「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
一瞬間が空いた。
まるで全員が心臓を鷲摑みにされたかのように停止してしまった。
だが・・・
「「「「「ブフウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーッッッ!!!??」」」」」
「うおっ、どうしたテメーら!?」
全員同時に盛大に噴出した。
「「「「「はっ、はああああああああああああああああッッッ!!??」」」」」
そしてものすごい勢いでその場を離れて全員が画面を食い入るように見た。
それはここだけではない、このテレビ中継を見ているものは、全員が噴出して画面に同時に食い入っている頃だ。それは小太郎たちも同じだった。
大して興味を示さなかった中継から、予想もしない名前が聞こえたからだ。
「い・・・・・いま・・・・・何て?・・・・何て言ったん?」
木乃香は息を荒く、激しく呼吸しながら画面を見つめる。目も動揺して泳いでいる。
そしてそれはアスナ、刹那、ネギ、楓、一人残らずそうだった。
「うそよ・・・・そんなはずない・・・・」
「そ、そうです・・・だって・・・あの人が・・・あの人は・・・あの日私たちに別れを告げて・・・そして・・・」
「そうだよ・・・なのに・・・・」
「ま、まさか・・・・本人でござるか?」
全員の肩が震えていた。
自分たちやフェイト以外からその名前を聞くことになるとは思わなかった。
今、聞こえた名前がただの聞き間違いか?
それともたんなる同名の人なのか?
彼女たちにとってそれほどの人物なのだった。
『強い強い強い!! 瞬く間に数十人を蹴散らしていく、シモン・メカタマペアの前に参加者たちはなすすべ無し! 今では二人を倒すために残る全員が徒党を組んでいます!』
会場は異様な盛り上がりを見せていた。
本来ただのイベントにしか過ぎないこの大会も、ただの祭り前の観客による賭けの一部にしか過ぎなかった。
しかし今では全員が賭けを忘れて、その力に見入っていた。
肩を並べて戦うシモンとメカタマ。
この二人に今多くの注目が集まっていた。
「ったくよ~、何で私まで出てるんだよ~」
「仕方ないじゃないか。この大会に出て本戦でラカンの弟子と戦えば、帰る方法も教えてくれてるって言ってるんだし」
「でもな~、あの化け物の弟子ってのが、また嫌じゃん?」
自分たちを囲む拳闘士、チンピラ、魔法使い、魔族の徒党。
そしてその中でメカタマのコクピットから、不満の声を出すサラがいた。
これがラカンの出した条件だった。
自分たちを見逃すだけではなく、この大会に出て本戦でラカンの弟子と戦えば、勝ち負け関係なく、現実世界へ帰る方法を教えてくれるというものだ。
当然逆らえば捕獲♪
その半ば強制のこの事態にサラはブーブー文句を言っていた。
「どーせなら、パパが出れば良いのにさ~」
「ほら、サラ。来るから構えるぞ」
「む~~、大体お前、何で大人しく従ってるんだよ、このまま流されていいのかよ!」
「ああ、今は流されてる・・・でも帰る方法がそこにあるんなら、今はその流れに従えばいい、でもな・・・・」
談笑するシモンたちに容赦なく数十人の参加者たちが一斉に襲いかかってくる。
しかし所詮は烏合の衆。
森の竜種、メカタマ、ラカン、月詠などの強敵から比べれば、壁にもなり得ない。
その中でシモンはシモンらしく、力強く笑った。
「近いうちに、この流れを逆に飲み込んでやるぜ!!」
戦闘はシモンにとっては好都合の場面もあった。
ラカンとの戦いは避けたいが、これまで自分の記憶は戦いの中で徐々に蘇っていった。そこからまた何かを思い出すかもしれないと考えれば、拳闘大会も悪い話ではなかった。
だからこそ、シモンはこの大会には自分の意思で乗り込んだと叫ぶ。そしてその意思でもあるドリルを世界中に見せ付ける。
「シモンインパクトォーーーーッ!!」
