フェイトの意外な言葉に全員が驚愕する。
しかし誰一人としてその言葉を信用するものは居ない。むしろ逆に危険を感じ、いつでも戦闘準備、そしてアーティファクトを発動できるようにのどか達は身構える。
「ふ、ふざけるな!? 今更何を言っているんだ!?」
「そーよ! どーやって、アンタを信じろってのよ!」
「今更する話なんて、別に無いやろ!」
しかしそんな彼女たちの行動をお見通しであるにも関わらず、それに対してまったくの無反応で余裕の態度を崩さないフェイトはネギたちに告げる。
「では・・・僕と戦ってどうするんだい? 以前にも言ったように僕が君たちを襲ったのは作戦上の過程にそこにいただけで、只の偶然だ。それとも僕がムカつくという理由でその握った拳で僕を殴れば君たちは満足かい?」
「な、何をぬけぬけと!? 君はかつて父さんたちの戦った敵の生き残り! 世界の破滅を目的にしている人だ! 敵と認識するには十分だ!!」
ラカンから聞いたアーウェルンクスのこと、そして「完全なる世界」という名前が、只でさえフェイトに敵愾心を燃やしていたネギたちにとっては、これ以上ないことだった。
しかしフェイトは呆れた表情をする。
「くだらない」
「何!?」
「浅い・・・小さい・・・くだらないよ、ネギ君」
フェイトはくだらないと、ネギの言葉を一言で切り捨てた。ネギの顔が怒りで歪むが、フェイトは止めずに続ける。
「困った時にはシモン、シモン、シモン。そしてシモンが居ない時の選択の決定は良く知らないお父さんが理由かい? 流されて答えを出すのは実につまらない。世界? 軽いな。君の語る世界には重みがない」
「な・・・・なんだと!?」
「何かに頼って答えを出す君は、結局その握った拳にまだ何も掴んじゃいない。だから言おう、今の君はまだ誰でもない。自分が誰かも分からない者に、世界を見ることなんて出来はしないさ」
フェイトの言葉が一々ネギの胸に突き刺さった。しかしそれをネギは激しく否定する。
「違う! 僕は自分の道を見つけた! ラカンさんとの修行の時・・・選択を迫られた僕は自分で決めた道を進んだ!! そう・・・学園祭の時と同じように僕はお父さんでもない、シモンさんとも違う、自分の道を選んだ! そして今回もだ!」
その時ネギの両腕に禍々しい模様が浮かび上がった。初めて見るその力にアスナ達は少し背筋を震わせるが、フェイトは余計につまらなそうな顔になる。
「それは・・・・ふん、マギア・エレベアか・・・・、それが君の道かい? 要するに只の力の追求かい?」
「違う! これは僕がお父さんの道をそっくりそのまま行かないで、誰でもない僕自身になるための答えだ! 僕自身にこの力の素養があるのなら、それを突き詰めていくことを僕は選んだ!」
「違わないさ、結局それはエヴァンジェリンの道だろ? ジャック・ラカンが君にどういう教育をしたかは知らないが、君のしたことはどうせ、父親の道か師匠の道のどちらを進むかの選択肢を選んだだけだろ? それの何が君の道だい?」
「ち、・・・違う・・・」
「忘れるな、今の誰でもない君の唯一の仕事は夏休みを満喫する生徒たちを無事に学園に送り届けるという教師の仕事を全うすることだよ?」
ネギは反論しようとした。
しかし何故かそれ以上言い返す事が出来なかった。無表情で自分を見る目の前の男の言いようのないプレッシャーに後ずさりしそうになる。
言い返せない。
それは力の問題ではない。
ラカンとの修行の末、ネギは紛れもなく力をつけた。しかしフェイトの言葉には力ではない。無表情の顔の裏には、何か想いのようなものを感じた。
「だから、たまには味方以外の話も聞いてみたらどうだい?」
完全にフェイトのペースだった。
これだけの大人数で囲んでいるにも関わらず、誰一人として口も手も出すことは出来ずに、フェイトの言葉に従うしかなかった。
村の近くの森林の中にある小さな遺跡。遺跡は周りの木々に覆われ、少し見つけるのは困難であったが、大したモンスターも居るわけでもなく、遺跡を見つけるのは瀬田たちには簡単だった。
少し広い広場のような遺跡内には人が手を加えたであろう建造物や、昔の家のようなものがあり、かつてエミリィの言っていた、昔の民がここを生活環境に使っていたという言葉に納得できた。
「遺跡というか・・・跡地のようなところだね・・・僕は面白いと思うけど」
