第九十二話 それが俺の役目だ! 投稿者:兄貴 投稿日:09/08/13-18:21 No.4122
「いや~~、すっかりメンバーが華やかになったね~」
「ったく、・・・まさか、こんな状況になっていたとはな・・・私も昨日の拳闘大会を見たが、シモンの周りは騒がしそうだな・・・」
飛行機を操縦しながら、瀬田は後部座席に座る三人を見ながらおかしそうに笑った。
後部座席にはシモンを真ん中にして、右に木乃香、左にエミリィが並んで座り、そして飛行船の直ぐ真横ではサラがメカタマから目を光らせて中の様子を見張っていた。
すると瀬田の笑いに、エミリィがムッとして食いかかった。
「いい加減になさい犯罪者! 大人しく自首して、シモンさんを解放しなさい!」
「だから、エミリィ誤解だって! 俺は最初から瀬田さんたちが賞金首だって分かってて行動している」
「ですが!? だからといって、あなたがここにいる必要はありませんわ! このままではあなたまで、犯罪者になってしまいますわ!」
「エミリィちゃん・・・ちょ、落ち着いてな・・・」
「木乃香さん! あなたこそ、黙ってシモンさんから離れなさい! まさか・・・昨日は気づきませんでしたけど、あなたが・・・・いえ、あなたたちがゲートポートを襲った犯人だとは思ってもいませんでしたわ!」
エミリィは賞金首である瀬田や木乃香に明らかな嫌悪感を示した。それはただシモンが絡んでいるからではなく、彼女自身の正義感からの行動だった。
「シモンさんがあなたたちの知り合いというのも、信用できなくなりましたわ! 美空さんのこともそうです! お二人のような方が、犯罪者の仲間であるはずがありませんわ!」
「せ、せやから・・・・それは誤解で・・・・」
「誤解なものですか!!」
エミリィの言葉が機内に響き渡る。その言葉に瀬田は苦笑し、そしてハルカは「ヤレヤレ」といった感じで溜息をし、そして木乃香は困った表情でオロオロしていた。
しかしエミリィがそれ以上何かを言う前に、シモンが先に止めた。
「それまでだ、エミリィ」
「なっ、・・・シモンさん!? あなたは・・・・この人達を信用するのですか!?」
「ああ、そうだ・・・俺は少なくとも信じてるよ?」
シモンの当たり前のように言う言葉にエミリィはショックを受けている様子である。
「犯罪者か・・・そうでないか・・・この世の道理が未だに分からない俺にはどっちでもいいよ。グラニクスでは俺も・・・奴隷制度に逆らったからな・・・・」
「シ・・・・シモンさん・・・・」
「でも・・・瀬田さんも、ハルカさんも、そしてサラも俺は信用している。そして・・・・木乃香の気持ちも本物だ。俺には分かる。だからそれ以上は言わないでくれよ。俺は何も問題ないからさ!」
「で、ですが・・・・」
「それに事実が真実とは限らないさ。真実は・・・みんなの本当の姿はお前のその目で確かめろ!」
そこまで言われてエミリィは少し俯きながらこれ以上言わずに黙ってしまった。
そしてシモンの言葉に木乃香はパアっとうれしそうに笑顔になり、瀬田とハルカも上機嫌だった。
「ふふ~ん、シモン君もやるね~」
「いきなり、この機体に体当たりして中に進入してきたジャジャ馬を相手に大した手綱捌きだな」
どうやら二人も満更でもないようだった。
するとしばらく俯いていたエミリィも顔を上げて、シモンの言葉に頷いた。
「・・・・・分かりましたわ・・・・私は彼等ではなく、シモンさんの言葉を信じます・・・・」
「本当か!?」
「エミリィちゃん!」
「ただし!!」
「「「「?」」」」
「ただし・・・少しでも妙なマネをしましたら、アリアドネーの警備隊の意地にかけて、あなた方を逮捕します! シモンさん・・・今はそれでよろしいですか?」
「ああ、十分だ」