回転した螺旋槍の衝撃波が全ての参加者たちを吹き飛ばした。
それは賭けもクソもない。一人の男の存在を知らしめるイベントにしか過ぎなかった。
そしてやがてシモンがドリルを消し、代わりに指を天に向かって伸ばした。
その瞬間、大地が唸るほどの大歓声が上がった。
「「「「「「「「うわああああああああああああああ!!!!」」」」」」」」
『圧勝です! 突如誕生した二人の選手! シモン・メカタマペア! 堂々の本戦出場だァ! これで大会が一荒れすることになるでしょう!!』
「「「「「本物だアアアアアアアア!!!!???」」」」」
店の外にまで響き渡るほどの大声でネギたちは叫んだ。
シモンをライバル登場ぐらいのつもりで大会に出場させたラカンも、この意外な反応に戸惑っていた。
すると驚愕したネギ、アスナ、楓は次の瞬間、目を輝かせた激しく興奮した。
「シモンさんが、シモンさんが!! アスナさん! 皆さん!」
「ウソでしょ!? 本物!? 本物のシモンさん!? シモンさんがここに居る!?」
「なんと・・・これほどの衝撃はこの世界に来て初めてでござるよ・・・」
その表情に希望が溢れていた。
誰もが落ち着きを忘れて画面に映る男を何度も見ながら騒いでいた。
無理もない。落ち着けるはずもない。この出来事はそれほど衝撃的だった。
「テメエら・・・シモンを知ってんのか?」
「それはこっちのセリフです!! ラカンさん、シモンさんを知ってたんですか!?」
「まあ、チョッとな・・・お前らが知ってるのは驚いたが・・・・って、嬢ちゃん!?」
「木乃香さん・・・・」
「木乃香・・・・・刹那さんも・・・・」
ラカンは目を丸くした。
親友の娘であり、天然でいつも笑っていそうな木乃香の表情に目を丸くした。
しかしネギもアスナも今の木乃香の気持ちが心の底から理解できた。
そして刹那の気持ちもでもある。
「お嬢様・・・」
「うっ・・・・ひっぐ・・・・うっ・・・ひっぐ・・・」
「木乃香・・・・」
「木乃香さん・・・・」
「シモンさんや・・・・ホンマに・・・本物の・・・シモンさんが・・・・シモンさんが・・・」
何度も何度も溢れる涙を擦りながら木乃香は画面に映るシモンを見る。
夢なのか、幻なのか、他人の空に似なのか? いや、違う。木乃香が見間違うはずもない。
いつも恋焦がれて再び会える日を何度も願ってきた彼女がシモンを間違えるはずもない。
画面に映るのは間違いなくシモンである。
自分が心の底から惚れ、心の底から愛し、そしていつも想い続けていたシモンがそこに居た。
「せっちゃん! シモンさんが・・・シモンさんが来てくれた!!」
涙目で腫れながら木乃香は刹那を見る。すると刹那も似たような表情で震える木乃香の両肩に、自分自身も震える両手で抱きしめていた。
「ハイ!! ・・・・あ、あの人が・・・ここに・・・・ここに! シモンさんが!」
常に気を張っていた刹那が、普通の少女のように涙を流していた。
そしてそれは悲しみの涙ではない。歓喜の涙だ。
魔法世界に来て、今日まで、これほどうれしいことなどなかった。
「あんな・・・せっちゃん、ウチ・・・シモンさんのことが好き・・・・」
「・・・はい、分かっています。私もあの方を・・・お慕いしています・・・あ、愛しているのです・・・」
まるでお互いが確認するかのように木乃香と刹那は告げる。その言葉にラカンが予想していなかったため、固まってしまったが、二人は構わずお互いの想いを告げる。
「でもな、シモンさん・・・ウチらが手の届かん、遠い世界に帰っても~た・・・」
「はい、・・・ですが今・・・あの人が手の届く距離に居ます!!」
二人がもう一度テレビを見ると、やはりそこに居たのはシモンだった。
自分たちが愛した男がそこに居るのだ。
夢ではない。
木乃香はもう一度涙を流した。刹那も木乃香を抱きしめながら涙を流した。
「刹那さん・・・・木乃香さん・・・」
