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94-派手に暴れるとするか!

第九十四話 派手に暴れるとするか! 投稿者:兄貴 投稿日:09/09/12-07:44 No.4149
二人の少女が構えるが構わず歩み寄る三人のバグキャラ。

しかし目の前の三人を知らないためか、暦と環は自分たちがどれほどヤバイ状況なのかも理解せず、ただ単純に睨みつけているだけだった。


「お前たち・・・あの白髪の奴の仲間か?」


勇気でも無謀でもない、無知ゆえに抵抗しようとする暦たちにシモンが尋ねる。


「なっ、あなた!? フェ、フェイト様を侮辱しているのですか!?」


暦が顔を真っ赤にしながら怒りの表情で答える。


「別にしていないさ・・・・。ただ、そうなら伝言を頼みたかっただけさ」


「伝言・・・・ですか?」


「ああ・・・奴に会ったらこれだけ伝えて欲しい。シモンはここに居る。そしてもう直ぐお前の知る俺になって、会いに来るってな!」


ニヤリと笑みを浮かべてドリルを構えるシモン。すると暦がシモンの言葉を聞いてワナワナと震えだした。


「そうか!? そ、そうですか・・・・あなたが噂のシモンですね」


ゴゴゴと背後からそれなりの威圧感を出しながら、何か暦は怒ったような表情で目の奥を光らせる。


「俺のことを知ってるのか?」


「はい。フェイト様が言っていました。シモンという男には手を出すな。その男の相手は自分だからと。・・・・許せません」


「・・・・・・・は?」


「フェイト様のお口から私たち以外の名を・・・フェイト様の頭の中に私たち以外の者が居るなど・・・・フェイト様が私たち以外のものを意識するなど・・・・許せません!」


「・・・・・・・・・・・そ、そんなこと言われても・・・・」


本気で暦は言っているようだった。

その言葉にシモンどころか、他の面々も反応に困ってしまった。


「ず、随分と熱烈な愛やな~」


「ですが、嫉妬の形が少し間違っていませんか?」


「つうか月詠だっけ? アイツといい、シモンの奴って女にモテてる反面、変な女に恨まれてるんだな~」


「何で変な女ばっかなんだい? といってもあの子らはどちらかと言えば普通よりだがな・・・」


暦の熱烈な想いに苦笑してしまう女性陣。そして暦の恨みを直接ぶつけられたシモンはため息を一つついて、暦にドリルの刃先を向ける。


「まあいい・・・だったら・・・、俺を倒して、アイツの興味を惹かせてみるんだな!」


「言われなくとも!!」


暦と環が服の中から一枚のカードを取り出す。それは紛れも無くパクティーオカード。


(おっ、あれが噂のパクティーオとやらかい? 実物は初めて見るね。未知の力は発動前に倒すのが定番だけど・・・・・)


(さっさと片付けるにしても、それじゃあ空気を読めなさすぎだからな)


瀬田もラカンも互いに規格外レベル。正直、暦たちが「アデアット」と言い終わる前に倒すこともカードを奪うこともできたが、遠慮した。

瀬田は唯の興味本位。

ラカンはただ楽しくするためにという考えからだった。


「「アデアット!!」」


その瞬間、周りの風景、いや・・・世界が変わった。


「アーティファクト! 無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)」


「ん? これは・・・?」


「おやおや・・・スゴイ能力だね~」


「ほう・・・やるじゃねえか、嬢ちゃんたち」


「ななな、なんやこれーー!? 不思議空間!?」


環がアーティファクトを発動した瞬間、シモンたちの周囲、四方八方が端の見えない無限の広がりを持つ空間へと変わった。


「なんだいこれは? メンドクサイ」


「ハルカさん、のん気にタバコを吸っている場合ですか!? これは結界空間ですわ! これほど広大なものは初めて見ましたが、我々を閉じ込めるつもりですわ!」


「ふ~ん、そりゃあ便利だな。あのバカを一ヶ月ぐらい閉じ込めておけば、まともな性格になるんじゃないか?」


「ちょっ、ハルカさん、なんでそんな落ち着いてるん!?」


「そうだぜ! これじゃあ俺っちたち逃げられねーぜ!?」


「マジかよ!? どーすんだよ、パパァ!?」


木乃香、エミリィ、サラ、そしてカモが目の前に広がる敵の作り出した結界空間に慌てふためくが、ハルカは感心しながらも微塵も動揺していない。その瞳には辺りをキョロキョロ見渡している三人の男が映っていた。