エミリィの譲歩にシモンが頷くと、ホッとしたように瀬田たちも笑顔になった。
「はっはっは、それじゃあ改めてよろしくだね~、エミリィちゃん♪」
「まっ、裏切らないように気をつけるさ」
「よろしくな~、エミリィちゃん!!」
「あまり馴れ馴れしくしないで下さい!!」
少し照れながらも、最低限の壁を作るエミリィだった。
「それで・・・あなた方はどこに向っているのですか?」
「そういえば、俺も知らなかったな・・・」
「ウチもや・・・」
途中行き先が分からない、エミリィが聞くとシモンも知らなかったらしく、エミリィは呆れた表情をした。
すると瀬田が変わりに答えた。
「ふっふっふ、・・・この世界で未だに謎が解き明かされていない・・・顔神遺跡と呼ばれているところさ!!」
「「「顔神遺跡?」」」
シモンたちがその珍妙な名前に首を傾げてしまった。どう考えてもおかしい名前だ。
しかしエミリィは違った。
「それって・・・・顔神と呼ばれる御神体のある遺跡のことですか?」
「おや、エミリィちゃんは知っているのかい?」
「ええ、・・・・だって・・・そこ・・・私の家が保護下に置いている土地ですもの・・・・」
「「「「へっ?」」」」
瀬田ですら本気で驚いて首を傾げてしまった。
「え、・・・それじゃあ・・・・え~っと・・・たしかその遺跡を所有している家はセブンシープとかいう名家で・・・」
「ええ、私の名前はエミリィ・セブンシープですわ。所有しているのは遺跡ではなくその土地と、森林の抜けた先にある村ですけど・・・」
「「「「ええええーーーーーーッ!?」」」」
あまりにも意外な偶然に、瀬田とハルカも素で驚きの声を上げたのだった。
その頃、オスティアからシモンたちが一旦離れた頃、二人の少女が囚われの身の中、苦しんでいた。
彼女たちは時間の感覚が分からなくなっていた。
あれから一体どれほどの時間が経ったのか、頭の中で整理できないで居た。
痛みの取れぬ肉体。
鎖で繋がれた四肢。
少なくとも自由を奪われた自分たちの状況だけは理解できた。
「・・・ココネ・・・・・起きてる・・・?」
美空は薄暗い部屋で体を鎖で繋がれたまま、自分と同じように体に傷があり、自由を奪われているココネに視線を送る。
するとココネも俯いてはいるものの、声に反応して小さく頷いた。
「うん・・・・大丈夫・・・」
声に元気は無いが、少なくとも無事であることは理解して美空は少しホッとしたような表情になる。
「そっか・・・・しっかし・・・・まいったね~、どうも・・・・」
「ウン・・・・また、負ケタ・・・・」
お互い深く溜息をついて、数日前の出来事を再び思い出す。
しかし、途中でやめた。
体が震え、思い出すのも恐ろしくなるぐらいだった。
「かっ~~、まいったね~、・・・・まさか、あのおっさんが、あんなに強かったとはね~・・・それに・・・マジで・・・死ぬかと思ったしね・・・」
美空も能天気な口調であるものの、僅かに体が震えていた。
冒険王を探すために走り出した彼女たちが途中で出会った賞金稼ぎたち。成り行きで戦うことになったが、それでも最初は優勢だった。自分たちの修行の成果が感じ取れた瞬間だった。
しかし状況は一変した。
隊長と呼ばれた男が真剣な顔つきになった瞬間に、突如姿を変貌させて、自分たちを完膚なきまでに叩きのめした。
その瞬間は今でも覚えている。
ココネも僅かに体が震えている。
しかし後一歩で自分たちを始末しようとした瞬間に、彼の仲間の三人が挙って隊長の男を宥め、自分たちは一命を取り留めた。
しかしそれ以来、こうしてどこかも分からぬ牢獄の中で繋ぎ止められ、今日まで過ごしてきたのである。
すると不意に自分たちの居る牢獄に気配が近づいてきた。そこには食事を二人分持ってきた小さな亜人の少女が居た。
「うむ、まだ生きているようネ」