「へへ、ほんっとーに、シモンさんってば、困っちゃうよねーー♪」
気づけばネギもアスナも目元が潤んでいた。
存在だけでこれほど心強い存在など居ない。ただうれしくて涙が出た。
そしてアスナは涙を拭い、満面の笑みで皆に告げる。
「皆! 後のことは本人に聞いてやるわよッ! 急いでシモンさんのところに行くわよ!! 全員でシモンさんの胸に飛び込んでやろーじゃない!!」
「「「「おおーーーッ!!!」」」」
そう、目と鼻の先にシモンが居る。それを知って、いつまでもここでボヤボヤしていることなど出来るはずがない。
皆が溢れる喜びを抑えきれずに、一斉に頷いた。
全員は急いで駆け出そうとした。一秒でも早くシモンの胸に飛び込みたかったからだ。
だが、事態は少し妙な展開に移った・・・
『シモンさん!!!』
「「「「「・・・・・へっ?」」」」」
突如背を向けたテレビからシモンの名前を叫ぶ女の声が聞こえた。
あまりにも大声だったため、ネギたちは立ち止まって振り返ってしまった。
するとそこには、シモンと相対する一人の戦乙女の鎧に身を包んだ、警備兵らしき少女がそこにいた。
しかもシモンと向き合う少女の目は自分たち同様に潤んでいた。
少し気になって、再び画面の前に歩み寄るネギたち。
すると会場もシモンたちに注目しているのか、静寂し、シモンと少女に注目していた。
そしてシモンがとうとう口を開いた。
『・・・エミリィ・・・・』
シモンが驚きの表情で呟いたその言葉。しかもズームで中継されているために、その言葉はしっかりとマイクで拾われていた。
そう、名前を呼ばれたのはエミリィだった。
戦乙女見習いとしての初任務で彼女はこの大会の警備兵を務めていた。
そして初任務として使命感と誇りを胸に全うしようとした彼女は、シモンの存在に気づき、全てを忘れて目の前に現れたのだった。
最もそれをネギたちが知るはずも無かったのだが・・・・
相対するシモンはエミリィを見て、思わず名前を呼んでしまった。そしてどこか懐かしさを感じた。
「元気そうだな! また会えてうれしいぜ」
自然と出た言葉だった。
しかしその言葉を聞いてエミリィはもの凄い形相でシモンを睨みつけ、ツカツカと歩み寄ってきた。一瞬シモンがエミリィの気迫にゾクリとさせられた。
すると次の瞬間、目の前まで来たエミリィは左手を思いっきり振り上げてシモンの頬を殴った。
「!?」
「ッ!?」
「「「「「「!?」」」」」」
『これは一体どういうことだ!? 突如現れたアリアドネーの若い戦乙女が、問答無用でシモン選手にビンタ一撃!? 何やらドロドロの匂いが漂ってきたぞ~~』
シモンも何故殴られたのか分からなかった。
しかし頬を押さえてエミリィをもう一度見ると、先ほどとは打って変わって、か弱い少女のように泣き出し、シモンの胸に飛び込んだ。
「シモンさん!!」
「エ、エミリィ・・・・」
「バカ・・・・・・バカバカバカバカバカバカバカバカァ!! シモンさんのバカァ!!」
エミリィはシモンの胸に飛び込んで泣きじゃくりながら、何度もシモンの胸をドンドン叩いた。
「どうして・・・どうして何も言わずに消えてしまったのです!? 私が・・・皆が・・・どれほど心配したと思っているのです!?」
「エミリィ・・・・・」
「うう・・・うわあああああああああああん」
泣きじゃくるエミリィ。その小さく震える肩を抱きしめて、シモンは優しくエミリィの頭を撫でた。
「ゴメンな。俺がバカだった。お前たちに心配ばかり掛けて・・・・」
「うっ・・グスッ・・・許しません・・・・絶対に許しません! あなたなど大ッ嫌いですわッ!」
エミリィはそう言って、ここがどこかも忘れて大観衆のど真ん中でシモンを離さぬように強く抱きしめた。
「ちょっ、痛いぞエミリィ・・・」
「離しませんわ! だって・・うう・・・離したらまた私たちを置いて行くのでしょう?」
「ははは、信用無いんだな、俺って」
「当たり前です・・・あなたは・・・あなたを信じる私たちを裏切ったのですから・・・・」