「さて・・・どれぐらい粘るのかね~」


ハルカがタバコの煙とともに、小さく呟いた。


「ふ~む、さて・・・・どうするんだい、シモン君?」


「そうだな・・・それじゃあ、ちょっと下がってくれないか? 俺がちょっとやってみるよ」


シモンが一歩前へと歩み出て、意識を集中させた。すると穏やかな螺旋力の光がシモンを包み込んだ。

それは以前までのような全力全快の荒々しさは無い。最低限の力を自分自身の意思で搾り出していた。


「ほう、それは俺とやったときの力か? コントロール出来るのか?」


「ああ、・・・・今日は何でも出来る気がするんだ」


湧き上がる衝動、力、想いは止まることは無い。そして何よりシモンの本当に凄いところは、その力に飲み込まれないことだった。

もう、ラカンとの戦いのように自分を見失うことは無い。巨大すぎる力に飲み込まれて暴走することも無い。

無駄な力を一切使わず、螺旋力を無闇に垂れ流すような真似もしない。

見事に洗練されたオーラの流れだった。

そして以前よりも鋭さをましたブーメランと、ブースターを手元に出し、二つを重ね合わせて無限に広がる空間に向けて投げつけた。


「いくぜぇッ!! ダブルブーメラン・スパイラル!!」


ブースターと重ね合わせることにより、激しく火を吹きながら加速していくブーメランは、この世界を自由に駆け巡る。


「おお! 中々の功夫(クンフー)」


「ほう、以前よか鋭でえな」


正に威力は人間砲台。

たかがブーメランが、まるで暴れ馬の如く、シモンの意思で閉鎖空間内を駆け巡り、結界内の柱や建物がいとも簡単に切り裂かれていく。


「埃が付くな・・・・」


「うおおおお! 流石シモンの旦那! だが容赦ねえ!」


「シ、シモンさーん! 相手は女性なのですよ!?」


しかしシモンは聞く耳を持たない。むしろどれだけこの世界を攻撃しても一向に手ごたえも敵の気配も感じなかった。


「ふん、何て野蛮な。しかし無意味です」


「「「!?」」」


その時、爆音の最中に近くから暦の余裕たっぷりの声が聞こえた。木乃香たちがあわてて振り向くが、そこにいる暦は実体ではなかった。


「これは・・・幻像ですわ」


「ちっ、ホンモノはどこいんだよー!?」


「甘く見ましたね。これが環のアーティファクト、無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)です。この無限の広がりを持つ閉鎖空間に出口はありませんよ。理論的に脱出は不可能です」


「な、なんですって!?」


「いかに強力な力を持とうと、これにはお手上げ・・・・って、聞いているんですか!?」


暦の言葉にエミリィたちが驚くものの、肝心の三名の男たちは暦の言葉を聴くどころか、暦の幻像に見向きもしていなかった。


「どうだい、シモン君?」


「ダメだ、手ごたえがないや。どうすればいいんだ、ラカン?」


「う~ん、俺もこーゆうのは苦手だが、これだけの結界空間を作り出すなら、理論的に言ってこの世界の中に術者はいる。よーは、この世界のどこかに居る本物の嬢ちゃんたちを倒せばいいってことだ。このまま続けていけば運よければ当たるだろ~な」


