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93-三人で力を合わせるか

第九十三話 三人で力を合わせるか 投稿者:兄貴 投稿日:09/09/07-20:44 No.4141
「何ですって!? 街中で大喧嘩!?」


それはオスティアへ向う帰りの空の上でのことだった。

突如エミリィにベアトリクスからの緊急の連絡が入り、エミリィは表情を変えた。その様子に瀬田や木乃香たちも少し心配そうにエミリィの様子を伺いながら、ベアトリクスの言葉を待つ。


『兄貴さんや美空さんのご友人と名乗っていた少年と、その他の方々、十名近くがオスティアの街中で魔法戦闘を繰り広げています。我々警備隊は即刻対処に向います』


するとベアトリクスからの言葉に木乃香が身を乗り出した。なぜならその戦いの中心に居ると言われたのは、間違いなく自分の仲間だからである。

自分の居ない間に何があったのだろうと木乃香が混乱していると、シモンが木乃香の肩に手を置いて、同時に通信の繋がっているベアトリクスに声を掛ける。


「ベアトリクス。シモンだけど・・・その・・・ネギたちが・・・」


『兄貴さん!? 一体何があったのです? お嬢様は何も心配要らないと仰っていますが、どうして兄貴さんが賞金首である冒険王たちと繋がりが・・・』


「その話は後だ。今は、そっちに何があったのか・・・いや・・・ネギたちは一体誰と喧嘩しているんだ?」


冷静な態度で通信先のベアトリクスに訪ねるシモン。すると僅かな間を置いて、ベアトリクスが静かに口を開く。


『その前にシモンさん・・・あなたは・・・・あなたの友人と名乗っていた少年や・・・その、・・・そこに居る木乃香さんたちの正体に・・・気づいていますか?』


木乃香とエミリィの肩が若干震えた。どうやらベアトリクスもネギたちの事情に気づいたようである。


「ゲートポートってところを襲ったテロリストの容疑者・・・・その事か?」


『ご存知だったのですか!?』


「ああ、俺も知ったばかりだけどな」


『実はそのテロリストの目撃情報があり、他の警備員が捜索した結果、オスティアの街の中心にあるカフェテラスで発見され・・・その・・・私が確認したところ・・・・』


「ネギたちがそこに居た・・・・ってことか?」


『はい・・・そして見知らぬ相手と何かを話していたようですが・・・急に話が中断され、そのまま戦闘に・・・・会話の内容は分かりませんが・・・・あっ!? 四方にバラけました! とにかく我々は確保に乗り出します!』


オスティアの祭りの中での喧嘩や野試合は日常茶飯事で、ある程度は許容されているところもある。しかしそれも程度による。ましてや無許可で周りに影響を与えるほどの規模なら尚更である。ベアトリクスの口調からはどこか仕方なさが感じられた。

更にネギたちは高額な賞金首である。

事情はどうあれ、逮捕は仕方ない。


「それで・・・肝心の相手は?」


『はい?』


そこでシモンは一つだけ気になった。

それはネギたちがそうまでして戦おうとする相手のことである。


「喧嘩は相手が居てこそ出来るものだろ? あの、お利口なボーズが誰と喧嘩しているんだ?」


すると次のベアトリクスの言葉にシモン、そして木乃香は目の色を変えた。


『それが・・・こちらも少年なのですが・・・不気味な目をした白髪の少年です・・・・』


それだけで相手の正体が分かった。


「あの人や!?」


「木乃香?」


「ウチらをゲートポートで襲って、ウチらの所為にした人や・・・・」


「な、なんですって!? では木乃香さんたちは無実で、・・・・その少年が真犯人!?」


「そうか・・・アスナちゃんや木乃香ちゃんたちが賞金首というのはおかしいと思っていたんだが、そういうことがあったのかい?」


「やれやれ、メンドーな事になってるな・・・・」


木乃香の言葉でようやくネギたちの事情や真相がエミリィや瀬田たちにも分かった。そして一方でシモンはそんな事よりも、むしろ別のことで頭が一杯で口元に笑みが浮かんでいた。