「・・・パイオ・ツゥ・・・・」
パイオ・ツゥと呼ばれた少女。それは美空たちの命を救い、今日まで監禁された彼女たちを世話してくれた少女である。
「まっ、もう少し生きていてもらうネ。隊長もちょっと企みがあるようだから、それが解決すれば・・・・」
悪名高い賞金稼ぎたちとは思えぬほど、砕けた少女だった。いや、彼女だけでなくあの日戦った者たちは、何だかんだで、どこか憎めない者たちばかりだった。
しかしパイオ・ツゥが隊長と言った瞬間、美空も顔つきが変わった。
「・・・・・アイツ・・・・あんたたちの隊長さんって何者? あれ・・・マジで半端なないんだけど・・・・」
「モフフフ、虎の尻尾を踏んで怯えたか? まあ・・・分からないでもないが、隊長は怒るとああなるよ」
ニヤリと笑みを浮かべてパイオ・ツゥ自身もあの日に見た隊長、即ちチコ☆タンのことを思い出す。
「私も部長から聞いた話しなんだが隊長は・・・大戦記の頃は、怒り任せの暴れる魔人だとか鬼だとか恐れられていた」
「・・・・・怒り?・・・・」
「沸点が非常に低く、僅かな衝撃だけでブチ切れて触れるもの全てを破壊しつくす手の付けられない暴れ者だった・・・・紅き翼に負けるまでは・・・」
「・・・ほ~、そりゃあスゴイ・・・・あんな化け物を倒したか・・・・・さすがっすね・・・・」
「うむ・・・それ以来隊長は歴史の表に出る事無く、人の姿で身を隠し細々と生きてきた・・・・。唯一の弱点である沸点の低さも、人の姿で居るうちはなんとか押さえられていた・・・もっとも、怒り任せの暴力が封じられてしまった所為で、力は格段に落ちたが・・・・」
「へっ・・・・それを私たちが破っちまった・・・ってことか・・・・無理なことするもんじゃないね~~~」
美空はチコ☆タンと戦う時、突然彼から禍々しいほどの空気を醸し出した後、姿形を変え、変貌した姿と荒々しい力で自分たちを叩きのめした時を思い出す。
余りの力差に寒気が出た瞬間だった。
すると再び足音が聞こえてきた。
パイオ・ツゥも含めて振り返ると、そこにはチコ☆タンがいた。
急な出来事に美空もココネも体を震わせる。すると仲間であるはずのパイオ・ツゥも少しビクビクしているぐらいである。
そして一歩一歩近づいてくるチコ☆タン。その姿はいつもと変わらない・・・わけではない。
明らかに異変が起こっていた。
チコ☆タンは人の姿のままだが、一点だけ違う部分があった。それは額から表皮を突き破り、太く尖った角が一本伸びていたのである。
そして心なしかチコ☆タンの体はかなり震えている。
明らかに普通ではなかった。
「すす・・・すまない・・小娘よ・・くっ・・・くっく・・このようなじょ、状態・・・です・・・済まないな・・・一度変身をすると、しょ・・・少々落ち着かなくてね・・・」
口を開いたチコ☆タンは喋ることもままならないほどである。自分の頭を押さえながら、紳士的に振舞おうとするが、どうしても不自然さが抜け出せない。
「本来なら・・・仕事を邪魔した君には極刑もやむなしだが・・・くく、君は実についている・・・とんでもない大物と繋がってるのだからな・・・・だから安心したまえ・・・君はエサだ・・・それまでは殺さない・・・」
美空とココネは恐怖を感じながらも、勇気を出して近づいてくるチコ☆タンの顔を見上げた。すると初めて会ったときの印象は欠片も無く、角が皮膚を突き破り伸び縮みしながら、口を三日月のように広げていた。
「そうだ、私は冷静だ。・・・はは・・・ここ、殺したりなどせんさ!!」
まったく安心できない言葉に美空は背筋が震えた。
(ぜ、全然冷静じゃねえ!?・・・・・人型だから耐えてるんだろうけど、角が隠せていない・・・あれが完全に伸びきったら・・・・また・・・ドカンだ・・・)