「たしかに・・・これじゃあ、ただの観光地だな。トレジャーハンターばかりのこの世界の者たちが興味出せないのも無理ないな」
エミリィの協力もあり、大した問題も無く遺跡に訪れた一同は、自由に森の中にある遺跡を散策していた。
たしかに瀬田の言うとおり、そこは宝の匂いがするような場所ではないが、過去の先住民たちの歴史や文化を感じ取り、遺跡の中心にある古井戸や、遺跡の周りを覆った所々が壊れて崩れかけている土で出来た壁など、過去を匂わせる痕跡に考古学者として満足したように眺めていた。
そして一頻り見終わった後、遺跡の奥に在る祠のようなものを見つけた。
洞窟のように中は薄暗く、人工的に大岩を削って作ったのではないかと見て取れた。
そして瀬田とハルカが中に入ると既に興味なさそうにしているエミリィ。
そして首を捻って何かを考えている木乃香。
あまりにも意外そうに見つめるサラ。
異常に興奮しているブータ。
目を丸くしているシモンが、噂の「顔神」を眺めていた。
「おっ、それが噂の顔神かい?」
「なるほど・・・ヘンテコで・・・随分虚ろな表情だな・・・・って・・・・ん? おい・・・・これ・・・」
「・・・うん・・・・」
祠に中には噂の「顔神」と言われる大きな顔の物体がそこにあった。
長年放置されていたためか、煤やサビが目立って、とても貴重なお宝のようには見えなかったが、珍しいものには見えた。
まるで眠っているかのような表情だが、ハルカの言うとおり精悍さに欠けた面構えである。
しかしそこで瀬田が妙なことに気づいた。それはハルカもサラも思っていたことだ。
それは「顔神」が金属の塊ということである。
「金属で・・・・これ・・・ひょっとして・・・・・・・・まさか・・・・メカ? いや・・・ロボット? それとも・・・いや・・・・何かの装置か? いずれにしろ、ただの御神体では無さそうだ」
そう、噂の「顔神」は金属で出来ていた。むしろ金属の塊だった。それが分かっただけで瀬田たちは驚いた顔になった。
「・・・ロボッ・・・ト? それは一体何ですの?」
「ああ~、飛行船はあるのに、魔法世界じゃ馴染みが無いのかい? ええ~っとそうだな・・・」
「私のメカタマみたいに魔力じゃなくて、科学の力で動くものだよ。 しっかし・・・パパの言うとおり私もそう見えるよ・・・でも・・・」
サラの簡単な説明にエミリィが少し食いついた。
「科学・・・メカ? それでサラさんのメカタマのような凄いものが出来るのですか?」
「まーな、魔法の使えない人間の力って奴だよ。例えば私は念話って奴は使えないけど、携帯電話があるから問題ないし、つってもこの世界じゃ使えね~けどな」
「しかしそれで魔法を使えないサラさんが、格闘大会の予選を通過するほどの力を得られるとは・・・・凄いのですね科学とは・・・・私も勉強してみようかしら」
「はは、だったらモルモル王国にくれば教えてやんよ!」
「では、シモンさんのその・・・グレンラガンだとかガンメン・・・でしたっけ? 嘘みたいな話でしたけど、それもロボットとやらですか?」
「えっ? 私はしらねーけど、木乃香は?」
「う~ん、ウチもよ~わからんけど、ガンメンって名前のメカやってシモンさんはゆうとったからな~」
魔法も使えず、瀬田やハルカのような力も無いサラがこの世界で魔法使いや賞金稼ぎたちを撃退することが出来る科学の力というものにエミリィは少し興味を持った。
昨晩も、シモンたちのグレンラガンの話を聞いただけに関心は少しあった。
「でもさ~、何で魔法世界の人が・・・地中からメカを掘り当てるんだい? しかもこんなメカ・・・地球でも見たこと無いよ・・・」
瀬田が未だかつて見たことも無い物体に興味をそそられていると、隣で目を丸くして固まっているシモンの肩にいるブータが激しく鳴いた。
「ぶうぶ! ぶうぶ! ぶうぶ!!」
「ブータ・・・お前何興奮してんだよ?」
「さっきからどうしたのです?」
「ブミュウッ! ブミュウッ! ブミュウッ!」
ただ興奮したように鳴くブータ。そして木乃香も先ほどから少し何かを唸って考えていた。
「でもウチ・・・・これ・・・・見たことあるかもしれん・・・」
「「「「はっ!?」」」」
「見たって・・・木乃香ちゃん、どこでだい!?」
この世界の地中から掘り起こされたものを、つい最近来たばかりの木乃香が何故知っているのかと皆が疑問に思うと、木乃香はシモンを見ながら答えた。