「・・・白髪の少年か・・・」


「シモンさん? どうされたのです?」


「ううん・・・・ただ・・・こいつはまた・・・妙な縁を感じるなって。・・・まだ思い出せていないけどな」


「?」


「・・・そっちから顔を出したか・・・・上等だ・・・。今日の俺は少し調子が良い・・・・」


ブツブツと呟きながらシモンが手のひらを上に向けた。

その手のひらで小さな光が輝き回転し始めた。

木乃香が目を凝らすと、その回転している光は見覚えのある形だった。瀬田やハルカ、そしてエミリィも、突然シモンが手のひらの上で作り出したソレに目を見開いた。


「シモンさん・・・それッ!? えっ? どうゆうことなん!?」


シモンは小さく笑い、頷いた。

木乃香の見間違いではない、それは小さなドリルだった。


「もう・・・止まらない・・・・ドリルが何回転もすれば、その度にどこまでも行く」


そしてシモンは手のひらを握り締めると光は消えてドリルも無くなった。


「今の俺はどこまでも行ける!」


木乃香が顔を上げてまたシモンを見ると、シモンは何かゾクゾクした目で空の彼方にあるオスティアの方角を見た。


「後悔するぜ、・・・つまんなくてもいいから、俺をあの時に倒しておけばよかったってな!」


それは新たなる兆候・・・いや・・・合図でもあった。


一度回りだしたドリルが止まらないように、シモンはもう止まれなくなっていた。


それは誓いと本能を思い出したからだ。


そして突き進んだ自分達が掴んだ明日を見せてやると過去の戦士たちに宣言したからである。


ドリルを握りつぶして小さく笑うシモンは、敵と友がぶつかり合うオスティアの方角を見つめながら、到着の瞬間を待った。




そしてシモンが見据える方角にある巨大な空島は・・・・







「それが・・・君の選んだ道とやらかい?」


その身に闇を孕んだ奈落の獄炎を覆ったネギが、フェイトに迫る。しかしその拳打をフェイトは涼しい顔で払いのけていく。


「自らの肉体を魂に喰らせて常人に倍する力を手に入れる闇の魔法・・・君が千の刃の元で学んだ力・・・つまるところは・・・・」


リスクを払って得られる力。『いつか』ではなく、『今すぐ』に力を求めたネギがたどり着いたネギの道。

それがラカンの元でネギが習得した闇の魔法(マギア・エレベア)

しかしその力を前にして尚、フェイトの表情は変わらない。


「所詮はただのドーピング・・・そんなもので僕に並べるとでも・・・・・」


並べると思っているのか? そう口を開こうとしたフェイトだった。

しかしその口は突如襲われた腹部の痛みによってさえぎられた。


「ッ!?」


衝撃を感じた瞬間、フェイトは気づいたら後方まで激しく吹き飛ばされていた。

慌てて体勢を立て直すも威力に押されて思わず地面に肩膝を付かされていた。


(な・・・なに!? 僕が・・・・入れられた?)


思わず腹部を押さえながら前を見るフェイト。


(それにこの威力・・・・・)


その視線の先には肘打ちをした状態で固まり、睨み付けるネギがいた。


「男が細かいことをネチネチ言うなフェイト。君には気合が足りないんじゃないか?」


ほんの少し前まではフェイトにとっては、取るに足らない相手でしかなかったネギの一言。その言葉はフェイトの心の中の何かを刺激した。


「なるほど・・・そう来たか・・・・そう言われてしまえば言い返せないな・・・・だが・・・・」


何の理由があったかはわからない。本人でもきっと分からないだろう。


(やれやれ・・・どうしてこうなったのか・・・・力を手にしただけでなく・・・・僕の揺さぶりに動じず真っ直ぐ僕を見据えている・・・・・ネギ君・・・・君は・・・)


しかしこの時、刺激された心から湧き上がるものを抑えきれず、小さくフェイトは笑った。


「おもしろい・・・たしかにシモン同様に君も敵と認めよう・・・・だが・・・」


フェイトの微かな笑み。

しかしその笑みには気づかず、ネギは再びフェイトに向かっていく。対するフェイトもすぐに立ち上がり応戦する。


「調子に乗るな! ネギ君!」


「あまり図に乗るな! フェイト!」


人目も場所も憚らず、二人の男はぶつかり合っていた。


(まったく・・・・戦いの心構えは闇の福音に、今のネギ君の力は千の刃によって育てられた・・・・・なら精神面は・・・君の影響かな? 君は本当に面倒くさいことをする・・・・。ネギ君は自らこうなったのか・・・・いや・・・・たとえネギ君がどう言おうと、結局は君の影響なんだろうな・・・・・シモン・・・)


心の中で呟きながら、敵と認めた少年と対峙するフェイト。

決して互いが互いを認めることも引くこともせず、己の意思を貫き通そうと、目の前にいる己の敵を排除しようと、その力を振るっていた。




何故この様な事態にまで発展したのか?