エミリィに苦笑しながらシモンはエミリィのやりたいようにさせ、気の済むまで頭を撫でてやった。
エミリィも少しずつ落ち着いていくが、シモンから離れる様子は無い。
すると上空から声が聞こえた。
「ユエ、皆! 後は宜しくね!」
「後で合流します!」
「ちょっ、コレット!? ベアトリクス!?」
制する声を振り切って、ズームアップされたシモンとエミリィの空間に、二人の少女が新たに上空から降りてきた。そしてその二人の少女にシモンはうれしそうに微笑んだ。
「コレット! ベアトリクス! お前たちまで来ていたのか!」
すると頷く間もなくコレットが飛びついてきた。思わず体勢を崩しそうになるが、シモンは踏みとどまり、コレットをしっかり抱きとめた。
そしてベアトリクスも表情からは読み取りづらいが、シモンの服の裾を掴み、喜びを露にする。
「も~~ッ! 兄貴のバカァ! 心配したんだからねーーーーッ! 今までどこ行ってたのーーーッ!!」
「はい、・・・しかし、ご無事で何よりです。皆本当に心配していたのですよ?」
「ああ・・・そうみたいだな。急に消えて心配掛けたな・・・・でも・・・」
シモンは苦笑しながらエミリィの頭は左手で撫でたまま右手でコレット、そしてベアトリクスの頭を交互に撫でた。
「安心しろ、俺はここに居るんだからな!!」
自分が連絡をよこさず無断で姿を消したことが、どれだけ目の前の少女たちを傷つけたのかを理解し、申し訳なさと、再会できた喜びを込めて撫でた。
「こうして声が聞こえる距離に居る。こうして触れ合える距離に居る。だから安心しろ! 俺はここに居る! お前たちの目の前に俺は居る!」
その笑みは相変わらずだった。
たったそれだけで事情を聞かずに、納得してしまった。
「ずるいね~、兄貴って・・・」
「はい、ずるいです」
エミリィもコレットもベアトリクスも笑顔で頷いた。
そしてコレットもベアトリクスもシモンに撫でられて心地よかったのか、笑みを浮かべてシモンに身を寄せた。
っと、まあ本来なら微笑ましいはずの光景なのだが、この中継を見ている者たちに一部違う者たちがいた。
『おお~~~っと、シモン選手女を泣かしています! しかし三人もだ! 何やら修羅場の気配が漂ってきたぞ~~~ッ!!』
その通りだった。
「誰・・・・やろ・・・・あの子ら・・・・」
「ええ・・・・・・じっくり聞きたいですね・・・」
声のトーンが非常に低かった。
そこには海賊王も裸足で逃げ出すほどの強烈な覇気を出す二人の少女がいた。
「ホンマは・・・あそこに・・・・ウチらがおるはずやのに・・・・何なん? どうして知らない子がおるん? 誰なん、・・・あの子ら・・・」
「何なんだ!? 先ほどからシモンさんにベタベタと!・・・・あの方は私たちのシモンさんだ! 気安く・・・あんな気安く・・・触れるどころか、抱きつくなど!?」
先ほどまでの歓喜も、涙も一切忘れ、木乃香と刹那は背中からチリチリと炎を出しながら呟いていた。
「ちょっ、二人とも落ち着いて・・・・って言いたいけど・・・・無理よね・・・」
「あわわわわわ・・・・」
「これは・・・・予想もしてなかったでござる・・・・」
「すげーな・・・事情は知らねえが、嬢ちゃんの溢れる魔力はナギ並みだぜ・・・」
ラカンですら冷や汗を流していた。それほどまでにテレビに釘付けになっている二人から発せられるプレッシャーは凄かった。
「ウチらをほったらかしにして・・・シモンさん何してんやろ? ウチらは・・・こんなにシモンさんに会いたかったんに・・・」
「ええ、・・・そこの事情を今すぐ聞きだしに行かねばなりませんね?」
無表情で呟く二人の言葉の端々にトゲを感じ、ネギたちは恐怖の余り震えていた。
しかも刹那は事情を聞きに行くと言いながら、いつの間にか夕凪を携帯していた。
何しに行くんだとツッコミたかったが、それすら許されぬ二人のプレッシャーにネギたちは圧倒された。