「ウチらの学園祭の時・・・・顔の部分だけやし・・・兜があったんやけど・・・たしかに似とる・・・・なあ、シモンさん?」
学園祭の時に見たメカ。
兜のある、そして記憶が無いはずのシモンですら呆然とし、ブータが激しく反応する「顔神」
それは一つしかなかった。
しかし次の瞬間瀬田たちの表情が変わった。
「シモン君!?」
「シモンさん!?」
急にシモンは頭を抑えて蹲っていた。
苦痛の表情を浮かべながら、何かを言おうともがいている。
慌てて木乃香は膝を付いてシモンの顔に手を当てる。
しかしシモンの苦しみは和らがない。
「ぐっ・・・あっぐ・・・つっ・・・」
「シモンさん!? 落ち着いて・・・大丈夫やから・・・な?」
木乃香はシモンを少しでも落ち着かせようと胸元に優しく抱き寄せ、まるでシモンをあやすように背中を擦った。
「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・」
「大丈夫・・・・大丈夫や・・・何も心配いらんからな♪」
優しく語り掛ける木乃香。すると落ち着いたのかシモンの苦痛の表情が僅かに和らぎ、息も整ってきた。
シモンがこうなるのはブータにとっては初めてではなかったが、瀬田たちは少し驚いたように戸惑っていた。
だが、目の前にある「顔神」にシモンが何かを感じ取ったのだと理解し、只黙ってシモンが落ち着くのを待った。
するとシモンは、息を落ち着かせながら自分の胸元にあるコアドリルを握り締めて、呟いた。
「・・・ラ・・・・ガ・・・・・ン・・・・」
その時だった。
シモンが力強く握り締めたコアドリルがシモンの螺旋力に反応して緑色に点滅した。
すると異常なことが起こった。
なんと「顔神」の閉じた瞳の隙間が、シモンのコアドリルと同調するように同じ光を発して点滅しているのである。
そしてシモンは痛む頭を抑えながら木乃香に支えられながら立ち上がり、光を放つ「顔神」に手を伸ばした。
すると突然「顔神」の頭部が大きく開いた。まるでシモンを待っていたかのように開いたのだ。
「「「「ッ!?」」」」
御神体とも言える過去の遺物。
謎とされていた物体が、突如シモンに反応して動いた。それだけで瀬田たちは言葉が出ずに呆然としてしまった。
しかし一同は一瞬で顔が歪む。
「「―――ッ!?」」
「ゲッ!?」
「ヒッ!?」
「キャアァァッ!?」
エミリィ、そして木乃香は思わず悲鳴を上げて、目を背けてしまった。
頭部が開いた「顔神」の中には白骨化した人間の遺体が座っていたのである。
初めて見たのか、白骨体に木乃香とエミリィがショックを受けている。
しかし今は気にしている場合ではない。
瀬田、ハルカ、そして顔を歪めたサラ、そしてシモンがヨロヨロと頭を抑えたまま、「顔神」の中を覗き込んだ。
「これは・・・・・・・相当昔の死体だね・・・・詳しく見ないと分からないが・・・・放置されていた年数は何十年とかそんなレベルじゃないよ・・・」
「驚いたね・・・・顔神様とやらの中に死体とはね。・・・しかしシモンは何でこれを開けることが出来たんだい?」
「し、知りませんでしたわ・・・まさか、・・・これが開く構造になっているなど・・・・」
瀬田とハルカが疑問を口にするが、シモンはまだ頭が混乱しているのか、頭を抑えながら、まだボーっとしている。
そしてその間に木乃香とエミリィも何とか落ち着いて、少し震えながら顔神の中を覗き込んだ。
「パパ・・・これ・・・コクピットみたいだぞ?」
「ああ・・・、どうやら本当らしいね・・・・よく冒険者や調査員が今まで気づかなかったものだね~。・・・いや・・・そもそもこれが開くことすら分からなかったのかな?」
サラが中に操縦桿らしきレバーやモニターのようなものまで発見した。このことからもこの物体がメカである説が有力になってきた。
しかし何故この世界の地中の中にこのようなものが埋まっていたのかと疑問に思っていると、瀬田が中に何かを見つけた。
目を凝らしてみると、そこには直接何かを掘られた模様のようなものがあった。
「これは・・・模様・・・いや・・・文字か・・・?」
「えっ? それじゃあこの死体の人物が書いたってのかい?」
「なんて書いてあるか分かりますか?」
瀬田の言葉を聞いて皆がモニターの隣にある金属部分に注目すると、たしかに薄っすらと何かを掘られた後があった。しかし瀬田は何度凝らしてみても、答えは分からなかった。