それを説明するには、時を少し巻き戻す。




それは二人が対立したその時のことである。




「・・・・・・な・・・・何だって?」




「もう一度言おう・・・・」




オスティアのド真ん中のカフェテラス。

向かい合うのは相容れない二人の少年。

その少し後ろにはアスナや刹那を始め、ネギの仲間たちが、その祭りの賑やかさや温かさを無視したギスギスとした不気味な空間から一歩引きながら、二人の会話を聞いていた。


「君は・・・君たちは黙って僕たちの事を無視していてくれ。それだけでいい。それで君達全員を学園に無事に帰してあげよう」


「「「「「「「!?」」」」」」」


突如ネギたちの前に現れ、とんでもない提案を出したフェイト。その言葉に全員が固まってしまった。


「ちょっ、どーゆうことよ!? じゃあ、私たちは最初からどーでもよかったって言うの!?」


フェイトの提案を信じられないアスナが最初に口を挟む。そしてそれは最もな意見である。

ゲートポートでフェイトたちに襲われて、今日までいくつもの苦労や危険と遭遇してきたアスナ達。しかしその境遇に陥れた張本人は、自分たちを最初からどうでもよかったと言ったのである。

そしてフェイトはアスナのその疑問に対してアッサリと肯定した。


「その通りだよ。だから最初にそう言ったじゃないか。・・・お姫様・・・いや・・・・神楽坂アスナ」


「なっ!?」


「君たちには少し分かりやすく説明しよう。ネギ君・・・・たしか君は僕に言った。そしてそれは正しい」


「な・・・何を・・・・」


フェイトの言葉に未だに動揺を隠し切れないネギ。そしてそれはアスナ達も同様である。刹那も楓も、普段はあまり細かいことを気にしない小太郎ですら、フェイトの訳も分からない提案に首を傾げていた。


「僕の目的はこの世界を破滅させることだ。君の言っている通りのことだ。しかしそれも訳あってのこと。何も知らない君達は黙っていてくれ。それで十分だ」


何もせずにいれば自分たちの安全と帰還の約束。保証こそ無いが、それがフェイトの提案である。

そしてそれはつまり・・・・


「この世界と・・・僕の仲間・・・・どちらかを選べ・・・・ということ?」


「その通り」


ネギの額には汗が流れていた。それほどまでに今のフェイトの提案に驚いていた。

そしてネギの動揺に逸早く楓と刹那が察知していた。


(う~む・・・信用できぬでござるが・・・これは・・・・)


(ああ・・・・破格の条件だ・・・・こんな甘い条件を・・・・この男が?)


そう、考えられないほど甘い条件である。きっと何か罠があることは間違いないと断言できるほどのことである。

だが、彼女たちは口を挟めないでいた。


(刹那・・・もしネギ坊主がフリだけとはいえ・・・条件を飲んでしまったらどうなるでござる?)


(・・・もしこの男が相手の約束を強制的に履行させるような強力なアーティファクトを持っていたら・・・・・ダメだ分からん・・・・しかし、この状況では・・・この少年はゲートポート同様に一瞬で周囲にいる数百名の人を殺せる力を持っている・・・)


フェイトの考えを刹那たちには読むことは出来なかった。何より祭りで周りが賑わっている以上、この状況は周囲の人間を人質にとられているも同然の状況なのである。


(この人の考えは分からない・・・でも・・・)


(の、のどか・・・)


(バ、バカ・・・そんな方法こいつに・・・・)


刹那も楓も動けないこの状況で、のどかは覚悟を決めたような目でフェイトを見る。その僅かな変化にハルナと千雨が気づき、止めようとした瞬間、フェイトが口を開いた。


「やめておいたほうが良いよ」


「ッ!?」


「もし君が・・・アーティファクトで僕の心を読もうなどと思っているならやめたほうが良い。その瞬間に石になってもらうよ?」


それも全てフェイトの手のひらの出来事だった。

のどかは急にゾッとした表情になり、思わず足を震え上がらせてその場に腰を抜かしそうになった。

結局は誰もどうすることもできなかった。


(ぐっ・・・ダメだ・・・最良の選択など思い浮かばない・・・ましてやネギ先生に答えられるわけ・・・)


(う~む・・・刹那もお手上げのようでござるな。・・・・どうするべきか・・・ネギ坊主・・・どうするでござるか?)