美空とココネはゾクリとしながらも後僅かな刺激でブチ切れる寸前のチコ☆タンを刺激しないように心がけながら、口を開く。
「エサって・・・・誰をおびき寄せる気っすか? たった数人の冒険王一家を呼び寄せるには・・・最近助っ人が出入りしているみたいだけど・・・・・」
美空はここ数日、チコ☆タンたちの下へ訪れる拳闘家、もしくは賞金稼ぎのような姿をした見知らぬ者たちを何人も目撃した。それだけの助っ人を使って何をする気なのかと、美空が尋ねると、チコ☆タンは不気味な笑みを浮かべながら、一枚の手配書を美空に見せた。
「これだ・・・・、ゲートポートのテロリストの一味もおびき寄せる」
「こ、これは・・・ネギ君!?」
チコ☆タンの見せた紙に美空は度肝を抜かれた。そこにはネギだけではない。アスナや刹那を初め、自分のクラスメートたちがそこにいた。
「き、君の素性を調べたよ・・・・まさか君が、サウザンドマスターの息子の生徒だとはな・・・」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! 何でこの手配書の子供がサウザンドマスターの息子って分かるの?」
ゲートポートでの事件の事は、美空も知っていた。しかし、ネギたちの写真は公開されたものの、正体不明のテロリストとして、名前は公開されていなかったはずだ。美空が疑問に思い、尋ねた。
すると、チコ☆タンの顔つきが少し変わり、角が少し伸び、顔の皮膚に徐々にヒビが広がっていった。
「待て・・・・だと?」
「・・・へっ?」
「わ、分かるの・・・だと?・・・・き、君は・・・ふふ・・・き、きみ・・・は・・・」
そして顔から笑みと震えが消え去り、チコ☆タンはもの凄い形相で美空の顎を片手で掴んだ。
「き、きみ・・は・・・て、てめえは・・・・テメエは誰に・・・・、誰に向ってタメ口聞いてやがるんだ、ゴルアアア!!!」
「――――ッ!?」
「まだ、立場が分かってねえんじゃねえかァ? 小娘がァァ!!! それともそのクソッタレた脳みそ掻き出して詰め替えなきゃ理解出来ねえほど、腐ってやがんのかァァ!!!」
チコ☆タンは変貌した。
その姿はまるで凶暴な獣のごとく美空を睨みつけ、今にも美空を殴り飛ばそうとしている。
しかし、その姿に震えながらも、パイオ・ツゥ、そして騒ぎを聞きつけたモルボルグランたちが一斉に止めに入った。
「隊長、落ち着いて! 今エサを殺したらダメだよ!」
「そうだぜ! せっかくの大捕り物で、名のある連中も来てるんだ! ここで、おびき寄せるエサを殺しちゃあ意味ないぜ!!」
必死にモルボルグランたちはチコ☆タンを止めに入り、美空に攻撃が及ぶことは無かった。
「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・、ふう・・・・すまないな娘よ。昔の乱暴者のイメージは消したはずなのだが、少し大人気なかった」
そしてチコ☆タンは少し大声で怒鳴ったためか、怒りをほんの少しだけ静めることに成功し、伸びた角が少しだけ縮み、激しく呼吸をした後、少し冷静さを取り戻した口調で続きを口にする。
「ふう・・・・さて、中断してしまったな。では、この小僧共をなぜ知っているか・・・だったな? それは簡単だ。君とは関係なく、彼らは大物だから目をつけていた。そして素性を調べるために、あの日に、ゲートポートを使用した入国者を首都の記録から割り出しただけさ、・・・調べ終えた時はたまげたがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
少し冷静になったチコ☆タンだが美空は声を出せずに震えていた。今まさに、数日前に敗れた時の恐怖が蘇ってきたのだ。しかしチコ☆タンは構わずに続ける。
