなさい!」


「えっ、そそ、それは~~」


アスナが怒ってネギが泣く。

現実世界では皆が止めようとしていた日常の光景だったが、今は木乃香たちも止める事無く笑って眺めている。

なぜならこの光景を見れたことにより、自分たちは本当に再会できたのだと実感できたからだ。

だからこの光景に口を挟むのはそれを知らない男だった。


「だっははは、賑やかじゃねえか。まっ、その方が見ていて気持ち良いがな」


「う~、ラカンさ~ん」


情けない声を出すネギに、先ほどからずっと傍観していたラカンも機嫌良さそうに笑っていた。


「しっかし、随分と余裕じゃねえか。お前らにはやる事が、まだ山済みなんだろ?」


「ええ・・・しかしラカン殿か手伝ってくだされば・・・」


「だから、俺は嫌だって言ってんじゃん? メンドクセーし」


「あ~ん、ラカンさん、いけずや~~」


このラカンの言葉に頬を膨らませる木乃香だが、ラカンは笑ってばかりで甘やかそうとはしなかった。


「まっ、それは置いといて、ボーズよ、お前がやるべき事は分かってんのか?」


「はい、やる事は三つあります。①僕たちが拳闘大会で優勝して亜子さんたちの奴隷身分解放、②残されたメンバーとの合流、③帰還ゲートの発見と開放、この三つです」


「ほう・・・だが、障害があるだろ?」


ラカンが意地悪そうな笑みを浮かべると、刹那たちも察してネギを見る。


「はい、フェイト・アーウェルンクス。彼らと必ず戦うことになるでしょう」


その言葉にアスナ達はフェイトを思い出して少しムッとした表情になる。


「① は僕と小太郎君が何とかしますし、②は茶々丸さんと朝倉さんが今、皆を捜索中で、もう直ぐ合流できます・・・問題は・・・・」


問題は③の帰還にある。当然帰還前にはフェイトたちと戦う可能性があることは誰からも明らかだった。


「アーウェルンクス・・・まっ、メンドクセー敵には変わりねえな。アイツらは・・・俺ら紅き翼の戦いの生き残りだろうからな」


ラカンの言葉に全員が身を引き締めた。メガロメセンブリアでは惨敗した相手と、もうじき戦うことになるのだと。そして今度こそ負けるわけにはいかないことを全員が自覚していた。

だが、その緊張をアスナが打ち破った。


「それが、どーしたってのよ?」


「アスナさん?」


「「?」」


「あん?」


アスナがテーブルにドンと片足を乗せて、ニヤリと笑った。

いつもと同じ、いや、いつも以上に自信に満ち溢れた笑みだ。


「だって、そーでしょ? 倒した人達がいるんなら、私たちにだって出来るってことでしょ?」


「・・・・はっ?」


ラカンは呆気に取られてしまった。

そしてネギたちもである。

何時の日か、誰かが、どこかで、言っていた言葉だ。

だが、一瞬で何時、誰が、どこで言った言葉なのかをネギたちは直ぐに思い出した。

フェイトたちの目的。

戦い。

ゲート。

仲間全員で帰還。

やる事は山ほどある。しかし自分たちなら出来る。根拠が無くてもそう言い続けることが、彼らの心の奥底の想いを刺激した。


「そうです・・・僕たちなら出来ます!」


「はい」


「せやな~」


「ウム!」


アスナだけでなく、ネギたちも先ほどまでの不安要素を無視して、自信に溢れた表情をした。

ラカンには実に意外だった。


「ボーズの時にも思ったんだが・・・お前ら全員、タカミチに聞いていたのと少し違うじゃねえか。もっとガキかと思ったが、バカなガキっぽくて良いぜ!」


「それ、褒めてんの?」


「俺は嫌いじゃねえってこった! 十分褒めてるつもりだぜ!」


ラカンはまた笑った。もっと自分に力を貸せなどと甘えてくることを予想していたが、ネギやアスナ達は決して自分に頼り、依存することもなく、自分たちの力だけでもやってやろうという、単純な気合が伝わってきた。

それが妙におかしくてラカンは機嫌が非常に良かった。


「くっくっく、だがな、ボーズ」


しかしそこで、もう一度、ラカンが意地悪な笑みを浮かべた。


「足元を見ないと転ぶぜ?」


「・・・・へっ?」


「拳闘大会で優勝ってのも、アッサリ言って良いのかって事だよ」


「えっ・・・・だって・・・ラカンさんは今の僕ならよっぽどのことが無い限り、らくしょーだって・・・」


「はっ? マジで? アンタそんなに強くなったの?」


「ネギ君スゴイなーーッ」


「まーな、ヤな感じ正拳突き修行の時は、ネガティブになれなくて手こずったが、・・・まあ、身に付けた力についてはボーズに聞いてくれや。そんでよっぽどのイレギュラーなんだが・・・・起こったらどうする?」


「えっ?」


ラカンは笑っている。しかしどこか声に真剣さを感じた。

何やら裏がありそうなラカンの態度に不安を感じていると、ラカンが店の中にあるテレビを指差した。


「おっ・・・・どうやら丁度いい頃だな」


「えっ、何です?」


「あれは・・・・拳闘大会の・・・」


指差されたテレビの画面をネギたちが見ると、そこには拳闘大会らしきコロシアムで、大勢の男たちや魔族の者たちが乱闘している光景だった。


「ラカンさん・・・あの、アレは?」


「ああ、誰でも参加アリの、お前らの拳闘大会出場を賭けた最後のチャンスのイベントだ。これに勝ち残りゃあ、出場できるんだぜ?」


「へえ~、そんなのがあったんですか・・・・」


ネギが知らなかったらしく、「ふ~ん」といった感じで少し見ていたが、直ぐに画面から目を離した。

それは刹那たちも同じだった。


「しかし・・・あれは・・・」


「そーよね、・・・別に大したこと無いんじゃない?」


「ウム、・・・ネギ坊主の敵ではないだろう」


画面に映っていたのはどこからどう見てもチンピラたちの喧嘩で、自分たちの興味を惹くものではなかった。出場者は記念に出場しているものなども多く、実力も魔法も大したものではなかった。

仮にこの乱闘を制したものが大会に出場すると言われても、ネギは自分が負けることは無いと数秒見ただけで、判断した。

事実そうである。

この敗者復活も、開催地ゆえのイベントのようなもので、この大会で勝ち残ったとしても例年一回戦で姿を消すのは当たり前の事だった。


しかし今年は少し違った。


そしてその時、ラカンは画面を見てニヤリと笑った。


首を傾げるネギたち。


すると自分たちが、見るのをやめたテレビから大会の解説者のアナウンスが聞こえてきた。



『さあ~~、最後のイスを賭けた最後の戦い! 熱い熱いバトルロイヤルもようやく終盤に迫ってきています! 毎年このイベントは無意味だという意見が多数でしたが、今年は一味違うぞ! 今年は意外な二人組が、怒涛の勢いで参加者たちを蹴散らしています!』



ラカンが笑いを堪えている。しかも非常にイヤラシくニヤニヤしている。


「ラカンさん、どうしたん?」


「さあ、変人の考えることはよく分かんないわよ」


ネギたちは訳も分からないまま首を傾げ、テレビのアナウンサーの声だけが聞こえてきた。

しかし次の瞬間、衝撃に襲われた。



『正体素性、まったく不明! その身を鉄のボディで覆ったメカタマ選手とドリル片手に大暴れのシモン選手です!!』
最終更新:2011年05月12日 14:38
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