「そーか、それじゃあ、範囲と威力を広げるか・・・・」


暦の幻像を一切相手にせず、三人はシモンのブーメランの攻撃を眺めていた。そしてシモンがゴーグルを装着し、更に螺旋力を高めていく。


「いくぜッ!」


すると、ブーメランが空中で無数に分裂し、その規模と威力を増大させ、創り出されて閉鎖空間を容赦なく駆け巡った。


「これが燃やしきれない、天の脅威! メテオ・ブーメランだァァァッ!!」


無数に増えたダブルブーメランが世界を壊していく。その威力は正に隕石の如く。


「ななななな、なんだこりゃああーーーー!? シ、シモンの旦那ァ!?」


「まま、まるでアルマゲドンやァァ!?」


「くっ、いくら強力な力を使おうと・・・・ってやりすぎですゥ!?」


まるで世界の終わりを告げるかのように、敵味方問わずに悲鳴が聞こえてきた。

そしてそんな惑星を破壊してしまうかと思えるほどの力を前にして、冷静なのはシモンを除いて僅か三人だった。

目が点になって驚くよりむしろ呆れているハルカ。

そして感心したように眺めながらも、冷静に周囲の状況を見渡している瀬田とラカン。


「ふん、幻像が動揺してるってことは、どうやら敵の本体もこの攻撃に巻き込まれそうになったようだな。やはり幻像を俺たちの前に出している以上、嬢ちゃんたちもそれほど遠くで俺たちを監視しているわけではなさそうだな」


「うむ、シモン君の攻撃は目算で約マッハ3・・・ってところかな? シモン君の攻撃が発動してから幻像が悲鳴を上げるまでのロスを考えて・・・約数十キロ以内・・・ってところかな?」


「魔力の感知は苦手だが、これだけ広い空間でも少数の人間しかこの中には居ねえ。大体の距離さえわかれば、・・・・・ふん、アッチの方角だな。百万キロ以上とかだと、流石に無敵の俺様も手こずったが、案外近くに居たな」


「やはり、監視する側も多少に距離が近くないと無理だからね~。お~い、シモンく~ん! もう止めて良いよ~」


「ふう~~、これって結構疲れるな・・・・・危ないし控えておこう」


ラカンと瀬田がこの無限空間の中で、一つの方角を見た。

これだけの騒ぎの中、的確に敵の位置を把握したのである。

やがて瀬田の声を聞いてシモンが、空中で暴れている全てのブーメランを一瞬で消し、先ほどまでとは打って変わった静けさが空間内に広がった。

だが、それも一瞬でしかない。

次の瞬間ラカンがシモンに代わり、超巨大な剣を出していた。


「ほらよ、全員刀身に乗りな」


「はっ? ちょっ、おっさん! 何をする気なんだよ?」


「いーから、ラカンの言うとおり乗れって、木乃香たちもしっかり捕まってろよ」


「えっ? 一体何するん?」


ラカンが超巨大な剣の腹の上に全員を乗せようとする。しかしラカンが何を考えているのかわからずに、木乃香たちが慌てふためくが、シモンと瀬田は気にせず、サラたちをしっかりと抱きとめながら、何も疑わずにラカンの言うとおり剣の腹に乗る。