だが、そこから事態は収まるどころかさらに激化した。
『お前ら~~!? さっきっから何なんだよ~!? 何シモンに抱きついてんだよ~!?』
新たな女の声がした。するとシモンの隣にいたメカタマのコクピットが開き、中から美しい女が出てきた。
『おおお~~~っと! メカタマ選手の中から人が現れました! しかも美人だ! これは一体どういうことだァ!?』
アナウンサーの言葉は、全ての者の言葉を代弁していた。
猫耳プラス大人バージョンのサラがメカタマから出てきた瞬間、会場中が見惚れてしまっていた。
すると当然シモンに抱きついていたエミリィも反応する。
『そ、そういう貴女も何者です!?』
『私はシモンとず~~っと一緒に旅してきたんだぞ~~! 何ベタベタしてんだよ~!』
『なっ!? では貴女がシモンさんをアリアドネーから連れ去ったのですか!?』
『えっ!? 兄貴本当なの!?』
『兄貴さん?』
『あっ・・・いや・・・それはだな・・・・』
『なっ!?・・・・この女が私たちからシモンさんを・・・・・許しませんわ! シモンさんは返して頂きますわ!』
『はあ!? 何勝手なこと言ってんだよ~~~!?』
拳闘大会を忘れ、画面の中では女対女の争いが繰り広げられていた。
テレビ中継も本来は大会が終わったことで無くなるはずなのだが、ずっとこの光景を撮り続けていた。そして観客も誰一人として帰ろうとはせず、突如始まった女の戦いに注目していた。
そして・・・・
「せっちゃん・・・・ウチな・・・・こんな腹が立ったんは生まれて初めてかもしれん・・・」
「はい、それは奇遇ですね。・・・・私もハラワタが煮えくり返っています」
少女たちは感動とは別の意味で肩を震わせながら画面を見ていた。
木乃香はこれでもかと真っ赤になりながら両頬を膨らませ、刹那のオデコには一本一本血管が、怒りで浮き上がっていた。
「おい・・・ボーズ・・・止めろ・・・・」
「むむむ、無理ですよ~~~」
「シモンさんのバカ・・・・何やってんのよ・・・・」
「これは・・・・まずい事態になったでござるな・・・・」
ここはオスティアから東に離れた小さな村。
夜遅くにこの村に到着した七人組が食事を取っていた。
しかしオスティアでの拳闘大会のテレビを見た瞬間、大盛り上がりだった彼らも、今では静まり返っていた。
それだけではなく、ある一人の女の周りには誰一人として人が寄り付かず、彼女の仲間である男たちも恐怖の余り壁際で足が竦んでいた。
「薫ちん・・・・・シャークティの姐さんを・・・・」
「お、俺に死ねと言ってんのか?」
「シャークティ先生・・・怖いですね~・・・・」
「コノエネルギー・・・今ナラ彼女ハ、グランドクルスヲ使エマス」
誰も寄り付かない店内の中央で、テレビを見ながらシャークティは背中から神に仕えるものとは思えぬほどの禍々しいプレッシャーを放っていた。
「ふっ・・・・ふふふ・・・・」
シャークティは笑顔でコーヒーを飲んでいた。
しかしそれは無理だった。
なぜならシャークティの怒気が伝わりコーヒーが蒸発してしまっているからだ。
「私には分かっています・・・・彼には何かあったのです。・・・ええ・・・私たちや美空たちに一番早くに会いに来ないで、別の女性たちと一緒に居るのにはきっと訳があるのです。ふふふ・・・ええ、私には分かっていますよ。なぜなら家族なのですから♪」
笑顔とは裏腹にカップを持つ手が怒りで震えている。それどころかヒビが入っているぐらいだ。
まるでグラスの満タンまで水を入れた表面張力のような状態で、後一歩刺激を加えたら溢れるぐらいの怖さを豪徳寺たちは感じていた。
だが、その一刺激が容赦なくテレビから聞こえてきた。
それはコレットとベアトリクスがシモンの腕を抱きしめながら、向かい合うサラに胸を張って告げた言葉だった。
『そーだよ! 兄貴は私たちアリアドネーの兄貴なんだよ! 言ってみりゃァ、家族みたいなもんなのさ!』
―――バキィ!