「だめだ・・・見たこと無い形だ・・・・ちょっと僕では解読は・・・・」
瀬田が首を横に振り、少し残念に思いサラたちが肩を落とそうとしたとき、シモンが反応した。
「銀河・・・・螺旋・・・軍・・・・・・か・・・せ・・・い・・・せ・・・ん・・・し・・・・反螺旋族・・・から逃れ・・・た・・・げん・・・宇宙の・・・ぼ・・・せいの・・・・地下に・・・螺旋の力・・・封じ・・・ここに・・・眠・・・る・・・」
全員がシモンに注目した。
「・・・銀河螺旋軍?」
「・・・・火星戦士~?」
「多元宇宙の母星? ・・・・なんだいそりゃ?」
「ってゆうか、シモン君、これ読めるのかい!?」
シモンが突如頭を抑えながら、中に刻まれた模様を読み上げた。するとシモンは頭を抑えながら呟いた。
「訴えている・・・こいつは・・・絶望を・・・無念を・・・明日を見れなかった悔しさを・・・伝わってくる・・・・・ぐうっ・・・ぐう・・」
「シモンさん、無理したらアカン・・・少し休もな?」
シモンが再び顔を歪めて頭を抑えだした。慌てて木乃香が手に魔力を込めて、癒しの魔法を使ってシモンを落ち着かせようとする。その時のシモンの表情は、何か悲痛な面持ちだった。
「それにしても多元宇宙とはね・・・・」
そして瀬田は今シモンが呟いた言葉を顎に手を当てて考えている。
「多元宇宙とは何ですの?」
「わかんねーよ、パパは?」
サラたちの問いかけに瀬田は少し腕を組みながら自分の知っている知識を搾り出していく、
「う~ん。そうだな~、平行世界・・・異界・・・それらとは別の意味を持つのが多元宇宙だ。多元宇宙とは、宇宙そのものが一つではなく複数存在するという理論だ・・・。この世界には・・・というよりこの場合はこの宇宙かな? 我々のいる宇宙とは別の宇宙がある・・・ということだね。多元宇宙の母星・・・それは・・・違う宇宙にあるこの星の人間・・・・ということかな?」
「「「???」」」
「ん~、まあ・・・僕も専門じゃないから・・・・」
瀬田の説明に訳が分からず、一同首を傾げて黙ってしまった。しかしそんな中、シモンが頭の痛みに苦しみながらも、何かを訴えているようだった。
いや、共鳴するコアドリルと「顔神」との間で、何かがシモンに流れ込んでいるようにも見えた。
「分かる・・・こいつは・・・夢中で逃げたんだ・・・」
「シモンさん、アカンて!!」
「アイツから・・・奴等から・・・」
「シモンさ「言わせてやりな」・・・・ッ、ハルカさん・・・せやけど」
シモンが苦痛に構わず何かをブツブツ言っているが言うたびに表情が険しくなり、慌てて木乃香が止めようとするが、ハルカがそれを遮った。
「男の我侭を大目に見るのも女の役目だよ」
「ッ!? ・・・・う・・・はい・・・・」
ハルカの言葉に木乃香も小さく頷いて、シモンの苦痛を少しでも和らげられるようにシモンの両手に自分の両手を重ねた。
そしてシモンはコアドリルの光と、触れた「顔神」から何かを感じ取っていた。
「こいつも・・・宇宙の真実を・・・・アンチスパイラルの絶望から・・・・くっ、やめろ、ロージェノム・・・・・・仲間を・・・・ダメだ星が・・・・銀河が死んでいく・・・」
シモンの変貌した様子と訳の分からない言葉に全員がどう反応していいか分からず固まっていた。
「おいおいおいおい・・・・なんか物騒な話じゃねえか?」
「ち・・・チンプンカンプンですわ・・・」
「あれ・・・・?」
しかし木乃香は何かに反応した。
「木乃香ちゃん?」
「えっ・・・・ロージェノムて・・・それにアンチスパイラル? あれ・・・これ・・・いつやろ・・・どっかで・・・・」
木乃香の疑問も耳に入らず、シモンは口を休めない。
「必死で・・・・そうか・・・螺旋界認識転移・・・いや、無理だ・・・いやでも・・・・この時は・・・カテドラル・ラゼンガンの力が空間すら捻じ曲げたら・・・次元の壁や・・・時空転移バイパスが繋がって・・・それで・・・」
「ちょ、し、シモンが気合以外の言語で話してるぞ!?」
「しっ! ちょっと・・・黙って聞いてみよう・・・」
シモンらしからぬ単語にサラたちは目を丸くしてしまった。
しかし一人だけ納得したシモンはやがて俯いた。
するとシモンの表情が苦痛から悲痛へと変わった。今にも涙がこぼれそうな表情である。
「ずっと地中に? ただ逃げてそのまま地下へ?・・・螺旋の力の真実に震えながら・・・お前は・・・そのまま死んでいったのか? ・・・誰の声も届かない・・・光も見えない世界で・・・一人で泣いて・・・これがお前たちの明日だったのか?・・・・うっ・・・」