「十秒・・・ってところだな」


「それじゃあよろしく♪」


「な、一体どうするつもりなんですの!?」


「ほら、エミリィも細かいこと気にしてないで捕まってろよ」


「細かいですか!? これって細かいことでしょうか!?」


「ほらほら、後は男共に任せないと、舌かむぞ?」


「ハルカさんは、何が起こるか分かっとるん?」


「まっ、この状況なら一つしかないだろ~な。さながら気分は桃白○(タオパ○パイ)だな・・・」


何が起こるか木乃香たちが理解できぬ中、容赦なくラカンは皆の乗った剣を思いっきり振りかぶって・・・・・投げた。


「「「「はあああああああ!?」」」」


悲鳴を上げるのはカモ、木乃香、エミリィ、サラ。


「「「おおおおおお~~~」」」


感心した声を出すのがシモン、瀬田、ハルカだった。


そして投げた剣にラカンがそのまま飛び乗り、全ては成功。



「がっはっはっは! これぞ秘剣・・・ラカンツアーによる、スペース斬艦剣!!(今命名)」



先ほど魔法理論がどうとか言っていた人物とは思えないほど、物理法則を無視した技だった。

そしてそのスピードは確実に数キロ先に居る二人の少女に近づいていた。

猛烈なスピードと威力を兼ね備えたラカンの超弩級の技は、うねりを上げて、先ほどまで余裕だった少女たちを震え上がらせた。


「・・・・来た・・・・なんて化け物・・・」


「き・・・・・・き・・・・・・みゃあああああああああああああ!?」


皆を乗せたラカンの剣が一つの柱に命中した。そして同時に甲高い少女の悲鳴が聞こえてきた。

暦が飛んできた超巨大物体に腰を抜かしていると、巻き上がった煙の中からシモンたちが出てきた。


「よう。また会えたな」


「くっ、・・・・なんて滅茶苦茶な・・・・」


ゾクリと肩を震わせる暦。だが、その一瞬で僅かに冷静さを保っている環が暦に向かって叫ぶ。


「とりあえず転移します!」


「うっ、わ、分かった! アーティ―――」


環が転移魔法を、そして暦がアーティファクトを発動しようとした瞬間、一人の男が動いた。


「剃!」


「―――ファクト、時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)!! ・・・・って・・・アレ?」


アーティファクトを発動させようとした暦。しかし何も起こらなかった。

わけも分からずに戸惑っていると、一人の男が一枚のカードをヒラヒラさせながら笑っていた。


「ゴメンね~、じっくり見たいけど、そろそろ終わらせないといけないから」


「なっ、カードを!?」


暦は油断などしていなかった。

しかし考えられない事態が起こった。

それは自分がアーティファクトを発動させる前に、目の前の男がパクティーオカードを高速で奪い取ったのである。


「ほう・・・速いじゃねえか・・・・」


「こ、暦!?」


「剃!」


「ま、また消えた!?」


「こら、ダメだよ~、目を逸らしたら」


「!?」


「いくら僕が凡人の雑草とはいえ、足元見ないと転んじゃうよ?」


環も反応できなかった。

消えたと思った瀬田は一瞬で環の背後に回り、その両肩をしっかりと掴んでいた。

これでは転移は出来ない。それどころか、涼しい顔をしてとんでもないことをしたノーマークの男に背筋を凍らせてしまった。


「どうした・・・これで終わりなのか?」


呆然と佇む暦と環にシモンが告げる。その言葉に二人とも悔しそうに顔を歪める。


「く、・・・これほどとは・・・うう・・・フェイト様・・・・」


「・・・で・・・でも私の意地に賭けて私は結界を解かない。どうしても脱出したければ殺していきなさい」


死を覚悟して、目を瞑る環。しかしその覚悟をどこか気に入らずにシモンが告げる。


「そうか・・・少し意地の張り方に言いたいことがあるが・・・でも、それでいいのか? もう諦めるか? その程度の女にあの白髪頭はキスしてくれるのか?」


「なっ!?」


「わ・・・私たちのフェイト様を侮辱するな!!」


その言葉に一気に怒りが戻り、暦、そして環が目を見開いた。


「かっかっか、ピンポイントだな」


「まあ、術者を殺す以外に魔法を解くには・・・相手の全力を打ち倒して、心を折ることだからね~、物騒な覚悟は止めてもらわないとね。いい挑発だよ。もっともシモン君本人は意識して言ったわけじゃないだろうけどね」