「そして君は冒険王の仲間に兄が居ると言ってたね?・・・少し君の素性を調べたら、君の兄とやらは分からないが、サウザンドマスターの息子たちとの繋がりを知ったというわけだよ」
「・・・・・・・・」
「へ・・・・返事をしないのかい?」
「ッ!? ・・・・は・・・はい・・・」
僅かでも、もう怒らせてはならないと判断したのか、美空は慌てて返事をした。そのためどうにかチコ☆タンの機嫌を損ねるようなことはならなかった。
「つまり・・・君は・・・・冒険王・・・そして白き翼とやらたちをおびき寄せるためのエサなのだよ。そして・・・あの男の息子を・・・くく、・・・ズタズタに・・・おおっと・・・それでは賞金が減るな・・・だが・・・」
またもや不気味な笑みを浮かべて震えだすチコ☆タン。
それは過去の敗北を思い出してなのか、再び角がスクスクと伸び始め、皮膚に亀裂が走っていく。
だが、美空は軽く微笑んだ。
それは、恐怖で頭がおかしくなったからではない。
僅かな勇気が湧き上がったのである。
それはチコ☆タンが冒険王をおびき寄せると言ったからだ。
まだ確認したわけではないが、もし冒険王の傍に自分の言っている男が居るのだとしたらと思うと、先ほどまで失っていた気力が湧き上がってきた。
「アンタに・・・・勝てるんすか? 仲間をいっぱい呼んでるみたいだけど・・・・」
―――ッ!?
再びチコ☆タンは頭を抱えて震えだした。
「ア、 アンタに・・・だと? こ、小娘風情が・・・この私に・・・むか・・・向って・・・」
「隊長落ち着けって!?」
「君も挑発するようなこと言っちゃダメだって!? 庇いきれないよ!?」
慌てて止めに入るモルボルグランたち。しかし美空は目の色を変えた。ココネも同じである。
そこには力強さと希望が目に宿っていた。
「だって、そうじゃん!! サウザンドマスターの息子だよ? それに・・・それにアンタたちは本当に厄介な男を知らないんだ!!」
「君ィ、ダメだってば!?」
焦って美空を止めようとするモルボルグランだが、美空の目は変わらない。無謀な意地かもしれないが、美空も言わずには居られなかった。
しかし、意外なことにチコ☆タンはキレるどころか、むしろ笑った。
「くっくっく・・・いかにあの男の息子とはいえ、鷹の息子が鷹とは限らない・・・・何よりまだ小僧だ・・・・それに・・・君は少し勘違いしている」
「・・・・何?」
美空が表情を変えると、チコ☆タンは不気味な笑みを浮かべて笑った。
「知らないのなら覚えておくことだ。紅き翼共に勝てなかったというだけで、名を残せなかった伝説候補は山ほどいるんだぞ? この・・・世界にはな・・・」
その言葉だけを言い残し、チコ☆タンは美空たちに背を向け、この場から姿を消した。
完全に居なくなったのを確認した後、パイオ・ツゥたちは激しく溜息をついた。
「ああ~~~、怖かった~、隊長があれほど怖いなんて・・・・君も無理しない方がいいネ」
「ああ、隊長が人型から真の姿に変身したのは久しぶりだそうだ・・・・そして一度変身してから、人の姿に戻っても、しばらくは精神不安定な状態のために、動く爆弾とされているそうだからな・・・」
「まあ、だからあまり本気の力を使わないように僕たちは、いつも罠や作戦で相手を捕らえるようにしてるけど、この間君と戦った時、隊長の中の何かを刺激したらしいね・・・・怒りというより、自分の意思であの時は変身したらしいからね」
「といっても、一度変身すれば、蚊に刺さる程度の攻撃でも、ブチキレルからたまったもんじゃないよ。まあ、サウザンドマスターの息子を倒せば、ちゃんと怒りが収まるはずネ」
仲間である三人も、少し安堵の息を漏らしながら話し合っていた。
「だからって・・・・いくらアンタたちが強いからって、ネギ君たちが・・・・」
美空は悔しそうに歯軋りしながら睨み付けるが、状況は変わらない。