シモンの頭の中にはアリアドネー、竜種との戦い、そしてラカンとの戦いの最中に見たコアドリルの過去の記憶が蘇っていた。
―――そう、これがスパイラルネメシスだ。
「うるせえ・・・・」
絶対的絶望の前に破れ、絶望した戦士が圧倒的な力で仲間の戦士たちを滅ぼしていく映像。
その攻撃から逃れようと必死に逃げていく戦士たち。
しかし男の力は銀河中に轟き、その絶望を織り込んだ螺旋の波動に戦士たちが飲み込まれていくのである。
――それこそが破滅への道。螺旋族の罪・・・・これが真実だ・・・
シモンの目じりに浮かぶ涙。
それがシモンの涙なのか、それとも目の前の白骨体の涙かは分からない。
しかし決してその涙は零さない。
何故ならシモンは分かっているからだ。
「うるせえ・・・・何べんも言わせてんじゃねえ!! 滅びないって・・・・ニアが言ってんだろうがッ!! だってそのために・・・そのために!」
―――そのためにみんな頑張ったんじゃない
それで十分だった。
やがて一度息を落ち着かせて俯いていたシモンは次の瞬間、涙を振り払い、勢いよく顔を上げて予想外の言葉を叫んだ。
「アアアーーーーーーーーーーッもう!! 細かいことはよく分からないや!! ようはこいつは昔、何かから逃げて、気づいたらこの星にいた!! それだけだ!!」
「「「「えええええええーーーーーーーッ!!!???」」」」
あまりにも訳の分からぬ答えに逆に全員が驚いてしまった。瀬田ですら引きつっていた。
「えっ・・・えっと・・・ようは分からないってことかい?」
「めっちゃ、重要そうな単語がいっぱい出てきとったけど・・・・」
「そ、・・・それで片付ける気ですか?」
するとシモンの表情がいつもと同じに戻っていた。
「いや・・・う~~ん、俺はこの世界の人間じゃないらしいけど・・・・俺とこいつは同じ世界の人間・・・ってことかな?」
「・・・・・・・えっ? いや・・・意味が分からないんだが・・・それにこの世界の人間じゃないって・・・?」
「まあ、私も途中から訳が分からなかったが・・・・」
「でも、そうやったら・・・・これはシモンさんの世界のガンメンゆうものなん? もしそうやとしたら何でここにあるん?」
皆聞きたいことが山ほどあった。そのために、今のシモンの様子を黙って見守っていたのである。
しかし待っていたにも関わらず、シモンから帰ってきた答えはこれだった・・・
「・・・・・さあ?・・・・気合があれば出来るんじゃないかな?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」
「だが・・・こいつはそれを逃げるために使っちまったようだが・・・・」
あまりにも要領を得ない答えに、逆に全員はツッコム気にもなれなかった。しかし何故か木乃香だけはおかしそうに笑った。
「う~ん、でも、そうゆうんがシモンさんらしくてええかもな~」
「まっ、私もどーでも良くなったしよ~」
「私は最初から最後まで全部分かりませんでしたわ・・・・」
答えは分からないが、シモンが言うならそれでいいかもしれないと何故か全員が納得してしまった。
しかし木乃香は一つだけ気になり、少し言いづらそうにしながら尋ねる。
「でもな、シモンさん・・・ウチ・・・アンチスパイラル・・・・それにロージェノムゆう言葉も聞いたことあるえ」
「なんだって!? それ、・・・どういう意味なんだ?」
シモンが驚きながら木乃香を見ると、木乃香は頭の中で学園祭の出来事を思い出す。
「うん、・・・ロージェノムゆうんはシモンさんの世界で人類を地下に押し込めた螺旋王て呼ばれてた人のことや」
「螺旋王・・・そうか・・・昨日話してくれた・・・そうか・・・そうなのか・・・アイツが・・・。・・・それじゃあ・・・アンチスパイラルは?」
するとそこで木乃香は少し困った表情を浮かべた。
「それは言葉だけ・・・なんやけど・・・・そのシモンさんは覚えとらんかもしれんけど・・・・ウチのクラスメートにいた、超さんて人がボソっと言ってたんよ・・・それで・・・・」
木乃香は思い出す。たしかに超鈴音はアンチスパイラルという言葉を使っていた。
―――仮にも自分を好きだと言った子が二度も目の前から消えるのはサスガのシモンさんでも・・・嫌カ?