どれだけ仲間がこの場に居ようとも、この場はフェイトの空間だった。

のどか達だけでなく、朝倉も古も小太郎も、結局手も口も出すことも出来ず、ネギの答えを待っていた。

そして後ろから見るネギの肩はガクガクと震えていた。

表情は見えないが、拳は膝の上で強く握り締められている。

結局この状況で何も出来ず、ネギの言葉を待つことしか出来ない刹那たち。

そんな彼女達に、フェイトはトドメの言葉を告げる。


「何を迷う必要があるんだい? 言っただろ? 君の唯一の仕事は夏休みを満喫する生徒たちを無事に学園に送り届けるという教師の仕事を全うすること。こんなつい最近まで現実世界で普通に暮らしていた彼女達にとって幻想のような世界、・・・・幻想と仲間の命・・・・比べるまでも無いだろ?」


「「「「「「「―――ッ!?」」」」」」」


全ては幻だとフェイトは言い放った。幻と生徒の命、二つを天秤に掛けては答えなど一つしかない。


(僕の生徒と・・・・・この世界・・・・・・・アスナさんたちだけじゃない・・・・まき絵さんや亜子さんたちも含めて全員無事に・・・・)


そう、フェイトの言葉は正論だった。

ネギだけではない、誰もが反論しなかった。

反論できるはずも無かった。

そしてネギの性格を知る彼女達にとって、もはやネギの答えなど分かりきっていた。


(い、いや・・・・な、何を考えているんだ僕は・・・今更・・・何を考えているんだ・・・・答えなんて・・・・決まっているのに・・・・・)


これではネギは頷くしかない。

どちらにせよこの状況ではそれしか道は無かった。


(そうだ・・・・思い出すんだ・・・僕の答えを・・・道を・・・・あの日のことを・・・)


そう、頷くしかない・・・・はずだった・・・しかし・・・それは昔のネギならばの話である。



「さあ、言いたまえ。僕は今後君達には一切手出しはしない・・・と、それで取引は成立だ」



顔を俯かせて肩を震わせるネギをほくそ笑みながら言うフェイト。


「・・・・・フェイト・・・・最後に一つだけ・・・君達は何故世界を滅ぼす?」


「その理由を、今の君が知る必要があるのかい?」


もう、これでダメ押しだろう。


ネギは苦虫を潰したかのように唇を歪めながら、テーブルの下で両手を強く握り締めていた。


(・・・・・・思い出せ! たとえ・・・全てを知っていなくとも・・・知っていようとも・・・・僕は・・・僕達は・・・・・・ッ!)