「うう~~ん、残念だけど、こちらも戦力を補強しているよ。隊長が一声掛ければサウザンドマスターに恨みを持つ連中や、名のある拳闘家たちも集結しているからね~~・・・・」
「それに、本気になった隊長は容赦しねえ・・・本部から大戦期に使われた巨大兵器や鬼神兵を取り寄せている・・・・正に最強級戦力で、たかが十人程度の相手を蹂躙するつもりだ」
「そ・・・・そんな・・・・」
その言葉を聞いて、美空は激しい絶望に落とされて肩を落とした。
全ては自分たちの身勝手な行動で、友や家族を危険に晒してしまったのだと後悔した。
(やばっ・・・私の所為だ・・・私が・・・・バカなことしなければ・・・・・・みんな・・・・・・・兄貴・・・・・・)
美空はこの状況をどうすればいいのかと懸命に頭を働かせるが、どうしようもなかった。
ただ、後悔しきれず、涙だけを流した。
しかしその涙も心の中の言葉も、届くことは無かった。
そしてその頃・・・
ヘラス帝国とアリアドネーの両国の近くに広がる森林と近くにある村。その村はセブンシープ家が治めている村の一つらしく、エミリィも何度か訪問したことがあったそうだ。
そのため謎に包まれていると言われている遺跡とやらもイマイチ要領が得ず、瀬田の話を聞くよりも、とりあえずエミリィの話を聞くことにした。
「なんで顔神なんだ?」
「その遺跡の祠に大きな顔の御神体のようなものがあるからです」
「・・・・ようなもの?」
よく分からず全員が首を傾げてしまった。
「ええ・・・実はその遺跡はそれほど歴史が古いわけではないのですけど、かつてその遺跡を利用していた民がその御神体を崇めて暮らしていたそうです」
「魔法世界の人々が掲げる神・・・・果たしてどんな神様なんだい?」
「いえ・・・それがよくは・・・ただ帝国や他の冒険者たちの調査の結果・・・その遺跡に住んでいた方々は昔井戸を掘るために地中を深くまで掘っていたら発見されたもの・・・ということだけしか分かりませんでした」
「ほう・・・地中から? 昔の人間も僕たちのように穴を掘っていたんだね~」
瀬田とシモンが少しシンパシーを見たことも無い先住民とやらに感じた。
「はい・・・そして今まで見たことの無いその発掘されたものに、かつての方々はこの世界の創生の頃からの神ではないかと思い、大事にされていたそうですよ」
「でも、おかしくあらへん? 何でいきなり掘り起こしたヘンテコなもんを神様にしたん?」
木乃香が訳の分からないといった表情でエミリィに尋ねた。しかしエミリィもよく分かっている様子ではなかったらしく困った表情になった。
「さ、さあ・・・私も一度見ましたけど大して興味が沸かなかったもので・・・ですが昔は新しき民と古き民との諍いもありましたし・・・・古き民が何か希望にすがりたかったのかもしれませんわ・・・・」
「なるほど・・・まあ、そういう状況下で見たことも無いものを発見したら、そこに何か意味を見出したくなるものかもしれないね・・・・つまり謎というのは・・・・」
「はい、特にその御神体以外見るもののない遺跡でしたから、調査隊も冒険者も訪れなくなったのです・・・それに辺境ですから・・・」
「えっ!? それじゃあ、解明されていない遺跡って言うのは、ダンジョンが困難とか、途中のモンスターが手強いとかじゃなくて・・・・」
「はい・・・その顔神以外、特に調べる価値がないから・・・・だそうです・・・その顔神も別に宝石がついているとか、マジックアイテムだとかそういうものでもないらしいので・・・・」
エミリィの言葉に一同が絶句してしまった。
未だ解明されていない遺跡の謎というのは、只単純に地中から掘り起こされた訳の分からないものに、冒険者たちは興味を示さなかったというだけだったのである。