学園祭で追い詰められた自分を庇ったシモンに向って超は不機嫌そうに言った。
―――そう、一年前・・・アンチスパイラルのメッセンジャーとなったニアさんが・・・・
そこから先の事は超鈴音が慌てて口を閉ざしたために、聞くことは出来なかった。
そう、それは・・・・・ニアの死が関連することだった。
「でも・・・ウチもそれ以上の事は・・・シモンさんはいつか話してくれるゆうたけど・・・・」
「そうか・・・・・やっぱり重要なのは・・・・俺の記憶か・・・・・」
「シモンさん、まだ思い出せん?」
「いや・・・前よりはどんどん・・・・少しずつ頭の中で整理しているけど・・・・でも、もう直ぐだって自分にも分かるよ・・・・」
シモンも溜息をついて自分自身の記憶喪失という現状に呆れてしまった。昨日記憶を知るための手は打ったのだが、それを分かるのはもう少し先という焦れったい感覚に襲われた。
「まあでも・・・仕方ないか・・・それまでは黙って待つしかないか・・・・」
「うん・・・しかし・・・」
「瀬田さん?」
「あっ・・・いや・・・なんでもないよ」
少し瀬田が黙って、何かを真剣に考えているようだった。その様子はいつものような能天気さが見当たらず、サラですら何かを感じ取った。
(メチャクチャだが・・・シモン君ならあるいわ・・・・今のメチャクチャな言葉が・・・・全て真実なら・・・)
瀬田は何度も頭の中で、今の情報を整理していく。
(多元宇宙理論・・・いきなり信じるわけではないが・・・偶然だろうか?・・・・・火星戦士の母星・・・・もしシモン君の今の話を信じて・・・・僕の推測が当たっているならこの世界は・・・・この星は・・・・)
それ以上は考えるのはやめて、瀬田はシモンと「顔神」をチラッと見る。
(来て良かったかもしれない・・・・形は違うが、こんな形でこの世界の正体に近づけるとは・・・・)
その考えは、まだ瀬田は自分の中だけで押し留めることにした。
そしてもう、これ以上はここに居ても仕方ないだろうと判断した瀬田は、とりあえず皆の様子を伺ってから帰ることを提案した。
シモンもエミリィも、そして木乃香も早々にオスティアへ戻らねばならない理由が在るために、反論など無く、遺跡を後にしようとした。
しかし木乃香が何もせず帰ろうとするシモンを疑問に思い尋ねる。
「なあ、シモンさん・・・・これ、持っていかんの?」
「えっ?」
「ようわからんけど、これってシモンさんにとって重要なもんなんやろ?」
「・・・・そうだな~・・・・・・・たしかにもって行けば・・・・・・・・・・・・」
木乃香の言葉にシモンも「確かにそうだ」と考え頷こうとした。
自分の記憶に重要なもの。そして目の前の「顔神」と呼ばれる物体はそれだけでなく、何か大きな力になることは、今のシモンにも十分理解できた。
そう、これがあれば今後も随分楽になるだろう。
今後何かをするのにも楽に出来るだろう。
シモンに記憶は無いがそれだけは分かった。
しかし・・・何か頭の中で引っかかった。
「木乃香・・・・・これ・・・・持って行ってどうするんだ?」
「えっ? 何って・・・・シモンさんがこれ使うて・・・・せや! サラちゃんのメカタマと、合体やったらどや? きっと魔法世界の皆驚くえ?」
「が、合体!? 科学とはそのようなことまで出来るのですか?」
「・・・科学?」
エミリィの言葉にシモンは自然と聞き返してしまった。
「えっ・・・だってシモンさん・・・・メカは科学の力なのでしょう?」
「しかし凄いね~、そのガンメンって言うのは、一度地球で調査したら、凄い科学技術が進歩するんじゃないかい?」
科学とメカの話で盛り上がる一同。もしシモンの話を信じるのなら、盛り上がっても別に不思議ではないだろう。
しかしこの光景にシモンは何か嫌な予感がした。
「・・・・・・木乃香・・・・さっき・・・・お前のクラスメートの・・・・・誰って言った?」
「えっ・・・・・超さんや・・・・・超鈴音さんゆう人やけど・・・・・シモンさん・・・・・ひょっとして心当たりあるん?」
「超・・・・鈴音?」
その名前はやはり思い出せない。
しかし「超鈴音」この名前から何かをシモンは感じ取った。
何時の日か、ごく最近、自分は何かを言っていたはずだ。
一人の少女に向って何かを言った。そして少女も何かを言っていた。
「超鈴音」と言う言葉と共に、シモンは頭の中を必死に働かせた。そして微かな光景が頭に浮かんだ。
「捻じ曲がった物語・・・魔法界や科学界を巻き込んで・・・」
「シモンさん?」
「いや・・・・何か少し気になってな・・・」
そう言われてシモンはもう一度「顔神」を見た。
そこにあるのは木乃香いわく、グレンラガンというメカと同じ、自分の世界とやらに在るガンメンと同じものかもしれない。
ならば、もしこれをシモンが持っていったらどうなるだろうか?
この後の格闘大会で、このメカとメカタマと共に戦ったらどうなるだろうか?