「まっ、よーやく敵さんも、やる気出したってことかな?」


シモンの挑発により、再びその目に力が宿った暦と環を見てラカンと瀬田が笑う。


「ば、バカにして~・・・・環ィーーーーッ!」


「分かった!」


そして、戦う覚悟を決めた暦と環が立ち上がる。


「逃げるのは無理です。ならば・・・・」


「引き裂く!」


そしてその身を変化させていく。ようやくまともな戦闘体勢に入ったと分かり、ラカンも笑みを浮かべた。

そして・・・


「フェイト様を侮辱した罪、万回の苦痛で贖わせてあげます! これが私たちの本気です! ほえヅラかきなさい! 豹族獣化(チェンジ・ビースト)!!」


「なんだ? ・・・・・変身か?」


「なっ、あの女、獣化しやがった!?」


「ま、まずいですわ! 獣化すればその力も獰猛さも何倍にも・・・」


「油断するなよ、シモンの旦那!」


暦の肌が黒いフサフサの毛で覆われ、その両手足には鋭い爪が現れた。


「おやおや、これはまた可愛らしいネコさんだね~」


「くっ、眼鏡の男・・・・そのふざけた余裕も引きつらせてあげます!」


この力こそが、暦の本気を表していた。

そして環も同じである。

環が四つん這いになり、暦同様にその身を変化させていく。すると暦の頭から二つの角が伸び、大きな尻尾、そして翼が現れた。


「竜族竜化!!」


「ほう、こっちは竜族の亜人か~。興味深いね~」


「豹と竜の力か・・・中々希少だな。俺様も久々見るぜ」


「せ、瀬田さんもラカンさんも何をのんびりしているのです!? 」


「その通り! その余裕も今のうちです!! 行きますよ!」


ようやく本気を出した暦と環。小細工も作戦も捨て、真正面から向かってくる。

しかし・・・・相手が悪い。


「見せてあげます! 獣化した私のスピードは人間の反射神経を―――」


「ほう・・・・剃!」


「甘い! 見えています! そして・・・この爪で引き裂いてやります!!」


どうやら身体能力も完全に上がっているようだ。暦は瀬田の高速の動きに反応した。


「食らえ! 黒爪(ブラック・クロウ)!!」


暦の高速の黒い爪が瀬田に襲い掛かる。

しかし・・・・


「やるね・・・・だが・・・紙絵!」


「なっ!?」


その爪が瀬田に届くことは無かった。


「残~念♪ 奥さん以外の女の子に引掻かれるのは、嫌なんでね♪」


まるで一枚の紙のように瀬田は柔らかい動きで暦の爪を全て交わした。


「うおお! 旦那やおっさんだけじゃなくて、あの眼鏡もスゲー!?」


「確かに。こりゃあ、マジで喧嘩してみてえな~」


瀬田の次々と見せる力に興奮するラカン。

一方で自分のスピードに多少の自信を持っていた暦は瀬田の見たことも無い体術に焦りが募る。そして瀬田はゆっくりと足を振り上げる。


「あ、当たらない!?」


「さて・・・いくら強くても女の子・・・本気で殴る蹴るはしたくないから・・・・このくらいかな?」


「!?」


「嵐脚!」


「にゃ・・・・にゃああああああああ!?」


瀬田の蹴り足から発生するカマイタチ。女性を気遣う瀬田ゆえ、その切れ味こそ押さえているものの、その風圧は暦の軽い体など軽がると吹き飛ばした。


「暦!?」


「にゃ、にゃ! だ、大丈夫!」


激しく飛ばされた暦だが、意外とダメージは無かった。その身体能力ゆえに、何とか空中で宙返りをして着地する。


「ジャック・ラカン、そしてシモン以外も強いです!」


「分かってる・・・・なら・・・・足を止める! 暦・・・耳を塞いで!」


「ん? 次は何をする気かな~? 楽しみだね~」


「苦痛に歪みなさい! ふうううううう・・・・・ッ!」


環が息を大きく吸い込み、口の中で息を溜め込んでいる。そして頬がパンパンになるまで吸い込んだ物を一気に開放する。


「グラアアアァァアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!」


「うお・・・み・・・耳が・・・」