魔法世界の冒険者たちでも解明できないということに、何か重要な事を予想していた瀬田は少し顔が引きつっていた。
「こ、この分じゃ・・・俺のドリルは要らないかもな・・・」
「ウ・・・ウチは・・・シモンさんと居れればええからな~」
木乃香もシモンも、相当大騒ぎをして危ない目にあった結果にしては随分と予想とは違う展開に少し肩を落としていた。
しかし瀬田は直ぐに慌てて笑顔になり、前向きになる。
「ま、まあ魔法世界の方々が分からない物でも、ひょっとしたら僕たちが分かるものかもしれない!! せっかく来たんだからこの際行ってみよー!」
瀬田のポジティブな言葉にハルカが溜息をついた。
「スマンな、お前たち。こんなアホ亭主で・・・・」
一同を乗せたセスナ機は真っ直ぐ目的の遺跡へと向っていた。
そして瀬田たちが空へと消えたオスティアでは、朝早くにネギが彼等の飛んだ方角を見ながら黄昏ていた。
「はあ~~、木乃香さん大丈夫かな~? いくらシモンさんが居るとはいえ、シモンさんも記憶喪失らしいし・・・・」
だが、そんな考えをネギは一瞬で捨てた。それは何も心配要らないからだ。記憶があっても無くても、シモンが一体誰なのかを良く知っているからだ。
「すごいな~、シモンさんは。そこに居るだけでいろんな事も何とかなる気がしてくる。・・・木乃香さんだけじゃない、刹那さんも、アスナさんも、楓さんも、口では認めないけど、千雨さんだってきっとそうだ。それに・・・」
「ネギ先生」
「えっ? あっ・・・のどかさん」
「おはようございます、ネギ先生。こんなに朝早くにどうしたんですか?」
ネギが振り向いた先に居たのは、昨晩ようやく自分たちと合流した、のどかだった。
「のどかさんも、大丈夫なんですか? 長旅だったんでしょう?」
「いえ! グレイグさんやアイシャさんたちに助けてもらい、そして途中で特に賞金稼ぎたちに襲われることも無かったので、全然へっちゃらです!」
ニッコリと微笑むのどか。その表情は以前と変わらないのだが、どこか少し逞しさを感じた。
それは恐らく彼女もまた、アスナ達同様に突如襲い掛かった不運にめげる事無く、オスティアにたどり着くまでに幾多の試練を乗り越えて、一段と逞しくなったのだろうと想像出来た。
そして逞しくなったのは彼女だけではない。
「いや~、何だかんだで私のほうも才能を開花させちゃったからね~」
「ウム、自分自身が日に日に強くなることを感じ、私も修行が楽しいアル」
「何はともあれ、皆無事で何よりだよね~」
「本当です! 皆さん、ホントに凄いです~」
朝早くに起きたネギの下には僅か一ヶ月、しかしとても懐かしく思える顔が揃っていた。
のどかも含めて、アスナ、刹那、楓、千雨、茶々丸、古菲、朝倉、ハルナ、さよ、小太郎。この世界に最初に来たネギま部メンバーの大半が揃っていた。ここに居ないのは木乃香、そしてまだ見つかっていない夕映とアーニャのみである。
まだ全員集合とは言いがたいが、よくぞこのオスティアまで全員無事だったとネギは心の中で深く安堵していた。
「私たちだけじゃないわよ?」
そんなネギの心中を理解し、更なる朗報をアスナは告げる。
「さっき裕奈とまき絵と会えたわ! 今頃、亜子たちと一緒にいるんじゃない?」
「えっ!? まき絵さんたちも!?」
「そうよ~、自分たちの所為でアンタに迷惑掛けたんじゃないかって気にしてたわよ~? 後でちゃんと会ってあげなさいよ?」
ネギは本当にうれしそうに目じりに涙を浮かべた。
一ヶ月前は、皆を信じると心の中で強がっていても、やはり心配であることには変わりなかった。だからこそ、アスナの言葉はネギの懸念を一気に拭い取ったとも言えた。
肝心な夕映とアーニャはまだだが、裕奈たちと比べれば、この世界に来る前から訓練を積んでいた二人なだけに、ネギも少し安心しているところがあった。