たしかに皆驚くだろう。自分も興奮するだろう。しかし、何故か心に引っ掛かりが生まれて、その気になれなかった。
「シモンさん、どうしたん?」
シモンは考える。
どうするべきなのかを。
このメカを持って行きたい。
しかし何かが心の中で邪魔して頷くことが出来なかった。
だからシモンは自分の直感を信じることにした。
「・・・・・木乃香・・・・そのメカは・・・そこに置いていく・・・」
「えっ、いいん?」
意外な言葉に木乃香は驚いた。
「ああ・・・・それに頼ったら・・・・何か・・・まずい気がする・・・・よく分からないんだけど・・・そんな気がする」
「そうなん? ・・・う~ん、シモンさんがそうゆうんやったらええけど・・・」
「そんな顔するなって! 大丈夫だ! 俺にはドリルがある。気合がある。だったらそれで十分だ!!」
木乃香は少し残念そうな顔をするが、シモンの目は真っ直ぐだった。
「それだけじゃない、俺には分かる。俺はこれに頼っていた時がある。多分これさえあれば何でも出来ると思っていただろう・・・でも・・・今の俺はそれじゃあダメだ」
「・・・・何でなん?」
「勘だよ。ただの勘だ! 俺は今、忘れちまったテメエが一体誰なのかっていう答えをかき集めてようやく掴もうって時なんだ。そんな時・・・・何かに頼ってばかりだと、その手に何も掴めない、・・・そう思ったんだ」
「・・・何も掴めない?」
「ああ、・・・そして俺は・・・これがあったから昔何かを掴めたのか・・・・それとも俺は・・・俺たちは俺たちだったから掴めたのか・・・それを誰かに証明しなくっちゃいけないんだ」
「誰かに証明って・・・シモン君・・・誰にするんだい?」
「誰にって・・・・多分・・・・誰かにだ!」
この時、シモンは一瞬だけだが頭の中で一人の黒髪の少女の後ろ姿を思い出した。そしてその少女を裏切りたくない。それだけは分かったのだった。
シモンの言葉は以前と変わらず、記憶があっても無くても木乃香には信頼でき、それ以上は言わずに黙って頷いた。
そしてシモンはもう一度「顔神」を見る。
そして「顔神」の開いた頭を閉じた。そしてシモンは「顔神」にコツンと頭をぶつけ、悔しそうに呟いた。
「そうだ・・・・そしてお前たちもだ・・・バカ野郎・・・・お前は・・・何であきらめた・・・何で掴むまで足掻かなかった・・・」
その表情は木乃香たちには見えないが、シモンの背中は震えていた。
「お前らの明日は・・・お前らで掴むものだろ! 宇宙の真実に・・・たとえロージェノムが・・・お前たちが絶望に飲まれても、まだ多くの仲間が居たはずだ・・・宇宙にはそれだけ多くの仲間が居たはずなんだから・・・何で逃げるために・・・・なぜ下に向ってドリルを掘った・・・何故・・・」
シモンの言っていることは理解できない。
しかしその言葉の端々から滲み出る悔しそうなシモンを皆初めて見た。
いつもはどんな状況でも何とかしようとする、シモン。しかし今のシモンは「顔神」の中の遺体に向って、もうどうにもならないことを告げているように見えた。
しかしシモン自身、今の自分の言葉に首を横に振った。
「いや・・・違うか・・・俺だってそうだった。ラカンとの戦いでこれを見せられたとき・・・もし、ブータが居なければ・・・ニアの言葉が過ぎらなければ・・・絶望に飲まれていた・・・。俺も同じだったかもしれない・・・。お前たちが・・・ブータみたいに・・・あの人みたいに・・・迷ったロージェノムを殴ってやれたなら・・・まだ道は続いていたかもしれないのに・・・・」
自分も一人で戦っていた時に、絶望に飲まれて暴走したことがあった。
だから自分も目の前の過去の戦士と同じかもしれない。だが、シモンはもう一度首を横に振って否定する。
「そうだ・・・俺には殴ってくれる人が居たから・・・、心強いダチ公達が居たから俺たちは勝った!! 俺たちはこのドリルを明日に向って掘りぬけた!! 掘った先に在るものを掴み取ったんだ! それをお前に・・・お前たちに見せてやる!!」
シモンは決意した。
その目に宿った瞳を木乃香は見たことがあった。その目は自分の良く知っているシモンの目だった。
「全てを思い出したら・・・・・いや・・・俺が帰るとき・・・お前を一緒に連れて行く! それまで待っていろよ・・・そしたら・・・今度来た時は・・・」
その時、シモンはまた何かを思い出した。
握り締めたコアドリルを見て、頭の中に誰かの言葉を思い出す。
この感じは知っている。
不快な気分がまったくしない。
ならば間違いなく自分の知っている記憶だ。
コアドリルに封じられた過去の絶望の記憶ではなく、自分が知っている自分自身の記憶だと分かった。
ニアのときと同じだ。
その言葉を思い出すだけで心の奥底から強い想いが込み上げてくる。
(そうだ・・・・俺は誓ったはずだ・・・・誰と? ・・・アイツに・・・・アイツ? そうだ・・・俺は・・・約束した・・・)
蘇ってくるのは、旅立ちの時の誓い。
―――螺旋族として、失った仲間や、女、そして貴様らの先祖たちに、掴んだ明日とまだ見ぬ世界を見せてやれ! それが貴様の役目だ!