「ド、ドラゴンの雄叫びですわ!?」


「み、耳が痛てええ!?」


景色が歪んで見えるほど鳴り響く竜の叫びに、誰もが顔を歪めて耳を塞ぐ。


「ちょっ、誰か何とかしろよーーーッ!? パパァ!?」


「う~~ん、何言ってるか聞こえないや~」


「ははは・・・・最近の女はやっぱりスゴイや~」


「何をのんきに話しているのですか!?」


「頭がガンガンゆうえ~~!?」


そして逸早く環の指示で耳を塞いでいた暦は、足を止めた敵をチャンスだと判断し、一気に詰め寄ろうとする。


「今だ!」


「どうかな~?」


「な、ラ・・・・ラカン!?」


しかし・・・・


「女が・・・そんな品のねえ叫びはいけねえな~・・・・叫ぶなら・・・・これくらい豪快にだ♪ ふうううううううううううううううううううううううううう・・・・・・・」


この中で唯一この男が動いた。

そして全身筋肉の大男は、その体に命一杯の息を吸い込んで、未だ鳴り響く竜の雄叫びの音に向って一直線に吐き出した。



「だあああああああああああああああああああァァァァァァァァ!!!!」



「「「「「「―――――ッ!?」」」」」」



正に目には目を。雄叫びには雄叫びだった。

鼓膜が破れるかと思えるほど大きな、ドラゴンよりもタチの悪い、ラカンの雄叫び。

その力は雄叫びの振動のみで、直接向って叫ばれた暦と環を吹き飛ばすほどのものだった。


「にゃあああああああああ!?」


「くわああああああ!? み、耳が・・・・頭が・・・・」


獣化、竜化して身体能力のみならず、五感も動物並みに向上させた二人には、たまらない攻撃だった。

そしてその被害は敵のみに止まらない。いかに耳を塞いでいたとはいえ、味方もクラクラしていた。


「あの筋肉だるま・・・・耳が・・・それに・・・」


「頭がクラクラするえ~~~」


「け、景色も歪んで見えますわーーーーッ!?」


「お、俺っちも・・・・・」


「ったく・・・鼓膜破れたらどうするんだい?」


「うう~~ん、ある意味伝説の男の雄叫びだね~~」


「でも、もっとマシな破り方は無いのかよ~」


味方をも巻き込むその叫び。ラカンは高笑いしながら胸を張る。


「だっははははは! これぞ必殺、ラカンバウトだ! 俺様の美声に酔いな!!」


声の振動だけで敵を吹き飛ばすこの男も、規格外だった。


「ぐ・・・・・・もう・・・・帰りたいにゃ~~」


激しく吹き飛ばされた瓦礫の中で、涙目になりながらヨロヨロと立ち上がる二人。しかし立ち上がったものの、心は徐々に折れかかっていた。


「で、でも・・・・・・このままでは・・・・フェイト様に顔向けできない!」


「た、・・・環・・・・」


「まだ・・・出来る!」


弱気になる暦を叱咤して、環はまだあきらめない。

再び環は口を開いて大きく息を吸い込む。しかしその様子は先ほどまでとは違う。目に見えるほどの魔力の光が環の全身を駆け巡り、口に集中しているようだ。

その動作を見てエミリィがピンと来た。


「あ、あれは・・・まずいです!? 竜族のブレスです!」


環の力に逸早く気づいたエミリィが叫ぶが既に遅い。エネルギーを貯めた環がその力の全てで、シモンたちを纏めて吹き飛ばそうとする。


「消し飛びなさい! 魔竜の咆哮!!」


魔力を上乗せさせた環のドラゴンブレスが一直線に襲い掛かる。

しかしそのブレスの前に三人の男はまったく慌てずに立ちはだかる。


「なっ!? パパァ!?」


「あ、アカン!? シモンさん、ラカンさん!?」


後ろで木乃香たちが悲鳴を上げるが男たちは交わさずに、環の全力の一撃を受け止める。



「螺旋フィールド!!」


「気合防御!!」


「鉄塊!!」



三者三様の防御だが、一つハッキリしていることがある。



「そ、そんな・・・・・・」



たとえ天と地が引っくり返ろうとも、この三人の前では、彼女たちではどうしようもないということである。


「ウソ・・・・環のブレスを食らって・・・・無傷・・・・」