だから今はただ、この再会を喜ぶことと、自分たちの成すべき事を全力ですると決めた。
必ず皆と一緒に帰る。その気持ちで一杯だった。
「ところでネギ先生、シモンさんは木乃香さんとまだ帰ってこないのですか?」
茶々丸が話の内容をシモンに変えた。
「そうそう! 私たちもシモンさんが来てくれて、そりゃ~うれしかったけどさ~、あのテレビ中継の後半では茶々丸さんが怖くってさ~」
「そうですよ~、茶々丸さんが急に無表情で手にドリルを装着させて、回してはキレイに拭いて、回してはキレイに拭いて、まるで包丁を研いでいる殺人鬼ですよ~」
「うん、ありゃ~、やばかったね~。しっかしシモンさんラブ組じゃない茶々丸が何で怒るんだろ~ね~?」
シモンのテレビ中継を見た時の茶々丸の様子を思い出して、ハルナ、さよ、朝倉は少し肩を振るわせた。すると茶々丸は目をキラリと光らせた、
「私がナンバーワンドリラーと認めるシモンさんが、マスターをほったらかしにして間違った方向へ穴を掘るからです」
「「「「「「(ド・・・ドリラー???)」」」」」」
茶々丸のさも「当然です」といった態度に、全員が少し茶々丸の変化にツッコミを入れたくなった。
「はい、シモンさんはちゃんと居ます。でも・・・皆さんにはお伝えしなければならないこともあります・・・・その・・・今シモンさんは・・・少し厄介な問題がありまして・・・」
どんな形にせよ、皆シモンの存在を知り、今まで以上に気持ちが楽になっている部分が見られる。しかしそこでネギがまず初めにシモンに関して説明しておかねばならない部分があり、ネギが少し間を置いてシモンの現状を説明しようとした・・・その時だった。
「そうか・・・・シモンと会ったのかい?」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「まだ・・・僕の知っている彼にはなっていないようだが・・・・まあ、今は別にいいだろう」
「き、君は・・・」
「キサマ・・・」
「アンタ・・・・」
「テメエ!?」
この声を、忘れるはずも無い。
ネギは一瞬で汗を噴出し、急に痛み出した古傷を押さえた。
アスナや刹那を初め、小太郎や楓たちも、突如現れたその男に動揺しながらも力いっぱい睨みつけて身構える。
「フェイト・・・アーウェルンクス・・・なぜここに!?」
無表情で自分たちに近づいてくる少年の名をネギが告げると、フェイトは動揺するネギやアスナ達を見て鼻で笑った。
「それだけ大人数なのに僕一人が怖いのかい? それともゲートポートの時みたいに大好きなお兄さんが居ないと何も出来ないのかい?」
フェイトの言葉にアスナはハッとなった。
「ちょっと!? 何でアンタがシモンさんが居るのを知ってんのよ!?」
「簡単なことだ、僕は数週間前に彼と一度会っている。記憶に関しては驚いたけどね」
その言葉に事情を知らない、のどかたちが尋ねる。
「(ネギ先生・・・・シモンさんの・・・・記憶って?)」
「それに関しては・・・あとで説明します・・・。今は・・・とにかく」
ネギは拳をギュッと握り締め、のどか、そしてハルナたち非戦闘員たちの前へ出て、いつでも飛び出せるように拳を握り締める。
しかし・・・
「やめておいた方がいい」
「!?」
一瞬で距離をつめられ、目の前で制するフェイト。
まったく反応を出来なかったことに刹那、アスナ、そして小太郎も楓も古も背筋を震わせ、これまで魔法世界で多くの実戦やモンスターと戦って来たものの、目の前のフェイトは明らかに別格である事を改めて気づいた。
「今日は君たちと戦いに来たわけじゃない。平和的に話し合いをしに来ただけだ」
「「「「「「「!?」」」」」」」
最終更新:2011年05月12日 14:44