それは男同士の誓いだった。
自分にコアドリルを餞別に渡してくれた友との約束。
(アイツと・・・・拳をぶつけて・・・誓った・・・たしか・・・アイツは・・・)
自分を送り出した誇り高き男は言っていた。
「ヴィラル・・・・・・・・」
「「「「はっ?」」」」
「ぶむ!?」
「・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・あれ? なあ、ヴィラルって誰だ?」
「はあ~~? 今お前が言ったんじゃんかよ!」
「う~ん、ウチも知らんな~」
「・・・・ヴィラル・・・・・いや・・・・そうじゃなくて・・・そうだ・・・俺は・・・・・・・たしかに・・・・約束したんだ! 誓ったんだ! 俺はアイツに託して・・・・アイツは俺に託したんだ!」
そう、男は言っていた。
―――キサマらグレン団の創ってきた道は預かった。後はまかせろ! だから今度はキサマ自身の道を創れ!!
その時シモンの口元に不意に笑みがこぼれた。
「そうだ・・・俺の役目は・・・俺の創る道は・・・遠い過去と今日を明日へ・・・・未来へ繋ぐ道を創ること・・・後から続く者達を見守りながら・・・それが俺の役目だ!」
それは何かを思い出せたからだ。
そして何を思い出せたのか?
それは簡単なことだった。
「ようやく分かった。俺がお前に出来ること・・・それは・・・文句を言うことじゃない。お前に・・・お前が見たかったお前の世界の明日を見せてやることだったんだ・・・」
突如流れた自分に向って叫ぶ獣人の男の言葉を思い出し、シモンは笑って「顔神」の中に居る戦士に拳をグッ突き出して叫んだ。
「お前たちの見られなかった明日を見せてやる! 俺がお前を本当の故郷の世界に連れて行ってやる! それまで、待ってやがれ!」
ニヤリと笑みを浮かべて力強く言うシモン。
それは目の前にある「顔神」の中に眠る戦士だけに言ったのではない。シモンが力強く握り締めたコアドリルに眠る魂たちにも向けた言葉だった。
「シモン君・・・・君は・・・一体・・・・」
その様子に瀬田たちは少し驚いたように見ていた。いきなりどうしたのだ? といった表情である。
しかし木乃香だけはこのシモンを知っている。
(そうや・・・・シモンさんの言っとる事は、よう分からんけど・・・普段の優しいシモンさんもそうやけど・・・・この・・・自信に満ち溢れて何かを決意した目・・・そうや・・・これが・・・ウチの知っとるシモンさんや!)
ようやく自分の知っているシモンを見られた気がした。木乃香は思わず微笑んでしまった。
そしてシモンはそれだけを告げ、コートを翻して「顔神」に背を向けた。
その背中には、シモンの誇りの炎のマークが燃えているように見えた。
「また来るぜ! 螺旋の友よ!!」
己の役目と誓いを思い出したシモン。
この日、シモンはこの世界で記憶を失ってから最も自分自身に力が湧いてきた気がした。
「ふっ、何があったかは知らないけど・・・・・」
「そうだな・・・いい事があったんだろうな」
「なんかさ~、アイツらしいな~♪」
「そうですわね。私を助けてくれた時のシモンさんも、あんな感じでしたわ」
「うん! そ~やな~♪」
瀬田たちはシモンの背中に、確固たる強い意思を感じ取った。その背中を目に焼き付けながらこの場を後にした。
「なあ、ところでシモンさん・・・その・・・記憶なんやけど・・・」
「・・・いや・・・・それは・・・まだだな・・・」
木乃香が、早足でシモンの隣に駆け寄り、少し聞きにくそうに聞いてきた。しかし「残念ながら」といった表情でシモンは首を横に振る。
「でも、・・・ここに来て良かった・・・大分頭の中で整理出来てきた。俺の三つの記憶を・・・」
「えっ・・・三つって?」
しかし木乃香が落ち込む前に、シモンは笑顔を見せた。
「ああ・・・まっ、細かいことを気にするな! ちゃんとお前のことも思い出す。俺にはもう分かるんだ・・・その日は近いってことがな!!」
シモンの三つの記憶。
それは過去の螺旋族とアンチスパイラルの記憶。
大グレン団の記憶。
そしてもう一つが、目の前で首を傾げている木乃香やネギたちとの出会いの記憶である。
そして今日シモンは誓いと自分の役目を思い出した。誰との約束だったかは鮮明に思い出せないが、その誓いは絶対に裏切れぬものだと自分の心が叫んでいた。
だからこそ、今日シモンは宣言したのである。
全てを思い出してからまた来ると、自信に満ち溢れた表情で告げたのである。
―――行って来い、ハダカザル!!
「ああ、行ってくるぜ!!」
名を思い出せぬが、心に刻み込まれた友との誓いを思い出したシモン。
シモンが全てを思い出す日は近い。
最終更新:2011年05月12日 14:44