シャークティの持っていたグラスが握りつぶされ粉々になっていた。
『ええ、この方はお嬢様・・・そして我々の大切な方、無断で盗られるわけにはいきません』
『ちょっ、コレットもベアトリクスも落ち着いてくれよ~、そんなんじゃないんだって、とにかく落ち着いてくれよ~』
―――ブチィ!
シャークティから何かが聞こえた。
その時、新生大グレン団は思った。
テレビにシモンが映ったときには驚きと喜びの声を上げたが、今は心の中で悲鳴を上げていた。
))
ゆらっと立ち上がるシャークティ。
その一挙一動に豪徳寺たちは震えていた。
するとシャークティは指を十字に切り、叫んだ。
「判決・死刑!!」
シャークティとは思えぬドスの効いた言葉で親指を下に向ける。
そのあまりの凶悪な形相に豪徳寺やハカセたちは慌てて押さえようとする。
「ちょっ、同じドリルネタとはいえ、そのニード○スの神父はまずいっすよ!?」
「そ、そうですよ~! それにそのネタ知ってる人あまり居ないと思いますよ?」
「論点は違うが落ち着いてください、シャークティ先生の美しい顔が台無しに・・・・」
とにかく世界は女たちの怒りで満ちていた。
ここもそうだった。
オスティアへ向かう飛行船。
ネギの仲間たちが合流しようとオスティアへと向っていた。
この飛行船には朝倉、さよ、茶々丸、ハルナ、古が乗っていた。そして彼女たちもこの生放送を皆で見ていた。
そして今では茶々丸の言い知れぬプレッシャーに全員がビビッていた。
「ちょっ、朝倉・・・どーゆうこと?」
「い、いや・・・・私も何が何だか・・・・そもそもシモンさんが居ること事態、今知ったんだから・・・・」
「茶々丸が・・・怒ってるアル・・・」
「こ、怖いですよ~~~っ!?」
全員がテレビの前で正座している茶々丸から遠ざかって眺めていた。
「マスターをほったらかしにして・・・・・私のライバルは何をしているのでしょう・・・・・」
自分のマスターが想いを寄せているシモン。そして自分が最大のライバルと認め、何度も戦い、時には背中を合わせて戦ったこともある戦友。
「お覚悟を・・・この私の新技・・・茶々丸インパクトであなたを・・・」
「ちゃ、茶々丸ーーーッ!?」
その男が自分たちの知らない女に抱きつかれてヘラヘラ(していないが、そう見えた)していることに茶々丸は怒りメーターが上昇していた。
そう、シモンの登場に彼を知る者たちは皆、心の底から喜んでいた。
しかし現在、映し出されている光景に炎をメラメラと燃やしながら眺めていた。
まるで心のマグマが炎と燃える・・・・いや、その程度ではないかもしれない。
そして遂に、その炎が大爆発を起こした。
『ふざけんなよな~! お前たちに指図される覚えはないやい!』
画面の向こうで、サラが無理やりエミリィたちからシモンを奪い取って、渡さぬように抱きしめながら睨みつける。
『へん! お前らよ~~っく聞いとけよ~~!』
そして戸惑うシモンを無視して、サラはシモンの肩に手を回し、ムキになってアッカンベーをしながら衝撃の言葉を告げた。
『べェーーーーーーっだ! シモンは私のだもんねーー!』
「「「「「「「「―――――――ッ!!!???」」」」」」」」
『お前らなんかにあげないもんねーーーー!』
その衝撃はリアルタイムで全世界に襲い掛かった。
そしてサラのその言葉が合図となり、全てが始まった。
シモンを巡る戦いが遂に開幕した。
事情を知らない女たちは沸き起こる感情を抑えきれずに溜め込んだ想いと同時に放出する。
場所は違えど、想いは皆同じ。
それは業火などと生易しいものではない。
怒り、嫉妬、全てを込めた大爆発。
まるで宇宙誕生並みのエネルギーがそこにあった。
言葉にならないほどの衝撃。
「「「「「「ぬあああんだってええええ!!!???」」」」」」
永劫に続く宇宙創生の業火、インフィニティ・ビッグバン・ストームが魔法世界で発生した瞬間だった。
最終更新:2011年05月12日 14:39