「いや~、僕は効いてるよ~」


「ウ・・・・ウソです・・・・・・・」


彼女たちは徐々に気づいていた・・・・・


「くっ、ウ・・・・うう・・・・にゃ・・・にゃああああああ!!」


「ほう・・・向ってくるかい? い~い根性だな、嬢ちゃんたち・・・だが・・・・」


「ああ・・・・まだ・・・足りねえな」


無限に広がる空間にシモンたちを閉じ込めたと思っていた。

しかし出口の無い空間で追い詰められていたのはむしろ・・・・・


「漆黒の十字架で血に染めてやります! くらえ! 黒十字(ブラック・クロス)!!」


追い詰められたのはむしろ自分たちだったのだ。


「気合が足りねえ!! 時空列断!!」


迫り来る暦の瞳には、明るい光がシモンの右拳に蓄積されている姿が映っている。


「バーストスピニング!!」


螺旋力を一転集中させただけのパンチ。しかし単純ゆえに防ぐ手段も無いその拳と共に、シモンは雄叫びと共に解放した。


「パアァァァァンチィィーーーーーッ!! 寸止めバージョンっだァァァーーーーッ!!」


寸止めとはいえ、蓄積したシモンの螺旋力を纏った右アッパーパンチの拳圧は、螺旋の渦を描いて暦を高らかと打ち上げた。


「ギニャああァァァァあああああああああああああああああああ!?!?」


まるで嵐の中で打ち上げられるかのように暦は上昇し、その渦のエネルギーはやがて暦ごと空間に大きな穴を空けて、暦がその穴から外へと飛び出してしまった。


「こ、暦・・・」


「容赦ねえぇぇ! あれで寸止めかよシモンの旦那ァ!?」


「いや・・・それよりもあの大きな穴は何だ?」


呆然としながら尋ねるハルカの疑問に瀬田が答えた。


「多分・・・・この結界空間に穴を開けたみたいだね。強力なシモン君のエネルギーが、現実世界とこの空間の境界面を突破して、あの女の子を外へと吹っ飛ばしたんだろう」


「っということは・・・あの穴の向こうが外の世界・・・ということか?」


「い、いやパパ・・・・。たしか魔法理論的に脱出は不可能だったんじゃ・・・・」


「そ、そうですわ・・・・本気で言っているのですか?」


「だって、事実上そうなんだし仕方ないんじゃないかな? シモン君の力は理論も物理も法則も無視したってことだと思うよ?」


「うは~~~、流石シモンさんやわ~~~」


右拳を天に向って突き上げるシモンの姿と、シモンが開けて暦が吹き飛ばされた穴を見て、改めてシモンのメチャクチャぶりを理解した面々だった。


「でも、今のはいい例だったね~」


「だな。要するに強力な力を使えば、理論上無理でも、何だかんだで脱出できるって事だな」


「シモン君の技でヒビの入ったこの世界なら、それほど難しくは無い。だから・・・・後は任せたよ♪」


ラカンの肩をポンと叩く瀬田。そのやり取りに腰を抜かして震えている環は、「これ以上何をするのか?」という目で見ていた。

するとラカンがその場で大きく唸りだした。


「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」


「ななな・・・・何を・・・・・ひ・・・ひっ・・・・」


「ぐうぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


ラカンの桁違いの溜め込んだ力が空間を歪ませ、シモンが開けた穴を中心に、空間全体に大きくヒビが広がる。


「う、うそ・・・・・・うそ・・・こんな・・・・く、空間に・・・亀裂が・・・・フェ・・・フェイト様・・・・」


もはや次の事態を予測できた木乃香たちは顔を引きつらせ、予測は出来るものの、認めたくは無い環が激しく恐怖で打ち震えながら、必死に自分の予測を否定しようとする。


しかし・・・・



「うりゃあああああああ!! 大次元破りいいィィ!!」



空が砕けた。

景色が消えた。

その代わりに一瞬で空も景色も、元のオスティアの風景へと変わった。


「すごいね~。お見事だよ。ようやく元の世界に帰ってこれたよ」