きっと考えを決めたのだろう。その様子が刹那たちにも分かった。

のどかたちは不安そうに、止めようか止めないべきなのかを、迷っている表情だが、口を出せないで居た。

この場は誰にも手が出せない。


どうしようもできないのだと・・・・・


そう思っていた。・・・・


しかしその均衡が次の瞬間破られた。



「茶々丸インパクト!!」



突如激しく回転するドリルの音が聞こえた。



「女の怒り炸裂斬りィ!!」



突如激しく振り下ろされる剣の風切り音が聞こえた。



「なッ!?」



「「「「「「「はあッ!?」」」」」」」」


それはフェイトどころか味方ですらまったくの予期していなかった出来事だった。

突如テーブルを踏み台に襲い掛かってきた二人の少女、アスナと茶々丸の行動に誰もが目を丸くした。


「なななな!? アスナさん!? 茶々丸さん!?」


刹那の顎が外れるぐらい驚いた表情に続いて、皆が顔を引きつらせながら、テーブルを破壊して、座っていたフェイトを慌ててその場から飛び退かせた二人を見て固まっていた。


「お、おお・・・・・これは一体どういう作戦でござる?」


「いや・・・作戦じゃねえだろ・・・神楽坂も、あのロボ娘も・・・何やってんだ・・・・」


楓が千雨に尋ねるが、答えられるはずも無く震えていた。


「な、なんや? 結局やるんか? せやけど話の流れがよ~分からん! でもええんか?」


「ウ、ウム・・・私も分からないが・・・とにかく戦闘開始アルか?」


考えることが苦手な小太郎と古も、アスナと茶々丸の行動に驚きながらも、最低限の戦闘準備に取り掛かる。


「えっ? えっ? どーゆうことなの?」


「あ~もう、私も分からないよ~!」


のどかもハルナも激しく混乱する。

そして皆の意見を代弁するようにとうとう朝倉が口を開いた。


「ちょっ、アスナー!? 茶々丸さーん!? 二人して何やってのさー!? ってゆーか茶々丸さんまでーーッ!?」


しかしその問いに、アーティファクトの剣を抱えたアスナも新装備のドリルを腕に装着させた茶々丸も自信満々に振り返り言い放つ。



「「先手必勝よ(です)!! こんな話し合いまったくの無意味よ(です)!!」」



一切の迷いの無い二人の少女の言葉。

その言葉に少し驚きつつも、後方に飛んだフェイトはゆっくりと二人を見据える。


「・・・どういうつもりだい? 君達は・・・この世界のために仲間の命を賭けるのかい?」


少し意外そうに、そして不愉快そうに二人の少女を睨みつけるフェイトだが、アスナも茶々丸は微塵も震える事無く正面から睨み返した。


「「愚問よ(です)!! そうでしょ(すよね)? ネギ(先生)!!」」


「・・・・・何?」


誰もが迷う選択肢の中、二人の少女は当然の如く動いた。

そしてその言葉に続くように、俯いたまま肩を震わせたネギが静かに口を開く。

この時、刹那やのどか達は初めて気づいた。

ネギが顔を俯かせて震えていたのは、フェイトの選択肢に動揺し、精神を追い詰められているからだと思っていた。


しかし違った。


(・・・そう・・・愚問なんだ・・・思い出すんだ・・・あの日のことを・・・あの時のことを・・・。ずっと前に教えてもらったことなのに・・・・それなのに僕は・・・・)


ネギの肩が震えていたのは動揺していたからだけではない。


「フェイト・・・・僕はね・・・迷ってなんか居ない・・・」


怒りで震えていた。


「迷ってなんか居ない・・・・そう思っていた。でもね、一瞬だけ・・・一瞬だけ君の甘い条件に惹かれてしまったよ・・・・」


そしてその怒りはフェイトに対してではない。


(そう・・・答えなんて最初から出ているのに・・・・その事を忘れて僕は・・・・・ッ!!)


自分自身への怒りだった。


「比べられるはずも無いのに・・・父さんたちの守った世界と・・・皆の命を一瞬でも天秤に掛けた・・・・・・そんなこと・・・・出来るはずも無いのに・・・・ッ!!」


ギリッと悔しそうに歯を食いしばるネギ。誰もが黙ってそんなネギを見つめていた。


「たとえ君がなんと言おうと・・・僕はもう既にいろんな人にこの世界で出会ったのに・・・・ラカンさん・・・奴隷長さん・・・バルガスさん・・・トサカさん・・・拳闘士の皆さん・・・。決して幻なんかじゃないのに・・・僕の心が一瞬揺れた・・・・・その時・・・・その時! 思い出したんだ! あの日の事を! あの人の言葉を!」


ネギは僅かに目元に涙を浮かべながら、数ヶ月前のことを思い出す。


「・・・シモンかい?」


フェイトが尋ねるが、ネギは首を横に振った。


「違う・・・・そのシモンさんに・・・・道を示した人・・・あの人は教えてくれた!!」


シモンではない。ネギが思い出したのはあの男。

数ヶ月前の学園祭での出来事。

答えの見つからない選択肢を押し付けられたとき、超鈴音の罠と偶然の事故に巻き込まれ、時空間の狭間に囚われた自分達の前に、突如現れた男が教えてくれた。

シモンでもない。

父親でもない。


「君は言った。握った拳に何も掴んでいない僕はまだ誰でもない・・・流されて答えを出す僕の言葉に重みが無い・・・そう言った。・・・でも・・・僕は何も無いはずの拳を握り締めて・・・思い出したんだ・・・数ヶ月前・・・流されずに・・・自分自身の答えを出した時を。・・・あの人の言葉を思い出した・・・」


ネギの脳裏に思い浮かぶのは不撓不屈の伝説の英雄。

シモンやヨーコを導いた、あの男のことだった。
最終更新:2011年05月12日 14:44
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