「流石ラカンだな」


「おうよ。意外と簡単だったな」


今、どれほどありえない出来事があったのかを理解しているのか疑わしい三人の男は、当たり前のように普通に会話を始めた。

その様子を木乃香たちは呆れて見ていた。


「なあエミリィちゃん・・・・魔法理論って誰が作ったんやろ・・・・・」


「さ・・・・さあ・・・・・私も何が常識で、何が非常識なのか分からなくなりましたわ・・・・」


「じゃあ・・・今日から、その理論とやらに付け足したほうがいいんじゃないか? 筋肉化け物とシモンとパパみたいな規格外の相手には理論が覆されることがある・・・・って・・・」


「つうか・・・・可哀想によ~。あの女の子たち、旦那やおっさんのせいでトラウマになっちまったんじゃねえか~」


「・・・・あっ・・・・丁度一本吸い終わった・・・・まあ、タバコ一本分は足止めできたんだから、上出来なんじゃないか?」


吸殻を捨てながらハルカはチラッと横目で戦っていた二人の少女を見る。

先に外へと吹っ飛ばされた暦は涙で歪んだ顔のまま倒れており、その隣ではへタンと腰を抜かして逃げることすら出来ないほどビビッてしまった環が小さくうずくまりながら震えていたのだった。


「にゃ・・・にゃんにゃんですか・・・・この人達・・・・」


「う、・・・あ・・・う・・・バ・・・バケモノ・・・・・」


まるで犯罪者に追い詰められて壁際で震えているか弱い少女たちの様だった。あまりの気の毒さに、どちらが悪党か分からなかった。


「さて・・・・ラカン・・・瀬田さん・・・・こいつらどうする?」


「「ヒイッ!?」」


シモンの言葉にビクリと肩を激しく揺らす二人の少女は、フルフルと顔を上げてシモンたちを見る。

すると瀬田は少し顎に手を置いて考える素振り、ラカンはイタズラを思いついた子供のような顔をした。


「女の子をイジメるのはよくないけど・・・・・ふふふ・・・彼女たちは敵なんだろ? 放って置いたらまたやって来る・・・・」


「だが、カワイ子ちゃんたちを、この程度でやっちまうのはな~~」


何か・・・・嫌な予感がしてきた。

三人の男が同時に悪巧みを思いついた。

その様子に涙目ながらも、暦と環は精一杯睨みつける。


「く、い・・・い・・命乞いはしません・・・・」


「こ、殺すなら殺しなさい。・・・・その覚悟は出来ている・・・・」


正にありきたりの敵の戦士の言葉だった。


しかしそこで三人の男は目を光らせた。



「「「そうか・・・・・よく言った!!」」」



「「・・・・・・へっ?」」



「「「「「・・・・おい?」」」」」



全員が首を傾げた。



「いい覚悟じゃねえか。最近の女はスジが通っている」



「僕も気が進まないけどそこまで言われたんならね~」



「カワイ子ちゃんたちは傷つけたくなかったが・・・・」



ニヤ~っと三人揃って笑いながら隅っこで震える暦と環に近寄り・・・・



「「「そうゆうことならそうするさ!!!」」」



「「・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・」」



「覚悟を決めた女の想いに!!」



「例えこの手が汚れようとも・・・」



「応えなくちゃあ漢じゃねえ!!」


「「・・・・・・・・・へっ?」」



最後ぐらいは誇りある姿を見せようとした暦と環・・・


しかし・・・・それは直ぐに終わった。


目の前で拳を握り締め、何やら妙な動作を始めるラカン。


螺旋力を放出し、巨大なドリルを出すシモン。


眼鏡の奥の瞳を光らせる瀬田。


そして三人は暦と環の目の前でその力を解放しようとする。




「覇王!! 爆裂炎熱豪竜咆哮~~~~」




「ギィガァァァドリィィルゥーーーーーーッ」




「六式奥義・・・・・六王・・・・・」
最終更新:2011年05月12日 14:46
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